●にらみあい! 山があった。 山の中に森があった。 森の中に沼があった。 沼にはヘビが居た。 沼にはカエルも居た。 沼にはナメクジだっていた。 彼らは睨み合っていた。 いつまでも睨み合っていた。 ●さんすくみ! 「タイガーも走り続ければバターになるらしいが。こいつらが睨み合いをし続けた結果どうなったと思う?」 開口一番『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)が早速飛ばしていた。今日ものぶってるところ申し訳ありませんが虎はバターにはなりません。 「答えはエリューションになった、だ。正解者には一曲プレゼントしようか?」 いいから話を続けろよ。 「クールだねぇ……こいつらはエリューション化してからも睨み合ったままだ。だが近いうちに道に迷った登山客が通りかかる」 エリューションは現在はどれもフェーズ1。しかし登山客はうっかりどれか一種に近づいてしまい襲われ、均衡が破れた瞬間残った二種のうち、強い方が片方を一方的に食べてしまう。 その結果、食べた種はフェーズが2に進化。放置できない危険な存在となるのだ。 「どの道退治するなら、登山客を食わせる必要はないだろう?」 詳しい資料を投げ渡し顎で促す。 場所は沼地で足場が安定せず、また木々で視界も悪いため動きがかなり制限される。それらの障害物が邪魔で、他の種を一気に巻き込んで攻撃することは不可能。あくまで一体ずつしか相手は出来ない。 その他、資料にはそれぞれのエリューションの特色が記載されていた。ヘビはカエルに、カエルはナメクジに、ナメクジがヘビに強いのは三すくみどおり。 「バラバラに別れて戦ったところで、一瞬でも睨み合いから開放された瞬間捕食する。一飲みでパワーアップさ」 まずはどれかフェイズ1の一種と戦う。そして、残った二種のうち、さんすくみの関係で捕食した方のフェイズ2を倒す。この流れになるだろうと伸暁は言う。 「取捨選択さ。資料を読んで、まずどれと戦い、最後に残る強敵はどれにするか……くれぐれも怪我なんて拾うんじゃないぜ?」 伸暁はウィンクでリベリスタを送り出した。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:BRN-D | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年02月03日(金)22:31 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●いただきます! 「おばちゃんもねぇ、三角関係の五つや六つやらかしたこともあるんよ」 のどかなハイキングコースを外れ、山の奥深くへ向かう道中。世間話として昔の武勇伝を語りだしちゃったのは『十徳彼女』渡・アプリコット・鈴(BNE002310)である。 「でもま、やっぱり失うものも多くってさぁ……待ってるのは破滅だけよ」 やめて生々しい! 早く目的地について! ある者に強く、ある者に弱いさんすくみ……そこまで呟いて『高校生イケメン覇界闘士』御厨・夏栖斗(BNE000004)は愕然とした表情を見せた。 「僕の場合強くでれる相手なんていないじゃん! 超ヒエラルキー下ってこと?」 やめて! こっちは痛々しい! 「ふむ、そろそろでしょうか」 靴底に泥濘がついてくるようになって久しく、先頭を歩く『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)は茂みを掻き分け先を確認する。 果たして……それは存在していた。どろどろの沼地には両の手で一抱えはある大きさのエリューションビースト。滑らかな鱗、ぬめぬめの肌、つるつるの表皮…… ヘビ、ナメクジ、カエルは冗談みたいな大きさで、冗談みたいな構図で、冗談みたいなグロテスクさでたたずんで――いや、睨み合っていた。 うなり声を漏らすアラストール。 「むう、なんと見事な三位一体。