●ヒロイン、参上 胸元から腰、そして太腿へ。鈍く輝く黒のエナメルスーツを纏った自らの肉体を、細い指先でゆっくりと撫で上げる。そしてその手を腰に据えると、彼女は口元に笑みを滲ませた。 「良い夜ね――」 赤く塗られた厚い唇から、甘さの滲む声が零れる。 「私の活躍を彩るに相応しい月夜――」 そう囁く様に言いながら、彼女は足場である住宅の屋根を蹴った。緩やかな放物線を描きながら、近隣のビルの屋上へと高らかに飛翔する。 華麗に着地した先は、屋上を囲む落下防止の柵の上。しゃがみこんだ体勢のまま唇に舌を這わせる彼女の視線が、眼下に広がる街を舐める様に巡った。 「待っていなさい、必ず見つけ出してこの手で滅ぼしてみせるから――」 そして再び飛ぶ。その姿は夜闇に紛れ、消えた。 ●リベリスタ、乱入 「彼女がこれから倒そうとしている敵は、彼女の妄想が半実体化したものね」 半ば唖然とした表情のリベリスタ達を前に、『リンク・カレイド』真白イヴ(ID:nBNE000001)は淡々と語った。 「つまりその女は、自分が生み出したものを自分で片付けようとしてる、って事か?」 「そんな感じ。彼女は、その事を知らないけれど」 彼女は理想通りの『ヒロイン』として、『敵』を自らの手で討ち果たそうとしているだけ。イヴの言葉に、リベリスタ達の間から溜息が漏れた。 女性の名は田辺葉月。彼女は元々、海外の映画やドラマ等に出てくる戦うヒロインに強い憧れを抱く女性であった。その憧れは心の中だけに留まらず、少しでも近付ける様にと、台詞を完璧に記憶するのは勿論ジム通いに精を出すなど、なかなかに積極的なものであったそうだ。 「そんな葉月が革醒して覇界闘士と似た様な能力を得たのは、運命みたいなもの、かも。……勿論、偶然だろうけれど」 イヴの言葉通り、葉月はある日革醒しフェイトを得た。つまり彼女は憧れの戦うヒロインが如き力を得た訳だが、しかし彼女は自ら力を振るおうとはしなかった。どうやら力があるという点だけで満足してしまったらしい。――時々、うっかりジムの設備を壊してしまう事はあった様だが。 だがそんな生活は、葉月がとある衣装を手に入れた事から一変する。 「折角だからヒロインっぽい衣装が欲しい、って思ったみたい。インターネットオークションを利用する事で、彼女は気に入った一着を見つける事が出来たんだけど……」 一目惚れしたその一着を、葉月は速攻で注文した。数日の後それは彼女の元に届いたのだが――それからというもの、彼女は夜な夜な衣装を身に付けて徘徊する様になってしまったのだという。 「まさか、それって」 「アーティファクトであるそれに影響されての行動ね」 エナメル生地で、胸元や背中が大きく開いたキャットスーツ。その能力は、着用者の身体能力を大幅に向上させ、かつ動きを無駄にスタイリッシュにし、ついでにその気分を大胆にさせるというものだ。 更に、スキルで言えば『ハイバランサー』『面接着』の能力を着た人に与える。それらの能力を得て、葉月はあちこちの屋根を飛び回っている、という訳である。 「喜んだろうなぁ、彼女……」 遠くに視線を投げるリベリスタに、イヴは無言で頷いた。 それでも、葉月はそれ以上の事はしなかった。活動時間は深夜で、騒ぎになる事も皆無。靴音が元でちょっとした噂が立った事はあったが、どれも彼女に結びつくものにはならなかったのだ。 そんな生活が続いたとある夜。何時もの様に夜空へと飛び出した彼女は、空気の感じが何時もと違う事に気付いた。 「その空気の違和感の正体が、さっき言った彼女の妄想が半実体化したもの。……簡単に言えば、彼女が自分の活躍を脳内でシミュレートするのに使った敵」 妄想だけなら、皆の中にも身に覚えがある人も居るかも知れないわね。イヴの言葉に、数人のリベリスタが視線を宙に泳がせた。 「このままだと、葉月とその敵は住宅街のど真ん中で戦闘を始める。結果としては葉月が勝つけれど――物音を聞きつけて飛び出してきた住人が犠牲になってしまうわ。