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Gremlins


 どろどろとエンジン音が鳴っている。
 一台の車が停まっていた。その青いSUVが正常な停まり方をした訳ではない事は、右前輪の下から紅く尾を引く血痕が語っている。
 フロントガラスには蜘蛛の巣のような罅が刻まれていた。
 しかし、それを刻み込んだ筈の運転者の姿は見えない。
 ただぺちゃりぺちゃりと何かをしゃぶるような音が、エンジンの唸りに紛れて聞こえて来るのみだ。
 車は、その右側面を見る限りは、単なる事故車のように見えただろう。
 ゆえに、その車の更に右後方にもう一つの車が停まっていたとしても。
 負傷者を求めて車を降りたお人よしが居たとしても、それが迂闊であったとは言えまい。
 その車もまた無人だった。こちらは無傷であるにも関わらず、車の前面には赤い血溜まりが広がっていた。
 やはりぺちゃりぺちゃりと、何かをしゃぶるような音がする。
 ――ややあって姿を現したのは、細い腕と細い足、それに膨れ上がった腹を持つ奇妙な生き物だった。
 その額には短い角がある。まばらな長い頭髪に爛々と光る目、そして骨と皮ばかりの髑髏のような頭が、細い首の上には乗っていた。


 ブリーフィングルームを訪れたリベリスタ達は、見慣れない女の姿を見ていた。
 強いウェーブの掛かった、肩を過ぎるほどまでの髪。あまり愉快そうには思えない目の下には薄い隈。
 外見からしてさほど楽しげな内容を語ってくれそうには見えない、女。
 『硝子の城壁』八重垣・泪(nBNE000221)は、黒硝子のような質感の装甲で覆われた左腕を揺らして、リベリスタ達を手招く。
 その手指と唇は、初めての依頼語り、その緊張にかすかに震えていた。
「あまり、大きな声は出せないから。このくらいの距離で失礼するわ」
 女は言う。
「依頼。アザーバイド5体の殲滅。あなた達には至急岡山まで飛んで欲しい。至急とは言っても、移動時間が結構あるわね。だからこの説明に費やす時間程度は誤差の範囲内。多少の準備も出来ると思う」
 標的となるアザーバイドの容姿は、小鬼と呼ぶのが良いだろうか。
 否――最も相応しいのは餓鬼という所だろう、そう泪は言う。
「最近随分鬼が出ているみたいだけれど……その中では随分と小型ね。知能は人間並み、だけどその中でも低目」
 しかし容易い依頼であるとは思わない方が良いだろう。
 アザーバイドは上位チャンネルからやって来るモノ。一部の例外はあれども、総じて強力な存在だ。
 小型であるという事は見た目通り、パワーやタフネスについては大した物ではないのだろうが、スピードとテクニックについてはこの場に集ったリベリスタ達を恐らくは凌駕している。
「あたしはあなた達のデータを把握している訳ではないから、余程自信がある人についてはその限りではないかもしれないけど」
 泪はそう言っていた。
 また、もう一つ注意点がある。これは敵の性格傾向について。
 一意専心と言うのか、盲目とも言える集中力を持ち、一つの行動・標的に対して意識の全てを向ける傾向があるという。
 これは利用も可能だろうが、何も考えないままに接触すれば、他のリベリスタ達がどういった動きをしていようが、相手は全く頓着せずに一人に対して集中攻撃を敢行する恐れがあるという事。
 5体全てに群がられては、耐久力に優れると自負する者でも成す術もなく倒されかねない。
 それなりの作戦を携えて行くのが良いだろうと泪は告げた。
「地形は二車線ほどの曲がりくねった山道。山中にしては、道路は随分と綺麗に舗装されているようね。二台の車が停まっていて犠牲者が3名。あなた達は車の後方から戦場へと進入する事になるでしょう。最短の道を選ぶのであれば」
 敵は一台目の車、青いSUVの車内と左側面。そして二台目の車、白いワゴンの前方に居る。
「左に3体。右に2体。……以上ね。あたしに分かる限りの事は伝えられたと思うわ」
 気を付けて、と泪は言った。あたしの語る依頼で負傷者は出したくないから、との言葉は余計だったが。
「それにしても、どうして……ディメンション・ホールが開いた形跡すら無いのかしら、ね」
 ブリーフィングルームを出るリベリスタの背には、そんな言葉が掛けられていた。



