●造作無い仕事 真紅のスーツに身を包んだ怪しげなグループが、開きかけのディメンション・ホールの周りを取り囲んでいる。 その一種異様な雰囲気からして一般人でないことは火を見るより明らか。 「……そろそろ予定時刻だ。気ィ抜くんじゃねえぞ」 相馬と呼ばれた若い男を中心に物々しげな連中が得物を構えて、口を開けようとしている次元の穴へ視線を注ぐ。 間もなくして現れたのは、腕が四本と脚が二本で虫のようなシルエットをした二メートルほどの体躯を持つアザーバイド。男達は統制の取れた見事な動きでそれへ対し先制攻撃を仕掛ける。 アザーバイドも数ある手足で果敢に応戦する姿勢を見せるものの、五人の連携の前に苦戦を強いられる一方。 「大人しくしてろッてーのお客さんよ!!」 あっけなく敗北を喫し、容赦なく滅多打ちにされたアザーバイドは、弱りきったところを特殊な捕縛網で生け捕りにされてコンテナへ放り込まれる。 「はい、ごくろーさん。だいたい二分ってとこだな……ま、こんなもんか」 相馬は煙草を咥えながら腕時計に目をやり、胸ポケットからスマートフォンを取って通話を始める。 「……あトキさん、お疲れ様っす。下志段味のほうは無事完了しましたんで、これから戻ります」 ●ブリーフィングルーム 「どうやら黄泉ヶ辻の一味らしい。まだ詳細は不明な点ばかりだが、奴等がなにか妙な事を始めようとしているのは見ての通りだな」 ――我が国にもフィクサードの集団は多数存在しているが、中でも『主流七派』と呼ばれる七大勢力は特に有名であり、『黄泉ヶ辻』はその内の一つである。 この名に聞き覚えがある人間ならば、まず思い浮かべるイメージは『閉鎖的な組織』といったところだろう。……実際、それ以上の情報は殆ど耳にすることも無く、連中が何を目的として活動を展開しているのかは未だに謎が多い。考えていることが全く分からないという点では他のどの組織よりも不気味であり危険だ。 いずれにせよ、看過すればこの先好からぬ事件に発展する可能性が高いことは最早説明するまでも無い。 「そういう事なんで、奴等の動向を探ったうえで企てを阻止してきてもらいたい」 画像を停止させた後、渡した資料をめくるよう促しながら『駆ける黒猫』将門 伸暁(nBNE000006)は続ける。 「相馬 慶壱楼、二十四歳……そいつが今回の重要ターゲットだ。日本におけるフィクサード主流七派のひとつ黄泉ヶ辻に所属する特別工作員で、今回のアザーバイド捕獲事件の現場指揮を担当している男だ。一見軽いように見えて実力の程は意外に高いと思われる。上層の人間に気に入られて色々幅広く使われてきたんだろうな。格上相手に油断するような奴は居ないと思うが、まあ、気を付けてくれよ?」 相馬の他、部下の男達が四人。実力は相馬ほどではないにしろ、五人で未知のアザーバイドに立ち向かい、これを生け捕りに出来るくらいの手練だ。個々の能力も然ることながら、それ以上に連携による相互作用が非常に大きい。まずこれを崩すことを意識して戦闘をおこなう必要があるだろう。 現場は愛知県名古屋市内の下志段味と呼ばれる地区の一角。開発途上の場所で特にこれといった建物なども少なく、広大な空き地が続いていると云うのがイメージに近いかもしれない。 「狙われたアザーバイドについてはそれほどの敵性は見えないってことなんで、こちらが下手に刺激さえしなければ戦闘は回避できるはずだぜ。……ただ、最悪の場合三つ巴になる可能性も考えられるんで、相馬へアプローチを行うタイミングは、仲間内で相談してお前達のほうで決めてくれ。それじゃ頼んだぞ」 * ●依頼目的 黄泉ヶ辻の工作員、相馬 慶壱楼らの目的を探り、それを阻止すること。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:小鉛筆子 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2012年02月02日(木)00:39 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 4人■ | |||||
