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駆けた先で落ちる前に

●見知らぬ姿と素知らぬ悪夢
 年を経てすっかりくすんでしまったが、少女にとってその白色は何よりも温かい色だった。
 けれど今、その白は不穏な赤色に染まってしまっている。
 夜に光る街灯に照らされるは、二メートル程の巨体。可愛いと言い切るのは少し難しいが、けれどどこか間抜けで憎めない顔と、もふもふとした柔らかい体。長く伸び垂れ下がっている耳の付け根には、淡いピンク色のボタン。
 一見、うさぎの着ぐるみに見えるその姿。しかれども、実際は違う。
 惜しいと言えば惜しいのだが、その正体は着ぐるみではない。
「なん、で……」
 少女は驚愕をはらんだ表情で、自分の一番の親友である『しろいうさぎのぬいぐるみ』を見つめた。
 次いでその大きな瞳は、相手の足元に倒れている自分の母親の姿を捉える。
 すでに母は、息をしていない。

 少女は、あまり母親の事が好きではなかった。
 ――はずだった。
 喧嘩の絶えない両親。リビングから響く怒声に目を覚ましては、不安な気持ちを少しでも紛らわすために、一緒に寝ていたぬいぐるみを抱きしめる毎日。
 今宵家を出たのだって、母の言葉にカッとなったのもあるが、日頃溜まっていた鬱憤が爆発した結果であった。
 けれど、決して母親のこんな姿が見たかったわけでは、ない。
 そして、
「なんで、なんでこんな事するの! ポッケは喧嘩なんかしないって思ってたのに!」
 『彼』のそんな姿も、見たくはなかった。
 ポッケと呼ばれた巨大なぬいぐるみは、少女の叫びを聞いているのかいないのか、彼女の事を無機質なプラスチックの瞳で見つめ返した。

●子供は夢を見るべき時間
「一般人の少女が家出したの。エリューションと一緒に」
 室内に、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)の澄んだ声が落ちる。
「件のエリューションは、フェーズ2のE・ゴーレム。殴る蹴る等の攻撃を中心に、範囲内にいる者を腕で薙ぎ払ったり、体当たりをしてきたりもする。配下には、人形が元であるE・ゴーレムを三体率いている」
 配下エリューションのフェーズはいずれも1であり、全体回復能力や範囲内の敵を魅了させる能力を持っている事を、イヴはリベリスタ達に伝えた。
「フェーズ2のE・ゴーレムの元となったのは、少女が大切にしていたうさぎのぬいぐるみ。少女にはポッケと呼ばれている。彼女の部屋にて突然革醒したけれど、少女や周りに危害を加える様子はなく、最初は驚いていた少女もすっかり気を許してしまった。たとえ姿が変わっても、彼女にとっては毎日一緒に過ごしてきた『親友』だし」
 ぎゅ、とお気に入りのうさぎのポーチを一度抱きしめてから、オッドアイの少女は続ける。
「けれど、彼女の母親はそういうわけにもいかなかった。突然巨大化し自由に動き回るようになったぬいぐるみを、不審に思うなと言うのが無理な話。母親には、E・ゴーレムの姿は化け物のそれにしか映らなかった。だから、正直に叫んでしまったの。『娘から離れて! この化け物!』、と」
 大切なぬいぐるみを化け物扱いされた事に怒った少女は、E・ゴーレムと共に家を飛び出してしまう。
 日頃から、両親の喧嘩の絶えない家には少し不満を抱いていたらしい。今回の件で、それが爆発してしまったのだろう。
 理由はどうであれ、エリューションが関わってしまっているのだから、今回の件はただの子供の無邪気な家出騒動では済まない。
 近い未来、少女の事を捜しに来た母親に見つかったE・ゴーレムは、今までの大人しい態度はどこにやってしまったのか、母親の事を殺害してしまう。
 どうやらこのE・ゴーレム、少女と自分の逃走劇を邪魔する者には容赦がないらしい。
 このまま放っておけば、彼に影響を受けた少女が革醒してしまう可能性もある。早急に討伐するに越した事はないだろう。
「エリューションと少女は、すでに家を出てしまっている。でも、今から行けば、公園で休憩中の彼らの元に母親が彼らと接触する前に辿り着けるはず。
 ……子供が遊ぶには、もう遅すぎる時間。それにすら気付いていない家出少女を、早く家に帰してあげて」

