● どこで間違えたというのだろう。 母を救うために、妹の言うようにやったのに。 何がいけなかったというのだろう。 妹を信じすぎた心か、運命を変えようという願いか。 暗い牢獄で、両手を縛られて、もうろうとした意識の中、思うのだ。 すがる希望を間違えたのだ。 彼女の助言が、果たして正確だったのか、今となってはわからない。もしかすると、母の事さえも嘘だったのではないか、という想像さえ過る。わからない。信じていたものが瓦解する。私は何を目指せばいい。ここで朽ち果てていく方が、幾らか利口なのではないかとさえ、思う。 でも、そうしたら母はどうなる? 私がいなくなった後など、想像がつかない。もしかしたら妹は私も母も父も、全て壊してしまう気なのかもしれない。恐ろしく、しかし否定はできない。彼女がもはや何を思っているのか、もはや私にはわからない。 信じられるのは、誰だ。 私を信じるなら、私だけを信じるなら、まずはここを逃げ出して、どこへ行く? 真っ先に浮かぶのは、アーク。 あのお人好しの集団なら、迷いなく私を受け入れるだろうか。いや、仮にも元は敵だったからには、それなりの処遇を受けるだろう。だとしても、可能性としてないわけではない。 それでいいの? 胸に問いかけても答えはない。私は何を望むのだろう。生きて、生きて、真実を確かめる事? ここにいて、それができるはずがないでしょう。 私は決意する。そして背中に刻んだ『印』に念を送る。 その時、その一瞬。世界から木凪ヒカリの姿が、消えた。 ● 「どこに行きやがった!」 「だから見張ってろっつったんだ! 目を離しやがったのはどこのどいつだ!」 「追及は後だ、あいつを追うぞ!」 騒がしく慌ただしく、男たちは目標の行く手を追う。しかしすぐに彼らの足が止まる。彼らを遮るのは一人の少女。 「焦りは禁物ですよ、皆さん」 「言ってる場合かよ、逃がしてもいいってか!?」 「そうは言っていなくてよ、焦らないでと言ったのです」 彼女は左手に持った機械を差し出す。 「姉さんには発信器を点けていましてよ、これで追うといいでしょう」 「……おお、助かる。やっぱり『お前は』頼りになるな」 「お世辞には乗らなくてよ」 彼女は不敵に笑みを浮かべる。 「早く追ってくださいまし。今の姉さんを捕まえるくらい、貴方方には朝飯前でしょう?」 「その通りだ、あぁ、殴ってでも連れ戻すぜ!」 女は走る。その街へ、その場所へ。頼る事ができるかはわからない、しかしその望みのある場所へ。誰かが、自分を受け入れるかもしれないその場所へ。少なくとも今の場所にいれば、自分は壊れてしまう。そう感じていた。 息は上がり、足はもたれ、何度も転んだ。それでも走り続けなければ。壊れるわけにはいかないのだ、まだ。 「いたぞ、あそこだ!」 誰かが叫ぶ声が聞こえる。頭の中が空っぽになる。速い、速すぎる。なぜ、どうして。考えている暇もなく、ただひたすらに走る。捕まらないために、それだけしか考えられなくなる。ただ前へ、前へ。 「レディーを集団で襲うなんて、ふざけた野郎共だね」 「お姉さん早く逃げな、しばらく引きつけといてやるよ」 二人の人間が、彼女と追っ手の間を遮る。彼女は思わず立ち止まり、彼らを見る。強そうには見えなかった。彼らがどんなに善戦したとて、やがては死ぬだろうと、彼女は即座に予測する。 「行けって!」 放っておけなかった。彼女は、自分であろうと他人であろうと、生に関して貪欲であった。 後に残ったのは二体の亡骸。そこに彼女の姿はなかった。 ● 「あるフィクサードの集団が事件を起こす事が予知されました。名前や、いつから存在していたのか、何を目的とする集団なのかはわかっていません。現在三十名ほどの所属が確認されています」 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は淡々と、音読するように言う。 映し出される光景。逃げる女性とそれを追う集団。その間に割って入る二人の人間。 「フィクサードは一人の女性を追っています。女性の名は木凪ヒカリ。