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神隠しの家




●うわさ
 大学の食堂で、Mは、携帯を弄っていた。
 昨日の飲み会で会話の弾んだ女性に対し、メールを打っている。
 今度は二人きりで会ってみる、であるとか、そういう何らかの次の段階に進みたいな、という下心があってのメールをわりと熱心に作成していたのだけれど、すると背後から突然、「ふうん」とか何か、どちらかといえば覇気のない男の声が聞こえ、ぎょ、とした。
 驚いて振り返ると、びっくりするくらい近くに、端整な男の顔があり、またぎょ、として、それが見知ったSの顔だったりしたので、うわーって何か凄い残念な気分になった。
「ここ、座っていい?」
 とか何か言ったSは、まだ何も答えていないにも関わらず、さっさとMの隣に腰掛けた。
 手元にあったカレーから、ぷうん、と、香辛料の匂いが漂ってくる。
 こんな朝っぱらから、変人教授のSと遭遇するなんて、今日はついてないな、とMは思った。
 だいたい、変人なだけならまだしも、Sは、事務として勤務するMにもその評判が聞こえてくるくらい優秀な人材だったりもして、ここで無視して相手にしない、とか、そういう強行手段に打って出る事も出来ないしな、とか、そういう性格的な気弱さに付け込むのが、わりと上手いので、Mはもーさっさと流されてしまう。
 仕方がないので、メール画面を保存にし、閉じた。
「あれ、やめちゃうんだ」
 とか何か別に興味ないですけどいちおー言いますね、くらいの感じで、Sが言う。
「いやあのー、Sさん」
「うん何だろう、M君」
「とりあえず、人のメールガン見とかは、やめて貰っていいですか」
「だって、好きな人の事とかは、どんな事でも知っておきたいじゃない」
 って、そんなマイルドに薄気味悪い事を言われても、どうすれば、とMは途方に暮れる。わりと言われるその「好き」が、どういう「好き」かも、確認するのは、怖い。
「はいあのーまーとりあえず何でもいいんですけど、メールガン見だけは、やめてほしいです」
「ふうん、何で」
「んーそんな普通の顔で、何で、って聞き返されると思ってなかったんで、ちょっとどう答えていいか分からないんですけど」
 とか何か言った顔を、Sがじーとか、まるで新種の昆虫を観察する研究者、みたいな目で見つめてきた。
「ごめんなさい。こっちあんまり見ないで貰えますか」
「そういう嫌がった表情、いいよね」
 って、全然いいよね感のない覇気のなさで、Sが言う。
 そんな顔してそんな事言われてもどうすれば、とMは益々途方に暮れ、言葉の分からない外国人から熱烈なアピールを受けたかのような恐怖を、感じた。
 なのでとりあえず、「はー」とか何か、引き攣った笑みでそこは受け流し、「じゃあ、僕そろそろ仕事があるんで」とか何か、さりげなく、むしろ、若干強引に立ちあがろうとした所で、Sが、「ねえねえ、これだけは、聞いて」と、もー言った。
 絶対有意義な話ではない予感がむんむんしたけれど、そこは無理です、とか言えないので、「はい」と素直に、座った。
 それに、もしかしたらあるいは、凄い情報が聞けるかもしれない、と2パーセントくらいは、実は、思った。
「これ、生徒達が噂してたんだけどさ」
 カレーを口に運び、咀嚼して、飲み込んで、続ける。「ここの近くにさ、二階建の古い洋館があるのね」
 でも、この時点で、何か、既に「ん?」ってなって、2パーセントは1パーセントに、下がって、それでも一応、Mは「……はい」と、頷いた。
「今そこ、空き家になっててね。それなのに、夜中になると、物音とかがたまにしたりして。そういうのって好きな子とか、居るじゃない。で、そういう子が、肝試しだ、って言ってそこへ行くんだけど、生徒が言うには、もう二人くらい、それっきり行方不明とかになってて。神隠しの家、とか言われてるって話なんだよね」
「はー」
「ねえどう。凄くない」
 ってその顔が、何で若干ドヤ顔なのか、もー全然分からなかった。
「終わりですか」
「うん、終わり。それとも、あれ? なに、まだ喋りたい?」
「いえ、すいませんもういいです」