●夢見がち逃避行
 時を同じくして、街を走る影があった。
 駆ける駆ける、白い巨体。されど足音は響かない。
 大きなぬいぐるみと小さなお人形三体、そして幼く無邪気な少女のみで行われる、夜の街のパレード。
 しかれども、ぬいぐるみの背に乗る少女の顔はどうしてか優れない。
 それに気付いたのか立ち止まった大きなぬいぐるみに、「い、家には帰らないよ!」少女は慌てて告げる。
「だって、ママはポッケの事をバケモノだって言ったもの。こんな可愛いバケモノ、いるわけないのに。それに、いっつもパパと喧嘩ばっか。あんな家にいたら、わたしいつか不良になっちゃう」
 口を尖らせた後、ようやく元気を取り戻した少女は、再び歩き始めた大切なぬいぐるみに強く抱きついた。
「ねぇ、ポッケ。これから、きっとたくさん楽しくなるね。いっしょに楽しいところに、たくさん行こうね」
  少女は楽しげに笑い、相手の耳元へ口を寄せる。そして、内緒話をするかのように囁くのだ。
 ――わたし達、カケオチするのよ。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:シマダ。  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年01月30日(月)22:02
 シマダ。と申します。宜しくお願いいたします。

●任務達成条件
 敵エリューションの撃破と、一般人の少女の保護です。

●場所
 夜の公園です。街灯がついているので、明かりの心配はありません。
 戦闘の障害になりそうなものも、特には見当たらないようです。
 騒ぎすぎると、近所の人が様子を見にきてしまう可能性があります。

●敵エリューション
 元はうさぎのぬいぐるみである、二メートルほどの大きさのフェーズ2のE・ゴーレムです。ぬいぐるみですが、見た目はどちらかというと着ぐるみに似ています。
 殴る蹴る等の物理攻撃をくわえてきたり、体当たりをしてきて陣形を乱したり、巨大な腕で範囲内にいる者を薙ぎ払ったりします。
 もこもこしてそうなその見た目とは裏腹に一撃一撃は重く、耐久力もなかなかのものです。
 自分の持ち主である少女に従順であり、今のところは彼女に危害をくわえる様子もありませんが、少女と自分の逃避行を邪魔する者にはたとえ少女が止めようが容赦なく襲いかかります。
 少女と共に逃げられそうな隙を見つけ次第、逃走する恐れがあります。

●配下エリューション
 可愛らしい容姿のお姫様のお人形です。全部で三体います。
 可愛いポーズを取り周りにいる者を魅了してきたり、綺麗な歌声で味方全体の傷を癒したりします。
 直接的な攻撃手段はなく耐久力も低いですが、体が小さいので身のこなしが軽いです。

●少女
 E・ゴーレムの元となったぬいぐるみの持ち主である、五歳程の一般人の少女です。喧嘩の絶えない両親に、少々寂しい思いをしているようです。
 E・ゴレームの事は、生まれたばかりの頃からずっと毎日を一緒に過ごしてきた大切な存在だと思っており、彼の姿が変わってしまった今も信頼しております。

 以上です。皆様のプレイング、お待ちしております!
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
デュランダル
遠野 御龍(BNE000865)
ソードミラージュ
雪白 凍夜(BNE000889)
★MVP
ソードミラージュ
ポルカ・ポレチュカ(BNE003296)
覇界闘士
クルト・ノイン(BNE003299)
ナイトクリーク
フィネ・ファインベル(BNE003302)
ホーリーメイガス
氷河・凛子(BNE003330)
ナイトクリーク
明神 暖之介(BNE003353)
ダークナイト
アルトリア・ロード・バルトロメイ(BNE003425)

