● くるくると回っている。 それはとても可愛らしい少年と少女だった。 手を繋ぎ、楽しげに笑い合いながら、くるくると回っている。 全く――己にもあんな頃があったのだろうかと、一瞬でも考えた自分が阿呆のようだ。 自分にあんな時代は、なかった。あんなに美しい子供時代はなかったと、数秒の間二人に目を奪われていた男は恥じるように視線を逸らす。 だが、笑い声は近づいていた。 再び目を向けると、二人は男の姿に気付いたのだろう、手を繋いだままこちらへ駆けて来るのが見えた。 少年の方は僅かに控え目で、少女の方が促すように手を引き、二人はこちらへ駆けて来る。 やれやれ。 男は溜息を吐きながら、それでも唇の端をほのかに上向かせる笑みを浮かべて、二人の到着を待つ。 先程の気恥ずかしさから、足早にその場を立ち去りたい衝動はあったが、何故だかそれは選べなかった。 「なんだい――」 自分でも驚くほどの優しい声が出る。が、それを二人が聞いたのかどうかは分からない。 少年と少女は、男から2メートルほどの場所で爆発していた。 文字通りに。紅蓮の炎を吹き上げて。 男は一瞬で絶命した。そして、ばらばらと地面に落ちる気持ちの悪い物に混じって、未だ繋がれたままの少年と少女の腕がぼとりと落ちる。 ● 「今回の依頼はアザーバイドの撃破。勿論、今見て貰った映像の二人じゃないけど」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、映像を止めてリベリスタ達を振り返る。 「この近くには大きな木がある。これが起こる数時間前までは存在していなかった物。それがこの子達を『製造』している」 リベリスタの背には寒気が走った。 何なんだ、それはと。訴えかける視線に、イヴは答える。 「悪意が存在する事は間違い無いと思う。正直向こうの思考は異質過ぎて説明出来ないけれど。リーディングを行うのは推奨しないと先に言っておくよ」 端末を叩くイヴ。二分割されたモニターの、片方に映し出されるのは問題の『木』。 もう片方に映し出されていたのは三ツ池公園を中心とした周辺の地図だった。 「三ツ池公園に『閉じない穴』が開いてから、周辺が不安定になっているのは皆も知っているね」 イヴはぽつりと言う。 「公園内部の哨戒は皆にやって貰っていた。『万華鏡』(カレイド・システム)も公園内に開いた『閉じない穴』を中心として、現れる敵についての予知を重点的に行い続けている。だから――とは言わない。周辺地域で数秒だけ開いては閉じるバグホールの優先順位はそもそもとして低かった。そんな事は『穴』が開く前から良くあった事だから」 再びキーを叩けば、4箇所に×印が付けられる。 イヴは告げた。それが、バグホールが開き、そして同時に子供が行方不明になった場所だと。 「この事は……貴方たちに言うべきかどうか迷ったけど。木が製造している子供達は、行方不明になった子達のクローン。でも、皆も知っての通り少しだけ改造が加えられていて、身体を構成する物質の多くが生体爆薬化している」 つまり、助ける意味もなければそれ自体も出来ない。 身体の殆どを生体爆薬に変えられた歪な生は、爆発によって消えずともそう長くは持たない。 「必ず全てを撃破して」 イヴはそう告げていた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:RM | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年01月23日(月)23:22 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「あれが、そうか」 ぽつりと言う。戦場と告げられた空き地へは、未だ距離があった。 しかし大樹であるとの言葉通りに、その木はここからでも望む事が出来る。 「……確かに大きい。巡回していた者達だけでは、手に余るだろうな」 『ピンポイント』廬原 碧衣(BNE002820)の表情は、普段と然程にも変わらない。 