●うわさ 「君、あれでしょ、整形でしょ」 と、突然やって来たSは、Mの隣に座るなり、言った。 「え」 とか何か、目の前に座っていた女性の時間が止まると同時に、Mの時間も止まった。 でも一人だけ時間が止まってなかったらしいSが、「あれかな。目と、鼻辺りかな」とか何か、さっさと喋ってて、むしろ、え、時間は止まっていたのではないですか、とか何か、止まるわけがないのだけれど、凄い、裏切られた気分になった。 「えっと、すいません。Sさん」 「うん何だろう、M君」 「いや、何だろうじゃなくて、えあれ、何してるんですか」 「M君が、整形丸出しの女性とすんごい楽しそうに喋ってるのを見かけたから、声をかけたんだよ」 ってそんな事を、そんなどーでもいいけど、くらいの口調で言われても、どうすれば、とMは途方に暮れる。 「あのーSさん」 「うん何だろう、M君」 「自分で聞いといて申し訳ないんですけど、やっぱりちょっと、黙ってて貰っていいですか」 「どうして。彼女が、図星さされて怒るから?」 って全然めげずに言ってきた、その、憎たらしいくらいに整った端整な顔を、思わずじーとか眺める。 「あのーSさんって機械か何かで、今、誤作動中とかなんですよね」 「なんですよね、って違うけどね」 とか何か、いつもの覇気のない感じで彼は言って、「ああ、君」と、また懲りずに彼女に向き直った。 「君あれでしょう。噂のクリニックで手術受けたでしょう。あそこ、今、話題なんだよね。どういうわけか、最近凄い、予約でいっぱいだって。学生たちも良く、噂してるもの」 Mが事務職員として勤務している大学に、Sは教授として籍を置いている。彼は良く、その噂の話を、どういうわけかMに聞かせてくるのだけれど、こんな変人と噂の話を和気あいあいと話す学生の姿、というのは、想像がつかない。 だいたい、ちゃんと会話になるのか、とまずそこが、引っ掛かったけれど、こんな変人から何かを学んでいるらしい生徒の人達は、きっと自分には想像できないくらい、凄い人達である予感もしたので、もしかしたら何か、凡人には想像すらつかないような方法で、会話を成立させるのかもしれないぞ、とも、思う。 とか何か、凄いどうでも良い事を考えながら、Mが現実逃避していると。 「違います」 地を這うような低い声で、彼女が呻く。 「え?」 「違います、失礼します」 の、す、の辺りで、彼女はもう、立ちあがる。 間の抜けた声を発しかけているMを置いて、鞄を下げて、背を向ける。 そのままずかずかと歩いて行った。 追いかける事も出来なくて、Mはただ、茫然とその背中を見送る。 「ごめんね。デート中だったよね」 人のコーヒーを勝手に奪いながら、Sが言った。 「知ってたなら、声とかかけないで欲しかったです」 「あの子が、好きなの」 「っていうか、Sさんが、迷惑なんです」 「大丈夫。M君には俺が居るじゃない。俺は、整形とか、してないし」 「はーもー何でもいいんですけど、とりあえず一つ、聞いてもいいですか」 「うんいいよ」 「Sさんって女性が嫌いなんですか」 「そんな事はないよ」 とか、わりとさっくり、予想とは違う答えが帰って来たので、Mは、「あ」と、あからさまに安堵した。 「あ、それなら、良かったです」 「ただ、M君に近づく女性が嫌いなだけだよ」 「あれ、何ですか」 ●その実態 「と、そんな感じで」 ブリーフィングルームのモニターに映し出されていた映像を停止させ、『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)が、一同を振り返った。 「最近、一般人の間で噂になっているらしい、この、美容外科クリニックなんだけど。実は、この同じビルの一階にある画廊に、アザーバイドが居ることが分かってね」 そしてモニターの映像を、画廊の内部らしき画像に変えた。 