●寝ない子悪い子おしゃまな子
 良い子はもう眠る時間だというのに、その公園には幼い少女の姿があった。
 更に奇妙な事に、傍らにはうさぎの形を象った大きな影も寄り添っている。
「こんな時間に何をなさってるのですか?」
 不意に、落ち着いた低音の声が少女の耳へと届く。
 顔を上げた少女の目に映ったのは、長い黒髪を持つスーツ姿の女性。『境界の戦女医』氷河・凛子(BNE003330) だ。
『九番目は風の客人』クルト・ノイン(BNE003299)も、凛子の声に続く。
「一人かい? 迷子? お母さんは?」
 どちらも、優しげな声音だった。
 しかれども、少女は不安げな表情で彼らの顔を伺っている。訝しんでいるようだ。
 公園に、第三者が現れる気配はなかった。
 明神 暖之介(BNE003353)や『復讐者』雪白 凍夜(BNE000889)、アルトリア・ロード・バルトロメイ(BNE003425) が、強結界と結界を張ったおかげだろう。
 今ここにいるのは、リベリスタ達八人と、駆け落ちごっこに投じている少女とぬいぐるみ達だけだ。
 戦いの時はもう間近まで迫っている。少女達に気付かれぬように、各々は戦闘の準備を済ます。
 クルトの視線が一度少女から外れ、傍らに佇む巨大なうさぎのぬいぐるみへと向けられた。
「……それは、ぬいぐるみ? 可愛いね?」
 次いで投げられたその言葉に少女は少しだけ警戒を解いたようだが、未だ不安は消えぬのかぬいぐるみの陰へと隠れてしまう。
(少女の大事なぬいぐるみが動き出し少女と一緒に逃避行、しかしその続きはハッピーエンドで終わらない、か)
 せめて、誰も死なない内に終わらせよう。
 そう思いクルトが踏み出した一歩が、開戦の合図であった。
 リベリスタ達を『自分達の逃避行を邪魔する者』だと判断したぬいぐるみが、クルトに向かい強靭な腕を振るおうとした。
 驚いた少女が、ぬいぐるみから僅かに距離を取る。クルトはその隙を見逃さない。
「今だよ!」
 その声を合図に、リベリスタ達は一斉に動き出した。

●佇むは悪夢
「ポッケ!」
 事態が飲み込めず思わず友人の名を叫んだ少女の声に、ポッケと呼ばれたぬいぐるみは彼女に慌てて駆け寄ろうとする素振りを見せる。
 しかし、
「よお、悪いが行かせる訳にゃいかねえな」
 気配遮断を使用していた上に、その速さ。ポッケに、彼、凍夜の姿を捉える事は出来なかった。
 少女とポッケの間に割り込む事に成功した凍夜は、攻撃に備えながら相手の出方を待つ。
 動いたのは、ポッケではなく人形の方が早かった。お姫様の形を象った人形達は、見るものを虜にさせる笑みを浮かべてみせる。
(守りたくて、寂しさを拭いたくて、一生懸命、力を手に入れたんですね。それでも……崩界が進めば、待つのはお別れだけだから)
 ――止めます。
 瞳に決意を宿らせ、茂みに隠れていた『何者でもない』フィネ・ファインベル(BNE003302) は戦場へと飛び出した。
 ポッケの退路を塞ぐため、ぬいぐるみの後方にて武器を構える。
 彼女のところまで、人形達の魅了の攻撃は届かない。フィネの放った道化のカードは、一体の人形の体へと難なく突き刺さった。
 ぬいぐるみと人形が他の仲間達に気を取られている内に、翼の加護を使用した凛子は素早く少女の体を確保する。
「な、何なの! どうして私とポッケが駆け落ちする邪魔をするの!」
 少女が騒いだが、今彼女のワガママを聞くわけにはいかない。
 大切なものと駆け落ち。それは少女が大切な者を捨てないといけなくなるところまで、至っているのだろうか。
 悲しみから逃避し、悲しみを増やす。凛子は胸中で眉根を寄せた。
(そんな事になれば、きっと悲劇です)
 少女の思い描いているハッピーエンドとは、程遠い。
 凛子はなるべく優しげな声音で、少女に語りかける。
「もし貴女の両親が黙って居なくなれば悲しくなりませんか?」
 少女の瞳が見開かれる。
 少女を凛子に取られた事で、ポッケが更に激しく暴れ出した。
 守るように少女の体を抱きしめながら、凛子は次の言葉を投げかける。
「こうして貰うことが、二度と無くなる覚悟はありますか?」
 少女の脳裏に、今よりももっと幼い頃、母親に抱きしめられてあやされた記億がよぎる。
 駆け落ち。テレビに出てきた、とてもロマンチックな気がする言葉。
 少女はぬいぐるみと共に逃げてしまいたかった。
 けれど、果たして駆けて駆けて、自分達はどこまで行くつもりだったのか。
 本当は向かい合いたいはずの両親に背を向けて、どこに行けると思っていたのか。
 結局少女は、凛子の言葉に何も答える事が出来ず口をつぐんだ。

