●裂け目より 岡山県某所―― 谷深くの岩場。その場所は鳥も上空を飛ばぬほど空気が重々しく、風光明媚な土地でありながら地元の住民でも好んで立ち寄る者はいなかった。 そこに特に巨大な岩がある。 ……訂正する。あった、だ。 今は無い、あるのは砕かれ散らばった小石のみ。 代わりに大地に大きく開かれた口のような裂け目が存在を主張していた。 先は深く見えない。けれど息苦しく、不安を駆り立てられるような――まるで地獄にでも続いているような――そんな裂け目。 その奥で声がする。 「我、自由也」 「否、我らは自由じゃ」 「そーだそーだ自由だっつーの!」 声は低くくぐもり聞き取りにくい。その上喉が張り付いたようにかすれている。 事実声の主達は苦しそうに咳き込み、苛立ちの声を上げた。 「喉、渇おりき。早う酒にて潤して満たさせたしものでござる」 「おれ的には温泉に入りたいぬ!」 「疾く参らん。久しき現世なり」 声の主達は奥より這い出てくる。まず最初に日の下に映ったのは黒く歪な鋭い爪。そしてすぐにその全身が。 ――それは、禍々しいとはこういうものだと言わんばかりの姿形。 赤黒い肌はところどころ死肉のようで肩と膝は異様に盛り上がり、拳は指が太すぎて閉じられないようだ。分厚い唇からは乱杭歯がはみ出し牙で常に開かれている。その額にはそれぞれが違う形の歪んだ角。盛り上がった皮膚で目は半分飛び出し、突き出された腹は大きく堅い。 それは三体、太陽を見上げて顔をしかめながら歩き出す――人里へと。 「まずはなにをばせむ」 「好きにすればいいしー?」 「疾く、渇きを」 日の下に映る彼らの姿は異様で……もし人が見かけたならこう叫ぶだろう…… 鬼と。 ●酒鬼 昔々、ある山奥に小さな村がありました。 人々は戦に巻き込まれることもなくのんびり暮らしておりました。 ところがある日、村に三人の鬼が現れました。 彼らは暴れ、家を壊し、人を取って喰いました。 村人達はどうすることも出来ませんでしたが、旅の僧が彼らを温泉に連れて行き酒を勧めました。 彼らは温泉に喜び上機嫌となり、温泉で散々飲み明かすと寝てしまいました。 僧は酔った鬼達を山に運び、深い裂け目に投げ込み結界を施して蓋をしました。 以後鬼が村に現れることはありませんでした。 昔々のお話。 ●お酒と温泉 「そういう昔話が見つかった。鬼……アザーバイドかも」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は先の話の後、資料として昔話の文献を置く。 「この鬼達はこの後温泉街に現れる。温泉につかり、酒を飲み荒らす。温泉街は大パニック」 そのまま皆逃げられれば良かったんだけどね――つぶやきを挟み、続ける。 「何人かは逃げ損ねる。鬼はお酌をさせ、粗相をした人を殺し始めるよ」 今すぐ岡山に行って欲しいとイヴは言い、鬼の資料を渡す。 それぞれフェーズは2相当、その中でも強力な部類。かなり強いが、酒を飲むことで能力が落ちていくという。 「皆は好きなタイミングで戦えばいい。言えることは、鬼はとても強力。まともに戦えば被害はどうなるかわからない」 では、酒を飲むだけ飲ませてから戦えばいいのかと問うリベリスタにイヴは答える。 「時間が立てば立つほど人が殺されてしまう……けれど、皆が負けてしまえば結局殺されるから」 だから判断は任せる――イヴは言外でそう言った。 うなづき部屋を出ようとするリベリスタにイヴは言う。かつての僧は鬼を封印をしたらしいけど―― 「もう結界じゃなくていい。