●うわさ 大学の食堂で、Mは、携帯を弄っていた。 昨日の飲み会で会話の弾んだ女性に対し、メールを打っている。 今度は二人きりで会ってみる、であるとか、そういう何らかの次の段階に進みたいな、という下心があってのメールをわりと熱心に作成していたのだけれど、すると背後から突然、「ふうん」とか何か、どちらかといえば覇気のない男の声が聞こえ、ぎょ、とした。 驚いて振り返ると、びっくりするくらい近くに、端整な男の顔があり、またぎょ、として、それが見知ったSの顔だったりしたので、うわーって何か凄い残念な気分になった。 「ここ、座っていい?」 とか何か言ったSは、まだ何も答えていないにも関わらず、さっさとMの隣に腰掛けた。 手元にあったカレーから、ぷうん、と、香辛料の匂いが漂ってくる。 こんな朝っぱらから、変人教授のSと遭遇するなんて、今日はついてないな、とMは思った。 だいたい、変人なだけならまだしも、Sは、事務として勤務するMにもその評判が聞こえてくるくらい優秀な人材だったりもして、ここで無視して相手にしない、とか、そういう強行手段に打って出る事も出来ないしな、とか、そういう性格的な気弱さに付け込むのが、わりと上手いので、Mはもーさっさと流されてしまう。 仕方がないので、メール画面を保存にし、閉じた。 「あれ、やめちゃうんだ」 とか何か別に興味ないですけどいちおー言いますね、くらいの感じで、Sが言う。 「いやあのー、Sさん」 「うん何だろう、M君」 「とりあえず、人のメールガン見とかは、やめて貰っていいですか」 「だって、好きな人の事とかは、どんな事でも知っておきたいじゃない」 って、そんなマイルドに薄気味悪い事を言われても、どうすれば、とMは途方に暮れる。わりと言われるその「好き」が、どういう「好き」かも、確認するのは、怖い。 「はいあのーまーとりあえず何でもいいんですけど、メールガン見だけは、やめてほしいです」 「ふうん、何で」 「んーそんな普通の顔で、何で、って聞き返されると思ってなかったんで、ちょっとどう答えていいか分からないんですけど」 とか何か言った顔を、Sがじーとか、まるで新種の昆虫を観察する研究者、みたいな目で見つめてきた。 「ごめんなさい。こっちあんまり見ないで貰えますか」 「そういう嫌がった表情、いいよね」 って、全然いいよね感のない覇気のなさで、Sが言う。 そんな顔してそんな事言われてもどうすれば、とMは益々途方に暮れ、言葉の分からない外国人から熱烈なアピールを受けたかのような恐怖を、感じた。 なのでとりあえず、「はー」とか何か、引き攣った笑みでそこは受け流し、「じゃあ、僕そろそろ仕事があるんで」とか何か、さりげなく、むしろ、若干強引に立ちあがろうとした所で、Sが、「ねえねえ、これだけは、聞いて」と、もー言った。 絶対有意義な話ではない予感がむんむんしたけれど、そこは無理です、とか言えないので、「はい」と素直に、座った。 それに、もしかしたらあるいは、凄い情報が聞けるかもしれない、と2パーセントくらいは、実は、思った。 「これ、生徒達が噂してたんだけどさ」 カレーを口に運び、咀嚼して、飲み込んで、続ける。「ここの近くにさ、二階建の古い洋館があるのね」 でも、この時点で、何か、既に「ん?」ってなって、2パーセントは1パーセントに、下がって、それでも一応、Mは「……はい」と、頷いた。 「今そこ、空き家になっててね。それなのに、夜中になると、物音とかがたまにしたりして。そういうのって好きな子とか、居るじゃない。で、そういう子が、肝試しだ、って言ってそこへ行くんだけど、生徒が言うには、もう二人くらい、それっきり行方不明とかになってて。神隠しの家、とか言われてるって話なんだよね」 「はー」 「ねえどう。凄くない」 ってその顔が、何で若干ドヤ顔なのか、もー全然分からなかった。 