●業火閃く 先の戦闘は、三ツ池公園に『閉じない穴』をもたらした。小康状態に入ったとは言え、その存在そのものが世界に悪影響を及ぼす以上、常時何らかの神秘現象に対する警戒を緩めるわけにはいかない。現に、一連の三ツ池公園内での対応はそのどれもが苛烈を極めている状況だ。 三ツ池公園、多目的広場。 その上空から、一筋の光線が閃いた。埒外の熱量、針をも通す精度で降り注いだそれは哨戒中だったリベリスタを貫き、その傷口を焦がしていく。 流石に一撃でその生命を奪うほどの威力ではなかったとは言え、発生源が分からない攻撃に晒されたまま、その場に居続ける事は愚の骨頂とも言えるだろう。 撤退、そして万華鏡による索敵。多くの情報収集から得られた事実は、非常に当たり前且つ危険な事実。 ――待ち受けるは高度の戦場。近く遠いたった一撃の必中に賭け、悪意がその姿を据えている。 ●雷神堕つ 「アザーバイド『大雷斧ウコンバサラ』。三ツ池公園の多目的広場上空に観測された砲台型アザーバイドであり、本体の砲台が放ったレーザーを周囲のリフレクトミラー四基が調整した上で対象を正確に狙い撃つことが出来る、ということまでは判明しています。 同時に、このリフレクトミラーは遠距離神秘攻撃に対するリフレクト効果も保有しており、かなり厄介であるとも。 その座標は高度二百六十メートル。航空機などによる上空、下方からの接近もあちらの先制攻撃でほぼシャットアウトされてしまうでしょう。しかし、逆にその強度は決して高くはなく、攻撃を与えさえすればその高度を大きく下げることは可能であるという試算が出ています」 ブリーフィングルームに集まったリベリスタ達に向け、モニタによる図示を行いながら『無貌の予見士』月ヶ瀬 夜倉(nBNE000201)は努めて冷静に情報をまとめた。 「上からも下からも近づけないんじゃ、倒しようがなく……いや」 「ええ、まあ概ね推測していらっしゃる通りです。『航空機による接近』は流石に難しいでしょう。 でしたら、君達リベリスタの独力により地上から直接アプローチをかけるしかありません。 普通に考えて、近接攻撃範囲に入るには百四十秒弱。最大射程の遠距離攻撃を行うにしても、百二十秒弱、ですか。接近自体がかなり困難であることは、事実です。 ですが、その半面、その高度維持と防御機構は不完全と思われますから――要は、一撃叩きこめば我々の戦場へ引きずり込むことができるということ。たった一矢報いれば、勝機はあります」 遙か空へ向かう空中戦。イカロスが如き蛮行を、フォーチュナは迫る。 「最大を以て、最善を――見下されるのは、アーク(われわれ)の主義に反するんですよ、実際」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:風見鶏 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2012年01月16日(月)23:13 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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●仰 遥か、というには余りに近く、しかし接近するには恐ろしく遠い距離に出現した異界の来訪者―― 『大雷斧ウコンバサラ』。一個の存在として、狙いを過たず狙い撃つ凶悪な光刃の持ち主は、地上へ向けて照準を定めた。 ――見られている、と。「何となく視野に入れた」のではない。「仔細に確認され、視認されている」、彼のセンサーがそう述べていたのだ。 「飛ぶ感覚、困難な闘い……どれも、いい」 上空二百メートルの中型サイズの個体を、間違いなく視界に収めるには『ゼログラヴィティ』星川・天乃(BNE000016)の高等な視力をして可能とするといっていい。 