● 静けさの満ちる、山中。 動物の気配すらないそこに、『それ』はいきなり現れた。 ぱくり、と、空間が裂けて。 先ず出てきたのは、血管の浮き出る巨大な、足だった。 続いて、腕。裂け目を拡げんとばかりに、その縁を押さえている。 そうして、出てくる、頭。 人と似た、然し余りに大きすぎるその頭の中心。たった一つだけの目が、ゆっくりと開かれる。 ――此処は何処だ。山の中だ。誰も居ない。 血走った瞳が、まるで何かを探す様に、周囲を見つめる。 分からない。だが、どうやらこの身体は自由に動く様だ。 ならば。 先ずは存分に暴れてやろうではないか。 それは暫く、状況を認識する様に、そこに立ち尽くして。 そうしてにたりと、大きく裂けた口を愉悦に歪めた。 ● 「依頼。相手はアザーバイド。……一応討伐前提で宜しく」 開口一番。リベリスタ達で賑わうブリーフィングルームに入ってきた『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は依頼の内容を告げた。 興味を示す顔ぶれを確認しつつ、その小さな手は資料を並べていく。 「敵は全部で4体。今回メインになるのは多分こいつ。……識別名『一つ目』。そのまま、目が1つしかない巨大な鬼だよ」 該当ページを示す。識別名『一つ目』。名の通り、目を一つしか持たない巨大なアザーバイド。 その見た目に反せず、凄まじい力強さを持つ力技自慢の輩らしい。 リベリスタ達が資料に目を通すのを確認しながら、フォーチュナは先へ進む。 「攻撃手段は殴る、蹴る、振り払うみたいな物理技と、……あと、使える人もいるかもしれないけど、魔眼に似た力を持ってる。 但し、一つ目の魔眼はみんなにも効果があるよ。もしその効果の餌食になったら、……まぁ、同士討ちも有り得る。 耐久力も高いけど、魔術とかには弱いみたい。それを頭に置いておけば大丈夫だと思う」 じゃあ、次。資料を捲りながら、フォーチュナは話を続ける。 「残りの3体は……識別名『三つ目』。やっぱりこれもその侭、目が3つの小さい鬼。小学生くらいの大きさ。 こっちは泣き叫ぶ事によって敵全体に攻撃したり、その目で見つめた対象を強化する。まぁ、援護型。 因みに、一つ目は小回りが効かない分、不意討ちなんかに弱いけど、三つ目にはそういうのは通じないよ」 その3つの目で周囲を見渡している為、回避能力も高い様だ、と付け加える。 「彼らが現れるのは、岡山県近くの山の中。……D・ホールの場所は不明。何処の階層から来たのかも分からないから、戻す事は考えなくても良い。 彼らは出現後、山を少し下った場所で暴れるみたい。 一応、皆がつく時には未だ山の中。一つ目が木々を薙ぎ倒してる所に着く事になると思う」 即座に人に危害は加えないが、もし、山中に来た一般人が鉢合わせれば非常に不味い事になるだろう。 そして、現場は当然足場は良くない。何らかの対策が必要だろう。 そこまで述べて、フォーチュナは自身の手元の資料を閉じる。話は以上。そう言って立ち去りかけてから、ちらりと。 リベリスタ達を振り返った。 「……そんなに、危ない敵ではないと思う。でも、十分気をつけて。いってらっしゃい」 見送りの言葉を告げて、今度こそ幼いフォーチュナはブリーフィングルームを後にした。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:麻子 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年01月24日(火)23:38 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 土と木片が、降りかかる。 現場に辿り着いたリベリスタ達が目にしたのは、荒れ果てた木々だったもの。そして。 