●ヤァパンとブリテニカ/いちほんの電話糸 晴天の霹靂という言葉がある。 その電話が掛かってきたのは余りに突然の出来事だった。 もしもし、と呼びかけた声に対する「私だ」との声に、どれほど彼女の胸が躍った事か。 「――プロフェッサー・ジェームズ! お久し振りですお久し振りですっ」 『うむ、何年振りになるかね。君とはロンドン以来になるか。紫杏……声を聞く限り、息災のようで何よりだ』 「えぇ勿論、プロフェッサーもお元気そうで何よりですわ! それで早速ですが、アタクシの論文届きました? 如何でした? 是非とも是非ともプロフェッサーのお言葉をっ」 『そう急くな、一通り目を通したとも。 ……ふむ、まぁ、意見を述べるとするならば。君の気質を良く表している……といった所かな』 「どういう意味です?」 「瑞々しい情熱と画期的なアプローチを併せ持っている。 同時に未熟で不足余りある。構想自体は素晴らしく、酷く粗削りで未完という印象を受けた。君には落ち着きを持つように指導した筈だが? これではまだ可愛い生徒に『優』はやれないな。残念極まる現実だが」 「うっ……」 『――しかし、な。言った通り着眼点自体は素晴らしいものだ。大筋で見れば悪くない。実に興味深いよ』 「ホントですかホントですかプロフェッサー!」 『私が可愛い生徒の採点で嘘を吐いた事があったかね? 私は学術の徒。こと研究については常に誠実であらんと心がけている。 さて、それで問題をクリアするべき『有為なる手法』と『理論の補強』についてなのだが――』 「あー、ちょっと待って下さい! メモ、メモ取ります! 用意しますから! プロフェッサーがお力を貸して下さるのなら、この六道紫杏に不可能はありませんわ! きっと……いいえ、『絶対に』『必ず』『100%』上手くいきますわ、ありがとうございますっ」 『――君は昔から変わらないな。些か粗忽で慌て者ながら、実に情熱的だ。その前向きで前のめりな姿勢、そして才能。私は嫌いではないよ、六道紫杏。研究が上手く行く事を心から祈っている。少し頼みたい事もあるのだ。それは又ゆくゆくと……』 きっと世紀を揺るがす会話だ、と彼女は思う。 メモのペンを走らせながら思うのだ――遥か英国の彼もきっと、口角を擡げているだろうと。 ●Bio goddess 白。先ず、白い色をした細やかな体躯だった。 それは半ば崩れかけた触手状組織と堅牢な甲殻と鋭利な棘を無理矢理に繋ぎ止め、辛うじて『ヒト』の形を保っている。 白。しかし至近距離の不気味さとは打って変わって、遠くの闇夜に浮かぶ『彼女』の、その白亜の目映さの――ある種の、神秘的光景。 「美しい」 嗚呼、不完全でありながら。 遥かより彼女を見守る者の内、誰ぞが不意に口にした。否定する者はいなかった。 これから始まる『初めて』の実験に誰もが期待と恍惚と好奇心を目に、目に。 かくして彼女はふわりと降り立った。 空間を裂き現れた異界のモノを睥睨しながら。 炎を纏う異界のモノは牙を剥く。敵意。殺意。搗ち合う視線。 先手は――白亜の異形。 ●ブリーフィング 「という訳でして」 事務椅子をくるんと回し、『歪曲芸師』名古屋・T・メルクリィ(nBNE000209)がリベリスタへと向いた。 その背後モニターには建設途中の広い高速道路と――そこに立つ巨大な異形。 獅子だ。真っ黒に燃え盛る鬣に三つの頭。六つの睥睨が闇を射抜き、大きな咆哮がスピーカーから漏れ出る。 「アザーバイド『六睨獅子』――空間を裂いて現れた非常な危険なアザーバイドでございます。皆々様にはこの討伐に当たって頂きたいのです、が」 言葉を区切る。視線の先。モニター上の別画面。 白亜の異形。 「この――エリューションの討伐も行って頂きたく思うのですが、これが皆々様より先に六睨獅子と交戦しているようで。 『白亜の女神』……少なくともアザーバイドでは無いのですが、だからと言ってノーフェイスとも言い難いですし、他のエリューション・タイプとも断定し難いですし……つまり、イレギュラー的に特殊な特徴を数多く持っている存在なのですよ。 その戦闘力はかなりのものですぞ。