●崩れる世界の片隅で 黒く、荊を纏い、聳え立つ塔。 鎮座する王の顔は未だ誰も知らず。 廃墟の島を覆う荊はまたその棘を伸ばす。 雷鳴。雨。 痛みに噎び泣く様に。 歪んで噎び泣く様に。 荊の塔を護るのは、嗚咽を漏らす茨の壁。 ●攻城戦・2 「そんな訳で、軍艦島攻城戦其之弐――ですぞ、皆々様!」 そう言って事務椅子をくるんと回し『歪曲芸師』名古屋・T・メルクリィ(nBNE000209)がリベリスタ達へと向いた。 「サテ……とある軍艦島に居座ってしまった非常に強力なアザーバイド『歪みの王』の討伐に向けて、前回の作戦では砦の門番たる『痛みの騎士』『歪みの騎士』の討伐を行って頂き、無事に成功致しました」 言い終えると同時にメルクリィが操作したモニターには、巨大な塔を堅牢に囲み守る茨の黒い城壁が。 「この塔は『痛みの塔』。歪みの王が造り出した王城にしてアザーバイド、とでも言いましょうか。 歪みの王はこの中に居るのですが、詳細は未だ不明……前回でも説明致しましたが、この塔を護る城壁アザーバイド『噎び泣く荊壁』のジャミングによって中まで視えないんですよ。 この噎び泣く荊壁は門番達の力によって強力な結界を張っておりましたが、その結界も今やありません。 皆々様には今回、噎び泣く荊壁を討伐して頂きますぞ! 門番の次はVS城壁、ですな。 あ、そうそうついでに……前回の任務にて持ち帰って下さった荊の欠片。アレを解析してみたんですが、どうやらこれらは全て歪みの王が作り出したもので構造的にはほぼ同一でして。 つまり、騎士も城塞も塔も別固体のアザーバイドでいて同一個体、といった感じでしょうかね」 ではエネミーデータについて。 「アザーバイド『噎び泣く荊壁』。痛みの塔を護る城壁で御座います。 これがある限り塔には一切のダメージが入りませんっていうか、そもそも触る事すら出来ませんぞ! ぐるっとまるっと覆い尽してますんで。 トゲトゲなその見た目通り触るだけでブスっとダメージ入りますぞ。稀にショックや出血も伴う場合がありますんで、お気付けを。 それから城壁なんでその場からは動きません。動けません。ですがその分、火力防御力は共に特筆モノですぞ! 更に広範囲遠距離攻撃を持ちますので、動かないから遠くに居りゃ安全だぜ~って事はありえないと思って下さいね。 お気を付け下さいという彼の言葉に頷けば、次に注意点について念を押す声音で言ってくる。 「皆々様の任務は『噎び泣く荊壁の討伐』。壁を無事討伐出来たからって勝手に痛みの塔に入ったり近寄ったりしちゃ絶対に駄目ですぞ! 攻撃するのも止めといた方が良いでしょう、反撃だーってもんのすごい攻撃くらうかもしれませんし。 本当、何が起こるか全く予想が付きません。好奇心や冒険心も分かりますが……命大事に、ですぞ!」 任務が終われば速やかに撤退、という事なのだろう。送迎については前回同様、船で行ってくれるようだ。釘を刺す言葉にしっかり頷き返す。無茶は禁物である。 「では次に場所について」 そしてモニターに映ったのは件の軍艦島――痛みの塔を中心に廃墟は吹っ飛ばされ、仄明るく輝く黒い荊に覆い尽されている。お陰で視界は明るく良好だが…… 「ハイ、この其処彼処を包む荊。当然触るだけでブスッとダメージ入りますぞ! 飛べると便利でしょうな。 それ以外に場所について説明する事は特に御座いません。そして以上で説明もお終いです」 ニッコリ、メルクリィが凶相を笑ませて皆を見渡した。 「長く厳しい戦いになる事でしょう。ですが……皆々様ならきっときっと大丈夫! 応援しとりますぞ、フフ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ガンマ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2012年02月08日(水)22:26 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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●出陣 空から降り注ぐ大量の雨が容赦なくリベリスタの身体を打ち続けていた。 