●鏡の中の少女 まだ幼い少女の部屋には不釣り合いな豪奢な鏡。 赤ん坊の頃に亡くなったと聞かされた母が大切にしていた物だ。 少女は毎日、まるでその鏡の中に母が居るように話しかけていた。 「ママ、見て見て! パパがこーんな大きな熊さん買ってきてくれたの!」 大きなテディベアのぬいぐるみを抱えて、少女は鏡にその身を映す。 すると、母が『よかったわね』と、応えてくれるように思えるのだ。 毎日鏡に話しかける事で、少女は母が居ない寂しさから逃れ、成長してきた。 「ママ見て! ドレス、きれいでしょ?」 今日は、パパが買ってくれたドレスを見せなくちゃ。 少女は部屋に駆け込むと、買ってもらったばかりのドレスを着て、鏡の前に立った。 胸元に大きなリボンがついていて、裾には幾重にも重ねられたレースがあしらわれている。 ずっとずっと欲しくて、何度もパパにおねだりして、やっと買って貰えたドレス。 少女は、鏡の前でくるくると回って見せる。 そして、いつものように『鏡の中のママ』へと語りかけた。 「ねぇ、きれいでしょ? ママ!」 しかし、そこで『いつもとは違うこと』が、起きる。 『……本当。とても、綺麗ね』 「え――?」 少女は、驚きで大きく瞳を見開く。 鏡の中の自分の口が勝手に動き、音を紡いだのを見たからだ。 『とても綺麗。腰のリボンにもレースがついてるし』 鏡の中の少女は微笑み、くるりと後ろを向いた。 「わぁ。本当にきれい!」 自分は後ろを向いていないにも関わらず、鏡の中の自分は後ろを向いている。その不自然さよりも、正面からは見えなかった腰のリボンが見えた事に、思わず感嘆の声を上げた。 『ね、綺麗でしょう?』 鏡の中の少女は振り返ると、にこりと笑った。 それから、少女は『鏡の中の自分』と話すことが楽しみになった。 今まで話しかけていた『鏡の中のママ』とは違って、返事が返ってくる。一緒に笑ってくれる。一緒に悲しんでくれる。 「お庭にきれいなチューリップが咲いたのよ」 『そうなの? 私も見たいわ』 「待ってて! 今持ってくるから!」 少女は庭へ出るとチューリップを手折り、鏡の前に差し出した。 『本当、綺麗ね』 「うん! 一緒に見れてよかったね」 『そうね』 「熊さんのお耳がとれちゃったから、自分でなおしたの」 少女は鏡の前にテディベアを差し出した。右耳が取れた跡があり、縫ってある。誰かに教わりながら縫ったのだろうか、かなり縫い目が歪んでいた。 『指を、怪我したのね』 少女の指先に貼られた絆創膏に、鏡の中の少女が気づいた。 「あ! 熊さんをなおしてるときに、針で怪我しちゃったのよ」 『そう』 鏡の中の少女は、少女の指先をじっと見る。 「あっ」 鏡の中の少女の指先に、赤い血の球が出来た。 「同じ場所……」 少女は、驚いたように鏡に手をついて、鏡の中の少女の指先を見詰める。 『貴方は私。私は貴方。貴方が怪我をすれば、私も怪我をするわ』 「痛いのも、一緒?」 『痛いのも一緒』 血の流れる指先を手で覆うと、鏡の中の少女は微笑む。 『痛いことも、辛いことも、苦しいことも、二人なら平気でしょ』 「うん! 一緒ならガマンできる!」 『楽しい事、嬉しいことも、二人一緒』 「わぁ、そしたらすごくうれしいね!」 少女は、鏡の中の自分に微笑む。 『うん、だから――、ずっと二人で居ましょう。ほかは、いらないよね?』 鏡の中の少女の腕がすっと伸び、鏡に触れた少女の手を掴んだ。 「えっ?」 少女はそのまま鏡の中に引きずり込まれそうになる。 「いや! やめて!」 『アナタはワタシ。ワタシは、アナタ』 『イッショナラ、タノシイし、シアワセよ』 「やだ! やめて! パパぁ! ママぁ!」 ●救いの手 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は、集まったリベリスタ達の前に立った。 「事態は急を要します。