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<六道>根の国に棲まう

●老魔術師、来たる
 深夜の埠頭。黒いマントを羽織った老紳士と、メイド姿の少女が星を眺めていた。それらしい道具を持ってはいるものの、天体観測というには余りにも場違いだ。特徴的なのはいずれも奇怪なエンブレムを服に付けていることだろうか。そのエンブレムは「無」という文字を連想させる。
 老人の風貌はまさしく「魔術師」という言葉から人が思いつくようなものだ。深い智慧を感じさせると同時に、気難しそうな性格に思える。
 少女はおそらくこの国の生まれでは無いのだろう。金色の髪を肩まで伸ばし、その瞳は海を写しているかのように碧い。また、耳に付いているアンテナのような部位は、彼女がただの人間で無いことを表している。
「ふむ、崩界深度は52……いや、53、といった所か? やはり、12月の赤い月以来、確実に進行しておるわ。実験には都合が良いというもの」
 白く染まった顎鬚を撫でながら、天体望遠鏡のようなものを眺めていた老人が呟く。見るものが見れば、老人が有しているのは、強弱の差はあれどアーティファクトであることに気が付くだろう。
「さて、そろそろ始めようかの。よいか、リリィ?」
「かしこまりました、旦那様」
 リリィと呼ばれた金髪の少女は、一礼すると鞄を開き、様々な小道具を取り出す。てきぱきと手際良くそれらを並べると、老人の指示に従い準備を進めていく。
 程無く準備が終わり、地面には魔法陣が描かれる。リリィは老人に再び一礼し、老人の後ろに立った。
 老人は魔法陣の前に立ち、呪文の詠唱を始める。それと共に、魔法陣が輝きを発する。
「うむ、手応えあり」
 老人が口元に薄く笑みを浮かべる。すると、魔法陣から続々とネズミが姿を現わす。それもただのネズミでは無い。大きさは軽く1メートルを超え、身体は鋼鉄の装甲に包まれている。
「GYAAAAAAAAS!!」
 鋼のネズミ達は大きく鳴き声を上げると、近くにある配送センターへ向かって進み始めるのだった。

●ネズミ退治も楽じゃない
 ブリーフィングルームに入ったリベリスタ達は、拳銃の整備を行う少年の姿を目にする。手馴れている、という程では無いが、ある程度の心得はあるようだ。少なくともアークにおいては、決して無い光景では無い。少年は入ってきたリベリスタに気付くと、軽く頭を下げる。
「あぁ、早いな。すまない、空いた時間に手入れしたかっただけだ。すぐに片す」
 そう言って、少年は手早く机の上を片していく。その内に三々五々、召集を受けたリベリスタ達は集まっていく。そして、全員集まったのを見ると、少年は簡単な自己紹介と共に、依頼の説明を始める。
「俺は高城・守生。この間、アークに加入したフォーチュナだ。今後、あんたらの手伝いをすることになった。よろしく頼む」
 『運命嫌いのフォーチュナ』高城・守生(nBNE000219)の名乗りに、「あぁ、モリゾー君だっけ」と、自称詐欺師のホーリーメイガスから聞いた渾名を告げる。すると、途端に守生は声を荒げる。
「モリゾーじゃねぇ! ……コホッコホッ」
 勢いよく叫んだせいか咳き込む守生。リベリスタの1人が渡した水を飲むと、ようやく落ち着く。
「はぁ……はぁ……すまない、冷静さを欠いていた。じゃ、改めて依頼の説明に入らせてもらう」
 居住まいを正す守生。それに倣って、リベリスタも話を聞く姿勢に戻る。
「今回現れたのは、フェイズ2、戦士級のエリューション・ビーストだ。元はネズミのようだが、全身が鋼の鎧に包まれている。大きさも子供位にはあって、数は5体だ。とりあえず、機械ネズミと呼んでおくか」
 守生が端末を操作すると、スクリーンに表示されるのは埠頭の地図と、そこにある配送センター。どうやら、エリューション・ビーストはここを目指しているらしい。
 機械ネズミが行うのは、その牙での噛み付き。牙には猛毒があり、威力もそこそこにある。さらに背中から小型ミサイルを発射することも出来る。知性は高くないが、邪魔するものには容赦はしないだろう。
「現場はそこそこに広い道路がある。機械ネズミが現れるのは深夜だし、人通りも少ない。それほど人目は気にせず戦えるはずだ」
 埠頭なので明かりもあれば、地面もアスファルト。人目にさえ気をつければ、戦闘に不都合はあるまい。
「それと、注意して欲しいことがある。この機械ネズミ共は、どうやらフィクサードがアーティファクトによって召喚したらしい。現場に召喚者らしいフィクサードがいる」
 画面に表示されるのはかなりの高齢だろう老紳士と10代半ば程でメイド服に身を包んだ少女。
「詳細は不明だが、どうやら六道派に属するフィクサードのようだ。機械ネズミと交戦する際に参加する気は無さそうだ。向こうの目的次第でもあるが……不必要な戦いは挑まない方が良いとは思う。接触するなら、その辺は十分に気をつけてくれ」
 六道派は研究や鍛錬に命をかけるフィクサードが多い、個人主義者の集団だという。この老人もそうしたものの1人なのかも知れない。
「説明はこんな所だ。十分な情報が無くてすまない」
 説明を終えた少年は、その鋭い瞳で睨むように、リベリスタ達に送り出しの声をかける。
「あんた達に任せる。無事に帰って来いよ」