そこで、皆にはこの戦いに介入して欲しいの」 リベリスタ達の間に流れる空気が一瞬にして変わる。彼等を見回すと、イヴは言葉を続けた。 「大前提は、住人に犠牲を出さない様に戦闘を終結させる事。それに加えてお願いしたいのが、葉月が身に付けているアーティファクトの破壊あるいは確保、そしてエリューション・フォースの討伐。……葉月に関しては、アークに連れてくるのが良いと思うけれど、皆に任せるわ」 頷くリベリスタ達に、イヴは口元に薄く笑みを浮かべてみせた。 「ちょっぴり傍迷惑なお話ではあるけれど、葉月の為にも何とかしてあげたいの。――この仕事、お願い出来るかしら?」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:高峰ユズハ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年05月11日(水)22:47 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●『ヒロイン』の表の顔 「お疲れ様でした!」 インストラクターの声がフロントに響く。それに会釈を返すと、葉月は自動扉を潜った。向かう先は、近隣にあるバスのロータリー。バスを待つ列に並んだ彼女は、ひとつ溜息を吐いた。 定時に仕事を終え、この自宅の最寄り駅へと戻り、ジムで体を鍛え、こうしてバス停に並ぶ。全てが普段通りでありながら、彼女の心には普段は無い昂りがあった。 ――またお会いしましょうね? あの声色を思い返す度に、それは燻ぶりを見せた。 トレーニング中に彼女の下にやってきた、二人組の少女。不思議な事に、片方の少女の頭部には本物の兎の耳が付いていた。しかも、何故か彼女等は自分の事を知っている様であった。 何故兎の耳が付いているのか。何故自分の事を知っているのか。そのどれもに答えぬまま、少女達は意味深な笑みを残して去っていった。 (何もかもがよく分からない、けれど) それでも、彼女の胸には確信に近い思いがあった。 (きっとこれから何かが起きて――私の出番がやってくるんだわ) 浮かぶ笑みを噛み殺しながら、彼女はやってきたバスに乗り込んだ。 ●舞台を調える者達 サングラス、妙に彫りの深い顔立ち、筋骨隆々な肉体、そして右手にはナイフ。そんな男が五人、深夜の住宅街を闊歩している。その姿を遠くに見ながら、ラキ・レヴィナス(BNE000216)は溜息を吐いた。 (全く、傍迷惑な話だぜ) 只管に歩む五人の姿に周囲を警戒する様子は無い。自信に満ちた姿と言えなくもないが、その実を知る彼はただ呆れるのみだった。 葉月に狩られる為だけの存在。エリューション・フォースとして半実体化した後も、彼等はその役どころを忠実に守っているらしい。しかしそれは、現実においては許されるものではない。住人が巻き込まれたら惨事となりかねないからだ。 「やれやれ、手間を掛けさせおって」 毒づくと、『泣く子も黙るか弱い乙女』宵咲 瑠琵(BNE000129)は『強結界』を発動させた。 これで、外から住人が立ち入る可能性はかなり低くなる。展開が終わったのを確認して、『Dr.Physics』オーウェン・ロザイク(BNE000638)は術の間合いに入った。 「さて、こちらに来てもらうとしよう」 活性化された思考回路で狙いを定め、気糸を放つ。それに右手を穿たれ、男がナイフを落とした。 再びナイフを握った男の意識がオーウェンへと向いた。『怒り』により男達を川岸へと誘導する。その作戦に見事に引っかかった男を冷ややかな目で見ながら、オーウェンは間合いの外へと後退した。 「しっかり付いていって下さいね。そうでなければ、この場でブチのめさねばなりませんから」 『八幡神の弓巫女』夜刀神 真弓(BNE002064)が微笑みと共に告げる。勿論、男達の身を心配しての発言ではない。この場に留まる時間が長ければ長い程、住民を巻き込む危険性が高まるからだ。 