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はらわたの底に眠る虚ろ

●忌々しきもの
 咀嚼音というものは、得てして人に不快感をもたらす。
 しかし、『それ』がそうであると認識するには、相応に人の軌道からはずれた感性を活性化して臨む必要があるだろう。
 
 ――ざり。ざり、ざり。
 
 醜くふくれあがった下腹部。肋骨の浮き出た、痩せぎすの頭でっかちな身体。
 造形自体は人間の赤子のそれに似ている、と言えなくもない。ただ額からは黄ばんだ二本の角が生え、体色は腐った豚肉のように赤黒い。ぼろ切れのような腰布は、もはや元が何色であったのか判別できそうになかった。
 屍人。はたまた、百歩譲って鬼か。いずれにしろ、それらは世界の異物だ。

 ざり。また、砂を噛むような音がした。
 砂を噛む。味気なきもの。また、おもしろくもなんともないことの例え。
 針金に粘土をまとわりつかせたような不格好に細い手足を動かし、濁った眼球が半ば飛び出ている状態になるまでに眼を見開いて、それらが一心不乱に貪っているのは人間社会が生み出した数々の廃棄物だった。
 隣でゴミをつついていた烏が、忌々しげに一鳴きする。
 その身体を掴んで、引き寄せて、首をねじ切って、口に放り込んだ。
 頭部を失った烏の身体が、ぴくぴくと痙攣している。仲間の鬼の一匹がそれを奪い取って喰らい、もう一匹が零れ落ちた血を啜った。
 
 喰わせろ。もっと。
 喰らっても、喰らっても、未だ食べ足りぬ。
 我等は再び、この満たされる事無き世界へと突き落とされたのだから。 

●まるで底無し沼のような
「『餓鬼』というのを聞いた事はあるかしら」
 ガキ?
 訝しげに顔を見合わせたリベリスタ達に、餓える鬼と書いてガキだよ、と『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が説明する。

「岡山の山間部にあるごみ処分場に、そいつらが現れたの。アザーバイド……になるかな」
 イヴはそう言って、なぜか言葉を濁した。
 心配そうな、或いは不思議そうな表情を浮かべるリベリスタ達をよそに、明日にでも現地入りしてほしいの、と、少女は岡山行きの新幹線の切符と観光用のパンフレットを配っていく。パンフレットの表紙では、桃太郎と鬼が楽しそうに笑っていた。
「現場は辺り一面に広がったゴミの山。それはもう吐き気をもよおすほど酷いにおいに満たされていると思うわ。気をつけて、ね」
 何か対策を取っておかなければ、気になって戦いに集中する事すらできないだろうという。生き地獄の如きそのさまを想像したのか、皆が顔をしかめた。
 たまたま最初の出現地点が其処だったから良かったものの、彼らはいずれ廃棄物のみならず、無尽蔵の食欲をもって何もかもを無作為に喰らい尽くしてしまうだろう。このまま放っておく事は、好ましい事ではない。

「……餓鬼、っていうのは、生前強欲だったりとか、贅沢をしすぎた人たちが、地獄に落ちて鬼と化した姿だっていうわ。食べ物、飲み物、口に入れたものすべてが実体のない炎に変わってしまうから、永遠に空腹が満たされないまま。だから、何時もなにかを喰らい続けているんだって」

 信じるか、信じないかは貴方たち次第だと思うけれど――。
 そしてイヴは最後に一言、ぽつりと言った。
「あの、ね。……どこから出てきたのか、それが……私にもわからないの。ディメンションホールを通過してきた形跡が無い」
 お願い。何か嫌な予感がするの。
 大変な仕事だとは思うけど、と、イヴは小さくぺこりと頭を下げた。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:日暮ひかり  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年02月05日(日)22:24
日暮です。
お目にとまりましたら、よろしくお願いします。


●成功条件
 アザーバイド5体の討伐。


●戦場
 岡山の山中にあるごみ処理施設の処分場。野外で広大です。
 夕方頃、時村財閥からの視察という名目で訪れることになります。
 戦場までは普通に行けますが、あまりに騒ぎを大きくしすぎると人が来ます。
 戦闘中は辺り一面に広がったゴミの上を移動しながら戦うことになります。
 場合によっては、ゴミ山が崩れてうまく動けなくなったり生き埋めになります。
 悪臭が酷く、充分な対策が取れていないとHPとファンブルを除く全能力が10%ダウン。


