●理由 心が曇る。そんな時は、遊ぶに限る。嫌な事をすべて忘れて、娯楽に興じるのがいい。そうでもしないと、やってられないことだってある。 俺にとっては、今がそうだ。 いや、最近はずっとそうだといった方がいいかもしれない。憂鬱な日が続いている。現実から逃れたい。虚構に逃げ込みたい。そうやって考える日が多くなった。 辛いから、それを想う日々をできるだけ避けられるように。 だけど、そういった辛さは、スポーツに興じても、映画に心を委ねても、ゲームに心奪われても、なくなることはなかった。むしろ再び想う余裕ができた時、一層強くなる。誰かと一緒にいる時間も多くなった。その誰かと何かを楽しむ機会も増えた。その分だけ、ぶり返すものも、きっと多いだろう。 最近、恋人ができた。それほど好みではない人ではあったけれども、告白を受け、俺は受け入れた。誰かを一緒にいたい、という願いが強かった。そうすれば、その時間だけは辛いことの一切を忘れてしまえると、そう思ったから。 俺の誕生日に合わせて、その恋人とデートすることになった。特別したいこともなかったので、とりあえず映画を見ようと言い、彼女が見たいと言った映画を観ることになった。 赤い帽子をかぶったヒゲおやじがいろんな場所で現れて、主人公の誕生日を祝うという、なんとも不思議な内容の映画だった。彼女は、誕生日だから丁度いいよ、と言って勧めてきたのだが、どうにも面白くなる要素が見当たらない。まぁそれなりに人気はあるそうだから、つまらないということはないのだろう。 開演。映像が流れ始める。主人公は冴えない男の子。友人も少なく、恋人もおらず、勉強とバイトに身を捧げている大学生。もちろん誕生日を祝ってくれるような他人は、家族くらいしかいなかった。彼は何の期待もせず、その記念日を素通りしようとしたのだ。 そこへ、一人のオヤジが現れ、彼に声をかける。 「Happy Birthday!」 何とも奇怪な出来事に、彼は思わず逃げ出したのだが、オヤジは至る所に現れる。教室、食堂、カラオケ、コンビニ。彼の行く先々で。 物語中盤、ついに堪忍袋の緒が切れたのか、彼は問いかける。 「なんで俺についてくるんだ、うっとおしいんだよ!」 オヤジは萎縮しつつ、口を開く。恐らく彼に自分の目的でも話すんだろう、俺はそう思った。 「なぜって?」 オヤジは愉快そうに声を上ずらせると、満面の笑みで答える。 「君と、あいつらのDeath Dayを祝うためさ」 オヤジは高らかに告げると、観客席に視線を向ける。ギョロッとした目がこちらを見たかと思うと、次の瞬間オヤジと青年は明瞭な色を伴って、画面から飛び出した。彼らは確かにそこに存在していた。彼らの声はすでにスピーカーからではなく、彼らの口から漏れていた。 「あぁ、そいつは楽しそうだね」 青年は同調する。二人はニヤッと笑って、こちらを見る。そして合わせたかのように、同時に観客席に飛び込んだ。彼らの通った後には、血飛沫が舞った。 巻き起こる悲鳴。逃げ惑う観客。俺は彼女の腕を掴んで、館内から出ようとする。しかし人混みが邪魔で抜けられない。人を押し、無理やり進もうとしているのに進まない。焦っていた。早く出なければ。死にたくない、死なせたくない。狼狽する。どこか、どこかに逃げ道は。 小さな叫びを上げて、彼女が転ぶ。人波に押され、立つこともままならない。僕は彼女の名前を呼び、振り返る。そして、表情が固まる。 高々と斧を掲げ、こちらに振り下ろさんとするオヤジの姿。それが俺の最後の一瞬。 ●理由など気にするな 「このままだと、二体のエリューションは映画館内の一般人のほとんどを虐殺してしまう。凄惨な事件を起こすわけにはいかない」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)の表情は固い。自然と、集まったリベリスタの気も引き締まる。 「いつの上映時にこれが起こるかは特定済み。ただ、時間的に上映を止めてもらったり、観客に鑑賞を止めてもらう根回しは難しい。よって皆に直接行ってもらうことにした」 イブはモニターにエリューションを映す。