しかし、木を眺める眼には僅かな昏さがあった。 「アザーバイド……」 『ミックス』ユウ・バスタード(BNE003137)はその木を睨み付ける。 それは動く事とて無く、その場に根を下ろしていた。そして根元に持つカプセル状の器官で、子供を生産していた。 おぞましいのはその『子』が、人間であるという事。攫われた子達のクローンであるという事。 更に言えば、その子達はそのままの身体で複製させられたのではない。 身体の殆どの部分が爆薬と化しているのだ。彼等は人を見掛けると近寄って行き、そして自爆する。 「……助ける事が出来ない、という任務は良くあります。それは、覚悟の上です。このお仕事ではね」 ユウは言っていた。無言で居る事に耐えられないかのように。 エリューション化した動物、人は勿論の事、死体の中にも生前の記憶や意識を残し、直接的には人に害をなさないものもいる。だがフェイトを得られなかった者達は、この世界の崩界を加速させる。 革醒が進行し、フェーズが進めば危険な存在になるという直接的な理由もあるにはあるが、根本としてはそういう事だ。運命に愛された僅かな例外を除いて、エリューション化した者は存在を許されない。踏み止まる者、リベリスタにとって。 だが、今回は。 「でも……最初から、その意味すら無いなんて! なんて事!」 今回は、ヒトの形をしたそれは複製体だった。 本来ならば何等殺されるべき理由を持たない、しかも決して救う事の出来ない、子供達の複製。 それを目の前にちらつかせるモノとは一体どのような悪意を持つのか。植物の姿を取ったアザーバイドは何も語らない。 「やれやれ、良い趣味をしているね。――普通の人の心を躊躇わせるには丁度良い素材だよ、全く」 口中に呟き、ひそかに乾いた笑みを浮かべるのは『大人な子供』リィン・インベルグ(BNE003115)。 彼の外見は10歳ほどの痩せた少年だった。しかし生きてきた時はここに集まったリベリスタ達の中では最も長い。 そのアンバランスさが、彼の笑みには独特の色を添えていた。人の心を惑わすための試みなど、最早見飽きたとでも言うように。 だが、振り返る彼の顔には、それまでの乾いたような表情は名残すらも残ってはいないのだ。 行こう、と促すそれは、外見年齢相応の、憂いを宿した少年の微笑である。 「そうだね……」 『鉄血』ヴァルテッラ・ドニ・ヴォルテール(BNE001139)はそう言って応じていた。 いつもの事ではあるが、関東の気候は定まらない。少しばかり暖かくなったかと思えば、それを嘲笑うかのように冷たい風が吹く日がやって来る。気まぐれな女神が吹かす風は、今日という日にもやはり凍るような冷たさを選んでいた。 よって、件の空き地へと辿り着いたリベリスタ達が見た物は、大樹の陰で白い吐息を両手に吐き掛けながら、嬉しそうに戯れる少年と少女の姿である。 見つめる16の瞳には一瞬の哀れみ。 だが、爆弾でなければ良かったのに、との自らの思考に気付いて、彼等の背と瞳もまた凍りつく。 「……不愉快な」 ハイディ・アレンス(BNE000603)は子供達の背後、木だけを見つめながら吐き捨てていた。 二人の子供は、こちらに気付いたようである。少女がこちらを指差して笑い、少年は少女の手を取る。 「ひとと同じ見かけしとると、やっぱりひとなんかって思うんよね」 ぼんやりと言うのは『ビートキャスター』桜咲・珠緒(BNE002928)だ。 「けど、ふつーのひとは爆発とかせんのや。……ひとは、そういう風には死なへん」 顔を伏せる珠緒。その視界には一瞬前まで、こちらに駆けてこようとしている子供達の姿があった。 これを作った奴が何を考えているかなど知らない、知りたくも無い、が。 少しでも、ひとらしく終わらせてやりたい。 そう思って彼女は再び顔を上げた。 ……戦闘が開始される。いや、これは戦闘と言えるのだろうか。 誰もその問いには答えない。 ● 木ごと子供達を飲み込む炎。それは『殲滅砲台』クリスティーナ・カルヴァリン(BNE002878)が放ったものである。 