「終わりですか」 「うん、終わり。それとも、あれ? なに、まだ喋りたい?」 「いえ、すいませんもういいです」 ●その実態 「と、そんな感じで」 ブリーフィングルームのモニターに映し出されていた映像を停止させ、『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)が、一同を振り返った。 「一般人の間ではこんな噂になっているこの、神隠しの家、に、アーティファクト「人喰いダンス」があるわけでね」 それから、手元にある資料をびらびら、と振った。 「詳しくはこの資料を見てくれたらいいけど、どうやらこのタンスは、人とかが近づくと、戸が開いて、内部に幻想とか映し出すらしいんだよね。そうして誘いこんでおいて」 と、そこで言葉を切った伸暁は、両手に広げていた資料を、バタン、と閉じた。 「とね。戸が閉まっちゃうわけでさ。しかも入ったら最後。生命活動を終えるまで、出して貰えない。でもそんな事とは知らない一般人は、神隠しなんて噂に喜んで、また、肝試しだ何だと、この屋敷にやってくるし、こんな有害なタンスは、是非破壊しておいて欲しいんだよね。ただ、屋敷内には、恐らくはフィクサードが見張りに付けたのだと思しき、E・フォースとノーフェイスがうろうろしているから気をつけた方がいいかな。あと、タンスは、自ら移動する」 こめかみを指先で押さえ、回転椅子をゆらゆらさせながら、伸暁は、小さく、唇をつりあげた。 「そんなわけで多少面倒臭い問題もあるけど、まあ、要するにタンスを壊せばいい。と、目標はシンプルだからね」 そして、居住まいを正すと、資料をテーブルの上に滑らせた。 「今回はそんな感じで。それじゃあ皆、宜しく頼むよ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:しもだ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年01月15日(日)21:28 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 内部に入ると、廃墟特有の、埃っぽい匂いがした。 一番最後に屋敷へと足を踏み入れた高木・京一(BNE003179) は、すぐさまそこで、念のためにと、結界を展開し、一般人の侵入を警戒した。拘束力はかなり弱いので、まあ気休めにしかならないのだけれど、ないよりはまし、くらいの気分で、「これで、よし、と」 とか、呟いてたら、突然、「ヒァッ」とか何か、悲鳴臭い声が聞こえて、ガシッと腕を掴まれ、むしろ「ヒアッ」ってなって、驚いて見た。 そしたら何か、五十嵐 真独楽(BNE000967) が、わりと情けない顔でしがみついていて、目が合った途端に何か、「い、今、何か、いきなり、音がしたからぁ」とか、いやビビってないですよ、みたいにもー言った。 更に、まだこちらが何も言っていないにも関わらず、掴んでいた手をおずおず離しながら、「まこ、だって、全然こわくなんかないよ。人食いタンスとか、笑えるぅ」って、全然笑ってないどころか、顔引き攣っちゃってますけど大丈夫ですか、と、思った。 思ったけど、そこは言ってあげないのが優しさのような気もした。 そしたら丁度そこで、 「音? 何か聞こえたか?」 と、超直観状態の祭 義弘(BNE000763) が、その言葉に、辺りをきょろきょろと見回す。「エリューションが出たのか。それとも、タンスか?」 鋭い眼孔を走らせている、その精悍な肉体に、「あわわわ」と、今度は、花屋敷 留吉(BNE001325) が、しがみついた。 「僕も何か、聞こえた……」 ふわふわとしたキジ三毛猫模様の耳をピク、とさせ、呟く。 「やっぱり、そうだよね。