どこもかしこも赤く染まっている。 「発生するエリューションは二体。あなたたちには彼らの蛮行を止めてもらう。一般人に一人の怪我人も出さないのが理想であり、一人の死者も出させないのが任務。そこそこ強力なエリューションではあるけれども、止めて欲しい」 エリューションは上映中の映画のキャラクター。観客のそのキャラクターに対する思念やら何やらが実体化したものであるらしい。それがなぜ、こんな悪意に満ちたキャラクターを生み出してしまったのかは、よくわかっていないそうだ。 「突入前は時間がなくて、恐らく事前のスキル使用はできないと思う。急な依頼だけれど、何とか頑張って欲しい」 イヴは最後にそう言って一礼し、リベリスタたちを送り出した。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:天夜 薄 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年01月15日(日)21:25 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●Introduction 観客は見入っていた。彼らの聴覚や視覚を刺激し、紡がれるその物語に。ある人はその演出に心を打たれたかもしれない。ある人は感性の違いから、すでに心はそこから失せていたかもしれない。しかし眼前のスクリーンに映るそれは、彼らの興味を引きつけて止まなかった。 彼らがそのまま興味をそこに向けたままであったなら。彼らを傷つける登場人物が、立体に姿を変えて彼らの前に現れたとしても、それが演出の一部と信じて、実際の惨劇の起こるまでそこに身を置き続けたに違いない。 ジリリリリ、という音が耳を突き刺す。 その音は、彼らの意識をスクリーンから外させるには十分であった。けたたましく鳴り響くベルの音。開く扉。誰かの駆け込む音。視線は移り行き、移した先に立ち上る煙を見る。それをかいくぐって現れた七布施・三千(BNE000346 )と源 カイ(BNE000446)の声が、場内に響いた。 「皆さん逃げてください、火事です!」 「ご鑑賞の所失礼しますっ、ここは危険です、直ぐに避難して下さい!」 観客は揃ってざわつき、やがて誰かが叫ぶと、伝播して次々に声が上がる。短時間のうちに、場内は恐怖と狂気に満ちたパニック状態に陥った。 「ほらほら、大丈夫ですよー。こちらからお逃げくださーい」 『バレンタイン守護者★聖ゑる夢』番町・J・ゑる夢(BNE001923)がチリンチリンとベルを鳴らしす。観客の注意を引きつけた彼女は、非常口に向けて彼らを誘導した。小鳥遊・茉莉(BNE002647)も、彼らを引きつけ、避難を促す。 パニックによって脱出に向けられた意識が、登場した新しいキャラクターの存在すらあやふやにする。狂乱の中、彼らは身の危険から逃げる事だけを考えた。その上に更なる危険が迫ろうと、彼らにとって選択肢は一つしかない。だから、イレギュラーの発生自体が、彼らに更なる混乱を与える事は、なかった。 「あなたもそんなところにいないで、避難してください!」 三千が演じて口にしたその言葉は、しかし彼らの耳に届いていない。彼らはそこに在る狂気に、心を躍らせていた。 「はは、デービス、いい感じに狂っているじゃないか。愉快で仕方ないよ」 青年はケタケタと笑いながら言う。デービスと呼ばれたヒゲオヤジは、フンと鼻を鳴らして不機嫌そうに返した。 「ヘンリーお前、あのくそったれに与えられたヘンテコな名前なんて捨てちまいな。くだらないストーリーから解放されたんだぜ、これからは俺たちだけで決めるんだ」 「いいねぇ。じゃあ、君が名前をつけてくれるかい、僕に」 「いいだろう、それじゃあ……」 ヒゲオヤジが言いかけた時、彼らに影が落とされる。展開された呪印が彼らの周囲に現れる。青年は慌てて縛り付けられぬよう回避する。 「君たちには自分の名前さえ考える時間はない」 『背任者』駒井・淳(BNE002912)は冷酷に言い放ち、観客の目に触れぬように放った攻撃の消えるのを見ていた。