●どなどなどなどな どなっどな 立派で素晴らしくてグレイトな家畜を作るのが私の役目。何故なら私は職人だから。職人の朝は早い。今日も仕事がてんこ盛り。人を雇おうかなんて思うけれどやっぱり私は一人黙々々々するのが性に会ってる。三週間で来なくなったバイトの顔、は、もう思い出せない。サテそんなことより職人の朝は早いのだ。おはようお日さん。さんさん。きらきら。広い広い牧場の真ん中で体操をするのが日課。仕事。ウォーク。ウォーキング。いつもキビキビきっぱりハキハキ元気いっぱい。でも今日はちょっとだけブルー。蒼。センチメンタル。実は昨日、長い月日をかけて手塩にかけて丁寧に丁寧に丁寧に育てていた家畜達が、とうとう、遂に、出荷されました。職人としては嬉しいのだけれど、こう、分かるかな。大きな事をやり遂げた後の空虚な、ポッカリ、それまで追っかけてたものがなくなったあのオイテケボリ感。そう、今まさにそれ。そう、出荷されて家畜のいない牧場はこんなにも静か。嬉しい。悲しいかも。でも嬉しい。向こうでも元気でね。立派な商品になってね。貴方達が立派で素敵な商品になる事、それが私の生き甲斐です。だから私は職人なのです。職人とは即ちプロなのです。仕事LOVEなので、なので、ハイ、もう出荷された商品の事なんて二の次三の次。職人の朝は早い。さぁ、次のを仕入れないと。注文がいっぱいなのだ。何故なら私は畜産の職人だから畜産のプロだから。仕入れないと。次を。次を。次を出荷する為に。 ●など。 「最近、立て続けに起きる失踪事件……」 言葉と共に、事務椅子をくるんと回して。『歪曲芸師』名古屋・T・メルクリィ(nBNE000209)は集まった一同を見渡した。 「これが『ただの事件』ならばお巡りさんにお任せしたのですが、ね。事件ですぞ皆々様、それも神秘による事件です」 背後モニターには高原、爽やかな朝の景色、緑の景色、小規模だがカントリーな牧場だ。 のびのび……その真ん中で、体操をしている恰幅の良い中年男性。見た目はまんま、人間そのまま。 「姿は我々に似ていますが、コレは全く『違う』モノ。アザーバイド。人間を家畜として異質なものに改造しては出荷する作業を行っております。 皆々様には、この討伐を。幸い、……幸い、と言っても良い物か些か微妙ではありますが、ここにはこのアザーバイドしかおりません。 コレは非常に膂力があり、再生力も物凄く高いです。しかし謎が多く、捕まったら何をされるか分かりません……なので皆々様の半数以上が戦闘不能なれば速やかに撤退して下さいね! 場所等の詳細資料や間取りに関しましては、こちらで手配いたしますので」 いつもの笑顔。だが、いつもの様に……不安。心配。いつまで経っても、リベリスタを送り出す時のこの気持ちは変わらない。「では」と続けた。 「お気を付けて行ってらっしゃいませ。私はリベリスタの皆々様をいつも応援しとりますぞ! フフフ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ガンマ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年02月02日(木)23:17 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●あさんしゃいん 爽やかな朝だ。職人の朝は早い。日の出におはよう、世界におはよう。 燦々。 「ふむ。正体不明のアザーバイド、人間を家畜扱いですか。」 ユーキ・R・ブランド(BNE003416)が記憶を辿れば記録されていた過去の任務。まあ、過去に例があったからといって許せる物ではないのだけれど。 目に物みせてくれましょうか。瞳は凛然、決意は熱く、纏う黒は惑う闇。 「家畜ってか、気に喰わねェなァ」 フンと不機嫌に鼻を鳴らし『機械鹿』腕押 暖簾(BNE003400)はブラックマリアと名付けられた黒紫の銃指を握り締めた。