●はぁびばのんのん ――温泉。 それは、日本に住むものなら誰もが心を躍らせるフレーズ。 それが露天であるというなら。それが冬という季節ならなおさら、その言葉は不思議な魔力を持って生きとし生けるものを魅了する。 「というわけで、今回はそんな魅力たっぷりな温泉に入ってくる簡単なお仕事」 そんな言葉から始まった『リンク・カレイド』真白 イヴ(nBNE000001)の依頼内容に、その場にいたリベリスタ達が「おぉ……!」とざわめく。 「ただ、あまりに魅力たっぷりすぎて温泉から出られなくなる危険性もあるから注意注意」 俄かに色めきたつ空気に紛れるように、さり気なく呟かれたイヴの不穏当な言葉に幾人かの表情がひきつる。 「今、何かすっごく怖いことを言われたような……」 「………耳聡い」 「今、舌打ちしなかったっ!?」 リベリスタ達の叫びは、しかしふるふると首を振ったイヴに否定される。 「そんなことないよ」 そしてその無表情ながらも無垢な瞳が訴え掛けるようにリベリスタ達注がれて、 「――本当に?」 「…………今回の内容はとっても簡単」 あ、逸らされた。 イヴの名を呼ぶリベリスタ達はひとまず置いておいて、とイヴは説明を続ける。 「今回は七つの温泉の中に沈み込んだ丸い玉の形をしたアーティファクトの回収と、その効果の無効化を行ってほしいの。 ……アーティファクトの効果は、お湯の中にある場合にのみ発動し、お湯に浸かっている人はその心地よさに魅了され脱出できなくなるというもの」 なんだ、それだけか……。そんな表情をするリベリスタにイヴはわかってない、と言わんばかりに再度首を振る。 「このアーティファクトは、その効果が絶大。よっぽど意志の強い人でも……奇跡が起きない限りはその誘惑から逃れることはできない」 そしてやがて脱水症状を起こし、のぼせ、気絶する。 「気がつけば温泉には死屍累々の人の山、なんてことになりかねない。幸い、これが各温泉の中に設置されたのは今日……どうやら、この温泉の所有者が偶然アーティファクトを見つけて、偶然温泉の中に入れて偶然脱出できたみたいで……この効果に集客効果を見込んで各温泉に投げ入れちゃった、というのが事件の真相」 なんとはた迷惑な。 「で、この効果の無効化についてなんだけど……実はこの七つの温泉の奥にね、秘湯と呼ばれる第八の温泉があるの。すごく小さな温泉なんだけど、そこに七つのアーティファクト全てを入れれば、小さなお湯の中で互いに影響しあって龍のような姿になるわ」 どうやらそれが本来の姿で、アーティファクトはその龍を分割、封印していたものらしい。 「強きものはその力ゆえに他を惹きつける。それはカリスマや魔眼と呼ばれて、龍や吸血鬼なんかがその代表として有名だけど……今回のアーティファクトに封印されていた龍の正体は、そのカリスマを極端に特化させたアザーバイド」 「……つまり、アーティファクトはそれ単体でお湯に魅了の効果を発動させてるわけじゃなくて、その内に封印された龍の力が漏れだした結果が魅了に繋がってるわけ?」 リベリスタの疑問に、イヴがこくりと頷く。 「龍のカリスマは力そのもの。だからその力を長い年月をかけて少しずつ放出させて、龍を衰弱させる為にこのアーティファクトは作られた」 そして太古の人々の思惑通り、かつて強大だったはずの龍はその大部分の力を失い、 「今なら、8人でかかれば何とか倒せると思う」 龍を倒せばアーティファクトは自然と壊れるから、それで任務達成。 「あとはアーティファクトの残骸を回収してくれれば、温泉に入りなおしたりしてもいい」 現場の温泉は無人で24時間経営されている場所で、簡易脱衣所に置いてある料金箱にお金を投入していくシステムになっている。 そして七つの温泉の近くには憩い場が設置されているので、そこで飲み物を調達したり休憩をするのもいいだろう。 「現場にたどり着くのは、真夜中。あまり人口の多くない場所だから、その時間帯の利用客はほぼ皆無。