●その実態
「と、そんな感じで」
 ブリーフィングルームのモニターに映し出されていた映像を停止させ、『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)が、一同を振り返った。
「一般人の間ではこんな噂になっているこの、神隠しの家、に、アーティファクト「人喰いダンス」があるわけでね」
 それから、手元にある資料をびらびら、と振った。
「詳しくはこの資料を見てくれたらいいけど、どうやらこのタンスは、人とかが近づくと、戸が開いて、内部に幻想とか映し出すらしいんだよね。そうして誘いこんでおいて」
 と、そこで言葉を切った伸暁は、両手に広げていた資料を、バタン、と閉じた。
「とね。戸が閉まっちゃうわけでさ。しかも入ったら最後。生命活動を終えるまで、出して貰えない。でもそんな事とは知らない一般人は、神隠しなんて噂に喜んで、また、肝試しだ何だと、この屋敷にやってくるし、こんな有害なタンスは、是非破壊しておいて欲しいんだよね。ただ、屋敷内には、恐らくはフィクサードが見張りに付けたのだと思しき、E・フォースとノーフェイスがうろうろしているから気をつけた方がいいかな。あと、タンスは、自ら移動する」
 こめかみを指先で押さえ、回転椅子をゆらゆらさせながら、伸暁は、小さく、唇をつりあげた。
「そんなわけで多少面倒臭い問題もあるけど、まあ、要するにタンスを壊せばいい。と、目標はシンプルだからね」
 そして、居住まいを正すと、資料をテーブルの上に滑らせた。
「今回はそんな感じで。それじゃあ皆、宜しく頼むよ」






■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:しもだ  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年01月15日(日)21:28


■目標■
アーティファクトを破壊することが出来れば「成功」です。

■アーティファクト情報■補足
通称「人喰いタンス」
細長い形状のタンス。キャスター付き。
キャスター付きなので、わりと好き放題移動中。
また、最近飲み込まれた人が、内部に残っている可能性も無きにしも非ずな感じ、とのこと。
尚、エリューションに対しては、丸飲み能力を発揮できないので、
リベリスタの人達には、ただの細長いタンスにしか見えない、かも知れません。

■敵情報■補足
見張りのように、屋敷内を徘徊中。
●E・フォース×6
赤色とか青色とか黄色とか緑色とか紫色とか橙色のゆらゆらした物体。
全てフェーズ2で、各色1体ずつ出現。
攻撃行動
ぶつかってくる。噛みついてくる。
時々頭のてっぺんから何か、体と同じ色のビーム的な物を出してくる。
当たると火傷したみたいになるので注意。
●ノーフェイス×1
「魔女」とか呼ばれている、フェーズ2の髪の長いノーフェイス。
攻撃行動
鋭い爪でひっかいてくる。
伸縮可能らしい長い髪を自在に操り、手や足を拘束してきたり、そのまま引きずってきたりする。


■探索ポイント■
屋敷内1F
厨房・食堂・応接間(洋室)・和室
屋敷内2F
寝室・客室・図書室・音楽室・予備室(物置)
屋敷内地下室
・ワインセラーだったような場所

わりと廃墟になって間もない感じです。
冷蔵庫の中に腐った何かが入ってるかも知れない気もします。
とにかく廃墟なので、その辺にあるものは、多少壊してしまったりしても大丈夫です。
まあ、いろいろお好きにどーぞ。