普段人間が視界に収める「上空のオブジェクト」は、その大きさがあってこその明瞭さなのだ。 然して彼女は、相手が既に臨戦態勢に入っていることを理解していた。既に、砲口に収束する光を察知していた。 閃く火線をかいくぐり、一撃を叩き込む。いうだけなら、誰にでもできよう。 「遠い遠い、空からの 理不尽振らせる星いつつ 今日もせかいはひとみしり ……天乃がぱんつ履いて気合いれてるからルカも毛糸のぱんつ、はくわ」 天乃の傍らに立ち、冗談のようにそんなことをのたまう『シュレディンガーの羊』ルカルカ・アンダーテイカー(BNE002495)の方を見て、天乃に僅かに安心したような空気が漂う。 お互いがお互いに、敢えて穿かない系女子ではあるのだが、それでもどうしても、隠しようのない場面というのは存在する。 皆がいい子、アークの子である。 「飛んで叩いて破壊する、と言えば簡単そうに聞こえるけどそうもいかないんだろうね」 空を振り仰ぎ、力なく垂れる翼に視線を向けて『偽りの天使』兎登 都斗(BNE001673)は、適当に口にしているようで居て、その難度を冷静に捉えている。 前線を維持して力を揮うことを主とする常の都斗からすれば、回復を主体に立ちまわるのは確かにイレギュラーではある。 加えて、護ってもらえる見込みもない。自らが足掻くことで結果を招き寄せる、ただそれだけを反芻する。 「できれば最初だけでも、ついてきてもらえると助かるんですがー……」 戦うためのわずか十秒が惜しい。可能であれば……と考えたアゼル ランカード(BNE001806)は、翼の加護を付与した別動班へそう問うた。 僅かにでも負担を、ロスを軽減したい。確かにその選択は間違っているとは言い難い。 だが、飛び立つ時は誰しもが無防備になる。ほぼ行動不能の十秒のロスで、その人物に無用な危険が怒っては目も当てられまい。 故に、その回答はノーだった。致し方なし、と首を振る彼だったが、それだけが策ではないと割り切れる程度に、彼は戦いに馴れている。 空中戦、ともすれば『飛ぶ』という行為自体が初めての人間も少なからず、居るだろう。純粋な空中戦を経験したリベリスタは、アークをしても然程多くはない。 「空中戦なんて初めてですね」 『ヴァイオレット・クラウン』烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939)にしても、殆ど経験がないといっていいだろう。 重量的な肉体を持つメタルフレームの彼女にとって、飛行や浮遊という感覚自体が新鮮なものであることは言わずもがなの事実である。高みへ身を置き、 得られる感性の幅は決して狭いものではない。不利益を被る戦闘で尚、その経験は可能性を生むのである。 「超長距離からの精密射撃……これがアザーバイドでさえなければ、もしかしたら気が合っていたかもしれないわね」 狙い、狩る者。その出自からくる嗜みとしてか、或いは獣の因子の本能か。『エーデルワイス』エルフリーデ・ヴォルフ(BNE002334)は、頭上に座する相手の能力に思いを馳せる。 遥か上位の実力を持つ敵、その射手としての能力を鑑みるに、自らが求める『何か』を得られるかも知れない、とも思う。 「お空の上から狙い撃つ、ってカ? 厄介極まりないネ」 上空を仰ぎみて、『盆栽マスター』葛葉・颯(BNE000843)は参ったと言わんばかりに肩を竦めた。不利な戦いを強いられるのが苦痛というわけではない。 寧ろ、願ったり叶ったりとでも言うべきなのだろう。厄介な敵、不利な戦場。 それらを経験して尚ねじ伏せる、それが今自分に課せられた事と思えば、積むべき経験となるだろう。 破片を持ち帰れないか、と考える点に於いては、エーデルワイスと被りはするが。 「ドアが開いたら我先に、馬車に乗り遅れるなと言わんばかりだな」 万が一乗り込めたとして、それが何処行きの馬車であるかなど知るべくもなし、というところか。 