ただちに現場へ向かってください」 ブリーフィングルーム正面スクリーンには、洋風の家が映し出される。 「現場は、この家の2Fにある子供部屋です。子供部屋には鏡のエリューション・ゴーレムが存在し、子供部屋の主である少女を中に引きずり込もうとします」 それは、今夜起きる出来事。鏡は、映しこんだ少女の姿に言葉を喋らせることで、少女の心を手中に収めた。そして少女が鏡に触れるほどに心を許したところで、引きずり込みにかかったのだ。 「鏡の中に捕らわれれば、この世界から逸脱することになり、戻って来られません。取り込まれる前に、少女を救ってください」 スクリーンに映し出された少女は、8~9歳ぐらいだろうか。長い黒髪を頭の両サイドで結び、幸せそうな笑顔を浮かべている。 「生まれて間もなく母を亡くし、今は父と二人暮らしです。今夜、父は仕事で帰りが遅いため、この時間は一人で留守番をしています。他に人も居ないので、一般人の介入は心配しなくて結構です」 勿論、外に出た場合は、隣近所を心配しなければなりませんが。と、付け加えると、スクリーンの画像が変化する。 「この鏡がエリューション・ゴーレムです。鏡を攻撃したり、少女を助けようとすれば、エリューションが飛び出してくるでしょう。フェーズ2のエリューション・フォース4体です。エリューションは、少女の思念を読み取って、少女の見知ったものの形態を取ります。少女本人の姿。彼女の、お気に入りのテディベアの縫いぐるみ。今よりもっと小さい頃飼っていた、犬。そして――母親」 少女がエリューション・フォースを見てしまえば、戦局はややこしいものになるかもしれない。十分注意を払って欲しいと付け加えた。 「エリューション・ゴーレムは、鏡に吸い込んだものを異次元に取り込み、死に至らしめます。このまま鏡を放置すれば、少女だけでなく多くの犠牲が出るでしょう。少女を救い、鏡を破壊してください」 和泉は一つ頭を下げると、ブリーフィングルームを後にした。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:叢雲 秀人 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年01月29日(日)21:58 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
● 夜。 ひっそりとした住宅街の2階の窓際に浮かぶ人影。 辺りには人の気配もなく、更に『世界を記述するもの』樹 都(BNE003151)の施した強き結界の恩恵により、リベリスタ達は窓の中に見える光景に集中することが出来ていた。少女は今まさしく、鏡に引き込まれるところだった――。 「毎日話し掛けて貰えて、鏡もきっと嬉しかった。だから心が宿ったと思うのです。でも、一緒になれば、寂しさは消えるけど。少女の未来が閉ざされてしまう……。それはいけない事だよって、教えます」 窓越しに状況を確認すると、『何者でもない』フィネ・ファインベル(BNE003302)は、窓に触れる。『教えに』とは、少女にではない。此れから対峙する相手、アーティファクト『鏡』に対しての決意。そして、音も無く窓のロックは解除された。 その決意に賛同するように、子供部屋の扉前、待機する仲間から返答があった。 「そうだな。鏡の向こうはどこにもつながってないだろう。引きこまれたらそれは最後。それだけは、止めないといけない」 『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)。彼女とて少女である。鏡の向こうへは憧れた事もある。――神秘を、知るまでは。 「擬えるならば、さしずめ夢の中に取り込む鏡といったところですか。いずれにせよ滅すのみです」 『銀騎士』ノエル・ファイニング(BNE003301)は、想いを確かめるように頷くと、凄まじい闘気を漲らせる。 