鬼は退治されるものだから」 お願いね、とイヴはぺこりと頭を下げた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:BRN-D | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年01月28日(土)23:54 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●鬼と仲居とリベリスタ (なんでこんなことになっちゃったの) 嗚咽は厨房の片隅で酒を温める女性のもの。旅館に勤める仲居のようだ。 酒を沸かすのも手が震えていてはうまくいかない。焦れば焦るほど時間だけが過ぎていく。 どうしよう、あのバケモノ達が遅いと怒るかも知れない。そうしたらどうなる? あの腕で、爪で、牙で――! ……逃げてしまおうか。 頭に過ぎる素直な気持ち。そうしたら私は助かる――私だけが。 今もバケモノのそばに居る皆は……それでも。 嗚呼それでも思ってしまう――私だけでも助かりたいと。嗚呼。 「逃げてもいいんだお?」 突然の声に驚く女性に、子供っぽい笑顔を向けたのは『おっ♪おっ♪お~♪』ガッツリ・モウケール(BNE003224)。彼女は根っからの明るい声をかける。 「助けに来たお。後はあちきらに任せればいいお」 「安心してください。皆さんに危害は加えさせません」 戸惑う女性の手を安心させるようにそっと握ったのは『境界の戦女医』氷河・凛子(BNE003330)だ。彼女に柔らかく微笑まれ女性は少し落ち着いたようだった。 女性に場所を問いかけ、凛子は必要分の仲居の衣服を手際よく配り終えると自身も着替えはじめる。 その手馴れた動作に女性は安心を感じていた。突如現れた正体不明の一団。けれど自分達を助けると言う彼らはどこか頼もしげに思えて―― 後ろから肩を叩かれ女性の思考は中断する。振り返った先には年若い少女が微笑み立つ――オッドアイを輝かせ。 「――この『緋月の幻影』が命ずる……」 今日は何も無い。待っていれば良い。『緋月の幻影』瀬伊庭 玲(BNE000094)の左の魔眼の力が、女性の記憶を薄れさせてゆく。 そして彼女は今日身に起こった不幸を忘れ去る。 ――それでも、この人達に任せればもう大丈夫という安心感だけは心の片隅に残ったままで―― 「遅い! 何時まで待たせるんじゃ!」 激昂し杯を投げ割る異形の鬼。ところどころ腐った皮膚を持つこの醜悪な風貌に仲居達は悲鳴を必死に押し殺し耐えていた。苛立ち叫ぶ二本角の鬼を笑い飛ばしたのは一本角の鬼。 「しばし待て。焦らずとも酒は逃げぬ。おなごも逃げぬわ」 のう――と仲居を眺め頬を緩める同胞を苦々しく思いながら鬼は黙り込んだ。彼と自分とでは好みが違う。わかっていように―― 「お酒をお持ちしました」 その声に、ようやくかと腹立たしげに目線を動かすと一人の人物に目が留まった。おお――いるではないか。 年の頃は20代後半か、脂の乗った頃合じゃ。黒いコートはよれよれで、身だしなみに無頓着なのはぼさぼさのその髪でよくわかる……面倒見てやりたくなるのぅ。表情をあまり動かさないのも、様々に変えさせるのが楽しみじゃ――! 鬼の舌なめずりにぞっとしない気持ちを抱く。が、これも仕事と心を奮い起こし『燻る灰』御津代 鉅(BNE001657)は二本角の鬼に近づき声をかけた。 「俺と野球拳で勝負しないか」 お酒を運んできた見覚えの無い顔に仲居達は戸惑う。その仲居達の横に凛子はそっと並び呼びかける。 