尚、今回は現地に、リベリスタの人達以外の人物(一般人等)は、現れません。


■STより
お目に止めて頂き、幸いです。
皆様のご参加を、心よりお待ち申し上げております。



参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
インヤンマスター
ハイディ・アレンス(BNE000603)
クロスイージス
祭 義弘(BNE000763)
ナイトクリーク
五十嵐 真独楽(BNE000967)
覇界闘士
花屋敷 留吉(BNE001325)
インヤンマスター
龍泉寺 式鬼(BNE001364)
インヤンマスター
高木・京一(BNE003179)
マグメイガス
羽柴・美鳥(BNE003191)
ホーリーメイガス
氷河・凛子(BNE003330)




 内部に入ると、廃墟特有の、埃っぽい匂いがした。
 一番最後に屋敷へと足を踏み入れた高木・京一(BNE003179) は、すぐさまそこで、念のためにと、結界を展開し、一般人の侵入を警戒した。拘束力はかなり弱いので、まあ気休めにしかならないのだけれど、ないよりはまし、くらいの気分で、「これで、よし、と」
 とか、呟いてたら、突然、「ヒァッ」とか何か、悲鳴臭い声が聞こえて、ガシッと腕を掴まれ、むしろ「ヒアッ」ってなって、驚いて見た。
 そしたら何か、五十嵐 真独楽(BNE000967) が、わりと情けない顔でしがみついていて、目が合った途端に何か、「い、今、何か、いきなり、音がしたからぁ」とか、いやビビってないですよ、みたいにもー言った。
 更に、まだこちらが何も言っていないにも関わらず、掴んでいた手をおずおず離しながら、「まこ、だって、全然こわくなんかないよ。人食いタンスとか、笑えるぅ」って、全然笑ってないどころか、顔引き攣っちゃってますけど大丈夫ですか、と、思った。
 思ったけど、そこは言ってあげないのが優しさのような気もした。
 そしたら丁度そこで、
「音? 何か聞こえたか?」
 と、超直観状態の祭 義弘(BNE000763) が、その言葉に、辺りをきょろきょろと見回す。「エリューションが出たのか。それとも、タンスか?」
 鋭い眼孔を走らせている、その精悍な肉体に、「あわわわ」と、今度は、花屋敷 留吉(BNE001325) が、しがみついた。
「僕も何か、聞こえた……」
 ふわふわとしたキジ三毛猫模様の耳をピク、とさせ、呟く。
「やっぱり、そうだよね。まこ、集音装置で、何か、音したの分かったもん」
「人喰いタンスか」
 前方を歩いていたハイディ・アレンス(BNE000603)が、警戒するように、切れ長の瞳を細める。
 一階のエントランスから続く応接室のドアを開き、素早く、目を走らせた。
「製作者の意図はわからないが害があるのは明白。おまけに敵は、いつ遭遇するか分からない、フォースとノーフェイス」
 彼女はそこで仲間を振り返ると、空に防御結界の印を描き、守護結界のスキルを展開した。「一応、警戒しておくにこしたことはない」
「えー、やっぱり近くに居るのかな。あやしい炎に髪の毛おばけ……動いて人をぱっくんしちゃうタンス……」
「まあ、おばけではなくて、エリューションだけどな」
 どうどう、と留吉の爪をはがしながら、義弘が、指摘した。「幽霊の、正体見たり、エリューションとはどこかの誰かの弁だがよく言ったものだ」
 とか何か言ってたら、突然、ぼそっと、「年始に書いてあった文言よの」とか何か声が聞こえて、え、とか思って振り返ったら、龍泉寺 式鬼(BNE001364) が、いえ初めから隣に居ましたよ、みたいな顔で、立っていた。
 何時の間に、と義弘は、驚く。
「式鬼は神出鬼没なのじゃ」
 良くそういう顔されます、みたいな感じで、さっさと説明をした式鬼は、「幽霊の、正体見たり、エリューション、とな。なかなか上手い事を書きおる」と、納得したようにこくり、と頷いた。
「まー古来より神隠しの正体は、解明出来ぬ怪異の類と相場が決まっておる。此度もそのようじゃな」
「そっか、そうだよね。これは、おばけじゃないから、大丈夫だよね」
 留吉が、勇気づけられました! みたいに、拳を握る。ついでに、その拳で鼻とか口とか、撫でた。「よし。おばけじゃなくて、えりゅーしょん、おばけじゃなくて、えりゅーしょん……うん!」
「そうそう、敵さえ倒せば、きっとダイジョブ! コワくない!」
 と、それに続いて真独楽が、明るい声を出し、そのくせ、「……よね?」と、心配そうに、ふと呟いた。
 すぐ傍に立っていた羽柴・美鳥(BNE003191)と目が、合う。「ええ、大丈夫ですよ、きっと」
 凛として、美鳥は頷き、「まあ、廃墟に人喰いタンス、というのも、確かにすっごくホラーチックな話では、ありますけど」と、怖がらせようとしているのか、ただ思った事を口に出しただけなのか、微妙に判断の付かない感じで、付け加えた。
「でもまあ、とりあえず今日もやることをやるってそれだけですよね。頑張っていきましょう」
「ええ、頑張りましょう」
 エントランスから続く、厨房や食堂のある方への廊下に、移動するアーティファクトの手掛かりを得るため、糸を張っていた氷河・凛子(BNE003330)が、美鳥の言葉に、頷く。「さて、ここはこれでよし、と」