住民の安全が最優先。それを胸に、彼女は仲間達と共に川岸を目指した。 一方その頃。『葉月接触班』である『風のように』雁行 風香(BNE000451)と『メタルマスクド・ベビーフェイス』風祭 爽太郎(BNE002187)は、道端で葉月を前にしていた。 「それで、私に何か用かしら?」 芝居がかった口調、モデル立ち。そんな葉月に、風香は笑みを滲ませた。 「ここを行った先にある川岸に、エリューション……まぁ平たく言うと悪役ねっ、それが出現したらしいの。私達は今からそれを退治しに行くんだけど、手伝ってくれないかしら?」 葉月は川岸の方角へと目を向けた。顎に手を当てて唸る。 「もしかしたらそれは、私が追い求めている敵と同じものかも知れない――」 食い付いた。それを察して、爽太郎が口を開いた。 「俺達は、事件の前兆を察し、それを未然に食い止める為にいる者です。恐らくは同じ敵を持つ者同士、今回は敵の敵は味方、という事でどうでしょう」 「成程ね。それなら協力しても良いわ」 その返答に、爽太郎が安堵の表情を見せる。不敵に笑むと、葉月は傍の壁を蹴り、華麗に回転しながら屋根へと上った。 「但し、早い者勝ちね。――早く来ないと、先に倒しちゃうかも知れないわよ?」 「あ……」 言うや否や屋根を蹴った葉月に、爽太郎の声は届かなかった。 「話の続きは後ほど、かな」 「取りあえず、追うわよ!」 彼が頭を掻くのと風香が動いたのは、ほぼ同時。葉月の背を追って、二人は駆けだした。 ●敵か、味方か 高らかに飛翔した葉月が、川岸へと降り立つ。それを見届けて、『素兎詐欺』天月・光(BNE000490)と雪白 桐(BNE000185)は川岸に沿って伸びる土手に立った。 「お天道様が見逃した悪も月の光は見逃さない! ラビットムーン参上!」 振りかえった葉月に向け、セーラー服の様なレオタードと仮面を身に付けた光がポーズを決める。 「月に代わってお仕置きうさっ!」 「その台詞とポーズはいろいろと危険ですよ?」 彼女にツッコんだのは、コウモリっぽいヒーローの衣装を身に纏う桐。その声色の耳にして、葉月は声を漏らした。 「まさか、貴方達――」 「おっと、お話は後にした方が良さそうですよ?」 葉月が口を噤む。その耳に、遠くより騒音が聞こえた。 「あれが敵うさっ!」 音の方角へと光が指差す。その先には、戦闘を繰り広げる者達の姿があった。次の瞬間、葉月は戦場に向けて駆けだした。あれが戦うべき敵だと認識したのだろう。 その背を、桐は光と共に追った。 「お手並み拝見と行きましょうか、『ヒロイン』さん――」 無事男達の川岸への誘導を終え、風香と爽太郎との合流も果たしたリベリスタ達は、一気に攻勢に転じた。 「もう遠慮は要りませんね。一気にブッ飛ばさせていただきます」 微笑と共に、真弓が重火器を構える。轟音を伴う弾丸の嵐は、男達を激しく抉った。耐えきれず男の一人が倒れる。誘導中にも数を減らしていた男達は、残り三人となった。 そこに、葉月が現れた。その目が風香と爽太郎に向いた。 「あら、貴方達の方が早かったのね? ――まあ良いわ、約束通り味方になってあげる」 地を蹴り、男へと向かう。狙いを見抜いたオーウェンが気の糸を放った。突如現れた罠に足元を取られ、男の身が揺らぐ。そこに葉月が、キレのある動きで技を叩き込んだ。 まさに映画のヒロインの様な、華麗な動き。ラキは感嘆の声を漏らした。 「やるねぇ……こちらも負けてられないなっ」 放たれた気の糸に急所を貫かれて、男は崩れ落ちる様に倒れた。 残る二人に対して、リベリスタと葉月の攻撃が降り注ぐ。既に傷を負っていた二人に、それを耐えるだけの余力は残されていなかった。 爆発音と共に、炎と煙が派手に立ち上る。ポーズを決めて立つ葉月の背後で、男達は次々に倒れた。 「貴方達が悪である以上、こうなる事は運命――さようなら」 恍惚の表情で囁く様に言う。彼女から目を逸らすと、瑠琵は肩を竦めた。 