アーティファクト自体も、対処法を知っていれば単体ではそこまで危険でもないし……今はほんのり雪化粧で景色が綺麗だから、龍と戦う前に少しのんびりするのでも大丈夫」 のぼせたりすると戦闘に若干差し支えがでるけどね、と。 「しっかりと温泉に浸かってしっかりと龍を倒して、今年一年の英気を養ってきて」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:葉月 司 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年01月24日(火)23:35 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●七つの玉を求めて 温泉。それはなんと心躍る響きだろうか。 特に寒い時期の温泉。この時期の温泉はただでさえうっかり入りすぎてのぼせがちだというのに、 「それがアーティファクトを使って心理操作するなんて許せない! 玉を全部回収して、経営者をガツンと――!」 いやいや、そういう依頼じゃないから。 「あ、あれ? 違う?」 自分以外からの総ツッコミを受けて『蜂蜜色の満月』日野原・M・祥子(BNE003389)があははと顔を引きつらせながら拳を引っ込める。 そんな様子の祥子につられるようにリベリスタ達は笑みを交わしあい、しかし、と目の前に立つ温泉案内板を眺める。 「玉を探して七つの温泉巡りですか……」 これが依頼じゃなかったら家族と来たかったですが……。『子煩悩パパ』高木・京一(BNE003179)が家族の顔を思い描きながらわずかに残念そうな表情を浮かばせる。 「くけけっ、なぁに、なら帰りにアーク経費でお土産をたんまりと買い込みましょうや」 それが本当に経費で落ちるかとうかはその時のアーク様次第、と一条・玄弥(BNE003422)が京一の背を叩きながら気楽に言ってのける。 「……七つの温泉を制覇したら、願い事が叶ったりせぬものかな」 そうぽつりと漏らすのは『黒太子』カイン・ブラッドストーン(BNE003445)だ。 「むむ、ここに拙者の同士が……! こう、あれでござるな。何かがこう、既に否定されているのに……欲しいわけでもないのに……あれを、あの名言を言えと暴れるのでござりまする!」 「ぇ。いや。そこまでは」 「ぬぉ~!? 拙者、早速同士に裏切られたでござる……!」 ややおっちょこちょいな受け答えで自爆しつつも、いやしかし諦めぬで御座るぞと決意を新たにする風音・桜(BNE003419)に苦笑しつつ、『ChaoticDarkness』黒乃・エンルーレ・紗理(BNE003329)が人差し指を立てて提案する。 「七つもあるのに全員が一カ所に集うのはさすがに効率的じゃないし、ひとまず男女に分かれてアーティファクトを探しましょう?」 「ま、そうだな。さくっと終わらせてから仕事抜きで温泉を楽しもうぜ」 『仁狼』武蔵・吾郎(BNE002461)が仕事明けに飲む酒の味を想像しながら皆を促し、 「んじゃ、温泉を時計回りと反対回りで巡っていってどっかで合流ってことで」 『孤独嬢』プレインフェザー・オッフェンバッハ・ベルジュラック(BNE003341)が手を叩いたのを合図に、一同は男女に分かれての玉探しを開始する。 ●三人集まれば姦し 「しかし寒いわね」 最低限の設備しか置かれていない脱衣所はどこからか風が抜けるのかやけに寒々しく、まずは全員で湯に浸かり、それからローテーションで一人ずつ休憩を挟むことにした三人。 「とりあえず水分はお湯から手の届く位置に幾つか並べておくから、辛くなったらそれを飲んでくれ」 そこで水着に着替えながら、持参した袋を指さすプレインフェザー。 「あら、ありがとう」 言われて、ようやくプレインフェザーの持ってきた物の正体に気がつき祥子がお礼を述べれば、 「ま、心配ってか、その……頭数減ったら不利じゃん?」 だからその、気にするな、と祥子から視線を逸らしつつプレインフェザーが付け加える。 その様子にくすりと笑みを浮かべながら祥子は改めてプレインフェザーを見やる。 