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血を求む鬼狩


「く……貴様っ……!」
「ほう。致命傷を与えたはずですが、僅かに急所を外れましたか」
 深手を負い膝を突きながらも、鋭く眼前の男を睨み付けるのは、高原だ。
 だが血に濡れた刃を握る男が致命傷と言い切るほど、彼の傷は深くその身を切り裂かれていた。
「噂に聞いた妖刀を貰いにきただけのつもりでしたが、なるほど。その怒りと復讐心に満ちた目は、私を愉しませてくれそうだ」
 それでも倒れない高原を目の当たりにし、クックッと笑う男の傍には、すでに事切れた女性の姿。
 妖刀『鬼狩』――。
 斬れば斬るほどに切れ味を増す代わりに、持ち主を破滅へと導くと噂された刀。
 この刀を求めた男の手で彼女はその命を奪われ、高原も深い傷を負ってしまっている。
 後は高原を斬り、鬼狩を奪えば男の目的は果たされる――はずだった。
「良いでしょう。そのキミの強い気迫に免じて、剣は諦めますかねぇ……フフフ」
「な、に……?」
 しかし刃を収めて踵を返した男に、もはや高原の命を今すぐどうこうしようと言うつもりはないらしい。
「その剣はしばらくキミに預けておきますよ。持ち主を破滅に導く代わりに強さを与える刃で、私に復讐なんていかがです?」
「俺は貴様を追うぞ……地の果てまでもな……!」
「ええ、どうぞ頑張ってください。破滅するキミの姿を、私は見たいのですから」
 逆に求めた妖刀を自身に託し、嘲笑いなら去るその姿をしっかりと目に焼き付けつつ、高原の意識は深遠へと沈んでいく。
「加奈、すま、ん……」
 守りきれなかった大切な人。
 太刀打ちすら出来なかった、憎むべき敵。
 燃え上がる復讐心を胸に滾らせ、彼はこの瞬間――エリューションとして、覚醒した。

「――夢か」
 起き上がった高原は、忘れる事の出来ない悪夢を思い返しながら、立てかけた鬼狩へと視線を向ける。
 彼の復讐は、仇敵を討ち果たすまで決して終わる事はない。
「旦那、お目覚めですかい」
「どうした……?」
 そんな折、眠りから覚めた高原の前に一人の男が姿を現した。
「いえ、実はヤツの関係者らしい連中がいる場所を突き止めたんですよ」
 この男の集める情報が、アークと出会うまでの高原にとっては貴重な情報源だった。
「アークの連中よりも早いな。今度は外れではないと信じるぞ……で、場所はどこだ?」
「今度はちゃんと裏を取ったんで大丈夫、そいつ等の溜まってる埠頭への地図を用意してますぜ。しかし、アークの連中と会ったんですかい?」
 アークという単語に興味を示した男に先日の顛末を軽く話した後、男の手から地図を受け取った高原は続けて言う。
「……奴等が調べている間も、こちらはこちらで調べるさ。この復讐は、俺とお前の2人で成すべき事だからな……」
「そうですよ。私は情報を得て奴等を追い、旦那はその剣を振って奴等を斬る。私等は復讐の仲間なんですから」
「だな。お前が俺を救い、復讐への道を繋いでくれた」
 感慨深げに語る高原の姿を見るに、この男を相当信頼しているという事はわかる。
 深手を負った彼を助け、復讐の手助けをするこの男も、同じ相手を追っているようであった。
「では行くか。お前は引き続き情報を集めておいてくれ」
「了解です。その鬼狩の切れ味を増すためにも、フィクサードは斬らなきゃなりませんからね」
「あぁ、でなければ……ヤツには勝てん」
 そんな言葉を最後に交わし、2人は別れた。

「それにしてもアークですか、厄介なのが混ざってきたものですねぇ」
 高原の去った後、情報屋はやれやれとため息をつき呟く。
 フィクサードを止める役割を担うリベリスタを擁する組織、アーク。
 その存在は復讐を成そうとする彼等にとっては、一番厄介な存在なのかもしれない。

