●うわさ トイレで用を足して戻ってくると、そこにはもう、彼女の姿はなかった。 代わりにそこには、どういうわけか、文庫本を開いているSが座っていたりして、Mは咄嗟に、これは幻を見ているのではないかしら、とか何か思って、ちょっと自分の頭とか、心配した。 でも、わりとじーとか、ずっと見ていても、SはやっぱりSのままで、あの変人で優秀な端整な顔立ちの大学教授Sのままで、しかもその向かいには、ちゃんとMの荷物とか置いてあって、席の間違いでも、幻でもなく、これはもう現実なのではないか、と、認めたくないけれど、認めるしかないような予感がした。 恐る恐る席に戻る。間違いなく自分が飲み掛けで置いておいたホットコーヒーのカップの前に、座る。 ちら、と目を上げた。 向かいに座ったSは、あんまり何考えてるか分かんない無な表情で、文庫本のページを、ぱら、と繰った。 何だか妙に手持無沙汰だったので、とりあえずカップとか持ちあげ、中身をずずず、とすすった。 冷めたコーヒーが、やたら、不味い。 「彼女なら、帰ったよ」 やがて、文庫本を見たまま、Sが、言った。 のを、何かぼーとか眺めて、Mは、言った。 「あのー、Sさん」 「うん、何だろう、M君」 「ここって、Sさんが教授として席を置いてて、僕が事務職員として働いてる、あの大学とかじゃないですよね」 「そうね。普通にただの、ファミリーレストランだよね」 「何で居るんですか」 「まーそうねー。レストランだし、食事しに来てるんじゃないかしら」 「はーそういうことではないんですけども」 「こんな所で会うなんて、不思議な縁を感じるよね」 「いえ感じないですね」 とかもー、わりと人の返事とか聞いてない感じのSは、「彼女ね」とか、さっさと話を変えてくる。 パタン、と文庫本をテーブルに、置いた。 「はー」 「びっくりするくらいつまんなかったらしいよ」 「あれ、何ですか」 「実はさ。ずっと二人の会話を聞いてたんだけど、彼女何か凄いつまんなそーな返事してんなあ、とか思って、君がトイレに行った隙に話しかけてみたのね。そしたら案の定、退屈で死にそうです、って」 「そんな死因、ないですよね」 「だったら俺が代わりに荷物とか見といてあげるから、大丈夫、知り合いだし、って言ったら、本当に逃げるように帰って行ったんだよね。俺が本当に知り合いかどうかを確かめる気とか全然ない感じっていうかむしろ、何だったら嘘でもいいですくらいの感じで。何かこう立ちあがるきっかけだけ欲しかった、くらいの感じだったよね、あれは」 「……そうですか」 「落ち込んだの」 「はい。落ち込みました」 ってテーブルの一点を見つめるMを、まるで新種の昆虫を観察する研究者、みたいな目で暫く見つめていたSが、 「じゃあそんなM君に耳よりな情報を教えてあげようか」 とか、その覇気のない感じからして既に、全然耳よりでもない情報のような予感がしたけれど、もしかしたらあるいは、凄い情報が聞けるかもしれない、と、やっぱり2パーセントくらいは期待してしまい、結局Mは、「はい」とか、素直に頷いた。 「これ、生徒達が噂してたんだけどさ」 でも、この時点で、何か、既に「ん?」ってなって、2パーセントは1パーセントに、下がった。 「あ、またその感じですか」 「何かね。縁を結び過ぎる神社、っていうのがあるらしいよ」 「はー縁を、結び過ぎる神社」 「ここの近所に、小さくて古い神社があるんだけどさ。何か神主さんとかも居なくて、放置されてる感じで、夜中になると火の玉が飛ぶとか、まーそういう怪奇現象的な噂もあるんだけど、それはともかくとして。そこの庭の一角にある祠に祀られている石に触ると、その時、より想いを寄せている方が、もれなくストーカーになっちゃうらしいって」 「はー確かにそれは結び過ぎですね」 「まーより想いを寄せている方が、というところは、噂だからね。