●『龍炎』かく語れり 「はっ! あの女はリベリスタには救えねぇよ!」 牢獄の中、一人のフィクサードが吐露した。 溜飲が下った、とばかりに大笑いをして語りだす。 「何せアイツの父親はなぁ……」 ●『砂上の楼閣』 『砂上の楼閣』と呼ばれるフィクサードがいる。 父親の身柄を人質にとられ、後宮シンヤ率いるフィクサード軍団に協力していた女性である。 後宮シンヤは戦いの中倒れ、父親を拘束していたフィクサードはアークに捕らえられている。父親を助ける障害は、もはやなかった。 「お父さん……」 「アキナ……か?」 父娘の抱擁。全ては丸く収まりハッピーエンド。さぁ、エンディングソングが鳴り響き、手を取り合って光に向かう二人。 そうなれば、どれだけよかっただろう。二人の前途は、けして明るいものではなかった。 「私など、見捨てて一人で逃げればよかったのに」 「やめてよお父さん! 私はお父さんを見捨てない。たった一人の家族だから!」 『砂の楼閣』――砂小原アキナと呼ばれる女性は、涙を流し父の服を掴む。 「例えお父さんがノーフェイスでも!」 世界に選ばれなかった肉親の胸に顔をうずめて、彼女は涙する。 それは神秘の世界ではよくある話。 世界に愛されなかったノーフェイスと、それを守ろうとするフィクサードの逃避行。 ●リベリスタ 「おまえたち仕事だ。割と緊急の」 『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)は集まったリベリスタたちに向かって言う。 「三ツ池公園での戦いで逃亡したフィクサードがノーフェイスを連れて逃亡中。これを退治してきてほしい」 伸暁がモニターを操作して、『万華鏡』が予知したノーフェイスとフィクサードの写真を写す。五十を超えただろう初老の男と、どこかその男の物陰を宿す女性。 「男の方がノーフェイスだ。フェーズは2。昨今の崩界の影響もあり、近日中にフェーズが上がることが予知される。そうなるまえに倒してくれ。クール&スピーディに。 攻撃手段は周囲にいるものを拳で殴ってくるだけだが、触れた部分から生命と精神を奪い取るみたいだ。注意してくれ」 モニターは女性の方を映し出す。同時に小さな赤い宝玉の写真も映し出される。 「こっちがフィクサード。この宝玉(アーティファクト)で砂を操る。攻撃力が高いというよりは、バッドステータスで戦場を引っ掻き回すタイプだ。防御力も高く鬱陶しいが、数で押せば勝てない相手じゃない」 伸暁はデータをリベリスタの幻想纏いに転送しながら、説明を続ける。 「ノーフェイスとフィクサードは父娘だ。ノーフェイスを攻撃しようとすれば、フィクサードは必死にそれを止めようとするだろう。 だが逆に、フィクサードの行動原理はノーフェイスを守ることだ。ノーフェイスを倒せば、矛を収めるだろう」 伸暁は意図してクールに説明を続ける。情に流されて情報を伝え損ねれば危険に陥るのはリベリスタたちなのだ。フォーチュナとして、それは許されない。 「目的はノーフェイスを倒すことだ。いろいろ思うところもあるだろうが、それだけは忘れないでくれよ」 ●『砂上の楼閣』 「アキナ……私を捨ててお前は……」 「いや! 私は、諦めない。お父さんを見捨てない!」 「……そうか。ならお父さんももう少しがんばるよ」 「そうだよ。諦めなければ希望は繋がる。ねぇ聞いて。この前、アークのリベリスタにたすけてもらったの。すごく強くて優しい人たちだった」 思い出す。あの時助けてくれた人たちの顔を。見ず知らずのフィクサードを助けてくれた彼らを。 「……私、あの人たちを騙したんだ。本当のことを知ったら、きっと怒ってくるよね」 「アキナ……それはお前が悪いんじゃないよ」 「わかってる。でも、ね。辛いの」 流れる涙を止める術はない。それでも逃亡の足は止まらない。 娘は父を思うがゆえに悪に身をそめ。 父は娘を思うがゆえに世界の敵を続ける。 互いが互いのことを思いながら、互いが互いの不幸の源になっていた。 それは神秘の世界ではよくある話。 世界に愛されなかったノーフェイスと、それを守ろうとするフィクサードの逃避行。