●ハッピーエンド 闇色に包まれた陰気な城の中で、インキ色の血の池に沈んだ男が一人。 その類い稀なる聴力は、偉大なる勇者さまがお城へ帰還で祝賀ムード。 飲めや歌えやの大騒ぎで救い出した姫さまとよろしくやってる様子が聴こえているのだった。 そして殺人現場の様相を呈するこの場所で「リア充爆発しろ」を呟くこの男はつまるところ、勇者に『殺害された』はずの魔王その人であるのだった。 「嗚呼、このチャンネルの勇者候補も彼奴らが最後、か……。 なぁにが『封印されし聖剣グラムの力を受けてみよ』だ。 ぺっ。陳腐にも程がある。 まだ搾り取れると思って長居が過ぎたな。 所詮は出涸らし、といったところか。劣悪な厨二病を食い過ぎていささか食傷気味だ。 残り物には福があるなど、一体どこのどいつが言いはじめたのだッ!! 言い出しっぺ出てこい、一度殴らせろ。 グーは嫌だというならチョキでも良いから殴らせろッ!!」 床を叩いた拳が、ばしゃん、と飛沫を上げる。 「……と、いかんいかん、我は死んだことになっていたのだな。 こんなにエキサイトしていては血色が戻ってしまう。 死体は死体らしく程よく青ざめていなければ」 そして、沈黙すること3分後。 「うむ、飽きた。首実検に来る城の役人のことなど知るか。知ったことか。 そんなものどうせ描写もされぬエンディング後だ。 我は去る、我は去るぞ!!」 立ち上がった『魔王』は、破れたマントの裾をばさりと翻す。 それがふわりと落ちるころには彼の身も、衣も、傷ひとつない新品同然となって光り輝いた。 等身大の姿見にその仕上がりを映し、満足げに頷くと。 『魔王』は鏡面上に渦巻く闇の穴を開く。 「この世界に、最早我を満足させてくれる強者は居まい。 目指すは更に下、なんなら最下層まで行ってやる。 さぁ、まだ見ぬ勇者たちよ。 この我を、誰よりもカッコ良く殺してくれ!! くくく、ははは。 ゔぁーはっはっはっはっは!! 誰もが一度はやってみたい。だけどできない三段笑いをキメながら、『魔王』は闇を落下する。 目指すは最下層、ボトムチャンネルへと―― ●ニューゲーム 「今回皆には、世界を救う勇者になってもらう」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、ブリーフィングルームに集まった『主人公』たちに告げる。 「ああ、勿論皆がそのために日夜奮闘してるのは知ってるよ? だからこそ、『彼』もまたこのボトムチャンネルに目を付けたんだろうし」 モニターに映し出されたのは、精悍な面差しに黒い角、黒の大翼を持った男の姿。 画像はあくまで『仮』の姿だけどね、と前追いてイヴは説明を続ける。 「『偽性魔王』モックゼブル。 それが今回、バグホールを超えてやってきたアザーバイドの識別名。 『偽性』というといかにも偽物っぽいけど、その能力は『魔王』の名に恥じないものよ。 事実、彼は幾多の上位チャンネルを『征服』しては手放してきたんだから。 力と力でまともにぶつかりあえば、太刀打ちできる相手じゃないわね。 でもこのアザーバイド、ちょっと面白い弱点があるの」 『面白い弱点』を告げるにあたって、イヴはすこしだけ表情を緩める。 「端的に言うとね、偽性魔王は『カッコ良さ』にめっぽう弱いの。 彼はカッコ良く殺されることだけを目的に、幾多の世界を渡り歩いている。 今回このボトムチャンネルにやってきたのも、同じ目的。 三高平湖の真ん中に降り立って、早速魔王城を建設し始めたみたいね。 勇者ホイホイのランドマーク、ってとこかしら。 勇者を集めるために世界征服なんておっぱじめられても迷惑だから、手っ取り早く対処して」 イヴは偽性魔王のデータに目を落としながら、指折り数える。 「そうね、一晩で8回もカッコ良く殺してあげれば、流石に満足して帰ってくれるんじゃないかしら」 8段階変形の魔王とは、なかなか豪勢である。 