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痛みの塔と歪みの王――黒金荊の近衛騎士

●崩れる世界の片隅で
 秩序が、規律が、安寧が、有象無象が、乱れ解れて崩れて逝く世界。
 かくして王は空を裂き、大地を吹き飛ばし、築く塔にて鎮座した。

  痛みの塔と歪みの王。

 黒い荊が覆い尽す。覆い尽す。暗澹の夜空に仄輝く黒金。

 苦痛と歪曲。
  痛みと歪みを総べし者。
 赫い薔薇に眠り沈みて。
  茨の壁は嗚咽を漏らす。

 門を護るは黒金荊の近衛騎士。

●攻城戦・1
「ドエラい事が起こりましたぞ、皆々様!」
 いつもの事務椅子に座す『歪曲芸師』名古屋・T・メルクリィ(nBNE000209)は開口一番、そんな事を。
「崩界が進んでる影響か……。非常に強力なアザーバイドがこのチャンネルのとある軍艦島に居座ってしまいました。皆々様にはその討伐に当たって頂きますぞ!
 アザーバイドの名は『歪みの王』――遥かなチャンネルよりやって来たアザーバイドで御座います」
 そう言ってメルクリィが操作したモニターには茨が絡みついてできた様な巨大な塔、これがかのアザーバイドなのだろうか。
「いえ、この塔は『痛みの塔』。歪みの王が造り出した王城にしてアザーバイド、とでも言いましょうか。
 歪みの王はこの中におります。王についての詳細は未だ不明……何しろ、ジャミングが酷く中まで見えないのですよ。この塔を護る城壁アザーバイド『噎び泣く荊壁』の所為でね」
 と、メルクリィは肩を竦める。自分達の想像もつかないアザーバイドの奇々怪々な能力――じゃあどうすればいいのか、とフォーチュナを見る。彼が頷く。
「歪みの王を討つ為には噎び泣く荊壁を攻略する必要があり、そして噎び泣く荊壁を滅ぼす為には門番を倒す必要があります。
 今回の作戦はかなり手間がかかり大掛かりになる事が予想される為、皆々様には一つずつの作戦を確実にクリアして頂きたく思いますぞ。
 つまり――攻城戦ですな! 門番、城塞……最終的には王、といった感じです。
 今回はその第一弾ですな。つまり『VS門番』ですぞ!」
 機械男がモニターを操作すると、荊の塔が遠退き――茨の城壁が映り――一帯が黒い荊に覆い尽された廃墟が映った。
 その廃墟に立つ、黒い荊の騎士が二人。茨の城壁の前。楯と武器を構え。
「アザーバイド『痛みの騎士』『歪みの騎士』。噎び泣く荊壁を護る番人で御座います。
 彼らが居る限り城壁には一切のダメージが入りませんぞ! なので、皆々様にはこの二体のアザーバイドを討伐して頂きますぞ。
 彼等は攻防優れた堅実な攻めを展開してくる事でしょう。また、連携もバッチグーですぞ! お気を付け下さい」
 それから、とメルクリィが無骨な機械指を立てた。注意して頂きたい事が御座います。
「この噎び泣く荊壁。騎士達が倒れるまでは一切行動を起こしませんが、その代わりあらゆるダメージ・状態異常を受け付けません。
 その上、結界の様なモノを纏っており触れるだけで大ダメージ&ノックバックですぞ! 触らぬアレに祟り無し、ですな。
 しかーし、騎士達が倒され少し経てば……行動を開始します。攻撃すればダメージ入ります。
 ですがですが! いいですか! 皆々様の今回の任務は『痛みの騎士と歪みの騎士の討伐』です!
 まだ城壁の情報も揃ってない上に皆々様は戦闘後でフラフラへろへろの疲労状態でしょう。勝てっこありません。騎士達を討伐したら速やかに退いて下さいね!
 騎士達が倒れて直ぐ動き出す、って事は無いので手際良く退けば問題無しですぞ。ご安心を。そのまま連絡して頂ければ船で迎えに行きますんで」
 いいですかと釘を刺す言葉にしっかり頷き返した。無茶は禁物である。
「では次に場所について」
 そしてモニターに映ったのは件の軍艦島――痛みの塔を中心に廃墟は吹っ飛ばされ、仄明るく輝く黒い荊に覆い尽されている。お陰で視界は明るく良好だが……
「ハイ、この其処彼処を包む荊。当然触るだけでブスッとダメージ入りますぞ! 飛べると便利でしょうな。
 それ以外に場所について説明する事は特に御座いません。そして以上で説明もお終いです」
 ニッコリ、メルクリィが凶相を笑ませて皆を見渡した。
「長く厳しい戦いになる事でしょう。ですが……皆々様ならきっときっと大丈夫! 応援しとりますぞ、フフ」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:ガンマ  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 2人 ■シナリオ終了日時
 2012年01月20日(金)23:48
●目標
アザーバイド『痛みの騎士』『歪みの騎士』の討伐