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:KSK  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 2人 ■シナリオ終了日時
 2012年01月30日(月)22:10
皆さん、こんばんは。
埠頭の景色が嫌いじゃない、KSK(けー・えす・けー)です。
今回はエリューション・ビーストと戦っていただきます。六道派フィクサードもいるよ!

●目的
 E・ビーストの撃破

●戦場
 埠頭の配送センターに至る道路。
 守生の指示に従って、機械ネズミが配送センターに向かう所を迎え撃ちます。
 明かりや足場に不自由はありません。

●E・ビースト
 ・機械ネズミ×5
  ネズミのエリューション・ビースト。フェイズは2。
  鋼の皮膚に身を包んだ巨大なネズミです。
  攻撃方法は噛み付き。近接単体の相手に猛毒を与えます。
  ミサイルを撃ち出し、遠距離単体の相手を攻撃することも可能です。ノックバック効果を持ちます。

●フィクサード
 ・老紳士
  六道派に属するジーニアスのフィクサードです。
  アーティファクトを用いて、機械ネズミを召喚しました。機械ネズミの様子を観察しています。
  ネズミとリベリスタが戦う場所とは距離を取っており、積極的に攻撃は仕掛けてきません。

 ・メイド姿の少女
  六道派に属するメタルフレームのフィクサードです。
  無表情に老紳士を護衛するかのようにたたずんでいます。

参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
インヤンマスター
宵咲 瑠琵(BNE000129)
デュランダル
鯨塚 モヨタ(BNE000872)
デュランダル
四門 零二(BNE001044)
プロアデプト
ヴァルテッラ・ドニ・ヴォルテール(BNE001139)
マグメイガス
音更 鬱穂(BNE001949)
クロスイージス
村上 真琴(BNE002654)
スターサジタリー
織村・絢音(BNE003377)
ダークナイト
柿木園 二二(BNE003444)
■サポート参加者 2人■
覇界闘士
テテロ ミーノ(BNE000011)
ソードミラージュ
仁科 孝平(BNE000933)