●敵
 「餓鬼」という鬼に似たアザーバイド。処分場のどこかでごみを貪っています。
 物理系が低く、HPと神秘系が高いです。知性は皆無。
 ほか特徴などはOPの説明をご参照ください。

・地獄の業火(神遠範/攻撃、業炎付与あり)
 「フレアバースト」の威力強化版です。
 命あるものにのみ引火する性質があります。

・煉獄の風(神遠味全/回復、BS回復)
 「天使の歌」にBS回復効果がプラスされたスキル。
 自分がピンチの時のみ使用、仲間の回復を目的に使う事はありません。

・捕食(物近単/回復、自己強化。出血・不吉付与あり)
 「吸血」の強力版です。通常攻撃の代わりに使用します。

 身体のある箇所が弱点。
 そこへの部位狙い攻撃で与えたダメージがHPの半分に達すると、その時点で倒す事が出来ます。
 代わりに倒した瞬間爆発し、神近範・神防無視ダメージを範囲内の敵味方全員に与えます。


たぶんそこまではやりませんが、少し生理的嫌悪感を煽るような描写をする可能性があります。
アクション・台詞・心情なにに重点を置いて頂いても結構です。
自由にお書きください。プレイング楽しみにお待ちしております。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
★MVP
ソードミラージュ
ツヴァイフロント・V・シュリーフェン(BNE000883)
デュランダル
斜堂・影継(BNE000955)
ナイトクリーク
御津代 鉅(BNE001657)
マグメイガス
白刃 悟(BNE003017)
ホーリーメイガス
三改木・朽葉(BNE003208)
ナイトクリーク
緋塚・陽子(BNE003359)
ダークナイト
ベアトリクス・フォン・ハルトマン(BNE003433)
ダークナイト
熾喜多 葬識(BNE003492)

●1
 ははははははは……
 女の甲高い笑い声が、無機質で静謐めいたリノリウムの廊下に響きわたった。
「ふん! 臭い田舎町だ」
 しゅごー。
 処理施設内の廊下は至って清潔で、傍目にも清掃の行き届いたものに見えた。
 それでも壁と床の継ぎ目に生じた直角に僅かに溜まった埃を、眼鏡の奥の冴えた瞳に目ざとく映し出しては、即座に掃除機をがっつかせる嫌味な視察の娘。
 更にその後方をぞろぞろと無言で歩いてくるガスマスク姿の集団は、なんとも異様な気配を醸し出していた。
「来るなよ。賎しい連中に視察を邪魔されては敵わん」
 通りすがりに不快気な視線を送った施設職員をぎろりと睨みつける、金髪の彼女の名は『Endsieg(勝利終了)』ツヴァイフロント・V・シュリーフェン(BNE000883)という。しかし、そそくさと退散した相手がそれを知る由も無い。
 幾ら横暴な振る舞いをされようと、時村財閥の名を背負う者に物申すなど一端の社員に出来る筈も無かったのだろう。
 そしてツヴァイフロントの思惑通り『こいつらには関わりたくない』という印象を与える事にも、どうやら成功しているようだった――もっとも、のちに陰で何を言われていたかは、けして想像に難くないだろうが。
 一寸骨の折れる演技を終了し、ツヴァイフロントはマスクの下でふうと息を吐く。
「ここが処分場への入り口みたいですね」
 進めばやがて眼前に現れた鋼鉄の扉を指差し、『一葉』三改木・朽葉(BNE003208)が皆に問うた。
 作業着に長靴、手袋の完全作業員武装をした朽葉の姿に、令嬢の気配は見る影も無い……どころか、もはや誰なのかよくわからなかった。それは、彼女に限った事では無かったが。
「え。私の格好、何か変ですか?」
 タオルを巻いた首をこくんと傾げるも、可愛げはやはりガスマスクに相殺され、皆が噴き出した。