「幼き者の純粋な感情は、時に厄介でもあるな。このまま留め置くことなど出来ない。たとえ、恨まれようとも」
 凛とした表情で人形を抑える、女騎士アルトリア。
 闇のオーラを纏った彼女は、一体でも多くの人形に傷をつけようと、暗黒を使う。
「忌まわしき闇の力、その身に受けるが良い」
 複数の対象を一度に傷つけ、人形を不吉に苛ませたが、代償に削られるは自身の生命力。しかれども、アルトリアの毅然とした表情は崩れない。
「家出するってぇことはぁお年頃なんだねぇぃ。まぁ年齢的にはまだ早い気はするけどぉ。悪い子にやぁお仕置きしなきゃねぇ。くくく。まぁいい」
『外道龍』遠野 御龍(BNE000865)の雰囲気が、冷酷なものへと変わる。
「相手にとって不足なし。今日も暴れさせてもらうとするか」
 彼女の赤と蒼の瞳に映るのは、人形ではなくポッケの方だ。
 相手を選べなかった事は、エリューションの不幸だったかもしれない。獲物に狙いを定めたオオカミに、手加減という文字はないのだから。
 容赦無く叩き込まれたギガクラッシュに、ポッケの声なき悲鳴が上がる。恐ろしいのは、闘いを楽しみながらも御龍の冷静さは失われていない事だろう。
 ポッケが反撃するように腕を振り上げたが、細心の注意を払っていた御龍に深手を負わせるには足りなかった。
「子供は夢見る時間よ。駆け落ちだなんて、おしゃまさん」
『作曲者ヴィルの寵愛』ポルカ・ポレチュカ(BNE003296)の 残影剣が、人形に劣らぬ美しい軌跡を描く。
「それにしても、あんな小さな子を寂しがらせて、こういう時、親の顔が見たい、って言うのかしら? まあいいわ、悪い夢は終わりにしましょう」
 駆け落ちごっこ。幼い少女の、幼い夢物語。しかし、その正体は悪夢。
 決してハッピーエンドなどは待っていない。クルトは、寂しげな笑みを浮かべて呟く。
「悲しいほどに、現実的だね」
 ここは、少女が求めた楽しいだけの夢の中ではない。現実でしかないのだ。
 鋭い速さで繰り出される、クルトの得意な脚技。かまいたちにより、人形の体が切り裂かれた。
 先程とは別の人形が、周囲にいる者をその愛くるしさで狂わそうとする。
「私には愛する妻が居るものですから、惑わされる訳にはいきません」
 けれども、防御に専念していた暖之介の心にその笑顔は届かずに終わった。
 人形達よりよっぽど魅力的な妻の姿が頭を過ぎり、暖之介の戦いにはますます熱がこもる。
「ポッケ、嫌だよ……。喧嘩なんかしちゃ……。なんで、なんでなのっ!」
「こいつはもう、嬢ちゃんの知ってる“可愛いポッケ”じゃねえんだ」
 跳躍し強襲をかけ、人形の数をもう一体減らす事に成功した凍夜が、少女の悲痛な叫びに言葉を返した。
「見てみろ。嬢ちゃんの“ポッケ”はこんなことすんのか?」
 凍夜の示す方向には、少女と自分の逃避行を邪魔する者達を殲滅せんと腕を振り回す少女の友人の姿。
 攻撃を受けたリベリスタ達から苦悶の声がもれようとも、自分の身体が傷つこうとも気にも止めない姿。
 その姿は、嗚呼、まるで――。