「助けに来ました。声には出さないで」 言って凛子は一人ずつ下がるよう指示をする。焦らずゆっくりと……落ち着かせながら彼女達を促す。 「うん? なんぞ、なにをしておる」 目ざとく声をかける一本角の鬼に、お酒を運んできた女性は手にした扇子をひらりと振り視線を自身に向けた。 「あら、私ではご不満ですか? ささ、そんなことよりもう一献」 微笑んでお酌をしたのはユーキ・R・ブランド(BNE003416)。女性のお酌におおと一声し、頬を緩ませ鬼は酒を飲み干した。 仲居が数人退出するのと入れ替わりに入ってくる一団。そのうちの一人、和装の旅芸人の格好をした男性が頭を下げる。 「芸を魅せましょう」 言葉の締めと共に温泉に舞い散り降り注ぐ無数の桜の花びら。鬼達は驚き水面に落ちた花びらを掴まんとし、手がすり抜ける様に愉快げに喜び笑う。 「まだまだ芸はありますよ。ゆっくりくつろいで下さい」 退避する仲居へ視線を向けさせぬよう、鬼の注目を集める『むしろぴよこが本体?』アウラール・オーバル(BNE001406)は続けざまに雪を降らせていった。 「あ、あの人達なんだったの?」 避難した仲居が後ろを気にしながら脱衣所を抜ける。 だがそこでぎょっとして足を止めた。そこにはパーカーを深くかぶった小柄な人物がおり、何かをせわしなく口に放りこんでいたから。 ん、と視線に気づき温泉饅頭を持つ手を休める。上げられた顔はあどけなく少女であるとわかった。 「こわかったわよね。ルカたち倒すから、泥船にのった気分でいるといいの」 それ、大船なんじゃ――力ない突っ込みに反応せず、『シュレディンガーの羊』ルカルカ・アンダーテイカー(BNE002495)はにっこりと微笑んだ。 「あれ、なんとかしたらごちそうたべたいのよ」 ●鬼とお酒とリベリスタ (封印なら二度と解けんようにして欲しかったが……昔の人間に文句を言っても始まらんか) 鉅はため息を押し殺し、幾度目かのじゃんけんを行なう。始めのうちは負け、徐々に勝率を増やし…… 超直感で鬼の手の動きは完全に読めていたため、勝敗は鉅が自由に操作できていた。 それでも勝ちっぱなしにしなかったのは、鬼の気分をよくしゲームを続けさせる為である。 「おお! よしよし勝ったぞ、やれ脱げや」 負けるたびに一枚服を脱ぐ鉅だったがそれなりに服を重ねており、酔いも周り熱くなった二本角の鬼はすでに一枚脱がせる為に七杯は酒を浴びていることにも気づいていない。 ふらつく鬼の様子に、作戦の成功を確信しながら鉅はシャツを放り投げた。 「……見苦しいったらないしー?」 馬鹿騒ぎをしている同胞を見やり冷笑を浮かべて三本角の鬼は温泉につかる。 やれおなごだおのこだと、人間如きにうつつを抜かすなど。人間など酒を運び注がせ、飽きたら殺してしまえば良いのだ。 思考が途切れたのはふと見やった温泉の水面。そこには美しい空が、世界が広がっていた。 頭上を見上げても空は見えない。ならばこれは―― 目線が合い、アウラールは悠然と笑みを返し酒を持って近づいていく。 「良い温泉の条件って知ってます?」 酌を受けつつなるほど、と鬼は満足げに頷く。良い温泉には、旨い酒と最高の景色がつきものである。 世間話などしながら幻影を描き、そしてアウラールは思うのだ。 ――長い封印の果て、死する前に見る景色くらいは美しくあってもいいだろう―― ユーキのお酌を受け、一本角の鬼は鼻の下を伸ばしながら酒を飲んでいた。醜い風貌はでれでれとたるみ余計に見れたものではない。 なかなかのハイペース。