●誰かの悲鳴 「たすけてたすけてたすけてたすけて!」 ●暴力の支配する場所 街中とはいえ、地下にある店は人の目から死角になる。 そこを支配する法律は力。か弱きものが暴力で支配されるそんな空間。 たとえば、たった一人の少女が四人の男に押さえ込まれるように。 泣き叫ぼうが必死に暴れようが、暴力の前に抵抗は捻じ伏せらてしまう。服を剥ぎ取られ、露になった肌が男たちに晒される。狂気と愉悦に満ちた男たちの瞳が少女の未来を告げている。その結末に恐怖し、しかし何もできない自分に涙する。 どれだけ叫んでも助けは来ず、どれだけ足掻いても男の手は外れない。どれだけ助けてと叫んでもそれは空しく響くだけ。むしろ男たちの嗜虐心を煽っていく。嫌がる少女を好きにできるという状況に、彼らは酷く興奮していた。 男たちの手が下着に伸びる。伸ばした手は――黒い何かに絡み取られ、捻じられた。 「いてぇ! なんだこれ!」 「何やってるんだよお前、ってうわぁぁぁ!」 「やめろ、やめろくるんじゃねぇ!」 男の拘束が外れ、彼女の体に暖かい液体がかかる。それが男たちの血液だと理解するのに、数秒の時間がかかった。 立ち上がる。気がつけば足元まで伸びている髪。それが三人の男を殺したのだと気付く。残った男は腰を抜かし、必死に出口のほうに逃げようとしていた。 異常に伸びた髪を手で梳く。それが手足のように自らの意思に従って動くことを彼女は理解できた。異常な変異。異常な身体能力の向上。何故こうなったかなんてわからない。だけどこれを使えばあんな男ぐらい簡単に殺せることは理解していた。 破かれた服を身にまとう。ボロボロだが裸よりマシだ。 「くるなバケモノ! 頼む、助けてくれ!」 その言葉に怒りを覚える。私がそう叫んだときは助けもしないどころか、攻める方に立っていたくせに。許さない。 ガタリ、と髪の毛で絞め殺された男たちが立ち上がる。生き残った男は希望に顔を笑みに変えるが、それはすぐに絶望に塗りつぶされた。それは明らかに死んでいる死体を、操り人形の糸で操るような動きだったからだ。 「たすけてたすけてたすけてたすけて!」 叫ぶ男に少女は歩を進める。 そこを支配する法律は力。か弱きものが暴力で支配されるそんな空間。 たとえば、覚醒者が非覚醒者を殺すようなそんな空間。 怒りに身を任せながら、少女の冷静な心が叫んでいた。 『どうしよう? この人の言うとおり、私バケモノだ……』 『助けて。誰か助けて』 ●アーク 「レディを扱うときは優しくなければならない。時にはバイオレンスに攻めるのもいいとはおもうけどね。どのみち女性の意に添わなければいけないわけだが。 ま、その講義は時村室長に聞いてくれ。俺が語るのは未来からのエマージェンシーだ」 『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)は集まったリベリスタたちに向かって言う。 「そんなわけで仕事だぜおまえたち。討伐対象はノーフェイスが一体とEアンデッドが三体。そしてその場にいる一般人一人の保護。エリューションは全て覚醒したばかりのフェーズ1。イージーミッションだ」 伸暁は手持ちの端末を操作し、モニターを映し出す。街の一角と、地下にある酒場の看板が映し出された。 「場所はこの酒場。酒場といっても店はつぶれて不良たちの溜まり場になっている。 で、ノーフェイスはその不良たちに拉致された少女だ」 リベリスタたちの顔に難色の表情が浮かぶ。 「不良たちに拉致された少女が、ノーフェイス化した?」 「イエス。拉致までなら警察の仕事なんだが『万華鏡』は彼女がノーフェイスになって男たちを殺す未来を予知した。つまりはそういうことだ。