 夜の埠頭。
「あの人にここに集まれと言われたが、何かあるのかね?」
「さぁな、あの人の考える事は俺達にゃわからん」
 情報屋の情報の通り、埠頭には数人のフィクサードが集まっていた。
 口々に言う『あの人』の指示でここに集まったらしいが、彼等は知らない。
 自分達に襲い掛かるフィクサード狩りが、しばらくすればここへ訪れる事を――。


「やはりフィクサード狩りの高原さんは、こちらの情報を待たずに動いているようですね」
 リベリスタ達を迎え入れた『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)はそう言い、訪れたリベリスタ達を見渡していく。
「先日に協力する姿勢を見せてはいましたが、やはりこちらを完全には信用していない……ということでしょう」
 ビジネスライクな関係だという事で協力しようという呼びかけに応じはしたものの、それを信じて待ち続ける事は無かったようだ。

 仇の男を捜す。
 そしてその男を斬れるだけの強さを得るため、鬼狩を振るう。

 この2つの行動が最終的には『仇を討つ』事に直結しているのだから、それは仕方の無い話なのかもしれない。
「アークの方で探している相手を見つける事が出来れば良いんですが……」
 そう言った和泉の表情を見れば、有力な情報が得られていない事は容易にわかる。
 それでも情報は少しずつでも手には入るもの。
「ですが今回狙われるフィクサード達が、僅かでも有力な情報を持っているという事はほぼ間違いないと思います」
 万華鏡を通して見た事を考えればと、和泉は自信ありげに言葉を紡いだ。
 後は高原が埠頭へ来る前にフィクサード達を倒せば、鬼狩を振らせずに済むだろう。
「問題なのは、どう急いでも皆さんが戦い始めてから30秒ほどすると、高原さんが到着してしまう事でしょうか」
「時間はほぼ無い……ってことか」
「そうなります。そしてフィクサード達はコンテナバースに集まっているので、車を寄せて時間を稼ぐことも出来ません」
 和泉の言葉を受けたリベリスタの問いに、接触までの時間を短縮する方法はないと和泉は言う。
 活動時間外のコンテナバースは閉鎖されているため、内部に集まるフィクサード達へと接触するためには徒歩で移動するしかない。
「ですので、可能な限り迅速に倒す必要があります。もうひとつ問題があるとすれば……」
 紙面に簡単に戦場の見取り図を描き、和泉が告げるのはこの戦場が孕んでいる大きな問題。
「コンテナが縦に一直線に並んでいる上に、3段積み上げられているんです」
 攻撃をするならば、一方向から。挟撃やコンテナの上に登る作戦も考えられるが、それを行うためには大きなタイムロスを覚悟しなければならないだろう。
 そしてリベリスタが最短で接触できる側とは逆の方向から、高原がやってくる。
「後方に回ろうとした場合、高原さんが先にフィクサードに接触すると考えて間違いはないですね」
 言うなれば、高原と挟撃を行う形といったところだろうか。
 しかし鬼狩を振るう彼が戦闘に参加した場合、鬼狩の効果が発揮されてしまう事となる。
「色々と問題はありますが……皆さんなら、上手くやってのけられると信じています」
 手に入れたフィクサード達の情報を記した資料を手渡し、戦場へと向かうリベリスタ達を見送る和泉。
 彼女は待つ。
 戦いに赴いた彼等が、きっと吉報を引っさげて帰ってくると信じて――。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:雪乃静流  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年02月02日(木)00:39
雪乃です、あけましておめでとうございます。
半月ほど休息を取りましたが、今年は今回より始動します、よろしくお願いしますね。

今回の戦場はコンテナバースとなります。
2時間に1度、警備員の巡回があるため光源は確保されていますが、今回は警備員のいない時間帯の戦闘となり、警備員は戦場に現れません。

成功条件は高原以外のフィクサードを倒す事。
高原の倒すフィクサードの数は成否判定に影響します。

コンテナは縦80mほど、高さ8mほどの状態に積み上げられています。
それが6mの間隔で平行に2つ並んでいるため、主戦場は縦に長いと考えてください。
フィクサード達は中央より10mほどリベリスタ到達側に近い位置に集まっており、リベリスタからの接近はしやすい方と思われます。