その中心で、子鬼を侍らせ、たった今圧し折ったのであろう巨木を抱えた『鬼』の姿だった。 ぎょろり、と。 見る者を射竦める様な瞳が動く。続いて、笑いながら此方に近寄る子鬼達。 様子を窺っているのだろうか、攻撃を仕掛けては来ない。 「自然破壊とはいただけませんねー。ていうか、でかいなー」 その隙を突く様に『Lost Ray』椎名 影時(BNE003088) がその身軽さを生かして駆け出す。 履いた安全靴が、悪条件を緩和する。 「こんにちは。俺と遊びましょう」 言葉と共に伸びる気糸が、手近な子鬼を戒める。けたたましい、悲鳴。 相手は鬼だ。心置きなく殺そう。そんな思いと共に、漆黒の瞳に愉悦が浮かんだ。 「……人間? 人間か!」 唐突に。 不意の来襲者の様子を窺っていた一つ目が、割れたがなり声を上げた。 後衛に布陣した『無何有』ジョン・ドー(BNE002836)が、脳を集中に適した状態に切り替え、『捻くれ巫女』土森 美峰(BNE002404)がその術式で造り出す子鬼を従える。 その様を見、巨鬼は確信した様に落雷の如き笑い声を響き渡らせた。 「貴様ら、貴様らは……嗚呼、あの忌々しき覚醒者共か!!」 何たる偶然。これが運命と言うものなのか。 未だ笑い続ける鬼に、『深樹の眠仔』リオ フューム(BNE003213) は弓を引き絞り正確無比な一撃を放つ。 その瞳に突き刺さると思われた一撃は、目標を目前に巨大な手によって防がれた。 飛び散る血に、リオの表情が歪む。きっと、とても痛いだろう。 ごめんね、ごめんね。戦う事を好まぬ心優しい彼女の心の声など感じ取れる筈も無く、笑い続ける鬼が手にした巨木を投げ捨てる。 もうもうと立ち込める土埃を避けながら、雪待 辜月(BNE003382)は強力な魔力を体内に巡らせる。 無意味な自然破壊。相手は苛立っているのだろうか。そんな疑問を持ちつつも、辜月にはあの鬼が小さな子供の様にも見えていた。 「……任務を開始する」 『T−34』ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680) は、不安定な足場をなんとか抜け、一つ目と対峙していた。 閉じぬ穴から来たものだろうか。被害が出る前に迎撃せねばなるまい。 そう思いを巡らせる彼は、強固な護りの煌めきを身に纏う。 最近増えている出所不明の敵について気にかけながらも、彼は真直ぐに目前の巨大な身体を見上げていた。 遥か北方の凍土を思わせる青が、細められる。何はともあれ。 今は、眼前の敵を屠るのみだ。 「皆、これをどうぞー」 少々幼さの残る声と共に、アゼル ランカード(BNE001806)が、仲間へと翼と共に宙を舞う力を与える。 足場の悪さはこれで気にならない。敵は随分と性質が悪そうだが、人のいる場所に現れなかったのは幸いだろうか。 人里に降りてしまう前に、此処で倒してしまおう。 状況把握に努めながら、アゼルはそう、決意を新たにする。 「……鬼タイプのアザーバイドかぁ」 節分が近いけど、それと関係があるのかな? そんな疑問を口に出しながら、四条・理央(ID:BNE000319)は得た翼を利用し、移動を行う。 臨機応変に動ける様に。位置取りを気をつけながら、しなやかな指が印を結んだ。 瞬時に見えない障壁が、リベリスタ全員の周囲で揺らめく。 素早く、理想的な戦闘体勢を築き上げたリベリスタを一瞥しても尚、一つ目は嫌な笑いを崩さない。 そして。 「嗚呼そうか、そうか。……我が目覚めたのは、貴様らと出会う為だったか!」 積年の恨み、晴らさせて貰おう。 その言葉と共に、巨大な拳が凄まじい勢いで振り下ろされた。 ● 先ず響いたのは、硬いものがぶつかり合う音。そして。 「殴られたら殴り返せねばなっ!」 覇気に満ちた、ウラジミールの声。 がっちりと鬼の拳を受け止めた腕を、下ろす。 手が痺れる。