これほど見事な寓話の再現は今後十年はない気がします」 「だな。さんすくみってたまに聞くけど普段はあんまし見かけるもんじゃない。ちょっと珍しい光景だし覚えておくか」 隣でうなづき『仁狼』武蔵・吾郎(BNE002461)は物珍しげな視線をEビーストに向けた。 「おうおう、また律儀にさんすくみになってんじゃねぇか」 楽しげに唇を曲げ眼前の不思議を前に『赤錆烏』岩境 小烏(BNE002782)。 こいつら実は変身した忍者とかじゃねぇの? ――自らの思案にくくっと笑いを漏らし、小烏は観察を続けた。 Eビースト達は動かない。微動だにしない。これが睨み合い、これこそがさんすくみとでも言うような、模範的な構図であった。 「なぜだろう、緊張感とは裏腹にどこかのどかだよなぁ……」 光景を見やり、どこかのんきな声を上げたのは『むしろぴよこが本体?』アウラール・オーバル(BNE001406)。確かにこの睨み合いは昔話の一場面のようで、寓話のような風習的な空気すら感じられる。 いつから睨みあってんだ? 軽い口調で話しながらも、安全靴を履き熱感知で周囲の状況を素早く確認するあたりはさすが訓練されたリベリスタである。 「しかしまぁ、面白い状況になっているわね」 片桐 水奈(BNE003244) は興味深くさんすくみを見やりふふっと笑みをこぼした。 是非このまま放置し続けて観察してみたいところだけれど――興味は尽きないがそういうわけにもいかない。仲間をうながし所定の位置を目指す。 (……ところでナメクジがヘビに強いというのは迷信だったような気がするのだけれど) エリューションだからいいんだよ! 睨み合う。睨み合う。いつまで続けるにらめっこ。食べたい餌が目の前にいるのに、うかつに動けば食べられる。嗚呼さんすくみ。 ――続くものとと思われていたさんすくみは一瞬で瓦解する。新たな外敵の存在がさんすくみに加わった為だ。ヘビ、ナメクジ、カエルの中に新たに加わるはオオカミ。 吾郎はオオカミのビーストハーフだ。その自慢の速さで木々を駆け抜け、ヘビがその存在に気づくより早くその眼前に迫る。 (皆を温存させる為にも、一撃必殺を狙うぜ!) その身には鈴の張った結界の守護を受け、その背には水奈の加護で得た翼を広げる。仲間の支援を受け自身はこの一撃を極限まで高めるべく集中を重ねた。 雄たけび上げて振り回された大剣はヘビの胴体を一刀両断、斬って捨てた。 どうだ――と向けた表情はやや曇る。体長が半分になりながらもヘビは怒りの声を上げ身体をくねらせる。なるほどこの生命力はさすが動物のエリューションである。 まぁいいさ、ヘビの身体を文字通り半減させたんだから……吾郎は牙を剥き飛び掛るヘビに、避ける努力も見せず身を低くする。 その背を飛び越えヘビに奇襲をかけたのは『食堂の看板娘』衛守 凪沙(BNE001545)。まさに攻撃態勢にあったヘビの顎を炎を纏う鉄拳がかち砕く。 「ナメクジ君ご苦労様だよ。カエルに飲み込まれる前に辞世の句でも考えててね」 ヘビはもはや死に体であり、元々メインの相手ですらない。凪沙の意識はすでに次の相手に備えており、その抑えとなっているナメクジにごめんねと哀悼の意を表した。 しょせんフェイズ1ではリベリスタの相手にならず、もはや生きているだけという状態のヘビだがエリューションには違いない。ヘビの前に立ち、夏栖斗はトンファーを振りかざし構える! 「っしゃあ! トンファーキック!」 ドゴォオ! あれ? この子今蹴ったよ? トンファーの意味は? 金髪の残念な子に言われたらしいけど、金髪と残念というワードは心当たりがありすぎて不明である。 ともかく、ヘビはその残念なキックによって倒されてしまった。 ●ふるこーす! さんすくみの均衡が崩された、まさにその瞬間であった! ヘビが攻撃を受け意識がさんすくみから逸れたその瞬間、外敵を失ったカエルの反応は早かった。その長い舌を突き出しナメクジを巻き取ると口の中へ放り込まれる。 頬袋を大きく膨らませ、強力な酸がナメクジの身体を溶かしていく……あ、なんかグロい。 