フィクサード詳細
葛城
論理戦闘者の称号を持つプロアデプトで、チームリーダーです。
ピンポイント・スペシャリティ、J・エクスプロージョンによる攻撃を得意としています。
精神無効、戦闘指揮LV2を有しています。

柴木
スペシャルギアの称号を持つソードミラージュ、チームのサブリーダーです。
多重残幻剣、ソードエアリアルを駆使し、フィクサード中随一の素早さを誇ります。
ESPを所持し、不意打ちは通用しません。

部下
A、B、C、Dと4人います、なぜか呼称もA、B、C、Dです。
全員がクロスイージスで魔落の鉄槌、ブレイクフィアーを使用することが出来ます。


フィクサード狩り:高原
フィクサード狩り
デュエリストの称号を持ったデュランダルです。
戦鬼烈風陣、リミットオフ、疾風居合い斬り、オーララッシュで烈火のごとき攻撃を繰り出します。
身体能力が高いために命中と回避が高く、手にしたアーティファクトの性能で攻撃力も強烈です。

高原は4ターン目から戦闘に参戦します。
前回の結果を受け、敵味方の識別はしてくれます。

主敵となる6人のフィクサードは考えて動ける人間です。
どう動くかを予測する事も重要かもしれません。
なお、先日のシナリオから数回に及んで記していますが、雪乃のシナリオでは『双方が互いを認識した』時点からが戦闘フェイズです。
不意打ち成功の場合のみ準備ターンとして1ターン追加する形ですので、ご注意ください。

それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
プロアデプト
オーウェン・ロザイク(BNE000638)
ソードミラージュ
上沢 翔太(BNE000943)
インヤンマスター
土森 美峰(BNE002404)
ソードミラージュ
ルカルカ・アンダーテイカー(BNE002495)
ソードミラージュ
リセリア・フォルン(BNE002511)
覇界闘士
焔 優希(BNE002561)
クロスイージス
神谷 要(BNE002861)
ダークナイト
一条・玄弥(BNE003422)

●埠頭に集まる3つの勢力
 夜の闇を遮る無数の照明に照らされながらも、人気のない埠頭は静寂に包まれている。
 夜明けと共に活動を始める時まで、静寂が破られる事はない。それが日常のはず――だった。
 しかし今日、この日だけはその日常は破られる事となる。

 コンテナバースに陣取り、『あの人』に指示されるがままに集まったフィクサード達。
 そのフィクサード達を狙い、静かに歩を進めるフィクサード狩りの男、高原・征士郎。
「時間は少ない、急ぐぞ」
 そして『Dr.Faker』オーウェン・ロザイク(BNE000638)を始めとし、コンテナバースへと急ぐアークのリベリスタ。
 3つの勢力が集まり戦いを目前に控えているせいだろうか。
 埠頭を流れる冷たい空気には、静けさの中に確かな緊張感すら感じる事が出来る。
「鬼狩を振らせないためにも、迅速にやらないとな。土森、携帯は通じるか?」
「いけるぜ、今コールしてる」
 リベリスタの目的は『紅蓮の意思』焔 優希(BNE002561)の言葉の通り『鬼狩を振らせない』ことであり、そのため彼等は迅速に戦場に到着する必要があった。
 走りながら彼の言葉に応えた『捻くれ巫女』土森 美峰(BNE002404)は携帯電話を片手に、相手が電話に出る時を待つ。
 その電話はリベリスタにとっては、保険。
「高原征士郎の携帯でいいかな? 私はアークの土森美峰ってんだけど──」
 そして電話の相手――高原が彼女のコールを受けたらしい。
「お前が今狙ってるフィクサードは、情報を持ってる可能性が高い。だから深手を負わせたり、殺したりしないようして欲しいんだ」
 わずかでも高原が鬼狩を振らないようにするため、先に情報を伝えて攻撃を踏み止まらせたい。
 矢継早に言いたい事を伝えた美峰に対しての返答次第では、リベリスタ達は余裕を持って戦いに臨む事が出来るだろう。
(高原が始末対象になるか、ここで助くかはリベリスタ様のがんばり次第でさぁ、くけけっ)
 しかしその電話の最中、一条・玄弥(BNE003422)は奇怪な笑みを浮かべていた。
 彼にとって大事なのは金であり、事の顛末などどうでも良いといったところだろうか。
「どうでした?」
 しばらくの後、美峰が携帯をポケットに仕舞いこんだのを確認し、結果を尋ねたのは『蒼銀』リセリア・フォルン(BNE002511)だ。
「殺しはしないが鬼狩は振る、だとさ」
「急がなければならないな」
 既にコンテナバースへと急いで走ってはいるものの、美峰の言葉に『やる気のない男』上沢 翔太(BNE000943)は僅かに焦る表情を見せる。
 高原と顔を合わせるのがこれで2度目となる翔太は、その返答では保険にすらならない事は十分に理解できたらしい。