彼らの組織に所属しているとされるフィクサードです。なぜ追われているかはわかりませんが……大した問題ではありません。内部の抗争かなにかでしょう。問題は間に入った二人。彼らはリベリスタです」 なだれ込んでくる人の群れに飲まれ、彼らは抵抗しつつも、それは段々と弱々しくなり、やがて動かなくなって、果てた。 「たまたまそこに居合わせた彼らは木凪ヒカリを守ろうとします……が、数の暴力を前に歯が立たず、死亡。今回は彼らを助けていただきたい」 二人は能力としては平凡。弱くはないが強くもないという。あまりあてにはしない方がいいですね、と和泉は釘を刺す。 「二人に加勢して、フィクサードを追い返してください。できれば彼らの活動場所まで割り出しておきたい所ですが、二人の様子も見ないといけないでしょうから、厳しいでしょう、その場では多くを望みません。まずは仲間の損失を食い止める。それだけを考えましょう」 「女性……木凪ヒカリについてはどうするんだ」 「問いません。好きにしてください」 リベリスタたちは思わず目配せする。それを見て、和泉はフフッと笑みを漏らす。 「勘違いしないでくださいね、自由の意味を。助ける事で手に入る情報もあるでしょう、気に掛けぬ事で得られるものだってあるでしょう。もちろんそれに伴うリスクだってある。よく考えて、依頼にあたってください」 彼女は最後に一礼し、リベリスタを送り出した。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:天夜 薄 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年01月25日(水)23:32 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 助けたかったのだ。 助けられないから。 だからちょっと、羨ましく思っただけ。 ● 彼女の前にその二人が現れた時、彼女は瞬時に、二人を死なせてはいけないと考えた。途切れ途切れの思考で、思うように動かぬ体で。自分が既にボロボロである事は自覚してはいたけれども、捨て置けず、ただ夢中で、手を差し伸べたくて。 その手は届く事はない。本来は無力のために。介入された運命では援護のために。 展開された多数の幻影と共に、ユーフォリア・エアリテーゼ(BNE002672)が集団の先頭を走るフィクサードに斬撃を繰り出す。 「この先交通制限ですよ~」 「ちっ、新手か!」 気の抜けた声と裏腹に力のこもった攻撃が、集団の足を止める。 「事情は大体分かってる。後は任せて離れて見てな!」 すれ違い様にそう言葉をかけて、男は彼らを背にして、叫ぶ。 「さあ! 悪しき未来を駆逐する、正義の味方のお出ましだぜ!」 『影たる力』斜堂・影継(BNE000955)は攻撃を開始する。勢いよく放たれた連続射撃が、集団に襲いかかる。 ヒカリは、尋雪と晶の加勢に加えて、更に横やりが入った事に、運命の変化を感じた。彼女はその様子を、呆然と見るしかなかった。『鉄騎士』ベアトリクス・フォン・ハルトマン(BNE003433)が叫ぶように告げる。 「私たちはアークのリベリスタ! 木凪ヒカリ、菱谷晶、海音尋雪の三名を救助しに来ました!」 「ありがたい! それで、この女性はそんなに重要人物なのかい?」 尋雪が言葉の矛先をヒカリに向けて言う。『作曲者ヴィルの寵愛』ポルカ・ポレチュカ(BNE003296)は首を振って言う。 「私たちは『あなたたち』を援護しにきたの。彼女じゃないわ」 人助けなんて、そんなに甘いものじゃないという事ね。ポルカの言葉に、晶は思わず苦笑いする。 「説明は後でいいかしら、協力して頂戴!」 「お二人には後方からの支援をお願いできますか?」 「それがあんたらの作戦か?」 『第4話:コタツとみかん』宮部・香夏子(BNE003035)の指示に、尋雪は疑問を投げかける。ベアトリクスが、そうです、と答えると、尋雪は晶の方を見つつ、言った。 「わかった。