案の定それを見たリベリスタの一人が大きな悲鳴をあげる。やっぱり女の子はこういうの苦手だよね。 「な、なんでナメクジなんだ、そんなもん腹に収めるな! 貴様だ、この変態っ!」 ……あ、男の子だった。戦場で目を背けるのは危険だと必死に吐き気に耐えるアウラール。わざわざ凝視しなくてもいいのに。 ――悪いか、俺にだって苦手なものくらいあるんだ! 悪くないです。はい。 ――だけど逃げたりしないぞ、俺は……お兄さんだからな! 繰り広げられるアウラールの脳内劇場。 ――大体ナメクジは誰に断って植木鉢の裏なんかにくっついてんの? 触っちゃったんだよっ! ……ブレイクフィアー。 閑話休題 ナメクジを飲み込み取り込んだカエルはフェイズを2へと進行させる。身体のサイズも更に広がり、今や人の身体よりも大きくなってしまった。 自由になった舌をちろちろと突き出し、その目線は次なる獲物……リベリスタ達へと向けられる。 「おうおう、蛙のくせに人間を食う気だな」 小烏はカラカラと笑い符を取り出した。 「そんじゃ、蛙と鴉はどっちが強いか勝負といくかね」 相槌を打ち、剣を構え走り出したのはアラストール。 「蛙よ、討ち取らせて貰うぞ」 アラストールの目線は討ち取るべきカエル――いや、その腹を見ている。 (腹は柔らかいのでは無いだろうか。そういえばエリューション化した生物は美味になる傾向が強い気がする……) ……その綺麗な顔がよだれで台無しです。 新たな敵の登場に、最初に挑みかかったのは凪沙だ。戦場を狭しと駆け回り、その拳に雷を溜め込んでいく。 「おまたせ。これは初披露だよ!」 凪沙の全身をバネとして放たれた無数の必殺の打撃がカエルの全身をくまなく打ちつける。カエルの腹は思いの他柔らかく、苦痛のうめき声が上がった。 「こいつ打撃に弱いよ! 一気に仕留めちゃおう!」 「んじゃまお任せ!」 ついで飛び出した夏栖斗は炎を纏わらせる。その身体に様々な耐性を持つカエルであるが、後に続く鈴への布石として特殊な攻撃を重ねていく作戦だ。 「カエルちゃんご機嫌だねっ!」 パワーアップもなんのその。トンファーの熱く激しいファイアーパターンがカエルの腹をとらえ焦がした。 水奈の指揮の下、リベリスタ達は一斉に挑みかかる。 「所で、蛙も鶏肉に近い味なのですよね」 アラストールはひとりごち、集中し高めた剣をカエルの腹に強く叩き込む。 飲み込んだナメクジを吐き出すやもとの思いもあったが……そう簡単にはいかない。 小烏も符術で鴉を作り出し啄ばませる――タイミングを合わせ攻撃を重ねていくリベリスタ達。 その中にはこの人の攻撃も混ざっていた。 「って、実は私攻撃するのこれが始めてなんじゃないの?」 幾度も集中を重ねられた魔力の矢を打ち出した直後、水奈はそれに気づき愕然とする。 今まで大切にしてきた始めての相手がカエルなんて――なんだかやるせない気持ちでいっぱい。 積み重ねられた布石は彼女にとってありがたい、自身の本領を引き出す力だ。鈴はニィッと笑みを作り自身の守り刀に黒光を帯びさせた。 「獣退治はあたしの専門分野。そのために磨いた業よ」 どんなに硬い皮膚も、ぬめる表皮も、彼女の業にはかなわない。 忌まわしい呪いに身体を貫かれ絶叫を上げるEビーストに、鈴は冷たい目で吐き捨てた。 「あたしの受けた傷は、こんなもんじゃなかよ」 一方で、より速くと身体のネジを巻き上げていた吾郎の身体を長い舌が巻き取った。 「うぉ!」 予想以上の速さ。身のこなしが自慢の吾郎をもってしても簡単には避けられぬ速度でつかまれ、そのまま木々に叩きつけられた。 痛みはもちろん、長い舌は吾郎の手足を縛り身体の自由を奪っている。 「こっの――」 状況を見極めようと動きを遅らせていたアウラールが舌を切り解かんとするが、舌の粘液が刃を滑らせ守っていた。 動けぬ吾郎の代わりに凪沙、夏栖斗が再び格闘を挑むが一方は避け一方は防ぎ――持ちこたえたカエルは妖しく全身を震わせた。 「っ! なんか来るぞ!」 