●鬼、復活! 岡山南部。閑静な住宅街からやや外れた中規模ショッピングセンター。 その一フロアに人影が……否、人ならざる物の影が現れた。 屈強な肉体。 肉喰らう牙。 そして何より象徴的なのは――額に伸びる一本の角であった。 「我、目覚めたりィ……」 水蒸気にも似た吐息を吐きだし、怪物はフロアタイルを踏み砕いた。 ●アーク、ブリーフィングルーム 「皆さん、至急岡山某所へ向かって下さい」 地図、スペックメモ、その他補足事項。それぞれの資料をデスクに放ち和泉は眼鏡を押し上げた。 「アザーバイドが現れました。データはこちらに」 放たれた資料が広がり、敵の姿をスケッチしたものやフロアの予想見取り図が並べられていく。 そんな中、リベリスタ達はスケッチに目を止めた。 「これは」 「はい。アザーバイド以外の呼び名をつけるとするなら……」 大男を思わせる屈強な肉体。 肉喰らう牙。 額に伸びる一本の角。 そう。 「『鬼』です」 時間は深夜。 ショッピングセンター内は臆病な警備員が仕事を放棄して逃げ出したため無人。 幸運にも、広く障害物の少ないエリアが戦場となるのだ。 スペックメモによれば、鬼の数は全8体。 動きは鈍重である代わりに、凄まじい腕力を備えている。 一度捕まれば相当なダメージは覚悟するべきだと和泉は説明した。 「今回の役目は彼らの討伐です。放っておけば近隣に甚大な被害が出るでしょう……その前に、必ず」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年01月25日(水)23:33 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●not prologue これは戦いの記録である。 故に全ての前置きを排除する。 ●灼熱怒涛! 鉄がひしゃげて砕ける音がした。 ひび割れたフロアタイルが『侠気の盾』祭 義弘(BNE000763) の右足で砕け散った。 そうだ、ただそれだけのことだ。 義弘は自分にそう言い聞かせ、己の額に叩きつけられた鬼の拳を全身で食い止めた。 食いしばる歯。 軋む脚。 本来なら身体が逆向きにひしゃげるであろう衝撃を力ずくで押さえつけ義弘はメイスを全力でぶち込んだ。 鬼の側頭部に激突する鉄塊。当てられていた拳が外れる。 「現代に蘇った鬼を、退治てくれようなんとやらってな……」 血の混じった唾を吐き捨てメイスを持ち直す。 横合いから襲い掛かる鬼。 ワゴンを撥ね飛ばし、自身そのものを武器の塊として突撃してきたのだ。 義弘の顎にはもうろくな感覚が残っていない。歯を食いしばり過ぎたのだ。 前に出て二体も三体も相手にしていればそうなるのも無理はない。少し前の自分なら一度くらいは死んだだろう。 だが、しかし、それでも、なお。 「『盾』を自称するだけの仕事はしてみせるさ」 無い息を吐きだすように言う義弘。 しかし鬼の突撃が彼を跳ね飛ばすことは無かった。 先刻フロアの壁を易々ぶち抜いた肩が激突するジャスト一秒前。 「どこ見てんだッ!」 『さすらいの遊び人』ブレス・ダブルクロス(BNE003169) の蹴りが鬼のこめかみに命中。 まるで鳥が横から掻っ攫うような有様で、ブレスは鬼を蹴り飛ばしたのである。 電化製品の棚をスチール骨ごとぶち壊して転がる鬼。 そこへ休むことなくブレスが突っ込んで行く。 「いつまで耐えられるか見せてもらうぜ!」 巨大な斧を包むオーラの光。鬼は反射的に拳を突き出した。 直後、斧と拳が正面から激突。衝撃波が周囲の棚を押しのける。 ブレスは薄笑いのようなものを浮かべて斧を引っ張り込んだ。腰を中心に大きく回転する斧。 名をバルディッシュ。槍と斧の中間的存在でありどこか薙刀に近い扱いをすると言われる武器である。 