●無我夢中myriend
 少女の傍に行ったフィネは、彼女が落ち着くのを待ってから口を開いた。
「駆けっこは、得意ですか?」
「……かくれんぼのほうが、好きだけど」
 少女の返答に、フィネも「お姉ちゃんも、かくれんぼ、好きです」と微笑む。
「今のポッケは、ずうっと休まず、駆けっこを続けてるようなものなんです。貴女に笑って欲しくて、大きくなったけど……このままじゃ、倒れて、消えちゃう」
 そうなる前に、戻したいんです。
 フィネの真剣な声音に、少女もフィネの顔を見つめる。
「動かないポッケは、嫌い、ですか?」
 少女はすぐに首を横に振った。そんなわけがなかった。動かなくとも喋らなくとも、駆け落ちが出来なくても。
 そう、たとえ本当に『バケモノ』だったとしても、彼女にとって彼がかけがえのない親友である事には変わりはなかったのだ。
「お姉ちゃん達が、必ず元に戻します。目を閉じて。ポッケの無事を祈ってて、ね」
 フィネのお願いに、少女は恐る恐るといった様子で頷いてから、ゆっくりと目を閉じた。

 残る人形はあと二体。その内の一体が、清らかな声で仲間の体を癒す。
 もう一体は、最後の足掻きとでも言うかのようにアルトリアの心を無理矢理虜にする。
 しかし、直ぐ様凛子が癒しの息吹を具現化し、傷ついた者の傷を癒しアルトリアの目を覚まさせた。
「恩に着る」女騎士は凛子に礼を言い、今しがた受けたばかりの恩を敵を滅する事により返すべく、武器に黒いオーラを纏わせる。
「……悪く思うな」
 アルトリアの呟きと共に、暗黒のオーラが人形へと放たれた。直撃を受けた人形は、それきりぴくりとも動かなくなる。
 着実に減らされていく自分の仲間、不利な状況から抜け出したいともがくかのように、ポッケはその大腕で周囲を薙ぎ払う。
「くっ……」
 直撃を受けた御龍の口からこぼれたのは、苦悶の声ではない。笑声だ。
 見た目の割になかなかに力強い一撃を放ってきたエリューション。しかし、その事実は逆に御龍を楽しませる。
「この程度の攻撃で、我を止められると思うな!」 
 獲物を逃がさんべく注意しながら、放たれるは電撃。力強い一撃が、ポッケの仮初の命を大幅に削りとる。
 ポルカの残像を纏った剣を受けた人形に、ヒビが入った。クルトも、鋭い蹴撃を入れる。
 続け様に暖之介が放った生糸に締め付けられた最後の一体の動きが、痺れるように鈍った。
 傷を治す癒しの歌をうたうべく人形が開口しようとするが、痺れのせいでそれは叶わずに終わる。
 この好機を逃すわけにはいかない。リベリスタ達の猛攻は続き、人形は抗う事すら許されずその地へと伏せた。
 これで残るは、ポッケだけだ。
 全ての仲間を失ったポッケが、逃げ道と、そして少女の姿を探すかのように視線をさ迷わせる。
「どこを見ている! 相手はこの我だ! このぬいぐるみ野郎!」
 しかし、リベリスタ達がそれを許すはずもない。響く御龍の声。
 彼女だけでない。他のリベリスタ達も、ポッケに狙いを定めている。
「逃がしはしない。お前は此処で潰えるんだ」
 アルトリアの静かな、けれど迫力をはらんだ声。
 少女は手の届く距離におらず、退路も塞がれている。もはや、エリューションに退却するという選択肢はなかった。
 あとに残った道は、戦いの道のみ。