「せっかくなんだし、もっと可愛い水着を持ってくればよかったのに」 「イイんだよ、そーいうのはあたしの仕事じゃねえ」 苦笑するプレインフェザーの水着はほぼ無地のスパッツタイプの競泳水着。 対する祥子は濃紺のタンクトップにピンクのラインが入ったトップ、それにハーフパンツという動きやすさを重視しながらもこだわりを見せる出で立ちだった。 「でもせっかくなんだし、というのには私も同意でしょうか」 そのスレンダーな肢体に黒のセパレート、そしてふわりと舞う濃緑のパレオを纏わせた黒乃が言う。 普段生き急ぐ彼女だからこそ、時間という物の価値に重きを置く。一分後、一秒後、確実に大人へと向かっていけるようにと。 「そうそう、よければ帰りにでも皆で水着買いに行く?」 賛同者を得て調子の乗った口調の祥子。それに流されれば否応無く巻き込まれると直感したプレインフェザーはとっさに流れを変えようと強引に話題を移しにかかる。 「そ、それよりも早く玉を探すぞっ」 「あらあら……」 言われて、確かに今はそちらを優先すべきと思考を切り替える。 まずは広い湯船に浸かり、プレインフェザーの持参したサーフボードを横に倒し、床に合わせてから三人で押して底を浚う。 そこで何か感触があれば儲け物。なければないで、サーフボードで浚えなかった箇所を個別で探っていけばいい。 「それにしても……これがアーティファクトの効果、かしら……」 まだ入って数分もしないうちに、肌がお湯に馴染み淡い陶酔感をもたらしてくる。そして周囲を見渡せば星明かりに照らされた雪景色。湯船から上がろうという気を、そもそも引き起こさせない魅了の力。 「干支の龍を倒すなんてちょっと気が引けるけど、でもうん、これはちょっと危ないね」 その表情をとろけさせながら祥子が言って、ちょうどサーフボードでの底浚いが終わる。 「これで見つかれば楽だったんだが……ともあれ、一度水分補給してから隅っこの方を探していこうぜ」 ひとまずの役目を終えたサーフボードをしまいながらペットボトルを手渡し、 「隅っこ……結構あるなぁ……」 うへぇ、と呟きながらも、姦しき玉探しは続行されるのであった。 ●先の見えない未来のように 「うぅ……しかし先ほどはひどい目にあったのだ……」 手に回収した玉を持ちながらカインがぶるりと震える。 「まさかあそこで湯に墜落するとはなぁ」 一番最初の温泉でやらかしたカインの失態を思い出しつつ、まぁ気にすんなと笑う吾郎。 「そうですよ。あの程度の接触でも誘惑に駆られてしまうという、この場合はその効果にこそ着目すべきです」 カインは始め、低空飛行を用いて箒で底を浚う作業をしていた……のだが、わずかに足先が温泉に触れてしまい、気がついたら低空飛行しながらどっぷりと全身がお湯に浸かってしまっていたのだ。 「あとは意外とのぼせやすそうなのでそこを注意、ですね」 玉を探している最中は魅了の力も働いてさほど感じないのだが、お湯の中を動き回ったり潜ったりしていることも手伝って、予想以上に汗をかく。そして玉をお湯から取り上げると一気に疲労が出てくるのだ。 「なんつーか、本当に宝探しみたいだな」 この徒労感とも言うべき感覚は。 「ですがただ玉を見つけて弱った龍を退治すりゃいいたぁ、楽でいいでさねぇ」 「そう思うなら次は玄弥殿も入られるでござるぞ」 「くけけっ、バレてやしたか」 そして二つ目の温泉へ。 それぞれ簡単に羽織っていた上着を脱いで湯船へと浸かる。 五人の着衣は褌が二人、トランクスタイプの水着が三人となかなかいい構成だ。何の構成かはさておき。 「ヴァー……やっべ超気持ちいい……」 一つ目と殆ど成分は変わらないはずなのに、初めて入る時と同じ新鮮感を味わいながらいかんいかんと首を振る吾郎。早速他の皆同様ゴーグルをつけて揺らぐ乳白色のお湯の中へとダイブする。 その横でぶくぶくと気泡を作りながら長時間の潜行を繰り返すのはカインだ。酸素ボンベとゴーグルをつけながらエネルギッシュに泳ぎ回っている。 