自己再生能力と神秘魔法能力を有しているようです、更に防御値がズバ抜けて高い。お気を付け下さいね」 一体、何なのだ……迷う表情にフォーチュナは思案の色を覗かせる。ふむ、と顎に手を添え、説明を続けた。 「非常に途切れ途切れで曖昧なビジョンだったのですが――どうやら、これ、『六道派』が絡んでるっぽいですな」 言いながら資料を卓上に。 六道――主流なフィクサード組織の内でも、研究・鍛錬といった求道系の派閥。 「おそらく六道派フィクサードが数人、何処か遠い所から戦闘を監視しているかと思われます。彼らが直接戦闘に関与する事はないようですぞ。 うーーむ、しかし詳細は残念ながら……。不確定要素が多いので行動にはくれぐれも最新の注意を払って下さいね! 以上です、と締め括った。 それでは皆々様、と心配を押し殺して笑顔を向けた。 「お気を付けて、どうか無事のご生還を――行ってらっしゃいませ!」 ●六道テルホン 電話の向こう、現地の彼らに同行を命じた腹心に、チョコを頬張る彼女は問うた。 「スタ~ンリーー。……で?」 『はっ、紫杏お嬢様。実験の結果は――』 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ガンマ | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2012年01月28日(土)23:57 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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●双極 暗夜、しかし炎の獅子と白い女神は良く見えた。 獅子の三つの口から放たれた咆哮が聞こえる。 「強そうなのが取っ組み合いのけんか中……。ここじゃない世界だったら勝手にやって? って言うのになぁ」 遠くからでも分かる荒々しい気配。体内魔力を活性化させた『おじさま好きな少女』アリステア・ショーゼット(BNE000313)は溜息を吐く。今回は恋愛対象(おじさま)と同行という事で、髪を整えてみたり女の子っぽさを意識したり……しかし気は抜かない。気は抜けない。ちらと向ける視線の先では『静かなる鉄腕』鬼ヶ島 正道(BNE000681)が眉根に皺を寄せてアザーバイドと謎のエリューションの戦いを観察していた。 「どのタイプとも言えない……色々繋ぎ合わせているようですし、所謂『フランケンシュタイン』でしょうかな?」 何にせよ、これだけのモノを『造れる』というのは大きな脅威。 「神秘界隈の探求者はある意味、『武闘派』や殺人鬼よりも厄介なのやもしれませんな」 集中を重ねながら呟く。最中にも正道は聴覚を研ぎ澄ませていた――何処かで見ているのであろう六道派の探査。上手く発見出来たら良いのだが。 ここのところ動き出したフィクサードの組織。「これも穴があいた影響なのかしら?」とちおとめを胸に抱いた『ぴゅあわんこ』悠木 そあら(BNE000020)は体内魔力を活性化させながら小首を傾げる。正道同様、六道のフィクサードが見ているだけという事が気掛かりだ。『デモンスリンガー』劉・星龍(BNE002481)も「何とも厄介事のテンコ盛りですね」と息を吐く。ワン・オブ・サウザンドで軽く肩を叩くその視界はコマ送りに。 「情報を見る限り、実戦のデータ収集と言ったところかな?」 貪欲な探究心を持っている事は結構な事だけれど、ね。常の諧謔的な笑みを口元に浮かべた『大人な子供』リィン・インベルグ(BNE003115)はヘビーボウを指先で撫でる。その服装は夜闇に紛れる、黒一色。 そんな夜の黒に靡いたのは『ピンポイント』廬原 碧衣(BNE002820)の蒼い髪だった。 「六道、人型、観察、とくればロクな発想にならないな」 目的の一端だけでも掴み取って帰りたいものだ。咆哮がまた。戦況はほぼ平行線か……少し女神が圧しているか? 「それにしても薄気味悪ぃ敵だね……こいつを倒して獅子も倒せ、なんて簡単に言ってくれるよ全く」 黒いガントレットTerrible Disasterで武装した手で後頭部を掻き『ザミエルの弾丸』坂本 瀬恋(BNE002749)はヤレヤレと息を吐く。