目の前の異変に夏栖斗が叫び――カエルは全身から油を撒き散らした。 猛毒にして粘状。後ろで控えていた吾郎を除く前衛四名が油を浴び苦痛の悲鳴を上げた。 フェイズ1の段階では毒性だけであったが、フェイズ進行と同時により強化された粘液によって、全員が身体を固められ動きを止める。 「やあ! 服がどろどろだよ!」 凪沙の悲鳴に、しかし夏栖斗もそれどころではない。 「男のべとべととか誰得だよ!」 知らんよ。 本来ならばこの強力な攻撃によって動きを止められ、じわじわとなぶり殺しにされる寸法であったのだろう。だが今回その手はたいした効果を得なかった。なぜなら―― 「おっとやらせないぞ」 「そらシャキっとしろ。蛙なんぞに負けたとあっちゃ格好がつかねぇぞ?」 アウラールと小烏は後方に位置し、範囲の外から仲間の状態を癒していく。 更に傷ついた前衛の身体を水奈は落ち着いて治癒し、戦線を維持させる。 故に攻撃の手は止まらない。故に、決着は近い。 ●ごちそうさま! 「おいカズト、少し激しく動くから隙が出来たら叩き込め!」 先ほどの鬱憤を晴らすとばかりに、吾郎はカエルに飛び掛かるとその身体を踏みつけ、多角的に攻撃を繰り出す。鈍重なカエルの死角をつき、見事連撃を叩き込む! ふらつくカエルに、夏栖斗と凪沙二人の生み出した鋭いかまいたちがその足を切り裂き深く傷つけた。 「鈴ねーさんいってみよーぜ!」 夏栖斗の合図に鈴が再び自身の業を剣に込め始めるが……そうはさせまじとカエルの怒号と共に放たれた猛毒の粘液! 再び前衛の動きを封じ込むと共に、攻撃に対してさほど打たれ強くはない鈴が膝をついてしまった。 回復は間に合わない――水奈は唇を噛むが、傷ついた身体をおして立ち上がる鈴。運命は燃やされた。 「言ったんよ? ……あたしの受けた傷は、こんなもんじゃなか!」 鈴の刀が防衛にまわろうとするカエルの舌を切り捨てた。 「仕上げだ! 一気に叩くぞ!」 アウラールが咆哮を上げ仲間たちの呪縛を解除すると、後方の小烏と水奈も攻撃に回った。 「おらよっ、蛙なんぞ鴉の餌だろ」 「初めての攻撃の次は、初めての止めを狙ってみましょうか」 これはたまらんと深く身構え、跳躍によって距離を取ろうとするカエルの行動は―― 「逃がさん、今日の晩飯」 全身の力を頭部に叩きつけ、身体を張るアラストールによって阻止された……食べるの? アウラールによって体の自由を取り戻した三人が、翼を広げカエルを取り囲む。 いたずらを思いついた子供のように楽しげに笑みを向け合うと、息を合わせてカエルに急降下! 「イチ!」 吾郎の全力の一撃がカエルの身体を浮かし。 「ニーのっ」 夏栖斗がかまいたちでそれを上空へと飛ばすと。 「――サンっ!」 炎を纏った凪沙の鉄拳が、カエルの顔にめり込み叩き落し――地面に大きなカエル型の穴を開けたのだった。 ――山道をやや外れ、中年の登山客が一人周りを見渡す。 山登りには慣れているつもりだったがどうやら道に迷ってしまったらしい。弱ったな―― 「そこを上がれば山道に戻れるよ」 声に振り返ると複数の男女。慌ててお礼を言うと、制服の少女の後を底抜けに明るそうな少年が引き継ぐ。 「いい天気っすねー! 登山楽しんできてね!」 ありがとうと微笑んで、登山客は道を戻っていく。日常へと続く道を。 「おお、うまくいったな」 小烏の言葉に水奈がうなづく。 「もうこの山に危険はないでしょうね」 きっとあの人は楽しく登山ができると思う。誰かを助けたって思うのはリベリスタ冥利に尽きるってもんだよね―― それは夏栖斗の心から思いだ。 「じゃあそろそろ帰ろう……ぜ?」 アウラールの言葉はしりつぼみ。 奥では焚き火がパチパチと音をたて…… ヘビとカエルの肉を焼くアラストールの姿があった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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