●登場
アザーバイド『痛みの騎士』
 巨躯の黒鎧騎士。全身に黒金の茨が絡み付いている
 茨の絡みついた大楯と斧槍で武装
>主な戦法
 苦痛の刃:近接。流血、ノックB
 激痛の荊:ランダム。ダメージX
 痛楚の声:遠距離。死毒
  など。攻撃に出血を伴う場合あり

アザーバイド『歪みの騎士』
 巨躯の黒鎧騎士。全身に黒金の茨が絡み付いている
 茨の絡みついた大楯と大剣で武装
>主な戦法
 歪む刃:近接。致命、ショック
 捩れる荊:ランダム。呪縛
 拗ける声:遠距離。凶運
  など。攻撃に出血を伴う場合あり

アザーバイド『噎び泣く荊壁』
 『痛みの塔』を囲み守る茨の様な黒い城壁。棘だらけ。
 騎士達が倒れるまで全く行動せず、一切のダメージ・状態異常を受け付けない。
 触れると大ダメージ&ノックB(痛みの騎士、歪みの騎士には効果が無い)
>主な戦法
 不明。

アザーバイド『痛みの塔』『歪みの王』
 突如空間を裂いて現れた。詳細不明。

●場所
 軍艦島の中央。廃墟や瓦礫は吹き飛ばされ、『痛みの塔』を中心円状に更地になっている。
 一帯を黒い荊が覆い尽している(毎ターンダメージ/騎士達には効果が無い)
 時間帯は深夜。一帯の荊が仄明るく輝いており、明るい。
 一般人は来ない。アザーバイドは撤退逃亡しない

●その他
 騎士達は既に噎び泣く荊壁の前に布陣しています
 騎士達が倒れた少し後に噎び泣く荊壁が行動を開始します(撤退分のターンは十分に確保できます)
 島へはアークが船で送迎します。(連絡があれば迎えに行きます)

●STより
 こんにちはガンマです
 がちむちバロック殺伐バトル仕立てのスーパー攻城戦第一弾。まずは門番から。
 宜しくお願い致します。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
覇界闘士
テテロ ミーノ(BNE000011)
ホーリーメイガス
来栖・小夜香(BNE000038)
プロアデプト
氷雨・那雪(BNE000463)
ソードミラージュ
絢堂・霧香(BNE000618)
プロアデプト
鬼ヶ島 正道(BNE000681)
デュランダル
四門 零二(BNE001044)
デュランダル
楠神 風斗(BNE001434)
デュランダル
イーシェ・ルー(BNE002142)
■サポート参加者 2人■
覇界闘士
御厨・夏栖斗(BNE000004)
ソードミラージュ
戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)

●暗夜出撃
 暗澹とした黒。今や異形の茨で埋め尽くされたコンクリートの島。
 仄明るく輝くその中央に、痛みと歪みを孕んだ塔は無表情で有象無象を睥睨して居た。

 リベリスタを送り届けた船が遠ざかる。波を掻き分けるエンジンの音を聴きながら――『闇狩人』四門 零二(BNE001044)は遥かな塔を仰ぎ見た。
「禍々しくも荘厳なる黒金の荊に彩られし高き塔……か」
 フ、と薄く口角を持ち上げる。咥えた煙草の煙を吐き出し、手には剣。
「だが、この世界には似つかわしくはない、ね」
 先ずは初戦。先ずは露払い。『静かなる鉄腕』鬼ヶ島 正道(BNE000681)は剣呑な風に吹かれながら、神秘の光で不気味に輝く異形の砦へと一歩を進めた。
「後に続く本隊の為にもここで躓くわけには参りません」
 勝つのは当然。且つ『次』の為の情報収集も可能な範囲でやっておきたいところ。
 兎にも角にも気を緩めている暇は無い――船の中でスッカリ眠っていた『微睡みの眠り姫』氷雨・那雪(BNE000463)は未だ眠気の残る半目で俯き気味に髪を掻き上げる。
「これが本当の、序章……ね」
 息を吐いた後。眼鏡をちゃきっと押し上げつつ顔を上げた少女の顔は凛然怜悧、先までのポヤリとしていた面影は皆無。
「後に続く、人の為にも……まずは、門番を何とかしないと……」
 鋭い紫眼の奥の脳味噌内では目まぐるしくニューロンが電気を発し始めていた。横に並ぶ正道もまた同じ状態、コンセントレーション。超越集中と回り始める思考。
 頼もしい背中。緊張と不安はあるけれど、それを上回る安心感。神秘の十字架を手に来栖・小夜香(BNE000038)は深呼吸――
「巡れ」
 言葉と共に全身へ行き渡り満ち満ちる超自然的霊力。王も気になるが先ずしっかりと騎士を倒さねばならない。チリチリと肌を焼く圧倒的な力の気配。癒し手としては大忙しになりそうだが、こっちにも頼りになる騎士がいる。しっかりと支えないとね。
「ほんと頼りにしてるわ」
 そう笑んだ小夜香に続きキリリと胸を張ったのは『すーぱーわんだふるさぽーたー』テテロ ミ-ノ(BNE000011)。