重々しい外見に反して動きは機敏であった。彼の斧は吸い込まれるように鬼の肩に叩き込まれる。対して、ブレスの顔面に鬼の拳が叩き込まれた。 急激に跳ね飛ばされ、天井に叩きつけられるブレス。激しい炎が後を追い、彼の身体を走った。 「ブレス……ッ!」 すかさずブレイクフィアーをかける義弘。 ブレスは下地の露出した床に這いつくばる様に落ちつつも、笑って顔を上げた。 「やれそうか」 「ま、お仕事なんでな」 『鋼脚のマスケティア』ミュゼーヌ・三条寺は騎士の名を継ぐ少女である。 「鬼、土地の伝承、アザーバイド。まあ、今は考えても仕方のないこと」 彼女は肩に担いでいた銃を手首の力で振り上げた。中折れ状態で保持されていた銃身がガチリと直線状に組み上がる。一見マスケット銃のようでありながらリボルバー式ライフルと言う不思議な銃である。 銃底に頬をつけると、空いた手で携帯電話型アーティファクトを翳す。 「来なさい鬼ども。心行くまで熱く――」 サイト越しに目測照準。 全長3mは固い『鬼』が一体、義弘たちの間を抜けて駆けてくる。 「熱く――」 距離10m。踏み込み一つでとびかかってくる。 「踊りましょう」 天井を背中で抉りながら急接近する鬼。 ミュゼーヌはトリガーを連続で引きまくった。 ハニーコムガトリング発動。鬼の胸と腹に数発ずつ叩き込み空中で失速させる。 もう一押し足りない。そう思った瞬間、『FunkelnAlbtraum』フィルシーユ・ツヴァイル・ライゼンバッハ(BNE003289) が巨大な砲身を振り上げた。 肩と腰と背中で保持された二本のガトリング砲が唸りを上げる。 それが彼女の起動音であるかの如く、フィルシーユは大きく目と口を開いた。 「あははっ! ものすごく面白そうじゃないですか!」 ガトリングと一緒に保持されていたカノン砲内で装填音。 そして、イントネーションが微妙に狂った日本語で言った。 「フィルも混ぜて欲しいですますっ」 途端、強烈なハニーコムガトリングが繰り出された。 両サイドに跳ね飛ぶ空薬莢の雨。カノンの逆噴射。 大小弾丸雨嵐。大量の弾が失速していた鬼に襲い掛かかり、周辺の棚だのレジだのカウンターだのを纏めてぶち壊していく。 思わず腕で顔を覆うミュゼーヌ。肩にかかっていたコートが横向きに煽られる。 「あはは! あっははは!」 トリガーハッピーもこれ程は狂わないだろうという勢いでぶっ放すフィルシーユ。 その横を『飽くなき挑戦者』ネロス・アーヴァイン(BNE002611) が駆け抜ける。 一歩で風を追い越し、二歩目で弾と同じ速度に乗り、三歩目で鞘に手をかけ、四歩目にして漸く鍔を指弾きした。 カチンという音が銃声に混じる。 「師の話では、刀を持つものとして『童子斬り』は最高の誉れと聞く」 だからと言うわけではないが。 「行くぞ」 赤い刀身が薄闇を奔り、鬼の腕を斬りつけた。そのまま駆け抜け柱を駆け上がる。 振り向く鬼が腕を振るい、彼の頭を掠めていく。 風圧に髪が靡き、彼の片耳にコード固定されたイヤホンが晒された。 「愚鈍な攻撃じゃ。俺の分け身は捉えられない」 壁から跳ねるネロス。鬼の腕に深い刀傷が走った。 歯を食いしばる鬼。 『九番目は風の客人』クルト・ノイン(BNE003299) は一直線にフロアを走っていた。 「まさか鬼と戦う機会があるとはね。お前の相手は俺が務めよう」 中途半端に砕けたマネキンの山を飛び越えるクルト。 空中で構えを整えると、拳に冷気を纏わせた。 ぶわりと耳の奥で物の煮える音がした。 「ふふ、こういうのを血が騒ぐと言うのかな」 対する鬼は拳を腰の辺りで引き気味に構えると、肩から先を巨大な炎で包み込む。 『分かるか?』 そう言ったように思えた。空耳かも知れない。 