「……とはいえずっと頭まで浸かってるとすぐにのぼせちまいますぜ」 それを他のメンバーに見咎められては顔を上げる、という行為を繰り返す。 「む、また潜りすぎてたか。すまん、感謝するぞ」 ばさぁっと顔を持ち上げて、持参した牛乳を摂取するカイン。体内の熱を逃がすように深く息をついてから、まだ二つ目を探す仲間を見つつ呟く。 「人海戦術とはいえなかなか時間が掛かるものであるな」 「ま、そりゃしょうがねぇでしょう。これだけ広けりゃねぇ。……ぉ、ここなんか怪しそうでさぁ」 カインのぼやきにこちらもやれやれと返しながら、玄弥も自身の直感を頼りに捜索を続けていく。湯もみ板を肩に担ぎお湯をかき混ぜ、底を浚っていく。 「いやー、それにつけても気持ちが良い……ほんとに……頭クラクラしてるのに、一旦あがって……休む気がしない……」 桜は揺れる水面にブクブクブク、と沈むように底をまさぐりながら「玉」探しという言葉からぶつぶつとアヤシゲな想像を暴走させ始める。 「……桜さん、大丈夫ですか?」 そんな様子の桜の頭へかき集めた雪をぶっかけながら京一が尋ねる。 「はっ、ついついうっかりのぼせるところでござった……!」 一気に冷やされた頭部に意識が覚醒され、そこで桜はようやく想像を暴走させたきっかけを知る。 「お、おぉ……拙者が先ほどからなで回していたのはこの温泉の玉でござったか……!」 「ちぃ、あっしよりも先に下ネタに走る人がおりやしたか……!」 「そんな意図はあまりないでござるよ!?」 真っ先に反応した玄弥に桜が反射的に返しつつ、ともあれ、 「まだ先は長いんだ、さくっと上がって次へ行く準備をしようや」 「そうですね。とりあえずは水分補給と、あと雪や冷水で頭とかもかるく冷やしておきましょうか」 これで二つ目。女性陣も回収はしているだろうが、人数と体力が多い分、こちらがもうひと頑張りしなければ。 ●ご先祖様からの宿題 ――それから。四つ目の温泉を探す男性陣に気づかずに女性陣がそこへ入りかけるというちょっとしたハプニングはあったものの、大過なく無事に七つの玉を集め終わった一行。 小休止してから八つ目の秘湯まで向かえば、少し距離があったことも幸いしてか、若干のぼせ気味だった思考も戦闘に差し支えがない程度まで回復し、それじゃあと七つの玉を手にした者達がそれぞれを秘湯へ投げ入れる。 小さな子供が一人、肩を縮こませて入るのがやっとと思われるお湯の中に沈み込む七つの玉。それはやがて互いに反応し合うように七色の光を放ち始める。 「……初めからこうやって光っててくれれば楽だったんですが」 そう言う京一が守護結界を張って皆の補助を行う最中にも光はどんどんと強さを増していき、やがて一際強く輝いたかと思うと――ぴきり、と。玉の割れる音と共に強烈な存在感を醸し出すなにかが光の中から顕現する。 「これが、龍……! ふはは、貴殿を倒すことで、そのカリスマ……我がものにしてくれようぞ……!」 この龍そのものともいえる力を目の当たりに、思わず零れる笑みを必死で抑えるカイン。 他の皆もほぼ同様。その龍の出現に魅入られ、身動きが取れずにいる中で一人、動く者がいた。 「やはりこの衝動は抑えきれませぬ……!」 桜だ。彼は皆より一歩前に出て両手を掲げて龍へと告げる。 「ギャルのパンティおくれー!」 ――瞬間、一気に冷める場。 「あ、あれ、なんで皆して白けてござるかっ!? お約束でござろうっ!?」 「いや、でもそのおかげで目が覚めた」 危うく龍の雰囲気に飲み込まれかけるところだったからなと苦笑しながら、 「それよりもいいのか? 龍がそっち見てるぞ」 吾郎が指さした先で完全に姿を現した龍が、その長い尾を使って桜に襲い掛かる――! 「ぬ、ぬおーーっ!?」 ぎり、ぎり、と締め上げられる桜。だが龍の標的が一人に絞られたということはその間、他の仲間は龍を狙いたい放題だ。 「復活したばかりで悪いが、決めさせてもらうぜ!」 まず吾郎が、その巨体を思わせない動きで尾への連撃を叩きつける。 そしてそれに追随するように黒乃が動く。 