アンダスタン? ノーフェイスは覚醒時に伸びた長い髪を使って攻撃してくる。あと増殖性革醒現象……だったか? とにかく殺した男の死体を部下にしている。覚醒したてなのに大した物だ」 その『殺された男』も今までの話の流れから、少女に何をしようとしていたかなど聞くまでもない。表情を硬くするものもいれば、露骨に嫌悪感を示すものもいる。 「繰り返して言うが、お前たちの任務はノーフェイスが一体とEアンデッドが三体の打破だ。あと一般人が一人生き残っているから、その保護」 「その一般人てのも、彼女を拉致した男なのか?」 「イエス。だが拉致の件はアークが関与することじゃない。リベリスタの仕事は世界を守るためのエリューション退治だ。 だがまぁ、生き残ったその男に個人的に言いたいことがあるなら、それを止めることは俺にはできない」 肩をすくめる黒猫。彼自身も何かを言いたいのだが、それを押し留めてリベリスタたちを送り出す。 「彼女を止めてきてくれ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年02月02日(木)23:12 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「おいおい、冗談だろ? また一般人を守る依頼かよ」 『赤備え』山県 昌斗(BNE003333)は現場に向かう車の中で呟き、肩をすくめる。いい加減に殺しあうだけの依頼を回して貰えねえもんかね。全く、セイギノミカタは楽じゃねえな。赤いロングコートを肩に羽織り、車を出る。 「守るべきか弱い娘を討ち、世間で言う所の悪党を救う……。ノーフェイス討伐では、こんな理不尽がまかり通る事も有るだろうな」 理不尽に心悩ませながら『系譜を継ぐ者』ハーケイン・ハーデンベルグ(BNE003488)は走る。『オルクス・パラスト』から日本に出向し、超常との戦いに身を投じたハーケインだが、その最初の仕事が突如覚醒したノーフェイスの退治となれば、気分も重くなろう。 「それでも神秘に因る犠牲は看過出来ないのです」 『不屈』神谷 要(BNE002861)はハーケインに答えるように言葉をつむぐ。確かにカオルに彼らがした仕打ちは許されざるものである。自衛の為、そして理不尽な相手に対する怒り。その感情を否定することは、誰にもできなった。 それでもノーフェイスは討たなければならない。世界の為に。要が思うことはここにいる全員が思っていることだ。 「人の心は切っ掛け一つで変わってしまうもの。僕には何が、できるのだろうか」 痛ましい事件を前にやるせない気分になる『剣を捨てし者』護堂 陽斗(BNE003398)。人を傷つけることを嫌い、刃を捨てた彼にとって今回の事件は心が痛む話だ。力で女性を押さえ込む男など、まさに唾棄すべき者だろう。 しかし、今回はそんな男を守らなければならない。陽斗の想いはともかく、アークの依頼はその保護まで含まれている。複雑な心境だが、仕事はきっちりこなさなければ。 店の階段を下りる。この先が現場。おそらく梶原カオルが岡田タケシに近づいているところだろう。 扉のまえで全員顔を会わせ、合図をして飛び込んだ。中には一体のノーフェイスと三体のE・アンデッド。そして腰を抜かしている一般人。『万華鏡』の情報通りだ。 「私はタケシ君の生存を最優先に行動しよう。守る対象が男とは興が乗らないけれど……致し方ない」 サングラス越しにタケシを見ながら『赤蛇』セルペンテ・ロッソ(BNE003493)は宣言する。本来は女性を守りたかったのだろう。やれやれと呟きながら、ノーフェイスの艶姿を脳に焼き留める。眼福眼福。 