「とはいえ……。心苦しい話ですね。致し方ない事とはいえ母の形見の鏡を壊すことになるとは。ですが――仕方ありません。これも少女を救う為です。ならばその罪、喜んで背負いましょう」 誓うように瞼を伏せた『鉄騎士』ベアトリクス・フォン・ハルトマン(BNE003433)が、闇の鎧を身に纏う。それが、戦いの合図だった。 「非常事態だ、許せ家主!」 窓側の仲間の進入との鍵を解除するのと同時に、子供部屋の扉が豪快に蹴破られた。残骸を蹴散らし室内に飛び込んだのは『終極粉砕機構』富永・喜平(BNE000939)。彼が向かう先では、『剣を捨てし者』護堂 陽斗(BNE003398)が鏡から少女を奪取していた。 引き込まれそうになった少女の目を自らの手で覆い、鏡に背を向け少女を守るように立つ、陽斗。 「びっくりさせてごめんね。少しだけ我慢して」 少女の耳元で囁く。その優しい声音に、突然の出来事に身を強張らせていた少女は、少しだけ体を緩めた。 「大丈夫だ。君はもう、こわくないから」 そして、降り注ぐ優しい空気。雷音のストールは少女の身を優しく包み込み。 彼女は、小さく頷くと、陽斗にぎゅっとしがみついた。 それと同時に現れ出でるは、エリューション・フォース4体。 エリューションは少女と陽斗を捕まえようと手を伸ばし、先へ行かせまいと動き出す。 しかし、喜平が母親の姿を模したエリューションの前に立ち、そのマントで行く手を防いだ。 他のリベリスタたちも、打ち合わせで決めた場所に立ち、エリューションたちを相手取った。 先に狙うは、母親。しかしその前に、と、ノエルは少女の姿を模したエリューションに軽くダメージを与える。 (どうやら、ダメージは連動していないようですね) 陽斗が抱えた少女は、エリューションの少女にダメージを与えても何も変化を見せない。同じ事を懸念していた喜平もそれを確認して、作戦の変更は不要と悟った。 「さぁ、ここは危険です。怖いものは私達が引き受けますから、まずは逃げるのですよ」 ノエルは、ストールの上から軽く少女の頭を撫でる。仲間達が開いてくれた血路を抜けて、陽斗は部屋を飛び出した。 室内に残ったリベリスタ達。 「さて、遠慮なくいきましょう」 「少女を惑わす鏡とは許しがたい。大切な物を形作るとはいかんともしがたいな」 再び響いたノエルの声に頷く雷音。彼女の守護は仲間達を包み込んだ。 「あれが、『鏡』ね。少し興味があるので壊さないといけないのが残念ね」 壁際に立ち、遠距離からエリューションを攻撃しつつ、日無瀬 刻(BNE003435)が鏡を見遣る。 「少女以外の思念は映し出さないのでしょうかね? 仮に戦闘中の私たちの思念も鏡に映し出されるようであれば、一人一人がなにを思い戦っているのか。ぜひかいま見て『記述』したいものです」 そういいながら、都は書物を開き、ペンを執る。 それは仲間を癒す手となるための準備。 「いきます……!」 フィネは母親の『歌』を封じるべく道化のカードを作り出す。 そしてそれを、母親の喉元へ投げつけた。 カードは見事母親の喉へと命中し、風穴を開ける。しかし――。 母親のエリューションが口を開き歌を奏でる。その旋律は室内を縦横無尽に跳ね、母親に渾身の乱撃を放つ喜平の傍らで炎を起こした。 あわせるように、少女の唇が音を紡ぐ。魔力の弾がフィネの身を撃つ。 「く……っ、効かないです、か」 フィネは口惜しそうに唇を噛む。喉元を討てば『歌』を防げるかと思ったが、発声の源は声帯では無く。母親の『歌』を防ぐことはできない。 「大丈夫だ。効かないなら早く倒せばいい」 雷音の声と神々しい光。それは喜平の炎を消し去った。 「そうですよ。負ける要素はありません」 都がさらさらと書物にペンを走らせる。 「そうですね……!」 喜平の癒し。フィネは崩れた体勢を立て直すと、少女のエリューションの視界を防ぐべく、再び宙を舞った。 ● 1Fのリビングでは、少女を抱えたまま陽斗が宙に浮いている。 