『鬼狩はエリューションに深手を負わせれば切れ味を増し、所有者のフェイトを喰らう』

 脳裏に過ぎるのは、すでに得ていた鬼狩の情報。
 例え殺さなくても鬼狩を振るというのであれば、所持者である高原が破滅へと近づく事に変わりはない。
「あそこかしらね?」
「地図と一致しますね」
 そんな折、『シュレディンガーの羊』ルカルカ・アンダーテイカー(BNE002495)と『不屈』神谷 要(BNE002861)の言葉に視線を移せば、目的地はすでに目前だった。
 この戦闘において重要なのは、フィクサード達が高原の餌食になる事を避けなければならない点だ。
「後は任せたぞ」
 そのために後ろに回りこむべく、オーウェンが物質透過で静かに地に沈んでいく。
 後は敵を引き寄せる事が出来れば、高原に攻撃をさせずに戦いを済ませる事も出来るだろう。

●鬼狩に狙われし者達
「なんだ、手前等?」
 コンテナの陰から姿を現した7人のリベリスタを目にし、フィクサードの1人が声をかける。
 当のフィクサード達も目的を告げられずに集められただけなのだから、ここで『あの人の指示で来た』とでも言えば、苦もなく接近して戦闘に持ち込む事は出来ただろう。
「軟弱者の寄せ集めとは貴様等のことか」
 しかし優希の口から飛び出したのは、挑発の言葉だった。
「何だとぉ!?」
 部下と思われる4人がその挑発に乗る姿に、優希だけでなく他の誰もが引き寄せられる――と思った事は間違いない。
「落ち着け、相手は7人だ。無闇に突っ込めば袋叩きにされるぞ」
「ここは下がるべきだ、態勢を整える必要がある」
 唯一の誤算は、葛城と柴木が冷静だった事だろうか。
(7人でなく4人くらいだったなら、下がらずに乗ってきたかもしれませんね……)
 要がそう考えるように、視覚的に勝てそうな雰囲気だったら、警戒される事もなかったかもしれない。
「後ろにも援軍がいるぜ。逃げても無駄だ」
 それでも下がる足を止めようという翔太の一言で、フィクサード達の足はピタリと止まった。
「柴木さん、どうするんで?」
「本気で後ろに伏せているなら、わざわざ言うまいよ」
 もちろんその言葉は『ハッタリ』でもあり、高原が来ることを考えれば『事実』でもあったのだが、柴木はそれをハッタリだと判断したようだ。
 部下にそう言いリベリスタの方に集中した目を向けたところを見ると、これ以上下がるつもりはないとも判断出来る。
「皆さん、いきますよ」
「じゃ、ルカの魅力みせにいくわ。うっふーん♪」
 高原が姿を現すまで、もう時間もないとリセリアが構えたのを機に、次々と攻撃態勢を取るリベリスタ達。
 その中でもルカルカは何やらセクシーにポーズを決めたりしているが、フィクサード達は決してドキッとしてはいないはずだ。
「銭稼ぎにいきますかねぇ」
 最後に構えた玄弥にしてみれば、この戦いすらも銭のため。
 だが最も効率よく稼ごうとするなら、最も良い結果を出さねばならない現実がある――。

