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さぎちやう

●左義長(さぎちやう)
 新年の飾りを取り除いて燃やすこと。
 古来より、中国の元旦に爆竹を鳴らし、悪鬼をはらう古俗がある。
 この古俗が日本に伝わり、種々変遷として今日のごときものとなったとされる。


●しんびいでたり
 月冴ゆる。
 やわらかい光を称える寒気に、寒気を引き立たせる夜の空。空に向かって火の粉が昇って消えていく。新年を迎える祭事が始まって、始まったのも束の間に、終わりを告げた。僅かな祭事。火の粉もまた祭りの後。
 時は丑三つ時。
 小ぢんまりとした神社で、ねじり鉢巻の初老の男が一人。片付けをしている。
 数刻ほど前には近所からチラチラと人がきて、門松や書き初めを火にくべて、火を囲んで騒々に賑わっていたものだが、もはや祭りの跡だった。
 そこへぶらりと和服の翁が現れた。暗夜に目を凝らし、その正体を見た"ねじり鉢巻"が声を張り上げて駆け寄った。
「おお、おお、宮出さん、孫ができたんだとね」
「おれ似だともさ」
「そうかい、書き初めはそれかい?」
「これさ」
「大した孫バカさ」
「それがね。これが、もったいなくてね」
「いやさ、"くべなせえ"。あぶないね、もう終いだァな。さ、さ」
 大物の昇り龍になる。――と"ねじり鉢巻"のにこやかな顔に一言が続く。宮出翁も満更でもない笑顔と共に、書き初めを寂しい火にくべた。
 こいつで終いだね、と"ねじり鉢巻"の手にはバケツ。燻った火の跡にぱしゃり冷水を浴びせた。
 こうして、正月の余韻ともいえる小正月も終わる。
 束の間の祭日を経て新年が始まる。今年は何をするか。二人は胸裏に起こる思いに浸る。

 ぼかんという音が神域に弾けた。
 ――何事か。

 いけね 灯油を撒いちまったか、と"ねじり鉢巻"の一言が添えられたと同時に、火が、炎が、燻っていた筈の火が、悪意を携えた神火が、ごう、と跳ねて躍り出た。
 躍り出たものを目の当たりにした老人達に、腰を抜かす間も寛容せず、一呼吸の間のうちに二人を包む。

『!? ぐャ――グバ! ゴボボ ボボ ガッ!』
『!!!!? ギギ、!ガガガ!! ガッギギギ』

 言葉にならぬ悲鳴。
 目から、耳から、鼻から、口から、絶え間無く侵入してくる"神火"は、うねりながら"中"を焼く。五臓六腑を焼く業炎。
 火が、半ば実体をもったかのようなじぇりーの様な火が、剛力でもって強引に口をこじ開けて侵入し、口を閉じる事すら良しとしない。
 転がって消すことも、その万力の押さえが良しとしない。その場を離れることさえも。

 もがく、さけぶ、あがく、よじる、たたく、たたいてさけんだ。
 さけて、目がつぶれて、皮膚が焼けて、爛れて焼けて無くなる。

 "表面"がなくなり、痛覚も何からも音も失いつつあるのか。白濁の目。
 おそらく、老人達の胸裏には人生の濁流が流れているのだろう。
 これらが悉く胸裏を流れて行って――

『…………』

 ――事切れた。

 やがて神火は二つを塵芥のように解き放つ。
 生気を吸い尽くされたかの如く、もはや黒々とした炭に微動も無い。
 さらさらと、元は人であったものが、端から墨色の桜のように流れゆく。残酷な風花。
 吐き気を催す臭いと共に流れる中、一歩一歩と焼きながら、神火は"次"を探し求めてゆらりとゆらいだ。