 顔を上げ、向こう側を振り返り、次の瞬間、ハッとしたように、表情を険しくした。
「と、言ってる間に、早速、お仕事のようですよ」
 と言った彼女の隣を、ヒュッ、と飛行能力のあるアレンスが、通り過ぎて行く。
「前方に、E・フォースです!」
 と、凛子は、残りの仲間にも知らせるために、声を張り上げた。それから、翼の加護を発動する。
 瞬間、その場に居た八人の背中に小さな羽が出現した。
 その間にも、先に飛び出したアレンスが、蛇腹剣を鞭のように変化させ、刃を振り回す。ふわふわと空に浮かぶ緑色の物体を、バチッ、と横一文字に切り裂いた。敵は高度を落としたものの、今度は反撃、とばかりに、フォースが体と同じ色のビームのような物を放ってくる。
「チッ」と、それを避け。
 今度は背後から、メイスを握った義弘が飛び出してくる。
 その精悍な体に、ハイディフェンサーの、眩い防御のオーラを纏い前進してくると、緑のフォースに向け、魔落の鉄槌を繰りだした。
 振り上げたメイスから、神聖な力を秘めた渾身の一撃が飛び出る。叩きのめされたフォースは、跡形もなく消え去り。
「よし!」
 と。そこに。
「わーこっちにも、出た~! 赤いのー!」
 留吉の素っ頓狂な声が響き。
「こ、コワくないもんっ! コワくないもん!」
 って、若干テンパった顔つきで叫んだ真独楽は、金属製の爪「クロー」を構えると、ソニックエッジを発動し、突進して行く。
「こうしてやる、こうしてやる、こうしてやるー!」
 とか言ってやっているそれは、とりあえず両手を滅茶苦茶に振り回しているだけ、のようにも見えたけれど、一応間違いなくちゃんとした連続攻撃だったらしく、どんどんと赤のフォースを部屋の奥へと追いつめて行く。
「その息ですよ。援護します」
 一人で応接間の中に入って行ってしまった真独楽を気にして、後衛を守っていた京一は、そこで、呪印封縛を発動する。
 フォースの周囲に展開した呪印が、身動きを厳しく束縛した。
「身動きは封じますから、後は、お気に召すまま」
「ありがとな!」
 一旦下がった真独楽は、うん、と頷くと、「よーし、動かないなら怖くないぞー!」とか何か、あんまり良く分からない自分法則を叫びながら、またクローの攻撃を。
 その頃、エントランスに残り、追加の敵の動向を見守っていた留吉は、また新たに駆けつけてきたらしい青フォースを発見し、
「わー、どんどん集まってくるよー」
 とか、もー若干、怖がってるのか面白がっているのか、分からない口調で、言った。
「黄色もきよったわ」
 またいつの間にか、というか、最初から居たのかもしれないけれど、気付けばそこに居た感満載の式鬼が、さりげない指摘をする。そのまま、黄色フォースを見定めると、祈るように、合口拵「玄武紋」を握りしめ、呪印封縛を展開した。
 封縛に引っ掛かった黄色は、そこでもがくように動きを止めたけれど。
「こっちからも、来ます」
 凛子の声が、飛ぶ。
「じゃあここは、まとめていきましょう!」
 ウィザーズロッドを掲げた美鳥が、チェインライトニングを発動する。空に放たれた雷が、激しく荒れ狂いながら拡散し、追加でやって来ていた紫と橙色のフォースを打ち貫いた。
 位置的にか、思いっきりダメージを受けたらしい紫は、感電状態になり、びりびり、とその場で小刻みに震えている。
 そこへ、トドメ、戸ばかりに、凛子の放った、マジックアローの矢が、命中!
 けれど、攻撃を受けつつも、尚も突進してくる橙色のフォースが、美鳥目掛けて飛びかかって来て。
「そっちは、めっ!」
 しゅっと、その前に飛び出たのは、斬風脚を展開した留吉だった。
 凄まじい速度を持った鋭い蹴撃が、かまいたちを発生させる。それが、橙フォースへと目掛け飛んで行き、みるみる内に、その物体を切り裂いた。
「黄色は俺に任せろ!」
 その間にも、飛び出た義弘が、身動きの取れない黄色を振りかぶったメイスで、殴りつけている。衝撃を受けつつも、やっぱり動けない黄色は、ぶわわわん、とか何か、その場で、震えた。え、何これ、ちょっとおもろ、とは思ったけれど、遊んでもいられないので、更に魔落の鉄槌を繰り出し、打ちのめすことにする。
 とかやってる間にも、やっとこさ異変に気づきました、みたいにやって来たノーフェイスを発見し、
「わー! 出たよ! 髪の毛おばけー!」
 って、今度こそもー完全に面白がってるような声で、留吉が、叫ぶ。
 とかやってる隣から、さりげなーく式鬼が、また呪印封縛を発動した。敵の周囲に幾重にも呪印が展開する。けれど、それをかいくぐり、ノーフェイスは長い髪の毛をびゅっと!
「させないよ! ばらばらになっちゃえ!」
 すかさず留吉が、飛びかかってくる髪の毛目掛け、斬風脚のかまいたちをぶつける。
「よし、ボクも援護する任せろ!」
 そこへ飛び出して来たアレンスが、更に呪印封縛の呪印を展開し。
 ぐ、と動きを止めた敵に向かい、蛇腹剣の刃を交互にぶつけた。
 腹、腕。続けて、更に、首、腕、腹、腕、足、腹。
 切り刻まれる度、ノーフェイスの悲鳴が、屋敷に響く。
「さて、とどめだ」
 とか、全然気にしてない感じで恬淡と言ったアレンスは、最後に、ずば、と首をはねたのだった。




