● 今日未明、神奈川県のとある銭湯で殺人事件が起きました。 犠牲者の数は七人と多く、身元の判明が未だできていません。 犯人は逃走中。警察は全力で捜査しているそうですが、一向に事件解決には至っていないそうです。 「最近またこういう事件が多いですねー」 「ほんとですね、怖いものです」 「全ての事件現場でご遺体が、原形を留めていないとか聞いてますよ」 そんなニュースが流れていた。 『未来日記』牧野 杏里(nBNE000211)は暗い部屋でテレビのリモコンの音量を上げて聞いていた。 「こっち側の事件臭いですね……」 なんとなくだがそんな感じがする。けれど核心は無かった。 明日は万華鏡を使って何か見れれば良い。 そんなことを思いながらテレビの電源を消せば、部屋は真っ暗になった。 一人の……いや、一体のノーフェイスがそこへやってきた。 人を切り刻むのが何より好きだ。人を叩き潰すのが何より好きだ。 ほぼ裸の人間達が集まるそこは、つまり銭湯。 そこに居る餌達は無防備以外の何ものでもない。まるで殺しても良いよと言っている様だ。 銭湯には露天風呂があった。男女の仕切りは壁一枚で隔たれている。 その露天で惨劇は起こった。 両腕が異形の男が上からぼとりと落ちてくれば、驚かない人はいないだろう。 咄嗟に叫びながら走り出す人間。けれど早さはソレの方が断然早かった。 すぐに追いつかれては、ドスン。 すぐに追いつかれては、ブンッ。 肉の塊となっていく人間達。その姿は赤黒く、なんて滑稽か。 肉塊のオブジェは積み上がり、異形の後ろをついていく。 さて、次は屋内の人間の番だ――。 ● 「こんにちは皆さん、お仕事です」 淡々と話を始めた杏里は新聞の切り抜きをリベリスタに見せる。 それは此処最近テレビのニュースで良く見る事件のものばかりだった。 「最近頻繁に起きている大量殺人の犯人はズバリ、ノーフェイスです! というのも、私も万華鏡で事件の一片を見なければ核心には至りませんでした」 それだけ言うとそそくさとブリーフィングルームのモニターをいじる。 映し出されたのは、一人の青年だった。ただし、それは人間であった頃の彼。 「秋人さんと呼ばれる大学生です。 偶然、不運にもノーフェイスとなってしまい、フェーズは進行しつつあります。 見れば分かるように、身体は元の人間からは遠く離れてしまいました、つまり――」 フェイトによる救済は無い、と付け足す。 彼は本能に忠実に。彼は欲望に忠実に。 切って切って切って。潰して潰して潰して。 「ハンマーは叩き潰すため、剣は斬り殺すのに長けています。 それと、身体から虚脱の糸を出せるのが確認されています。 相手は速度的に長けているので、逃がさないようにお気を付けて下さいね」 ちょっと一息ついた杏里は更に言葉を紡ぐ。 「一般人さんは殺されるとE・アンデットになるのを見ました……。 フェーズの進行からか、回りへの影響も強くなっている様です」 緊急事態で一般人の生死は正直言ってられない。 もう何十と殺したノーフェイスだ。神秘の事件だが、噂の怪異事件のひとつとして処理すれば何ら問題は無い。 そして杏里は息を飲む。できればそんなこと、言いたくは無い。 「一般人の生死はあえて問いません。お任せしますよ。 ですが、これ以上犠牲者を増やさないためにも、エリューションの全滅を依頼します」 そして杏里はブリーフィングルームの出口を指さした。 「お急ぎください……でも、もう……」 ――間に合わない。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年02月02日(木)00:35 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●銭湯で戦闘! 娯楽の場所というものは多種多様あるが、今回の舞台は銭湯。 かっぽーんという桶がタイルに当たる音や、水音が響く。温かい湯船に、露天が身体を癒す。 其処にも多くの老人、または銭湯好きが湯を浴びに来ていた。 だが不運にも悲劇は起こる。 突然外への隔たりでもある壁が大きな音をたてて穴が空いたのと同時に、人であるが違う何かが浸入した。 それの目がギラリと光れば、驚いた人々が声をあげて逃げ始める。 ああ、一人潰れた。