あんたらのが事情はわかってるんだろ? 素直に従うさ」 ありがとう、とポルカが言うと、尋雪と晶は前線で戦うリベリスタの方を向く。その後ろで、香夏子は放心したように座り込むヒカリに、声をかける。 「ヒカリさん、ヒカリさんお久しぶりですね?」 「……ごめんなさい、流石に会った人全員覚えてるわけじゃないの」 「別にいいです。なにやらお困りの様子ですしお助けしましょうか?」 ヒカリは思わず唇を噛む。その様子を見、香夏子はすかさず続ける。 「気にしなくても平気ですよ? あの時はあの時、今は今です。それに……選ぶほど選択肢も無いでしょうしね?」 そうね、とヒカリはポツリ呟いて、香夏子はそれに納得して、戦列に加わる。戦いは、まだ始まって間もなく、彼女を守りきれる算段もついていない。ヒカリが心配そうに見ているのをよそに、『残念ナイト』シルヴィア・八雲(BNE003439)は叫ぶ。 「なんとしても助けてみせます! そのために私たちはここに来たんですから!」 ● 「流石に、ちょっと多いね」 敵の軍勢を目の当たりにした『虚実の車輪』シルフィア・イアリティッケ・カレード(BNE001082)は、至極落ち着いた口調で感想を述べる。 「こうも多いと……楽しくなるな」 戦闘モード。シルフィアの口調が徐々に好戦的になる。戦を望む他人格が彼女の感情を支配していく。 「ほらほら来いよ雑種! 纏めて倒れるがいい!」 召還した紅蓮の炎が、フィクサードたちを飲み込んで渦を巻く。彼らに降り掛かる火の粉を、ぼうっとした目で『リップ・ヴァン・ウィンクル』天船 ルカ(BNE002998)は見ていた。 「理由はどうあれ、1人を大勢で痛めつけるというのは感心しませんね」 生み出した微風が、尋雪や晶、ヒカリも含めた仲間全てを癒していく。蓄積した疲労のためか、ヒカリは戦力になる状態にはならなかったが、それでも幾分楽にはなったようだ。 回復の様子を見ていきり立ったのか、フィクサードの一部がヒカリに向けて突進を試みた。それに気付いたシルヴィアが、ヘビースピアから暗黒の気を吹き出させて迎撃する。 「指一本触れさせませんよ!」 反動に身を焦がしながらも敵を薙いだが、一部は未だ進撃する。素早い動きから繰り出される光弾が、ヒカリに向けて放たれる。すかさずシルフィアはそれを身を呈して弾いて庇った。 「フン。雑種にしては上出来だ」 すれ違う光弾に目も向けずに、香夏子はエネルギーを解き放つ。生み出された『赤い月』は似非でありながらも、それはそこにいる全ての対象に不吉の気配を告げる。 「まだ今年は十二分の一も終わっていないのに……悲しい事ですね」 哀れみにも似た眼差しが敵に突き刺さる。 しかし、その気配に気を削がれながらもフィクサードの攻撃は止まない。数で圧倒されている戦況が、リベリスタに重くのしかかる。 なだれ込む波状の攻撃に、戦線は徐々に後退。前線で止めておける敵の数はそれほど多くはなかった。澱みのない攻撃が続々と彼らに押し寄せる。 「全く、きりがないですね」 苦々しく呟きながら、それでもルカは詠唱を続け、仲間を癒す。攻撃の嵐の中、それがなければすぐさま倒れかねなかった。 エネルギーの解放を終えた香夏子が額の汗を拭う。『赤い月』の生成はすでに三度を数えた。倒れる気配のない敵に嫌気すら差した。 「……仕方ない」 息を上げつつ、自分に近接する敵に向けてポルカは駆け、噛み付く。それほど好きでもない吸血鬼としての行動を自らに強いた。 「……ち、」 舌打ちしつつ、彼女は敵から離れる。 ……美味しくないわ。だから吸血って、きらい。 そんな言葉を残しつつ、しかし劣勢は変わらず。 精密に急所を狙い打つ気糸が飛ぶ。ベアトリクスはそれを避けながら、黒いオーラを自身に収束させ、放つ。 「穿て闇よ!」 受けた敵は苦しそうに後退するが、次から次へとまた敵は近付いてくる。 「おらおら、どんどん行くぞ!」 「くそっ、これでも食らいな!」 影継の撃つ弾幕の嵐が、フィクサードに向けて飛んでいく。撃墜には至らなかったが、確実にダメージを与え、多くの顔が苦痛に歪む。 そんな中。