「すーぱーわんだふるすーぱーでりしゃすせくしーさぽーとけいはかいとしじょし! ミーノさんじょうっ」

 あどけない言葉と雰囲気だが彼女の役割は小夜香と共に重要だ。がんばるっと翳す掌と共に皆へ与える加護は翼、これで仲間は荊の棘に苛まれない。しかし危なっかしいと『赤光の暴風』楠神 風斗(BNE001434)はミーノの頭にポンと手を置いた。
「ミーノ、作戦は覚えられたか? ほら、カンペ用意したから!」
 風斗が持つのはカンペ、だがミーノは得意気にフフンと鼻を鳴らした。
「ちゃんとじぶんでよーいしてきたのっ」
 ミーノてんさいなの。言いながら正道に駆け寄り、しゃがんで貰い、広い背中にピターンと貼り貼り。

『せんとうまえによーいができるならじぜんに翼のかごと守護けっかいをみんなにかけておくの~
 無理だったらまずはさいしょに翼のかごをつかってとげとげイタイイタイからみんなを守るのっ』

 おぉ、ちゃんと書いてある。これでカンペキ!さむずあっぷ。

『あとおやつは300えんまで。あとカズトちゃんきょせい……きょせいってなに?』

「塔を登って攻略とかどこかのゲームみたいだな。とはいっても甘くない相手……前哨戦は勝利で飾ろうね!」
 笑顔で振り返った『高校生イケメン覇界闘士』御厨・夏栖斗(BNE000004)へ仲間達はソウダネと温かい眼差し。嗚呼、帰りの船で夏栖斗は夏栖子になってしまうのだろうか。
 相変わらずの様子に零二はフッと笑い、徐にミーノのカンペへ追記の一文を。

『みんなをしんじて、さいごまであきらめない!』

「さて――作戦開始だ」
 そう言って、ペンの蓋を閉めた。

●茨の戦場、吶喊
 ミーノが与えた翼と結界、万全の態勢で一直線。足元には輝く黒金荊。深呼吸。早まって行く自分の心音。『禍を斬る剣の道』絢堂・霧香(BNE000618)は愛剣:斬禍之剣の柄にそっと手を掛けた。集中。集中。鋭く向ける視線の先には――巨大な塔と、茨の騎士。その距離は更に加速して狭まり続ける。

 殺気。

 見ただけで唯者ではないと分かる。危険。塔も、近衛騎士も。
 しかし退く訳にはいかない。
「剣の道の下、禍を斬る」
 煌夜に映える白無垢の羽織。己が家名を冠した此の戦羽織を身に纏う時、其即ち己の剣の道を示す時也。

「この羽織と、あたしの名に恥じない戦いを――先手、必勝ッ!」

 武器を身構える黒金荊の近衛騎士達へ、斬禍の剣士は一気に加速し猛然と突撃する!
 刹那に詰まる間合い。居合の体勢。狙うは歪みの騎士。構えられる巨大な楯。構うものか、明鏡止水の意志を瞳に斬禍之剣を抜き放った。一閃の居合い切り――否、一閃の中に無数にして音速の斬撃。騎士の姿勢を強く崩す。
 夜に躍るは戦の火花。