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年01月28日(土)23:55 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●『龍炎』かく語れり 「はっ! あの女はリベリスタには救えねぇよ!」 牢獄の中、一人のフィクサードが吐露した。 「アイツはノーフェイスの父親を助けるために体を売るような女だぜ。セイギノミカタさんには汚らわしいだろうよ。 まぁ、精々楽しませてもらったがな……おい? な、なんだよその拳はぐぼはぁ!」 「卑賎な野良犬風情が何かぬかしておったな。あの娘を救うのは誰か? 考えるまでもなかろう」 『百獣百魔の王』降魔 刃紅郎(BNE002093)は汚らわしいものを殴った拳をハンカチで拭きながら、牢を出た。 ●リベリスタとフィクサードとノーフェイス 山道の先には二つの人影。一人のフィクサードと一人のノーフェイス。 「リベリスタ、新城拓真。砂小原元治、アキナだな。両名共に投降して欲しい」 『誰が為の力』新城・拓真(BNE000644)は目の前の二人に向けて言う。その瞳は闇の先にある二人の表情まで見えていた。硬直し、恐怖し――そして決意を決めた表情が。 「元治……あなたが、ノーフェイスだという事は解っている」 「投降すれば、お父さんの命は助かりますか?」 答えたのはアキナと呼ばれたフィクサードだった。 「……いいや」 「なら、私たちは投降しません」 答えなどわかっていた。それでも。それでもどこかで希望を持っていたのかもしれない。 「大切な人を守るのは当然のこと。だから、あたしも守らせてもらうよ」 フィクサードから奪ったチェーンソーを手に『スターチスの鉤爪』蘭・羽音(BNE001477)が二人に向き直る。車の中で既に気合を入れている。戦う準備は万端だ。その瞳に迷いはない。……ない、はずだ。 「大切な人がいる、この世界を」 「ああ、かかってくるがいい」 元治は羽音の言葉を受けて、表情を緩ませる。笑みの形をしたその表情には、どれだけの思いがあるのだろうか? 自らを殺すというものを許したのか、認めたのか、飽いたのか、哂ったのか。リベリスタには判断がつかなかった。 わかる事はただ一つ。彼らはリベリスタを排してでも生きようとする。神秘の牙が、牙を向く。 それに怖じけるリベリスタは、ここにはいない。それぞれがそれぞれの覚悟を抱き、ここに立っているのだ。 ●神秘の世界ではよくある話 最初に動いたのは『鉄拳令嬢』大御堂 彩花(BNE000609)だ。流れる水の様に自然に構え、そしてアキナに接近する。 「家族がノーフェイスとなって逃げるだなんて、よくある話。故にリベリスタとしてはよく関わり続けてきた話ですわ」 彩花は陵華女学園の制服を翻し、拳を振るう。その表情と言葉の如く冷たい拳が、アキナに叩き込まれる。 「……っ! だから、殺すんですか」 アキナは腕を十字に構えてこれを塞ぐ。凍てつく氷を払いながら彩花に問い返す。 「はい。よくある話です。だからこそ容赦などしません。できるはずがありません」 彼女達だけを特別扱いして見逃せば、自ら汚してきた自らの手を否定することになる。ノーフェイスは許さない。例えそれに害意がなくとも。冷徹な表情。そして鋭い瞳でアキナを見てきっぱりと言い放つ。 「そもそも、御存じなかったかしら? 世界を救う事と人を救う事は決して同義ではありませんわ」 それは世界の為。悪い部分を切り捨てる帝王学の賜物。例えそこに悲劇が待っているとわかっていても、大のために小を捨てる覚悟が必要なのだ。手を汚せといわれれば汚そう。血に塗れろといわれれば喜んでこの身を捧げよう。それがリベリスタという名の意味なのだ。 彩花に続くようにアキナに糸が絡みつく。物理的な法則を無視し、空中で軌跡を変えて生き物のようにアキナに迫る糸。 「動きを封じさせてもらいます」 『夜翔け鳩』犬束・うさぎ(BNE000189)が放った糸が、アキナに絡みつく。腕に絡まった糸はその動きを拘束し、アキナの行動を制限した。 「元治さんを庇うつもりでしょう?」 「当たり前です。お父さんを傷つけさせはしません」 「それが一番困りますからね。