 最も良い結果を出すための最初のステップは、戦意を向けると言う点では成功したものの、早めに決着をつけたいリベリスタにとっては少々厳しい状況でもあった。
 中央に陣取られてしまっては、攻めていかざるをえないからだ。
「段取り通りにはいかないか」
「しょうがないさ、こうなったら正攻法でいくしかない」
 優希と翔太が、前に出るべく手にした武器を構え頷きあう。
 距離的にはおよそリベリスタが20m地点、フィクサードが40m地点といったところか。
「後ろは取れないのね……一撃を受ける覚悟も必要かしら」
「その分、敵はこちらに意識を集中してくれますよ」
 接近しての攻撃手段しか持たないルカルカとリセリア、そして優希は、敵にとって良い的になる可能性もあった。
 この3人が遠くを攻撃できる手段を有していたなら、戦況はもう少し楽になっていただろう。
「時間もわずかしかありません。ここは行くしかないです」
「やれるだけやってやろう、援護するぜ」
 とはいえ要の言う通り、高原が来るまでもう時間はない事もわかっている。
 ここからは本当に迅速にやらなければならないと敵に目掛け突っ込んでいく翔太達を援護するべく、まず最初に攻撃を仕掛けたのは美峰だ。
「なんだこりゃ!?」
 呪力の雨に曝されたフィクサード達のある者は体が凍結し、そうでなくてもそれなりの傷を負う。
 後はこのまま攻撃をし続ければ勝てない相手ではないのだが、じわじわと相手の体力を削って戦う時間を長引かせるつもりなど毛頭ない。
「てめぇ等は金の成る木なんでさぁ!」
 それは玄弥の放った暗黒剣がフィクサード達に襲い掛かった事からも容易にわかる。
 しかしその攻撃が、玄弥の命運を分けた。
「ぬるい攻撃だな!」
「お前達は前に突っ込め! 葛城、まずは奴からいくぞ!」
 美峰の放った氷雨が的確に相手を撃ち抜いた一方で、玄弥の暗黒剣は避けやすく威力も劣っていた事から、倒しやすいと判断されてしまったのだ。
「突撃!」
 一斉に吼え、前に突っ込んできた翔太や優希達目掛けて突っ込んでいく4人のクロスイージス達。
「あいつ等が前、俺達が後ろか」
 いかにフィクサード達の中でもっとも素早い葛城とて、戦術指揮に長けた芝木の指示の大切さはわかっている。
 彼の指示をそう判断した葛城は気糸を後ろにいる美峰と玄弥に張り巡らせると、
「けけっ、直撃は嫌でさぁ」
 等といいながら回避を試みる玄弥ではあったが、その気糸は彼を逃がしはしなかった。
「まずは1人!」
 気糸に撃ち貫かれたところを、コンテナを蹴り強襲した柴木によって倒れる玄弥。
「一筋縄ではいかないようですね」
 前に出ながらも全身のエネルギーを防御に回していた要は、突っ込んできたクロスイージスの攻撃を防ぎきると、横目でチラリと倒れた玄弥を見る。
 フィクサード達が後ろに下がって態勢を整えていた事が、戦局をわずかに悪化させていた。
(このままでは高原さんが来てしまいます!)
 状況を省みれば、リセリアがそれを心配するのも無理はない。高原が姿を現すまで、もう20秒ほどしかないのだ。