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●【朱鷺】(トキ) コウノトリ目トキ科の鳥。 古来から東アジアに多く生息していたが、日本土着の個体は既に絶滅。現在は中国産のものが僅かに放されているのみ。 学名を Nipponia nippon という。 相馬 慶壱楼ら黄泉ヶ辻のフィクサードが陣取る空き地の横にはコンテナを積んだ車両が見える。その陰になる位置から、アークのリベリスタ達は密かに目標へと近付いていった。 「お客は丁重に扱えよ。――いいな?」 低い声でやり取りする黄泉ヶ辻勢の様子が窺えた。 「それにしても、妙な気分ですな」 勿体付けたような間をもたせてモヒカン頭の男がそう零す。 「あん?」 「シェアのことですよ」 「フフン……」 相馬は笑う。「たしかに妙な気分にもなるが、手数が増えるのは助かる」 アラームが小さく鳴ったのを確認した相馬は、煙草を踏み消した。 「……そろそろ予定時刻だ。気ィ抜くんじゃねえぞ」 リベリスタ達にも新たな緊張がはしる。 そして現れたアザーバイドへ黄泉ヶ辻フィクサードは先制攻撃を掛けた。 トラップネストに嵌ったアザーバイドへデュランダルが重圧を被せ、二重に逃亡を阻む。 相馬と山高帽のスターサジタリーが射撃でダメージを与えていきながら、尚且つブレイク効果を持つピアッシングシュートで、相手の強化付与をことごとく破壊する戦法だった。 コンテナの陰で様子を窺いながら、『つぶつぶ』津布理 瞑(BNE003104)は苛立ちを隠す様子もなく拳を強く握り締めている。 何としてでも件のアザーバイドを守る。それが瞑がこの仕事に掲げる最大目標だった。 『忠義の瞳』アルバート・ディーツェル(BNE003460)などの提案により、彼らが行動に移るのは戦闘開始後、一分経ってからと決めてある。 アザーバイドは長い手足を繰り出してデュランダルへ反撃する。が、インヤンマスターの回復サポートが働いているため、簡単に落ちる気配は無い。 立て続けに来る集中攻撃に防御を高めても、スターサジタリーの銃弾がそれを許さず。 一度、毒性のミストを吐き出して全体へ被害を及ぼしたが、無論、黄泉ヶ辻はそれも想定していただろう。落ち着いて対処しながら形勢を維持し続けている。 「そろそろ頃合でしょう――」 アルバートの言葉を待つまでも無く、リベリスタ達は遂に敵の前に躍り出た。 「や、フィクサードの皆さんお揃いで。何やってんの?」 『彼岸の華』阿羅守 蓮(BNE003207)は走り込むと同時にインヤンマスターへ向けて斬風脚を放ち、相手の射線を阻んで立ちはだかる。 「初めまして、黄泉ヶ辻の皆さん。アークのリベリスタです。以後よろしく」 『宵闇に紛れる狩人』仁科 孝平(BNE000933)は敵の背後に回りながら自己紹介をした。 「ほほう? ……これはこれは」 芝居掛かった表情で相馬は、飛び出してきたリベリスタの連中を見回した。 同様に、囲まれた相馬の部下達も闖入者へ身構える。 「随分と優秀なフォーチュナがいらっしゃるようですね。アザーバイドの出現時間が分かって待ち伏せるくらいですから」 孝平は続ける。 「そちらの目的は不明ですが、妨害させていただきに来ました」 言うが早いか、リベリスタ達は攻撃に転じる。 「ちょりーっす! 殺人鬼の殺戮タイムはっじまるよー」 『殺人鬼』熾喜多 葬識(BNE003492)の魔閃光がスターサジタリーへ。 牽制の役割を果たした一撃は相手のアザーバイドへ向かう攻撃を遅らせる。 その隙に『弓引く者』桐月院・七海(BNE001250)は浄化の鎧でアザーバイドを包み込み、援護することでこちらの意図を伝えようと試みた。 「癒しを与え賜え」 天使の息が『境界の戦女医』氷河・凛子(BNE003330)から送られると、アザーバイドの呼吸は幾らか鎮まる気配を見せた。 「アザーバイド。助けられるなら助けるのが医者の勤めでしょう」 蓮も穏やかな視線を送りながらアザーバイドへ頷く。 果たして彼らの思いを理解したアザーバイドは力を振り絞るように一度大きく鳴いた後、目の前のデュランダルを払い除けてこちらへ寄って来た。 「お客の相手は俺がやる。てめえらは先にアークを始末しろ!」 いよいよ状況はアークと黄泉ヶ辻の対決へ移る。 