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:RM  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年01月31日(火)23:06
ストーリーテラーのRMです。
個々の敵戦力はそう強力でもありませんが、少々敵数が多めです。
ご注意下さい。

●成功条件
アザーバイド5体の殲滅

●敵数・敵能力
アザーバイド『餓鬼』×5
速度・命中・回避に優れる反面、防御力とHPは低め。
最初に見た相手を執拗に攻撃しようとする傾向がある。
索敵能力も高いようです。現在関わっている対象が無ければ。

爪撃(物近単 高命中)
噛み付き(物近単 連)
切り落とし(物近単 流血に加え、弱体・隙・重圧からランダムで一種)
朧(物近単 速度の半分を攻撃力に追加)

●戦場
とある山道。二車線道路。
車が二台停まっています。

以上
皆様の参加をお待ちしています。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
インヤンマスター
四条・理央(BNE000319)
スターサジタリー
ミュゼーヌ・三条寺(BNE000589)
インヤンマスター
門真 螢衣(BNE001036)
インヤンマスター
土森 美峰(BNE002404)
★MVP
プロアデプト
レイチェル・ガーネット(BNE002439)
マグメイガス
クリスティーナ・カルヴァリン(BNE002878)
スターサジタリー
フィルシーユ・ツヴァイル・ライゼンバッハ(BNE003289)
ダークナイト
ハーケイン・ハーデンベルグ(BNE003488)


 ことり、と骨が置かれる。
 餓鬼は地面に視線を落としていた。もう食えそうな所はない。
 しかし、内燃機関のあげる唸りに紛れ、明らかに異質な咀嚼音は近くから聞こえていた。
 目を遣った餓鬼は、仲間が食らい付いている獲物に未だ幾らかの肉が残っている事を認め、車に飛び乗る。
「ワシ、にも寄越せぇ……」
「久方ぶりの肉よぉ……」
「アァ、自由だ……。我等はモウ、自由だァ」

「全く、つい先日別件で鬼を退治してきたばかりだと言うのに、次から次へと」
 『鋼脚のマスケティア』ミュゼーヌ・三条寺(BNE000589)の口に、白い息は短く流れていた。
 彼女の視線の先、停まったまま、ただならぬ気配を放ち続ける二台の車は、景色から浮き上がるようだ。
「ボクを含め、既に鬼と交戦経験のある人が再び戦うほどに出没数が多い……」
 いったいどんな理由があるんだろうと四条・理央(BNE000319)は言う。
 これは明らかに偶然ではなく、敵を倒した後は確りと辺りを探るべきだと彼女は考えていた。
「多分、何かへの布石、あるいは何かに誘発されたか」
 静かに告げる、『下策士』門真 螢衣(BNE001036)。
「噂では、既に根元を刈り取る部隊が召集されていると……」
「ええ……その話は聞いています」
 『シャドーストライカー』レイチェル・ガーネット(BNE002439)は螢衣の言葉に頷きを返す。
 確かに、出発の間際に進展があったらしき事は聞いていた。だがそれは、単なる同種アザーバイドの大量発生から一歩進んで、敵の正体が僅かに見えかけた程度のものでしかない。
「これで終わり、ではないんでしょうね……」
 今出てきている『鬼』は、水面に浮かんでは弾け、小さな波紋をつくるだけの泡――。
 だが、無視は出来ない。これから何が現れるにせよ、今は眼前の敵を排除する事に全力を尽くすのみ。

 リベリスタ達はふた手に分かれていた。白いワゴン側に居る二体を抑える役を、理央と『捻くれ巫女』土森 美峰(BNE002404)の二人がつとめる。
「鬼退治の話って言ったら、最後に宝を持って帰るってのがお約束なんだが……勿論今回もある、よな?」
 美峰は自分でもそう思ってはいなさそうな笑みで、囁いていた。
「鬼の住処を攻めるなら、期待してもいいんじゃないかと思うけど」
 理央は苦笑する。今回の敵――餓鬼では、金棒どころか腰巻すらもあるかどうか。
「やっぱそっか……」
 溜息を吐く美峰。アークのリベリスタをやる理由を金のためと言い切る彼女は、若干テンションを落としたが、やる気までもは失ってはいない。
 それは単に、危険だから。
 無論のこと敵が。――そして今回の己の役割も。
 二体作った影人の片方をもう一方の班に従わせ、自身は注意深く理央の後方につく。
 餓鬼二体を引き受けるのは理央のほうだ。自分が先に発見されては話にもならないのだから。