すぐに持ち込んだお酒が尽き、下がるユーキと入れ違いに着物姿の芸者風の女性が側につく。 「おお? 先刻はおらなんだ顔であるな」 酒臭い鬼の息を受けながら悠然と笑み、酒や料理を運ぶのに入れ替わっていると答え『煉獄夜叉』神狩・陣兵衛(BNE002153)はお酒を注ぐ。 そのまま酒を飲もうとする鬼の手を取り、陣兵衛は色香を漂わせ言葉を紡ぐ。 「儂と飲み比べで勝負するのはどうじゃ」 ほう? と興味を持つ鬼に、陣兵衛はもう一つ言葉を付け加える。 負けたら好きにして構わない――鬼の目が変わるのを見やり、陣兵衛は内心で笑んで酒を傾けた。 玲は七人目の仲居に暗示をかけ、安全な場所へと送り出した。 (魔眼を使うのもなんだか楽しくなってきたのじゃ……) 疲れもあってかちょっとハイになってクックッと悪い笑みを浮かべてたり。 あと三人だおと声をかけ、ガッツリは再び温泉の全体の様子を己が千里眼で確認し…… 瞬間、リベリスタ達の脳裏に映像が走る。それに反応しとっさに数人が飛び出した。 ガキンと鈍い音をたて、ユーキが、凛子が、アウラールが仲居を狙って飛ばされた爪を弾き落とし立ちふさがった。 悲鳴をあげ逃げていく仲居達。全体に気を配るガッツリがいなければ被害は避けれなかったかもしれない。 「はっ! いい動きじゃん、やっぱりただの人間じゃなかったしー?」 攻撃を飛ばした三本角の鬼が愉快げに笑った。暇ゆえに面白くするための行動が、更に面白いものを引っ張り出したという愉快。 彼の行動の理由。それは彼が一人になる時間ができたこと。アウラールは彼の興味を大いに引くことが出来ていた、せめて後一人サポートが入っていれば問題なかったであろうが……全体に酌をして回る凛子だけでは抑止力にはなりえなかったのは仕方が無い。 「なんじゃ、ただの人間ではあらなんだか!」 一本角の鬼の言葉に陣兵衛はわずかに考えたがもはや無駄と悟り、舞うように扇を広げて自身の愛刀、羅生丸を取り出す。 陣兵衛の動きに顔をしかめる鬼。 「これからが良いところであったのにのう……」 それでも戦いこそ本意とばかりに一本角の鬼が杯を放り投げた。 「お主ら、かつて我等を封印した奴らと同じ能力者であるな!」 答えようの無い質問なれど、凛子はふむと頷いた。旅の僧とは…… 考えを胸にしまい、代わりに凛子は答える。質問への返しではなく、この先のメインイベントを。 「宴も酣、宴の締めは鬼退治になっております」 ●鬼とバトルとリベリスタ 鬼が高らかに笑い爪を打ち出す――より早く、脱衣場より飛び出した影が一つ。 「鬼退治なのよ」 濡れた足場もなんのその、床を蹴り大きく跳躍してルカルカは三本角の鬼の頭部に鉄槌を叩き込む! 集中を重ねて振り上げられた鉄槌は鬼の身体を捕らえ、大きな音と衝撃が鉄槌を持つルカルカの身体に響いた。 「ルカの魅力にあっはーん――あれ?」 「おお痛い……でもそれだけだしー?」 酒に強くほぼ飲んでいない彼は素の実力を保っていた。その頑強さも、俊敏さも、鬼と呼ぶに相応しい実力のまま! お返しに放たれた爪がルカルカの身体を抉り蝕む。突き刺さる爪は燃えるように熱く、けれど全身に広がる不快感に唇を噛み締める。 ついで放たんとする爪はガッツリの投げたダガーに阻害され、そちらに気を取られると今度は後ろからその首を狙う者がいた。湯船から出さぬよう鉅はルカルカと挟み込むようにして三本角の鬼に挑みかかる。 「確かに強いが……ならば数で補うさ」 凛子は後方に下がりながら力を振るう。彼女の力は支援、味方を生かす力だ。