「ひのきの棒振り回してレベル上げしたり、お遣いイベントこなすのはこの際省略。 いきなり魔王城へ行って頂戴。今ならまだ、平屋建てだから」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:諧謔鳥 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2012年01月17日(火)23:11 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 4人■ | |||||
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● まさか『常世長鳴鶏』鳩山・恵(BNE001451)と『デイブレイカー』閑古鳥 比翼子(BNE000587)が生き別れた兄妹だったなんて! いやぁのっけからクライマックスでしたねー。 続きましての勇者は『あほの子』イーリス・イシュター(BNE002051)!! 昔々(中略)どんぶらこと大きな『いりたまご』が。 いりたまごを割ると、なんと中から……っていうか、そのたまご既にスクランブルされてない!? いりたまごでしょ!? と、とにかく! 勇者『イーリス太郎』は、まおがしま(ゴロ悪!?)にやってきたのでしたっ!! 激闘の末、生き残ったのはイーリス太郎とただひとりの家臣だけ。 満身創痍のイーリス太郎に向けられた、魔王の必殺の一撃。 ばんじきゅーすで茶がわくか!? と、思われたそのとき!! なんと『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)が、身を呈してイーリス太郎を庇ったのです―― ● 「これしきで、膝を屈すると思うてか……ッ」 自らを貫いた刃を血に濡れた手ではしと押さえ込み、舞姫は魔王を睨む。 「吉備団子賜りしその時より、我ら家臣は一騎当千!! たとえ首一つになろうとも、この命果てるまで忠義を貫こうぞ……!!」 「貴様……」 引き抜こうとした剣は、頑として揺るがず。 魔王は舌打ちとともに、封じられた剣を舞姫ごと打ち捨てる。 「さあ、好機に御座る。イーリス太郎殿、我らの大望を……果たされよっ!!」 今にも絶えようかという荒い息の中、舞姫は主君に全てを託した。 「我が剣と心中が精々とは……」 魔王は冷めた目で舞姫を見下ろす。 「イーリス太郎、互いに役に立たぬ家臣を持ったものだな」 「舞姫さんの…… 舞姫さんのことかですかぁあああッ!!」 燃え上がる怒りとは対照的に、覇気を纏った視線は氷刃のように魔王を射貫く。 「魔王……お前だけは絶対に赦さないのです」 「ほざけ……今度こそ引導を渡してくれる!!」 イーリス太郎に向けられた魔王の右手に、冥く煌めく闇の火球が灯る。 だが放たれたそれは、旋風の如く振るわれる槍撃の前に、弾けるように霧散した。 「……何ィ!?」 闇を切り裂いて、イーリス太郎は隔てる間合いごと魔王を貫く。 「これがわたしの超必殺!!」 踏みしめた両脚。闘気は地をも揺るがし。 魔王を貫く槍に、持てる魔力の全てを込めてイーリス太郎は叫ぶ。 「真・イーリス! ドライバーーッ!!!!」 迸る雷光は天を衝き、地を穿つ。 「ぐぁああああああ!!!!」 烈光の中魔王はその形を失い――砂塵のように崩れ去った。 露払いするがごとく、槍が帯びる光の残照を振り払うと。 イーリス太郎は舞姫をその肩に担いだ。 主に身を委ねるその表情は満足げに安らかで…… 城が――崩れようとしていた。 ● お次の勇者は『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054)!! 