全くアークは人使いが荒い。帰ったら名古屋のニーサンには飯でもおごって貰うかね。 「強敵が2体。勇者魂の見せ所ですね……!」 ゆうしゃのつるぎを握り締め、震える声でそう絞り出したのは『勇者を目指す少女』真雁 光(BNE002532)、ハッとして慌てて付け加える。 「こ、怖くなんてないのです。これは武者震いなのですよ」 ごっくんと唾を飲んだ。今、自分達は見ているが同時に見られている……かもしれない。嫌だけれど、気にしている余裕もないだろう。 同時に2体を相手にするのは今の自分達ではキツイだろう。正々堂々やりあえるところまで強くなれていないのが悔しい。 「ボクはもっと強くなるです。正々堂々真正面から戦えるようになりたいです……!」 そんな光を和やかに細めた目で見遣り、『ディレイポイズン』倶利伽羅 おろち(BNE000382)はクスリと笑う――しかし討伐対象へと目をやった時にはもう、それは得物を見澄ます蛇のそれ。 非力故、真っ向から打ち破るのは今の自分達では無理だろう。 「……なら、それなりのやり方でね」 待ち伏せをして、消耗した頃に叩き潰す。それがリベリスタの狙いだった。 その為に『星の銀輪』風宮 悠月(BNE001450)はおろちと共にエネミースキャンにて注意深く二体の観察を試みている。全てが手に取る様に分かる訳ではないが、少しでも情報を集めんと。 主流七派が一派『六道』といえば――探求を旨とする者の集う組織。 (その彼らの行う実験……同じく探求者たる魔術師の身としては、非常に興味のある所です) 彼等は『白亜の女神』を以って何を為さんとしているのか。 そも、『白亜の女神』は如何なるモノか。 「――見させていただきましょう」 視線の先。 ●ぐずぐずののうみそ の 、 す 、 は、 い 。s 目__ て、 を、 hhhhhhh …… kあい、 、 、 。 __ 。し さい 。 目 目。 nn m の前―― 、 な、 ……目の前 破壊 、 はかい しなさい __ 、はか い …… を、 めのま え の 全て __ ハカイ、 、 めのまえの すべてを はかい しなさい めのまえのすべてをはかいしなさい 目の前の全てを破壊しなさい。目の前の全てを破壊しなさい。目の前の全てを破壊しなさい。 ●激戦 「――!」 ゾッ、とした。 悠月は目を見開き思わず後ずさる。おろちもまた濃密なまでの殺意にOne Night Standの鋭い刃をほぼ無意識に構えていた。 気付かれた。 『殺す』、なんて生易しい感情ではない。いや、感情ですら無いのかもしれない。 「皆さん、戦闘用意を――」 悠月が口走ったのと超速で白亜の女神が飛んで来たのは同時。その後を牙を向いた六睨獅子が猛然と追ってくる。速い。落ち着け、一旦退いて再び間合いを取るべきか、いや間に合わない、戦うしか、無い――! 「んふ、こっからは通行禁止よ……!」 真っ先に飛び出したのはおろち、『一夜の情事』と名付けられた鋭い刃に破滅の黒を乗せて吶喊してくる白い女神へ振り払った。 ばぎん、と鈍い音がする。頭と思しき所。僅かにだけ傾いた女神の頭部。――硬い――そのまま、側頭部に黒いオーラを添わせたまま、それでも無理矢理に突っ込んできた。白と黒が擦れて夜に火花が散る。振り上げた掌に五つ並んだ鋭い爪が音速で空を切り――飛び退いた蛇の白磁の素肌に赤い線が刻まれる。 「随分と刺激的ねん」 不完全な異形。凄まじい殺気。その背から伸びる大量の触手による猛撃を防ぎ、躱し、掠り、薙ぎ払い、光は鬨の声を上げて吶喊する! 「勇者光、参上なのですっ!」 正義の刃に力を込めて、一閃。手応え。切り裂かれた白亜の装甲、血ともヘドロとも形容できる嫌な液体が飛び散った。その傷口へ間髪入れずに着弾したのはリィンの高速弾、他の追随を許さない命中に加えたっぷり集中を重ねた一撃。躱せる者等、居るものか。 「痛いのは全部治してアークに帰ろうね!」 応援の言葉と共に皆へ翼の加護を施すアリステア、聖神の寵愛を顕現させる祝詞を紡ぎ始めるそあら。