「前衛的な作品を多く扱う画廊で、中にはいろいろな美術品や彫刻品が展示、保管されている。アバーザイドは、この中に紛れ込んでいるみたいだ。要するに、彫刻品のような見た目をしていてね。中性的で、とても美しい姿をしているらしい。一般人の言っていた美容外科クリニックとの関係については、余り良く分かってないんだけども、どうもね。このアザーバイドに見つめられて、「綺麗になりたいでしょう、綺麗になりなさい」とか何か囁かれると、自分の体や顔に抱いていたコンプレックスが膨らんで、いてもたっても居られなくなるみたいなんだよね。リベリスタの君達にも影響があるかどうかは……正直、分からない。フェイトを得ている君達には、一般人程影響は出ないにしろ、その時、傍に居る人に、自分の顔や体で気になってる場所の悩みを軽く吐露してしまったりとか、逆にチャームポイントを軽くアピールし出しちゃうかもしれないから、気をつけて。で。内部ね。見取り図は後で渡すけど、そんなに広い場所でもないから、探索ポイントは限られている。でも、相手も彫刻のフリして逃げてるからね。何か、捉える方法は考えておいてもいいかもね。それから、このアザーバイドの影響で、彫刻が一体、それと絵画が一点、エリューション化してしまってる。大騒ぎになる前に、これも討伐しておいて欲しい」 伸暁は、そうあらかたの説明を終えると、さて、と椅子から立ち上がり、テーブルの上に資料を配る。 「画廊には、いろいろな美術品があるみたいだから、片づけた後で、見てみてもいいかもね。じゃ、今回はそんな感じで。皆、宜しく頼んだよ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:しもだ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年01月25日(水)23:32 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 雪白 桐(BNE000185)の腰元で、じんわりとした灯りを放つランプが、揺れていた。 その柔らかい光が廊下を微かに照らし出している。 桐はドアを挟み、向かい側に立つ『鷹の眼光』ウルザ・イース(BNE002218)と視線を交わし、軽く、頷き合った。 コンセントレーションを発動中のウルザは、深い、集中状態にあるらしく、普段は柔和にも見えるくるんとした緑の瞳を、鋭く細め、じっと、ガラス戸の向こう側の気配を窺っている。 その戸の向こう側が事務所であることは、事前に入手していた見取り図で、知っていた。 桐は、念のため集音装置を発動し、同じく内部の気配をそっと、窺った。物音は、ない。 ゆっくりとガラス戸を押し込み、暗がりの内部へ侵入する。 「視界を確保。電気のスイッチを、いれます」 『境界の戦女医』氷河・凛子(BNE003330)が、壁に手を這わせ、電源スイッチを見つけだした。ぺチッ、とした硬い感触の後、パッと、事務所内に、蛍光灯の白い光が溢れる。 一瞬の、緊張の間。 けれど、飛び出してくる、影はない。 ふ、と。 微かに、仲間達から緊張が緩むような気配が漏れた。 「あーやっぱり光があるっていいなあ」 朗らかなウルザの声が、益々、その場の雰囲気を、明るくする。「灯りは文明が生み出した、有意義な物の一つだよね」 それで、あれこれ何ちょっといい事言っちゃったんじゃないの、オレ。みたいに、最近自分の中で絶賛フェアー開催中のドヤ顔で後ろを振り返ったら、まるで自らの目を光から遠ざけるように、黒いローブのフードをすっぽりと被った『背任者』駒井・淳(BNE002912)の姿があって、思いっきり、何か、否定されているような気分になった。 「今絶対何かバカにして見てたよね」 「気のせいだ」 「いや絶対何か、思ってた。