●凍りついた倉庫 食品の倉庫と言う物は多かれ少なかれ昼間は人気があるものだ。 外から物資を運ぶ者、運ばれた物資を仕舞い込む者、働く者の出入りを管理する者。倉庫内部に仕舞い込まれた食品を適切に管理する者。 だがその日、その倉庫内部に人の気配と言うものは無くなった。 確かに、人は居る。 だがその人々は全て凍りついてしまっていた。 そして、入口は分厚い氷の壁に阻まれている。 ただ一つ、壁の向こうから聞こえてくるのは何かを貪り食う音だけ。 動く気配は、たった一つ。 ●ブリーフィング 「お疲れ様です。さっそくですが今回のミッションの説明に入ります」 ブリーフィングルームにリベリスタが集まったのを見て、『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)が口を開く。 モニターに映ったのは氷漬けになった大手食品会社の倉庫。レトルト系の比較的保存の効く物を集積・保存し全国に配送する為の施設だ。 その施設が、美しい氷の壁によって封じ込められている。どことなくシュールだ。 「倉庫内部にノーフェイスが侵入、倉庫周辺を氷漬けにして立てこもっています。作業員が数名取り残されていますが、全員が氷漬けの状態で生存。それ以上の危害は加えていない様ですが放置は危険でしょう」 カタカタと、コンソールを叩く音が響く。 寒い中、益々寒い場所に行く事になったせいか、何処となく嫌な空気が漂っている。 「犯人は強力な凍結能力を持っていると思われます。寒いので防寒対策は確実に。今回の目的はノーフェイスの撃破です」 御武運を。 そう続けた後、引き締まった表情で敬礼を送る。 さぁ、仕事の時間だ。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:久保石心斎 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年01月20日(金)23:36 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●氷の壁を乗り越えて 氷点下10℃と言うのは、実の所然程珍しい物では無い。 海沿いの北風の影響が大きい場所や、標高の高い街では夜間から朝方にかけて冷え込む際にはもっと冷える事もある。 ただ、一つ言えるのはこの気温は慣れていない者にとっては恐ろしく寒いと言う事だ。 吐き出す吐息は白く、煙草の濃い煙を吐き出すかの様に。 息を吸い込めば、冷たい空気が鼻と口内の水分を容赦なく奪い去りカラカラに乾いてゆく。 何もしなくても身体の芯が冷えゆき、自然と身体が震えてくる。 その癖、身体の震え……シバリングと言う生理現象で体内のエネルギーを消費してゆくのだから難儀な物だ。 心なし、身体の動きも鈍い気がする。 『獣の咆哮』ジェラルド G ヴェラルディ(BNE003288) が用意したカイロが全員に配られ、それと各自が防寒対策に厚着してどうにか寒さに耐えられている。 風が吹く度に、皮膚に冷気が当たり物理的に痛いとさえ思えるのは相変わらずだが。 この分ではリベリスタ達の前に鎮座する分厚い氷の壁が自然に無くなる事は無いだろう。 そう、氷の壁だ。 厚さは解らないが、シャッターが開いた倉庫の入口には地面から天井部までを覆い尽くす白い壁が入ろうとする者を阻んでいる。 日に当たって幾分は溶けてはいるが、逆にそれが足場を滑らせ頭上にツララを作り出す原因となっている。 因みに今は晴れてはいるが、風が強い。体感温度は大分低い。 「内部に五人、一人はバンドウとして……作業員が4人と言う所か」 『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)が氷の壁の透視で見る。そのまま倉庫の周囲を一周して戻ってくるとそう呟いた。 間取りは至ってシンプルな作りだ。作業員が使うトイレと休憩室、そして荷物の出入りを管理する小さな事務所が倉庫と同じ建物の中に入っている。 積み上げた荷物に三人、内一人がバンドウであるのは確認出来た。 それ以外の二人は休憩室と事務所で凍っている様だ。 納入時間が終わった頃にバンドウに襲撃されたのだろう、人数は少なかった。 被害が少ない点で運が良いとも言えるし、結局氷漬けになった点で悪いとも言える。 「強結界展開完了。準備はいい?」 『ChaoticDarkness』黒乃・エンルーレ・紗理(BNE003329)の言葉に、ジェラルドと『鉄腕ガキ大将』鯨塚 モヨタ(BNE000872)が頷く。 二人が武器を抜き、壁に近づいてゆく。 吹いた風が一層に冷たく感じ、それを振り払う様に三人が武器を振るう。 堅い物を叩く音がして……それだけだった。 