まこ、集音装置で、何か、音したの分かったもん」 「人喰いタンスか」 前方を歩いていたハイディ・アレンス(BNE000603)が、警戒するように、切れ長の瞳を細める。 一階のエントランスから続く応接室のドアを開き、素早く、目を走らせた。 「製作者の意図はわからないが害があるのは明白。おまけに敵は、いつ遭遇するか分からない、フォースとノーフェイス」 彼女はそこで仲間を振り返ると、空に防御結界の印を描き、守護結界のスキルを展開した。「一応、警戒しておくにこしたことはない」 「えー、やっぱり近くに居るのかな。あやしい炎に髪の毛おばけ……動いて人をぱっくんしちゃうタンス……」 「まあ、おばけではなくて、エリューションだけどな」 どうどう、と留吉の爪をはがしながら、義弘が、指摘した。「幽霊の、正体見たり、エリューションとはどこかの誰かの弁だがよく言ったものだ」 とか何か言ってたら、突然、ぼそっと、「年始に書いてあった文言よの」とか何か声が聞こえて、え、とか思って振り返ったら、龍泉寺 式鬼(BNE001364) が、いえ初めから隣に居ましたよ、みたいな顔で、立っていた。 何時の間に、と義弘は、驚く。 「式鬼は神出鬼没なのじゃ」 良くそういう顔されます、みたいな感じで、さっさと説明をした式鬼は、「幽霊の、正体見たり、エリューション、とな。なかなか上手い事を書きおる」と、納得したようにこくり、と頷いた。 「まー古来より神隠しの正体は、解明出来ぬ怪異の類と相場が決まっておる。此度もそのようじゃな」 「そっか、そうだよね。これは、おばけじゃないから、大丈夫だよね」 留吉が、勇気づけられました! みたいに、拳を握る。ついでに、その拳で鼻とか口とか、撫でた。「よし。おばけじゃなくて、えりゅーしょん、おばけじゃなくて、えりゅーしょん……うん!」 「そうそう、敵さえ倒せば、きっとダイジョブ! コワくない!」 と、それに続いて真独楽が、明るい声を出し、そのくせ、「……よね?」と、心配そうに、ふと呟いた。 すぐ傍に立っていた羽柴・美鳥(BNE003191)と目が、合う。「ええ、大丈夫ですよ、きっと」 凛として、美鳥は頷き、「まあ、廃墟に人喰いタンス、というのも、確かにすっごくホラーチックな話では、ありますけど」と、怖がらせようとしているのか、ただ思った事を口に出しただけなのか、微妙に判断の付かない感じで、付け加えた。 「でもまあ、とりあえず今日もやることをやるってそれだけですよね。頑張っていきましょう」 「ええ、頑張りましょう」 エントランスから続く、厨房や食堂のある方への廊下に、移動するアーティファクトの手掛かりを得るため、糸を張っていた氷河・凛子(BNE003330)が、美鳥の言葉に、頷く。「さて、ここはこれでよし、と」 顔を上げ、向こう側を振り返り、次の瞬間、ハッとしたように、表情を険しくした。 「と、言ってる間に、早速、お仕事のようですよ」 と言った彼女の隣を、ヒュッ、と飛行能力のあるアレンスが、通り過ぎて行く。 「前方に、E・フォースです!」 と、凛子は、残りの仲間にも知らせるために、声を張り上げた。それから、翼の加護を発動する。 瞬間、その場に居た八人の背中に小さな羽が出現した。 その間にも、先に飛び出したアレンスが、蛇腹剣を鞭のように変化させ、刃を振り回す。ふわふわと空に浮かぶ緑色の物体を、バチッ、と横一文字に切り裂いた。敵は高度を落としたものの、今度は反撃、とばかりに、フォースが体と同じ色のビームのような物を放ってくる。 「チッ」と、それを避け。 今度は背後から、メイスを握った義弘が飛び出してくる。 その精悍な体に、ハイディフェンサーの、眩い防御のオーラを纏い前進してくると、緑のフォースに向け、魔落の鉄槌を繰りだした。 振り上げたメイスから、神聖な力を秘めた渾身の一撃が飛び出る。叩きのめされたフォースは、跡形もなく消え去り。 「よし!」 と。そこに。 「わーこっちにも、出た~! 