 少女の家出騒動はまだ終わらない。戦いは未だ続いている。
 暖之介の従者である影も加わり、ポッケ側から見ればまさに多勢に無勢。リベリスタ達の優勢であった。
「……大丈夫」
 恐らく不安がっているであろう少女に、ポルカは柔らかな声で囁く。
 桃色の瞳がポッケの姿を見据えた。それは、今日のポルカの敵。けれど、あの子の大切な友達。
「ねぇ、ポッケ。仲直りしよう。ぼくと、きみと。きみとあの子と」
 あの子は、きみのそんな姿は見たくない。
「ほうら、笑ってお別れしよう」
 ポッケは答えない。答えるすべを持たない。拳で応えるしかない。
 しかし、殴っても蹴っても、たとえ体をぶつけ吹き飛ばしても、 リベリスタ達は何度だって彼へと立ち向かう。
『喧嘩』を続ける。
 これは、ポッケと少女のための『喧嘩』でもあるのだから。
(“ポッケ”だってよ。嬢ちゃんが大事だったんだってさ)
 そんな優しい嘘を、本当に出来れば良い。故に、凍夜は武器を構える。
「変わっちまいそうになるのを、ずっと我慢してたんだよ。……けど、それもそろそろ限界だ」
 凍夜が視界の隅で捉えた少女は、未だ祈り続けている。
 フィネとのお願いの通り、ポッケの無事を、ただひたすらに。
「それでも大事な友達だってか?」
 ――ああ、違いねえ。
 それはただの偶然だったのかもしれない。たまたま、その場所に少女がいただけかもしれない。
 けれど、一見少女をその背に守るかのように凍夜と少女の間に立ちはだかった巨体に、天邪鬼な少年は皮肉げな、しかしどこか満足気な笑みを浮かべた。
「そいつは、嬢ちゃんの事が好きだったし、嬢ちゃんは、そいつの事が好きだった」
 少年の言葉は続けられる。
「それを引き裂く、俺らが悪い。恨んでくれ」
 走る、閃光。目にも留まらぬ速さで、切り裂かれる少女の友人。
 断末魔などはなかった。声を持たぬ巨体は、音もなくその場に崩れ落ち、それきり動かなくなる。
 ……悪夢は今、終わったのだ。

 夢の終わりに気付き瞼を開いた『あの子』に、ポルカは向かい合う。
「きみの大切なお友達と、喧嘩してごめんなさい」
 今度は、ポルカと少女の仲直りのために。
「でもね、きみのことを心配してるひとが、いるの。……ねえ、お家に帰ろう? きみの心を満たす存在は、きみの傍にいるわ」
 次は、少女と彼女達の仲直りのために。
 そして、少女と、少女を守りたかったであろう大きな友人のために。
 ポルカは柔らかな声で、言葉を奏でた。
「わすれないで、おぼえておいて。きみにも分かる日がきっとくる、だって女の子ですもの」
 ――ママもパパも、きみのことを愛してる、ほんとうよ。