「かってぇ!」 「こりゃ、ちょっと本気でやらねぇと……っ」 予想外に堅かったのか、軽くを手を振りながら剣とランスを握りなおす。 それぞれの渾身の一撃が、氷の壁を打ち砕いた。 ●倉庫の中で 倉庫の中は外よりは幾分か温かく感じた。 風は体感気温を下げる。その風が無くなったおかげで温かく感じるのだろう。 リベリスタが倉庫の奥に目を向ければ、凍りついた作業員が二人と倉庫に積まれたダンボールを開いて、中に入っているレトルト食品……それも明ければすぐに食べられるタイプの物を貪り喰っている一人の男が目に入る。 毛皮を纏い、棍棒を持った大柄な男。 ブリーフィングルームで見た写真の通りならば奴がバンドウだろう。 「よぉ、おっさん。そんな味気ないレトルト食品なんか食べてないでさ、一緒に美味いモノ食おうぜ」 バンドウに一歩近づきながら、『リトルダストエンジェル』織村・絢音(BNE003377)がわざわざ保温容器に入れてきた温かい食事を差し出す。 「んあぁ……?」 差し出されたホカホカの銀シャリ。温かい味噌汁の具は暖かさを保つために粘り気の強いなめこがたっぷりと入っている。 おかずは手作り感の漂う物だが、レトルトの出来あい物に比べて食欲をそそる。 それが絢音のアクセス・ファンタズムの中にたっぷりと眠っているのだ。 「おほぅ、飯、温かい飯だぁ!!」 これにはバンドウも飛びついた。何せ、レトルト食品は冷たいのだから。 奪い取る様に容器を受け取ると、周囲に目もくれずに貪り喰らう。 もっとも、料理が熱すぎるのか食べるのに時間がかかる様だが。 これを見て、絢音を残して他のメンバーが散会した。 モヨタとジェラルドが奥の事務所及び休憩室に、紗理と『大人な子供』リィン・インベルグ(BNE003115)が倉庫内の作業員を救出する。 当然、それを阻むのはバンドウの周囲に浮かぶ青白い球体……アイスエレメントだ。 移動距離の長くなるモヨタとジェラルドを妨害しようと突撃し……横から飛んできた鴉と、魔力の糸、そしてそれに隠れる様に切り込んできた人物によって止められた。 「邪魔は許さないからね!」 「まだ動いちゃだめー!」 『天心爛漫』東雲・紫(BNE003264) と『ゲーマー人生』アーリィ・フラン・ベルジュ(BNE003082) 、ユーヌの三人だ。 事前に打ち合わせていた通り、絢音がバンドウを餌付けして足止めし、ジェラルド、モヨタ、リィン、紗理の四名で救出を行う。その間にアイスエレメントを足止めするが三人の役目だった。 ユーヌが作り出した結界がまだ辛うじて範囲内に居たジェラルドとモヨタを含めて包み込み、その耐久力を上昇させる。 まずは一撃を与えた上で防御力の上昇。 そして敵の注意を向けた上で、全ての能力を防御に回す。 全力での防御ならば身体が完全に凍結したり致命傷を負う確率をグンと引き下げられるのだ。 凍った作業員やそれを救出する仲間に向かった場合は、紫が手にもったバスタードソードで容赦なく張り飛ばす。 こうして、目論見通りにアイスエレメントの足を止める事が出来た。 その間に救助を担当する四人が救助者の元に辿り着く。 二人一組で、凍った足の裏側を地面から引き剥がし戦闘の余波が及ばない外へと運び出す。 事前情報でバンドウが倒されれば元に戻る事は解っているから、戦闘で邪魔になる事さえ無ければ問題は無い。 バンドウは食事に気を取られ、アイスエレメントは足止めされている。 バンドウの食事が終わらない限りは安全だ。 休憩室や事務所にもツララが出来上がっていたから、判断は間違いないと言える。 凍った作業員を運びだす事に成功した。 もっとも、事務所の障害物の多さには辟易してしまったが。 これで戦闘の懸念は無くなった。 最後の一人を運び出した所で、ちょうどバンドウの食事も終わった様だ。 「あぁ……ぐっだぐっだ……ぬぉう!? 人質がいねぇぞぉ!?」 満足げに腹を撫でていたバンドウだが、ここに来てようやく現実を把握したらしい。 アイスエレメントも輝きが薄くなっている。 対するリベリスタは、アイスエレメントの足止めを行っていた3人以外は殆ど消耗しておらず、しかも各自が行える自己強化を済ませている。 「ぬぐぅ、ごらぁ、ちょぉっとばっがし不利だがぁ?」 バンドウが困った様に頭を掻き始めて…… 「全体攻撃、くるぞ!」 棍棒に手が伸びた瞬間、直観で危険を感じ取ったモヨタの鋭い声が飛ぶ。 その声に一拍遅れたタイミングでバンドウガ背負った棍棒を抜き放ち、地面に叩きつけた。 バンドウの一撃の衝撃が天井に伝わり、地面から垂れ下がったツララが根本から折れて無数に降り注ぐ。 だが警告が飛んだ以上、リベリスタ達には奇襲も効果を上げない。 鋭くも硬く脆いツララが掠り傷を負わせる事はあっても串刺しになる事は無い。 