「こういう時かけてやる言葉とか、俺にはわかんねーよ。まだガキだしさ」 ノーフェイスのボロボロの服を見ながら、『ペインキングを継ぐもの』ユーニア・ヘイスティングズ(BNE003499)は苦虫を噛み潰したような表情になる。自分より少し上ぐらいの少女。運命が微笑めば友人になれたかもしれない子。それを殺さなければならないのだ。 しかし運命は微笑まなかった。この話はそういう話なのだ。 八人のリベリスタたちは動き出す。ノーフェイスを倒す為に。 ● 「たたたたたすけてくれぇ! バケモノが――」 「薄汚い口を二度と開くな」 店に入って『宿曜師』九曜 計都(BNE003026)はタケシを見つめる。その瞳の魔力がタケシを凄ませ、言葉を発することを封じる。 「岡田タケシ……だったっけ。これが仕事に含まれてなかったなら、殺してたのに……な」 物騒な一言を『死肉食らいのハルピュイア』藤宮・セリア(BNE003482)が告げる。別にノーフェイスに同情したわけではない。ただ怯えるタケシに嗜虐心がわいただけだ。 「話は後です。今は逃げて下さい」 陽斗がタケシを庇い、セルペンテが腰が抜けて動けないタケシを店の入り口まで移動させる。 「誰よ、あなたたち!」 突然乱入してきたリベリスタたちに戸惑いながら髪の毛を振るうカオル。それを受け止めたのは要だ。 盾を幻想纏いから出していれば傷は軽微だったが、要はそれをせずにあえて生身でカオルの髪の毛の一撃を受けていた。 「どきなさいよ!」 頭に血が上って感情的に攻撃を続ける。それを要は防御に専念して受け続けていた。 「あいつは、あたしの仲間が捕まえたッス。だから、少しだけお話させてもらえないッスか?」 要同様、計都も武器を持たずにカオルの前に立ちふさがる。 「話?」 計都はカオルにコートをかけて、ボロボロの服装を着ているカオルに渡す。怪訝な表情をしながら、コートを受け取りそれを羽織る。 その間にハーケインとセルペンテがタケシを店の外に移動させる。 そしてカオルに殺されたE・アンデッドをユーニアが押さえにかかる。 「……正直に言ってやるよ。あんたたち、いいザマだな」 自らの生命力を闇に変換する。身を削りながらユーニアはその闇でEアンデッドを包み込んだ。闇はアンデッドたちの因果律を狂わせ、同時に生命力を奪っていく。女性を拉致して暴行しようとした結果が返り討ち。は、いいザマだ。このクソッタレな状況で少しだけ溜飲が下った。 それでも目をそらしていられるわけではない。ユーニアはコートを着たカオルをみる。こういうときにかける言葉が思いつかない。自分がガキであるからわからないのだろうか? 大人になればわかるのだろうか? 答えはない。ただ求めるしかないのだ。 そしてそんな余裕もない。三体のE・アンデッドは傷つけられた痛みからユーニアに噛み付いてくる。 「ヘイスティングズさん、大丈夫ですか!?」 陽斗が優しい風でユーニアを包み込み、アンデッドにか見つかれた傷を癒す。陽斗の力は守る力。そして誰かを癒す力。その力が理不尽に対抗する為に吹き荒れる。 陽斗はカオルのほうを見た。要と計都がカオルの髪に傷つけられながら、必死に説得している。彼女の思いに真剣にぶつかってくれている人が居る。その思いが届きますように。祈りながら自らの役割に徹した。そうすることこそが、最大限の貢献であることを知っているからだ。 「つまんねぇ……。雑魚すぎるぜてめぇら」 昌斗はライフルを構え、E・アンデッドの眉間を貫く。狙う、討つ。狙う、討つ、狙う。討つ。人生において何度も行なってきた行為。昌斗はただ、銃を早く撃つことのみを求めて闘ってきた。命を削る戦いを追い求めてその中で自分の力を磨き続けているバトルジャンキー。