重たい一撃だった。しかし、身構えていた彼は殆ど後退する事無くその場に立っていたのだ。 たった一つだけの瞳が、大きく見開かれる。 影時が、先程攻撃を仕掛けた子鬼を再度気糸で縛り上げる。 「答えろ。貴方達はどこから来ましたか?」 気にかかっている事がある。もしかしたら話す事が出来るのでは。 淡々と問いを投げ掛ける少女を、三つの目が見返す。そして。 「覚醒者ナンカニ話スコトハ、無イ!」 そう、啖呵を切ってすぐさま。子鬼は耳まで裂けた口を開いて、衝撃波とも言うべき泣き声を上げた。 音の波動が、リベリスタを切り裂く。 連鎖する様に、もう一匹。そして、最後の一匹は真直ぐに、一つ目を見つめる事で加護を与える。 続け様の攻撃に多少ふらつきながらも、リオが素早く光弾をばら撒く。 凡そ目星をつけた通りに敵を全て捉えていたものの、二匹の子鬼はその弾をかわしていた。 「泣かないで、ね? ……あなた達のおうちは何処?」 悲しんで泣いている訳では無くても、やっぱり。 子供の泣く姿は落ち着かない。そう思い、一番近くの子鬼へと問いかける。 何処から来て、何を思うのか。問えば答えてはくれないだろうか。 「攻撃シタノハオ前タチダ! 俺タチノ家ハ……っ」 喚く、高い声。その三つの瞳に浮かぶのは、凄まじい憎悪。 返す言葉を失ったリオの横から、ジョーが眼前全てを焼き払う聖なる煌めきを放つ。 最近は何故か鬼の様なものが特定地域に出没するようだ。 大変興味深い。モノクルの奥の紅の瞳が、観察する様に鬼を見回す。だが、先ずは。 「……この『鬼』を倒しませんと」 相手に何らかの呪いがかかった様子は見られない。それを、確りと確認する。 ウラジミールが世界より生命の力を借り受ける。後衛からは、緋色の袴を揺らして美峰が持ち歩く霊符を翳した。 「これでも喰らいな!」 凍てつく魔の雨が降り注ぐ。子鬼が一匹凍り付く様を目視しながら、美峰は溜息混じりに肩を竦めた。 岡山と言えば、あの桃太郎のご当地だろうに。 「誰もが知ってる英雄様なんだから、しっかり仕事しろってなもんだぜ」 そう感じてしまう程に、近頃の『鬼』の多さは異常だ。何か、面倒事が起きなければ良いが。 辜月が、アゼルが、先程の三つ目の攻撃の名残を癒す。 狙われない様に、と木に身を潜めるアゼルの前で、冷静に状況を見つめ続ける理央が動く。 一つ目を中心に、幾重にも組み上げられた呪印が展開される。 その力を以って巨体を縛り上げる、思われたが、不運にも一つ目はするりと、その印を抜け出した。 「ちょこまかと……貴様らは何と鬱陶しい。矮小な人間如きが!」 巨体が怒りに震える。隆々とした身体に、血管が浮き上がった、直後。 ぶん、と言う風を切る音と共に、周囲のもの全てが跳ね飛ばされた。 土煙が収まる。倒れた者こそ居ないものの、被害は甚大だった。 かわせたのは美峰と影時のみ。直撃を免れた者も居たが、散り散りに跳ね飛ばされていた。 「でかいの、縛ってみたかったんだよね」 影時が即座に前に出て、一つ目を拘束する。 全員が体勢を立て直さんとする前に、再び。けたたましい泣き声が連鎖した。 先程の攻撃と続け様では、子鬼の攻撃であろうと重過ぎる。 最も傷の深かった辜月の膝が崩れる。華奢な身体が地面に倒れ伏し、動かなくなる――と、思われた。 しかし。運命に愛された者には、その加護が待っている。 ――護られてばかりの分、支援と言う形で皆を支えたい。 その心にこんな強い意志を持つ者にならば、尚更。 ゆらり、一度伏しかけた体を立て直す。光を失いかけた瞳に力が戻り、確りと足で地面を踏み締めた。 「一人だけ……のほほんと寝られる神経はしてませんしね?」 辜月の前では、美峰が、ジョーが、全体へとその攻撃を降り注がせる。 ふらつきの見える子鬼に気付いた理央が、漆黒の式を飛ばしてその命を絶った。 「先程の分、返させて貰おう!」 