世界から借り受けた生命の力をその身に纏い、彼方に見遣る牧場はシンと静まり返っている――連れてかれちまった連中は助けらンねェが、これ以上犠牲は出させねェ! ガツン。硬い拳が搗ち合う音。『ラースフルライト』梅本 瑠璃丸(BNE003233)もまた双眸に沸々と怒りを、ガントレットで武装した己が機械の拳を開き見る。 「家畜だの出荷だの、胸糞悪いヤローだな」 だが、遠慮なくブッ飛ばせるのは有難い。小細工も何も要らないし、後腐れもない。ただ叩き潰すだけ。だが、でも、それでも。やっぱ何かムカつく。話が長ェからか?分からない。舌打ちを一つ。 「あら、家畜呼ばわりだなんて、上位世界から来たとはいえ偉く上から目線なのね。なら、狩られる側の意地というのを見せてあげないといけないわ」 朝日に白水の髪を輝かせ、体内魔力を活性化させた片桐 水奈(BNE003244)は仲間達へと翼の加護の祝詞を唱えた。鋭い鮮蒼の瞳には、 「絶対に……絶対にお前の暴挙を許しはしないわ」 ――張り詰めた氷の如くの冷たい怒り。 「警告も、威嚇射撃も必要ない相手……」 もう何度目でしょうか、と02式特殊強化装甲服のフェイス部分を開けた『俺は人のために死ねるか』犬吠埼 守(BNE003268)が吐く息と共に言う。それは冷えた空気に白く立ち昇る。 「リベリスタとしての任務、結構慣れて来たかもしれません」 それでも油断は禁物だと、深呼吸の後にフェイスカバーを閉じ銃と盾を構えた。 その一方、少し身の丈よりも大きな黒いコートを朝の風に靡かせて。 「話に聞くだけなら、家畜達から見た人間がこんな感じなのかと思ってたりもした」 『薄明』東雲 未明(BNE000340)は東の空から顔を出しかけたばかりの眩い光に紫眼を細め、誰とはなしにふと呟く。「けど」と続ける。 「けど……目にした瞬間、そういうのは嫌悪感と不快感に取って代わったわ」 許容の余地など一片も無い。いつものバスタードソードを幻想纏いから取り出すや、身体の制限をブッ飛ばして修羅羅刹が如き戦気を纏う。嫌悪。不快。斬って捨ててやる。 「ふと思ったんだが、わざわざ人を攫って加工するという面倒で足がつきやすいことをする必要があるのかが分からないな。我々のように人工授精やクローン技術で生産、本国で育成すれば簡単なのではないか?」 と、不思議そうにクリスティナ・スタッカート・ワイズマン(BNE003507)は首を傾げる。理解が出来ない、分からない。『祓魔の御使い』ロズベール・エルクロワ(BNE003500)が虚ろに頷いた。 「どうやら、りかいの及ぶ相手ではないみたいです」 彼の言う通りなのだろう。恐らくは。見た目こそは同じなのかもしれないけれど。 「ぎせいになった人達、きっと痛かったでしょう。くるしかったでしょう。だからロズは、当該対象を悪魔と断定、すみやかに死罪をあたえます」 十字架を模した長柄の鉄槌convictionを静かに構えて。これがアークで初任務、成功させたい。早く倒してしまいましょう。 「それじゃあ……行きましょうか」 細く長い刃を振り払い。未明の声に誰しもが頷いた。 ●おはようもーにん ガランドウで静まり返ってしまった。一昨日ぐらいまでは随分と賑やかだったのに。 「職人だか何だか知らねェが好き勝手やってんじゃねーぞてめえコラァ!!」 開口一番だった。 沸々と、グツグツと、言葉に形容し難くもこのストレートな感情。怒り。昂る。瑠璃丸の両腕に燐光が灯り朝日に負けじと煌めいた。 居る。居た。後ろ向きだった。 見た目こそ自分達と同じの、『異質』。 振り返った。 その目に嫌悪感が、どうしようもない嫌ーーな、気分の悪い、不愉快な、目を逸らしたくなると言うよりは小鼻に皺を寄せたくなる類の。まだ汚い物を見下す様に見られた方が何倍もマシだったかもしれない。