オレには分かるんだって。何せほら、オレ達は」 親子。と言おうとした時にはもー淳は全然聞いてませーんみたいに、ふわーと事務所の隅へと移動している。 「いや、せめて聞いてよ」 「ふーむ。それにしても、今回のアザーバイドは、動く彫像でしたっけね。怪談話に良くありそうですよねえ」 ユーキ・R・ブランド(BNE003416)が、ロングコートに包んだ190センチは超すであろう身の丈から、辺りを見下ろし、言った。 「日本のエリューションはこう……何と言いますか、意表を突くバリエーションに富んでいますねえ。あと、何でもいいんですけど、日本のドアは、框が低いんですよねえ」 それで何か、どさくさにまぎれて、わりと気になっていた事を、ちょっと言ってみた。 そしたら何か、丁度隣に居た『理想狂』宵咲 刹姫(BNE003089)が、「分かるっす分かるっす」とか何か、凄いライトに同意して来て、 「あと、日本繋がりで言えば、あのアークに見せて貰った映像の中で噂喋ってたSとかMとか、日本人の男っすよね。あの二人、やべえっす」 とか何か、どさくさにまぎれて、ギリギリ繋がってなさそーな話を無理矢理繋げて来た。 「はーやべえっす、とは」 「あの状況、やべえっすよ。何か、思わなかったすか?」 「いえ、何も気づかなかったんですが……」 「あたいはばっちり分かったっすよ! 状況は把握したっす!」 「はー、それは、どういう……」 「あれは、S×Mっすよね!」 って、彼女は凄いライトに言って、どういうわけかその手に、サムズアップを。 「…………」 「ところで情報によると確か、今回のアザーバイドは、コンプレックスを想起させる能力を持っているとか」 凛子が、画廊内部のパンフレットをめくりながら、不意に、言った。「まあ、体についての悩みはわりと誰でも持っている物だったりしますからね」 それから、はふ、とか何か、わりと実感のこもった溜息を吐き出す。 「何を仰る、凛子殿!」 それでいきなり、ドン、と肩を叩かれ、バシッと来た衝撃になぬ、とか思って顔を上げると、そこには、和服姿のリザードマン風音 桜(BNE003419)が、何だかとってもきらきらした瞳で立っていた。 「人は、それぞれに個性があるからこそ、美しいというもの!」 とかいうのを暫くじーとか見つめ、凛子は、言う。 「はーまー、それはそうなんですけど」 そこで、桜が、ビッと言葉を遮るように手を翳した。 「ええ、ええ、拙者とて分かっておるのでございまする。時として個性というのは確かにコンプレックスの種ともなり得るものなのでござろう。しかし、そこにつけこむとは、アザーバイドめ許せぬ! 拙者がこの手で成敗してやるでござる!」 「うん、まあ、今回は成敗じゃなくて、捕縛なんだけどね」 すると横から『黒姫』レイチェル・ブラッドストーン(BNE003442)が、さくっと訂正の声を挟んだ。 「あ。そうでござったな。捕縛、捕縛」 「まー。整形自体は否定しないけど、押しつけられてやるのだとしたら、それは不幸な事だわ。だいたい、コンプレックスに思ってるのだって勝手な思い込みって事もあるし、それが魅力だって言う人だっているかもしれないわ」 「私としては」 監視カメラの電源操作を終えた桐が、皆に合流しながら、言う。「今回のアザーバイドに関して言えば、悪意在る存在と断じる事はできない気もするんですけどね。でもまあとにかく、大人しくして頂きましょう」 「一般の鑑賞者に影響が出てるぐらいだし、本命がいるとしたら二つの展示室のどちらかしらね」 レイチェルが言うと、 「ええ、そうですね、その可能性が高いでしょう」と、桐が頷く。 「では」 凛子が、パンフレットの地図を、ポン、と指で押さえた。 「まずは、その場所から」 ● 「ほ~。変わった作品ばかりで御座りまするなぁ」 室内に展示された作品を見やりながら、桜が、言った。 