彼女の意思が形取りリベリスタ達の翼となる。 ――桃太郎よろしく景気よく鬼退治じゃな。 翼を生やした玲は鬼のど真ん中、温泉の中央に飛び込むとドレッドノートを構える。 「妾の華麗な舞踏をみせてやるわ!」 軽やかに鮮やかに、鬼達の身体に無数の傷を残し鬼の出血が温泉の色を染めてしまった。 どうじゃ――得意げな玲の表情は一変して苦痛に切り替わる。雄たけびあげて振るわれた鬼の金棒が玲の身体を捕らえ跳ね飛ばす。一本角の鬼の膂力は凄まじく、一撃で玲の体力を大きく削り取った。 油断したわと吐き捨て……背後の気配に顔を歪める。押し出された場所は二本角の鬼の前、高笑いと共に放たれた電撃に玲は悲鳴をあげた。 「余所見はなしだ! 勝負の続きと行こうぜ」 傷ついた玲の前に立ちアウラールは鬼を挑発する。自分自身も電撃で傷を受けたが怯まない。目的の為に身体を張るのが彼の誇りだ。 「おお、飲み比べの次は力比べぞ」 二本角の鬼は笑ってアウラールと向かい合う。鉅との野球拳の後は彼を巡って飲み比べをしていた二人が、最後の勝負を決闘と定め対峙する。 「――衆道ってなんなの?」 ルカルカはぽそりと呟いた。 「おなごの肉を裂くのも楽しみぞ! どれ誰から喰ってやろうか」 笑い、暴風のように振り回される無骨な腕。それを赤い輝きが貫いた。 「本日取って食われるのはあなたの方です。お覚悟を」 鬼の血を吸い剣は輝きを増す。ユーキは闇を纏い防御を固めた堅実なスタイルながら確実に鬼の身体を抉る。それなりに酒の回った一本角の鬼は、攻撃面では衰えずも反応が鈍り防御がおざなりになっていた。 大味な鬼の攻撃を大盾で受け止め弾き返す。その勢いに鬼の体勢が崩れれば再び剣を突き刺し……全く危なげない戦い方で鬼の力を削いでいく。 この戦法で利を得ているのは本人ばかりではない。鬼がバランスを崩した瞬間を見逃さず必殺の剣を叩き込むのは陣兵衛。その腕で振るわれる無骨な斬馬刀は旋風巻き起こし鬼の身体を激しく薙ぎ払う。 怒りに歯を鳴らす鬼、その巨躯を前に余裕を崩さず陣兵衛は悠然な笑みを見せつけ煙管を突きつけた。 「一足早い鬼祓いの儀と参ろうか」 ●鬼と勝利のリベリスタ 「強い敵とたたかうのは理不尽、でも楽しいの」 「ははっ! 俺も楽しいし!」 バトルマニア同士の壮絶な殺し合い。爪が鉄槌が、互いの身体を角を削っていく。直撃を避け続ける鬼を相手取り、自身の全力を惜しみなく振るうルカルカの疲労は激しい。 各戦場で次々と傷つく仲間に癒しの息吹をくり返しながらも、回復が追いつかない焦りを凛子は感じていた。 せめて早めに一人でも鬼を倒せたら――それは凛子のみならずリベリスタ全員の考えだろう。 同時に戦力の拮抗したこの戦場で、味方の誰かが倒れるのは戦況を非常に大きく傾けることは容易に予想できた。 (こう言う所で頑張らないと駄目だお――) ガッツリの援護射撃はけれど三本角の鬼にはなかなか命中しない。その隙間を縫うようにして放たれた爪、それによって引き起こされる毒素についにルカルカがその膝をつき倒れてしまった。 「俺の勝ちだしー!」 鬼もかなりの傷を負っていたが、自身を散々苦しめたこの羊の女が倒れた以上負けは無い……だがその余裕の笑みは瞬時に消える。鬼の首に、強く深く巻きついた強靭な気糸。 「あまり俺たちを舐めるなよ?」 鉅は拳を強く握り締め鬼の自由を奪い取る。苦痛に耐えながら、しかし鬼は未だその勝利を疑わず――ふいに目を見開いた。 そこには倒れたはずのルカルカが鉄槌を大きく振りかぶって構えていた。その運命を闘志で燃やしながら。 