ヒゲオヤジは不敵に笑みを浮かべながら、反論した。 「いやいやお前さん、名前を考えるのに時間はいらねえよ、自分のはもう決めてあるんだ」 「ほう、お聞かせ願おうか」 「あぁ、貴様が死んだら教えてやるよ!」 ヒゲオヤジは標的を敦から観客の方へ変える。不相応に身につけられた赤帽士を、今まさに襲われつつある少年が見つめていた。顔が引きつっていく。恐怖を遮るように、『沈黙の壁』巌流 聡(BNE002982)がヒゲオヤジに立ちはだかる。 「さあ……私が食い止めている間に……行くのだ……!」 「ほら、こっちですよ!」 茉莉が素早く誘導し、ヒゲオヤジはそれを横目で見ていた。その視線の前に、『鉄拳令嬢』大御堂 彩花(BNE000609)が立つ。 「死にお祝いなんていりませんわ。消えてくださいます?」 「そいつは嫌だね……ヘンリー、いくぞ!」 青年は、やれやれと言った顔つきで彼の声に続いた。 「おあずけなんて待ってらんないや、さっさと殺るよ!」 ●Development 「これもテメェラの為だ。悪く思うなよ?」 『赤備え』山県 昌斗(BNE003333)は面倒くさそうにいい、気絶させた映画館の関係者を安全な場所に移動する。扉を見ると、だんだんと人の流れは疎らになっていた。そろそろかな、と昌斗は気合いを入れる。 「面倒事までこなしたんだ。こっからは楽しませてくれよ?」 そう言って、彼は中へと向かう。 ヒゲオヤジが振り下ろした斧の矛先に女性がいた。彼女を庇って彩花が攻撃を受ける。苦い顔をして後退した彼女の腕を血液が伝う。 ゑる夢や茉莉の誘導の甲斐あって、場内の人は大分少なくなっていた。逃遅れた人もチラホラ見受けられるが、三千や聡が彼らを的確にカバーしている。神秘を隠さずとも、彼らの相手ができる時も近いだろうか。 しかし、依然として人がいるのは紛れもない事実だ。防戦一方にせざるを得ない今、彼らが迅速にこの場から逃げ出さなければいずれジリジリと体力は削られていくばかりだ。その時、相手は未だ万全。しかし、彼らは戦い方を変えるわけにはいかなかった。 「かーーーっ! しょっペェなお前ら! 二人相手に守る事しかできませんってか?」 痺れを切らしたように、ヒゲオヤジがなじる。青年がそれを受けて、仕方ないよ、と相づちを打つ。 「デービス、彼らは誰かを守ろうと必死なのさ。誰かに自分たちの攻撃が当たるのが……怖いのさ」 事実ではなかった。しかし、その言葉は煽りとして十分に機能する。 「なるほど……臆病者、か」 ケタケタと笑うヒゲオヤジ。敦は憮然とした態度で彼らを見る。 「じゃあ、もっっっと守っててもらいましょーかーぁ?」 ヒゲオヤジは飛び上がる。まだ逃げ切れていない残りの観客と、誘導する三千を、血に濡れた斧が狙う。聡がその前に立ちはだかり、彼らの盾となる。 「フンッ! 心配無用だ……さあ、早く行け……俺の傷が増えぬうちにな……」 血が噴き出す体を見せぬように聡は呟く。三千は速やかに彼らを移動させる。その背中を、青年が乱射した気弾が狙うが、それはリベリスタにより一つとして届く事はなかった。 「ケッ、本当に守るのがお好きですねぇ……そのまま死ねばいいのに」 「フゥゥゥ……その程度では、私の筋肉は……破れんぞ……!」 聡は血を流しながらも、筋肉を見せつけるようにポージングをとる。熱気に満ちた眼差しに、ヒゲオヤジは思わずたじろいだ。 「おぉ、すげぇな」ヒゲオヤジは一旦言葉を切り、そして余裕そうに笑んだ。「でも攻撃しねぇんなら、いらねぇな、それ。切らせてくれよ」 動き出そうとするヒゲオヤジ。しかしその時、彼の右腕に痛みが走る。青年にも一筋の弾丸が放たれる。已の所で気がついて、彼はなんとかそれを擦るだけに留まらせた。恨めしそうに、発射位置を見る。 「ほら最後の一人がお帰りですわよ。守りの時間はもう終わり」 彩花がぶっきらぼうに言う。 「お望み通りDeath Dayを祝おうぜ。テメェとおっさんのな」 昌斗は気分も上々に言う。腕は震え、手元のライフルが今か今かと、二人を撃ち落とすその時を待って気分が昂っているように見えた。 「それが嫌なら俺を殺してみろよ。