●ひにくべよ
「"とんど焼き"とも言われます。門松や注連縄、書き初めなどを持ち寄って火にくべて、今年の息災などを願う行事、祭事です」
 アークのブリーフィングルーム。召喚されたリベリスタ達に向かって、天原和泉(nBNE000024)が告げた。めでたき事を述べるにしては、やや口取りが冷淡としている。
 手元の資料へ目を左右へせわしく、忙しく運びながら本題へと移る。
「この火が、E・フォース化します。間もないにも関わらずフェーズ2に相当。放って置くと、直ちに次のフェーズへ移ると思われます」
 烈火の如く成長の速いエリューションという事実を意味した。
 アークとしてもこの火種は摘まねばならぬだろう。
「清らかなものに反応しやすく、連続した火の攻撃が中心となります。怒りを伴うもの。呪いに関わるもの。時に激しい炎が襲ってきます。また、近接時は炎で包みこむような動きをとり、包まれると恐らく身動きがとれなくなります」
 中々に万彩な火を扱う手合いらしい。が、真逆にも和泉の声は緩急を伴っていなかった。
「時間は夜。場所は小さな神社です。戦うのに障害はありません。急げばおじいさんが水をかけた位のタイミングで駆けつける事ができます」
 言葉が一呼吸詰まる。
「……。幸い目撃者はいませんので、見捨ててしまっても構いません」
 これが冷淡である正体か。見捨てても良いという言葉は一つの壁か。
「懸念としては、周辺を少し歩けば住宅街です。目標が出現した時の爆発音で、一般人が来る可能性は考慮した方が良いのかもしれません」
 胸中定かではないが、それでも彼女は仕事と割り切る姿勢を崩さない。気を取り直す様に言葉を早め、最後に力強く念を押した。
「何としても倒して下さい、此処で」

 自身は戦えず、ただ戦士を死地へと"くべる"その役目。
 重傷で戻るリベリスタも見てきただろう。もし死者が出たとしたらと苛まれる日もあっただろう。
 和泉が尊敬している、かの幼き先輩は感情を殺そうとしている節がある。辛いのか。
「……急なお仕事で申し訳ありません。中には成人式を迎えられた方も居らっしゃるかと思いますが、どうか宜しくお願い致します」

 ブリーフィングルームに訪れたリベリスタ達を、和泉の言葉が燃える神域へと誘う。

「……お気をつけて」




■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:Celloskii  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年01月24日(火)23:36
お初にお目にかかります。新参STのCelloskiiです。
寒いです。寒いなら、のっけからバトルで、熱く行きたいと考えています。

【まとめ】
▼状況
時間:夜
場所:住宅街からやや離れた神社

▼エネミーデータ
E・フォース『しんび・さぎちやう』
不定形の火です。高DA、高い命中と回避を備えています。

 知能:低いものの、ブレイクフィアーや聖神の息吹といった清める力に惹かれる(狙い易い)
 怒竹(どちく)    神遠複:火炎・怒・呪い
 火垂(ほたる)    神全:呪殺・弱点
 焔衣(ほむらころも) 神近範:業炎・呪縛・HP回復(大)・弱点
 EX神火(しんび)   神全:獄炎・弱点・必殺

 火炎、冷気、麻痺、呪い、態勢系統のバッドステータスが無効です。
 残り体力が少なくなると、更に燃え上がって強さが増します。


宜しくお願い致します。


参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
インヤンマスター
朱鷺島・雷音(BNE000003)
ナイトクリーク
リゼット・ヴェルレーヌ(BNE001787)
★MVP
クロスイージス
セルマ・グリーン(BNE002556)
クロスイージス
姫宮・心(BNE002595)
プロアデプト
樹 都(BNE003151)
ホーリーメイガス
雪待 辜月(BNE003382)
インヤンマスター
風宮 紫月(BNE003411)
ダークナイト
一条・玄弥(BNE003422)