ものをみる目。品定め。たった二つの眼球、眼球はたった二つぽっち、 「よう職人、家畜がお前を潰しに来たぜェ!」 それに。いざ尋常にと無頼の機械鹿がスペードの女王を向けた。ブチ抜きマリア。共に多くの死線を越えた黒紫の銃指。しなやかな、しなやかな。未明の提案で集中をたっぷり重ねた『彼女』が叫んだ弾丸は頭部を破壊する殺意の弾丸。殺す為に。壊す為に。撃った。撃った。スルリと目の玉を押しのけて、頭の中。中。ぱーん。炸裂。顔の穴と頭の後ろに大きな穴。ぶち撒けてしまった。パイ投げみたい。スイカ割りみたい。みたい。見たい?見たくない。見たくなんかない。撒かれたそれがするするするりとみちみちみちりと元通りのすっかり奇麗になって行く様なんて。あの目がまた二つも在った。何事も無かったかのように。 「朝早くからご苦労様、早速だけど店仕舞いといきましょうか」 強く地を蹴り、何度も地を蹴り、未明の刃が職人へ躍り掛かった。切り裂く。切り刻む。切り、斬り、KILL。確かに手応えはあるのに未明は歯を噛み締めた。のは、切った瞬間にはもう肉と肉がくっ付いているから。こんなに高速で動いているのに、それは片時も自分から目を逸らしていない瞬きすらしないで。 そして瞠目。手が伸びた。『そっと』――未明を掴む、手から生えた手から生えた手から生えた手から生えたての手から生えた手。 「っぐ、!」 『そっと。』の、筈。熟した甘~い桃を扱うみたい。手加減されていると分かる。のに、ミキミキと骨が軋んだ。瞬間、職人の手を守のジャスティスキャノンが吹っ飛ばす。ばらばらと落ちる肉片と一緒に未明も降り立ち咳き込んだ。身体が痛い――のは、水奈の祝詞が柔らかな微風となって彼方の向こうに吹っ飛ばしてくれる。 「堅実に」 その一言に尽きます。02式軽量強化防弾盾の透明な色越しに守は職人を静かに見澄ます。今回は護衛・保護対象も居ないし、時間制限も無い。的確に。勝つべくして勝ちたい所。自分は盾。装甲服の中で己が呼吸音。こっちを見ている。目玉。見ている、というより、観察、品定め、どっちにしても、何と言おうか。 「せやァッ!」 赫い闇を纏ったユーキの命を啜る一撃が職人の頭部をかち割った。胸の中頃まで裂ける、柔らかく鈍々しい感触。血が。中身が。半分この視神経を晒しながらしかし見て、居る。その頃にはもう、飛び散った血も肉もあれもこれもそれもすっかり元通りなのだ。 致命――治らぬ異常。それを受け付けぬと言うのか。再生、と言うより巻き戻し。完全に異様、完全に異質。理解を求めてはいけない。仕方ないと割り切る他に無いのだろうか。理解してはいけない。なればこそ、うっ、ぷ……と守は装甲服の中身を己が胃液で満たしそうになるのであった。 (何でしょうかね、この不愉快さは) 生理的嫌悪感を催す再生ってのは、しんどい光景だなぁ。構えた盾で、これでかつる。仲間への攻撃を妨害しながら。吐き気。また一つ潰れたそれが治った。いやあ、全然慣れてませんでした!不覚!と、だからこそ守は笑う。ニヤリと。笑ったのだ。THE RIGHT STUFF。正しい資質に父が遺した文字。教え。 『苦しい時こそニヤリと笑え。』 まずは職人という最大の障害を排除するべきなのだろうな。と。クリスティーナは集中に集中を重ねて、遂に地を蹴り飛び出した。心臓がドクドクと緊張している。重要拠点への攻撃。しかも敵は一人。事前情報だと相当の手練れと聞く。若干不安ではある。実戦経験がないから。諸先輩方の足を引っ張らぬように慎重に。往こう。母と妹曰く、必殺技を撃つ時は叫ぶのが必須らしいな。確か……大きく息を吸い込んで。 「私のこの手が真っ赤に染まる! 命奪えと狂い吠える! 滅殺! ドレイィィンクロォォォッ!!」 紅、真紅、真っ赤な一撃。とても恥ずかしいが、重ねた集中は、それに捧げた手番は威力を裏切らない。 血飛沫も赤い。