時折、不穏な気配を孕んだ雷雲から轟く稲妻の唸りが聞こえてくる。 「門番の次は、茨の壁……ね。まだまだ先は、長いけれど……気合、入れて、進まないと……」 一歩ずつ前に、が大事よ……と『微睡みの眠り姫』氷雨・那雪(BNE000463)は寝ぼけ眼で遥かにて仄輝く塔を見上げ、浅く息を吸って吐いた。 「ここまできたら、絶対に負けられないの――意地でも勝って、皆で帰るのよ」 伏せた目を上げれば、コンセントレーション。卓越した脳内電気に那雪の紫氷なる瞳が凛々しく輝いた。偶には本気を出さねばならぬ。 しかし、だ。 「流石にこれだけの豪雨だと、視界が安定しないな」 ざんざと降り来る雨に眼鏡を外し、拭きつつ溜息。まぁ、戦闘に支障はないだろうが。直後に鳴り響いた落雷。その轟音にビックリして思わず肩を跳ね上げたのは『息をする記憶』ヘルマン・バルシュミーデ(BNE000166)だった。 「うーん、でっかいですね怖いですね、正直これは逃げ出したくなりますね」 震える腕を擦りながら思う。何でも壁の癖に滅茶苦茶強いとか。この中に何があるんだろうと考えるだけで、もう、恥ずかしい話だけれども、足が竦んでしまう。 「ううう、でもここで頑張らないと。うん、よし、やるぞー! おー!」 エイエイオーと拳を掲げるズブ濡れヘルマンの傍ら、傘を差した『怪人Q』百舌鳥 九十九(BNE001407)はフムと彼方のアザーバイドを見遣っていた。 「竜やゴーレムと戦った事もありますが、城壁とも戦う事になるとは、思ってもいませんでしたな」 まあ、相手が何であろうと撃ち砕くのみ。傘から愛用のショットガンに持ち換え、射手としての感覚を研ぎ澄ませる。 「茨の向こうのお城にはお姫様がいて、硬い茨を頑張って取り除いた王子と結ばれる……ってお伽噺の世界にはあるよねー」 私の王子様(おじさま)はいつ現れるのかなぁ、なんて『おじさま好きな少女』アリステア・ショーゼット(BNE000313)はアンニュイな溜息。しかしハッと我に帰れば首をぶぶんと振って、 「いけないいけない。お仕事頑張るぞ!」 分厚いグリモアールを小さなその手に持ち、開くと共に翼の呪文。それが仲間達へ柔らかな羽を与えて行く中、更に眩く辺りを満たし聖なる護と厳然たる戦意を与えたのは『Steam dynamo Ⅸ』シルキィ・スチーマー(BNE001706)によるクロスジハードであった。 「触れる者すべて拒む茨の壁か。厄介なもんだな……でも、ま、こいつを除けば本丸への足がかりになるんた、しっかりやらせてもらうぜ!」 不敵に笑うや防御用工具[BullsEye]を手の中でくるんと回し、体内にて生成されるエネルギーを光に変えて辺りを照らし渡した。 「動かない大きな的にありったけの銃弾を叩きこむ簡単なお仕事です……ってわけでもなさそうね……」 『雇われ遊撃少女』宮代・久嶺(BNE002940)は足元に手広がる不気味な荊に顔を顰める。刺さったら痛いなんてもんじゃなさそうだ。 「火で燃やそうにもこの雨じゃねぇ……そのための雨なのかしら」 暗澹の空を見上げてみる。そんな久嶺は雨対策に雨合羽、「雨水で見づらいなんて困るしね」と銃に拘りがある事もありライフルのスコープには撥水加工、ついでに羽にも撥水処理。水を吸うと重いのだ。重いと凝るのだ。 「門番に続いて今度は壁。ガードが堅くて結構なことだよね」 まあ、猛々しいにも程がある壁だけど。金属製トンファーAbsolute FIREを構えて『覇界闘士』御厨・夏栖斗(BNE000004)は好戦的に口角を持ち上げた。立ちふさがる壁がでかけりゃでかいほど燃えるってもんだぜ。 「んじゃま前哨戦その2、気合入れていきますか!」 カン、とトンファーが搗ち合う音が鳴ると共に鼓舞の声。戦意は十二分。その溌剌とした声に『闇狩人』四門 零二(BNE001044)もまた薄く微笑みを浮かべた。視線は鋭く彼方を見据えて。 痛みと歪みを統べながら、その身を鎧うは嗚咽を漏らす城壁。 先の騎士達と合わせて、それがこのアザーバイドの本質というならば……一体、何を意味するのか? 「フ……闘争の中でしか相手を解せぬオレが、いま考えすぎても埒も開かないか」 荊の光とシルキィの発光に輝く刃を構えて、アリステアの翼を広げて。 