やれるっつーんならな!」 ●Turn 「そおこなっくっちゃなぁ! つまらねぇよ!」 ヒゲオヤジのテンションが一気に高まる。ただ戦闘に殺しのみを求めていた彼の心が、一層戦闘に染まる。 「おもいっきり抵抗してくれよ! そうでないとHappy Death Dayなんて歌えねぇからな!」 「もぉ、脈絡のない話は禁物ですよ」 一新。戦闘服に装備を変えたゑる夢が青年を狙う。甘い匂いのしそうな斧は、しかし少しも鉄らしい光沢を見せていない。多数の幻影を駆使した神速の連続攻撃が、彼を襲う。 「バレンタイン守護者聖ゑる夢、見参です★」 鈍重な打撃が青年を襲う。苦痛に顔を歪めながら、彼はゑる夢から距離を置く。 「その斧、なまくら?」 「だって、チョコだもん」 「ふぅん、不思議な人だね」 青年は周囲に気弾を展開する。冷気を振りまきながら浮遊するそれが、彼の心を代弁する。 「血を見れない武器なんて、つまらないね」 発射されたそれは無差別に複数人に矛先を向ける。その内一つをするりと避けた敦は素早く体勢を整えると、青年に向け呪印を展開させる。 「しばらくおとなしくしていてもらおう」 呪縛が青年を縛り付ける。彼は顔を歪めながら、必死にもがいていた。 「あんちゃん、縛るのはお好きかい?」 背後から現れたヒゲオヤジが敦に向け斧を振り下ろす。敦はできた傷を抑えながら距離をおく。 「さぁな、君に応える筋合いはない」 「無回答は一番つまんねぇ答えだぜ!」 動き出そうとしたヒゲオヤジを、聡の拳が狙う。叩き付けられたそれはヒゲオヤジを吹っ飛ばす。 「守り一筋だったあまちゃんが、やるじゃあねえか!」 ヒゲオヤジは素早く起き上がり、標的を捜す。その間に、三千が敦の出血を癒す。神々しい光が傷口を包み、血はやがて止まった。 やっと呪印から解き放たれた青年が、三千の周辺を狙う。体は凍り付かずとも、だんだんとダメージは積み重なっていく。 ヒゲオヤジも、青年も、気は昂っているものの、既にかなりの損傷を受けているはずだった。対してリベリスタも、回復量の少なさから観客避難時の傷が少しも癒えていないのだけれども、それとは比べ物にならないレベルで減っているはずだった。茉莉は、ヒゲオヤジの様子を見て、そう思った。それに迅速に解決しなければ、さらに面倒な事態が起きるやも知れない。事態を急転させるなら、早い方がいい。できるなら、今。 茉莉は集中して精度を高め、魔術を練り上げる。四色の魔光が、彼女の体から溢れ出る。光は真っすぐ飛んで青年を貫き、その部分に異常を与える。 「……くそが!」 青年は吐き捨てつつ、自身を癒す光を放つ。異常はあっという間に消え去ったが、カイがその横から破壊的なオーラを伸ばす。 「貴方たち架空のキャラクターが活躍する舞台はここにはありません、スクリーンに戻って頂きます」 頭部に致命を食らった青年は瀕死、朦朧としながら立ち上がる。最後の力を振り絞り、その身に刻んだ破壊の心に身を寄せて。 「決められた道筋に縛られるだけの物語を、壊してやるんだ……!」 放たれる気弾の冷気を振り払い、ゑる夢が接近する。 「貴方の物語はここにはないですよ?」 現実と共に叩き付けられた攻撃が、青年の希望に致命の一撃を、加えた。 ●Conclusion 消えていく青年。その気配を背中に受けながら、昌斗がヒゲオヤジに言い放つ。 「てめぇはどんだけ持つか楽しみだぜ。なぁおい?」 「……こっちのセリフだな」 ヒゲオヤジは青年の消滅に目を向けず、ただ険しい顔をする。 「誕生日が命日たぁ、報われねぇなぁ、報われねぇよ」 彼は斧を振り上げ、攻撃の姿勢を見せる。 「お前らの命日を祝ってやるつもりだったのによぉ!」 飛び上がり、振り下ろされた斧が彩花を狙う。彩花はヒゲオヤジの攻撃の方向を目で追ったが、敦が庇ってその必要はなくなった。 「麗しい少女は、もっと丁重に扱え」 敦が吐き捨てるように言うと、ヒゲオヤジは舌打ちをしながら距離をとって再度の攻撃の機会をうかがった。 「はっ、好色系男子はお呼びじゃないぜ!」 「これだけで好色とは、意外にウヴな方ですね!」 カイの伸ばしたオーラが、ヒゲオヤジをかすめる。