「そういえばさっきのEふぉーすさー、並べたらきれいそうだったよね」
 とか何か、食堂をぐるり、と見回しながら、留吉は、言った。
 ひとまず、動くタンスを探すため、あまり埃を被ってないものや、異変があれば積極的に調べるつもりで、今度は端から、丁寧に見て行く。
「えーあんなに怖がってたくせにかー」
 同じく、超直観状態で、部屋の端々に鋭い観察眼を向ける義弘が、茶化すように、言った。
「えーそれは言わないでよ」
 困ったような表情で返された留吉の返事に「はいはい、悪かった」と笑みを浮かべ、「んー、食堂には、動くタンスの痕跡は、なさそうだなあ」と、首を傾げる。
「じゃあ一応、隣の厨房も見とこーよ」
 二人してそのまま隣の厨房に向かう。
 けれどそこで、タンスには関係なさそうだけれども、何故か棚の中とかをもぞもぞしていた留吉が、いきなり「わー!」と、声を上げた。
「どうした!」
「う、レモンの匂いだ! すっぱいよー!」
 って、「何だよ、レモンかよ」とか、すっかり呆れて見てたら、
「僕は柑橘類の匂いは、苦手なんだよー!」とか何か、凄い慌てたらしい留吉が、そのままわたたた、とか、わりとな勢いで後退り、だん、とシンクにぶつかって、その勢いで跳ね返り、目の前にある床が腐ってるっぽい板を踏みこみそうになって、危ない、と思ったら、咄嗟にハイバランサーを活性化したらしく、尋常ではないバランス感覚で、よっと飛び越え。
「ふう、危なかった」
 ってこっちを見たその顔が、何でちょっとドヤ顔なのか、全然分からなかった。
「じゃあ、タンス、探すか」
「うん……」