●すみぬりて
 年月は旅人の如く。と古人は言う。
 旅から戻り、来ては去り、去っては来て、また旅へ行く。
 そして、行き交う人々もまた、人生の旅人であると古人は説く。
 人生の旅人が故に、年始に顔を出す古き旅人達を祝い、『年の神』『道の神』を祀り、息災を願うのである。
 道半ばにして倒れる者が出ないように、断念する者が出ないように――
「だーから神様ってのは嫌いなんですよ。エリューションとはいえ、関係無い人を焼き殺すとは何事ですか」
「新年の初めから、悲しい思いをする人は出したくないですね」
 ――『イノセントローズ』リゼット・ヴェルレーヌ(BNE001787)の声に、雪待 辜月(BNE003382)が、かく応じる。
 この道には時に、あるいは往々に『化物』が出る。
 突然現れて、現れたかと思えば理不尽に命を刈り去っていく。
「神なる炎が邪悪な行いとはなんとも無念!」
 『超守る空飛ぶ不沈艦』姫宮・心(BNE002595)の言葉が的を射る。
 歳徳神と道祖神を称える火が『化物』になるとは、何と無念で皮肉な事だろうか。
「あ、さぎちやうは、お正月に迎え入れた神様をお見送りする意味もあるそうデス」
 これが、この日『くべられた八人』の目的だった。
 見送らねばならない。粛々と消えねばならない。
 この故に、墨色の周囲、自らも青墨色に染まりながら、八人は駆け抜ける。
 墨色の向こうに見える鳥居を、ただ目指す。
 目指すそこへの距離は、さほどない。
「見捨てていい命などはない、ならばできることをするだけだ」
「全力を尽くします。……此処で仕留めねば、多くの犠牲を生む事になるでしょう」
 表情を引き締めた『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)と、続く『朔ノ月』風宮 紫月(BNE003411)の声が足音に混ざる。
 雷音の目には、人の死への恐怖と、自身が誰かを助けられると信じる想いが、静かに燃えている。
 紫月は、持てる力の全てを以て、と胸裏に響かせる。
 二人の声は雑踏に埋まりながらも、底に固い芯を垣間見せて、凛と響く。
 運命すらくべる事を辞さないその姿勢、決意そのものだった。
 ――雑踏は続く。
「とんど焼きの炎がエリューションになるとは……おかしなものでも燃やしたんでしょうか?」
「燃やすなら芋に限るってぇもんですぜ」
 『畝の後ろを歩くもの』セルマ・グリーン(BNE002556)の呟きに、くぐもった声が返る。
 農場を経営するセルマが「ふむ、芋」と直ぐ後ろへ目を向ければ、完全防備の一条・玄弥(BNE003422)が目の当たりになる。
「完璧な不審者ですぜぇ。くけけっ」
 奇っ怪な含み笑いを上げるこの男は、言動に反して『徹底』していた。
 緊張は自らの"仕事"を殺す。備え過ぎて煩いが出ない内は防備する。
 かつての"仕事"のその心得か。
 対するセルマも、今日重要な役割を担うに反して緊張は少ない。
 適度こそ最高の結果を出すと知るからだろうか。
 鳥居を潜り、石畳を渡る。
「(悪鬼を払う浄化の炎が、人を襲うようになるとは……)」
 八人の最後尾にいた『世界を記述するもの』樹 都(BNE003151)がゆったりと、携えた書の頁を捲る――
「……ここより火の物語。意義あるものを期待しますよ」
 ――『ここより』と告げて書へ記す。
 即ち、くべられるべき所へと至ったに他ならない。
 墨色に染まって焦げ臭さが鼻をくすぐる神域は、二人の老人の影を曖昧にして、静粛だった。
「すまない!! まだくべてほしいものがあるのだ!」
 静粛さを破るように雷音の声。

 ぱしゃりと際立った水音が広がった。


●たてまつるなり
「そこのじっちゃん共! 老い先短い命無駄にしたくなかったらとっとと逃げやがれです!」
 水音の直後にリゼットの声が鳴る。
「なんだね!?」

 ぼかん。

 爆音と同時だった。
「いけね、灯――ひゃあ!?」
 セルマがすわやと飛び出し、老人達の襟を掴んで、後方へ捨て去る。捨てた後から、リゼットと雷音が躍り出て、老人達の前へ出る。
 ここに雷音が強結界を施す。
「すみません、危険ですから早く離れて下さいね?」
 頓狂な声を上げた老人を受け止めた辜月の目は、火の跡へと向く。
 否、全員の目が爆発音に注がれる。
「先ずは、場を整えましょうか」
 老人達の方をチラと見て、間一髪と安堵した紫月が、守護結界を展開する。束の間に生まれた安堵を捨て去るように、強い意思を表情へ改める。
 ここまで十秒にも満たない。迅速な行動、練られた段取りだった。