敵へ大きくダメージを与える手段を持たぬ彼女らだが、その支援能力は特筆モノでありパーティの生命線でもある。 その直後、凄まじい咆哮が皆の身体を打ち据えた――音の暴力、高熱の火炎を纏う六睨獅子が迫る。 獅子の狙いは見境がなかった。元より凄まじく凶暴だったのが、手傷を負わされた事で完全に怒り狂っている。共闘なんてとてもじゃないが無理だろう。目の前の何もかもをブッ潰してやらないと気が済まない――そんなオーラを禍々しく放っていた。 二つ同時に相手をする、と言うよりは三つ巴の乱戦に近いか。上手く立ち回れると良いのだが……。 「さて、私は私の仕事をさせて頂きましょう」 最中、迫りくる獅子へ立ちはだかるのは正道。作戦は獅子よりも先に白亜の女神を倒す事、自分はその間のカバーだ。鉄の腕をガシャリと軋らせる。全力防御の姿勢。鈍色の機械肌に迫りくる獄炎が映った―― 「――喰らえ!」 碧衣が掌を翳した瞬間、幾本もの気糸が黒い火より飛び出した女神の装甲を鋭く穿った。静かな怒りの眼差しが彼女を射抜き返す。 (かかった) 目標は女神を自分達と獅子の間に挟む挟撃の形にして先んじて倒す事。上手く誘導すべく碧衣が跳び下がれば、猛然と襲い掛かって来た女神へ星龍がカースブリッドを放った――高い命中精度、だが直撃まではいかず、呪いは夜に掻き消える。 「撃てば入るって上手い具合にゃいかないか」 まぁいい、『百撃ちゃ当たる』。滅茶苦茶に降り注ぐ雷撃を掠めながら再度照準を合わせた。 「仁義上等、ってね……派手に殺ろうじゃないか!」 おろち、光と激しい攻防を繰り広げる女神へ、その身に誇りと運命を纏った瀬恋が凶悪な魔力を秘めた眼光で刺し貫く。女神が怯む。 「一緒にイキましょ、光チャン」 「頑張りますっ!」 構えるのは黒いオーラと光のエナジー。見澄まし、研ぎ澄まし、叩き付ける! 「ッ ――!」 女神が吹き飛ばされる――追撃で放たれたリィンの弾丸、そして輝くアリステアの破魔の光にそあらの歌。 その直後だった。 正道のブロックを押し遣って、白亜の女神諸共リベリスタ達へと六睨獅子が牙を剥く! 「!」 相手は本能のままに動きまわる存在。残念ながら挟み撃ちは『協力』してくれないらしい――そしてその燃え盛る巨体は正道がたった一人が防ぐには余りにも厳しかった。せめてもう一人、欲を言えばもう二人は。 「くっ……!」 それでもさせるか、と火傷に出血に傷付きながらも運命を燃やした正道は自分を飛び越えた獅子へトラップネストを放った。それは幾重にも異形に絡み付き、麻痺の毒を以て動きを阻害する。 「そのまま、じっとしていて頂けませんでしょうか……!」 悠月が紡いだ呪文は収穫の呪い、禍き魔法陣より呼び出された無慈悲の鎌が獅子に思い切り突き刺さる。くぐもった獣の悲鳴、次の瞬間には荒々しく気糸を引き千切って強力な咆哮を放った。 「チッ……」 全身を強かに打ち据える衝撃に歯を噛み締め、瀬恋はTerrible Disasterで獅子の頭部の一つを狙った。でけぇ頭三つも並べやがって、全部奇麗に吹っ飛ばしてやる。 「鬱陶しいんだよ糞野郎!」 放つのは執拗不可視の弾丸、真ん中の頭を狙い撃つ。何度も撃つ。目玉を穿った。凄まじい悲鳴。撒き散らす炎。 銃指より硝煙を立ち昇らせつつ、リィンと星龍の援護射撃を頼りに前へ出る。代わりに深手を負った光が下がった。 「大丈夫っ……? 今、治すからね!」 「ありがとなのですよ!」 アリステアの祝詞による天使の息吹が光の傷を柔らかく癒していく。全体回復はそあらが行う。その精神力は碧衣が供給した。 駆け出して往く光の背を見、アリステアは再度詠唱を始める。だが、その眼前に呪いの吹雪が迫る―― ●Six 「アレは――リベリスタ、か?」 「『星の銀輪』、『静かなる鉄腕』……間違い無い、アークだ。差し詰めカレイドで視たのだろう」 「面白いデータが取れそうですね。奴等、こっちに気付くでしょうか?」 「さぁな。まぁ、そういう時の為に――」 ちらと視線を遣る。やや離れた位置で自分達を見守る人影。 「紫杏様が直々に『懐刀』を貸して下さったんだ」 さぁ、『観察』をせねば。 ●乱戦 「っ……!」 アリステアが恐る恐る目を開けた先にはリィンが立っていた。