赤いのー!」 留吉の素っ頓狂な声が響き。 「こ、コワくないもんっ! コワくないもん!」 って、若干テンパった顔つきで叫んだ真独楽は、金属製の爪「クロー」を構えると、ソニックエッジを発動し、突進して行く。 「こうしてやる、こうしてやる、こうしてやるー!」 とか言ってやっているそれは、とりあえず両手を滅茶苦茶に振り回しているだけ、のようにも見えたけれど、一応間違いなくちゃんとした連続攻撃だったらしく、どんどんと赤のフォースを部屋の奥へと追いつめて行く。 「その息ですよ。援護します」 一人で応接間の中に入って行ってしまった真独楽を気にして、後衛を守っていた京一は、そこで、呪印封縛を発動する。 フォースの周囲に展開した呪印が、身動きを厳しく束縛した。 「身動きは封じますから、後は、お気に召すまま」 「ありがとな!」 一旦下がった真独楽は、うん、と頷くと、「よーし、動かないなら怖くないぞー!」とか何か、あんまり良く分からない自分法則を叫びながら、またクローの攻撃を。 その頃、エントランスに残り、追加の敵の動向を見守っていた留吉は、また新たに駆けつけてきたらしい青フォースを発見し、 「わー、どんどん集まってくるよー」 とか、もー若干、怖がってるのか面白がっているのか、分からない口調で、言った。 「黄色もきよったわ」 またいつの間にか、というか、最初から居たのかもしれないけれど、気付けばそこに居た感満載の式鬼が、さりげない指摘をする。そのまま、黄色フォースを見定めると、祈るように、合口拵「玄武紋」を握りしめ、呪印封縛を展開した。 封縛に引っ掛かった黄色は、そこでもがくように動きを止めたけれど。 「こっちからも、来ます」 凛子の声が、飛ぶ。 「じゃあここは、まとめていきましょう!」 ウィザーズロッドを掲げた美鳥が、チェインライトニングを発動する。空に放たれた雷が、激しく荒れ狂いながら拡散し、追加でやって来ていた紫と橙色のフォースを打ち貫いた。 位置的にか、思いっきりダメージを受けたらしい紫は、感電状態になり、びりびり、とその場で小刻みに震えている。 そこへ、トドメ、戸ばかりに、凛子の放った、マジックアローの矢が、命中! けれど、攻撃を受けつつも、尚も突進してくる橙色のフォースが、美鳥目掛けて飛びかかって来て。 「そっちは、めっ!」 しゅっと、その前に飛び出たのは、斬風脚を展開した留吉だった。 凄まじい速度を持った鋭い蹴撃が、かまいたちを発生させる。それが、橙フォースへと目掛け飛んで行き、みるみる内に、その物体を切り裂いた。 「黄色は俺に任せろ!」 その間にも、飛び出た義弘が、身動きの取れない黄色を振りかぶったメイスで、殴りつけている。衝撃を受けつつも、やっぱり動けない黄色は、ぶわわわん、とか何か、その場で、震えた。え、何これ、ちょっとおもろ、とは思ったけれど、遊んでもいられないので、更に魔落の鉄槌を繰り出し、打ちのめすことにする。 とかやってる間にも、やっとこさ異変に気づきました、みたいにやって来たノーフェイスを発見し、 「わー! 出たよ! 髪の毛おばけー!」 って、今度こそもー完全に面白がってるような声で、留吉が、叫ぶ。 とかやってる隣から、さりげなーく式鬼が、また呪印封縛を発動した。敵の周囲に幾重にも呪印が展開する。けれど、それをかいくぐり、ノーフェイスは長い髪の毛をびゅっと! 「させないよ! ばらばらになっちゃえ!」 すかさず留吉が、飛びかかってくる髪の毛目掛け、斬風脚のかまいたちをぶつける。 「よし、ボクも援護する任せろ!」 そこへ飛び出して来たアレンスが、更に呪印封縛の呪印を展開し。 ぐ、と動きを止めた敵に向かい、蛇腹剣の刃を交互にぶつけた。 腹、腕。続けて、更に、首、腕、腹、腕、足、腹。 切り刻まれる度、ノーフェイスの悲鳴が、屋敷に響く。 