 いよいよ火は躍る。"しんび"がゆらりと空気を焼く。
 火の玉と言える外見は、赤から橙へ、橙から赤へ、忙しく蠢き、時に青を宿してゆらりとゆらぐ。
 この油断ならないゆらぎが、八人を舐めるように眺める。目などない。
「……出たのデス!」
 ジリジリとした熱を肌で感じながら、少し離れた所に、心の姿がある。
 清らかな力に惹かれる事を知るが故に、固まらず、密集せず、持ちうる神性を最大限に発揮しようと翼を広げた。
「……見ればわかるでしょうがここにいるのはバケモノです」
 樹が辜月の脇に歩みを寄せる。
 その外衣の下、背中の方で蠢くナニカを老人達へ向ける。
「私たちが処理しますので、どうか【関わりなく】……」
「うわあ」
「ひぃ!」
 逃げそうな素振りを察し、樹は紫月へと目線を送る。
 察した紫月は、記憶操作を老人へ施し、朦朧とした彼等を後ろ後ろへと下げた。
 空気は焼かれながらも、静粛とした空気を漂わせている。
 付与が終わろうとする猶予の中で、仄かな明かりがぽつぽつ浮かび出す。
 たゆたう有様は、まるで螢のように、呑気で、ゆったりとして――
「来ます!」
 ――辜月の声に火蓋が切られた。
 正確には、声と同時に螢が炸裂する。
 火縄銃の蓋を開き、火薬を込めて、引き金を引くかの様に、戦いは点火する。
「熱っ! どんどの火種からこないなことなってもうて――」
 更に螢がたゆたい炸裂する。
「えろう大変やないけぇ」
 吐き捨てた玄弥が、重い槍を突き出せば、黒が穂先から生じ、墨色から黒へ、黒が墨へ。赤とも橙ともつかない塊を遠間合いから穿つ。
 黒が赤を穢して行く様を見たセルマが、"しんび"へと近寄って構える。
 不気味な枯れ木を、ゆるやかに上へ上へ――
「なに、殴れるものなら恐れる事はない」
 ――静から動。
 戦気を纏った鎚が、魔を落とす鎚が、地を叩くついでの様に"しんび"を叩く。
 セルマの役割は接敵。火の前進を食い止め、あるいは仲間をかばう事だった。
 神の火が、ひずむ様に形を変える。
 神の火が、魔を落とす鎚に打たれるのだから、これが滑稽極まりない。
「そっちが呪いなら、こっちは不吉を食らわせてやるですよ!」
 リゼットが道化のカードを放つ。
 想いは『神様なんてクソ食らえ』がただ一つ。道化は不吉に舞って、ひずんだ有様を「滑稽!」と嘲笑い斬り裂いた。
「……始めましょう」
 黒い鳥が紫月の傍らに現れ、不吉を鳥目が凝視する。
 不吉は不吉を呼び、発つ時をじっと待つ。
 そこへ白い羽が舞う。
「我ながら、うっとりするくらいの破邪っぷりなのデス!!」
 心の、清らかな力が"しんび"を惹きつける。
 その途端、心の横で、何もない空間が破裂した。
「……ムッ!?」
 鉄壁の彼女にはさほど通用しない。
 通用しないが、何かが胸裏へと入り込み、怒りを点火する。

 しんびは悠然とゆらぐ。
 一斉の攻撃を受けて尚、嗤うように――
「(人は全て悪鬼であると言わんばかりですな)」
 螢――火垂の炸裂を受けた樹が埃を払い、今まさに怒りを携えて斬り込まんとする心へ視線を運ぶ。
「……っと、そんなことを考えてもいられませんね」
 『炎に傷ついた心の肌を、しかし柔らかい天の光が覆い傷を癒していく……』と書へ綴り、傷を癒す。
 使わせてはいけない攻撃を徹底して避ける作戦。
 決して近づいてはならない。
 怒りの火が、その隙を突く攻撃であったが――
「來來! 三千世界の烏よここに!」
 雷音の指先、もう一匹の鴉が発つ。
 "しんび"が狙う標的を、彼女が管理する。
 雷音へと標的が向けば、辜月のグリモアールと片掌が光って雷音の傷を癒した。