すみませんが、あなたの動きを封じさせてもらいますよ」 うさぎは『万華鏡』で二人の能力を知り、その腕で行動している。相手の作戦を封殺し、手早く戦闘を終わらせる。それは平和主義ゆえの戦闘面での無駄の排除。その内心が震えていることを悟られる前に、戦いを終わらせる。 「家族であればこそ、君は守りたいのだろう。それは、平時であれば誇れる事だ」 「だったら……!」 「しかし、その思いが父であるあの人を苦しませ、悩ませているのも解っているだろう……っ!」 アキナの懐に飛び込んだ拓真が二本のブロードソードを振るう。交差するように振るわれる二本の剣が、アキナの体を吹き飛ばす。ダメージはアキナが纏った砂の加護でやわらいではいるだろうが、その顔には絶望が写る。 「お父さん……!」 父の元に戻ろうとするアキナ。その間に『息をする記憶』ヘルマン・バルシュミーデ(BNE000166) と『メイド・ザ・ヘッジホッグ』三島・五月(BNE002662)が割り込んだ。 「失礼。しばしお相手をさせていただきます」 「全力で、いきます」 彩花も含め三人の壁を突破するには、アキナの攻撃力は心許ない。アキナ自身もそれを理解しているのか、絶望の色が濃くなった。 「アキナ、大丈夫だ。すぐに向かう!」 元治は自分をブロックしているうさぎからエネルギーを吸い取る。虚脱感からふらつく足。その虚脱感を優しい風が癒した。 「多少の傷は本官に任せるであります」 うさぎの傷を癒した『ギャロップスピナー』麗葉・ノア(BNE001116)はびしっと敬礼する。戦闘区域から少しはなれた場所で支援に徹する構えだ。 アキナは絡まった位置を振りほどき、うさぎの敵意をこちらに向ける為に十字の光を放つ。その場から動かず遠距離に攻撃できるうさぎが元治のブロックを外すことがないのはわかっているが、それでも父に向かう攻撃は減らしたい。 「お父さんは傷つけさせない。あなたたちが正しいとしても」 互いに譲れないものがある。だからこそ、フィクサードもリベリスタも攻撃の手は止まらない。 ●砂小原元治 「あたし達は……世界を脅かす存在の、貴方だけを殺しに来た」 元治を押さえている羽音が口を開く。稲妻の残滓が体を焼くが、その痛みよりも心の方が痛い。 「父親として……本当に娘のことを、思うのなら……あたし達に、任せて欲しいの」 「任せる?」 「アキナのこと。アキナの、より良い未来を願うのなら……」 昔、一人の少女はエリューションに両親を殺された。復讐に燃える少女はやがて全てのエリューションを憎むようになる。 それは孤独ゆえの行為だったのだろう。しかしその心はアークで多くの人と交わり、大切な人と出会うことで薄れていった。だから。 「アキナを、ひとりぼっちにさせたくないの。昔のあたしみたいに、ね」 元治の手が一瞬止まる。握った手が一瞬開かれ、そして握られた。娘を思う言葉に心揺さぶられながら、何かを振り切るように言葉を吐く。 「黙って殺されるわけには、いかない。この包囲網を突破して、逃げさせてもらう」 「……どうして逃げているんですか? 今の元治様が逃げるのはアキナ様を死に近づけることなのですよ」 五月が追い討ちをかけるように言葉を重ねる。 「否定はしないよ。私の存在がアキナを追い込んでいることぐらいわかっている」 「何故子の命を危険な目に合わせる選択を取るんですか。娘のために逃げる? それで肝心の娘が死んでもいいんですか?」 「違う。私は危険だとか迷惑だとか思ってない! リベリスタなんかに殺されはしない!」 反論はアキナのほうから来た。子が親を思う心。五月にはその気持ちが痛いほど理解できる。たとえどんな親であっても親は親なのだ。愛せないはずがない。 「親なら、親なら。命を放り捨ててでも子のために生を捧げるべきなのに!」 五月はアキナを無視して元治に言葉を投げかける。それは説得ではない。ただ思いをぶちまけただけだ。心の中にある親に対する思い。愛に似たその思いが、娘を死地に向かわせる元治を攻め立てていた。 その責め苦を元治は黙って聞いている。反論はない。あろうはずがない。全て事実なのだから。 「言い返す言葉はないのか? 砂小原元治」 拓真が風の刃を放ちながら元治に問いかける。 「ない。