 さて、人払いは終えた。装備も整えてきた。
 けれどこの扉の向こうには『それなりの』地獄が待っているのだと思うと、開けるのには心の準備がいる。
「開けるぞ」
 『燻る灰』御津代 鉅(BNE001657)が扉に手をかけ、ぐいと力を込めて左右にスライドさせた。
 ごぉぉぉぉ……ん、と、地の底からこだまするような重い音が鳴り響く。息をのむリベリスタ達。
 中から現れたのは、先程と全く同じ鉄の扉だった。どうやら二重扉になっていたらしい。
「ったく何だこの扉はよぉ、焦らしやがって! まさか次もってこたぁ無えよな」
 鉅の横から緋塚・陽子(BNE003359)が進みいで、二つ目の扉へと飛びかかっていく。
「よっ、と……うおっ寒っ!」
 先ず扉の隙間から漏れてきたのは、季節感溢るる冬の冷たい空気だ。
 二つの扉は、暖房の利いた施設内へと流れ込むこれらを堰き止めるためのものだったのだろうか。

 それは違う。

 外に出る。 
 陽の沈みかけた夕方の空に雲は無く、顔の見えない太陽が地平線近くを炙って焦がす。
 瑠璃紺と緋色の壮大なグラデーションに照らされながら、無数に積載された廃棄物の山々が真っ赤に燃えている。
 燃えて消える事さえもままならぬ、人の文化が残し、積み上げた無用たるものの残滓。
 されど懸命に燃え尽きようとしているかに見えるそれらを、朧な月と無人のブルドーザーが、遠い空からつめたく見下ろしていた。

●2
 黒い靄の塊のようなものが視界を横切る。
 其処には、なんの神秘性もない。
 蠅だった。
 膨大な蠅がおぞましい羽音を立てながら、辺り一面を雨霰の如く飛び交っているのだ。

「こ、これ君達のご飯じゃないから、あっち行ってー!」
 『気紛れな暴風』白刃 悟(BNE003017)が、持参した手荷物に群がる蠅を払いのける。
 ――この大量放棄の時代に餓鬼が出るなんて、まるで現代の絵巻だ。
 それにしたって目の前の光景は、さながら悪趣味な地獄絵図。
「……うぅ、こんなの昔話にだってならないよ。ここで倒せるように頑張らなくちゃね!」
 辟易しながらも気丈に言う悟の隣で、『殺人鬼』熾喜多 葬識(BNE003492)がくつくつと喉を鳴らす。
「ホントさ。ゴミ捨て場に現れるって、自分がゴミですーっていうアピールにみえるよね~」
 葬識は、飛び回る蠅を潰しながら飄々と嗤っていた。
 ガスマスクの下に隠された端正な顔がどんな表情を浮かべているのか、今はそれを伺い知る事はできない。ただ愉快そうに弾む声音が、底知れぬ闇を抱いて響く。
「しかし厄介だな。これじゃ集音装置が上手く使えそうにないぜ」
 『影たる力』斜堂・影継(BNE000955)が、ふむと腕を組み思案する。
「そうかもしれませんね。如何しましょう?」
 『鉄騎士』ベアトリクス・フォン・ハルトマン(BNE003433)が見据えた先には、餓鬼ではないもう一人の住人――ふてぶてしく構え、餌場から動こうともしない烏たちの姿があった。
 蠅はともかく、烏と餓鬼がそれぞれごみを漁る音を広大な敷地内から聞き分けるのは集音装置を用いても困難だろう。
「そうだなぁ……連絡は取り合えるし、とりあえず別々に鬼の痕跡を探してみない?」
 悟がそう提案する中、夕焼け空を見上げていた鉅がいや、と低く漏らした。
「烏の動きが不可解だ。一部向こうの方から逃げてきている奴等が居る気がする」
 鉅が超直感で見出した方角。他に当てもありそうにない。そちらに向かって、一行は歩みを進めていく。
 積み重なった大小様々な廃棄物のせいで、足場はひどく不安定だ。ビニール袋を踏み破り、ズボンの裾をごみの中に突っこんでしまう事も度々だった。
 各自そういうものだと割り切り、或いは敵のみに集中しながら、慎重に探索を進める。