 1月の夜、存外に風は冷たく肌を突き刺すようだ。海の近くとあっては、その冷たさは一層堪える。
「厄介なもの呼び出して何を企んでいるんだか……」
 『リトルダストエンジェル』織村・絢音(BNE003377)は誰にとも無く問いかける。
「六道派か。実験かなんか知らねえけど傍迷惑な連中なのは間違いねえな」
 六道派――それは、探求派として知られる、日本における主流フィクサードの一派だ。
「だいじょーぶ、だいじょーぶ。なに企んでるかしらねーけどよ、例え何があっても返り討ちにしてやんよ」
 軽い調子で話しているのは、柿木園・二二(BNE003444)。アークに入って間もないリベリスタだ。致し方無い所ではあるが、ちゃらちゃらした外見に背かず、その中身も軽い。
「六道に裏野辺に黄泉ヶ辻……ここにきて一気に動き出してきたよな……。『閉じない穴』が空いたことに乗じて色々やるつもりなのか?」
 『鉄腕ガキ大将』鯨塚・モヨタ(BNE000872)はその年に似合わず、多くの戦いを潜り抜けてきたリベリスタだ。色々考えることはある。結局、守生に聞いてもこの配送センターに六道派が狙うような戦略的な価値は無いと言われるだけだった。詰まる所、ぶつかってみるしかないわけだ。
「協定による休戦、その期限も切れようかと言うこの時期に協定未参加の三派が動き出すか。……きな臭いねえ。他の主流七派は一体何をしているのか」
 アークと一部の主流フィクサードの間に結ばれた、不戦協定。それが2月に切れるというのは、多くの者に知れ渡っている。大きく世界が動こうとしている時なのだ。もっとも、手帳を確認する『鉄血』ヴァルテッラ・ドニ・ヴォルテール(BNE001139)はどこか嬉しそうに見える。争いが起きればそれだけ神秘も動く。彼に必要な神秘が満たされる時も、それだけ早く訪れると言う事だ。
「やはりジャックとの戦いにより崩界の危機が高まり、フィクサードの興味を引くようになったのでしょうか?」
 『鋼鉄の戦巫女』村上・真琴(BNE002654)の頭に浮かぶのは、あの赤い月の夜。あの日以来、世界のゆっくりと崩界は進んでいる。起こる異常も増えており、フィクサードが動く理由に事欠かないだろう。
 この場を見ているという老人は一体何を考えているのか。想像が悪い方向に進んだため、真琴は首を振って考えを否定する。今はまず、目の前の敵を倒すことだ。
 そんな真琴に『陰陽狂』宵咲・瑠琵(BNE000129)は、自信満々に笑みを浮かべる。幼い姿をしているが、重ねた齢は誰よりも長い。その経験は彼女に知恵をもたらしている。
「アーティファクトで召還した機械鼠を、のぅ? 観察するだけで介入しない理由は簡単じゃろう。ふふっ……面白そうな連中なのじゃ」
 状況が荒れれば荒れるほど、険しければ険しいほど、トリックスターは輝くもの。今の世界の状況は瑠琵にとって、興味深いものであって、恐怖するものでは無い。
「GYAAAAAAAAS!!」
 そんな時、奇怪なネズミの鳴き声が聞こえてくる。それを合図に身構えるリベリスタ達。
 だが1人、『ネガデレ少女』音更・鬱穂(BNE001949)に限っては、心が落ち込んでいく一方であった。
(人に見られること自体が好きじゃないのに……)
 鬱穂は恥ずかしがり屋で人見知りな少女だ。そんな彼女にとっては世界の崩界がどうだの、主流7派がどうだのいうことよりも、誰かに見られながら戦わなくてはいけないという事実の方がよっぽど重大な問題だ。
 一方、『闇狩人』四門・零二(BNE001044)は、大きく煙草の煙を吐き出すと、結界を展開させる。
「老獪なる練達の魔術師か。フ……敵としては厄介極まりないね」
 言葉とは裏腹に、微笑を浮かべると、全身に闘気を巡らせていく。そして、剣を抜き放つと、迫ってくるネズミに向かって走り出す。
「作戦開始だ」