全て事実だ」 「そう思うなら、大人しく投降してくれないか?」 「それは遠まわしに私に命を捨てろといっているのだよ」 「解ってる、残酷な事を貴方に言ってる事は!」 拓真は奥歯を強く噛み締め、元治を見た。 剣が重い。攻撃をためらうわけではないが、拓真は絡みつくようなを感じていた。戦いに全力を振るうことができない。この剣は本当に正しい場所にむいているのか? リベリスタの正義を疑うつもりはない。だけど、けれど。 「けれど、舞台の幕を引く役は──父と娘、二人が行うべきなんじゃないのか! こんな戦いなんかじゃなくだ……!」 それでも戦いを止めるわけにはいかない。最善の幕引きを選べないのなら、拓真のいう『こんな戦い』を続けるしかないのだ。 「貴方父親でしょう?」 拳を振るう元治に、正面からうさぎが話しかける。 「ノーフェイスとか世界の敵とか言う前に彼女の親でしょう? 生きるの死ぬの自分の事言うより先に泣いてる娘泣き止ませなさいよ」 「あ……」 元治の視線がアキナのほうを向く。三人のリベリスタを突破しようと必死になっている娘の表情は……確かに泣いていた。 「……私達には出来ません。全く楠木さんの言う通り。私達に彼女は救えない」 ならアキナを救えるのは誰だ? 「救えるのは貴方だけだ。貴方の本音と言葉だ」 うさぎの言葉が深く突き刺さる。 そんなことはいまさら言われるまでもない言葉なのに。なのに深く突き刺さる。 「正面から向き合えっつってるんです。未だ生きてるんだ。出来るでしょうが」 ノーフェイスの瞳から、一筋の涙が流れる。滲んだ視界で娘のほうを見た。 ●砂小原アキナ 「どいてください! お願いですから……!」 『砂上の楼閣』砂小原アキナの称号には二つの意味がある。アーティファクト効果による砂使いという意味と、言葉どおり彼女単体では酷く脆いということだ。 防御力と体力があるが火力不足。鈍重ゆえに相手の攻撃をまともに受けてしまう。ゆえに攻撃はクリーンヒットし、痺れ、凍らされる。 ヘルマン、五月の拳の衝撃が彼女の体を襲う。振動は彼女の砂の守りを突破して彼女自身を直接揺さぶり、痺れさせる。それに耐えたとしても行動を遅らせていた彩花の拳がアキナを凍らせる。うさぎの糸もその手足を封じ、動きを封殺していた。 彼女の周りを守る砂の結界は、 「無駄だ。斯様な守り、王の前では無意味と知れ」 刃紅郎の獅子王「煌」が気合とともに吹き飛ばす。 「っ! 私はどうなってもいいから、お父さんを傷つけないで!」 「……うるせい! 黙って聞いてりゃぎゃぁぎゃぁと! 手前が一人だけ不幸みてェな面しよって! 娘が生きてる内に父親が死ぬなんて珍しい話じゃねェですよ! 今側にいるだけまだマシだろうが!」 叫ぶアキナにノアが叫び返す。その反論に感情を逆撫でされたのかアキナが応じた。 「あなたに何がわかるっていうんですか!」 「まだアンタ達は幸運って事ですよ! ちゃんと話し合う時間があるじゃァないですか。ああ、正直羨ましいね。こっちは神秘も何も知らなかったのに私の見てないトコでいきなりドカンで終わりだったよ!」 ノアの父親はナイトメア・ダウンの余波で死亡している。だからこそ父親がまだいるアキナが羨ましくあり――同時に救いたくもある。死が避けれないのなら、せめて後悔させない為に。 「……何も残されないで突然居なくなられて、後から必死で掻き集めるような生き方は辛ェですよ」 それは誰の事を指しているのだろうか。ノアはアキナの瞳を見た。そんな生き方は辛いのだ。今ならまだ、避けることができる。 「そんなこと、そんなことを言われても……!」 ノアの言葉は理解できる。それでもアキナは諦めない。ただ父を守るために必死になって手を尽くそうとする。 ヘルマンはそんなアキナに無言で攻撃を加えていた。意図して口をつむぎ、謝りそうになる自分を律する。ごめんなさい、といえば少しは気が楽になるだろう。だけどそれだけは、絶対だめだ。 ヘルマンは思う。我々が間違っているワケではないし、アキナが間違っているわけでもない。誰も正しい。 (だから貴女は絶対に悪ではない。もちろん元治さんも、絶対に悪なんかじゃない) 記憶を失ってから四年。たった四年の経験だけど、これだけは間違いないと胸を張って確信できる。