「……む?」
 烏の発する音も次第に聞きなれ、徐々に集音装置の効果も出てきた。
 眼前のごみ山の裏側に、どうやら別のなにかが居る。数は5。間違い無い。
 ツヴァイフロントが、敵のおおまかな所在を特定したらしい。
 鉅があそこなら隙間が多くて崩し易そうだと、別のごみ山の一角を指差す。
 カードは揃った。朽葉が杖を振るい、翼を得た仲間たちはようやく廃棄物の地表より解放された。
 これでもう、足音や足場の心配をする必要も無いだろう。
「やっぱ寒っ! さっさと片付けて暖房が効いた場所に転がり込みたいぜ」
 そう言って両腕をさするのは陽子だ。少し浮上し、上空から周囲を警戒する。
「うわぁ……!」
 飛ぶのは初めてという悟は、思わず感動の声を上げた。
 そんな反応に悪い気もしない。マスクの下で朽葉も緩くほほえんだ。それを認め、悟もありがとう三改木さんとこっそり手を合わせる。
「宜しい。では、諸君は向こうで待機を」
 後は誘い出すのみ。そのための餌を手に、ツヴァイフロントが単身向かう手筈になっていた。
 悟の脳裏を、無残な姿になった烏がふとよぎる。
 ――もしかしたら。
 まだ命ある新鮮なものが、餓鬼の本当の好物かも、とも思う。
「……気をつけて」
 そんな事は。悟は嫌な想像を打ち払い、これもどうぞと持参した生肉を手渡す。
 君自身が餌にならないように、とは言わなかったけれど。
「心配すんな。俺はこの世界もアンタも鬼の食い物にさせるつもりは無いんでな。確実に勝たせてもらう。任せたぜ。そして俺達に任せとけ」
 力強い影継の言葉に、ツヴァイフロントは黙して敬礼を返した。
 遠ざかる彼女の後ろ姿に、遠き祖国の地を想う。
 どうかご無事で。ベアトリクスもまた、彼女の背に小さく礼を送る。

●3
 件の餓鬼たちはというとこちらの気配に気付く様子もまるでなく、目の前にあるごみ山から無作為になにかを拾い上げては、熱心に口に運んでいた。
「そんな物より、こちらの方が美味いぞ!」
 ツヴァイフロントはすかさずばら寿司と生肉の包みを開く。
 彩りも豊かな海老やさやえんどうを、やれ餌だとばかりに餓鬼たち目掛けて放り投げ、じりじりと仲間たちが身をひそめるごみ山の方へと後退を始めた。
 べしゃりと落ちた生肉には当然の如く蠅がたかる。しかしそれを我先に奪わんと争い、もつれ合い、押し合い、媚びるように這いずりながら餓鬼たちは向かってくる。
(実に醜いな。真の恐怖は不足に非ず、貪欲にならざるを得ない心よ――)
 
 『喰ワセ ロ』。

 鬼の濁った双眸がぎょろりと動いた。
 物影から身構えていた悟が先程の悪い予感を思い出し、はっとして飛び出す。
 一瞬だけ遅かった。5体居た餓鬼のうち2体が、ツヴァイフロント目掛け飛びかかっていた。
「くっ……!」
 食欲を刺激し過ぎたかもしれない。これは自分の獲物だとばかりにツヴァイフロントの腕と足に纏わりつくと、牙を突き立て喰い破らんとする餓鬼たち。
 まずい。そう思ってどうにか振りほどいたものの、底無しの飢餓より生じる呪詛を受けた傷口からは出血が止まらず、足元にじわじわと血だまりが生まれる。
「ツヴァイフロントさん!」
 メタルフレームの頑丈な体に、その牙が通じ難かった事はせめてもの幸いだった。問題無い、見た目より軽傷だと彼女は首を振る。
 ――そんなにお腹が空いているなら、飛び切りの魔曲をあげるよ。
 悟の掌で四色の魔球が生まれ、放たれる。叩きこむ先はもちろん――
「『腹』だ」
 逢魔時の空に紺のコートが翻り、溶ける。
 眼前に立つ黒衣の青年も、また『食料』であると餓鬼が認めた時には時すでに遅く、鉅の気糸が針金のような四肢を拘束していた。
 大して有効な打撃にはならないものの、狙いはあくまで動きを封じること。これでいい。
 密集を避けるよう皆心がけてはいたものの、先手を取られたこの状況ではやはり限界があった。ツヴァイフロントを巻き込み、後からわらわらと群がってきた餓鬼たちの地獄の業火が鉅を焦がす。
 だが鬼との交戦も既に三度。痛みはあれど、今更こんな小物に臆するような事も無い。
(もう暫くは相手をしなくても済むように、今いる分はきっちり狩ってやらんとな)
 そのために鉅はただ耐える。

「待ってたぜ、餓鬼共!」
 そう、この声を待っていた。
 小高いごみ山の頂上に颯爽と立つのは黒い影。
 状況を確認した影継は、一瞬迷った。
 仲間と敵の位置が近い。このまま攻撃を加えたら、ごみ雪崩や爆発に巻き込む可能性がある。
「「構わん、やれ!!」」
 敵中の二人が影継に叫んだ。大きなチャンス、覚悟は決まっている。

 ――さあ、デカいのをブチかますぜ!