子供たちは炎に飲まれながら、その表情に苦痛も、彼女を責めるようなものすらも浮かべなかった。 ただその輪郭をオレンジにぼやけさせ、炎が去った後には黒ずんだ屍体を残すのみである。 同時、唸りを上げて発光するアザーバイドのカプセル状器官。 既に準備は終わっていたのだろう。四人の子供達がそこから這い出して、周囲を不安げに見回した後、見知った顔を木の周りに見つけて笑みを浮かべる。 そこへ、珠緒はフレアバーストを撃ち込んでいた。かき鳴らすギターの音に乗って、赤い炎が踊る。 木本体に阻まれてか、それは4人全ては巻き込めなかった。討ち漏らした少年の上げる悲鳴は、『執行者』エミリオ・マクスウェル(BNE003456)の放つ魔閃光により不自然に途絶える。 「泣いても叫んでも命乞いをしても良い。けれど、私は貴方達に誰一人殺させはしない」 耳に残る悲鳴を聞いて、クリスティーナは呟きを唇にのせる。 唸り続けるアザーバイド。既に何発かの直撃をカプセルに受けている筈だが、その見た目には柔らかそうに見えるカバー部には傷一つなく滑らかなものであった。木本体に至っては言うまでも無く、恐るべき頑丈さだ。 「対して、子達は見た目通りかね。それほどまでに、この子達の死を、私達の目に焼き付けたいのか」 告げるヴァルテッラ。彼の無限機関が暴走を始め、生み出された業火は笑みを浮かべた少年と少女を飲み込んでゆく。 「……許せとは、言うまい」 黒く焦げた屍体に、彼の声は落ちる。 唸り、そして笑い声。火の燃え爆ぜる音と銃声が鳴り、悲鳴が響いて。 すすり泣く声は水音に途切れ、そしてまた笑い声が聞こえて来る。 木は動かず、そこに緊張感は希薄だった。堆く積み上げられる死体は茶と灰色の地面に赤いカーペットを敷き、それが元々は何であったのか、木から這い出しては笑う子供達とイコールで結ぶ事も徐々に難しくなって来る。 それは忍び寄るような現実味の無さ。子供の死というヴィジョンを延々繰り返し見せられているような錯覚。 しかし死体は積み重なり、彼等のエネルギーは徐々に削られてゆく。 結界を広げるハイディ。全身から気糸を紡ぎ、木とその周囲に生まれた子達を打つ碧衣。 彼女は撒かれた血と苦鳴に僅かに顔を顰め、しかし攻撃に一切の躊躇は無かった。 思う。私はアザーバイドが製造した悪意を討つだけ。そこに何の感傷も無ければ抵抗も無い、と。 だが、そう考えさせられている時点で思考を絡み取られているのだろうな――そう気付いて唇に自嘲が浮かぶ。 「君達のオリジナルは、一体何処に行ってしまったんだろうね? ……哀れな事だよ。君達も彼等も」 問いながら、リィンが放つ光弾。少年達は答える前に爆ぜるが、元より彼等もそれを知るまい。 分かっていた。 何を問いかけても答えが戻っては来ない事は。子供達は知らず、植物は語らない。 だから、ただ一方的に叩き付けられる悪意に耐えながら、ユウは、ハイディは、無言でそれを討ち続けた。 ● 「……いつまで、これ続けたらええの」 途切れる歌声。精神と肉体両面の疲労を滲ませた珠緒が、周囲の戦闘音に紛れてしまいそうなほどか細く言う。 碧衣はインスタントチャージを飛ばし、彼女のエネルギーを回復させる。 木は未だそこに立っていた。 所々から煙を吹き、カプセルの一つも火を噴いて活動を停止させていたが、未だその唸りは已まない。 彼等は全員が範囲攻撃を持ってこれに臨んでいたため、エネルギー不足への懸念はさほどでもないが、恐らく木の耐久力を低く見積もっていればかなり厳しい戦いが展開されたであろう事は想像に難くない。 今も一人、仲が良かった少年の姿が見つからず、泣きじゃくりながら歩いてくる少女が、範囲攻撃の網を抜けていた。 「悲劇のヒロイン。差し詰めロミオとジュリエットかしら」 ぱん、と弾けるこども爆弾。 「けれど悲恋劇の結末は、死別と相場が決まっているのよ」 クリスティーナはそう言って、それを見届けていた。 「こんな、歪な命を……よくも!」 エミリオは暗黒剣を放つ。噴出する黒い瘴気は彼の命を吸って、アザーバイドと子供達に突き刺さる。 