「戦場ヶ原舞姫、推して参る!」

 名乗りの声が凛と響く。
 重厚にして質実剛健、武骨な戦太刀を隻腕に。決して臆さぬ強き戦意を隻眼に。『秘されし大罪・情熱の』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)の研ぎ澄まされた音速剣もまた痛みの騎士を圧倒していた。
「んじゃま、騎士と手合わせ行こうか」
 手筈通り、舞姫と共に夏栖斗は痛みの騎士へと炎顎を構えた。自分達二人の役目はこれを抑える事――そんな彼等へ『守護者の剣』イーシェ・ルー(BNE002142)は意匠が凝らされた片手半剣Knight's of honorを抜き放ちつつ二人の無事を祈って声を張る。
「御武運をッ!」
「おう!」
「そちらも御武運を!」
 夜に咲くは戦の赫華。少女騎士の身に満ちるは迸る戦気。

 異界の王に異界の塔。

 元の世界に何が起きたか知らねぇッスがはた迷惑なヤツッスねぇ、と思う。
 何はともあれこの世界を護る攻城戦の第一弾。境界を護る為に、楔を穿つ為に。
「いざ――」
 己が正義を示す白銀の刃に蒼白い雷を乗せて。那雪の気糸を斧槍で振り払った歪みの騎士へ。

「尋常に勝負ッ!」

 轟然、十字に開いた兜の奥から真っ直ぐに見澄まして振るう一撃。交差する誉の刃と茨の刃。交差する視線。
「負けないッスよ!」
 激しく打ち合う。搗ち合う刃。黒金騎士の重い一撃。ならば倍の重い一撃をくれてやろう。裂帛の気合と雷と共に剣を振るった。確かな衝撃と共に歪みの騎士が圧し遣られる――しかしただでは済まない、強引に踏み込んだ騎士が斧槍を轟と振るう。軌跡がぐにゃりと歪んだ刃が少女騎士を襲った!
「ッ!」
 斬り裂く、というより意識が歪む衝撃を送り込む一撃。しかし追撃せんと振り上げられた斧槍がイーシェに届く事は無かった。
「貴様の『敵』は目の前のオレ達だ」
「お手合わせ願おうか!」
 交差する剣が斧槍を受け止めている。激しい戦気を漲らせた零二と風斗である。
「死闘といこうか!」
 風斗と息を合わせて茨の兇器を圧し返し、零二がその懐に潜り込む。高速で振るう剣の連続攻撃――反撃の刃にも臆す事無く、輝くオーラが煌々と斬撃の軌跡を残して光った。舞う血潮を赤く光らせる。
「楠神!」
「任せろ!」
 飛び退く零二の同時、大きく跳躍して真っ正面――白銀の剣デュランダルに走る赤いラインが風斗のオーラに激しく輝いた。心臓から送り出される真っ赤な血潮の如く、戦場の黒を赤く赤く照らし渡す。歪みの騎士が放った荊に切り裂かれて、更に赤を晒しながらも。傷を増やしながらも。
 歪みの王……どう考えても友好的とは言い難い。早急にご退去願おうか。

「いくぞ、異界の騎士!」

 有象無象を粉砕する一閃。赤い軌跡。重い手応えと共に歪みの騎士を吹き飛ばす!
「!」
 吹き飛ばされた事で夏栖斗・舞姫が傷だらけになりながらも抑える痛みの騎士から更に離れる。これで騎士達が連携する事は更に難しくなっただろう。

「れっつごーれっつごーがんばれみんなっふぁいとっ!」

 本人曰く『かんぺきなさくりゃくでくればーなしき』。実際は応援っぽい。そんなミーノの放つぶれいくひゃーは仲間を苛む危険を柔らかく払拭した。直後に小夜香が奏でる福音が戦場に満ちる。仲間達を包み込む。

「存分に戦って……私が支えてみせるから」

 視線の先では激戦を繰り広げる仲間達。さぁ、休んでいる暇は無い。小夜香は十字架を握り締め再び詠唱を開始した。一瞬たりとも気が抜けない。
「それにしても……奥に眠るのは、類稀な美姫……眠り姫、かしら……ね?」
 美醜に興味はないけれど、眠り姫なら親近感かも。そんな事を思いながら微睡みの眠り姫は全身から薄氷の様な気糸を放った。

「私の糸と力比べといこうか」

 それは鋭く、正確に、精密に、執拗に、前衛陣を圧倒する恐るべき斧槍を攻撃する。破壊こそ出来ないが刃の軌道が逸れた――
その隙に、と閃くのは歪みの騎士に挑むリベリスタの4つの刃。