嵐をひらりと交わし、前進する一つの影があった。目標に狙いを定めて高速で移動するその姿は敵ながら華麗。接近し、その眼前に捉えたのは、木凪ヒカリ。 「君、さっさとこっちに来なよ」 晶が慌ててカバーに入ろうとする。しかしそれより先に、シルヴィアが身を呈してヒカリを庇う。蓄積されたダメージが彼女をむしばみ、体から力を奪っていく。闇に心が支配されていく。 それでも、それでも、彼女は戦い、守る事を願う。運命は彼女に味方する。 「弱いなんて百も承知……だから私は何度でも立ち上がってみせます。諦めない限り、真の敗北はないんです!」 叫びと共に放たれた呪いの力が、目の前の敵に二度と癒えぬような傷を刻む。傷口が怪しく光り、それを称えたままそれは倒れ、力尽きる。 「フフフッ…ハハハハッ…ハァーッハッハッハッハッハッハ! ほら、一気に行くぞ!」 シルフィアの高らかな叫びが響く。 大勢が、変わる。 ● 「ほら、さっきまでの勢いはどうした? もう終わりかよ!」 尋雪の言葉に、むしろ敵は勢いを失くしていた。自分たちの仲間が倒された結果に疲弊したわけではない。自分たちに与えられていたダメージが、倒れる可能性のあるまでに積み重なっていた事に対しての狼狽えであった。攻撃が途絶えるわけではなかったが、武器に宿る気迫は明らかに鈍っていた。 しかし気迫はなくとも、彼らにも達するべき目的がある。未だ数の上で優勢。勝てるだけの勝算があった。勢いで劣っても、どうにかなると、そう思っていた。 止まない攻撃が、ポルカに膝をつかせる。戦場は非情。しかし運命は彼らを寵愛する。追い風となった戦場の勢いは、変わらない。 「眠りに就くのはまだ早いわ。もっと甘ったるい現実を楽しませて頂戴?」 言葉を風に乗せ、残像を背後に作り、敵を斬る。薙ぎ払った後に力尽きた敵が一人。 一人、一人、着実に敵は減っていた。それがそのままリベリスタ側の戦意の向上に繋がる。積み重なる傷は多くとも、戦意は削がれずなお高まる。 「これしきでくたばるものかよ!」 無理矢理意識を底上げして、フィクサードはなおも立ち向かう。殺意による狙撃や思考の圧力が飛び交い、リベリスタを襲う。ルカの回復は、微力ながらもダメージを補い、彼らの活力とする。 勢いでは優っていた。あとは戦場を制するのみ。 ユーフォリアが高速で跳躍し、両手のチャクラムで敵を斬る。尋雪はかまいたちで敵を襲撃し、晶はその後ろから魔弾を正確無比に放つ。 「舞えよ雷!」 掛け声と共に雷光が一閃し、敵を貫く。 数の優勢も次第に無くなり、フィクサードの怒声も失せる。声には悲壮が漂い始める。 「くそ、この野郎!」 放たれた十字の光が、晶を狙う。尋雪がそれを庇いに走る。攻撃を受けてよろめいた体をベアトリクスが受け止め移動させる。 「ここは私達にお任せ下さい!」 絶対に誰も殺させはしない。彼女の目に絶えず現れていた騎士たる誇りが、それほど気力も残っていない体を動かした。 どれだけの傷を負っても、全てを救えと自らを鼓舞するのだ。 「ほら、そろそろ諦めたらどうだい?」 影継は威勢良く言い、斬り掛かる。 「こっちのセリフだよ!」 受けつつも負けじとやり返す。ヘロヘロの腕から繰り出された攻撃に、もはや力はこもっていない。 「あの女を守って、てめぇらに何の得がある」 「木凪ヒカリは救いを求めた。だったらその手を掴むのは、正義の味方のお仕事だぜ」 香夏子が影継と交戦していた男の横っ腹に攻撃を加える。精根尽き果てたのか、男は力なく倒れる。敵の数は、かなり減少していた。勢いに任せて尋雪が前に出ようとするが、それをポルカは制する。 「だめよ。迂闊に前に出ちゃ」 「何でだよ、行けるって」 ランランと輝く眼差しを、それでも彼女は振り払う。 もう大丈夫かもしれない。でも、その”もう”が命取りになる可能性が、ないわけではない。 「……あなたたちがいなくなってしまったら、困るの」 呟くように口から出た言葉は、彼の足を止めるには十分であった。 「それなりにはやるようだが……所詮雑種だな!」 彼女は叫び、魔炎を召還する。