クルトは気にせず鬼を殴りつけた。 交差して突っ込まれる腕。 擦れた肘から水蒸気が吹き上がる。 魔氷拳は鬼の頬にめり込み、鬼の業炎拳はクルトの腹に叩き込まれた。 大きく仰け反る鬼。 軽く飛ぶクルト。 高級な婦人服を派手に引き裂きながらクルトはブレーキをかけた。 「水尅火、体現できるか試してみよう」 五気生々の逆理と呼ばれ、水が火を克することを指す。 クルトを追って突っ込んでくる鬼に対し、冷静に構えるクルト。 その刹那、鬼の頬を一発の弾丸が掠った。 振り向く鬼。 そこには一人の少女が立っていた。 大鏡に反射した月明かりが、小柄な体型を映し出す。揺れるツインテール。硝煙に炙るリボン。 「お兄ちゃんの二刀流にだって負けないんだから……」 結城・ハマリエル・虎美(BNE002216) はリボルバー式拳銃の銃身にキスをすると、鬼を横目に見た。 「虎美、出るよっ!」 もう片方の自動式拳銃を突き出して連射。 鬼は両腕をクロスして弾をガード。 虎美はすかさずリボルバー銃の弾を鬼の足に叩き込んだ。 「ハチの巣にしてあげるよっ」 二丁拳銃をまっすぐに構えて撃ちまくる虎美。 排出された空薬莢が彼女の頭上を越えて後方へ飛んでいく。 回転して飛翔する空薬莢。それが、鬼の胸にこつんと当たった。 「虎美、後ろだ!」 「――!?」 両目を見開いて振り返る虎美。 物陰を移動して鬼が背後に回り込んだのか。それとも偶然背後に陣取っていた鬼が急接近してきたのか、『その時点』での虎美には分からないことだった。 鬼は既に、ダブルハンマー化した腕を振り上げていた。目いっぱいに引き絞られた腕が振り下ろされ――る、瞬間。 スカン、という音がした。 鬼の片腕を貫通する一本の矢。 『……む?』 はっとして上を見る鬼。 その直後、こめかみ、脇、腰、脚、あらゆる側面と言う側面に無数の矢が突き刺さる。 ある種圧倒的な面攻撃によろめく鬼。矢はすぐにただの瘴気となってかき消えた。 「ふふ、ふふふ……」 暗がりから聞こえる笑い声。 紫色の目が洋服棚の向こうから垣間見えた。 「相手を壊しても怒られないお仕事ばっかりで、本当にアークはやりがいがあるわね」 するりと姿を現す日無瀬 刻(BNE003435) 。 彼女は肩や頬からとめどなく血を流しながら、どこか楽しそうに笑っていた。 「それでは、血に塗れたり塗れさせたりしましょうか」 血を拭うでもなく止めるでもなく、むしろ吸い上げる勢いで暗黒を発動。 ボウガンに黒い矢を番え、刻は雨のような暗黒を打ち出した。 虎美の狙っていた鬼にも、彼女を狙っていた鬼にも、纏めて突き刺さる暗黒の矢。 虎美とクルトをこそ外しているものの、高級そうな婦人服やスーツは跡形もなく引き破られていた。 クルトは少しだけ店に同情的な気分になったが、不幸と思って諦めてもらうことにした。 ●絶倒、業炎鬼! 二体の鬼が走る。 コンクリートと鉄の壁をぶち破り、展示品の箪笥をパーツ単位で粉々にした。 ネロスは飛んできた木片を、飛んでくる以前から避けて走った。 床を? そうではない。ネロスが走っていたのは天井である。 「高速のヴィジョン、見せてやるよ」 『!?』 思わず天井を見上げる鬼。その頬をかすめるように飛ぶネロス。二体目の鬼が拳を繰り出すが、ネロスはその腕を足場にして更にジャンプした。 首を狙って繰り出される刀。 鬼とて負けておらず、首の筋肉を漲らせてエッジを跳ね除けていた。 途端、二体の鬼のその間。ほんの2m程度の隙間に虎美の身体が滑り込んだ。 両腕を胸で交差し膝を折り背を丸め、俯いている虎美。 何やらぶつぶつと呟いていたが、鬼たちには聞こえなかった。 どころか視線を外してこれ幸いとばかりに殴りかかる。 動く空気。 虎美の柔らかい髪が数本浮きあがった。 