「僕達は、君を守る為にやってきた魔法使いなんだ」 突然鏡に引き込まれそうになり、見知らぬ集団が現れ。 パニックになるなと言う方が無理だろう。増して、まだ子供だ。 陽斗は少女をソファに座らせるとハンカチで涙を拭う。 「あれは鏡の魔物の仕業だよ。鏡は魔物に乗っ取られてしまったんだ。君を守る為に、君のお母さんが僕達を呼んだんだよ」 「ママ……が?」 その言葉に、少女は僅かに反応を見せ、陽斗の顔を見る。 陽斗は柔らかな笑みを浮かべ、少女の頭を撫でる。 「そうだよ。君のお母さんに、『助けてあげて』って言われたんだ」 「おにいちゃんは、魔法使いさんなのね? ここで待ってれば、まものを、やっつけてくれるの?」 「そうだよ。魔物を倒してくるから、ここに居て」 もう一度微笑んで、陽斗は少女の手を取った。巻き起こる癒しの風。小刻みに震えていた少女の震えが止まる。 「君が幸せになれる魔法をかけたよ。もう二度と、魔物も現れない。鏡は無くなってしまうけど、お母さんは君の側でずっと見守ってるよ。忘れないで」 少女の髪をゆっくりと避けると、ミュージックプレイヤーのイヤホンを耳に差し入れる。 「この曲が終わる頃には、怖いことは全部終わるから」 戦いの前にフィネから貰い受けた、少女が好むような音楽。 イヤホン越しに微かに聞こえてくる音楽。それに聞き入るようにしている少女を顔を覗き込むと、彼女は陽斗へと微笑みかけた。 (この子は強く、健気に生きてきたんだ。必ず、守ってみせる) 陽斗は立ち上がると、リビングの鍵を開ける。そして、再び戦いの渦中へと身を投じるべく、子供部屋に向かった。 ● 「お待たせしました!」 勢いよく、陽斗が飛び込んできた。すぐさま仲間達を確認する。 鳴り響く福音。仲間達の傷をみるみる癒していく。 全てのリベリスタが揃った今。エリューション達は脅威ではなかった。 「來來! 氷雨、この悲しい群像をすべて凍りつかせろ!」 雷音の雨は敵を打ち、テディベアを凍りつかせた。 室内に母親の歌が響き、エリューション――少女のダメージを回復する。 自らも氷雨の傷を受けたというのに、『娘』の回復を行った『母親』。こんなところまで、映しこんだというのだろうか。 しかし、それは娘を生きながらえさせるわけではなく、更に苦しませるため、とも言える。 「やはり――母親に化けるなど、愉快ではありませんね」 ノエルのオーラが激しく放電する。電撃を纏う一撃は母親の体を打ち砕き。 「心に残る母の記憶、そいつを騙る狂った幻像は……砕けて失せろ」 喜平が華麗にして流麗に舞い、無数の刺突が繰り出された。 光の飛沫が幾重にも散った先で、母親のエリューションは倒れる。 音も無く消え去ろうとした姿に、都が声をかける。 「なにかメッセージはありますか?」 少女のイメージを映しこんだものがエリューションだとすれば、『母親』が語る言葉は少女が一番欲しかった言葉なのではないだろうか。 けれど、母親のエリューションは薄く笑みを浮かべただけで、静かに消え去った。 残るは、少女と犬と、テディベア。 母親と少女を倒すまでの抑え役を担うベアトリクスと刻。遠距離と近距離の攻撃を織り交ぜながら、見事に抑え役を全うしていた。 「少女の命は私たちが守る! 失せろ化生の者ども!」 己の生命力を瘴気に変えて、少しでも多く敵を巻き込むように攻撃を放つベアトリクス。刻もまた同じ戦法を取っていた。 そのため二人は、ダメージが蓄積されれば後衛に入り、代わりに雷音、都、合流してからは陽斗からも、回復の加護を受けた者が前衛に戻る。つまり、常にどちらかが必ず前衛に立ち、リベリスタが集中で攻撃している間、残る敵の抑えを完璧にこなしていたのだ。 「あうっ」 犬の渾身の体当たりを受けたベアトリクスは、後方へ吹き飛んだ。 「大丈夫よ、私がいるわ」 その体を刻が受け止める。そしてダメージを確認して、再度前線へと送り出した。 