皮膚の下に元通りとなったが。皮がべろりんと組織を晒して元通り。 「なる、ほど」 職人に握り締められ拉げた手を抱えたユーキが跳び下がる。肌から骨が突き出ている。見たくない。見たらもっと痛くなる。けれど、痛い。無茶苦茶で圧倒的な、純粋な、ただの力。 (個人でこれだけの力を所有しているなら、我々を家畜扱いするのも無理はない。我々の世界がボトムと呼ばれるわけだ) 水奈の歌を聴きながら。傷を治しながら。この傷が癒えるのと、あれの傷が治るのとは、本当に雲泥の差だった。剣を握り直す。 「……ですがね、我々はリベリスタだ。反逆という言葉の意味を貴方の体に刻んで逝くといい!」 飛び掛かる。見ているこっちを。飛んで来た物体がこのままだと自分にぶつかるから払い除けようとする、そんな無造作な手の行為を掠り掠め掻い潜り。思い切り薙ぎ払った。間合いは零。目の前、目の、前、真ん前。 ふたつのがんきゅうがこっちをじいっとみている 「ロズの罪が、悪魔を狩る力になるなら……つらぬきます」 その横っ面、側頭部を、宣言通り貫いたのはロズベールの暗黒衝動。黒。ユーキの目の前で頭の半分をぶしゃんと。ああ、見なければ、良かった。飛び退いて、飛び退く。見なければ良かった。嘔吐したい。胃袋がひっくり返る位。 ぽりぽり。職人が元通りの蟀谷を掻いた。うーん参ったナ、とでも言わんばかり。追い詰められてピンチだから、そんな理由だったら良いのに――今日の昼ごはん何にしよう。そんな台詞が似合いそうな顔面。片手間に沢山の手が、手が、地面に押し付ける様に伸ばされて。 「させっかよッ!」 集中を重ねていたロズベールを庇って、代わりに瑠璃丸の身体が腕に毟られるが如く持って行かれた。それでも、揺らめきかけた身体を運命を用いてでも奮い立たせて踏み止まって。 「俺自身そう堅い方でもねェ上に駆け出しだけどよ……」 ぼたぼたぼた。赤。血の気が多いから、これくらいで丁度良いんだよ。睨みつけて、一喝。 「俺にだって意地ってモンがあんだコラてめぇええええ!!」 思い切り足を振るった。苛々々々々する。それに任せて、鋭い真空刃が伸ばす腕を刎ね飛ばした。どうせ治るんだろ?チッと舌打ちを一つ。 「無理すんなよ……!」 「てめぇこそ無茶しやがったら許さねぇぞコルァア!!」 「お……おゥ、勿論俺も気ィ付けンぜェ」 苦笑、活火山少年にオートキュアーを施して暖簾はブラックマリアで狙いを定める。確実に仕留めてェが無理は禁物ってか。定めながら思う――絶望的な再生能力を誇る相手だが。少しずつ……少しずつ、その再生する速度が落ちてきている様な。 「お前の『頭』ってのは、ココか? そもそも頭って概念あんのかねェ……」 未知数だからな、そんなアレは困る。撃った。容赦なく。被害が、あの手がばら撒く破壊を少しでも、少しでも減らす為に。仲間に何かあったらなんて、考えたくも、無い。 ●おひさまさんさん 明日にはきっと元気一杯な家畜達の声が聞こえてくる。 戦いは続く。理想以上に、想像以上に。再生を封じる状態にさえすれば勝てる、そんな存在では無かった。 だからと言って臆す事が出来ようか。退く事が出来ようか。倒れる者が居ようとも、戦線は健在。ならば立ち向かうのみ。 「貴方の相手は俺です!」 守の放つ正義の十字が職人を射抜き、その視線を引き寄せる。瞬間、幾つもの手が透明な盾にへばり付いた。圧される。が、守り通してみせる。その名の如く。果たしてみせる。圧される。けれど、ニヤリと笑って一歩、前へ。 長期戦に突入するも、リベリスタ側の被害が殆ど無い事は『守る』事が役割の者達に因る所が大きいだろう。瑠璃丸も交差させた機械武装の手で仲間へ向いた攻撃を徹底して庇い、守る。だからこそ水奈は安心して冷静に戦況を見、的確な回復を行う事が出来た。だがその精神力とて無限ではない、活性化した体内魔力のお陰で燃費こそは良いけれども。 