『ナイトビジョン』秋月・瞳(BNE001876)の懸念は、然し上位世界の住人には存在しない感覚だ。 下位世界の存在に敗北など考えない。常識であれば、有り得ない事なのだから。 己の、或いは与えられた仮初の翼を広げ、リベリスタは空へ踏み出す。 「飛ぶんだ、絶対飛んであの空中砲台を止めるんだ……!」 『さくらのゆめ』桜田 京子(BNE003066)の強固な意思が声帯を震わせるか否か、そのタイミングで――光が、乱舞する。 ●乱 「リュミエール、気が急くのは分かるけど先行しすぎなのよ……っ」 ルカルカが警句を上げる間は、『光狐』リュミエール・ノルティア・ユーティライネン(BNE000659)も、ウコンバサラも与えてはくれなかった。 連続行動を起こす権利からすれば、ルカルカの方が上位に当たるだろう。それでも、僅かな可能性を勝ち取ったのはリュミエールだ。 本来なら、それでも止まる猶予はあったろう。だが、速度に身を委ねた彼女が判断を誤ることを、誰が責められようか。 その肩を一射のもとに貫かれ、次いで起動したリフレクトミラーの反射光に全身が弛緩する。 次いで、瞳が、エーデルワイスが。反射光をまともに視界に入れてしまってか、その動きを止めてしまった。 咄嗟に天乃がエーデルワイスの手を掴むが、落ちはしない、と言うように小さく首を振るのを確認して、安心したように手を放す。 アゼルが回復をせねばと構えるが、上昇してしまった以上、再動を促す速力は、持ち得ない。 「あの精度……本当にぞっとしないわね」 エルフリーデが忌々しげに口元を歪めるが、既にウコンバサラはリロード体勢に入り、次の標的を定めている。 「いよいよもって、急ぐ必要があるって事だね」 京子否、リベリスタ全員が速攻による勝利を掴むことを念頭においている。 だが、其れを達成するには襲い来る光を如何に掻い潜り、体勢を維持するかが焦点となる。 百四十秒。無策で、上昇に全てのリソースを割いた上で可能になる最小時間だ。 それを提示した相手も相手だが――だが、しかし。 二十秒。 足を止め、呆然としたように宙に浮くリュミエールに追い縋るようにして京子が三十メートル地点まで接近する。 然し、慎重を期して上昇と防御の二正面にリソースを割いた天乃、回復を最優先に捉えた都斗は、攻撃班を始めとするメンバーと同程度の高度に留まった。 「――痛ッ」 「なんですか、この精度……というか、威力!」 先行した三人と、射線上に入ってしまったエーデルワイスへと、連続して光が放たれる。二つ目のパターンとしてウコンバサラが持つ、攻撃プログラム。 更に、リフレクトミラー二体が動きを止め、小刻みに明滅する。太陽の光とそれとを見分けられたのは、鷹の如き視力を持つ天乃と変化に敏感になっていた颯の二人のみだ。 「流石にここまでになると不味いですねー」 気の抜ける様な声ながら、しかしそこに孕んだ緊張感を隠さぬままにアゼルが光を放ち、不調を次々と癒していく。この距離なら、辛うじて瞳の癒しの歌も効力を発揮するだろう。 だが、それでも振り下ろされた一撃、そして二撃目の傷を完治させるには僅かに足りない。 飛び続けるにしても、この状況は『不味い』。 ――そんな意思を反映するかのように、なのか。ウコンバサラが突如として発射挙動とは異なる体勢に入ったことを、リベリスタは見逃さなかった。 三十秒。最悪の攻撃を受け止める為に与えられた福音の如き二十秒、最大効率を以て接近する好機、そう彼らが定めたその合間。 回復役が最大の回復を、囮は可能な限り備えを、そして高度を稼ごうと一様に色めき立ち――その『可能性』を失念していた。 先のプログラムの影響が招く時間の短縮と。 「……、え?」 リフレクトミラーの行動に対する、目測を。 