 その頃、二階を探索していた凛子は、ふと、二度目に覗きこんだ物置で違和感を感じ、デジカメに記録した写真を眺めていた。
「ここにあったはずの、タンスが、ない?」
 すぐさま携帯電話を使用し、同じ二階を探索している真独楽にかけた。
「タンスが移動したような跡が見つかりました。恐らく、二階に居るはずです。何か、音は聞こえますか」
「ん、ちょっと待ってね」
 緊迫したような真独楽の声が答える。暫くの沈黙の後。
「あ! 聞こえた! あっちだ! えーっと、寝室の方!」
「了解!」
 携帯を切り、すぐさま凛子は走り出す。
 途中で遭遇した式鬼と京一に、「寝室に、アーティファクトが居るかもしれません」と、説明し、共に、駆けつけた。
「しー」
 と、チーターの尻尾を、緊張にか、ぴんとさせた真独楽が、壁に張り付き、指を立てた。
「中に、タンスが、ある」
 それから反対の手で、開いた寝室の戸の中を、ちょんちょん、と示した。「動いてる所はまだ見てないけど。音がしてたから、多分、アイツじゃないかなあ」
「ではこの式鬼が、ステルスを用いて炙り出してやるわい」
 ゆらー、と前へと歩み出た式鬼は、そのまま、さらーっと、寝室の内部に入り込んで行く。


 更にその頃。一階の和室を探索中のアレンスは、縁側を見つけ、縁側で緑茶を飲みたい衝動、と戦っていた。
 いや、今は、タンスの破壊が第一だ。被害者が生きているなら救出後破壊、よし。
 とか何か振り返ったら、何故かそこに、美鳥が。
「や、やあ。こっちにはタンスはないみたいだよ」
 って、わりと毅然とした表情の裏で、アレンスは、内心、実はちょっと、慌てていたけれど、誤魔化した。
「そうですかー」
 とか気付いてるのか気付いてないのか、良く分からない感じで頷いた美鳥は、「ではあたしは、地下室の方でも見てきますか」と、踵を返そうとした。
 そこで。
 アレンスのアクセス・ファンタズムが、通信の着信を受信した。
「出ました! アーティファクトです!」
 潜めた、凛子の声が、聞こえてくる。
 二人は顔を見合わせ、共に、駆け出した。


「緊張しますね」
 内部を見守る京一が、独り言のように、呟いた。
「中に囚われた人たちを救出するまでは気を抜けませんしね」
「ああ、助けられる奴は助けたい」
 連絡を受け駆けつけた義弘が、力強く同意する。
「生存者さんをおんぶするのは、まかせてね」
 留吉が、きっと、一般人さんは生きているはずだよね、とばかりに、明るい声で、言った。
「うん、皆で中に居るかもしれない一般人さんは、必ず救出するぞ」
 真独楽が、緊張した面持ちで寝室を振り返る。
 内部へと入って行った式鬼は、タンスの前まで歩いて行くと、無防備に背を向け、一般人を装った。
「ふぬ。中々、良い寝室じゃな」と、全然そんな事思ってなさそーな顔で、小さく小芝居。

