● イ……イエッ、ス……アリス、ノーロリータ……。パニッシュメ……へっくしょい、ぶへっくしょぉい! 男達は寒風吹きすさぶ中、海水パンツ一枚でガタガタと震えていた。 目の前には湖がある。 彼等はこの一月中旬に、氷のように冷たい水の中へと何度も飛び込み、ある物を探していたのだ。 「まだ見つからぬのかのぅ? わらわはもう待ちくたびれたのじゃー」 「あんたたち、本気で探してるー?」 設置されたテントからは、防寒服に着膨れた二人の少女が顔を出した。 男達は揃ってそちらを振り返り、にごりと引き攣った笑みを返す。 「きもっ」と言って少女達は引っ込んでいた。 「……三隅さん、俺達死ぬんじゃないっすか?」 がちがちと歯を鳴らしながら、一人の男が言う。 「弱気な事を言うな山下。俺達は死なない。いや、死ねない理由(わけ)があるだろう?」 三隅と呼ばれた男が返す。無駄にイイ微笑を浮かべ、山下と呼んだ男を振り向きながら。 その顔色は蒼白だった。 しかし――おかしく聞こえるかもしれないが、それでいて尚も、彼の顔は生気に溢れていた。 「この仕事が終わればアリス達の家で、温水プールでキャッキャウフフ。ノータッチは痛い所だが……。 それを貴様も忘れた訳ではないだろう」 「ですが……彼女達の我々に対する扱い、とても約束を守るようには……」 「アリスを信じる心を失ったら、俺達は終わりだ。……それに案ずるな、もしもの際にはここに沈んでいるアーティファクトを使えば良い。むしろ、俺はそれを望んでいるのかもしれないが。そうなればノータッチなぞ……くそくらえ、だ……」 傾いで行く三隅の身体。 「み、三隅さぁぁぁぁん!!」 意識を失いつつある三隅を取り囲む男達。 割とどうでもいい惨状がそこには展開されていたのだった。 ● 「依頼。今回はアーティファクトを一つ回収してきて欲しい」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、集まったリベリスタ達にそう告げる。 「回収するアーティファクトは、『クピドの矢』と呼ばれる物。とはいえこれは単なる識別名称だから、今回回収するその矢自体に謂れがある訳じゃない。モノ自体は単なるアーチェリー用のグラスファイバー矢」 なあんだ、という顔をするリベリスタ達。 「でも、放置しておける物じゃないよ。バレンタインまで一ヶ月切ってるし」 その矢の効果は既に察しがついているだろうが、射られた相手は使用者に対し一時的な恋愛感情を抱く。 時期的にも、こいつを放置しておいてはろくでもない事件が起きるだろう事は明らかだ。 「この中にも多分欲しがる人はいると思うから先に言っておくけど、依頼は回収オンリーね」 無情にもイヴはそう告げていた。ちゃんと彼氏彼女は自分の手で作って下さい。 「それで、仕事を行うにあたっての障害なんだけど……」 イヴは端末を操作する。 モニターには湖、と言ってだいたい想像出来るものよりふたまわりほど小さいものが映し出された。 あとその岸辺に並ぶ10人ほどの男の尻。こっちは見なかった事にしたい。 「地図にも載らない名前もない、小さめの湖。沼って言った方が近いのかもしれないけど、一応水深が5メートル以上あって透明度が高いから分類上は湖。一番目の障害はその地形自体。湖の底に沈んでいるから寒中水泳必至」 なお、アーティファクトが沈んでいる詳しい場所については分からないらしい。頑張って探そう。 「二つめの障害はこの……」 言葉に詰まったイヴの台詞を、リベリスタ達は脳内で補完した。10人ほどの尻。 「何回か遭遇してると思うけど、LKK団っていうフィクサード集団。悪人とは言い切れないけど変態とは言い切れる、そういう集団」 彼等は今回、バレンタインに備えてクピドの矢を欲しがった二人の覚醒者にホイホイ利用されて、この湖へのダイヴを繰り返しているそうな。 「まあ、彼等は皆が到着した時点で殆ど戦闘不能だから、大した事はないと思う。軽く一蹴出来る感じ。二人の少女も片方はフォーチュナだから戦闘能力はないし、多分すぐに逃げるから大丈夫」 なので、やっぱり最大の障害は寒中水泳と。 「頑張って来て。