これは、ランダムかも知れない」 とか何か言ったSが、どういうわけか、じー、っとこっちを。 「いや、ここであんまり見ないで貰えますか」 「じゃあどうかな。とりあえず、一緒に行ってみる?」 「いや、行かないですし、じゃあって、一体それ何処から何を接続したのかも分からないですし」 ●その実態 「と、そんな感じで」 ブリーフィングルームのモニターに映し出されていた映像を停止させ、『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)が、一同を振り返った。 「一般人の間ではこんな噂になっているこの神社なんだけどね。実はここには、アザーバイド「キツネさん」が居てね。今回は皆に、これを見つけだし、捕まえて来て欲しいって話なんだよね。捕縛するケースはこっちから貸し出すから、そこに入れて運搬して来て欲しい。やって来たと思しきD・ホールは残ってるから、捕縛して来てさえくれたら、送還はこっちでやるよ」 そしてモニター画面の映像を、神社内の風景に、変えた。 「この境内の何処かに、そのキツネさんがいるんだけどね。一般人の言ってる石は、実は別に何の力もなくて、縁を結び過ぎる原因は、このアザーバイドにある。見た目は俺達が知ってる普通のキツネと何ら変わらないんだけどね、見つめたり、軽く噛みつかれたりしたら、噂にあるような影響が出てしまうみたいなんだ。リベリスタの君達にも影響があるかどうかは……正直、分からない。だから、出来るだけ、見つめられたり、噛みつかれたりしない方がいいと思う。一般人程影響は出ないにしろ、その時、傍に居る人の事、軽く好きになっちゃうくらいは、あるかも知れないから。で。内部ね。見取り図は後で渡すけど、そんなに広い神社でもないから、探索ポイントは限られている。けど、相手もすばしっこいから気をつけて。何か、気を引く方法を考えてもいいかもね。あと、このアザーバイドの影響からか、境内にある手水舎の湧き水が革醒して、エリューション化してる。それと、狛犬も。襲いかかってくるだろうから、奇襲に注意かな」 と、あらかたの説明をした伸暁は、小さく笑みを浮かべて、回転椅子をゆらゆらとさせた。 「ま。そんなわけで多少面倒臭い問題もあるけど、今回はそんな感じで。皆、宜しく頼んだよ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:しもだ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年01月20日(金)23:33 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 鳥居の向こう側には、狛犬の姿がもー見えていた。 恐らく思いっきりあれが、フェーズ2のゴーレムに違いないのだけれど、今のところ、二体とも向かい合って静止していて、ただ、どう控え目に見ても、入った瞬間に襲ってやる気満開なんだろうな、とは、容易に予想が、ついた。 「なんの事もない、普通の仕事にも見えますが」 長身のユーキ・R・ブランド(BNE003416) が、その二体を見つめながら、わりとのんびりとした口調で、言う。「さらりと申し送られたのは、フェーズ2が七体。対してこちらは新米、七人」 そして、そこに立つ皆を見つめ、不敵な笑みを浮かべた。「いいですねえ」 とか言いつつ、鋭く細められた瞳の奥は、全然笑っていない。 「しかも初依頼にこれほど同じ力を持つ者が集うとは」 そこでアルトリア・ロード・バルトロメイ(BNE003425) が、抑揚のない表情で、やっぱりそこに居る仲間達を見つめた。「これも運命か」 「ええ、そう、運命かもね」 日無瀬 刻(BNE003435)が、酷薄な笑みを浮かべながら、軽く、頷く。「何にしてもお仕事はきっちりと片づけないと。