こんなに雑魚過ぎる相手なら、鴨を撃つ方がまだマシだ。 「あのジョーチャンにはやる気をだして貰いてぇもんだな」 あっちの方が強そうだ。カオルの方を見て昌斗は唇をゆがめた。とはいえ、計都が必死になって説得している。それが終わるまでは待ってやるか。 「アハ……それって説得が失敗すればいい、って事?」 セリアは昌斗の言葉に微笑みながら、自らの生命力を削る。蝕まれる感覚がセリアを襲い、その感覚に身震いする。怖いのではない。好ましいのだ。マゾヒストにしてサディスト。反動を受ける攻撃は、セリアが最も好むもの。 自分の傷と痛みが。他人の傷と痛みが。その両方がタマラナイ。さぁ、楽しみましょう。 セリアが生み出した闇が、アンデッドを襲う。じくりじくりとアンデッドに侵食する暗黒。その様を見てセリアは震え、自らの傷が痛みを訴えるのを感じてまた悦ぶ。 「てめぇは成功したほうがいいのか?」 「説得が成功する様なら、ソレで構わないわ。 そうでなければ私の嗜好と任務条件を満たす為、梶原カオルを殺すだけ」 だからどちらでもいいの。セリアは闇に身を蝕まれながら、笑みを浮かべた。本当に、本当に楽しそうな笑みを。 ● ハーケインとセルペンテはタケシを連れて店の入り口までやってくる。 「お前もあの娘のように変異しているかも知れん」 「へ? わ、何を……!」 ハーケインはタケシを縛り、そして闇を纏って店の中に戻る。店に入る前にタケシを指差し、 「俺達が戻ってくるまでに異常が無ければお前は晴れて自由の身だ。だが逃げようとするなら必ず探し出して、殺す」 最後の一言に恐怖したのか、首を何度も縦に振るタケシ。 ハーケインが店の中に戻り、この場にはセルペンテとタケシのみとなった。 「タケシ君、君は実に良い悪役だったね。年端もいかない少女を拉致だなんて正に外道そのものだよ!」 「え、あ……」 見知らぬ乱入者が自分名前と悪行を知っている。そのことに恐怖したのか、タケシの顔は青ざめていた。 「自らの欲望に正直に生きる。美しい。その欲望、実に美しいね! 花丸をあげたい位だ!」 あれ? もしかしてこのおじいさん、俺のこと褒めてる? そう思ったタケシはいい気になって喋りだす。 「そうなんですよ。枠にハマって生きるなんておれたちのガラじゃなくてね。 必死に抵抗するのを抑え込んで無理矢理っていうのが――」 あのあとカオルにやろうとしたことから始まり、悪いことは美徳だ。悪事は男の勲章だ。型にはまるなんて凡人のすることだ。そんな事をべらべらと喋りだす。それを聞きながらうんうんと首肯するセルペンテ。 「……けれど惜しいねぇ」 興の乗ったタケシの弁を遮るように老紳士はため息をつく。 「悪役というものは最後は綺麗さっぱり退場するものなんだよ?」 幻想纏いから剣を取り出す。その切っ先がタケシに向いた。わずか5センチ先に"死"がある。それを自覚して口が止まった。 「現に君のお仲間は立派に悪役を演じきり、舞台から降りていったじゃないか。それが君ときたらどうだい? 無様にもまだ舞台の上に居続けている!」 セルペンテは興が乗ったのか、声高々に喋りだす。その饒舌に気圧されるように萎縮するタケシ。切っ先はずれることなく自分の喉下に突きつけられていた。 (まぁ、今回はプライベートでなくアークでの依頼だからね。殺さずにはいておくよ) セルベンテは喋りながら、心の中でそう付け加えた。 ● ハーケインのヘビースピアがアンデッドの一体を穿つ。夜を纏い、闇を放つハーケインが加わったことでEアンデッド掃討の速度が速まる。一体、また一体と倒れていく元不良たち。 「どいてよ。あいつを殺すんだから!」 