魔王の眷族『十徳彼女』渡・アプリコット・鈴(BNE002310)との闘いを経て、ついに辿り着いた魔王城。 彼に煩悩を砕かれ、改心した鈴の制止も聞かず……フツは強大な魔王に単身立ち向かうの!! でも、なんだか様子がおかしいみたい…… ● からん。 フツの手から錫杖が滑り落ちた。 降り注ぐ魔法弾も、身を焦がす劫火も、ぴたりと止まっていた。 フツは一歩、また一歩と。焦ること無く……だが一切のためらい無く歩いてゆく。 圧倒的魔力の威圧感が去れば、残ったものはただひとつの強い感情。 ――怯えだった。 あれだけ大きく見えた魔王が、随分と小さく見える。 「く、くるな……」 魔王の手元に、何かが鈍く光る。 震える手が懐から取り出したそれは、武器というよりは果物を剥くためにあるような小ぶりのナイフだった。 「それ以上近づいたら刺す! 丸腰だろうと……刺すからな!!」 しかしフツはその歩を止めない。 「……ッ!!」 ぎり、と奥歯を噛み締め、ナイフを手に踏み込む魔王。 「待って!!」 鈴の声は、どちらに向けられたものか。 フツは魔王が突き出したその刃ごと、柔らかく抱きとめたのだった。 魔王の手に、温かい血が伝う。 「あ、ああ……」 狼狽して見上げる魔王の頭に、フツはそっと手を伸ばし。 フードの下から現れたその髪を優しく撫でる。 「よう……驚かせちまって、悪かったな」 「なんだよ……これじゃ、あんたまで死んじゃうじゃないか……」 ナイフはフツの腹に深々と突き立っていた。 「……いや、大丈夫だ。 お前が傷つけた他のみんなも……気絶はしてるが、生きてる」 「……!!」 「なぁオレたちゃてっきり、お前さんのことを、極悪人だと思ってた。 思い込んで、決めつけてた。 ……悪かったな。 お前さんが、こんなに小さいなんて、知らなかったんだ」 まさかこんな、震えながらナイフを持つような、ごく普通の子供だとは。 フツはナイフの柄を握る小さな手に、自分の手を重ねた。 「もう、こんなもん捨てちまえよ。 お前が捨てられないのなら、オレが捨ててやる。 お前が握るのは、こんな冷たい刃物じゃねえよ……」 温もりに、氷が溶けるように。解けた指からナイフが落ちた。 「驚かせちまったオレが言うことじゃないかもしれねえが…… オレ達、友達になろうぜ。そして一緒に、こんな暗い城を飛び出そう」 望まずして魔王と呼ばれた仔の手を、しっかりと握りしめながら。 フツは包み込むような笑みを浮かべる。 「お前さん、よく見りゃこんなに……かわいいんだからよ」 信じていいの、とフツを見上げる大きな瞳には……涙と、ひと雫の希望とが光っていた。 ● さてさて、大見得といえばこれ! 仁義上等!! 『似非侠客』高藤 奈々子(BNE003304)が、彼女のボトムチャンネル(シマ)を荒らした魔王にカチこみます! ● 「大人しく手前ェの世界(シマ)に籠っていれば良きものを……」 「目の前に弱った獲物がおれば、牙を突き立てるのが狩るものの本能であろう。 魔と狼とは近しいとも伝え聞く。貴様の獣の因子も、そう告げているのではないか……?」 広間の入り口に仁王立つ高藤と、魔王の視線が鋭く交錯する。 「生憎だがこの身突き動かすは血に非ず。 この世の運命に恩受けし異能者、高藤……『義』を以て貴様を討つ! ……界を渡りて世を乱した報い、その身に受けよ!!」 ドスを逆手に構えた高藤は、自らを弾丸と化すように地を蹴った。 しかし。 「笑止ッ!!」 魔王が杖を床に打ちつけたその刹那、真っ直ぐに駆ける高藤の足元に奈落が口を開ける。 とっさの跳躍の着地点を狙うように、広間の柱が崩れ落ち。 巻き起こる粉塵を貫いて、高藤は突き進む。 挟撃の矢がその膝を射貫き。破れた黒衣を引きずりながらも。 それでも止まらぬ血塗れの牙は、魔王の喉元を喰い破らんと跳んだ。 