 すると、じり、とタンスが動き――。

 来た、と、その場に居た全員は、固唾を飲み込む。

 そして、突然、その戸が、ぱか、っと……。

「出た! あいつだ!」
 義弘の鋭い声が飛ぶ。
 式鬼は、振り向きざま、呪印封縛を展開した。
 あが、みたいに、すっかりその体制で、束縛されてしまったタンスに向かい、京一と、義弘、それから、遅れて駆けつけた美鳥が飛び出して行く。
 内部にぐったりと座りこんでいる一般人を抱え出した。
「大丈夫だ、まだ、息がある!」
「救急車、呼びます!」
 更に、そこへ駆けつけて来たアレンスと合流した凛子が、
「破壊するなら、手伝うぞ」
「ええ、任せて下さい!」
 二人で顔を見合わせると、ダーンと、二人でそれを蹴り倒した。
 武器を構え、あるいは蹴りつけ。
 そこに、真独楽と、留吉も、加わる。
「それにしても見張りをつけたというフィクサードも、気になるところじゃの」
 それをぼーっと見ていた式鬼が、不意に、言った。
「もしかすると、これを仕掛けた者が妨害に入って来るやも知れぬぞ」
 と、辺りを警戒するように、見回す。
「一応、タンスを探しながらも、タンスを設置したフィクサードの痕跡があるかどうかも調べてはみてたんですが」
 京一が言い、小さく首を振る。「見つけられなかったんですよね」
「あ、ねえねえこれ」
 そこで、粉々になりつつあるタンス破片に、何らかの文字が彫り込まれているのを見つけた留吉が、攻撃の手を止め、それを拾い上げた。
「これ、何かの名前、っぽくない?」
 と、隣に居た真独楽に向け、掲げる。
「んー、でも、掠れてて良く読めないな」
「もしかして……人喰いタンス職人のフィクサードが居たり、して……」
 そんな事を言った留吉が、ちら、と真独楽の顔を窺う。
「それは何ていうか……ド変人っぽいよね」
「うん……」
「一応、報告しておこうか。これは持ち帰ってさ」
「うん、そうしよう」
「あ、そういえば。カレイドシステムにメインで出てきた二人。確か、MとSだったか。あいつらの事も、調べて貰ってたんだったよな」
 そこで思い出したように義弘が、言う。
「あの、二人をですか。どうして?」
 美鳥が、携帯電話を仕舞いながら、言った。「あ、救急車はもう暫くしたら来るみたいですよ」
「んー、Sの雰囲気が、ちょっと怪しかったからさ、な?」
 そして、凛子を見やる。
「ええ。将門さんに予知にあったSについて、所在が解るか尋ねてはみたんですが。まずは、あの予知の映像から、大学を特定する所から始めないといけないみたいで。ちょっと、時間がかかるみたいですね」
「そうなのか。やっぱりな」
「本当は、本人にタンスについて、話を聞きに行きたかったんです。アーティファクトに屋敷にいる敵も厄介ではありましたけど、本当に厄介なのは人間、だったりする気もしてたので。でも、まあ」
 仕方ないですね、とばかりに、凛子は肩を竦める。
 それから、粉々になったタンスと、救出した一般人を見比べ。
「無事、終わったので、よしとしますか」
 と、呟いた。




■シナリオ結果■
成功
■あとがき■

そんな感じで。
結果は成功ということで、皆様ご苦労様でございました。

当シナリオにご参加頂いた皆様には、誠に感謝です。
また機会がありましたら、ご参加、お待ちしております。