 反対側より青いSUVに接近するのは6名である。
 先行するミュゼーヌはナポレオンコートの裾を広げ、後方からついてゆく5人の姿を隠していた。
「面白いわね、偽りの天使が鬼退治、何て随分と洒落てるじゃない」
 皮肉な笑みを浮かべる『殲滅砲台』クリスティーナ・カルヴァリン(BNE002878)。
 『系譜を継ぐ者』ハーケイン・ハーデンベルグ(BNE003488)は相手がアザーバイドと聞き、申し分ないと頷いていた。
「しかも、この地の伝承に名を残すものとは。なるほど、鬼か……」
 つくづく、己の力量不足が恨めしい。前衛職でありながら、その役を果たす事が叶わないとは。
 しかし、噂に聞くアークのリベリスタの実力を間近で拝めるのであればと、ハーケインは笑みを浮かべる。
「まぁフィルとしては、戦いができればそれでいいますですよ♪」
 何処か異質な声音に振り返るハーケイン。
 『FunKelnAlbtraum』フィルシーユ・ツヴァイル・ライゼンバッハ(BNE003289)の顔には笑顔が張り付いている。
 しかし何が奇妙かと云えば、その顔に他の表情が浮かんでいる様が、どうしても想像出来ないのだ。
 バトルマニアか、と彼は結論づけた。しかしそれにしても言い表しきれないものを感じるが。
 その間も、静かにリベリスタ達は準備を整えていた。
 螢衣は周囲へと剣を浮かばせ陣を作り、ミュゼーヌには癒しの加護が与えられ、クリスティーナは詠唱を行い自らの魔力を高めるのだ。
 車を観察していたレイチェルは、囁くようにして言っていた。
「2体が車へ入った……?」
「理央さん、聞いての通りだけれど。そっちに何か変わりは――」
 幻想纏いを用いるクリスティーナだが、彼女の言葉は尻すぼみに消えた。
 そして、彼女は僅かに眉をしかめる。
「気付かれたわ。今すぐ仕掛けて」


 その言葉を聞いた瞬間、理央は弾かれたように駆けた。
 白い車の前にいた餓鬼は『一体』。こちらへ進んで来ようとしていた矮躯に式符・鴉を放ち、着弾までの僅かな間にそのアザーバイドと目が合う。これで当たろうがかわされようがそいつはこちらへ向かって来る筈だ。
「獲物だァ!」
 パーティの誰のものでもない叫びが上がったのはそのすぐ後の事であった。
 白い車の前から左へ進み、右側を進むリベリスタ達を発見した餓鬼は鮮やかなオレンジへと目掛け疾駆する。
「あはは♪」
 フィルシーユは笑い、左右の砲、VerderbenZweiKanoneを振り上げた。
 接敵まではおよそ10秒弱。僅かに狙いをつける暇はある。彼女の指が引鉄の遊びを取り去った。
「作戦通りとはならず、ね。……いいわ、この程度のアクシデント」
 後方の騒ぎには気付いていたが、そちらに気を向ける訳にはいかない。ミュゼーヌは理央とほぼ同じタイミングで前進していた。
 車の中に光る目が三対見える。この角度で見えるのは自分ひとりの筈だ。
 恐らく注目を集める事には成功しただろう。
「ご機嫌よう、小鬼さん達。新しい狩りの時間よ。屠られるのは……貴方達の方だけど」
 告げるミュゼーヌ。言葉は通じた筈である。
 だが、意味が分かる事はその内容に関心を払う事とイコールではないとばかりに、餓鬼達は歓声をあげて彼女へと殺到する。
「この一手で倒れてくれれば楽なのですが……」
 言いながら螢衣は陰陽・星儀を放った。先頭を走る餓鬼を占い、その姿には不吉な影が落ちる。
 白い車の側へと、つまり戦場の中心へと進み、神気閃光を放つレイチェル。そしてハーケインの放つ暗黒と、ミュゼーヌのハニーコムガトリングが駆け寄る餓鬼の群れを出迎えていた。