「……年貢の納め時が来たようだな」 鈍色に光るドスを抜き放ち、高藤は獣の目を細める。 「フ……我が策がこの程度に終わると思うてか!!」 刃を突きつけられて尚、余裕を崩さぬ魔王の手の中に、虚空よりひとりの少女が現れる。 「僅かでも動いてみろ。この爪が、か弱き首を掻き切ろう。 貴様の『仁義』は、それを良しとはしないだろう……?」 しかし、高藤は動いた。少女ごと魔王を貫く軌道で、放たれた突き。 一瞬の虚の後反撃へと動いた魔王の爪を、高藤はその左掌を呈して受け止める。 そして彼女が放った突きは、少女の眼前でその軌跡を弧を描く斬撃に変え―― 少女を避けて魔王だけを袈裟懸けに叩き斬った。 「な……にィ!? な、何故だッ!?」 断末魔の血煙を吐く魔王に背を向け、高藤はその牙を鞘へと納める。 「……『己が命(タマ)より己が道』通してこその任侠道。 真偽など知ったことか。在るのはただ仁義! 『彼女を救って尚、貴様を討つ』。そうできるだけの隙が貴様にはあった。 それが、理由よ……」 ● 続きましては……ごほん。 『仮面サイガー』祭雅・疾風(BNE001656)は革醒人間である!! 仮面サイガーは人間の自由のために、悪の組織と戦うのだ!! 正義のチームは悪の大首領モックゼブルを郊外へと採石場に追いつめた。 でも、それは奴の罠だったの!! 次々倒れる仲間達、このままじゃ世界の平和が危ない!? 早く来て! 仮面サイガー!! ● 「天が呼ぶ! 地が呼ぶ! 悪を挫けと人が呼ぶ!!」 うずたかく積まれた岩の上に、戦闘服に身を包んだ男が立つ。 「何奴……!!」 黒い覆面に覆われた魔王の視線が、頭上を見上げれば。 「仮面サイガー、参・上ッ!!」 空を切る決めポーズ。鮮やかな爆炎を背に、鋼のように研ぎすまされたシルエットが宙に舞う。 「魔王よ、貴様の悪事もそこまでだッ」 魔王の眼前にひらりと着地した仮面サイガーが、その指に断罪を突きつけた。 「おのれ、まだ残党がいたか……!!」 「倒れていった仲間達の無念を晴らす為、愛する世界を護る為。 魔王モックゼブル、貴様はこの手で倒す!!」 「フ……その時代錯誤の武器で何が出来るというのだ」 「ただのモーニングスターだと思うなよ?! これこそはこの世に光をもたらす明けの明星(モーニングスター)。 作り手の想い、そして人々の平和への祈りが貴様を砕く!! 変・形ッ」 仮面サイガーの叫びに呼応するように、可変式モーニングスター[響]はその秘められた力を解放する。 先端の鉄塊は蒼く輝き、柄という名の制約から解き放たれる。 変幻自在の間合いから放たれる重撃が、魔王を襲った。 しかしその一撃を、魔王はその拳で正面から受け止める。 「流石に魔王を名乗るだけのことはある…… だが此方にも通さなきゃならない意地があるんだ。ヒーローは伊達じゃない!」 反撃の魔導弾幕をあたかも時を止めたかのような速度ですり抜け、仮面サイガーは魔王の懐へと潜り込む。 フレイルの一撃が、魔王の鳩尾を捉え―― 「そろそろ終わりにしよう!」 空に浮く魔王に向かって、仮面サイガーはその拳を構える。 「燃えろ拳! 魂まで焼き尽くせ!!」 劫火を纏って突き上げる拳が、全ての不浄を灰燼に帰すように。 「ウォオオオオオ!!」 言葉の通り、悪の全てが灰と化すまで。跡形も無く焼き尽くした。 ● 魔王vs邪悪ロリ by『嗜虐の殺戮天使』ティアリア・フォン・シュッツヒェン(BNE003064)!! 魔王vs魔王 by 『メンデスの黒山羊』ノアノア・アンダーテイカー(BNE002519)!! 魔王vs吸血鬼 by 『銀の月』アーデルハイト・フォン・シュピーゲル(BNE000497)!! 最後はダークヒーロー三連撃。一気にどーぞ!! ● 「ふふっ、だから言ったでしょう? ……雑魚がどれだけ群れようと、意味はないって」 最後に残った魔物の頭蓋を砕き主人の元に帰る鉄球を、細い指先がたおやかに受け止める。 