 合図と共に影継の銃から放たれた散弾の衝撃が積み重なったごみ袋を跳ね飛ばし、空から廃棄物の雨が降り注ぐ。
 流れ弾の一つが餓鬼の腹のど真ん中を突き破り――
 最後の足掻きとばかりに、また自らに喰らいつこうとする餓鬼をツヴァイフロントは冷たく見すえ。
「……ふ、人間らしい連中だ。では諸君、空しく求め、罪を残さず死ね」
 これは勝利宣言だと笑う。
 瞬間、爆発音と紅い閃光が、辺りを覆った。

 生き残った四体の餓鬼と共に、ツヴァイフロントの姿がごみ山の中へと消えた。
「あいつ……無茶しやがってッ……!」
 陽子が大鎌を握りしめ、敵への怒りに体を震わせる。
「いや、ちゃんと生きてるんじゃないかなー? 殺人鬼の勘だけどね~……あ、鬼」
 葬識が早速ごみ山から這い出ようとしている餓鬼を見つけ、指差した。
「さてはて餓鬼の腹にたまるは怨念執念。正義と愛と世界平和を願う殺人鬼には難しい概念だね」
 奇妙に歪んだ造形の鋏をいとおしそうに撫でながら、さながら狂言回しのように殺人鬼は謳う。
 心の臓から染み出でる、闇の瘴気は彼の殺意の塊だ。
 殺戮は日常であり、習慣。そして純粋な愛の形。
 美しい殺戮のかたちに邪念の入りこむ隙間はない。
「鬼が鬼を喰い合って、後に残るは某ぞ……ってね」
 同じ鬼でもわかりあえないんだよ――あぁ悲しいねえ。
 闇が鬼の腹を喰い破り、再び爆風が生じる。ごみ山の一角が吹き飛び、中に埋まっていた餓鬼が地上に弾き出されてきた。
 爆風による被害を受けているのは味方だけではない。鬼たちもまた、連鎖的にダメージを受け続けかなり弱ってきているようだ。
「顔とお腹、どっちを叩かれるのが嫌か……聞くまでもなかったようですね」
 ハイテレパスを用意していたのですが。どうにか崩落から逃れていた鉅の傷を癒しながら、朽葉がふむと頷く。
 ――元の世界とココのご飯、どっちが美味しい?
 好奇心からテレパシーでそう問いかけるも、餓鬼たちはうぅ……うぅとすすり泣くような声で唸るばかりだ。
(食べても食べても満たされない。行動の達成感も得られない、永遠の飢餓。辛いですね)
 『美味しい』と感じ満たされる喜びすらも、おそらく彼らは持ちえないのだろう。
 口に入りさえすればいい。それだけ。
 仮に餓鬼の伝承を信じるとしても、彼らが生前犯した罪など知る由も無い。
 消滅をもって償えと言うには、この白の少女は心までもまだ白い。
 だから言った。
 ねえ、ここで終われたら、幸せだと思いませんか――?
 鬼達は答えず、また廃棄物をざり、と喰らった。