血に塗れたり、塗れさせたりしながら頑張りましょう。ふふ、楽しみね」 「しかし今の所、アザーバイドの姿は見当たらないようだが」 バゼット・モーズ(BNE003431)が、鳥居の向こう側を眺め、言う。 「確か、キツネさんですよね。わたしも一応狼の端くれですからね……。まぁ、お仲間みたいなものですし……これも縁ですから救出に尽力いたしましょう」 『深紅の眷狼』災原・闇紅(BNE003436) が、虚ろな瞳で、ぽつぽつと呟くように、答えた。 「でも、少なくともあそこに、狛犬さんの姿は見えているからね」 左手にはめた手袋を、ぎゅっと引きながら、『黒姫』レイチェル・ブラッドストーン(BNE003442) が、言う。「アザーバイドも気になる所だけど、まずは気を抜かず、しっかりとあの邪魔な敵を始末しておきたいところだわ」 それに勢い良く頷いたのは、超反射神経を発動し、奇襲に備えていつでも準備万端状態の風音 桜(BNE003419)で、その手には何故か、強力粘着ガムテープが。 ビーッ、とそれを引っ張り、ちぎり、両手にスタンバイ。 しようとしたけど、全然予想もしてなかった場所に張り付いたりして、ちょっと慌てふためき。 ながらも、レイチェルの、え、何やってるんですか、みたいな視線に気づき、「これで、エレメントの硬い部分に、目印を付けてやりまするぞ!」とか何か、凄い熱く、言った。 「あ、そう」 「とにかく」 そんな仲間達の姿をクールに見つめていた氷河・凛子(BNE003330)は、こめかみをトントン、と叩き、皆に呼びかけるようにして、言った。「油断は出来ない状況です。敵は、一体ずつ集中して倒していきましょう」 全員が頷くのを見て、手術用手袋を装備した両手を合わせ、翼の加護を発動した。 「では、戦闘開始です」 その鋭い声と共に、仲間達の背中に、小さな羽が出現する。 凛子は続けざま、すぐにマナサイクルを発動すると、体内の魔力を活性化させ、戦闘に備えた。 その間にも、ハイスピードを使用した闇紅が、境内へと続く階段を飛ぶように駆け上がって行く。 台座の上に鎮座していた狛犬の前へと飛び込むと、二体は同時に鋭い爪を翳し、飛びかかって来た。咄嗟に先に視界に入って来た方へと、スモールシールドを装備した手を突き出す。爪先がぶつかり、ガチン、と音を立て、それと同時に、衝撃が、どしん、と腕に来た。 そのまま押し込まれるようにして、尻餅をつく。 更に、背後から飛びかかってくるであろうもう一体の攻撃を覚悟したのだけれど、そこへ飛び込んできたのは超反射神経を発動中の桜だった。 庇いたてるように狛犬の前へと立ちはだかると、大ぶりな斬馬刀でその攻撃を受け止め、ブロック。 けれども、力の差があるためか、じりじり、と押しやられ、更には、もう一方の手から繰り出される攻撃が、ヘビーガードを着こんだ肩に、ガツン、とぶつかった。 「ぐッ!」 「あー、しかも更に来ちゃうんですよね。エレメントとかが」 狛犬をブロックしている二人の間を、ユーキが、そんな声と共に駆け抜けて行く。 彼女は、一つに束ねた長い黒髪をなびかせながら、「ぬっとぬっと」と石畳の上を移動してくる赤色のエレメントへと突進し、拳を振り上げた。次の瞬間、その手には、アクセス・ファンタズムからダウンロードされた武器、ブロードソードが。 「ここは通しませんよ!」 そして、勢い良く振り下ろした。 しかし、ひょい、と逃げられ、刃が、ガツン、と硬い、地面を打つ。 「ええ、いいんですよ。後衛が主火力ですのでね。後ろに通さなければある程度分はある。そうでしょう?」 「ええ、そうよ」 背後から、ヘビーボウガンを構えた刻が、ぎりぎり、と狙いを定めるように弓を引きながら、言った。「大丈夫、大人しくしてなさい。