暖を取るものだけは忘れないように持って行ってね」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:RM | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年01月24日(火)23:34 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 湖を望む。 言われた通りにそれは小ぶりで、確かに沼と言った方が通りは良かろう。 「LKK団……噂には聞いておったが馬鹿なやつらじゃ……」 そのほとりで、『暗黒魔法少女ブラック☆レイン』神埼・礼子(BNE003458)は呟いていた。 「ああ。こんな寒い中、延々寒中水泳とか恐れ入るぜ」 流石は話に聞くLKK団、痺れも憧れもしないがな、と言うのは緋塚・陽子(BNE003359)。 そうなのだ、今回はロリババァコノヤロコノヤロ団の話なのである。 ロリを愛し、故にロリババァを憎む、精神的には屈強な変態フィクサード集団。肉体的には――こいつらはそのスタンスによっていろんな派閥に分かれている為、いまいちこうと言えないが、大部分たいした事が無い。 今回出張って来ている連中も概ねたいした事が無い方。 この湖の向こう側で、なんか飛び込んだり意識が途切れそうになったりしてる。 「報われる事などまず有り得ぬのじゃろうに……不憫じゃの」 本当に哀れむように、そう言ったのは『不誉れの弓』那須野・与市(BNE002759)だ。 彼女は肩に魔法瓶を提げ、大きな鞄を持ってこの場に来ていた。 鞄の中に入っているのはタオルのようで、大きさの割にさほど重そうではない。 「懲りぬやつらじゃからのう。自業自得じゃよ……にゃっはっは」 『緋月の幻影』瀬伊庭 玲(BNE000094)は笑ってみせる。 二人はLKK団と関わるのもこれが初めてではないようであった。まぁ、同じ組織とは言っても前述の通り、殆ど繋がりは無いような物なのだが。 さて、今回は障害と言うべき障害も存在しないという事で、一同の顔に緊張感は全く無い。 LKK団の連中は既にガッタガタだし、それと現在遊んでる二人も元アークだし。 強いて言えばアーテイファクト探しが一番の難題だが、それも『おっ♪おっ♪お~♪』ガッツリ・モウケール(BNE003224)がかなりの自信を見せている様子である。 「そうだお、あちきはLKK団に前々から興味があったんだお。アークと掛け持ちでは入れないのかお?」 「……無理だと思います。あんなのでも一応フィクサード集団ですから」 そういえば、小学校低学年のアリス達を延々見守り続ける仕事をしていてお縄になった人なんてのも居ましたね。 一番無害そうな派閥でも普段はそんなんだから、入るのはちょっと無理そうだ。 告げた『銃火の猟犬』リーゼロット・グランシール(BNE001266)は軽く溜息を吐いていた。 今回は水陸両用に作ったスーツの使い所かとやって来たものの、ガッツリのプランがそのまま実現してしまうとまたまた使えず仕舞いに終わりそうである。まぁ、局地戦用は難しいやね。装甲がべらぼうに厚いとかならまだしも。 「ごほん。……では、何時も通りアークに利益を」 咳払いを一つ。最終的にそうなるのであれば、特に異存は無いとリーゼロットは表情で告げる。 「ろりこん、ってなぁに?」 『オブラートってなんですか?』紫野崎・結名(BNE002720)は無邪気に問いかけていた。 「自分の遺伝子を後世に残せない、可哀相な人達の事ですよ」 『第13話:華麗にドーン』宮部・香夏子(BNE003035)はそう返す。 そして、指差していた。彼等が進むにつれて、徐々に大きくなりつつある男達の集団を。 彼等はぷかりと水面に浮かぶ仲間を棒で岸に引っ張り寄せたりしている。飛べる奴とかいないのか。 「あれだけ人数が居て、探索に役立つスキルを持っている者が一人もおらんのかのぉ。どうせロリを見分けたり、騙したりするスキルしかもっておらぬのじゃろうて」 それはそれで彼女もヤバいのではないかと思うが。だってロリババァだし。 「……はて、何の事じゃろうのぅ」 問いかけるような視線を向ける仲間たちから礼子は目を逸らす。 「……三隅さん、俺はもうダメかもしれません」 何度目かの山下の弱音。三隅は既にまともに取り合う気を無くしていた――自分自身もそれどころではなかった――が、彼が寒がる様子を見せるでもなく、ぼんやりと遠くを見つめているのが気に掛かって、そちらへ視線を遣る。 