「……人を殺すのって、いい気分はしないッスよ? それが平気になったら、それこそバケモノ。 どうしてもって言うなら、あたしが代わりにあいつを殺してもいい」 「私はバケモノなんかじゃ……ない」 弱弱しく否定しながら、しかし落ち着いたのだろう。計都の話を聞く余裕が生まれた。 「実は……」 計都はノーフェイスについて説明する。世界のこと。フェイトのこと。そして梶原カオルを殺さなければならないこと。 「あたしたちは、あなたを終わらせて、最悪の理不尽を、最低の結末で片付けようとしてる。だから、あたしに出来るなら、どんな望みでも叶える」 「……じゃあ、私を元に戻して。あいつ等に誘拐される前に。家に帰って、ゆっくりテレビ見て、ケータイで友達と話して、明日も学校に行く。そんな生活に戻して!」 ――それは悲痛な叫びだった。失ってわかる『日常』。それを返してほしいとカオルは叫ぶ。 「……無理ッス」 しかし、それは誰にもできないことだった。首を振る計都。計都だけではない。この場にいるリベリスタ全てが同じ表情をしていた。 「じゃあ……私を殺すの? いやよ。私は、死にたくない。そんな理不尽な理由でなんか、死にたくない!」 カオルの髪の毛がしなる。計都と要を薙ぎ払うように動き、その肌を傷つける。 「……ッ! はい。私たちはアーク──セイギノミカタ──なのですから……」 要はカオルの瞳を見ながら、しっかりと言い返す。相変わらず武器を出さず、ただオーラで鎧を形成し、攻撃に耐えている。 「アンタの怒りは受けるッス! だから、話を聞いて欲しいッス!」 計都も攻撃を仕掛けることなく、ただカオルの攻撃を受けていた。 カオルも常時であれば、無抵抗な者相手に攻撃を加えはしないだろう。だが、殺されるといわれれば話は別だ。自分を殺そうとするものの言葉など、どうすれば聞くことができるだろうか? カオルの心を支配しているのは、恐怖。殺されたくないという生存本能が過剰な攻撃性を示していた。ノーフェイスとリベリスタ。妥協点などあるはずもない。 たとえば要がリーガルブレードを放てば。 たとえば計都が鳴弦の射手で攻撃すれば。 ノーフェイスになりたてのカオルはすぐに倒されていただろう。だが二人はあえてそれをしなかった。理不尽な運命に翻弄されるカオルの怒りを、ただ黙って耐えていた。 だがそれも、いずれ限界が来る。 カオルが得られなかったフェイトを使い耐えるも……要と計都の二人はカオルの髪の毛により、力尽き果てた。 「……私は悪くない。殺すっていうから、殺されないために攻撃しただけよ!」 自らに言い聞かせるようにカオルは叫ぶ。暴力で人を屈服させる。その行為に嫌悪感が湧き上がるが、それを捻じ伏せるように叫んだ。 「ごちゃごちゃうるせぇんだよ」 カオルの頭部に衝撃が走る。昌斗の放った弾丸が、カオルのこめかみを穿ったのだ。 「倒れるまでは、待ってやったぜ」 要と計都の方を見ながら、昌斗が口を開く。すでにE・アンデッドは全滅している。リベリスタたちは皆、計都の説得が終わるまで待っていたのだ。カオルが死を受け入れるか、計都が倒れるかのどちらかを。 「てめぇが弱ぇからそのザマなんだ。せっかく力を付けたんだからよ、押し通ってみろや」 「アナタ、すごい経験シテるのよ。その傷を受け入れなさい」 昌斗とセリアと陽斗が後ろから、ハーケインとユーニアが接近して攻撃を仕掛ける。 五人のリベリスタが連携を取れば、覚醒したてのノーフェイスの退治など、大した時間もかからない。 「いや、死にたくない。死にたくない……の……誰か、助けて」 「俺の仲間傷つけて欲しくないしさ。優しい人にも傷ついて欲しくない。 だから俺は闘うよ」 ユーニアが『ペインキングの棘』を振るい、カオルに迫る。