それは吾郎が剛の動きとするなら、風のようにしなやかな柔の動きで、吾郎が傷つけた鱗の上を黒乃のレイピアが撫でる。 二人の連携で鱗の下、柔らかな肉の部分を切りつけられた龍が雄叫びを上げるように空を見上げ、尾を二度三度と地面に叩きつける。その反動で尾に絡めとられていた桜が脱出したのを確認し、京一が素早く印を結び龍の動きを封じ込めにかかる。 一瞬、封じこめに成功したかに思えた京一の呪縛はしかし打ち破られ、代わりに龍の隙を生み出す。 まだ対アザーバイドの実戦経験が浅い後衛陣もその隙にこくりと頷きあい、攻撃を合わせる。 まずはダークナイトの三人。自らも熟知する攻撃故、連携もたやすい。 カインの放つオーラに、桜と玄弥が障気へと変換した生命力を乗せて一体の黒い蛇のような形へと練り上げる。 その黒蛇を導くようにプレインフェザーの気糸が伸びて龍のもっとも装甲の薄い部分を穿ち、黒蛇もそこに噛みつく。 「さすがにこれだけで倒せるほど甘くはないみたいだけど、相当弱体化してるのは確かみたいね」 主に生命力を削って攻撃を繰り広げる二人に向かって癒しの歌を紡ぎながら、祥子が龍の体力を分析する。 「弱体化のおかげか、こちらの状態異常付与も効きそうなのが助かりますね」 今度こそ龍を呪縛しようと、戦闘を仲間に託して精神を集中させる京一の前ではリベリスタ達が苛烈に龍を攻め立てている。 龍は長い尾の薙ぎ払いで前に張り付く吾郎と黒乃を振り解こうと試みるがうまくいかず、声なき声で吼え猛る。 ――もしかしたらそれは、封印される以前の自身と比較した際の自らの力に対するふがいなさからかもしれないが。 集中を終え、京一が結ぶ呪縛が龍を見事に捕らえれば、仲間の気勢もさらに盛り上がる。 「龍もこうなればただの蛇ですなぁ」 「日本のシンボルアニマル……確か今年はオマエの仲間なんだよな。だけど、まぁ……こっちも仕事なんだよ。悪く思ってくれんなよ?」 後衛陣はやはり連携を重視した動きで、そして前衛はその攻撃で剥がれた鱗部分へと正確に剣を突き刺していく。 龍が呪縛を振り切った後も、そこまでに培われた流れは既に覆すことも難しく……数度の激突の末についに龍の頭がだらりと下がり――その目に、黒乃があらん限りの力でレイピアを刺突する。 「世界にあだ為すものを成敗します!」 龍はその攻撃にびくんと跳ねた後、ゆっくりと倒れ伏し……やがて顕現した時と同じように光に包まれ、光は無数の粒となり散って消える。 後に残されたのは張りつめた沈黙の余韻と、秘湯の中に遺された玉だったもの。 一瞬の間をおいて、最初にふっと息を抜いたのは誰だったか。誰ともなく緩む空気の中で玄弥が玉だったものを回収して、 「きっちりと始末してきっちりと回収する。簡単なお仕事でさぁ」 これにて任務完了。 「……ふぅ。よし、温泉に入り直すかっ」 仕事帰りってのが気に入らないけど、むしろ仕事帰りだからこそ。 「こん位美味しい思いしても、神様も怒んねえだろ?」 「そうね、アークが迎えにくるまでまだ時間もあるし……」 「やっぱそうこなくっちゃな♪ 皆で、温泉で飲む雪見酒。一杯どうだ?」 「お、いいですねぇ……」 「くけけっ、お付き合いしやすぜ」 「むぅ、我は未成年ゆえ酒は嗜めんが、温泉には付き合おうぞ」 「桜もどうだっ……と、なんだ? なんか変な物がくっついてるぞ?」 桜の首に腕を回した吾郎が気がついたそれは、 「む。なんでござるか、これは……て、龍の鱗?」 どうやら巻き付かれた際に剥がれた鱗の一枚のようだった。 「龍の消滅の時にも消えずに残ったでござるか。……これも何かの縁。後生大事に持って帰るでござるよ」 「……ギャルのパンティじゃなくって残念だったわね?」 「く、黒乃殿っ!? それはそれ、これはこれでござるよ!」 どうだか、という女性陣の冷たい視線を受けながら―― 「ご、誤解でござるよーっ!?」 笑いに包まれた最後は、これはこれで良い思い出……なのかもしれない。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|