「さて、とどめだ」 とか、全然気にしてない感じで恬淡と言ったアレンスは、最後に、ずば、と首をはねたのだった。 ● 「そういえばさっきのEふぉーすさー、並べたらきれいそうだったよね」 とか何か、食堂をぐるり、と見回しながら、留吉は、言った。 ひとまず、動くタンスを探すため、あまり埃を被ってないものや、異変があれば積極的に調べるつもりで、今度は端から、丁寧に見て行く。 「えーあんなに怖がってたくせにかー」 同じく、超直観状態で、部屋の端々に鋭い観察眼を向ける義弘が、茶化すように、言った。 「えーそれは言わないでよ」 困ったような表情で返された留吉の返事に「はいはい、悪かった」と笑みを浮かべ、「んー、食堂には、動くタンスの痕跡は、なさそうだなあ」と、首を傾げる。 「じゃあ一応、隣の厨房も見とこーよ」 二人してそのまま隣の厨房に向かう。 けれどそこで、タンスには関係なさそうだけれども、何故か棚の中とかをもぞもぞしていた留吉が、いきなり「わー!」と、声を上げた。 「どうした!」 「う、レモンの匂いだ! すっぱいよー!」 って、「何だよ、レモンかよ」とか、すっかり呆れて見てたら、 「僕は柑橘類の匂いは、苦手なんだよー!」とか何か、凄い慌てたらしい留吉が、そのままわたたた、とか、わりとな勢いで後退り、だん、とシンクにぶつかって、その勢いで跳ね返り、目の前にある床が腐ってるっぽい板を踏みこみそうになって、危ない、と思ったら、咄嗟にハイバランサーを活性化したらしく、尋常ではないバランス感覚で、よっと飛び越え。 「ふう、危なかった」 ってこっちを見たその顔が、何でちょっとドヤ顔なのか、全然分からなかった。 「じゃあ、タンス、探すか」 「うん……」 その頃、二階を探索していた凛子は、ふと、二度目に覗きこんだ物置で違和感を感じ、デジカメに記録した写真を眺めていた。 「ここにあったはずの、タンスが、ない?」 すぐさま携帯電話を使用し、同じ二階を探索している真独楽にかけた。 「タンスが移動したような跡が見つかりました。恐らく、二階に居るはずです。何か、音は聞こえますか」 「ん、ちょっと待ってね」 緊迫したような真独楽の声が答える。暫くの沈黙の後。 「あ! 聞こえた! あっちだ! えーっと、寝室の方!」 「了解!」 携帯を切り、すぐさま凛子は走り出す。 途中で遭遇した式鬼と京一に、「寝室に、アーティファクトが居るかもしれません」と、説明し、共に、駆けつけた。 「しー」 と、チーターの尻尾を、緊張にか、ぴんとさせた真独楽が、壁に張り付き、指を立てた。 「中に、タンスが、ある」 それから反対の手で、開いた寝室の戸の中を、ちょんちょん、と示した。「動いてる所はまだ見てないけど。音がしてたから、多分、アイツじゃないかなあ」 「ではこの式鬼が、ステルスを用いて炙り出してやるわい」 ゆらー、と前へと歩み出た式鬼は、そのまま、さらーっと、寝室の内部に入り込んで行く。 更にその頃。一階の和室を探索中のアレンスは、縁側を見つけ、縁側で緑茶を飲みたい衝動、と戦っていた。 いや、今は、タンスの破壊が第一だ。被害者が生きているなら救出後破壊、よし。 とか何か振り返ったら、何故かそこに、美鳥が。 「や、やあ。こっちにはタンスはないみたいだよ」 って、わりと毅然とした表情の裏で、アレンスは、内心、実はちょっと、慌てていたけれど、誤魔化した。 「そうですかー」 とか気付いてるのか気付いてないのか、良く分からない感じで頷いた美鳥は、「ではあたしは、地下室の方でも見てきますか」と、踵を返そうとした。 そこで。 アレンスのアクセス・ファンタズムが、通信の着信を受信した。 「出ました! アーティファクトです!」 潜めた、凛子の声が、聞こえてくる。 二人は顔を見合わせ、共に、駆け出した。 「緊張しますね」 内部を見守る京一が、独り言のように、呟いた。 