「――だね、お兄ちゃん」 先刻背後の見えなかった虎美だが、今は違った。 鬼の腕が上がった瞬間、振り下ろされるよりも早く両腕を翼の如く広げ、鬼の手首に銃弾を一発ずつ叩き込んだのだ。 目を見開いてよたつく鬼達。 が、彼らが最も驚いたのはそこではない。 「虎美をペロペロしたいって? うふふいいよ、邪魔なこいつら消したらいくらでもいいよお兄ちゃん! 私がんばるよ!」 この世のものではない目をして虎美は顔を上げる。 彼女は、脳内の誰かと会話していた。 「これが終わったらリアルでペロペロしてもらうんだ! 待っててねお兄ちゃん、待っててね!」 高速で駆け抜けるクルトを半身で避け、今度は鬼の脚に一発ずつ正確に銃弾を叩き込む虎美。蹴り出そうとした鬼の脚をミリ単位でかわし、更に一発ずつ。 流石に立っていられない鬼は膝を突こうとする……が。 「倒れる暇があると思うのか」 傾いた胸に走る刀傷。その直後背中にも同じ刀傷が走る。 天井、床、柱、周辺の家具、その他諸々を足場にしてネロスが飛び交っていたのである。 暴走したゴム毬もかくやという不規則さ、そして高速さ。 それに加えて虎美の的確過ぎるゼロ距離射撃。 鬼達は倒れる暇もなく、全身を銃と刀で滅茶苦茶にされたのだった。 3Dが売りの薄型テレビから鬼の頭が飛び出したのを、クルトは純粋に笑った。 ばりばりとテレビを砕いて立ち上がる鬼。クルトは構えなおすのをあえて待ってから殴りかかった。 その方が、集中しやすかったのだ。 「意を逸らすなよ。次の一撃、今までと同じとは思わぬことだ」 腕を引き絞るクルト。 腕を引き絞る鬼。 二人はほぼ同時に拳を突出し、拳同士で衝突した。 否、爆発したと述べてよい。 クルトの身体が炎に包まれ、鬼の身体が薄氷に包まれる。 しかし二人は無理矢理もう片方の腕を振り上げ、互いの顔面に叩き込み合う。 血を吐きだすクルト。正直自分にこれだけ血があったのかと驚く量だった。 意識が暗闇に堕ちそうになるが、自分の頬を殴って無理矢理つなぎとめた。 「折角の鬼退治。そう易々と舞台から降りぬよ」 「その意気だ」 ぴたり、とブレスがクルトに背中をつけた。 おそらく血まみれなのだろう。ブレスの背中が赤黒くびっしょりと濡れていた。 重々しく鳴る鬼の足音。 クルトとブレスは、二体の鬼に挟まれていた。 「二対二か……」 「悪いな、もう一体だ」 ブレスはそう言うと、横を通り過ぎようとしていた鬼に疾風居合切りを叩きつけた。振り向く鬼。 「自分に自信が無いからって遠くの奴狙ってんじゃねえよ」 『……』 挑発を真に受けたのか、本気の顔で殴りかかってくる鬼。 それだけではない、両サイドの鬼達も炎の拳を叩き込んでくる。 二人ははほぼ同時に動いた。二人の頭があった場所を鬼の拳が通過。 ブレスは相手の拳を斧で叩き落とし、鬼の腹を思い切り蹴飛ばす。 クルトは相手の拳をあえて受け、鬼の脇腹に蹴りを叩き込む。 鬼は同時に蹴倒され、その場に転がった。 「言ってなかったがな、俺は手より足の方が得意なのだよ!」 「なら最初から……まあいいか!」 素早く鬼に向き直るクルト。一方ブレスは鬼の背後に回り込んだ。 「悪いがお仕事なんでね」 全力で振り込まれた斧と蹴りが、鬼を前後からプレスした。 ブレス達が鬼を叩き潰した丁度その頃。 「あはは! もう前衛も後衛もあったもんじゃないですます! あはは!」 フィルシーユは頭からとめどなく血を流し、片目を瞑ってハニーコムガトリングを乱射していた。 腕をクロスし、弾の雨を突っ切ってくる鬼。 ガード態勢のまま繰り出されたタックルで、フィルシーユの細いボディが撥ね飛ばされる。壁に背中がめり込むが、構わずハニーコムガトリングをぶっ放した。 横から十字砲火をしかける刻。 