●えほうしん
 戦いの火は燃える。
 一斉攻撃、習性を利用した被害管理、手厚い回復。
 しかし、鴉が掠める程度となった時、清らかな力が間に合わなかった時、"その火"がついに発火する。
 衣の様に、セルマと心を包み――
「……っ!」
「……っ耐えるのデス!」
 ――啜る。
 赤へ橙へ、橙から赤へ、青へ。啜り尽くすかの様に。
 螢の如き火も、空間に炸裂する火も、まるでそれらが児戯であったかの如き火力でもって、柱を立ち上げる。
 終わらない。
 "もう一度"火柱が昇る。
 ただの二発。ただの二発が体力の大分を穿ち、業火と呪縛を彩る。
「……ぬるい! これなら暖炉にあたる方が余程温まる!」
「ま、負けないデス!」
 二人は簡単には折れない。
 折れないが、あと一回、連続で受けたら――
 ちらつく「直ちに次のフェーズへ移ると思われます」との和泉の言葉。
 刻一刻と2から3へ成長しているかの様だった。
「ふむ……」
「あーもー! 盗られた分は、返してもらうのですよ!」
 樹が書を綴り、心の傷を癒す。
 リゼットが道化のカードを放てば、不吉が高じた火を、中心から引き裂く。
 不吉は強力に敵を妨害し、強烈に削り去る。玄弥と共に決して絶やさない。
「(回復か、ブレイクフィアーか……)」
 辜月の頬に汗が伝う。戦闘指揮の観点から思考を巡らせる。
 あの二人だからこそ耐えられるのであって、もし突破されたなら、一人ずつ近づかれて火葬される事は目に見えていた。
 他者を傷つける事を苦手とする辜月にとって、支援は重要な命題であり、出来る限りのことはしたいと、ただ願う。
 耽る辜月に、紫月が視線を送る。
 視線を察した辜月に対して、紫月は頷く。
「分かりました」と辜月は――天使の息を選ぶ。
「姉さん程、うまくやれるか分かりませんが――」
 回復量がより高い辜月がセルマを強力に癒す。紫月からブレイクフィアーが放たれる。
 紫月が、火を己へ向ける事は、覚悟を要するものだった。
 姉との比較において、その差を知るが故に……しかし躊躇はない、微塵も。
 標的が紫月へと改められ、火垂がたゆたう。
 一度、間合いを取った心とセルマが、玄弥と紫月をかばった所で、火垂は炸裂する。
「――セルマさん?」
「大丈夫?」

「すみやせんねぇ」
「へっちゃら……デス!」
 心を横目に、玄弥が黒い衝撃を撃ちだす。
 焔の衣を受けた二人、心とセルマの顔色は相当悪い。
 火垂の炸裂や、空中の破裂から、絶妙なタイミングでかばい続けているからこそ、紫月と玄弥は健在だった。
 しかし、回復はあれど限界は近かった。
 樹と辜月も、後衛同士による回復が苦しい状況だ。
「(……神秘の炎は美しく、とても凶暴なのだ)」
 雷音が構えを改める。
 辜月と紫月のやり取り、セルマと心の状態、戦況の観察。……
 攻める時だと、まなじりを決して指させば、最大火力の鴉が飛翔する。
 "しんび"はリゼットと玄弥が拵えた不吉で、為す術もなく貫かれる。

 ――火が形を変える。

 地に足、両の手、頭の部分が出てきて――
「へ、ボク?」
 最も強力な攻撃を重ね続けた――『雷音』の姿。
 それが三日月の様に口を歪ませる。
 一呼吸程度の僅かな間の後に……ごう、と翼が生えて燃え広がった。
 フライエンジェの翼までも真似たか。
 雷音の研ぎ澄まされた直感が、誰かを守りたいと想う意思が、信念が、盛大に鳴らす警鐘。
 玄弥も察する。"仕事"の経験か、カンか。
「『来る』のだ!」
「『来やす』ぜぇ!」
 『もう一つ上の火』が来る。来る、来る来る来る。
 ならばと、皆一斉に防御する。――否。
「……弱音を吐いては女が廃ります」
 セルマは攻撃に偏向、来るのを知るも魔落を見舞う。
 "しんび"の超高温の熱が空気を焦がし、焦げた空気は火炎旋風となって天へと昇り、天を焼く。
 土が、煎餅の様に捲れる。