貴方にも痛みを刻んであげるわ」 次の瞬間、放たれた矢から、ぶわ、と漆黒のオーラが吹き出し、そこに居た狛犬や、赤のエレメント、更にはその背後から、「あれなになに~」みたいに寄って来ていた、青のエレメントまでもを、ズサアア、と薙ぎ払う。 その衝撃が収まる間もなく、アルトリアとバゼットの攻撃が、更に後衛から追い打ちをかけた。 「我が手にかける者達に憐みを」 声と共に、バゼットの構える大振りの剣、バスタードソードから、刻と同じような漆黒のオーラが。 「そう。新米だからといって、退くわけには、行かんからな」 そして、アルトリアの美しく輝くレイピアからも、同じく漆黒のオーラが吹き出し、石畳の上を滑りぬけて行く。 受け身を取る暇もなく、立て続けにリベリスタの攻撃を受けたエレメント二匹はその場で消滅し、闇紅と桜を追いつめていた狛犬も、体制を立て直しますとばかりに、後方へと飛んでいた。 もちろん、闇紅と桜はそれを追いつめるようにして追いかけ、更に後方に居る仲間の戦場となる場所も確保できるよう、陣形を広げる。 そのスペースを活かし、後方から駆けあがって来たのは、レイチェルと凛子だ。 「後ろから、更にエレメント二体が、来ますよ」 状況を観察する凛子から、声が、飛ぶ。 と言ってる傍から、飛び込んできた黄色と緑のエレメントが、ぴょんぴょんと、飛び回るように動き、後衛を守る、ユーキ、アルトリア、バゼット、刻の四人を翻弄する。 「そっちがそういうことやってくるなら、こっちだってやってやるけどね」 呟いたレイチェルが、闇纏を発動し、駆け出した。 「来たれ、闇の衣!」 途端にそのスタイル抜群の体を、闇のオーラが包み込む。薄っすら薄闇に溶け、紛れるようにして、飛び回るエレメント達の間へ躍り出た。 グレートソードを一振りすれば、巨大な刃が、ぶんと風を切る。 「さあ、わが闇の前にひれ伏せ」 そこから吹き出した漆黒のオーラが、飛びまわるエレメントに、バシッと、命中。 「面倒臭い動き、するからだって」 ぼと、と地面へ落ちて来た所に、びゅっと飛行してきた凛子が、すかさず展開した魔方陣から、マジックアローの矢を放つ。 「紫色も登場みたいですよ」 「全く続々と。最悪同時に相手をする積もりでは参りましたが」 やれやれとばかりに、ブロックに走り込んだユーキは、闇纏を発動し、そのまま膝をついてエレメントの前へと滑り込む。 そして、ぷるんぷるんした体躯に、がぶ、と、噛みついた。 ヴァンパイアである彼女の尖った歯が、ぶにゅう、と体を突き刺し、突き破り、内部のねっとねとが、じゅるっと口腔に侵入してきて。 ぐい、と尚も歯を食い込ませると、かち、っと何か、硬い感触を感じた。 ――硬い部分。これですね。 続けざま、その分を攻撃してやろう、としたその瞬間。 ガッ、とエレメントが、ユーキの手に噛みつく。 すぐさま体を起こし振り払うも、中々、離れて行かない。 その間にも、緑と黄色のエレメントに対応していた刻が、また、暗黒剣を放ち、声を上げた。 「さあ、柔らかい部分はどんどん吹き飛ばしてやるわよ。硬い部分を見つけたら、すぐさま、叩いてね」 「了解した」 バゼットが更に暗黒剣を放ちながら、答える。 「なるほど。柔らかい部分を吹き飛ばせば、残るのは弱点の硬い部分のみ、ということですか」 「そういうことよ」 刻の返事に頷いたユーキは、そこで、魔閃光を発動した。 すぐ傍に居るエレメントに向け、暗黒の衝動を秘めた黒いオーラを、ぶわ、と解き放つ。 べろおん、と柔らかい部分が吹っ飛び、手に被りつく硬そうな物体だけが、残った。 「なるほど。これは、便利です、面白いですね」 薄っすらと笑みを浮かべて言った彼女が、そのままの表情で、ストン、と膝を突く。 「おっと、意外に攻撃が効いてしまっているようで」 そこへ飛び込んできたレイチェルが、魔閃光を、その左の義眼から、放った。 ユーキの手に噛みつくエレメントが、たちまちそのオーラを浴び、消滅する。 