8人のリベリスタ達は、A展示室からドアで遮られただけのB展示室へ向かい、歩いている。敵はまだ、出現していなかった。 「うーん、前衛的な粗大ゴミっつーとこすかね」 全然分からん、みたいに小首を傾げ、刹姫が答える。 「でもさ、でもさ」 と、先頭を歩くウルザが、軽いステップを踏むようにくるん、と後ろを振り返り、笑みを浮かべる。 「アザーバイドの方は、評判によるとだいぶ美人らしいんだよね。どんな子かなー。情報から考えると、きっと言葉も通じるよね。話してみたいな」 って言い終わるか終らないかの内に、背後で、淳が、フフフと、小さく笑ったのが、聞こえた。 それは別に、バカにしたからとかそう言う事では全然なくて、実の所を言えば淳も、美しすぎる人が一体どれくらい美しいのか興味津々で、自分を満足させるだけの器量を本当に持っているのか、とか、むしろ本当に美人ならば、何だったらもー口説いてもいーとか考えて、ちょっと笑っただけだったのだけど、そうとは知らないウルザは、過敏にむーっとした。 それで何か言ってやろーとか思って勢い込んだその矢先。 彼は、ハッと、敵の気配を察知する。 「おっと。敵さんのお出ましだ」 と、その声が終わるか終らないかの内に淳は、守護結界を発動した。ローブを纏った手で印を結び、瞬時に防御結界を展開すると、ウルザの前へ、歩み出る。 「来たようですね」 同じく集音装置の影響で、敵の動きを察知していた桐は、従容として言い、幻想纏いから破界器「まんぼう君」を出現させる。 「その影響でゴーレム化と言うくらいですから。この近くにアザーバイドも居る可能性が高いと思います、気をつけて」 そして次の瞬間にはもう、その手に、マンボウをそのまま更に薄くしたような巨大な剣が現れ。 更にその背後から凛子が、翼の加護を発動した。 細身の桐の体に、バッと小さな羽が出現する。自らもリミットオフを発動する彼女は、まさに破滅的な勢いで走り出した。 それに対峙するように、バタバタバタ、と、ズボン下ろしたまま走る人、みたいに何か、動く彫像が、B展示室から駆け出してくる。 「しかし、そんなに無理に動かなくてもよかろうものを」 桐に続くように走りながら、ユーキは思わず呟いた。「切れている足で歩くというのは、エリューションにしても不合理な……なんて気にしては負けですか」 その間にも桐は、その細身の体からは想像できない豪快さで、まんぼう君を振り回している。バシーンとか何か、彫像を横から思いっきり叩き、吹き飛ばした。 彫像はズササササ、と床を滑り、ドーンと壁に激突。かかっていた絵が、ガンッ!! とか、落ちた。 そこへ、闇纏を発動したユーキが飛び込んでくる。長身を闇のオーラで包み、彫像を惑わすような動きで懐へ飛び込むと、振り上げたブロードソードを、そのまま振り下ろし、魔閃光を放った。動く彫像に向け、暗黒の衝動を持つ黒いオーラが、鋭く、飛ぶ。 それが命中し、その脚を撃ち抜くや否や、追い打ちをかけるかのように、桐が至近距離からデッドオアアライブを炸裂させた。 その全身を包む闘気が、パアアンとビックバンを起こすように破裂する中、飛び上がった彼は、振り上げたまんぼう君で、強烈な一撃を叩きこんだ。 「芸術品は自己主張せず鑑賞されるものですよ?」 彫像は粉々に飛び散った。 一方その頃、「叫ぶ男の絵画」と対峙する刹姫は、二つの刃を持つ剣「蛇腹剣」を鞭のように扱い、絵画の動きを足止めしていた。 絵画は、ひょい、と床の上を滑り、彼女の攻撃を交わし、牽制するように放たれた攻撃が、ビシッと、床を打つ。 「チッ! こいつ、意外とちょこまかとウザいっす」 「援護するわよ」 レイチェルが後衛から、魔閃光を放つ。 グレートソードから放たれた黒いオーラが、低空を走り抜けて行った。 のを、べた、と後ろに仰け反り地面に張り付くようにして、絵画は避ける。 