「GYAAAAAAAAS!!」
 ネズミの鳴き声と共に爆煙が巻き上がる。ネズミの背中から放たれたミサイルによるものだ。
 異界よりもたらされた力は、奇怪な機械の姿を取って襲い掛かる。その力の前には、人の作った建物の命運など風前の灯に思われた。だが、ここにはリベリスタ達がいた。
「やり辛いけど……今は目の前のネズミに……」
 この向こう側には、六道派のフィクサードとやらがいるのだろうか? それを思うと、全身がむず痒くなってくる。だから、必死にかき消すように目の前に意識を集中し、力を呼び込む。そして、力は雷となり解き放たれ、周囲を焼き尽くす。
「オラァッ!」
 放たれた雷を身に纏うように、モヨタが飛び出す。その手に握られるのは機煌剣・プロミネンサーブレード。彼の身の丈ほどもある、巨大な剣だ。無限機関から得られる力を、電撃に変えて爆発的な一撃を生み出す。
「どうだ、鋼で包まれてんなら電撃はよく通るんじゃねぇか?」
 振り下ろされた剣は、ネズミの皮膚を叩き破り、肉を切り裂く。しかし、中から血が流れ出る様子は無い。エリューション化が進んで、肉体は機械に占められ、体組織も鉄に置き換わっているようだ。
 2人の勢い良い初撃に、リベリスタ達は勢いを得た。その流れに乗って、一気に畳みかけようとする。
 だが、ネズミ達も負けていない。接近戦が始まると同時に、毒を宿した牙を振るい、着実にダメージを与えてくる。意外に牙は鋭く、厄介な相手であることを、リベリスタ達は実感する。
 『すーぱーわんだふるさぽーたー』テテロ・ミ-ノ(BNE000011)が放つ邪気を退ける光が無ければ、少しずつ体力を奪われ、窮地に立たされていたかも知れない。
 そんな中で、零二の傷を癒しながら、瑠琵は退屈そうに発炎筒を弄んでいた。
「回復つまらん。早く終わらせるのじゃ」
 瑠琵の狙いは、六道派フィクサードの目的を完全に潰すことにあった。彼女の想定した連中の狙いは『観察』。そして、妨害のために発煙筒を用意していたのだが、風向きが悪い。このままでは、煙で仲間を巻き込みかねない。ともすれば、愚痴の1つも出ようというものだ。
 一方、傷を治して前線に戻る零二の瞳は真剣そのものだ。
 敵に対する恐れは無い。それと同時に、敵を過大に恐れるということも無い。
「全力で行く」
 だからこそ、口元に笑みが浮かぶのだ。
 その時、零二の姿がぶれる。そして、同時に複数の零二の姿が現れ、ネズミに痛打を叩き込む。
 続けざまに、『宵闇に紛れる狩人』仁科・孝平(BNE000933)が素早く連続攻撃を入れると、1体のネズミが動かなくなる。
 それを期に、ネズミ達の戦法が変わる。
 先ほどまではとにかくがむしゃらに目の前の敵を倒すことだけを考えるような動きだったのだが、連携を取り始めたのだ。爆炎を巻き上げ、その隙を突いて、防御の薄い後衛に回り込もうとする。そして、突き立てるのは毒の牙だ。
 ネズミ達の戦い方の変化に気が付いたヴァルテッラは感心したように頷く。今まで仲間のダメージコントロールに務めていた彼だが、明らかにその難易度が上がっている。
「だが、まだ獣の浅知恵、といった所かね」
 ヴァルテッラは体内の無限機関を意図的に暴走させる。それは自らの身も傷付ける危険な技だ。
 だが、ヴァルテッラは怯まない。
 それどころか、暴走を加速させ、そのエネルギーを周囲に放つ。
 これが、かつて死闘を経て得た力。『業爆炎陣』だ。
 2つの方向から撃ち出される力によって炎に包まれる戦場。
 絢音の弾丸が放たれ、モヨタの剣が振るわれ、鬱穂の魔力の弾丸がネズミを貫いていく。
 それによって、1匹、また1匹と動きを止めていくネズミ達。残った1匹は最後の抵抗とばかりに、真琴を狙い撃つ。仲間に対してあらん限りの力で支援を飛ばしていた彼女だ。重要な役割であると判断されたのだろう。
「きゃっ」
 爆風に煽られ、吹き飛ばされる真琴。だが、それは絢音が受け止める。
「こういうのは柄じゃねぇんだがな……ったく」
 口は悪いが、その細い体でしっかりと真琴を支える。そして、そのまま素早く抜き撃ちを放つ。
「逃がさねえし行かせねえ。お前はここで終わりなんだよ、ネズ公」
「GYAAaaaaaaS!!」
 魔弾に貫かれ、ボロボロになりながらも動きを止めないネズミ。考えてみれば、既に痛覚なども存在しないのだろう。そして、その牙が絢音に迫った時、そこに素早く二二が割り込む。
「ここから先は通さないぜ! 倒されて行ってチョーダイッ!」
 ネズミの攻撃をチェーンソーで受け止めると、激しく火花が飛び散る。その中でチェーンソーは赤く染まり、血を喰らう魔具へと変貌していく。
「俺、痛め付けるのは好きだけど、されるのはヤなのォ!」
 俗と言えばあまりに俗な言葉と共に、チェーンソーが振り下ろされる。回避に集中するネズミ。その時、隙が生まれた。
「今度はボクの番です」
 思い切りシールドバッシュを放つ真琴。それによって、ネズミは地面に叩き付けられる。
「GiGiGi……」
「もう1つ!」
 再び力強く叩き付けられる真琴の盾。
 そして、3度目はもう無かった。