「この目から逃げられるとでも思った?」 更にその背後から、凛子が天使の息を発動した。 ハスキーな低音の声が、清らかなる存在に呼びかけるように詠唱すると、ユーキの周りに、癒しの微風が、ふわ、と舞う。 「敵はまだ、残っていますよ」 呟いた彼女は、すぐさま次の行動へと移る。刻とバゼットが暗黒剣で剥き出しにした黄色いエレメントの弱点へ、マジックアローの攻撃を放った。 隣ではレイチェルが、同じく緑のエレメントへ魔閃光を放っている。 「これで、終わり」 一方その少し前。 狛犬と対峙する闇紅は、幻影剣を繰り出し、応戦していた。 「……やられた分はきっちりと……お返ししないとですよね……」 幻惑の武技から生まれる幻影で、狛犬は狙いを定められず、翻弄されている。 その隙に、ぐっと狙いを定めると、ブロードソードから鋭い攻撃を繰りだした。ガンと、その首元に、刃がぶつかる。石を切るような硬い感触を感じながら、刃を引き抜いた。 狛犬が、雄叫びを上げ、爪を振りかぶってくる。 その腹に、駆けつけたアルトリアの放つ暗黒剣が、ヒットした。 ドン、ともろに衝撃を受けた狛犬が、よた、と後ろに一歩、後退する。 「もう一度、行きますよ」 呟いた闇紅が、先程と同じ場所をブロードソードで突き刺す。今度は確かな手ごたえと共に、狛犬の首元に亀裂が入るのを、見た。 「よし」と呟いたアルトリアが、レイピアを構え、追撃に、と走る。 背後へと回り込み、鋭い刃で突くように、攻撃を加えた。 べき、と亀裂が大きくなり、二人の刃は、その硬い体躯を破壊する。 更にその同時期には、桜がもう一頭の狛犬と応戦していた。 「聖獣たる狛犬を叩きのめすのは気が引けまするが、これも致し方なし!」 叫び声と共に、暗黒剣をその体躯に打ち込む。 口から石を吐き出そうとしていたのか、大きく口を開いていた狛犬の顔面に、黒いオーラが、ドン、とヒットした。 がぎ、と顎が外れたかのような、鈍い音がする。 「そこを更に狙おう。あそこから、攻撃が通る筈だ」 駆けつけたバゼットが、更に、暗黒剣を打ち込むと、メシメシ、と、また、鈍い音がする。 「とどめでござるな!」 斬馬刀を振り上げ駆け出した桜の一撃が、ガン、とその顔面を横一文字に切り裂き、破壊した。 「やったでござる!」 と。 そこで、桜はふと、手についたガムテープの存在に、ハッと、気付き。 「ガムテープ作戦を……!」 って勢い良く振り向いたら、めっちゃ真顔のレイチェルに、 「うん、もう終わった」 とか、さく、っと言われた。 「あ」 リザードマン桜は、ちょっと淋しそうに、肩を落とした。「そうでござったか」 ● しゃらん、しゃらん、と刻の振る神楽鈴から漏れる音が、暗がりの境内の中に、響いていた。 「これで出てきてくれれば楽なんだけど」 そしてまた、しゃらん、しゃらん、と、わりとやる気もなさそーに、神楽鈴を振る。 「それで尚且つこの仕掛けの中に入ってくれればいいんですが」 凛子が、何やら小さな紙を眺めながら、言った。 この仕掛けとは何か、と言えば、石畳の地面の上に置かれたケージの事で、刻の用意した御神酒と、バゼットの用意した鶏のささみも入れられていた。 闇紅がその前にひっそりと佇んでいる。 けど、その両手では、思いっきりびーっと引っ張ったロープとかを構えていて、わりと大人しそうな顔で、キツネさん出て来たらフン縛る気満開みたいな、ちょっと怖いオーラを醸し出していた。 とかいうその背後では、拝殿の前に立ったユーキが、柏手二回、礼を二回。とかやっていて、アルトリアがそれを興味深そうに見ている。 「まあ、礼儀ですので、ね」 「ふむ。極東の人々は願掛けが趣味と聞く。神に願いを託し祈る気持ちは分からんでもないが……そうか。そういう作法があるのか」 「まあ」 と顔を上げたユーキは、ちょっとじーっとか、アルトリアの顔を眺めた。 