その一撃でもう一つのカプセルが火を噴き、活動を停止していた。 「さて、ここから引っ繰り返される事は……まず無いだろうね」 頃合と見たヴァルテッラは数歩を歩み出す。 「済まない。もしかすると、戦列を離れる事となるかもしれないが。了解してくれたまえ」 「ヴォルテールさん、何を……」 ユウの問いに片手を挙げるヴァルテッラ。 「なに。わざわざ警告までしてもらっていたがね。……教えてもらおうと思うのだよ。知っているのは、君だけだろう?」 そして、彼はアザーバイドの思考を読んだ。 じわりと忍び寄るような感覚。次いで何人分もの混沌とした意識が雪崩れ込んでくる。 こちらが読んでいる筈なのに、逆に見られているような錯覚。最初は混乱したが、やがてそれがこのアザーバイドの思考なのだという事が分かってきた。そしてヴァルテッラは子供達の過去とその末路を知り、そこで、ふつりと意識が途切れる。 エミリオは前衛へ踊り出ていた。 子供達の一人に振るう奪命剣。しかし一瞬前に子供は破裂し、白い光の中にその楽しそうな顔が踊った。 「何を……している!」 傷癒術を放ちながら、ハイディ。 「ごめん、でも……あの子達の痛みを知っておきたかったんだ」 エミリオはフェイトを燃やして立ち上がっていた。 「ねぇ、……彼等は、どんな気持ちで命を散らしてくんだろう」 「知るものか……」 再びの痛打に、アザーバイドは身を捩じらせて震えていた。 カプセルの残り二つが破裂し、木の幹からは所々血のような赤い液体が染み出している。 「この図体だと的当てにすらならないな。まあ、動いたところで外しはしないけど」 リィンは攻撃をアーリースナイプに切り替え、こどもプラント本体を狙撃し続けていた。 最早爆弾の生産能力がアザーバイドに無くなった事を知り、次々と全力で攻撃を叩き込んでゆくリベリスタ達。 最後に、エミリオが振り上げた十字架型ランチャーの先端に紡がれた呪詛の塊が、アザーバイドに向けて放たれる。 「命を弄ばれた子供達の痛みや苦しみ……その身に受けて滅び去れ!」 崩壊は、長く続いた。 砕けた幹の中央を支点として大樹の姿をしたアザーバイドは崩れ、それは木の下に積み上げられた死体を飲み込んでゆく。 ● 「……終わったんやね」 崩壊した木に飲まれて、子供達の姿は何処にもなかった。 これだけの大物を破壊したというのに達成感の一つもなく、珠緒は呟く。 「私は、子供達が居なくなった場所へ行ってみる。ホールが開いているかもしれない」 言って、踵を返す碧衣。 誰もそれを呼びとめず、いや、吐かれる言葉自体が少なかった。 沈黙はまるで雪のように、音も無く降って行く。 「……済まない、肩を……借りても良いかね」 倒れていたヴァルテッラがそう言っていた。ユウは彼に肩を貸し、頭痛を堪えるかのように頻りに額に手を遣っている彼の指示に従って、アザーバイドの残骸へと歩んでゆく。 「何か、分かったんですか?」 まるで溶けた鉛を流し込まれたかのように違和感を訴える頭を宥めながら、彼はその場に膝をついた。 「彼等は、恐らく苦しまなかっただろう、という事くらいかね」 「では……」 傍らにはハイディとエミリオの姿があった。エミリオは口を開く。 「やっぱり、この中に居たんだね……」 予言者は、それがクローンであると言いながら、オリジナルについては避けるように何も告げなかった。 「彼等『本体』からの遺品の回収は難しいだろうがね。クローン元がそのままの形をしている意味はない」 言いながら、ヴァルテッラは木の中を探っていた。黒い金属のような物を見つけ出し、その手に握る。 「……全く、不愉快な気分にさせてくれるね。アザーバイド」 「でも、これで解放されたんだよ、ね」 エミリオはそう言っていた。未だ黒い煙を上げ続ける、アザーバイドの残骸の上で。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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