「もう一体!」
 理央は自分へ向かう鬼をすり抜けるように、車の前を通り過ぎる。
 美峰は影人を従わせながらその後を追っていた。同時に守護結界を張り、彼女達の防御力を高める。
 視線の先には後衛へと突進する餓鬼の背。あれを留めなければ――!
「理央、後ろだ!」
 美峰の警告。危うく間に合った古びた盾での防御に、餓鬼の爪は滑り恨めしげな呻きをあげる。
「幾ら速かろうが、面で磨り潰せば関係ありませんです。当たれば只では済みませんですよ♪」
 哄笑のように響く銃声。だが、餓鬼の姿は銃火が刻みたてた路上から、一瞬にして消え失せていた。
 笑ったまま、軽く首を傾げ、そして上を見上げるフィルシーユ。
 其処に在る筈の太陽は無かった。その場所に居たのは異形の影一つである。
 向けた両腕に飛び乗って、喉笛に喰らい付く餓鬼。
 高く血を沫かせながら、フィルシーユは独楽のように数秒回って倒れる。
「……後衛とはいえ、油断をしたものだ」
 見届けたハーケインは歯噛みをしていた。ミュゼーヌと理央、その二人以外はどうあっても発見されてはいけないのだ。
 身を隠す事に気を払うのは最低限であったと言えよう。
 だが、それでも、防御面に関してリベリスタ達の行動はほぼ完璧であった筈だ。
 多少状況が変わった所で、敵はきっちりと押さえ込まれている。この時点の形としては、概ね当初の作戦通り。いや、右の二人が合流に近い場所で戦える分、むしろより好都合とさえ言えようか。
 一名の戦闘不能を許した事は矢張り、失策か。それともどうしようもなかったのか。
 今は考えるべきではないとレイチェルは前を向く。
「Buenas tardes、哀れな異邦人さん。早々で悪いのだけれど退去頂けるかしら?」
 クリスティーナはミュゼーヌへと向かう餓鬼達のうち、1体の前へと立ち塞がっていた。
 餓鬼は彼女の後ろを――つまりミュゼーヌを気にして彼女に対しては関心を向けようとせず、それは若干癪に障る態度ではあったが、獣であるとでも思えば腹を立てるまでもないか。
 それに、この異邦人と彼女は、ただ潰し合うだけの間柄なのだから。
「貴方達の餓え、この殲滅砲台が終わらせてあげる――ただし、私の終わらせ方は少しばかり荒っぽいわよ」
 車を透視し、全ての敵を視認したクリスティーナが放つチェインライトニング。
 雷は拡散しながら鬼達を打ち、数体が感電にその身を震わせる。
「流石に、当たりは浅いですか」
 目深に被ったフードの奥から油断なく戦場に視線を這わせ、レイチェル。
「後は耐え切れるかどうか。一体ずつ落として参りましょう」
 螢衣はそう言っていた。術手袋、アメノコヤネをその身に引き寄せながら。


「痛い痛い豆を食らわせてあげる!」
 張られる弾幕はさながら蜂の襲来の如く。シリンダーを開く毎に真鍮の鈍い光が宙を舞う。
 銃弾に削られながらも餓鬼の突進は止まらなかった。振るわれる爪に裂かれ、ミュゼーヌは僅かに顔をしかめる。
 ダメージ自体はさほどでもない、が、その一撃は彼女の機械化された足を狙うものだ。
 態勢が崩され、隙が生まれる。そこに叩き込まれる次の一撃も、浅いが速く視認困難な角度から放たれる巧手である。
 幸いにしてその一撃は影人が引き受けていたが、そう何度もまともに食らうべきではない一撃だなどという事は言われるまでもない。
「確かに、これが五体掛かりだったら……」
 そして、このような連携は理央の側でも同様である。
 彼女の場合は上腕を切り裂かれ、武器を握る手から力が抜けかけていた。
「おん・ころころせんだり・まとげいに・そわか」
「頼むぜ……持ってくれよな」
 螢衣と美峰はそれぞれに傷癒術を用いる。美峰の言葉はどちらかと言えば自分のエネルギーに対して向いていただろうか。
 どの程度影人を召喚すべきか決めかねる。あれは非常に重いのだ。
「こいつが一番傷が深い!」
 レイチェルは先に螢衣の星儀が当たった餓鬼へとピンポイントを放っていた。
 練られた気糸は骨と皮ばかりの胸部を強かに叩き、餓鬼は地面へと叩き付けられる。
「まず一体、か。……流石に良い手際だ」
 それが起き上がってこない事を確認し、ハーケインは言った。
 彼の放つ暗黒は自身に反動による苦痛を齎しながらも、それ以上の損害を鬼達に刻み込む。
 再び周囲を見回し、全ての敵を意識の上に乗せるクリスティーナ。
「ターゲットロック。畏れ敬い慈悲を乞いなさい。殲滅砲台からは逃げられない」
 チェインライトニングは4体の鬼へと迅り、更に一体の鬼が膝をつく。