「さぁ、作戦開始だ」 ●迎撃VS突撃! 敵意を悟った荊の壁が不気味に蠢き、呻る様な音を軋み上げていた。 (アザーバイドとわかってても壁を壊すって悪い事っぽくて気が進まないなぁ) そうも言ってられないのだけれど。力一杯頑張ろう――『ガントレット』設楽 悠里(BNE001610)は純白の篭手Gauntlet of Borderline 弐式を握り締めるや、翼を翻して先陣を切る! そんな彼と並走し――グンと追い抜き、重厚にして質実剛健なる戦太刀を構えたのは空を裂き駆ける『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)、金の髪を靡かせて集中を重ねながら次の瞬間には噎び泣く荊壁の目の前。抜き放つ一閃。居合。研ぎ澄ませた一撃に三千無双の澱み無き斬撃を込めて。同時に彼女の身体も切り裂かれるが、舞姫の掌から脳に伝わるは確かな手応え。 ダメージはちゃんと入った……だが、その名の通り『城塞』。堅い、とんでもなく堅い。反撃に振るわれた荊を武者大袖で受け流しながら跳び下がる。時を同じくして舞姫が攻めた個所へ雷神の武舞を荊壁に叩き込んだ悠里もまた同じ感想に至った。なんと堅固な。 「わ、わ、ちょ、飛ぶの初めてなんですけどうおおこれなにこれ」 「うっすヘルマン大丈夫かー?」 「とっても新感覚ッ」 初めての飛行感覚に戸惑うヘルマン、からから笑う夏栖斗が続いて城壁に挑みかかった。先に攻撃した二人からその堅固さを知らされるが、自分達にとっては問題無い。息を吸い込み胆に力を込め、破滅の気を脚へ。トンファーへ。 (生きてるってことは、意志があるんじゃないかなあ) 詰まって行く距離。高速でスローモー。空を駆け、ヘルマンは思う。 (中にいるのはこの茨にとってのご主人様なのかもしれません) だってこんなにしっかり守ってる。 「でもね、守って覆って隠して、正直それってあんまり、ご主人様のためにならないって思いません? なーんかむかつくんですよね、この壁!」 夏栖斗と息を合わせ、思い切り叩き込む豪撃。土砕掌。内部破壊の一撃は如何に相手が堅かろうが護りに優れていようが一切関係なく微塵の容赦もない。代わりに荊で自分達も傷付くが――安いものだ、これぐらい。肌に咲いた赤い花は夜の黒い雨粒が洗い流してくれる。 「おしゃ! ガンガン攻めてこーぜ!!」 夏栖斗の声に応と答え、前衛陣は武器を構え直した――攻撃に削られ、そこへまた覆いかぶさる荊へと続いて着弾したのは最後衛の九十九が放った高速の弾丸。 「まさに威容という光景ですな。怪人の私を差し置いて、こんなに存在感を発揮するとは……許せませんな!」 怪人は再度照準を合わせる。が、刹那に彼へと襲い掛かったのは巨大な荊の槍。採掘機の様に凶悪な荊が高速回転しているそれが九十九の身体を直撃した――ように見えた、が。 「ふぉふぉふぉ、怪人は不死身なのです……残像ですよ!」 それは残像、華麗なまでの回避技能。これでも回避には多少自信があるのですよ、と再度ショットガンの引き金を引きながら怪人は仮面の下で不敵に笑んだ。今の技を誘発出来れば、きっと味方の被害も減るだろう。 作戦通り、互いが直線状にならぬよう布陣していた為に今の槍で被害を受けた者は零に等しい――思いの外攻撃範囲が大きく掠めた者はいるが、問題無い。 「何だか黒くて堅そうなものが濡れて光ってるよ……不気味だなぁ……」 体内魔力を活性化させたアリステアは癒しの祝詞を薄紅色の唇で紡ぐ。祈りは優しい福音となって、清らかな旋律と共に仲間の傷を癒していく。自分の役割は回復、痛いの痛いの飛んで行け! 「……ッ ふ、」 そんなアリステアの前方、放たれた荊の棘を零二は剣で薙ぎ払った。破片が幾つかその皮膚を裂いて、雨雫と共に赤が伝う。視界の先では息を合わせて一点集中攻撃を繰り出している前衛陣と、それを撥ね退けんと猛迎撃する荊の壁。 此度の敵は堅牢であると同時に狂おしい程に苛烈な攻め手も持っている。攻め手が十全に力を発揮するには癒やし手たるアリステアを――その歌声を途切れさせるわけにはいかない。 