目を焼く程の煌めきを纏ったナイフを、振り翳す。 破邪の力と共に鬼に振り下ろされたウラジミールの刃に、僅かに鬼が苦悶の声を漏らした。 リオの光の弾丸が、鬼達の身体を撃ち抜く。 押し始めては居るものの、未だ先は見えなかった。 ● 「アゼルさん! 全体の回復をお願いします……!」 「はい、雪待さんはジョーさんをー」 回復手の声が飛び交う。戦況は拮抗した侭だった。 ジョーが気糸で鬼達の瞳を狙い撃った事によって子鬼がまた一匹減ったものの、味をしめた大鬼は全体を薙ぎ払う事を繰り返している。 幾ら厚い癒しがあろうと、此の侭では競り負ける。 隠れていた地点を移動しようと木陰から顔を出したアゼルは、不意に走った寒気の様な感覚に息を詰めた。 反射的に其方を向く。 血を流す巨大な瞳が、此方を見ていた。 不味い、そう思った時には遅かった。その視線の先に立つのは、理央と、自分自身。 「お前と、お前だ。……我が手を下すまでも無い」 仲間内で潰し合え。そんな言葉と共に、巨大な1つの瞳が見開かれる。 ばちんっ。 そんな音が、体内で響いた気がした。 「俺、そういうの効かないんだよね」 影時が理央を庇う。呪いを受け付けぬその身体で、何て事は無いと肩を竦めて見せる。 魅了なんてされない。だって。俺を魅了出来るのはあの人だけだから。 しかし、アゼルはその瞳に確りと、魅入られてしまった。 ふらふらと、不安定な足取りで前に進み出てゆく。味方を攻撃するつもりなのだろう。腕に抱えるクロスが淡く光を帯びた。 「気をしっかりと持て!」 ウラジミールの声が飛ぶ。一つ目と相対し続ける彼の代わりにと、辜月が脅威を打ち払う光を拡散させた。 仲間が操られるのは良い気分がしない。彼の祈りが通じたのか、アゼルは何とか自我を取り戻した。 「……これをお使いくださいませ」 大技を繰り返す美峰へと、ジョーは力を分け与える。それを受けて、美峰が凍結を齎す雨を降り注がせた。 続いてリオが、再び光の弾をばら撒く。 「戦うしかないのかしら……」 残る子鬼が、悲哀と恨みに満ちた泣き声を張り上げる。 それを見つめて、リオはその心を再び痛めていた。 衝撃波にも表情を動かさず、ウラジミールは一つ目を見据えていた。 この様な音など気にもならない。戦場の砲撃音でも我が心は揺れぬのだから。 そしてその侭、目の前の身体へと再び破邪の刃を振り下ろした。 漸く、巨体がぐらつく。リベリスタ達の幾重もの攻撃に晒され続けた身体からは、大量の血液が流れ落ちていた。 勝機が、見えてきた。その事実がリベリスタ達を奮い立たせる。 理央が再び、印により漆黒の鳥を飛ばせば、最後の一体の子鬼も落ちた。 「貴様ら、貴様らああああ! 邪魔だ、そこの癒し手と、お前さえ居なければ!」 怒りに満ちた咆哮が、上がる。そして、その脚が大きく振り上げられた。 狙いは、ウラジミールと、魅了により進み出ていたアゼル。 攻撃を終えたリベリスタ達に、彼を庇う手立ては残っていない。 どすんっ。酷く重たい音と共に、その大足は地を踏み躙った。 愉悦に満ちた笑いが、一つ目の大きな口に浮かぶ。 ゆっくりと上がった足の下には、微かに表情を歪めるウラジミールと、身動きしないアゼルの姿。 「っ……アゼルさん!」 辜月が名を呼んでも、小さな呻きが返るだけ。しかしそれでも、生きている事は確認出来た。 残りは一つ目だけ。 ならば、後は全員で帰る為に全力を振るう以外に、選択肢は無かった。 ● 戦況を左右する力は、自分には無い。だが。 「……その上で何が出来るか、だよね」 そう呟く理央は、再びその呪印で一つ目を縛ろうと試みる。 そして、今度こそ。その印は強固な檻として、一つ目の身体を拘束した。 「貴様っ……離せ! 離せえええ!」 「貴方達は封印とかされていた?」 するり、鬼に近寄る影時が、気糸でその巨大な黒目を撃ち抜きながら尋ねる。 