抜け出して来た男にオーラをまとった一撃を加えられても、見下ろすような視線は変わらない。その背後から魔力の矢が飛ぶ。ルカが、魔方陣を展開していた。 「大分、余力が出てきましたね。これなら押し込めます」 「させるかよ!」 最後の力を振り絞り、男がヒカリを狙う。しかしその道筋を尋雪が阻害し、冷気と共に拳を叩き込む。 「守るために来たんだ。絶対通さねぇよ」 「そうです、 救える人は可能な限り救うのがアークです~」 ユーフォリアの攻撃が、フィクサードの心を打ち砕く。人数も、勢いも、戦況も、全てにおいて劣勢。このまま続けて彼らが勝てる余地も、彼らの目的が達せられる道筋も、なかった。それはやや血の気の多い彼らにもキチンと理解できていた。丁度先頭にいた男が、苦々しく言う。 「……撤退するぞ!」 ● 突如として振り返り、残り少なくなったフィクサードの集団は、駆け出す。その足が目指すのは彼らの拠点であろう。 「……それ!」 ユーフォリアの投げつけた香水が、敵の一人に上手く当たる。匂いが付いたかは定かではないが、当たった部位を見て、彼は少し焦った顔をしていた。 「お願いします!」 「あぁ!」 シルヴィアの言葉に、影継とルカは走り出し、フィクサードを追う。 「話はアークで聞きます。まずは手当てが必要です」 ベアトリクスの言葉に、ヒカリは顔を逸らして、別にいいわ、と突き放す。 「ダメだよ」晶が言葉を投げる。「すごい傷じゃん。少しぐらい甘えたってバチが当たるわけじゃないだろう?」 ヒカリは肯定しない。けれども、始められた手当を拒む事も、なかった。 「逃亡者に発信機が付いてるのはお約束ですからね~」 「そうですね、探しましょう」 ユーフォリアにシルヴィアは同調し、ヒカリの身体を検査し始める。その様子を横目に、香夏子は言葉を発する。 「晶さん、尋雪さん。お礼を言います。お二人が居なかったらヒカリさんどうなってたか分らないですしね」 「うんにゃ、ただの人助け。無謀だったし、こっちこそ助かった」 尋雪は礼を返す。香夏子は笑みを投げそして、ヒカリに視線を向ける。 「そして…ヒカリさんはこれも縁ですし……望むならアーク本部でお話してもらえたら」 ヒカリは、躊躇しつつ頷く。仮にもアークに頼り、助けられたのだ。それを話さないわけには、いかなかった。 「お人好しとわかっている人を頼るなんて、あなたも物好きね」 「……別に、悪く言ってるわけじゃないのよ」 「知らぬ人の為に戦うぼくたちを、あなたたちは笑うのかしら」 「あり得ないわ」 彼女はすかさず口を継ぐ。 「ただちょっとした……嫉妬みたいなものよ」 「そう。ぼくは、ただの我儘をしているだけよ」 甘ったるい現実の結末はとびきり甘いと良い。ポルカはお人好しである事を否定しない。彼女が望むのは、チョコレートよりも甘美な現実。 「……これで全部かしら?」 「えぇ、多分」 落ち着いた口調に戻ったシルフィアが確認すると、シルヴィアが答える。 「でも、これは……?」 背中に光る緑色の印を見て、彼女は疑問を呈す。 「気にしないで。ただのアーティファクトだから」 落ち着いたように言った彼女の口調は、しかし焦りすら感じられたが、あえてそこに口を挟むものは、なかった。 「……やっぱり、こうなりますか」 道ばたに落ちていた服を手に拾い、ルカは呟く。服からは香水の香りが微かに漂っていた。香水が当たった事が、何らかの意図を伴っていた事は明白なのだから、当然その痕跡は消してしまうのが定石であろう。 「結局、何もわからずじまい、か」 影継は思わず溜め息を吐く。戦闘と追跡、二重の疲れがどっと押し寄せる。 「仕方ありません。皆さんの所へ戻りましょう」 「あぁ、そうだな」 尋雪、晶、そしてヒカリ。彼らの命を繋げただけでも、十分だ。そう自分の心に囁いて、彼らは帰路に着いた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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