「全く、この場で戦闘を行えて良かったわ。もし住宅街で先程の技をやらかせば、住人に犠牲が出たかも知れんからのぅ」 その言葉に、葉月がぴくりと眉を動かした。 「それを防げただけでも、此度の任務は果たせたと言えるわ」 「……どういう事?」 彼女を真直ぐ見据えると、瑠琵は再び口を開いた。 「お主はヒロインなどでは無い。その術も、所詮は得た力に振り回されるだけの児戯――拾った凶器で遊び回る『ヒロインごっこ』に過ぎぬのじゃ」 一瞬、葉月が言葉を失う。僅かに頬を紅潮させた彼女は、それを否定しようと口を開いた。 それを遮る様に、怒りを滲ませた真弓が歩み出た。 「少々お小言を言わせて頂きますね」 彼女の剣幕に、びくりと葉月が身を震わせる。 「自分の力の意味も分からずそれを振るうなど、言語道断です。まずは自分の力を知りなさい。それまで、そのスーツは預からせて頂きます」 「な、何なのよ、貴方達……」 動揺を見せる彼女に、光と桐は顔に付けていた仮面を外した。 「葉月くん、夕方ぶりになるかな?」 そこには、葉月がジムで会った少女二人――桐は男だが――の姿があった。眼を丸くする葉月に、光は自分達の事情を告げた。アークという組織からの依頼でやってきた事。そのスーツには特殊な力があり、危険な事。その為、そのスーツを回収しなければならない事。それを、葉月は不満気な表情のまま聞いた。 風香の瞳に鋭さが宿った。 「まあ、力を持つ以上貴方にも私達の拠点に来て貰いたいんだけどね。――どちらにせよ、嫌だと言うなら力で捩じ伏せるしかなくなるわよ?」 「脅し、という事かしら?」 笑みを漏らすと、葉月はリベリスタ達を見回した。 「アークだの何だの良く分からないけれど……そんな話に騙されるだろうなんて、甘く見られたものね」 そして、両腕を広げる。 「奪えるものなら奪ってみせなさいな。貴方達に出来るなら、ね」 不敵な言葉に、リベリスタ達の間に緊張が走った。 「交渉決裂、か――ならば、力尽くで行くより他あるまい」 オーウェンの言葉に同調する様に、彼等は一斉に構えを取った。それに倣って鉄槌を構えながら、ラキは葉月に向けて人差し指を立てた。 「オーケー。じゃあ、ひとつ勝負しようぜ。俺達が勝ったら、そのスーツを頂く。負ければ、これ以上はとやかく言わねぇ。どうだ?」 「――良いわ」 短い了承の声と共に、葉月は地を蹴った。 葉月の身体を覆うエナメル生地が、輝かしいまでの煌めきを帯びる。スーツの力により身体能力を大幅に向上させた葉月は、リベリスタ達の陣へと躍りかかった。 「申し訳ないけど、本気で行かせて貰うわね」 身体能力のギアを上げて敏捷度を高めた風香は葉月の連撃をかわし、逆にその懐へと踏み込んだ。流れる様な斬撃を放つ。辛うじて全てを受ける事を回避した葉月は、後方へと跳躍した。 その傍には、気配を完全に消したオーウェンの姿があった。 「無駄な抵抗は止めたまえ。お前さんを傷つけるのは本意ではない」 葉月の周囲に多重の呪印が展開する。葉月の顔が微かに歪んだ。 「くっ……こんなもの!」 裂帛の気合に、呪印が崩壊する。自由を取り戻した葉月は地に手を付け、回し蹴りを放った。アクロバティックな一撃に、数人が巻き込まれた。 葉月はリベリスタ達と対等に渡り合った。特に、度々放たれる爆発演出は小さくは無いダメージをリベリスタ達に与えた。 「厄介な事よ……!」 その為、唯一他者回復を持つ瑠琵は仲間の傷の手当てに奔走する事となった。 だが、葉月には弱点があった。それは葉月自身であった。 駆け寄ってくるラキへと、葉月が爆発を仕掛ける。衝撃を全身に浴びながらも、ラキはそのまま突進した。 「炎を掻い潜っての攻撃も格好良いなっ」 振るわれた鉄槌は、スーツを掻い潜り、葉月の弱点を強烈な力で打ち据えた。葉月の口からくぐもった声が漏れる。自身に掛けられた力が消え失せたのを悟って、彼女は再び力を呼んだ。 「女性に使うのは忍びないですが……」 爽太郎が、炎を纏った掌を葉月の脳天に叩き込む。