「そうなると思ったっすよ!」 刹姫が、アデプトアクションを発動した。「隙あり!」 蛇腹剣の刃を、ガツン、と打ち込む。 同時に、絵画の中央に書かれた男の口から、びょお、と何かが飛び出して来た。冷気の息だ! 「うわっ!」 刹姫は咄嗟に、受け身を取る。鋭い冷たさが、防具の隙間から、体を打ち抜いた。 すかさず背後から、凛子が天使の息を発動する。囁くような詠唱で清らかなる存在に呼びかけ、彼女の傷を、癒した。 その間にも絵画は、さて、次の攻撃ですよ。とばかりに起き上がり。 「そうは、させない」 艶のある美声が、低く、響いた。淳は、素早く呪印封縛を展開すると、絵画の動きを束縛する。 ガッ、と、あれ何これやばい動けない、みたいに、敵が固まった好機を見逃さず、後衛からウルザが、 「そして、ヒーローの登場なわけだね」 神気閃を解き放った。 いかめしくおごそかな聖なる光が、その華奢な体からぶわっと溢れ。 ビュッと、鋭い速さで一直線に絵画へ向け飛んで行くと、絵画の全てを焼き払った。 更に一方その頃、桜は。 「アバーザイドの影響でゴーレム化という事ですからこの近くに居る可能性が高いと思います、気をつけて」 という、桐の言葉に、ハッと、自らの作戦を思い出していた。 その名も名付けて、脅威の我慢比べこちょこちょ大作戦・敵は動かざるを得ない作戦。 って言っても別に、用意しておいた羽ペンを構え、その辺りに並ぶ彫像の脇の下をこちょこちょ、こちょこちょ。とやっていくだけの地味な作戦なのだけれど、とにかくまあこれで、笑い出してしまえばもうけもの。 と。次々に彫像の脇をこちょこちょしていく。 そして四つ目に取りかかった時だった。 突然。 その手を、冷たい、この世の物とは思えないくらい冷たい手が、掴んだ。 「ぬ」 と顔を上げたら、そこには、何という美しく整った顔……。 「あ、アザーバ……」 けれど、すぐに頭の中が白い靄がかかったようになり――。 「じ、じつは……拙者は、そ、その、あそこの太さに悩みが……」 気付けば、すっかり混乱状態でそんな体の悩みを吐露していた。 のだけれど、そんな事とは知らず、敵の撃破を終え、丁度傍に近づいて来ていたユーキは思わず、その、もしかしたら公衆の面前で、言ってはいけない事を言い出しそうになっているかも知れないリザードマンの肩を、叩いた。 「どうしたどうした、いやいや大丈夫ですか」 「やっぱり……あれが細いと仲間に示しがつかないでござるよ。あれは、何というか、男の象徴でござるよ。やっぱりあれの太さで」 「いやいやいや、ちょっと待って下さい……アレってもしかしてあの」 「そう尻尾でござるよ! 尻尾は、男のロマン! 尻尾は、リザードマンの命!」 って何だよ、尻尾かよ! って気が抜けて、気が抜けた瞬間、目の前には。 美しい顔。 「コンプレックスですか。ええ、身長ですかね。中学ぐらいの時分から伸び始めて、高一で既に今の背丈ですよ。女物の服など着たことも……こんちくしょう。綺麗になれと言いましたねええしてもらいましょうか。この背丈を30cmほどほら縮められるものならして見なさい。今すぐさあ」 「ってわー、ユーキさん、マイルドに据わった目で混乱してっるすー!」 とか何か、戦闘を終えた刹姫が、更に駆けつけて来て、その手を引き、アザーバイドから引き離そうとする。 のだけれど、そんな彼女を、アザーバイドはまた、じっと、見つめ。 「キレイ二……」 「いやいやそんなん、あたいには効かねぇっすよ! 何せあたいは綺麗っすからね。美容整形なんて要らねーし、胸も大きいし腰も括れてて贅肉も無いんすよ! 胸の重みで肩凝り? あたいは特に無いっすね」 って確実何か自慢とか始めちゃった感じの彼女を見て、レイチェルは思わず、「いやそれ、混乱しちゃってるんじゃないの」 「え? ま、マジすか。