そら、一人切られた。また、一人潰れた。 此処まではフォーチュナが見た未来と同じ。そして、運命は大きく分かれる。 「さあ、銭湯で戦闘しましょう!」 『残念な』山田・珍粘(BNE002078)が腰のリボンを風に揺らしながら露天の壁の上に立ち、一言。那由他・エカテリーナ様、お約束をありがとうございます! 惨劇を目にするも、揺るぐことは無く。優雅に、優美に。 目に見えたのはいかにも異形の形をしたノーフェイス。秋人と呼ばれた元人。 血走った目が理性の喪失を思わせ、有り得ない形の腕が人外から戻れない事を示す。その周辺からもそもそと起きあがる犠牲者(アンデット)達。 「目標、見えましたよ。……犠牲者も、ね」 珍粘はAFである【Ⅵ The Lovers】に言葉を通す。仲間に伝え、己も戦闘へと。壁を降り、床に足を着けた瞬間、つるんっと滑って尻餅をついた。滑るんで危険です、翼の加護はもう少し後。 その横を『淋しがり屋の三月兎』神薙・綾兎(BNE000964)が巧みに走り抜けて行った。 ハイスピードを展開……と思ったが、目の前で一般人が転び、その後ろで秋人がハンマーを振り上げているのが見えた。これは非常にまずい。 銭湯は娯楽の場所では無いか、なのにそこを狙うだなんて。 「あんた、ホント性根腐ってるんじゃない!?」 綾兎は止まらず走る。一般人と秋人の間に自分の身体を挟んだ。 そして、二つの短剣を取り出す。一方は攻撃のためのもの。もう一方は護るためのもの。大きなハンマーが、綾兎の短剣とぶつかる音が二回響いた。 ハンマーの威力に揺らぐ綾兎へすかさず天使の息が送られた。 「貴様らの足は妾が支えてくれる。無様を晒すことは許さんぞ」 『鋼鉄魔女』ゼルマ・フォン・ハルトマン(BNE002425)の力だ。 秋人が作った穴をくぐり、できる限りの遠くから仲間を支える。パーティーの主軸と言えるだろう。 間も無く『天女連環ノ計』銀咲 嶺(BNE002104)が露天へ天女の如く降り立つ。 「私の糸は鶴の糸。織れば高価ですよ」 背中の白い翼を折り、パワースタッフからピンポイントを放つ。それは秋人の剣で散らされてしまったが、一般人から気を引くには十分である。 それと同時に『蜥蜴の嫁』アナスタシア・カシミィル(BNE000102)が強結界を張る。 離脱する一般人はいても、戻る一般人はいないだろう。あとはできるかぎり護るだけ。 『のんびりや』イスタルテ・セイジ(BNE002937)が手を振り上げ詠唱する。仲間へ、戦闘の妨げを排除する翼の加護を。そして少しの勇気も送れれば! そう思いつつ翼をさずければ、すぐに『斬弓虚刃』逢坂 黄泉路(BNE003449)と一緒に銭湯の入口へと走っていった。 最後に『絶対鉄壁』ヘクス・ピヨン(BNE002689)が飛ぶ。 「ここは、ヘクスにお任せを。貴方はアンデットをお願いしますね」 「うん、ありがと!」 ヘクスが綾兎の位置と交代し、鉄鍍の盾扉を構える。 「さあ、貴方もヘクスの盾をどこまで傷つけられるか……楽しみです」 ●埋もれ、追いかけ 露天の騒ぎを聞きつけた一般人はパニックになりながらも出口を目指していた。 それを分けたり、避けたりしつつ前へ黄泉路とイスタルテが進む。 何が起きたのかと、ぽかーんと口を開けている番台が男湯への方へと歩を進めていた。 それを見た黄泉路がすぐさま走り出す。 「ちょっと待った!」 比較的クールな黄泉路も、今のこのパニックに飲まれて声を荒ららげない訳にもいかない。番台の行先に立ち、制止させた。 イスタルテが集中し、手の中に幻影を作る。警察手帳、それっぽいもの。振り返った番台がそれを目にし、少し慌てたように話を聞いた。 「猟奇犯罪者が銭湯の露天風呂に現れた為、入口から出て避難して下さい」 「兎に角、迅速にだ!」 イスタルテが言葉を発し、それに黄泉路が付け加えた。 もしこれで聞いてくれないならと、黄泉路がAFを触って武器を取り出そうとしている。だが、その必要は無い様だ。頷いた番台が行動しに慌てていった。 露天の奥からは戦闘音が響く。男湯から飛び出してきた老人の後ろに立ち、黄泉路は叫ぶ。 「死にたくなければ、黙ってさっさと外に出ろ!!」 そう言いつつ、扉を広くする。出やすいように、怪我しないように器用に。 