「……俺もダメかもしれんな」 三隅はそう言っていた。自分の目をごしごしと擦りながら。 ロリが来る。5人ばかりも。こんな場所に。まず幻覚を疑ったのは人として当たり前の事だろう。 その後彼は、横に居た山下を殴り倒していた。 「殴った手が痛い。夢ではないのか」 「……普通、自分の顔を殴りませんか……?」 ● 「暗黒魔法少女ブラック☆レインちゃん参 上! お兄ちゃん達、クピドの矢の回収はボクに任せて☆」 ぼけっと突っ立っている10人程の男達の前で、礼子は言った。言ってしまった。 彼等はそれに戸惑ったような反応を返す。何人かは普通に微笑ましげな表情を浮かべていたが。 バレたのか単にハズしたのか微妙な反応に、冷や汗を浮かべる礼子。 「LKKだんのおにーさんたち、カードゲーム持ってきたからあそぼ?」 微妙な空気を打ち払うように、結名はにぱー、と笑っていた。おおおっとどよめく男達。 止め処なく流れる鼻水も引っ込めて、最早寒さも感じて居ないかのように、彼等はその顔にジェントルメンの仮面を被っていた。俺が俺がと牽制し合いながら前に出る姿と海水パンツ一丁はどう見ても紳士ではなかったが。 「ええい貴様等、冷静になれ! これは罠かもしれん!」 連中を一喝する三隅。しかしその後に続く言葉は大方の予想通りだ。 「俺が行く」 「ずりぃぞ三隅さん! 沈痛そうな表情したってダメだ!」 テントからはいきなり起こった騒ぎを聞き付けて、元から居たアリス達二人が顔を出していた。 「……何の騒ぎよ、いったい」 「あー、ほのか殿じゃったかの? アークの者じゃと言えば分かって貰えるじゃろうか」 玲の言葉に一発で状況を察したのか、んげー、というような顔をする、るなとほのか。 「まぁ、どうせまだ手に入った訳じゃないし。今回は仕方ないわね」 「じゃのぅ。どっちみち矢よりこっちの玩具の方が面白くなって来ておった事じゃし」 やけに物分りの良い事を言う二人に、玲はむしろ半端なフィクサードより厄介そうな気配を感じていたが、口には出さなかった。 「あの、最初に言っておきたいのじゃが、わしらはアークのリベリスタでの。しかし今回はお主らの討伐は仕事に入っておらぬ。邪魔さえされなければ戦う理由は無いのじゃ」 与市は一人一人にタオルを手渡しながら言う。 「あと、わしは以前、LKK団の人にロリ婆としてカウントされた事があるような、古臭い喋りをするのであんまり気分が良くないかもしれぬが……」 ぽむ、と一人の団員が与市の頭に手を置いていた。とても優しい笑みを浮かべながら。 「気にするな。それは、そいつらの目が節穴だっただけだろう。子供の頃は祖父や祖母の喋り方を真似したり、とにかく色んな事をやってみたくなるもんだ。古風な喋り方の幼女なら何人も見守って来た」 最後で台無しだった。あとあなたの目も節穴だと思う。 「イチコロでしたね。香夏子は働かなくて済んで良かったです」 もぐもぐとカレーを食べながら、香夏子。 「そういえば」 彼女ははたと気付いたようにスプーンを置いた。 「名前で呼ぶのは禁止の様なので、礼子さんの事は礼子さんと呼んでは、いけませんよ?」 LKK団の面々は一度香夏子に注目してから、ああ、あの子か、と礼子の方を見た。何度か。 山下は頻りに首を傾げている。そしてぽつりと言った。 「……いろけを感じる」 山下に集まる視線。本当なのかロリ・ソムリエ! 次いで三隅に集まる視線。どうなんだグラン・ロリ・ソムリエ! 「俺は感じないな。勘違いじゃないのか、山下」 グラン・ロリ・ソムリエは平板な声で言っていた。なぁんだ、驚かせるなよロリ・ソムリエ。ロリ鑑定士一級の資格を持つグラン・ロリ・ソムリエの言うことなら間違いねぇや! 「大丈夫ですか、レインさん」 「し……心臓に悪いのぅ。こんな事ならバレてしまった方が良かった気がするのじゃが……」 ● 「おーい、まだか? 早く見つけてくれねぇと沼の中に落とすぞ」 「おっおっおー! もうちょっと待つお。多分アレなんじゃないかと思うお」 陽子はガッツリを抱えながら湖の上を飛んでいた。 重いし寒い、あんまり長い事こうしていたくはないが、潜って探すよりは比べるべくもなくマシだし。 