そあらも碧衣がその身を挺して護る。よろめき、獅子の咆哮が聞こえる、早く態勢を立て直さねば。早く! 「やってくれるじゃねえか。コイツはお返しだ!」 身体にへばり付いた氷を振り払い、瀬恋が断罪の弾丸を女神目掛けて放つ。最悪な災厄。マトモに受けた女神は思い切り吹き飛ばされ地面を転がった。そこへ獅子が踏み付ける一撃を放つが、迸る雷によって追い退ける。立ち上がる。 (なんて頑丈なのかしらん……) 注意深く白亜の女神を観察し続けているおろちは刃を構えつつ間合いを取る。ダメージは与えている。蓄積している。少しずつ追い詰めている。それは確か。攻撃力も然る事ながら、恐るべきはその防御力、そして再生能力だ。先に女神を倒すつもりなのだが、今だそれは達成できそうにない。僅かな見誤りが歯車を少しずつ狂わせていく。 状況は完全に乱戦、混沌、血みどろ――安全な場所など無い。運命を燃やす者、あるいは力尽きる者も出てくる。 それでも、未だ希望が潰えた訳じゃない。 「勇者がこんなところで倒れるわけにはいかないのです。ゲームオーバーにはまだ早いのですよ!」 獅子が放った真空刃を剣で薙ぎ払い、白亜の女神の鋭い触手にその身を切り裂かれながら。 瞳に勇気を、刃に力を、胸に正義を。 光は駆ける。活路を切り開く為に。 勇者としての心構えだけは誰にも負けない。どんなつらい状況でも絶対に諦めない! 「ここまで来たら残りは全力の殺し合いだ……殺っちまえ!」 「私達とて、退けないのです!」 「任せちゃうわねん!」 その進路は瀬恋の弾丸が、悠月の魔鎌が、おろちの気糸が確保する。縛られ藻掻く獅子の身体にリィンが弾丸を放つ。 斯くして仲間が切り開いた道を少女勇者は駆けた。相手は一人ずつだが、自分達には仲間が居る。倒れた仲間の分まで、戦ってみせる。 弱肉強食。けれど、弱には弱なりのやり方があるものよ。――そう呟いたおろちの視線の先。 「この一撃で決めます!! これがボクの必殺……『S・フィニッシャー』!!」 煌めく剣閃は彼女の正義を示すが如く、真っ直ぐ。 瀬恋、悠月がこじ開けた女神の装甲の穴へ続け様に放つ全力。 深く深く切り裂いた! 「……!」 美事なまでに決まった一撃に女神の上体が揺らいだ。 ビキリ、と装甲に罅が入る。 女神が蹌踉めく。 ドロリ、と装甲の下の組織が垂れる。 女神が震える。 ボタリ。 「!?」 リベリスタの視線の先で、女神の組織が身体が、『融けて』いく。 どろどろに、ぐずぐずに……ミキサーにかけられたペーストみたいに。 それでも女神は骨が剥き出しになった融ける腕を此方に向け、 殺気を感じる。 誰かが「危ない」と叫んだ瞬間、女神の掌から放たれた凄まじい閃光がリベリスタを六睨獅子を飲み込んだ。 「っ――!?」 衝撃、轟音、気が付けば吹っ飛ばされ。 立ち上がれたのは辛うじて巻き込まれなかった者、運命を燃やした者。 痛む身体を抱いたおろちと悠月は目を合わせた。――頷き合う。 半数が倒れた。 ボロボロの酷い状態。六睨獅子はふらつきながらも健在。女神も崩れながら攻撃態勢に入りかけている。 安全に退くならば、今しかない。 勝っても負けても――全員で帰る事が一番。これ以上被害を出さない為にも。 素早く倒れた仲間を担ぎ、リベリスタは走り出す。六道の者が襲ってくるかもしれない不安を抱いてひた走る。 「畜生が……!」 最期に瀬恋が吐き捨てた。 ●Six2 「あぁ、『ダウン現象』……ですか」 「仕方ないな。どうする?」 「白亜の女神の回収、それと……あのアザーバイドも『捕獲』できるな」 「では、行動に移ろう」 ●六道テルホン 彼が耳を宛がう電話の向こう、何か頬張っているのか……主の声が聞こえてくる。 『スタ~ンリーー。……で?』 「はっ、紫杏お嬢様。実験の結果は――」 全てを偽りなく話しながら彼は思った。嗚呼、この人、笑って居る……。 『了』 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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