そこから勢いよく出てくる人々にイスタルテがぶつかったり埋もれたり、あっぷあっぷ。 その中で、見るからに足腰の悪そうな老人を見つけた。 すぐにイスタルテは駆け寄って、大丈夫ですかと支えながら誘導する。とても優しい子である。 ――一方。浴場内からは一般人が逃げていて、それをリベリスタが守っている真っ最中だった。 秋人の行動は素早く、加えてアンデットのブロックもあるため、リベリスタ達は手を焼いている。 「早くお逃げなさいな!」 珍粘が叫びながら、秋人と一般人の間へと入る。その場に残られても邪魔であるし、一刻も早く逃げて欲しい。 秋人が先に出した飛来縛の糸が、庇いきれない一般人にも当たり動きは更に遅くなる。ダメージが無いだけ良かったか。 その一人。出口へと向かう一般人を追いかけようとするアンデットが、血の軌跡を描きながらタイルの上を這っている。 血だらけの手で老人の足を掴み、老人はひぃ! と声を上げた。 そのアンデットの腕をゼルマが足で潰す。 「……あぁ、面倒じゃ。面倒極まりない。妾が体をはらねばならんとはな」 普段回復が中心の彼女も、一般人の危機に足を動かさなければならない。八つ当たりと言わんばかりに、アンデットの腕をぐりぐりと踏み潰す。 それだけでは止まらない、ゼルマ。手を前に出し、零距離射撃のマジックアローを放つ。 「安らかに、眠るが良い」 ギギと一度だけ鳴いたアンデットが撃ち抜かれて綺麗に消えていった。 解放された老人が、そそくさと外へと出ていった。ありがとうと言うでも無く、ただ必死に。 その姿を見ながらゼルマは息をふうと吐いた。 「ごめんね……」 綾兎がアンデットを見ながら呟く。 少し前、数分前まで人だったと思えばどれだけ残酷か。けれど野放ししていてはいけない。 「これ以上辛い事になる前に……眠れば?」 唾を飲み込んだ綾兎がナイフを構えて残影剣を放った。 アンデットの腕を切り刻み、そしてその身体も切り刻まれていく。生まれたての最弱フェーズはリベリスタの敵では無い。 それに続き、珍粘が同じく残影剣を放つ。 彼女の目には秋人が映り、一番危険な彼の討伐を急がなければと焦ったが、まずはこの可哀想なアンデット達が先。 「迷える亡者に安らぎを」 まあ、死体が死体に戻るだけなんですけどね。 血は涙に見えるか。溢れるアラベスクは、酷く悲しく。不運の末路はこんなものとリベリスタ達に見せつけられる。 全てのアンデットが行動を停止した。残るのは、こびり着く血臭。そして、背後で一般人が出口へ向かう物音がやたら耳につく。 「そんなに斬ったり潰したりがお好きですか?」 珍粘は片方のブロードソードの切っ先を秋人へと向ける。 「なら、どうぞ。お一人で!」 秋人の口端がにいっと横に裂けていった。 秋人が再び動き出す。狙うはゼルマだ。 秋人にはその力が理解できなかったが、ゼルマの癒やしの力は脅威だ。 肥大した両手を振り回し、いざ切り刻まんと接近する。 「いかせるとお思いです?」 だが、その前をヘクスが遮った。それがヘクスの真骨頂なのだろう。 不沈艦という名に相応しい力を持った彼女の盾が、秋人の前に立ちふさがった。秋人は人の声では無い声で唸り、ハンマーをかざす。ヘクスへと、盾へと。 ハンマーの威力はヘクスの防御でさえ、あざ笑うように直撃する。それが、二回。 「くっ……、ですがヘクスは潰されはしない!!」 威力の大きいハンマーに抑える手が震えたが、ヘクスは両足をしっかりと持ち耐える。 しかし、一人で秋人をブロックするのには荷が重かったか。蓄積されたダメージは悲鳴をあげ、運命の光りがヘクスを纏った。 アナスタシアが一般人を誘導しつつ、己の足を空中一蹴り。 放たれた真空波は素早く飛んで行き、器用に一般人とリベリスタ達を避けて秋人へと命中する。 「もう元には戻れない……いえ、戻ろうとも思っていなさそうですね」 嶺がそれに追撃するように、動く。 放たれたピンポイントが秋人へと直撃し、秋人は奥歯をギリギリ鳴らしながら、嶺を見た。 「貴方の相手は此方ですよ」 それとほぼ同時か、黄泉路とイスタルテが風呂の中へと入る。。 全ての一般人がその中から消えているのを確認し、すぐにノーフェイスの対応へと移った。 「よっしゃ、逢坂黄泉路、参戦! ってな!!」 