 その時、地面からゆっくりと姿を現した者がいた。
「挟撃は失敗か?」
 フィクサード達がもっと前に出てさえいたならば、現れたオーウェンは相手の後ろを取ることが出来ていたのは間違いない。
 しかし彼の現れたのは、互いの前衛達が刃を交える真っ只中。
 丁度、今この時も、クロスイージス達の攻撃が要や優希に叩き込まれる瞬間だった。
「ごめんね、失敗したの」
「でも、これで突破は出来ます!」
 舞うような剣撃で対峙するクロスイージスの1人を魅了したルカルカの謝罪の言葉と、リセリアの自信に満ちた言葉にオーウェンが葛城達へと目を移せば、
「危なかったな、前に出ていたら挟まれていたぞ」
 挑発に乗らなかった事に戦略で打ち勝ったと笑みを零す柴木と目が合った。
「ならば押し切るまでだな」
 後ろを取れなかったならば、リセリアの言うように突破して後ろを取ってしまえば良い。
 たとえ高原が現れても、自分が回り込めば吹き飛ばして戦線を押し上げられる事が出来ると、柴木を負けじと睨み返すオーウェン。
「指示されて来て見れば、この有様だ。柴木、撤退も考えるべきじゃないか?」
 その一方で、柴木にそう諭したのは気糸をリベリスタの前衛目掛け撃ち込む葛城だ。2人がこうして会話する間にも、美峰の氷雨が降り注ぎ続けている。
「今の内に突破してください!」
「行け、翔太!」
 気糸によってもたらされた悪影響を聖なる光で打ち払った要の隣をすり抜け、優希の言葉に後押しされ、4人ものクロスイージスによる壁を突破した翔太の姿も近づく。
「ね、どうして集められたのかわからないのにアークに攻撃されるとか、不思議よね。あのひとの罠、かしらね」
 追い討ちをかけるルカルカの言葉に、再びコンテナを蹴り、今度は美峰へと襲い掛かった柴木も何かがおかしいと感じ始めたようだ。
 その動揺がクロスイージス達にも伝播したのだろう、
「油断は大敵ですよ」
 わずかに出来た隙を見逃さなかったリセリアの斬撃によって、4人で構成する壁に1つの穴が開いた。
 否、残る3人の内の1人が魅了されたまま味方に攻撃を仕掛けているのだから、2つの穴と言ったほうが正解か。
「ここでまさか後ろから来たりしないよな?」
 そう言いながら後ろを見た柴木の目に飛び込んできたモノ。
「来たか」
「急ぐぞ、鬼狩を振らせるわけにはいかない」
 言葉を漏らした翔太や優希、他のリベリスタもその存在はしっかりと見えていた。

 フィクサード狩りの高原が、姿を現したのである。

「柴木、ここは俺達が抑える! 1人くらいどうだってなるだろう、行ってくれ!」
「わかった、それまでやられるんじゃないぞ」
 1人くらいならば、どうにかなる。退路を確保する必要があると判断したフィクサード達の中から柴木が高原迎撃に向かうのと、
「待て、行くな!」
 オーウェンが声をかけたのは、同時だった。
「こうなったら、突破するしか……っ!」
 強引に追いつこうとしたリセリアの前に、魅了から正気に立ち戻ったクロスイージスが立ちふさがる。
「てこずらせてくれるわね」
 撤退の2文字がちらつき必死になっているフィクサード達の激しい抵抗に、ルカルカもそう突破する事は出来ないでいた。
「くそ、間に合わないか?」
 葛城の気糸に身を貫かれながらも柴木を見据える翔太からは、半ばあきらめに近い言葉すらも飛び出す。

 高原目掛けて襲い掛かる柴木にとって、彼は倒せない相手ではないと思えたに違いない。
 その鋭い一撃は葛城と連携さえすれば玄弥を地に沈めることが出来ていたのだから、ある意味では当然だった。
「何っ!?」
 しかしその攻撃が軽く避けられた時、柴木の顔に浮かんだのは焦りの色。
『殺さないでほしい』
 対する高原の脳裏に美峰の言葉が過ぎると同時に、振り下ろされる鬼狩。一撃で重傷を負い倒れる柴木の姿は、誰もが脅威を感じるものだった。
「投降すれば命までは取らん。アークの名に賭けて、命の安全は保障しよう」
 すかさず告げられたオーウェンの投降勧告は、フィクサード達にとっては絶妙のタイミングだと言えただろう。
『勝てるわけがない』
 そう判断するのに十分な要素を、見せ付けられたのだから――。