顔を揚げて、ヘルマンはアキナに語りかけた。 「私たちが憎いですか? 父親を殺そうとする私たちが」 「憎い……? あなたたちの方が正しいんでしょう? そんなこと思うのは逆恨みです」 「いいえ。わたくしたちは絶対的な善ではない。しかたがないと納得しないでほしい。悲しんで怒って恨んで、ゆっくりと受け入れて欲しい」 「……え?」 「大事な人に生きていて欲しいってわがままは……あなたがたは、すごく尊い」 彼女はフィクサードで、世界の敵だ。愛する父親の為に世界に弓引くフィクサード。だから敬意を表して拳を振るおう。 ヘルマンの拳が、アキナの肩を穿った。 ●親娘 戦いはリベリスタ側が圧倒していた。 アキナを分断し、動きを封じている限りはアキナが戦場を引っ掻き回すことはない。ゆえにリベリスタのペースは乱れず、元治へのダメージを着実に積み重ねていた。 元治がいくらフェーズ2のノーフェイスとはいえ、八人のリベリスタによる猛攻を裁ききれるはずもない。リベリスタから生命力を吸いながら耐えているが、いずれは限界が来るだろう。 「皆、矛を収めよ」 戦いの趨勢は見えた。それを確信し、刃紅郎がリベリスタたちの攻撃を制した。突然の攻撃停止に、砂小原親娘は息絶え絶えながら疑問符を浮かべる。 「強く望み、諦めを幾ら踏破したとて……繋がらぬ希望もある。かくも残酷な現実を前に、貴様に残された選択肢を我が提示する」 刃紅郎は元治に近づく。 「砂小原元治。貴様の『父親』としての最後の務めだ。己の娘、砂小原アキナに望む未来を貴様の口から伝えろ。 愛する者に背負わせた全ての重荷を取り去り……想いを遺し、そして死ね」 刃紅郎は納剣して残酷な一言を言い放った。他のリベリスタたちもその意図を察したのか、元治とアキナの間を空けた。 「礼は言わない」 元治はそれだけ言って、まだ体の痺れの抜けないアキナに近づく。その頬をなでて、 「アキナ。お前は生きるんだ」 その言葉に首を振るアキナ。娘をしっかりと抱きしめ、父親は想いを告げる。 「私のことを覚えてくれるおまえが生きてることは、私が生きていることと同じだ。私の分まで生きて、楽しんで、悲しんで、生きてくれ。 ここで別れても、私たちは親娘(つながってるん)だ」 元治は抱擁を解き、リベリスタのほうに歩いていく。 アキナはただ拳を握っていた。父の最後を看取ろうと握った拳で涙を拭いていた。 そしてリベリスタは、ノーフェイスを討ち取った。 「……本官の父が言っておりました。警察官の仕事は半分は最初から負け戦だと。 なぜなら、犯人を捕まえても事件で傷ついた人の心は元に戻らないから、と」 戦いの後、倒れた元治とアキナを見ながらノアはため息をついた。心の傷は消えない。アキナは今日のことを背負って生きていくしかないのだ。 それでもその傷は思ったよりは大きくないのかもしれない。ノアは父娘の最後の抱擁を思い出す。今回は上手く負け戦をやれたかもしれない。 「怨んでいいよ」 羽音は父の死のショックで動けないアキナに近づき、告げる。 「けれど、未来には絶望しないで。大切な人を失っても……貴女の全てが、終わるわけじゃない」 元治もそれを願ったはずだ。生きてれば、きっといいことがある。 「……帰るとこないのなら……アークへ、おいでよ」 「……考える時間を……ください」 無慈悲に引き裂かれても文句の言えない父娘の仲を、リベリスタたちは最後まで考慮して闘ってくれた。信用と言うは小さな感情だが、それでもアキナは親の仇と憎む気にはならなかった。 「どうあれ、フィクサードはアークに連行ですから都合がいいです」 彩花は最後まで冷徹に任務に徹し、ガントレッドを幻想纏いの中に直す。抵抗なくアキナは縛についた。 「ヘルマン、帰るぞー!」 「は……はい。今いきますよ」 遠くを見つめるヘルマンの声は、泣きじゃくった後なのか、震えていた。 大御堂重機械工業株式会社の一室。 リベリスタの『仕事』を終えた彩花は誰もいない部屋で、リベリスタという心の仮面を外す。 あふれる感情が冷徹な表情を溶かし、彩花の顔を―― |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|