「なら、オレはこの身を盾としよう」 皆を支える歌を、その謡い手たる少女を、護り続けよう。 例えこの身を砕かれようとも、魂と運命が燃え尽きる迄。 相対する。王を護る城壁と、姫を護る守護戦士。 「相手も動かず、こっちもほぼベタ足で射撃……撃ち合いって訳ね、燃えてくるわ!」 降りしきる雨の中、久嶺は撥水加工を施したスコープを覗き込む。視界良好。ターゲットロック。 「貴方の茨がアタシを貫くか、アタシの銃弾が貴方を穿つか――勝負よ!」 引き金を引く。放つ。絶対殺意の恐るべき魔弾。それはうねり襲い掛かって来る荊の合間を縫い、舞姫と悠里が剣と拳で抉った箇所を執拗に射撃する。反撃の槍、その様にフムと那雪は指先で眼鏡を押し上げた。 「さすがに、硬い……な。だが、同じ箇所を攻められ続ければ如何に硬かろうがいつかは瓦解するもの、そうだろう?」 くるんと手の中で回す刹華氷月。指先にて刃を挟んだ。仄かにヒンヤリ。雨に滑らないよう気を付けて、狙いを定めて―― 「私の糸で砕いてみせるさ……!」 投擲、怜悧な刃が浅く壁に突き刺さった瞬間。凛と透き通った気糸が水晶の刃から溢れて凄まじい猛撃を叩き込んだ。氷姫の頬笑み。冷たく鋭い驚異の一撃。悲鳴の様な蠢き、忌々しげに軋む音、削れた分を他の場所の茨で覆おうとするのを夏栖斗の土砕掌が邪魔をする。九十九の弾丸がぶち当る。 布陣に注意し、支援手を徹底的に守り、息を合わせるリベリスタ。護られている者を除いた誰も彼もが血だらけの傷だらけだが、その中に未だ倒れた者はいない。堅実に、それと壁の堅さ故に持久戦とならざるを得ないが、今だってアリステアの柔らかな歌とシルキィが重ねる心に一切の不安を抱かず思い切り戦う事が出来た。 久嶺は再度スコープを覗き込み狙いを合わせようと――して、ふと違和感を感じる。雷の音。さっきからヤケに聞こえる事ないか? 斯くして。 スコープから顔を上げた久嶺が「逃げなさい」と叫んだのと、壁が叫んだのは、ほぼ同時。 「――!」 凄まじい雷に視界が染まる。泣き叫ぶ様な音、壁から放たれ降り注ぐ魔弾。リベリスタの悲鳴すらも飲み込んで。 しかし――最中、それでも真っ直ぐに夏栖斗は悠里と吶喊する。雷の雨にその脚が臆し留まる事は無い。 振り被る。黒いトンファー、白い拳。 「頑丈さだけが取り柄だからな、入り口で倒れるなんてかっこ悪いにも程があるしっ!」 土を砕く一撃、雷を纏う一撃。目を合わさずとも声を掛け合わずとも完璧なコンビネーション。炎の様に、熱く、激しく。 「まだだ……仲間が戦い続ける限り、みっともなく倒れているわけにはいかない」 降り止んだ雷、痛みを堪えた息を吐き那雪は凛と前を見澄ましている。 「とは言え……さすがに、痛い……な。大丈夫か……?」 顔を僅かに顰め、雷撃に焼かれた腕を振って背に庇ったシルキィを振り返った。まだいけるか、そう言おうとした瞬間にボフッと。シルキィの豊満な胸の中。 「ありがとよ、助かったぜ!!」 シルキィはわっしわっしと那雪の頭を撫でくり撫でくり最高の感謝、しかし貫通攻撃の危険性からすぐに離れた。その間息が止まっていた為に大きく息を吐いた那雪にウインク――さて。充電係の本分を見せてやろう。 「おら! それくらいでへこたれるリベリスタじゃないだろが! 全力でサポートしてやるからよ、全開で暴れて来な!」 重ねる心、インスタントチャージ。立ち向かう勇気を。 「すまない……もう少し、頑張ってくれ」 那雪もアリステアへ同じ技。溢れる心の力。アリステアの目の前には雷に焼かれても尚悠然と立り自分を護る零二の姿。絶対に倒れるものか、頑張れ私――歌おう、皆の為に! 「皆の怪我も状態異常も、全部治すよ。痛い思いなんてさせない。私はそのためにここにいるの!」 回復役という立場上、庇って貰う事に申し訳なさを感じつつも。それでも、全力で自分に出来る事を。 癒えていく傷に零二は自信に満ちた笑みを城壁に遣る。剣を突き付ける。 「……オマエにも聞こえているか?近き彼方より来たりし者よ。これがオレ達だ……!」 絶対に倒れない。フェイトを灼き尽くしてでも、膝を屈するつもりはない。 「オレ達は、この戦いに臨むときにも、いまこのときにも、そして闘いのあとにも、躊躇いの吐息も、嗚咽を漏らすものも――誰一人、居はしない! ただ、未来を目指し駆け抜けるのみ!!」 