 機械のネズミ達は全て打ち砕かれ、時折火花を上げるのみだ。本来であれば、お互いの働きを労い、一息つきたい所である。だが、そういうわけには行かない。まだ、残っているものがいる。そして、そのもう1つの問題、六道派のフィクサードは向こうの方からやって来る。
「ほう、これは中々……随分と派手にやったものよな」
 顎鬚を撫でながら、老紳士はやって来た。後ろにはメイド服の少女を従えている。
 その時既に、鬱穂の精神は限界に達していた。
 人に見られての戦い、激戦、そして見知らぬフィクサードとの接触だ。内気な少女には、やや重た過ぎた。そして、精神的な負担は棘のある言葉となって、吐き出された。
「……じろじろ観察しやがって。この下衆が。世の中ギブアンドテイク。何か情報よこせよ」
 おどおどしていた少女は消え失せ、ズケズケと言いたい事を言い出す鬱穂。それに対して、老紳士は眉をピクッと動かす。その様子を見て、ヴァルテッラは取り成すように前に出る。下手に出るわけでもない。あくまでも対等の交渉相手としてだ。
「彼女の言い分もごもっともではないかね、ご老人? もし付き合って貰えるのであれば、私の神秘を、探求の成果を一つ、諸君等にお見せしよう」
 そう言うと、ヴァルテッラは無限機関を起動し、手元に炎を出す。
「……たしか、後宮派にその業を用いるものがおったな。なるほど、面白い。しばし話に付き合うのも一興と言ったところか」
 重々しく頷く老紳士。だが、零二は瞬間、彼の目が子供のように輝いたのを見逃さない。
「そのエンブレムは六道派の者である証かな?」
 ヴァルテッラは気になっていたエンブレムについて聞く。老紳士と少女、2人が着けているものだ。
「これは我が一門の証。わしの弟子などに授けておるよ」
「それは良いんだけど、あんたらの名前を聞かせてもらえねーか? 話しにくくて仕方ないぜ」
 銃を下ろしたが、警戒を解かない絢音。それはメイド服の少女も同様だ。武器こそ構えていないが、主のためにはいつでも戦う覚悟がある。そんな様子だ。一方の老紳士は、特に構える様子も無い。いつでもかかって来いと言わんばかりだ。
「ならば、自己紹介させていただこうか、アークの諸君。我が名は悪道・虚無(あくどう・きょむ)。哲人(フィロソフィス)と呼ぶものもおる。後ろにおるのはリリアンナ。わしの使用人、といった所じゃな」
「ありがとう、老翁殿。オレは四門。さて、他の六道派も随分活動的なようだが、派内の研究発表会でも?」
 悪道の言葉に零二は礼儀正しく礼を返し、質問をする。既に他の六道派フィクサードが動いていることは、明らかだ。だが、老紳士の反応は思いの外にそっけないものだ。
「いや。たしかに、動いているものは多いようではあるが、あの夜以来、世界は大きく揺らいでおる、ということだ」
「崩界が進んだから、こういう儀式とかやりやすくなったってこと?」
 モヨタは自分なりの単純な理解をぶつける。それに対して、悪道は苦笑を浮かべる。
「平易な言葉にするとそうなるが……まぁ、良い。子供に一から説明するのは骨が折れる」
「オイラはバカだからな! 細かい話は分からないし、それで十分だぜ!」
 策謀を好むものにとっては単純なものこそが一番恐ろしい。
「賢者の石争奪にすら興味を示さなかったあなた方が、今更崩界を機に動き出すのですか?」
「フンッ、『賢者の石』の情報を独占していたのは貴様らであろう?」
 真琴の質問に悪道は不機嫌そうに答える。『賢者の石』に関しては、情報を共有出来た『同盟の四派+アーク』の動きが早かった。それを外から見たのなら、情報の独占をしていたとも取れなくも無い。先ほどまでの超然とした態度と打って変わって悔しそうに見える。
「で、じーさん。何で配送センターに攻撃するんだ? 特に意味があるようには思えねーんですけど」
 臆せず突っ込んでいったのは二二だ。詳しい背景を知らないからこその振る舞いだ。空気を読まないと言えば読まないが、時にはそれが必要だ。すると、むすっとした表情の悪道の代わりに瑠琵が答える。
「六道派の目的は観察そのもの、じゃろう。誰も現れなければ資金調達、誰も現れなければ評価試験。お主らを観察した結果じゃが如何かぇ?」
 悪道に対して悪戯っぽく笑う瑠琵。遠まわしな諧謔を察した悪道。
「当たらずとも遠からず、か。多少のズレはあるが、それで構わん」