「下がっていいぜ、一匹は私が引き受ける!」
 理央の損害を危険と判断し、一体の餓鬼に割り込みをかける美峰。
「ありがとう、でも大丈夫」
 理央は自身に傷癒術を用いながら、レイチェルを見る。
 それは彼女が詠唱を行うのと同時。福音が響き、傷を負っている者達が癒されてゆく。
「今出来得る最良の一手で、勝利に貢献するとしようか」
 ミュゼーヌが抑える残りの一体に、ハーケインは暗黒の瘴気を放っていた。
 その一撃で脚を砕かれ、地面へと転がる餓鬼。だがそれはまだ息がある。暴れるようにアスファルトを掻きながら起き上がろうとする餓鬼を、ミュゼーヌはつめたく見下ろしている。
「跪きなさい、餓鬼。地べたを這うのがお似合いよ!」
 魔落の鉄槌。突き下ろされた鋼鉄の踵は、餓鬼の頭部を血柘榴と変えていた。
「さぁ……あらもう、残りはたったの二体ね」
 爪に裂かれた肩口を払って、クリスティーナは言う。
 ワゴン車の上へと飛べば、現在自分達の置かれている状況が分かっているのだろうか、血に酔ったかのように理央へと爪を振り回す餓鬼二体の姿が良く見えた。
「喰わせろォ!」
「肉ゥ!」
 だらだらと涎を垂らしながら、引き裂いた式符をすら口に運び、それは食らおうとしている。
「哀れ、とは思いませんね」
 螢衣は告げた。厳しい表情のまま。そして餓鬼一体の不運を占う。
「おまえの行くては、計都星と羅睺星の陰に閉ざされています。待つのは破滅だけです」
 影に纏いつかれた餓鬼は、がくりと膝を落としていた。符を口に咥えたまま息絶える。
「……地獄が口を開けて待っているわ、貴方達がまた、落とされて来るのを」
 そして呟きを零しながらミュゼーヌは駆け、魔落の鉄槌を振り下ろした。

 ぐしゃりという音。
 絶命を確かめるまでもなく、身を翻すクリスティーナ。
 唇の端に笑みを浮かべながら、彼女は車の上より降りていた。
「esto ha terminado――殲滅完了。さ、折角岡山まで来たんだし甘味でも食べて帰りましょ」
「吉備団子、奢ってくださいね」
 ふ、と微笑う螢衣。どこか良い所はあるだろうかと言い合う女性陣を他所に、ハーケインは5体の死体を見下ろしている。
「人の血肉の味を覚えた異形よ、これが最後の晩餐になったな」
 言い捨てる。さしたる感慨もなく。
 だが、これら鬼達が何故、どうやってこうも大量に現れるのかについては興味が尽きぬ所である。
 理央は辺りを探り、空間の歪み、その残滓らしき物を見つけ出していた。
 見覚えはあるだろうか……近しいのは、矢張り封印の類だが。
 それ以上は分からず、彼女はその場所を地図に書き記す。
「さて、このオカヤマの地で何が起こっているのだろうか……」
 ハーケインはその姿を見ながら、知らずそう呟いていた。



■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 さて、お疲れ様でした。

 全体的に巧いですね、というか堅いですね。
 抑え役の4名が非常に良い仕事をされていたと思います。

 MVPは一番プレに隙が無かったと思われるこの方に。