周囲に積み上がるは死屍累々……いや、その全てには塵芥ほどの命が残されていた。 慈悲を求める呻きを嘲るように、スカートの裾を翻したティアリアがくるりと舞えば。 地を這う鉄球がすり潰した血を、肉を引きずって赤い円を描く。 「……さあ、もっと愉しみましょう」 傷ひとつ、浴びた返り血の痕跡ひとつなく。 ただただ真白に光輝を散らす姿には、艶やかな嗜虐の笑みが咲く。 「ね、魔王様?」 「貴様ァあああッ!!」 眷族たちをいとも容易く蹂躙され、倒れて尚もいたぶられる様を見せつけられた魔王は。 怒りも露にその玉座から立ち上がる。 が、しかし。 「……がはッ!?」 飛来した鉄球は過たず魔王の鳩尾を射抜き、玉座を打ち砕いてその巨躯を吹き飛ばす。 「この子はわたくしの一部。わたくしの手足」 しゃらん、しゃらんと鎖を鳴らし、舞うがごとく旋回する鉄塊は。 魔王が放つ反撃の魔法弾を片端から弾いてゆく。 打ち上げられた魔王が、二度と地に落ちぬよう、空中で打ちのめし鎖を絡めてゆく。 「伝説の宝具なんて要らないわ…… この手で打ちのめし、すり潰す快楽にはとても……代えられないもの」 「おのれ、おのれ……おのれぇえええええッ!!」 怨嗟の叫びが、魔王の城に木霊する。 「ふふ……わたくし、なんだか素晴らしいことを思いついてしまいましたわ。 折角だからご賞味くださらないかしら。この、一撃を……」 ティアリアは彼女の武器に口づけた。 こびりついた血糊が、彼女の美しい唇に一層鮮やかな紅を添える。 鉄球には、魔王ですら怖気を震うほどの魔力が注ぎ込まれ…… 弾けんばかりの力が、鎖に縛られた魔王の脳天に叩き付けられた。 「ねぇ、ご教授願えないかしら。 わたくし、この場以外でもこういう技を扱いたいのだけど……」 既にもの言わぬ肉塊と化し、血に沈む魔王を見て。 「……あら、もう動かないの? 魔王って案外、情けないのね」 ティアリアの嘆息は深く、甘く。夜に溶けていった―― ● 「ふはは。奇遇だな、貴様も魔王か」 親しげに両手を広げ悠々と魔王へと近づいてゆくノアノアは、傲岸不遜な笑みを浮かべる。 「吾が名はノアノア、ボトムチャンネルにおける≪最弱≫を誇る魔王。 同族のよしみだ。態度次第では我が眷属に迎え、世界の半分をくれてやってもよいぞ……? さあ、服従か、死か!! 選……べぽらっぷ!?」 まぁ軽くジャブでも……とばかりに放たれた拳は、見事にノアノアの顔面を捉え。 「い、痛い……」 吹き飛んだ彼女はそのまま大理石の床にへたり込む。 「……つーか格好よく死にてーならバロックナイツの所でも行けよ!」 ノアノアは腫れた頬を抑え、涙目で逆ギレる。 魔王はただ肩を竦めた。 「……ふん、ならいいぜ」 ノアノアは立ち上がると、冷めた様子で上着の袖を払った。 「例えば仮に、君がバロックナイツと出会っていたら……もしかしたら奴らすらも君の舞台で踊らされるのかもしれない。 だけどな、それは≪無い≫のさ、なんなら運命と言っても良い。 ……何が言いたいのかって顔をしているね?」 くすぐるような声で語りながら、ノアノアはゆったりと魔王に近づいてゆく。 「つまり、主人公に敵対しようとするやつらはもれなく主人公の餌にされるという事さ。 そしてその主人公と言うのは……我々だ。 僕達が、君に踊らされているのではない。『君が』!!」 ノアノアは魔王の目の前にその長い指を突きつける。 「……この≪世界≫に踊らされて、俺たちに倒されるんだよ!! さあ、バロックナイトを、始めよう……!」 放り投げたローブは闇に翻り、妖しい風に流れる。 たわわに実ったお胸様がそのご尊顔を顕した。 その胸の真央に灯る輝きに、魔王はとっさに間合いを離す。 しかし、そこから放たれるのは―― 「受けろ!ブゥゥレイク!フィィイアァア!」 