 セルマが――前衛に徹し、時にはかばい、攻撃を受け続けた結果、とうとう膝を地に着けた。


●墨塗りて 奉るなり 恵方神
 火は歪む。
 伏せたセルマの口にはしっとりとした微笑を浮かべ、運命をくべて立ち上がる。
「耐えたの……デス!」
 寸前に放ったセルマの鎚が、神火を歪めて発揮させる事を許さなかった。
 心も耐える。
 身を呈して紫月を守る。
 ここへ追撃の破裂音。辜月と樹がぐらつく。
 ぐらつくが立つ。
「これで……お願いします」
 "くべた"辜月が立ち上がり、後を託す想いと共に、インスタントチャージを雷音へと放つ。
「物語が終わらないうちに語り手が倒れる? ふふっ。馬鹿な」
 樹がペンを走らせ『時は来た……白い影に神秘が満ちて、火を嘲笑う』と記せば、リゼットにチャージが施され、ここに道化のカードが現れる。
「水被っても消えないアホタレ神様は、リズ達でしっかり消してやるですよ」
「死中に活あり。燃え尽きる前にもういっぺんっていうのはやめてくんさいよぉ」
 白い影が舞う。放つのは神への不信徳。不信感。リゼット自身を表す様に、道化が嗤って舞う。
 黒い悪意も躍る。「くけけっ」と火を嘲り笑う。
 不気味な枝をセルマがゆるりと振り上げれば――
 「念入りに叩いて消しましょう」
 ――再び静から動。
 
 最後に来たのは二羽の鴉。

 リゼットと玄弥が維持した不吉は成就する――
 積み重ねた辜月と樹の回復は、此処まで火力を存続させる――
 心とセルマが、耐え続けたのはこの時、この瞬間の為――

「行きます!」
「終わりなのだ!」
 集中を重ねた紫月が指さす。雷音が指さす。
 二羽が、かすれた墨の様に翔け、"しんび"を送り去った。

 :
 :
 :

「やれやれ、年明け早々暑苦しい敵なのです」
 リゼットが「穢れているのは分かっている」と笑みを浮かべ、心配していた和泉に元気な姿を見せてやろうと考える。
「少し服が焼け焦げちゃいました、まだまだですね」
 養父にメールを送る雷音。
 戦いは終わる。
 いまやもう、ただ寒い。
「本当に、被害が無くて良かったです」
「お孫さんが健やかに成長なさると良いですね」
 辜月の呟きに紫月が応じる、老人達は帰宅したらしい。
 ただ祭りの後。
 そこへ甘い匂いが漂う。

「芋くってへぇこいてねまっしょってかぁ~」
 証拠隠滅に、と焚火を起こす玄弥は、持参した薩摩芋を火へくべる。
 視線は匂いへと注がれる。
 直ぐに立ち去るつもりだったセルマは成程、と呟く。
「おいしそうなのデス!」
 玄弥は奇っ怪な笑いを浮かべる。

 月冴ゆる。
 やわらかい光を称える寒気に、寒気を引き立たせる墨の色。
 戦いが終わった神域には、あまい匂いが漂った。


「これにて『火の物語……【了】』」

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 Celloskiiです。お疲れ様でした。

 成功です。
 お美事に御座います。
 本敵には、二つコンボを仕掛けておりました。
  一、大量のバッドステータス+『呪殺』
  ニ、高DA+怒り+近接範囲の『HP回復(大)』
 一はブレイクフィアーだけで解消しますが、その状態に安心されて
 相談が終わっていた場合、ニが発動して尽きない体力。
 苦しい戦いになったと考えられます。

 これに対しては、『極力遠距離攻撃で、怒りBSになっても絶対に近づかない』。
 しかし、中々難しい条件で御座います。
 近づく方が何名も居られる場合には、『焔衣を打たせない』が肝心でした。
 MVPは、EXが来ることも辞さず、結果命中を下げた事で全体を守った貴方へ進呈させて頂きます。
 お疲れ様でした。