そして『メイド・ザ・ヘッジホッグ』三島・五月(BNE002662)は相馬へ追い縋り、アザーバイドへの攻撃を邪魔する。 まずは相手の力量を測るつもりで土砕掌を。 「チッ。ウゼーな!」 相馬はアザーバイドへの追い討ちを一旦諦めざるを得ない。舌打ちしながら五月へ向き直る。 「にふふ~みんなしっかりふぁいとっ! なの~」 『すーぱーわんだふるさぽーたー』テテロ ミ-ノ(BNE000011)は仲間へ檄を飛ばす。守護結界が周囲に及び、同時に彼女の存在自体が味方への支援効果を生み出す。 「――アザーバイドを生け捕りに、ね?」 『運命狂』宵咲 氷璃(BNE002401)は魔方陣を展開しつつ問う。 「戦わせて賭け事でも行う心算?」 しかしそれに対する黄泉ヶ辻からの反応は無い。 「ウオオオオオオオッ!!」 狙われたインヤンマスターとの間に入った怪しい目つきのデュランダルが『鋼鉄の砦』ゲルト・フォン・ハルトマン(BNE001883)の放ったジャスティスキャノンを受けてゲルトへ突撃。 「うちだって限界を越えて助けてやってやろーじゃねーか!」 仲間とは別方向から切り込んでブロックの隙間を狙う瞑。デュランダルが突撃したのは彼女にとっても好都合だった。 壁を失って無防備な状態の標的にソニックエッジが炸裂する。 「落ちこぼれなめんな!」 素早い身のこなしで反撃されるより先に飛び退きざま、連撃を叩き込んで相手を鈍らせる。 黄泉ヶ辻がアザーバイドと戦闘を行った約一分間は少なからず影響を及ぼしていた。『無何有』ジョン・ドー(BNE002836)のピンポイント・スペシャリティに早くも苦しそうな表情を浮かべ始めるモヒカンのインヤンマスター。 敵のデュランダルに重圧を喰らったものの、ゲルトは難なく持ち堪える。 「貴様程度の攻撃では俺は倒せん」 しかし次に飛んだ山高帽の一発に、ゲルトの強化は破壊された。 「まだだ」 「ヌオォォォッ!!」 ギガクラッシュを盾で防御しつつ、ゲルトはデュランダルをインヤンマスターから引き離してゆく。 麻痺を被って歯噛みするインヤンマスターへ、七海のカースブリットが呪いをかける。 が、敵のプロアデプトも彼を標的として行動を封じてきた。狙い違わず七海もまた敵の網にかかった。 次に狙われたのはジョン。こちらにも網は的確に命中した。 孝平の一閃がインヤンマスターを倒し、次に狙うはスターサジタリー。 「援護頼む!」 山高帽はとっさにその気配を察知してプロアデプトへと叫んだ。 凛子は被弾の著しいゲルトへ回復を飛ばす。 氷璃の堕天落としがスターサジタリーへ放たれた。 「チッ! そんなもの!」 寸でのところで回避して次に来る攻撃へ目を凝らす。 「ごめんね。余り掻き乱されると面倒だからさ。足止めさせて貰うよ」 蓮はプロアデプトへ接近。 「……」 表情も変えず無言のまま、相手は蓮を振り返った。 気合の声と共に蓮が繰り出した拳は敵を捉える。確かな手応えと同時に敵は二、三歩よろめく。 ……が、 「しまっ――!!」 気糸は既に狙いを固めて、敵の手から放たれていた。 「中坊はゲーセンでも行って遊んでろ」 相馬は五月へ早撃ちを仕掛け、何発かの弾を彼の胸へ撃ち込んだ。反撃の土砕掌をトリッキーな身のこなしでひらりとかわして、たちどころに背後へと回り込む。 「!!」 「青臭ェ動きなんだっつーの。殺しちゃうよ?」 五月は背を強かに蹴り付けられ、前に倒れ込む。すぐに立ち上がって追撃をかわしながら次の一撃に意識を集中させる。 来る! 斬風脚で迎え撃つ五月。アクロバティックなダンスを披露するかのように宙返りをした相馬。 紅いスーツを掠めた五月の一撃は布を裂いて肌を切る。 次の瞬間、五月は顎を蹴られて仰け反った。まるで防御を貫通してきたかのような衝撃にストンと膝が落ちそうになる。 「――まだ、です」 フェイトを燃やす。 「クソッ。手間取らせやがって……」 「ぶれいくひゃー!」 ミーノはプロアデプトの網に掛けられた仲間をブレイクフィアーで解除する。 「……」 プロアデプトはその様子を見てミーノを睨み付けた。 「逃がすかってんだよ!」 瞑はスターサジタリーを追い詰める。ハイスピード効果を破壊されても速度で後れを取るつもりは無い。両の手にしたナイフと毒針で接近戦を仕掛けて息つく暇を与えない。 