「中に囚われた人たちを救出するまでは気を抜けませんしね」 「ああ、助けられる奴は助けたい」 連絡を受け駆けつけた義弘が、力強く同意する。 「生存者さんをおんぶするのは、まかせてね」 留吉が、きっと、一般人さんは生きているはずだよね、とばかりに、明るい声で、言った。 「うん、皆で中に居るかもしれない一般人さんは、必ず救出するぞ」 真独楽が、緊張した面持ちで寝室を振り返る。 内部へと入って行った式鬼は、タンスの前まで歩いて行くと、無防備に背を向け、一般人を装った。 「ふぬ。中々、良い寝室じゃな」と、全然そんな事思ってなさそーな顔で、小さく小芝居。 すると、じり、とタンスが動き――。 来た、と、その場に居た全員は、固唾を飲み込む。 そして、突然、その戸が、ぱか、っと……。 「出た! あいつだ!」 義弘の鋭い声が飛ぶ。 式鬼は、振り向きざま、呪印封縛を展開した。 あが、みたいに、すっかりその体制で、束縛されてしまったタンスに向かい、京一と、義弘、それから、遅れて駆けつけた美鳥が飛び出して行く。 内部にぐったりと座りこんでいる一般人を抱え出した。 「大丈夫だ、まだ、息がある!」 「救急車、呼びます!」 更に、そこへ駆けつけて来たアレンスと合流した凛子が、 「破壊するなら、手伝うぞ」 「ええ、任せて下さい!」 二人で顔を見合わせると、ダーンと、二人でそれを蹴り倒した。 武器を構え、あるいは蹴りつけ。 そこに、真独楽と、留吉も、加わる。 「それにしても見張りをつけたというフィクサードも、気になるところじゃの」 それをぼーっと見ていた式鬼が、不意に、言った。 「もしかすると、これを仕掛けた者が妨害に入って来るやも知れぬぞ」 と、辺りを警戒するように、見回す。 「一応、タンスを探しながらも、タンスを設置したフィクサードの痕跡があるかどうかも調べてはみてたんですが」 京一が言い、小さく首を振る。「見つけられなかったんですよね」 「あ、ねえねえこれ」 そこで、粉々になりつつあるタンス破片に、何らかの文字が彫り込まれているのを見つけた留吉が、攻撃の手を止め、それを拾い上げた。 「これ、何かの名前、っぽくない?」 と、隣に居た真独楽に向け、掲げる。 「んー、でも、掠れてて良く読めないな」 「もしかして……人喰いタンス職人のフィクサードが居たり、して……」 そんな事を言った留吉が、ちら、と真独楽の顔を窺う。 「それは何ていうか……ド変人っぽいよね」 「うん……」 「一応、報告しておこうか。これは持ち帰ってさ」 「うん、そうしよう」 「あ、そういえば。カレイドシステムにメインで出てきた二人。確か、MとSだったか。あいつらの事も、調べて貰ってたんだったよな」 そこで思い出したように義弘が、言う。 「あの、二人をですか。どうして?」 美鳥が、携帯電話を仕舞いながら、言った。「あ、救急車はもう暫くしたら来るみたいですよ」 「んー、Sの雰囲気が、ちょっと怪しかったからさ、な?」 そして、凛子を見やる。 「ええ。将門さんに予知にあったSについて、所在が解るか尋ねてはみたんですが。まずは、あの予知の映像から、大学を特定する所から始めないといけないみたいで。ちょっと、時間がかかるみたいですね」 「そうなのか。やっぱりな」 「本当は、本人にタンスについて、話を聞きに行きたかったんです。アーティファクトに屋敷にいる敵も厄介ではありましたけど、本当に厄介なのは人間、だったりする気もしてたので。でも、まあ」 仕方ないですね、とばかりに、凛子は肩を竦める。 それから、粉々になったタンスと、救出した一般人を見比べ。 「無事、終わったので、よしとしますか」 と、呟いた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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