圧し切れるか―― 未明は紫眼を鋭く細めた。特別な攻撃方法が無いのなら、相手はどっかの階層の一般人なのかしら?ならば攻撃に呼び動作があるのかも……そう思った彼女の頬を、手から生えた手が僅かに掠めて赤い線を作り出した。伝う生ぬるさ。全く『異形』とはこういうモノの為にあるのだろう。分からない、理解が出来ない。自嘲じみた笑みに鋭い牙を覗かせるや、 「背に腹は変えられないとは言え、こいつに吸血とか寒気がするわね」 自分を掠めて長く伸びた手。一面の肌色。突き刺す牙、啜る生命、己が身体にこれの一部が浸み渡るなんて全く不愉快で堪らない。口元を黒いコートの袖で拭った。見遣るそれの傷口――の、治る速度。やはり。遅くなっている。確実に。 「あと少しよ――気を引き締めて行きましょう!」 皆へ、伝える。希望は潰えていないのだから。捥ぎ取ろう。全身全霊で。 「ロズ……この位じゃ、まけません」 肩を弾ませる。運命を消費まではいかずとも、決して無傷では無い。ロズベールは白い指でconvictionを握り締めた。重ねた集中に研ぎ澄ませ、翼を翻して吶喊する。 「頼ンねェかもしんねェが、そこは目ェ瞑ってくんな!」 やっちまえ――翼を生やした信仰者を機械鹿が援護した。放つ弾丸は伸ばす手を貫き逸らし、彼の進路を安全なものとする。ロズベールの目と職人の目が合った。神の威を借る者。異を狩る者。主よ、罪にそまり、罪を犯す事をお赦し下さい。 「あなたの罪、ロズが少しいただきますっ」 真っ赤に染まった十字架。磔刑が如く、容赦なく、振り下ろされ肉を割り骨に突き刺さる断罪の刑具。罪に染まった血肉を啜る。浸み渡る罪。自分が貰い受けよう、罪を少しだけ肩代わりしてしてあげよう。もう誰も何もかいぞうなんてさせません。 崩れて拉げる人型のそれ。伸ばそうとする手。往かせねェと暖簾が攻撃し、瑠璃丸の斬風脚が撥ね飛ばす。ゆるゆるとじわじわと戻ろうとする。再生しようと。ブチ撒けて。 「二度と来ないで!」 未明の剣。朝日に煌めく白銀色。がきょ、と職人の頭が向こうをむいた。剥いた。ごきゅりと戻る。その傷はもう。ボトボト。落ちて滴って逝く。ぐずぐずと、どろどろと。それでも職人はこちらを見ていた。何とも思っていない。何も起こっていない。そんな具合に。そうまるで言葉を交わすに値しない。なのかもしれない。なのだろう。同等性が在る筈がない。 どろどろぼとぼと。 その時、ゆっくりと職人が口を開けた。開けて行く。徐々に、徐々に。常軌を逸した有り得ないサイズにまで開くのに時間はかからなかった。不可解で、悍ましい――口は赤く、咽の奥はポッカリと穴。穴だ、何も見えない真っ黒い穴。咽のサイズ。巨大な巨大ない様な口、で、職人が『にっこり』笑った。不愉快で不気味で心臓がぶるりと震えた。気味が悪かった。 喜んで居る。のだろうか。 「そっちじゃねェ、テメェはあの世に送ってやンぜェ!」 不気味さに竦む足を奮い立たせて暖簾が、続いて未明も動き始めた。ブレイクゲート。見送るだけなのは癪だから。だが、もう、その次の刹那。どくんと脈打ったかと思えば、職人がひっくり返る様に吸い込まれて畳まれて、――『回収』。そんな感想を抱く光景。 消えて無くなった。職人が、穴が。 何も無かったと言っている様に朝日だけが輝いている。 終わったのだ。ようやっと。 深く息を吐いた事で、さっきまで息を止めていた事に気が付く。誰も彼も黙して、武器を下ろして、その中でも暖簾は『牧場』に何かの手掛かりがないか歩を進め出し、ロズベールは犠牲になった人々の為に祈りを捧げた。 網膜にへばり付いた笑みだけがどうしても拭い去れない。 『了』 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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