 と、盾で猛攻を凌ぐ騎士が鋭くミーノと小夜香を睨み据えた。刹那に斧槍を振るえば鋭く大きな真空刃が襲い掛かる。が、
「残念ですが、そうはさせませんな」
 超直観。予測した行動。立ちはだかった静かなる鉄腕がそれを握り潰した。霧散した刃に正道の全身から血潮が舞うも、その脚は揺らがない。
「せやァッ!」

 霧香の音速剣が歪みの騎士を切り裂いた。フ、と息を吐き飛び退きながら那雪へ振り返る――精神力の供給を――斯くして霧香の目に映ったのは、驚愕の表情を浮かべた微睡み姫だった。

 危ない、と言ったんだと思う。

 霧香に突き刺さる痛楚の声――痛みの騎士が刃を構えて。

●夜を切り裂く
 運命を燃やすも、夏栖斗に続いて遂に舞姫も頽れた。
 流石にたった二人で食い止めるのは厳しかったか――それでもここまで耐え切ったのは、二人が見事に息を合わせ尽力したからであろう。

「――~ッ!」
 痛い。痛い。痛い!凄まじい激痛、苦痛、全身を蝕む死の毒。悲鳴は吐血に溺れて消えた。女剣士の白い戦羽織に赤い花が咲き乱れる。
「く……させるか!」
 咄嗟に風斗が前に出た。デュランダルで苦痛の刃を受け止めるも、ザクリと脳に伝わる信号――斬られた。歯噛み。

 破魔の光と癒しの音が黒を照らす。それでも、ジリ貧か。痛みの騎士の参戦。徐々に圧されて往く。
「……っ大丈夫か?」
 大きく吹き飛ばされたイーシェを受け止めた那雪が仲間の精神力供給を行いながら問うた。
 ごほ、ごほ。少女騎士が咳き込めば兜の隙間から血潮が漏れる。それでも凛然と彼女がKnight's of honorを構えて立ち上がったのは折れざる意志――燃やした運命。大丈夫。真っ直ぐに答えた。真っ直ぐに吶喊した。自分達の猛攻で傷付いた歪みの騎士へ。仲間達を苛む敵へ。
「アンタの相手はこっちッスよ! さあ、全力で行かせて貰うッス!」
 騎士の誉れは蒼き迅雷に輝いた。

「この程度の歪みや痛みでは、アタシは屈しないッ――さあ、門を明け渡して貰うッス!!」

 凄まじい閃光。迸る雷光。
 歪みの騎士が片膝を着いた――それでも、兜の奥の目には戦意。
 上等だ。
 未だ残滓の雷華が迸る中、燃やす運命の歯車と共に霧香は歪みの騎士へ、斬禍之剣を構えて。
 研ぎ澄ませた集中。高速、音速、刹那。
「どんなに痛くても、幾ら歪められても」
 唐突に女剣士の姿が歪みの騎士の目の前で消えた。
 否。
 既に歪みの騎士の背後。

「……あたしは、あたし達は折れないよ」

 ヒュンと横に振るった破魔の刃の同時――幾重にも鋭く正確に切り裂かれた歪みの騎士が遂に倒れ伏した。
「みんな~ふぁいとふぁいとなの~!」
「後少しです……!」
 ブレイクフィアー。天使の歌。小夜香とミーノを護る正道を始め、仲間の傷を癒していく。

「まだ、ここで倒れる運命じゃないようだし……戦いの要、落とされるわけにはいかないのでな」
「いやはや、全くその通りでございまして」

 那雪と正道が同時に掌を向けて気糸を放つ。正確無比、死角を許さぬ攻撃。防ぐ痛みの騎士の楯を打ち砕いた!
「……!」
 いや、まだ剣がある。痛みの騎士が苦痛の刃で飛び掛かる霧香とイーシェを牽制し、絡みつく荊に血を流す風斗を見据えた。舌打ち。運命は既に消費した。二回目は無いと言うのに――迫る刃、防御、間に合うか。

 迸る鮮血。

「……絶好の機には、罠も仕掛けられているものだ」
 苦痛の刃を受けたのは割って入った零二だった。凄まじい激痛に脳味噌がクラクラする……いや、血を失い過ぎた所為なのか。身体に剣がめり込んでいるのを感じる。血反吐。背後から風斗の声。それでも零二は倒れない――背負った運命がそれを許さない。筋肉を全力で締めて動きを阻害し、思い切り剣を振り上げる。

「仲間は、やらせん!!」

 全ての力を注ぎ込んで。吹っ飛ぶ騎士と同時にズルリと刃が外れた。しかし血も傷も立ち所に小さくなったのはミーノと小夜香のお陰だ――風斗と目配せをする。頷く。膂力の限り吶喊、振り上げた二人分の刃に宿る激しいオーラ。

 最後まで勝利を求める。
 絶対に退くものか。
 最後まで、最後まで。
 決して。
 負けるものか!