あるぇ~? ハハハ」 とか何か、参ったなーみたいに頭をかきだした刹姫は、はた、と真顔になった。「いや、やっぱり効いてないっすよ。あたい、事実しか口にしてないっすから」 「うん。間違いない。混乱状態よ」 「いや、そんなはずないっす。おかしいな……」 「まあ。でも、その気持ちは分からないでもないわ。私も、コンプレックスがないわけじゃないけど、概ね満足してるもの。兄様も褒めてくれるし……それにほら、フォトグラビアを飾るほどじゃないけどスタイルには自信があるつもりよ。胸は普通程度だと思うけど、日本人に比べれば大きいしね。腰もちゃんとくびれてて脚だって短いわけじゃないわ。これで不満なんて言ってたら悪いわよね」 「ってどんどん皆、混乱しちゃってますけど」 桐が、今度こそアザーバイドの捕縛ですよ、とばかりに、駆けつける。 が。やっぱりアザーバイドにうっかり見つめられ。 ふと、俯き、その白い頬を赤らめた。 「私は、もう少し……背が欲しいのです……」 そしてチラッと、遅れて駆けつけた長身の凛子の方を。 って、相手が男性なのは分かっているのだけれど、その何だかとてつもない、愛らしさの艶っぽさに、思わず凛子は、 「いえ、それはそのままでも良いのではないでしょうか。十分、可愛らしいですし」 とか、わりと真顔で何か、言っていた。 「え?」 「ん?」 とか何かやってる間にも、やっとこさアザーバイドを挟み打ちにした、ウルザと淳が、それぞれ、トラップネストと、呪印封縛でその身を拘束する。 「よし、捉えたぞ」 「はいはい、そのままそのまま」 ウルザがささ、と歩み寄り、その両手をロープで縛った。「大丈夫、怖くないからね。大人しく、元の世界に帰ろうね」 それにしても、見れば見る程、本当に美しい顔をしたアザーバイドだなあ。とか何か、ウルザは、ちょっとうっとりとする。 そしたら何か、ゆらーとか近づいて来た淳が、 「では、その前に、私の屋敷で美味しいワインでも、どうだろう」 とか何か突然言い出したので、え、その手があったの、と、ちょっと、目からうろこで驚いた。 「あ、ちょっと待って、じゃあさ、じゃあさ、むしろ、オレの部屋で夜明けのコーヒーとか飲んじゃおうよ」 それで何か、買わなきゃ損なバーゲンセール! みたいな勢いで、気付けば、便乗してアザーバイドを口説いていたのだけど、そしたら何か、黒いフードから覗く真っ赤な切れ長の瞳に、もー睨まれた。 「ね? 見たでしょ? この顔。怖いよね。絶対ついてかない方がいいよ」 「やかましい」 「だいたい新しく女の子口説く前にオレを認知して欲しいって話だよね。だからさ。この人は放っておいて、オレの部屋で夜明けのコーヒーを飲も」 って続けようとした途端、どういうわけか、物凄いマイルドに体が動かなくなった。 え! とか思ってるウルザの横を、黒いローブ姿がさーとか通り過ぎて行く。 しかも絶対横を通り過ぎる瞬間、淳は、ふ、とか何か、笑った気がした。 「ひどいよ父さん! 今凄い無言で後ろから呪印封縛とかしたでしょ! 何してくれてるんだよ!」 「気のせいだ。だいたい、父親だというのも気のせいだ。もしくは、混乱のせいだ」 「絶対、気のせいじゃない! どっちも!」 「さあ。美しい君は、こちらへ」 一方凛子は、彫像や絵画の贋作を、アクセス・ファンタズムから取り出し、空いた場所に展示していた。 「後で無くなったと騒がれても面倒ですしね」 独り言のように呟いて、これでよし。と、その場に居る仲間を振り返る。 「さてと。皆さん、大丈夫ですか。帰りますよ」 そして、混乱してしまった仲間達の為に、聖神の息吹を詠唱してみることにした。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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