●4
 一人を欠いたまま戦闘は佳境に入る。
 しかし敵の数は更に減り、鉅の放った麻痺攻撃も効いて満身創痍の状態。既に勝敗は決したも同然だったが、鬼たちはなおも自らを癒しこの世にしがみつこうとする。
(この鬼たちはどこから来ているのでしょうか。なぜ、まだ生き残ろうとするのでしょうか……?)
 ベアトリクスは戦いの最中、ふと思考を巡らせる。
 何かを守るために戦場に立つ。それが彼女の掲げた真っ直ぐな騎士道精神だった。ここに至るまでに傷つき、未だ行方の知れない仲間の事を思い出す。
(考えるのは私の役目ではありません……私は、私のやるべき事をするだけです)
 構えた二本の槍を打ち鳴らし、力いっぱいの闇の瘴気を、残った一体の餓鬼へと放つ。
「闇よ!敵を葬れ!」
 武器を握る掌が瘴気に蝕まれ、白手袋にじわりと血が滲んだ。
 ――早く彼女を助けなければ。そのためなら、己が傷つく事など厭わない。
「ここが正念場だよ!負けるなーっ!」
 この地獄絵巻もあと一歩で終わりだ。
 最後の餓鬼を倒すべく、詰め寄る影継と陽子の後ろから悟の歌声が響いた。弾むような元気な声は、傷ついた体の底から戦う力を再び呼び覚ましてくれる。
「これが最後の一発だ。おい緋塚、覚悟は決まってるか」
「当然だろ。やっぱ最後は一発ドーンと派手にかまさねぇとな。どうせもうゴミまみれだし、さっさと帰って熱々のシャワー浴びようぜ!」
「ああ、同感だ!」
 陽子が翼で飛びあがり、大鎌を頭上に振り上げた。打ちおろした勢いが強すぎたのかそのまま空中でくるりと一回転する。
「おわっと!?」
 そこから放たれた黒い衝撃波は鬼の腹をかすめていった。膨らんだ腹が衝撃にへこみ、口から炎がちろりと漏れる。
 本当に、この鬼の腹の底にはなにも入ってはいないらしい。

「俺達と出会ったのが運の尽きだぜ。悪趣味なお伽話は終いの時間だ……行くぜ! 斜堂流、電刃滑空!」

 全身に雷光を纏い、旋回した影継が鬼の腹目掛けて突っこんでいく。
 黒い稲妻を纏う大剣を深々と突き立てれば、遂に最後の鬼の腹が裂け、その裂け目から爆風が噴き出した。

 吹き飛ばされ、倒れ込んだ影継と陽子の元へ続々と仲間たちが飛んで集まってきた。
「アツアツアツッ! これは熱過ぎるわ!」
 飛び起きて熱さにぴょんぴょん飛び跳ねている陽子を見るに、そこまでの負傷は負っていないよう。
「おーい! ツヴァイフロントさんも無事だよー! 埋まってる間飢餓と独逸の歴史的関係に思いを馳せてたって言ってるし」
 ごみ山を掘り返していた悟とベアトリクスからも声が上がり、一同はほっと胸を撫で下ろす。
 予定していた調査は中止にし、切り上げる方向で決めた。負傷者も居るし、広い戦場とはいえ施設内の人間が爆発音や崩落に気付いた可能性を懸念しての事だ。
「何なんだろうな、あいつら。まさか桃太郎の鬼ってわけでもなかろうが……」
 すっかり日の落ちた空を見上げ、影継が言う。今はまだ、はっきりした事は分からない。
「あ、桃太郎といえば。駅で買った桃太郎饅頭があるんだけど食べる?」
 そして朽葉が何の気なしに呟いた。
 今か!? 今言うのか!?
 うん、本当は餓鬼にあげようかなと思ってたんだけど……
 そんなやりとりも程々に、リベリスタ達は人間たちの廃棄物の山を後にしていく。
 求めることだけを求めすぎると、得たものの意味は積み重なって飽和し、いつしか虚ろになる。
 埋めることを求め彷徨う誰かの悲しき欲望を断ち切った。餓鬼伝承を信じるならば、あるいはそうとも言えるだろう。
 けれど信じないなら信じないで、それでも立派なハッピーエンドになる。
 勇敢な八人の戦士達は、悪しき鬼を見事退治した。
 たったそれだけの、とても大事な話だ。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
このような依頼にお付き合い頂き大変お疲れさまでした。
結局思ったより爽やかな感じになってしまいました…。
皆様の熱さや優しさがそうさせたのだと思います。

ツヴァイフロントさんと御津代さんの戦闘不能判定の差は、単純にHPが明暗を分けた結果になっています。
特に他のどこが悪かったというわけではありません。
その点も踏まえつつ、誘い出しや人除け対策など、面白い切り口から積極的に実行し有利な状況を作ったツヴァイフロントさんに今回のMVPを贈らせていただきます。

勿論他の皆様も個性的ですばらしいプレイングでした。
ばら寿司や桃太郎饅頭など、地域ネタを挟む遊び心が良かったと思います。
ご縁をいただけた事に感謝します。ありがとうございました。