「何だ」 「いえ、神社でサングラスっていうのは、どうかな、って」 「これは」 フレームを弄くりながら、アルトリアが答える。「アザーバイド対策だ。仕方あるまい」 「ですよね」 それで何か、微妙にシーンとかした二人の間を、「おいしい、おいしい、あぶらあげはいかがですか~」とか何か、油揚げ両手に声を張り上げる桜が通過して行く。 「っていうかさ。絶対、アザーバイドに言葉とか、通じないわよね」 刻は、しゃらんしゃらん鈴を鳴らしながら、思わず、呟く。 とかわりと抜け目なく聞いてたらしい桜が、すかさず、言った。 「拙者とて、アザーバイドに言葉が通じると思っているわけではござりませぬが」 「むしろ、その格好を見ると、ビビって逃げてくんじゃないかしら。キツネさん」 「それよりその格好で鈴を鳴らしてらっしゃるのを見て、驚いて逃げてしまうかも知れませぬぞ」 とか何か、若干ムキになって桜が言うと。 「まあ」 と、刻は自分のゴスロリ姿を、ちらっと見下ろした。「この服で神楽鈴っていうのも、中々シュールでは、あるわよね」 「ところで凛子君は。先程から何を見ているんだ」 闇に溶け込むようなカソック姿のバゼットが、ケージの方を見つめたまま、ふと、呟く。 「おみくじですよ」 と、凛子は答えた。薄っぺらい用紙を、ひらひら、と振る。 「おみくじ……聞いたことはあるが」 「吉凶を占うために引く籤です。あそこで引けるんですが」 と、社務所の方を指さすと、そこから、レイチェルが現れた。 というか、レイチェルと、アザーバイドらしきキツネが、現れた。 「あ! おきつねさんですね!」 「社務所の押入れの中を調べてたら出て来たわよ~」 わたたた、と追いたてながら、レイチェルが、叫ぶ。 「さあ。傍迷惑な恋のキューピットには、還えって貰うとしましょう」 だっと凛子が走り出し、レイチェルに加勢するように後ろから追い立て始めた。 「おきつねさん、おきつねさん、お帰りになってください」 更に、うろうろとケージから離れて行きそうなアザーバイドの行く手を、反対側からやってきたバゼットが通せんぼ。 「観念したまえ」 と。 そこで突然、桜が、バッと、アザーバイドに飛びついた。 「召し取ったりぃ~!」 って言った瞬間。 その手を、かぷ、と。 「あ、噛まれた」 とか何か、レイチェルが、目ざとく見つけた。 がば、っと桜が顔を上げる。 目が、合った。 何か、わりと嫌な予感がした。 「せ、せ、拙者と結婚を前提とした…じゃなくて、今晩一緒に食事でもどうでござろう!?」 嫌な予感は、当たっていたようだった。 レイチェルはとりあえず見なかった事にして、目を逸らす。 と。 「良縁奇縁どちらも、大切な縁って事ですか」 凛子が、少し唇をつりあげながら、眼鏡を押し上げているのが、見えた。 「いやいや、凛子」 とかいうその間にも、ユーキや、バゼットに追い立てられたアザーバイドの首根っこを、ガッと、勢い良く掴んだのはアルトリアで。 そこにすかさず、闇紅が駆け寄る。 びーっと引っ張ったロープで、思いっきり躊躇いなく、ぐるぐるぐるぐる、やりだした。 「ちょっと苦しいかもしれませんが……我慢してください。あなたの為ですからね……」 虚ろな瞳でそんな事を言っている。 そしてついには、ロープ巻と化してしまった物体を、アルトリアが無表情に、ケージの中へと押し込んだ。 あれは……ちょっとどころじゃなく苦しそうだけれど。 その光景を眺めながら、ユーキは思う。 でもまあ。と、今度は、レイチェルを追いかけまわしている桜へと視線を移し。 仕方ないか。と、アザーバイドに同情するのは、やめにすることにした。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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