「やれやれ、何とも大胆で豪快な犯行だこと」 「今更だけど、腹が減ったか知らねえけど、なんでわざわざこんなくそ寒いところに来るんだか」 半ば呆れた声でリィンと絢音が構えたヘビーボウとライフルを連射する。 弾丸と矢が星屑の様な尾を引いて、バンドウとアイスエレメンタルを纏めて捉えた。 「ふんっぬっぐっ!」 形容しがたい気合いと共に、バンドウは棍棒を振り回す。 むちゃくちゃに見えて、致命的な部分を狙って飛ぶ銃弾と矢を叩き落とす事に成功しているあたり侮れない。 もっとも、アイスエレメンタルには防ぐ方法は無かったのかもろに攻撃を受けてしまう。一匹など、矢が突き刺さって消えてしまった。 「消えて、ください…!」 加速し、残像を従えた紗理のレイピアが4つに増える。加速した剣閃が分裂した様に見えるのだ。 どれも実体。一つ防げば別の一撃が急所を抉る容赦の無い連続攻撃。 だがそれを、バンドウは防いだ。 棍棒を盾にし見た目にそぐわぬ程の素早さで毛皮の分厚い場所に攻撃を誘導し致命傷を避ける。 ダメージは与えているが、一撃で倒せる程では無い。その程度に威力を抑えられた。 「速い!?」 盾にした棍棒が逆袈裟に振るわれて紗理に迫る。 吹き飛ばされる覚悟を決めて、致命傷を避けようと踏み込んだ所で……ランスを構えて突撃してきたジェラルドによって、バンドウが吹き飛んだ。 横合いから全身のエネルギーを込めたランスで貫いたのだ、流石にこれは効いた。 「やらせるかよ!」 挑発する様に一声だけ放ち、ジェラルドは一度後方に下がった。 「ごほっ、アイスエレメント!おでを庇えぇ!!」 腹を貫かれ、盛大に吐血したバンドウが傷口を凍らせて止血する。 その間に、大分輝きが薄れたアイスエレメントが前に出る。まるで忠実な犬の様に。 だが…… 「どぉぉぉぉぉぉぉりゃあ!」 お構いなしに踏み込んだモヨタの機煌剣・プロミネンサーブレードが大上段に振り上げられ、今にも凍りつきそうな空気ごとアイスエレメントが真っ二つにした。 だがそれで十分。 バンドウの周囲の空気が動き、それが轟々と音を立てて閉鎖空間の中を荒れ狂う。 「デカいのが来るぞ!」 慌てて獲物を引き戻しながら再度モヨタが警告する。 その警告とほぼ同時に風がもはや暴力的な威力で吹きすさび、天井から垂れ下がるツララとダンボール達が飛び上がって凶器となり襲い掛かる。 「凍って砕けろォォォ!!」 バンドウの叫びが風に消える。 無数の氷の槍が荒れ狂い、入口を封鎖していた氷の壁に突き刺さる。 ダンボールも氷の壁に開いた穴から幾つか飛び出している。 「はぁ……はぁ……ど、どぉだぁ」 能力の使用に体力を持って行かれたのが、荒い息を吐き出しながらバンドウが勝ち誇る。 だが、リベリスタ達はまだ立っていた。 大ダメージはこそ間違い無いが、ユーヌが事前に張っていた守護結界に助けられた。 むろん、実力差から首の皮一枚だった者も居るが…… 「大丈夫! 直に治します!」 アーリィが紡ぎだした美しい歌声に包まれ、危険な状態から脱する事が出来た。 幸いにして、凍りついた者は居ない。 「……覚悟は決めたんだから!やるよ!」 「ぐぅ、ちくじょう!!」 バスタードソードを両手で構え、紫がバンドウの前に立ちふさがる。 体力的に見てればどちらも一撃を受ければ倒れる。 ……いや、バンドウの方が体力的に勝っているか。 「やぁぁぁぁぁ!!」 全力を剣に込めて、紫が走る。 バンドウは棍棒を構えたまま、避ける事に集中した。 避けて、横合いからその顔をぶち砕く。 せめて一矢報いなければと言う決意を固め、振り下ろされた剣を避けようとして…… 「だが、お前は失敗する」 不吉な声が響いた。 ユーヌがバンドウに指を突き付け宣言する。 まるで作業員にした様にバンドウの身体が凍りつく。 実際に氷に覆われているのでは無い、ピクリとも身体が動かないのだ。 効果は一瞬、それだけで十分だった。 袈裟がけに振る割れた紫の剣が、バンドウを両断した。 ●解凍 両断されたバンドウの身体は、氷の塊となって砕け散った。 今まで感じていた冷気によって身体が凍りついたかのように。 バンドウが死んで、氷に覆われていた倉庫は水の一滴も残さずに元に戻った。 強結界のせいで認識できていないが、作業員たちも元に戻った様だ。 強結界が解除された後、食い荒らされたり吹き飛んだ食品と数時間ほどの空白の時間でちょっとした騒ぎにはなったが、どれも時間が解決するだろう。 リベリスタ達は作業員に簡単な手当を施し、帰路につくのだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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