速さでは瞑ほどではないものの、孝平もソードエアリアルで山高帽を狙い打ちにする。 ジョンのピンポイント・スペシャリティによる重圧の効果が続いているおかげで敵の動きは後手へと追いやられている。 そしてついにスターサジタリーも落ちた。 狙われたミーノのトラップネストは凛子が聖神の息吹で解除。同時に仲間全体の体力も一気に回復。 デュランダルにかけられた怒りは七海の呪いでほぼ定着している状態だった。執拗に攻撃を繰り返している。 ゲルトは多大なダメージをその都度受けてはいるが、後ろ盾にしっかりと守られているために未だ一人で持ち堪えていた。 残りのメンバーはプロアデプトへ標的を据える。 それを見計らって蓮はターゲットを相馬へと変更した。 相馬へのブロックを一人でおこなっていた五月は攻撃を度々かわされ反撃を貰いながらも何とか喰らい付いて頑張っていた。しかしフェイトを犠牲にして立っている今、それも時間の問題。 「相馬 慶壱楼さん、だね」 蓮が五月の加勢に入る。 「名前まで知ってんなら聞くまでもないだろ」 「神道夢想流棒術、阿羅守 蓮。一手御指南願おうか」 「おいおい……」 蓮の構えに相馬は鼻を鳴らす。 「乗れってのかよ、俺に?」 相馬はそう言って欧米人がやるような大げさな手振りで肩をすくめた。 「あんなぁ……俺はここに遊びに来てんじゃ――」 油断を誘っておいて相馬はいきなり仕掛けた。 「おぉ~、よくよけたな。まぐれか?」 興が乗ってきたのか相馬もステップを踏みながら身構える。 五月と蓮。二人の覇界闘士が相馬と対峙する。 「俺に勝てねんなら死ぬしかねえぞ?」 そこへアザーバイドが突進してきた。 「ほう。面白れぇ」 相馬はカウンターを返しつつアザーバイドの巨体をすり抜ける。蓮と五月は挟み撃ちにして拳を繰り出した。 「お~っとぉ!」 銃で五月の攻撃を牽制。一方の魔氷拳は止む無く受け止める。ダブル・フォーリャで蓮へ反撃。 虚を突くような攻撃に蓮は頭を振って目を瞬かせた。 「……その足捌き、覇界闘士顔負けだね」 「そりゃどーも」 他愛も無いやり取りに横から割り込んできたアザーバイドが長い腕で相馬を捕らえる。 「キシィィィ!!」 四つの手でそれぞれに相馬の四肢を掴み上げ、空中で大の字張りにする。 「く、くそっ!」 さすがの相馬もアザーバイドの巨体からなる怪力には抵抗出来ないようだ。これに乗じて二人は斬風脚で相馬を狙い打ちにして形勢逆転を狙う。回避行動を取れない相馬は背中に打撃を甘んじるほかない。 「おい! このクソムシ野郎をどうにかしろッ!!」 プロアデプトが相馬の方を振り返った。 そしてトラップネストが飛んできてアザーバイドを縛り付けた。 逃れた相馬は五月へ銃口を向けると執拗なまでに撃ち込んでくる。 凛子からの回復は間に合わず、五月は倒れた。 肉薄する蓮。しかし相馬は距離を取った。後衛の面子を睨んでいる。 「俺も入る。後ろから潰すぞ!」 部下へ呼ばわる相馬だが、その直後にプロアデプトは倒された。デュランダルは石化して使い物にならない。 相馬は仕方なく一人でアークの後衛に狙いを付ける。 孝平が正面から相馬へ向かう。 「そうはさせません」 「それはこっちのセリフだ。他人の仕事の邪魔しやがって!」 孝平の一閃。サルのようにかわす相馬。ジョンのボルトが相馬のふくらはぎを刺し、瞑の幻影剣が横から入った。 「くっ!」 「時に、黄泉ヶ辻の相馬様。トキ様の目的は何で御座いましょうか?」 アルバートがおもむろに問いかけた。 「アザーバイドあつめて、面白いことでも企ててんの? 実験材料とかに六道にうりつけるとかさ」 と、葬識。 「生きてるアザーバイドなんて六道は研究材料に使いたいだろうね。原料にしてアーティファクトとかねー」 相馬はアルバートを一瞥した。 「実のところ、アークは大体の事実は掴んでいる」 剣を振り下ろし、会話に入ってきたのはゲルトだ。 「ほう?」 「六道、裏野部、そして貴様ら黄泉ヶ辻。三つの組織による共同実験――」 「………」 「その目的は賢者の石とそれぞれの組織の秘術を駆使したエリューション兵器の開発だ」 相馬は笑っている。 「なら、三つだけ正直に答えてやる――。【壱】俺は嘘を吐く。【弐】黄泉ヶ辻はアザーバイドとの協調を望んでいる。【参】アークは今後何かと邪魔しに来ると見て、俺は上に報告するつもりだ。