足下がふらつく。 「さぁ、押し切りますよ!」 彩花が士気を上げる。多勢に無勢、どれだけ彼が強くとも、この大勢を押し切れるほどの攻撃はできない。 それでも彼は諦める事ができない。主役が消えた時、脇役が前に出なければ、物語は終わってしまうから。ストーリーに縛られず、ストーリーに生きるために。 「まだ終わりじゃねぇんだよ!」 振りかぶった斧を勢いよく投げる。斧は真っすぐに飛び、昌斗の急所をを捉える。崩れ落ちる体。回復は追いつかないだろうか、しかしそれでも彼の顔から笑顔が絶える事はない。たとえ運命を変えてでも、戦闘に快楽を求める意志は、変わらない。 「楽しいなぁ、ええオイ? こんなとこで寝込んじゃ勿体ねえよなぁ!?」 倒れるまでのその一瞬、彼の放った銃弾が、ヒゲオヤジのこめかみに命中する。血が吹きだし、怯む。 四色の閃光、全身のエネルギーをためた一撃、氷の拳、幻影をまとった斬撃。淀みなく続く攻撃の嵐。しかしフラフラになりながらもヒゲオヤジの意識は途絶えない。ただ、物語の脇役の意志だけを心に留めて。 「俺のDeath Dayは祝わなくてもいいんだぜ!」 振り絞った最後の一撃が、敦の肩から鮮血を吹き出させる。しかし、近くなった距離を敦は更に縮める。 「さっさと帰って、私に本物のエンドロールを見せてくれ」 ガァァァァッッ! と本能を剥き出しにして、彼はヒゲオヤジに吸血をする。うまそうに笑みを浮かべる敦と対称に、青ざめていく顔。おぼつかない足下。しかし、まだ戦いの意志は消えない。敦を振り払い、叫ぶ。 「スタッフロールにはさせねぇよ、させねぇさ!」 「見せるのは、私たちの側ですわよ?」 彼の脇を通り過ぎた彩花が、凍て付く冷気の一撃を浴びせる。崩れ行くヒゲオヤジは、何か言いたげに口をぱくぱくさせる。やがて地に伏した体から光がもれ、その身と戦いの終焉を見せる。 それが彼らのDeath DayのEnding。 ビリッ。 電気の弾ける音がして、スクリーンに映像が映し出される。逃げ惑う青年。その横に恋人と思われる女性。暗い森を駆けていく彼らの後ろには斧を持ったヒゲオヤジ。しかし本気で追いかけているような気配はない。やがて逃げ切る彼らの姿を、ヒゲオヤジは笑顔で見ていた。 「Happy Birth Day。お幸せにな」 彼らのいく先に背を向けて去っていくヒゲオヤジ。流れるエンドロール。無人の劇場に流れる、二つの物語の終わりを見る者は、なかった。 ●Epilog 「個人的にはこの不条理な映画の作られた経緯は気になりますわ」 彩花が呟く。映画館から退散し、彼らは帰路に着いていた。 「こうもたちの悪い思念体を生み出す映画ですもの。きっとうさん臭いに違いありません」 「確かに、とんだB級映画ですねえ」 ゑる夢が言うと、聡も同意して首を縦に振る。 「この作品はどんな作品だったのでしょう? 後でどんな作品か評価をネットで調べてみるのもいいかもしれませんね。良さそうな作品でしたら改めてゆっくりと楽しみたいものです」 「そうだな……この映画、タイトルは何だったかな?」 敦と茉莉が映画について調べにいく。三千も、気になるなぁ、とか、見てみようかなぁ、とか呟きつつ、彼らの方へと近寄っていった。 「意外とみんな興味あるんですね」 カイが言うと、昌斗もまったくだ、と同調する。 「戦いだけで十分楽しめたのによ。今度はああいう奴と、誰の邪魔もねぇとこでサシでやってみてぇな」 早くも次の戦いに燃える昌斗。 「これみたいに飛び出す映画ってのはもっとねぇのかよ」 「それは……スリル満点……と言うレベルでは……ない」 聡が言うと、こんなもの二つも三つもあっても困りますわ、と彩花が呆れて言う。 様々な想いを乗せつつ、物語が終わる。しかし彼らの物語は、これで終わるわけではない。彼らにとってこの戦いは、彼らが織りなすストーリーの、たった一片に過ぎないのだから。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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