「痛みも歪みも、オレ達の運命を砕くことなどできはしない」
「この世界に、歪みも痛みも必要ない!」

 怒涛のラッシュから痛みの騎士が逃れる術は――無い。

●一回戦目・終了
「ありがとう、お疲れ様……」
「いえ……食い止め切れなくって、ごめんなさい」
「そんな事ない、――ゆっくり休んで、ありがとう」
 那雪はミーノと協力して先に重傷を負った舞姫と夏栖斗の退避を。
 離れながら振り返る。闇夜に聳え立つ痛みの塔。
「茨……意思はあるんだろうが、高度な思考はあるんだろうか」
 超直感、様子は注意深く様子を窺う。

「む……」
 騎士の回収を行うつもりだった正道は眉根を寄せた。騎士達は一帯を負い尽す荊に飲み込まれ、分解されつつあり残念ながら丸ごとは回収できそうにない。
「あちゃー」
 イーシェも肩を竦めた。この騎士達も歪みの王が創り出した物なのだろうか。せめてと傍に落ちていた痛みの騎士の盾の欠片を手に取った。
 そのまま振り返った先では仲間達が銘々に黒金の茨を採取出来た様だ。
「良し、では撤退を――」
 正道がそう言いかけた瞬間。

 ――噎び泣く荊壁が蠢き始めた!

「!! 急げッ」
 荊壁に向かって物理攻撃して反応確認を行いたかった零二も流石に諦め、仲間と共に一目散に走り出した。
「逃げるッスよーーー!」
 不穏な音。軋む音。噎び泣く様に。
 心臓がキンと冷える様な、重々しい威圧感。
 刹那、凄まじい絶叫がリベリスタの鼓膜を殴り付けた。
 いや、正しくは絶叫ではない。その様な音。轟音。衝撃を感じつつ振り返った背後では、激しい稲妻を纏った魔弾を雨霰の如く次々に打ち出す茨の壁が見えた――
「うわっ……!」
 風斗は息を飲む。あとちょっとでも退避が遅れていたら、自分達はあの雷魔弾の餌食になっていたに違いない。正道はその様を可能な限り、視界にある限り、じっと観察していた。

●船の中
「し、しんじゃうかとおもったの」
 ぜぇはぁ。蒼い顔でミーノが呟いた。全員無事に退避出来て良かった、と息を吐く那雪の傍らでは窓際の霧香が遥かに遠ざかって行く異形の砦を静かに見つめている。
「噎び泣く荊壁……か」
 独り言。一方で風斗は真剣な顔。

「――さて、御厨去勢会議を始めたく思うんだが」

 キリリ。そうだねと物凄い真面目に乗り気な仲間達。エッと表情が硬くなる夏栖斗。
「えっ ちょっ 僕、重傷なのに――」
「……あ、御厨君の去勢投票には反対に入れておくわね」
「小夜香が天使にみえる! ちょうすき!」
「もげろ」(笑顔の舞姫さん)
「ケースバイケースで行う必要があると考えているよオレは」(喫煙タイムの零二さん)
「かずとちゃんきょせい?」(良く分かっていないミーノさん)
「色々元気なんでしょうな。きっと」(深く頷く正道さん)
「カズトさんは去勢されてもがんばれっ」(眩しい笑顔のイーシェさん)
「……強く、生きてね」(静かな笑顔の霧香さん)
「えーと、性格が、穏やかな子になるかも、しれないわ……よ?」(精一杯利点を考えてみた那雪さん)

「っていうか去勢でなんでこんなに一致団結なんだよ!!」

 さよなら夏栖斗、こんにちは夏栖子。やったねさおりん女の子がふえるよ!
 さて、会議が終われば機械フォーチュナに戦勝報告するとしよう。

 無論、全員で。



『了――城壁戦へ続く』

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
メルクリィ:
「お疲れ様です皆々様、ご無事で何よりですぞ。次は城壁戦、ですな!
 ゆっくり休んで体の疲れを取って下さいね。」

 だそうです。お疲れ様でした。
 如何だったでしょうか。
 これからの依頼も頑張って下さいね。
 お疲れ様でした、ご参加ありがとうございました!