以上――どうだそこの。てめえが読んだ俺の思考と同じだろ?」 アルバートは質問直後のリーディングで、相馬の意思は読み取っていた。彼の言葉との間に齟齬は感じられない。 「ふっざけんな! 命を踏みにじるような奴らが協調なんか望んでるワケねーだろ!」 瞑が怒鳴った。 「別に踏みにじった覚えなんかねーよ。対等な話し合いをするための策を講じてるだけだ。別世界からのお客が必ずしも友好的とは限んねえことぐらい、てめえらだって先刻承知のはずだぜ?」 「なにが対等な話し合いだ……!」 瞑は相馬へ切りかかっていった。 「てめーが何と言おうとアザーバイドは守る!」 「して、貴方がたがアザーバイドと協調を望むその目的は何なんです?」 「フン……」 また鼻を鳴らす。 「お得意の読心術で当ててみろよ?」 「………」 見ずとも相馬に語る意思など無い。だが、僅かながらに緊張は感じられる。逃げおおせる為の算段でもしているのだろう。 「……ま、こっちかておいそれと邪魔される訳にゃいかねえんでな。正々堂々真っ向勝負といこうや」 「殺しは生き様だよ、正々堂々殺戮しちゃおう」 暗黒を放つ葬識。 「気が合うね。俺もだよ」 連続で撃ち込まれた弾丸が葬識の体を貫通する。 「う……」 しかし、失いかけた力をフェイトによって呼び戻す。 「クソッ。こいつもかよ!」 フェイト復活に苛立つ相馬をよそにリベリスタの猛攻が押し寄せる。 「貴様の相手は俺が受けて立つ」 ゲルトは相馬をジャスティスキャノンで引き付けにかかる。が、相馬はこれをかわした。 ジョンのピンポイント、七海のカースブリットと続き、そしてアルバートのトラップネストと、相馬は次々に被弾。麻痺に陥ったことは相馬自身も意外だったのか、表情を強張らせた。 ミーノの回復で麻痺から立ち直るアザーバイド。相馬を探して頭部を忙しく動かす。 氷璃のフレアバーストが炸裂したのを感知してアザーバイドはそちらへ向かった。 「もう諦めて下さい。そちらに勝ち目は残っていません」 孝平は相馬との距離を詰めて剣を突き付けた。 相馬が麻痺に陥ったのを契機に形勢は一気にリベリスタへと傾いた。 「ここで部下共々死ぬよりも多少評価下がる位我慢してみてはどうですか?」 七海も新たな矢を番えて相馬へ問う。 相馬を取り囲むリベリスタ達。 「………」 孝平を見上げながら地面に唾を吐き、相馬はとうとう降参の意を示した。 「で、俺をどうする気だ?」 「アークで身柄を拘束したのちに、しかるべき尋――」 突如、リベリスタ達の背後からアザーバイドが手を伸ばし、相馬を掴み上げた。 「シギィィィィ!!」 怒りに任せて相馬を振り回し、地面に叩き付ける。二回。三回。四回――。 そしてリベリスタ達の目の前で相馬の脚と体が、昆虫のそれのように、プツン、と千切れて飛んだ。 毛羽立ったボロ雑巾のようになって宙へ放り出された体は、土の上に落ちたきりピクリとも動かなくなっていた。 相馬 慶壱楼は死んだ。 そして、怒りの収まったアザーバイドはリベリスタ達に敵対する気配の無いことを確認するや、未だ口を開けているディメンション・ホールの中に消えていった。 ●【鰻】(ウナギ) ウナギ目ウナギ科の魚。 全長約1mの細長い体型で、体表は粘膜に覆われてヌルヌルしている。 河川に生息しているイメージが強いが、実は海水でも生きられる。 詳しい生態に関しては、まだ謎の部分が多い。 「そうですか。――分かりました、ご苦労様。道中も気を付けてくださいね」 柔らかい声の男は通話を終えると、傍らに立つ人影に顔を向けた。 「高久丙の方は何事も無く終わりましたとさ」 男は手元の器から上等のウィスキーボンボンを取り出して一粒口の中に入れる。 「鰻さんのお陰で随分と仕事がラクになりましたよ。――ただまあ、今後もシェアを活用するためには次の人材も確保しなければなりませんけどね」 男の機嫌は良いようだ。 小切手にサインをして傍らの人物へ手渡した。 「それじゃあ、今後ともよろしく―――」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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