鬼は弾を全身に受けながらも、唸りをあげて走り出す。 今度の狙いは刻だった。 ボウガンを突き出した刻の首を掴むと、首を引き抜くのかという勢いで引っ張り上げた。 目を見開きボウガンを連射する刻。 それでも構わず鬼は刻の頭を地面に叩きつける。 飛び散る血。彼女を包んでいた可愛らしいフリルが瞬く間に赤く染まった。 死んでいてもおかしくは無い。 いや、多分一度は死んだのだろう。 「ふふ」 けれど彼女は笑った。 もはや人の顔と認識できないくらいに血塗れになった顔で鬼の手首を掴んだ。 「ふふふふふ、ふふふふふふふ、ふふふふふ、ふふ、ふふ」 笑い声と呼吸音が同化する。 鬼の動きがぴたりと止まった。 恐れをなした……のではない。 彼女の手は小さく細いにも関わらず、鬼の腕が完全に固定されていたのだ。 「私の負の感情を固めた特製の矢よ」 ようやく人語を離し始める刻。 床に伏した彼女の髪がぶわりと広がり、巨大な矢が内より生まれた。 「思う存分味わって、思う存分苦しんでね」 鬼の胸を貫通するペインキラーの矢。 思わず血を吐きだす鬼。矢を掴んで抜こうとする……が、彼の頭に銃口が突きつけられた。 拳銃の銃口だと思っただろうか? 否、ガトリング砲とカノン砲を二丁ずつ。合わせて四門のヘビーウェポンが突きつけられたのである。 「これでさよならですます……あっははは!」 トリガーエンド。鬼の頭は轟音と共にはじけ飛んだ。 鬼の拳が振り込まれた。 二本である。 ひとつを顔面に、もう一つをはやり顔面に食らった義弘は、全身から力が抜けるのを感じた。 死が迫る感触。死神の鎌が脊髄を開いていく感覚。 しかしそれを根性で払えるのが、義弘と言う男だった。 一度は抜けた膝の力を再び引き締め、既に感覚が無くなっている肩と腕に血をめぐらせた。途中でいくらか吹き出たが知ったことではない。 「立ち続けてやるさ……根性見せてな!」 とは言え彼の体力は限界を超えている。これ以上二体を相手にしていては立つどころかへし折られてもおかしくない。 鬼達はそれを知って尚、再び腕を振り上げた。 燃え上がる炎。 繰り出される業炎拳。 しかしてそれは義弘の肉と骨を叩き潰してまき散らす……ことは無かった。 「――ねえ、私の相手はしてくれないのかしら」 振りかざされる左腕。 大きく広がるコート。 炎にちりりと焼かれる甘栗色の髪。 義弘は目を見開いた。 「ミュゼーヌ!」 「ミューズでいいわ」 彼女の左腕から展開した障壁が鬼達の拳を受け止めていたのだ。 しかし鬼二体の全力攻撃。障壁には早くもヒビが走った。 「一気に決めたいんだけど、いい?」 「まあ、頃合いだろうな」 と言うよりこれ以上は無理なんだが、と言って義弘はメイスを大上段に振り上げた。 ミュゼーヌは銃を乱射しながら障壁解除。 思わず半歩引いた鬼達を前に大きく足を振り上げた。 ミュゼーヌの足と義弘のメイスが淡く光った。 「角をへし折る!」 「跪きなさい!」 鬼の額に叩き込まれる義弘のメイス。 鬼の顎に突き込まれるミュゼーヌの蹴り。 血を吹いてよろめく鬼。 その隙に二人は大きく跳躍。鬼の頭上へと舞い上がった。 「地獄に叩き落としてあげる!」 二人同時に繰り出される魔落の鉄槌。 鬼の頭が首にめり込まんばかりに潰れ、周囲に血肉をまき散らした。 地響きを鳴らして倒れる二体の鬼。 それを境に、フロアには静寂が流れた。 ●not epilogue これは戦いの記録である。 故に全ての後記を排除する。 鬼は全て倒した。それだけの話である。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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