一人で越えられぬ壁ならば、皆で超える。そういう事さ――襲い掛かって来た巨大な槍を真っ正面から一閃の剣で両断して。 「壁に血が流れているかは分かりませんが、私の銃弾は人も物も区別なく撃ち貫きますぞ」 九十九も同じく、集中を重ねてショットガンの引き金に指を乗せた。撃った。貫通の魔弾、それに並走するのは久嶺の正確無比な弾丸。 「城壁とは何時かは超えられる物、それが今日であっただけの話ですな」 「ごめんなさいね? 穴が空くまで銃弾叩き込んでやるわ!」 二弾は動きの鈍って来た城壁に容赦無く鋭く突き刺さる。荊の破片が飛び散る――ヘルマンの視界の先には幻影の武舞にて荊を抉り出した舞姫の剣閃が見えた。走り出す。シルキィが込めてくれた精神力に戦気に変えて漲らせ、アリステアが与えてくれた翼を翻して。 「棘が痛かろうが血まみれになろうがフェイトが削れようが、やるって決めたことはやってやりますとも!」 襲い来る荊に体中に傷を作りながら。それでも、それでも。 「そこだ! 粉砕しちまえ!」 シルキィの声。支えてくれる仲間がいるなら、何度でも、どんな目に遭っても。 「この壁、誠意をもって蹴り破らせていただきます!」 込める破壊の気、仲間が抉り出した城塞の罅へ。 強烈な蹴撃の瞬間――荊の壁は噎び泣く様な音を立てて、崩壊した。 ●凱旋の為の撤退 崩壊した城壁、遂に露わになった荊の塔。その扉は重く厳重にリベリスタ達を睥睨していた。 「あの禍々しい塔の主はどんな奴か……気になる所ね」 久嶺は暗視を用いて塔を見遣る。が……中までは分からない。零二も彼女に並び神経を研ぎ澄ませた。 (撤退迄間がない、が――) 感情探査。塔に座するだろう主の感情。城壁を崩した後ならばその一端でも感じ取れるかもしれない。 その魂を支配するものは何なのか。この戦いの本質は、何と見るべきか。 『痛みに歪んで、崩れ去れ。』 「―― ッ !」 それは心臓を直に掴まれる様な。何とも形容し難い、思わず飛び下がってしまう程の感情。汗が噴き出す。心臓が撥ねている。息が荒くなっている。呼吸がし難い、吐き戻したい。口元を手で覆い、大丈夫かと不安げに訊いてきた久嶺に何とか笑みを向けた。大丈夫だ、と。 「この先が惜しいのは同じだけど、今は退くのが先だぜ」 そんな零二にシルキィがぺちこんとビンタ。因みに武器で手が塞がってるから、使ったのはアレである。ぼいーん。 それに何と見えぬ苦笑を洩らし、しかし心へ雪崩れ込んで来たヘドロの様なモノによる嫌悪感が紛れたのは事実で……ありがとよ、とだけ零二は零して歩き出す。 いずれ会おう、『王』よ。 ●船内 「もげろ」 「さて。オプショナルミッション。カズトをカズコにするか、だが……。その前に一口味わっていいか?」 「もげろ」 「そうだね。僕は様々な観点から見ても去勢するのがベスト、ではなくてもベターだと思うね」 「もげろ」 舞姫、シルキィ、悠里の視線の先。目一杯離れた夏栖斗。大切なモノを守るために最大限の努力。 「きょせー……何の話かしら」 「去勢ってなんですか? 勢いを削ぐんですか?」 「去勢ってなぁに?」 そしてザ・純粋チーム(久嶺、ヘルマン、アリステア)はキョトーンとそれらを見守っている。 「設楽悠里は眼鏡割れろ! 舞ちゃんのあほ!」 「去勢よりも、私は脳への処置を勧めますかのう……いえ、唯の独り言が」 「今回こそ、相談で決着、なのかしら……」 しみじみ九十九、きょとんと那雪。零二はフームと考え込んだ。 「うむ……良く考えると、いきなり去勢はあまりにも可哀想だよね。とりあえずだね、まず剃髪するところから始めるのは如何だろうか。うん、それがいいかな、高校球児のように、爽やかな御厨……いいじゃないか、うんうん。去勢はそれからでも遅くない」 そんなこんなで、三高平行きの船は盛り上がる。 しばらくして夏栖斗の悲鳴が聞こえたとかなんとか。 『了』 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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