自由に動く身体。そのワードが気になった。 だから、もしかしたら。彼らは異界から来たのではないのではないか。そんな疑問に、怒り狂う一つ目は絶叫を以って答える。 「貴様らに語る事など無い! 後世に語り継ぐ事も出来ないとは、覚醒者共の底が知れるわ!」 「ふぅん。……ああ、目が1つって大変ですね」 その返答には大した興味も示さず、影時はにこーっと笑ってみせる。 嗚呼、なんて楽しいのだろう。 「後ろから攻撃しろ、命令だ」 美峰が、高度な符術を以って創り上げた式に、命令を下す。 主に忠実な式神は、命令通りに主人と同じ破魔矢を放った。 ジョーが、リオが、己の持てる最高の精密さで一つ目を狙い撃つ。辜月が、傷付いた仲間を支えようと癒しの息吹を呼び寄せる。 それを目前にしながらも、動けない大鬼は、血を吐く様な怨嗟の叫びを上げ続けていた。 「ふざけるな、ふざけるな! 貴様らの様な矮小な、人間共にっ……我が、勝てぬ等在り得ぬ!」 殺してやる。殺してやる殺してやる。どす黒い殺意をばら撒くその姿に、しかし。リベリスタは慄きはしない。 こんなものより恐ろしいものなんて、この神秘に満ちた世界には幾らだって存在するのだから。 もう、決着が近い事は誰の目にも明らかだった。 「さぁ、これで終わりにしよう。……全ては、作戦遂行の為!」 「……では、そろそろ終わりにしましょうか」 ウラジミールがコンバットナイフを、影時が、両手に携えたナイフを、それぞれ構える。 放たれた破邪の煌刃と、敵を呪縛する気糸が、最後まで恨み言を吐き続けた鬼の息の根を確りと、止めた。 「おやすみなさい、今度は永遠に」 小さく、影時の声が闇に溶ける。 崩れ落ちた鬼に動く気配が無い事を確認してから、傷付いたアゼルを背負い、リベリスタ達は移動を開始した。 彼らがやってきた筈の、異界の穴を探す為に。 「鬼多発の原因の手がかりになるようなもん、何かみっけられりゃ良いんだけどな」 美峰が小さく漏らす。 一同も同じ思いなのだろう、軽く頷く者も居る。 各々の能力を生かしつつ、鬼が進んできたのであろう荒れた道を進んでいった。 途中で辜月が仲間達ひとりひとりに癒しの力を施していく。 何があるかは分からない。万が一に備えておいて、悪い事はないのだから。 どれくらい、歩いただろうか。 随分と山の奥の方。荒れた道が潰える場所に、辿り着く。 一見すれば、何も無い。異界と繋がっている筈の穴も、それ以外のものも。 しかし。 「……何かが、可笑しいですね」 ジョーが、小さく言葉を漏らす。隣に立つ理央も、何とも言えない顔で頷いた。 そう、例えるなら、歪みの様な。 目には見えないが、其処には『何か』の名残が確かに、漂っていた。――恐らくは、神秘に深く関わるであろうものの。 だが、何も無い。気配と、酷い違和感だけが、其処には漂っていた。 周囲を捜索しても、何も見つからない。リベリスタ達の能力を利用しても、手がかり一つ出ては来なかった。 封印だろうか。異界への扉か。それとも、何かの前触れか。 推測は幾らでも出来たが、答えは見つからなかった。 「アークに報告して帰ろう。……『何か』があった、と」 癒しを受けたとは言え、疲弊は確かにリベリスタの身体に蓄積し、重く凝っている。 此の侭探索を続けるのは得策ではない。 理央がそう提案すれば、リベリスタ達はそれぞれ踵を返す。 何があったのかは分からなかった。しかし、人里に降りたら凄まじい惨劇を齎したであろうものを、無事に止める事は出来たのだ。 「……任務終了だ」 ウラジミールの淡々とした声が、フォーチュナに託された依頼の終了を告げた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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