「なんだよそれ……ずるいし」 「そう。理不尽には不条理の鉄槌を」 振るわれたシュトルムボックの鉄槌が三本角の鬼の頭をかち砕いた。 「大人しく拙者の物となれ!」 泥酔に近い状態の二本角の鬼は動きこそ大きく鈍っているものの、放つ雷は衰えずアウラールの身体を深く傷つける。それでも彼は一歩も引かない。 「鉅だったり俺だったり、男なら誰でもいいのか?」 「良きおのこは皆拙者の物よ!」 言って振りかざす腕をアウラールの放つ強き意志の光が打ちぬいた。 「俺も、大切なものはたくさんあるけどさ」 再び構えるアウラールに、鬼は阻止せんと放電した腕を突き出すが……足はおぼつかなく目はかすんでよく見えない。おや二人いる……いや三人か? 目を凝らしてようやく見えたのは鉛の弾丸。アウラールの強い意志を込めた力が二本角の鬼の額を撃ち抜いた。 「愛してるのは一人だよ」 ユーキの、陣兵衛の剣が一本角の鬼を傷つける。けれど致命傷にはまだ遠く、逆に鬼の豪腕がリベリスタを散々に苦しめていく。 「単純な打ち合いでは鬼に分がありますか……」 生気を奪い生命をつなげるユーキだが、鬼の膂力の前に身体は限界に近い。陣兵衛の力なら及ぼうも、決死の一撃に踏み切る隙がなかった。 「酒、おなご、戦。全て我の物よ!」 叫びと共に繰り出された豪快な一撃はユーキを狙うが――飛び出した玲が代わりにその身に受ける。苦痛に耐えながらも玲は攻撃後の不安定な鬼の体勢を見逃さず気糸を巻きつけ鬼を縛り上げた。 「きっかけくらいは作って見せようぞ!」 このチャンスを見逃さず陣兵衛が深く踏み込み連撃を鬼の胸に叩き込むと、ユーキは剣に必殺の意思を込め赤の輝きと共に貫いた。 だが鬼は絶叫を上げるもなんとか踏みとどまり金棒を振り回す。金棒は気糸を引き千切り、玲の身体をしたたかに打ち地面へと叩きつけた。 「どうよ小娘! もはや我を縛るなど叶わぬわ!」 「ふん……もはや十分なようじゃがな」 強気に一笑いして玲は意識を失った。言葉の意味を考えるまでも無い。身体を縛られ、怒りに任せ無理に玲を倒すことは鬼にとって―― 「十分な隙じゃ、感謝しよう」 突き出た鬼の腹の下。深く低く体勢を取り、構えるは愛刀羅生丸。 「酒と欲に溺れた哀れな亡者よ、地獄で己の浅はかさを悔いるが良い!」 斬馬刀は振り切られる――一本角の鬼の胴体に確かな軌跡を残して。 鬼の角を手で弄ぶルカルカに苦笑しつつ、凛子は仲間に捜索の報告をする。 「ゲートは見つかりません。封印されていた鬼がいつの存在なのかもわかりませんね」 ついで、連絡を取っていたガッツリが仲間にメッセージを伝える。 「壊れた物はアークが調達してくれるお」 「後は神秘を適度にごまかせば問題なかろう」 鉅は言う。神秘を見てもありえないものとするのが人、根回しさえしておけば神秘が広がることは無いだろう。 「ふむ、一杯呑み直すかのう」 飲み比べで散々飲んだはずの陣兵衛の言葉に苦笑しつつ誰も反対はしなかった。 「では戻りましょうか」 ユーキの言葉は事件が終わった合図。リベリスタは温泉を後にする。 (かつて鬼達を封印したのは、どんな人物だったのだろう) アウラールは考える。鬼は奴らと同じ能力者と口にした。それなら――一 「俺達の遠い先輩方だったのかもな」 問いに答えはなく風に溶ける――一 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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