●そうして少女は目を覚ます
 静かな公園だった。先程までの喧騒が、まるで嘘のような。
「お姉ちゃんに出来るのは、ここまで」
 フィネの手により大まかに繕われた白いうさぎのぬいぐるみが、少女の手に渡される。
「続きは、貴女のお母さんにしか出来ない。この子が、何から貴女を守ろうとしたのか。貴女が、何を我慢してきたのか。ちゃんと説明して、ポッケを助けてってお願いしましょう?」
「貴女が言うのです。喧嘩しないで、と。貴女が言えば、ご両親も解ってくれます」
 フィネと凛子の言葉に、少女は先程とは違い、今度はしっかりと頷いてみせた。

 母親が姿を見せるのに、そう時間はかからなかった。
 再会は早いほうが良いと思ったクルトが、探しに行ってくれたのだ。
 息を切らせて公園へと飛び込んできた彼女は、娘の姿を見つけるなり、「――!」少女の名前を呼ぶ。
 他のものなど目に入らないのか、一心不乱に娘へと駆けよりその小さな体を抱きしめる。
 少女の目が見開かれる。
「ごめんね、――」
 少女の目の前には、泣いている母がいる。
 いつもの怒鳴り声ではなく、嗚咽をあげる声が耳へと届く。
「ママ、」
 本当はとっくの昔から、逃げていたのだ。両親と向き合う事から逃げていた。
 喧嘩をするどころか、話をする事すら避けていたのは少女だった。
「ごめん、なさい……っ」
 ぽろりと、少女の瞳から大粒の涙がこぼれ落ちる。
 ここは現実。夢みたいに、全てが自分の思い通りに行くわけにはいかない。
 だから、少女は話す。今まで我慢していた、全てを。
 本当は大好きな、ママに。

 落ち着いた母親に、クルトは声をかける。
「……深くは聞かないけど、1つだけ。子を導くのは、親の務め。あまり子供を寂しがらせては、だめだよ」
「愛情を与えるべき親が不仲を見せていては信用もされなくなるだろう。もっと仲睦まじい家庭を築くべきだ。多感な時期なのだから」
 アルトリアは言葉を紡いだ後、(……もっとも、親の愛など受けたことのない私が言うべき事ではないのかもしれないが)人知れず遠くを見やる。
 女騎士の背負う闇は、この夜よりも暗い。けれど、彼女は今日も確かに、誇り高き正義を貫ききったのだ。
「家出の事は反省しているようです。叱らないでください。子供は親をよく見ています」
 凛子の言葉に、暖之介も続く。
「責めるつもりはありません。ただ、きちんと愛を伝えてあげて下さい……貴方なら出来るはずです」
 あの子を探してここまでやって来た貴方なら、きっとね。
 そう呟いた彼の表情は、温かみに溢れている。
 それはまさに、子を愛する明神家の父の顔であった。

 大型のデコレーショントラック、御龍の愛車『龍虎丸』は走る。
 目的地は、親子の家だ。それで、今宵の幼い少女の家出騒動は幕を閉じる。
「まぁあんまよそ様の家庭に首突っ込む気はないけどさぁ。お互い仲良くしなよぉ。家族ってぇものはそれだけで尊いものなんだからさぁ」
 戦闘の時の鬼神のごとき様子とは打って代わり、飄々とした様子で御龍は笑った。
 それからこの家族がどうなるのかを、リベリスタ達は知らない。彼らが背を押せるのは、ここまでだからだ。
 ここから先は、彼女の話。
 夜を駆けほんの少しだけ素直になった、女の子と、その家族の話だ。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 お疲れ様です。成功おめでとうございます!
 家族仲の事まで気にかけてくださり、ありがとうございました。皆様のおかげで、親子がまた向き合える事が出来ました。
 MVPは大変迷ったのですが、おしゃまな女の子の目線というものをしっかりと理解して語りかけてくださっている気がしたポルカ・ポレチュカ様に捧げさせていただきたく思います。

 優しさに溢れた素敵なプレイングの数々に、少女はもちろんの事私も胸を打たれました。少女の無事に、ポッケもきっと感謝している事でしょう。
 皆様のお手伝いが出来た事を、とても光栄に思います。ご参加ありがとうございました!