●仇敵の行方
 フィクサードとの戦いは、高原が柴木を。残りはリベリスタ達が捕縛する形で幕を閉じた。
「この男を知っているな?」
 高原に写真を見せつけられ、写真と高原を交互に見やる柴木。
 写っていたのは、紛れも無い『あの人』だった。
「聞いてどうするんだよ」
「言わなければ向こうの連中に聞くだけだ」
 静かにそう言い放った高原は、今にも柴木を斬り殺しそうな勢いすら感じさせる。
「落ち着け、お前さんの欲する情報を獲得するためにも、生きて捕縛せよとの命を受けているのでな」
 近づいてきたオーウェンが諌めなければ、もしかしたら柴木はこのまま命を落としていたかもしれない。
「写真の男の居所を吐け。命を捨てて義理立てする相手ではなかろう?」
 そこへ静かではあるが、威圧感を感じさせる優希の問いが飛ぶ。
「知らねぇよ! あの人はいつも公衆電話から連絡をいれてくるしよぉ」
 葛城の表情を見れば、誰もがそれは嘘ではないと判断出来る事だろう。
(口封じなら、このタイミングかしら)
(その時は、この人達を守らなければ……)
 情報を漏らすその姿に、ルカルカとリセリアは何時でもフィクサードを庇える位置に立ち、警戒を強めている。
「それにあの人は、姿を自在に変えられるんだ」
 しかし有力な情報を柴木が答えても、攻撃を仕掛けてくるような気配はない。
「ならもう用は無い。後はお前達の好きにしろ」
 情報が得られたならば十分だと、踵を返す高原。
「あんたを助けたのは情報屋、これは間違いないな? なら、あんたが怪我を負ってる時にすぐに助けらたのは、追えてたからじゃないか?」
 そこへ翔太の声がかかり足が止まったところで、翔太は続けて言う。
「状況を考えて欲しい。その時に追えているなら、今でも直接調べ上げてくるはずだ。案外復讐の対象者は近くに居るかも知れないな」
「それにな、本当に目的を果たしたいなら、利用できるもんは何でも利用すべきだと私は思うぜ」
 姿を変えるという情報から、情報屋が仇敵ではないかと翔太は推察したらしい。
 だとすれば、高原は孤立していると考えるのが妥当だろう。それを受けた美峰の一言は、自分達なら最後まで援護出来るという言葉だった。
「仇に辿り付く前に貴方が破滅しては意味が無いんです。仇を貴方の手で斬る為にも、どうか気をつけてください」
 続いたリセリアの言葉に、高原を味方に出来るのではと誰もが感じた事だろう。

「仇に託されたその鬼狩で、仇を討つ心算か。それが、お前のプライドだと言うのか」
「情報聞いたやろ。それわたせぇやぁ」
 その一方、鬼狩を手放すように求めた事たのは優希と玄弥だ。
「一つ間違えば、血とお前の命でもって強化された鬼狩を、仇に奪われる結末が目に見えている。それは理解しているか?」
 それでも優希の方は高原を心配しての言葉ではあったので、問題は無かったとは言える。
「鬼狩は元々こちらの所有物で、あいつの形見だ。ヤツに託されたわけではない」
 とはいえ、鬼狩は高原が言うように元々彼とその恋人が所有物なのだ。
 形見に近いと感じている高原にとって、奪われずに放置されたという部分があっても、鬼狩を持って仇を討つ事に意味がある。
「俺も所謂『復讐者』だ、お前の気持ちは解る。仇討ちなら力を貸そう。人を見て人を頼れ」
 それが、優希の発言の真意ではあった。
 鬼狩を振らせたくない。ただ、その気持ちだけが言葉に込められていた。
「てめぇがそれ使うちゅうなら、いずれアークも敵なるってことはよぉおぼえとけや!」
「ヤツさえ斬れれば渡す約束だったと覚えているが、奇麗事を並べても、結局お前達もそうくるか……、信用できんな。協力はもう、いらん」
 去り際に投げかけられた玄弥の言葉にそう返し、高原の姿は闇に溶けていく。
「ちょ、待てよ!」
 引き止める翔太の言葉は、もう届かなかった――。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
後ろを取ると言うのは良い戦略で、決まれば最良の結果になっていたと言えるでしょう。
ですが失敗した時の対応に触れていなかったのは、やはり大きなマイナス点でもありました。

では次回、またお会いしましょう。
お疲れ様でした。