エリューションの犬とテディベアの持つノックバックは、吹き飛ばされた方向によっては鏡に取り込まれる可能性を誘発するものだったが、二人の対処によって、その可能性はほぼゼロに等しいものとなっていた。 リベリスタたちの攻撃は少女のエリューションへと集中する。 少女の歌は単体のみを襲うものだったため、攻撃を受けたものを都、もしくは陽斗が確実に回復していくことで勝利へと導いていく。 さらさらと、都がペンを走らせる。書き終えると共に気糸が少女へと放たれ、喉元を貫いた。 それを追うように、刻の黒い瘴気が全てのエリューションに襲い掛かる。 少女のエリューションは、静かに床に崩れ落ち。それを庇う様に犬のエリューションが少女の背に倒れこんだ。 「後は……」 「このままいくわよ」 眼前の敵が消えた今、残るは少女が大事にしていたテディベアを模したエリューション。 ベアトリクスの黒のオーラが閃光となってテディベアの腹を貫いた――。 ● リベリスタたちは鏡の前に立つ。 最早、鏡に攻撃する力は無い。触れるものが無ければ、取り込むこともままならない。 「私達の思念を映し出すことはありませんでしたね。やはり、長い間少女の傍に居たからこそ、できたことなのでしょうか」 室内へ降り立つと、都は興味深そうに呟いた。 「ずっと一緒で楽しかったの、に。少女は成長して、鏡には知ることのできない世界を広げていく。 嬉しい反面、寂しく思う気持ちが育ったのかも、しれません、ね」 戦いの中、少女と母親は共に歌っていた。二人を繋ぐ絆だったのだろうか。 出来ることなら、この鏡を破壊した後に修理して、これからも少女を見守ってあげて欲しい、けど。 ころん。 「あ……」 足元に転がる、テディベアのぬいぐるみ。それは、エリューションではなく、今までも、これからも少女の傍に居続けることが出来るもの。 「……あなただけでも、傍にいてあげてください、ね」 フィネはテディベアを拾い上げると、そっとベッドの上に座らせる。 そして、陽斗の隣へと立った。 「割ります」 陽斗の声が静かに響き、十字の光が鏡を撃ち抜いた。それに合わせ、道化のカードがフィネの手から放たれる。 「これで鏡の存在こそが夢幻、ですね」 砕け散った鏡を見つめ、ノエルが呟く。 雷音は、その破片を一つ拾い上げて記憶を読み取ろうと試みた。 流れ込んだ記憶の中、其れは断片的なものに過ぎないけれど。その中から雷音が拾い上げたのは、少女の母親の姿。腕の中に赤ん坊を抱いている。 微笑を浮かべて紡ぐ歌は、先ほどまで奏でていたものとは違う、優しい――子守唄。 『誰よりも、幸せになってね』 赤ん坊の頬にそっと唇を落とすと、幸せそうに微笑んだ。 少女の部屋を綺麗に片付けると、リベリスタ達はリビングを覗き込んだ。 少女はイヤホンをつけたまま、ソファのうえで安らかに寝息を立てていた。 「起こさずに、おきましょうか」 「そうですね」 彼らはそのままその場を後にすると決めた。 陽斗は起こさぬようにイヤホンをはずし、ミュージックプレーヤーを回収し、部屋を出る。 最後に残ったノエルと雷音。二人は、少女を起こさぬようにそっと耳打ち。 「悪い魔物はやっつけました。でもいつも助けてくれる人がいるとは限りません。強くなってくださいね」 幸せを願っていた、母親の分も。 「誰よりも、幸せにな」 母親の願いが、叶うように。 満月が天空高く上る中、リベリスタ達は帰途へつく。 出来ることなら、今夜のことが少女の心に傷を残さぬよう。 そう、願いながら。 ふと立ち止まり、雷音は携帯を開く。 『鏡の国には幸せはあるのでしょうか? ボクはこちらが幸せのある場所と思っています』 誰よりも、幸せに。その母の思いは、きっとこちらの世界でしか叶えられぬもの。 養父に送ったメールの返信も、きっと恐らくは――。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|