後は抱えられているガッツリが透視で水の中を見、矢を見つけた後はテレキネシスで持ち上げられれば何の問題も無いのだが。 「あ、何か無理っぽいお。何かに引っ掛かってるお」 一度試してみて、ガッツリはそう言っていた。 まぁ、グラスファイバー製の矢が沈んでいるという事はそういう事だ。 アーティファクトとして革醒した結果、10キロ以上に重くなったという訳ではないという事が一応の救いか。 「出番ですか」 特にやる事もなかったので膝を抱えていたリーゼロットが立ち上がる。 彼女はいそいそとメットに酸素ボンベを取り付け、水の中に潜って行った。 なお、傍らでは香夏子がばさりと着物を脱ぎ捨て、LKK団の野郎達から歓声を浴びていた。着物の下は裸じゃないのかよ、との嘆きと共に地面に頭を叩き付けている阿呆も一人居たりしたが。 「ゆけいハンゾー! 宝を手に入れてくるのじゃあ!」 「承知でござる」 式神を放つ玲。そして香夏子と式神は水の中に潜って行き……何分か経った後にじたばたしながら浮いて来た。 どうやら予想以上にヤバい冷たさだったらしい。 俺が助けるんだ、いや俺が、と殴り合いの喧嘩を演じているにわか紳士達の群れにはハイライトの消えた目でナイフを握った結名が近づき、陽子は水から香夏子を引き上げる。 「そうじゃ、手伝ってくれるなら……わしからは何も出来ないのじゃが、バスタオルで体を拭いてあげるくらいなら……」 「行って来ます!」 ざざぶん、と数人飛び込むLKK団。 「うむ、何事も無く終わったら温水プールへ行くのも良いのぉ。頑張るのじゃぞー!」 玲が煽れば彼等は猛然と水の中に潜って行く。そしてやっぱり数分と経たずに浮いて来た。 「ええぃ、世話の焼ける奴等じゃ」 釣り竿を振るい、男どもを引っ掛ける礼子。まさかこんな使い方をする事になるとは思ってもみなかったが。 そして早くも復活した香夏子は、浮かんだままピクリとも動かないLKK団の男を棒でツンツン突っついていた。 布団を被ってストーブに当たり、働きたくないでござる状態になっているLKK団達。 ガッツリは湖に小石を投げ、水切りをして暇を潰していた。 「……見つかりました」 リーゼロットが戻って来たのはそんな空気の中へである。 一度水ですすいで付着した泥を落とし、彼女は回収したクピドの矢を掲げてみせる。 それは確かにただのグラスファイバー矢だったが、何故か全体が蛍光ピンク色だった。 「おお、見つかったか。ではさっさと帰るのじゃよ」 何やらくつろぎモードに入っていた仲間達に呼びかける礼子。 しかし、その前にはやけに気取ったポーズを付けて、二人の少女が立ち塞がる。 「ふ……そういう訳には行かないわ。探してくれてありがとう、と言うべきかしら」 「こやつらは本当に使えぬ奴等じゃったからのぅ」 「なんじゃ、これはアークが回収していくぞ。お主らに渡す義理はないのじゃ」 ベタな展開ではあるが、ここまで来て戦闘か、と身構えるリベリスタ達。 「ふん、一応こっちの方が人数は多いのよ。体も暖まってるみたいだし。さああんた達、あれを奪いなさい!」 しかし、LKK団の男達は全員「えー?」というような目でほのかを見ていた。 一応リーダーっぽい三隅に至っては布団に包まったまま寝転がり、起きすらしない。 「…………こっ、今回は引き分けって事にしておいてあげるんだから!」 「負けた訳ではないのじゃぞ、戦ってすらおらぬのじゃからな!」 何と言うか、しらけたムードが満ちる中で、捨て台詞を吐き逃げてゆく少女二人。 「やれやれ、あの二人にはいつかお灸をすえてやらねばなるまいて」 礼子はその後姿を見送りながら、そう呟いていた。 「しかし、レインちゃんの正体は結局バレなかったとは。それもそれでつまらぬような……」 「……次に会った時には容赦はしないさ。4人のアリスに感謝するんだな、ロリババ――」 玲の言葉に、寝転がったままごろりとこちらを向き、囁く三隅。 「貴様はただ自分の欲望に負けただけじゃろうが」 礼子は、男を湖へと蹴り込んでいた。そして、ゴミの不法投棄はいけないんだおー、というガッツリの声が無情に響く。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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