自らの体力を神秘へと変え、打ち出す闇の瘴気が秋人を襲う。 不吉を秋人へと送ることまではいかなかったが、攻撃は秋人の体力を削った。 「まだまだ、これからですからね!」 それと同時にイスタルテが再び翼の加護を仲間へと送る。 これで八人、やっと揃ったのだ! ● 秋人から放たれた気糸が足を縛る。それが動きを阻害し、思うように上手く動けない。 再び巨大なハンマーがヘクスへと当たった。けれど、ヘクスはまだ倒れる訳にはいかないと歯を食いしばる。 そこへゼルマが再び天使の息を送った。 ヘクス後ろから飛び上がり、身体を捻らせて綾兎がソニックエッジを放つ。 「こうしてお手伝いも面倒ですね、早く終わるといいです」 綾兎と入れ替わりで珍粘もソニックエッジを放った。二本のブロードソードを小さな身体で巧みに持ち上げつつ、飛躍する。 そして――。 「はふぅ、そこまでだよぅ!!」 オレンジの長い髪を湿気の強いその場に揺らしながら、一気に間合いを詰めたアナスタシアが秋人へと近づく。 「娯楽の場所を、血に染めるなよぅー!!」 その勢いと共に秋人の頭を掴んで、そのまま地面へとたたき落とす大雪崩落。 元はヒト。こんな姿にならなければ、普通に生きていたものを。けれど、もう戻ることは叶わない。ならばせめて、この場で解放する! アナスタシアの思いは、自らの行動に響く。 地面の秋人の頭から腕を離し、利き腕に氷を纏う。温かいはずその場所だったが、絶対零度に身体が震える。 解放へと誘う一撃へとなれ。凍てつく魔氷は秋人の腹部へと貫通していった。 「そろそろ、害獣駆除のお時間ですかね」 嶺が動く。氷に凍てついて動けない秋人へ向けて指をさす。一度背中の翼をはためかせ、手に集中する。 打ち出された気糸が真っ直ぐな線を描いて秋人を貫通する。その威力に秋人は顔を歪ませた。 秋人の回りには前衛が集まりつつある。にやりと笑った彼が不気味に大剣を振り上げ、ダンシングリッパーの如く振り回す。 ヘクスを中心に、アナスタシア達を巻き込んで血がタイルや壁を染めていった。 流血を被った仲間達へイスタルテがブレイクフィアーをしようと構える。 だが、その瞬間だった。ピタリと秋人の動きが止まる。 秋人が満足したのか、飽きたのかは定かでは無いが、浴びる返り血に頬を染めて笑った。 「もしかして……っ」 遠くから見ていた嶺が不穏な行動に眉をひそめた。 秋人はくるりと回り、走り出しては出口の方へ。 「逃げる気です!」 嶺が咆哮した。 「逃がし……ませ……っ!」 ヘクスが重傷の身体でなお、それを阻止しようとしたが身体は思うように動いてはくれない。 リベリスタ達は秋人の逃走にまで手が回らなかった。快楽犯は自身の負傷も、リベリスタの強さも関係無く、満足したら消える。 素早い彼には逃げるだなんて、妨害が無ければ容易いこと。タイルを渡り、自らが作った出口へと。振り返ることは、無い。 その後ろをリベリスタ達が追ったが、その時にはもう遅かった――。 ――ザザザ……。 テレビの画面が砂嵐状態。 そこからぷつんときちんとした映像が流れ始めた。 映し出されたのは、とある銭湯とアナウンサーに老人の姿。 「では、貴方は化け物を見た。とおっしゃるのですか!?」 アナウンサーは演技でもしているかの様に驚いた声色と表情で老人に聞いた。 「ええ、ええ……、儂も長い間生きてますが……あんなのを見たのは……いや、どんなのだったかのう そうそう、八人……何かこう……なんだったかのう? ああ、でも優しい女の子がいたんだよ。まるで天使の様な翼を持った子が」 思い出せない、記憶が曖昧と言った風に老人は頭を抑えていた。 アナウンサーは的確な答えが帰ってこないのにイライラしたが、すぐにカメラ目線で言葉を続ける。 「この様に、この連続銭湯殺人事件の最新の現場で、生き残った人は口々にこう言うのです。 ですが、核心的な部分は未だ不明。次の事件が起きないように祈るばかりです。現場からは以上です」 そこでぷつんと砂嵐に戻る。ワケありで放映はされませんでした。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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