衝撃と共に、炎が葉月の身体を走った。 スーツが力を使った直後は、葉月を庇う事が出来ない。その隙に叩き込まれた攻撃は、元々それ程高くない葉月の体力を確実に削っていた。 やがて、葉月の動きが精彩を欠く様になり、スーツにも傷が目立ち始めた。それでも、葉月は抗う事を止めようとしなかった。 「やはり、貴方にはアークへと来て貰った方が良さそうですね?」 何処か呆れた様に、桐が言う。体術を放つ葉月をかわすと、全身のエネルギーを込めたグレートソードを彼女に叩き付けた。 それを受け止めたスーツに大きな傷が走った。目を剥く葉月へと、続いて光が迫る。 「コンビネーション攻撃うさっ!」 幾つもの幻影と共にその一撃を、葉月はその身で受けた。血反吐を吐きながら、がくりと膝を突く。 「このままじゃ……終われないっ……!」 唸る様な声で、葉月は爆発を呼んだ。その爆風に長い髪を揺らしながら、真弓は葉月へと重火器を構えた。 「――ここまでと致しましょう」 宣言の如き声と共に、落ちる硬貨すら貫く精密さで射撃が放たれる。 それに穿たれて、葉月は地に倒れた。起き上がろうと暫しもがいたが、やがて彼女は諦めた様に地に伏せた。 ●彼女の行く先に待つもの 傷付いた身体を丸めて座り込む葉月の頬は、涙で濡れていた。 スーツはあちこちが大きく裂け、その隙間からは葉月の白い肌が露出していた。頬を掻くと、ラキは羽織っていた長めのコートを葉月に掛けた。 顔を上げた葉月に、彼はにっと笑ってみせた。 「という訳で、勝負は俺達の勝ちだが――どうだ、風香が言った通りオレ達と来ねぇか? 本当のヒロインになれるかどうかはお前次第だけど、助けを求める人間には事欠かねぇぜ?」 「貴女ご自身が平穏な生活を望まれるのであれば、勿論それはそれで良いと思います。ですが、貴女が能力を持っている以上、今後この様な事件が度々起こる可能性はあります。そうなった時に備える意味も込めて、一度アークへご同行をお願いしたいんです」 爽太郎の言葉に、葉月は唇を噛んだ。沈黙が流れる中、瑠琵は未だ暗い天を仰いだ。 「如何なる原石も磨かねば路傍の石と同じ――」 彼女へと、葉月が目を向ける。 「磨かれぬまま朽ちるのも一興じゃが、わらわはお主をそうさせるにはちと惜しいと思うておる」 葉月が生来努力家であろう事は、瑠琵にも良く分かっていた。その力を正しく導く道標さえあれば、必ずや良い方向へと伸びる――彼女にはそう思えたのだ。 「原石を磨くには相応の設備と技術が必要となる。力を鍛えたくとも鍛えられる場所は無いじゃろう? それだけでもアークに来る価値は在ると思うのじゃ」 彼女の言葉に、葉月の瞳に光が差した。息を呑む。そしてそれに返答しようとして――彼女は首を横に振るのみだった。 「……貴方達に従った方が良いのは分かったわ。けれど、すぐには行けない」 「お主には一般人としての生活があるからのぅ。なに、結論は急がぬ。落ち着いてゆっくり考えるとよい」 それには、葉月も素直に頷いた。微笑みを返す瑠琵の横から、光が顔を出した。 「そうだ! 葉月くん、連絡先を交換しようっ!」 「え?」 「今度桐くんと瑠琵くんと一緒に映画見に行くんだ♪ 新作のダークヒーロものだよっ!」 つまり、それに誘われているらしい。微笑むと、葉月はそれに応じた。 自宅で衣服に着替えた後、葉月は約束通りスーツをリベリスタ達に渡した。それを受け取って、リベリスタ達は帰路につく事にした。 微かに明るさを帯びてきた空の下を行きながら、リベリスタ達は彼女が自分達の下にやってきてくれる事を静かに願った。 後日、アークの扉を潜る葉月の姿が目撃される事となるが―― それはまた、別のお話。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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