その心は揺れ動くけど、仲間の為を思えばその揺れは止まる。ただ真っ直ぐに『棘』をカオルに衝きたてた。 「悪いな」 「あ……いや、しにたく……ない」 絶命の言葉もあっけなく。まるで自分が死ぬと理解できない顔で。 ノーフェイスは、その場に崩れ落ちた。 ● 倒れた要と計都に治療を施しながら、リベリスタは後始末を始める。 セルペンテとタケシの元にやってきたリベリスタ。タケシは怯える表情で彼らを見る。 「あ、あのバケモノは倒した……のか?」 「お前が彼女をバケモノなんて言うな。また言いやがったら殺す。人に言っても殺す。陰口言っても殺す。どこに逃げても隠れても見つけ出して殺してやる。わかったか」 拳を握ってユーニアがタケシを脅す。その剣幕に気圧されるように押し黙るタケシ。 「よぅ、糞餓鬼。俺はな、別にあの女を浚った事をどうこう言うつもりはねぇ。弱いやつが悪ぃんだ。お前もそう思うだろ?」 昌斗が口をニヤニヤさせてタケシに近づく。そのまま足を振り上げ、タケシを蹴飛ばした。 「痛ぇ! 何すんだよ!?] 「気にすんなよ。ただの八つ当たりだ。仕方ねぇよな? てめぇが弱ぇんだから悪ぃのさ」 次はちったあマシな敵と戦いてえもんだな、と苛立ちながら昌斗は帰路につく。蹴られたタケシに陽斗が近づいてきた。 「貴方がカオルさんの人生を奪ったんだ。その自覚はありますか?」 「は? 何言ってるんだよ。むしろ殺されそうになった俺の方が被害者だぜ!」 「本来ならば今ここで命を奪われても仕方の無いことを、貴方はしてしまったんですよ」 反省のないタケシの眉間に銃を突きつけながら、陽斗が静かに告げる。このまま引き金を引けば、容易に彼の命を奪えるだろう。だが、それはしない。生き延びたタケシはこの命の重さを知らなきゃならない。 「因果は巡る。いずれ貴方にもきっと、解る時が来ます。落とさずに済んだその命で、罪を背負い、どうか償いを忘れないで」 結局引き金を引くことのなかった銃を陽斗は懐にしまう。 「九曜さん。記憶操作を」 痛む体を押さえながら、計都はタケシに近づき魔力の瞳で睨みながら記憶を隠蔽する。アークの指示など知ったことか。このまま殺してやろうか。そう思いながら、しかしそれを思いとどまったのは、カオルの呟いた一言だった。 「私はバケモノなんかじゃ……ない」 タケシを殺してもいい、と言った計都の言葉にカオルは殺意を引っ込めた。彼女が望まないのなら、私も殺さないでいよう。 「忘れるな、彼女に生かしてもらったということを」 計都の瞳が神秘を帯び、タケシの記憶を変えていく。数秒後、眠るようにタケシは崩れ落ちた。 カオルの遺体を抱えて店から出た要は誰にというわけでもなく、呟いた。 「世界は、運命は、優しくなんてないと痛いほどに理解していた筈なんですけどね……」 言葉は夜の風に消える。その風よりもカオルの遺体は冷たく、心の穴は夜の闇よりも深かった。 後日―― 事件後完全に廃墟となった店に、一人の男が訪れる。梶原カオルが倒れたその場所に。 崩界を防ぐのなら、娘のこれから先の酷い運命を思うなら、ここで彼女を殺したことは正しい。リベリスタとして、それは間違いではない。 だからこれは、世界を守るリベリスタではなく、騎士の系譜に連なる立場としてではなく。 ハーケイン・ハーデンベルグという一個人の行動だ。 「済まない……」 ハーケインの小さな呟きが廃墟に響く。 カオルが倒れた場所に花束が添えられた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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