 さすがに全てを明け透けに語るほどお人好しではないようだ。しかし、この場に虚偽を織り交ぜるような、信用できない相手でも無い。零二はそう判断した。
「優れたその魔術、六道に捧げる理由でもお有りかな? 歪夜の一席すら滅した『箱舟』の方が、貴方の探求の海を渡る舟には相応しいのではないかな?」
「アークは神秘の研究に寛容だ。我々と共に歩む気は?」
 追随したのはヴァルテッラだ。彼自身、神秘の世界の謎を解き明かそうとする1人の研究者。世界の謎に挑む仲間を求める気持ちは強い。
 多少の興味を惹かれたそぶりを見せる悪道。だが、すぐに首を横に振る。
「誘いには感謝しよう、闇狩人に錬金術師。じゃが、断らせていただこう」
「そうか、理由を聞いても良いかね?」
 残念そうな表情を浮かべるヴァルテッラに、悪道は苦笑を浮かべて答える。
「わしは神秘の探求のためなら、赤子を贄に捧げることも辞さぬ外道よ。リベリスタにはそれを是とせぬ者も多かろう。そうしたものと、上手くやれるほど人付き合いは得意でなくてな」
 悪道の視線の先にいるのは真琴とモヨタ。
 これがリベリスタとフィクサードの間にある、最も本質的な差だ。エリューションの力を抑える心を持つものと、解き放つことに喜びを覚えるもの。とても簡単な違いだが、その差はあまりにも大きい。
「ここでアークに付くには、六道に恩義もあれば立場もある。そう簡単には行かぬよ」
 と、その時、今まで一言も話さなかったリリアンナが声を掛ける。
「旦那様、そろそろ撤収した方が良いかと存じ上げます」
「そうじゃな。さて、名残惜しいがここらで失礼させてもらうか。そこのネズミ共は回収させてもらうぞ」
 進み出る悪道。だが、それを瑠琵が制止する。
「そうは行かん。アレは此方で回収させて貰うのじゃ」
「嫌だと言ったら、どうする?」
 挑戦的に悪道が睨むが、瑠琵は怯まない。
「戦うまでじゃ!」
 瑠琵が天元・七星公主の引き金を引くと、悪道を呪力の雨が包む。しかし、主の危機にも関わらず、リリアンナに慌てる様子は無い。
「何ッ!?」
 雨の中から四色の魔光が放たれ、瑠琵を貫く。すると、彼女は悲鳴を上げることも出来ずに倒れる。
「この度は、アークから攻撃したと言わせてもらおうか……」
 呪力の雨を振り払って出てくる悪道。その姿には怪我1つ無い。そして、先ほどまでの交渉に臨んだ時とは、発されるプレッシャーが桁違いだ。フィクサードとしての本性を現わした老人に、身構えるリベリスタ達。
 その時だった。
「動けば撃つぞ?」
 いつの間にやら立ち上がった瑠琵が悪道の背に銃を突きつけている。
 リベリスタとフィクサード、互いに動けなくなる。迂闊に動けば、やられるのは自分達だ。
 そして、そのままどれ程の時間が経っただろうか?
 悪道が構えを解く。
「これ以上、ここに留まる必要も無い。今、面白いものを見せてもらった礼じゃ、そのネズミ共は好きにするが良い。帰るぞ、リリィ」
「かしこまりました、旦那様」
 場の空気が緩和されていくのを、リベリスタ達は感じていた。本気で戦えば、勝敗はさておき、少なからぬ犠牲者が出ていただろう。そして、それぞれに複雑な表情で帰り行く老フィクサードを見送る。
 そんな中、二二だけが能天気な声で別れの挨拶をする。ここまで来れば立派なものだ。
「リリアンナちゃん、次会うことがあったら、たーっぷり遊ぼーね」
 リリアンナは一礼をして去って行く。そこでようやく、リベリスタ達は大きく息をついた。

 こうして、リベリスタと六道派の出会いは終わった。
 だが、これも百鬼夜行が住まうフィクサードの世界の入り口に足を踏み入れただけに過ぎない。
 箱舟が向かう先に何があるのか?
 それはこの道を進むことでしか得られないのだ。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
皆様、『<六道>根の国に棲まう』にご参加いただきありがとうございました。
フィクサードとのクールな交渉、如何だったでしょうか?

それでは、今後もご縁がありましたら、よろしくお願いします。
お疲れ様でした!