聖なる力を魔王が繰るとは嗚呼、何と言う矛盾か。だがそれが故の《最弱》。 「笑わせるな!! そんな術で我を倒しうると……」 「ハッ……ならば冥府の底より出よ、我が眷属!!」 ノアノアの呼びかけに応じ、背後の闇に召喚されたのは……法衣に身を包む焦燥院フツその人である。 「え、ちょ、俺の出番はもう終っ「真・合業! 後 光 輪 破 邪 聖 光 !!」 しかも眷族じゃねーし! と叫ぶフツの言葉に、覆いかぶせるように叫ばれた最終奥義。 ノアノアにはちょっと足りない徳というやつを拝借しての反射光。 ある意味超神聖、はたまた超新星な光が魔王を射抜いた。 「な……ば、馬鹿な。こんなネタ臭い技で……ぐぁああああ!?」 一陣の風が吹き抜ければ、そこには命果てし魔王の亡骸が落ちる。 「この世の凡てに、諸行無常……」 踵を返し。合掌して――瞑目。ぽく、ぽく、ぽく、ちーん。 ● 砕けながらも、冴え冴えとした白さを放つ大理石の床に伏す血に濡れた人影。 交わされた刃の数だけ刻まれた傷にも関わらず。 破れたステンドグラスから注ぐ月光の中、アーデルハイトは己が運命を頼りに立ち上がった。 その様を荒い息の中見据える彼女の敵もまた、大剣の支えなくしては立つこともままならない。 触れれば崩れそうな緩慢な対峙。 だが積み重ねられた闘いが……身体はよろめきながらも、凛として揺るがぬ魂が。 この光景を無様と呼ぶことを赦さない。 不死者の王たる吸血鬼として、世界の住民たる人間として――そして、リベリスタとして。 纏うは濃厚なる血の香り、棲まうは深淵なる夜の闇。 太陽のような英雄にはなれぬのならば―― 月のような導き手となりましょう…… それが、アーデルハイトの物語。 「偽性魔王モックゼブル。銀の月アーデルハイト・フォン・シュピーゲルが参ります」 不確かな足取りで歩み寄るアーデルハイトを、しかし魔王は拒まない。 縋る支えを探すように、背中へと廻された細腕。アーデルハイトは魔王を抱きしめるように身を寄せる。 「貴方は他者の物語の中でしか生きられない。けれど今回は――貴方の物語を見せてください」 挑発的に笑んだ口元が、魔王の首筋に寄せられた。 「……ご存知ですか。ラスボスだって、主人公になる事があるのですよ? だから、見せてください。二人の……否、十三人の物語が交わる結末を」 囁くような吐息の後で、その牙は魔王の肌に突き刺さる。 指先から、つま先から、少しずつ血の気が失せてゆく感覚が、痛みを甘い痺れに変え。 魔王の表情には恍惚が浮かんだ。 「私の物語を見せても、誰の物語を見せても…… 貴方の物語が見えなければ真の物語にはならないのです。 死にたいのなら、全力で生きて、それから死になさい。 たとえ仮初の死であろうとも、そうでなければ死に甲斐が無いでしょう?」 「ああ……そうだな、本当に……」 忍び寄る死の気配の中で魔王はひとりごちる。 この場において八度目、生まれ落ちてより幾度目だろうか。 既に数えるのを諦める程に、積み重ねられた死の中で。 思えば初めてかもしれないな……『生きたい』などと、感じるのは。 この者達と刃を交わす生の悦楽の中に、もう少しでいい、留まっていたいなどと思うのは―― アーデルハイトの腕の中で。魔王は安らかにその鼓動を止めた。 ● ……さて皆、熱い戦いをどうもありがとーー!! その後、偽性魔王は「これ以上逝かされたら、我、駄目になっちゃぅうう!!」なんて言い残して逃げ去ったとかなんとか! 提供は『K2』小雪・綺沙羅(BNE003284)でお送りしましたっ。 ……ちゃんちゃん!! |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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