ウコンバサラの最大の一撃を放つに当たり、全てのリフレクトミラーが動員されるのは当然のことだろう。 だが、それは飽くまで『発射時』だ。二十秒、ないし十秒の間フリーになったそれらが無防備な本体をカバーしないなど、有り得ない。 先行した者達を、ではなく。回復に寄与したアゼルと瞳、エーデルワイスとリュミエール目掛け陽光が跳ね、その視界を、そして意識を混濁させる。 「危ない、下がって」 辛うじて高度を制限していた天乃は、即座にエーデルワイスを。 「これは流石に危ないのよ、ルカが受けるわ」 ルカルカは、アゼルを。互いが互いにカバーしきれるのは、これが限界だったのかもしれず。 宙に舞ったリベリスタ達に、余りに無慈悲に、余りに圧倒的に、そして余りに最低な、天上の輝きが振り下ろされる――! ●救 ざざ、と風が啼く。 「……ここまで容赦ないとか、勘弁願いたいのだョ」 「ぼくも回復に回るよ……いや、回復はしているけど、そうじゃなく……!」 颯の呆然としたような声が、その全てを物語っているといってよかった。 やる気など無いと言わんばかりに立ち回っていた都斗ですらも回復に回り、状況の再構築に尽力した十秒があってこれだ。 リュミエールが、瞳が、エルフリーデが。業火一閃、それに次いで放たれた光線の元に避けることすら許されず地へ堕ちた。 落下に際して五体満足ではあろうものの、戦線復帰は絶望的だろう。 「少しでも隙を見せると負けるわ。確実に近付いて、落とすのよ」 「これ以上は、やらせない」 「守られてばかりでもいられませんしねー、ここは全力で回復させてもらいますよー」 ルカルカと天乃の声が相乗し、崩れかけたリベリスタの意思を纏めて練り上げる。そうでもしなければ、潰れる。 憶測に誤りがあったなら、戦闘間に修正する。持ち直せる。 アゼルと都斗の声が重なり、状況を維持させんとして癒しを増幅させる。 囮の数を欠いた状況に、ルカルカが先行して的を自らへと絞らせんと舞い踊る。 高く飛び、時に集中を交え、最大効率の一撃を与えんとして空を駆ける。 ――七十秒。 行動速度、そして再動効率の高いルカルカが最前線を張り、後を追うメンバーから離れ過ぎぬよう、調整を図る。 ルカルカ一人が二度、三度と光線に晒されるのはいい。既に何度も見たそれを、三度に二度は回避してのけた彼女であれば。 だが、多角攻撃によって後方をも狙われてしまえば、その危機は違ってくる。リフレクトミラー四基の行動をも奪い、 再動を交え多角攻撃を連発するウコンバサラの暴挙は、尋常なものではない。 行動が可能である以上、総員の回復が出来るとはいえ、既にエーデルワイスは運命の寵愛を使い果たした。 (下を見ると、恐ろしい景色が見えるのね……いや、考えない。そんなことを考えている時じゃない) 近付く、最悪への恐怖が京子胆を寒からしめる。震えが、止まらない。 それでも、戦わなければ。守るべきを守り、倒すべきを倒す。 「小生も囮になろう。ルカルカ、無理はするなヨ」 「助かるわ、ルカが可愛いからってアプローチが酷くて参ってたところなのよ」 颯がルカルカに追いつかんとして高度を上げた所で、ルカルカも軽口を叩きつつ、改めて上空に視線を向けた。 振り下ろされる光をすんでのところで避け、上昇する天乃、アゼル。 回復が僅かに間に合わず意識を失いかけても、しかし運命を賭して前へと踏み込んでいくエーデルワイス。 全員の全力を振り絞り、運命を削って、それでも高みを目指して飛ぶ。 先を行くルカルカと颯の高度が、百十メートルを刻んだ、その時。再び、ウコンバサラの砲口に光が満ちていくのを、リベリスタ達は感じ取っていた。 「堕とすまで、倒れない。倒れられ、ない」 天乃が、決意を顕に、眼光に力を込める。 「今直ぐにでもそこにいって、倍返しにしてやるヨ!」 颯の声が、高らかに諦めぬ勝利を叫ぶ。 「落とせれば後は何とか成るんだ。ここで耐えきるさ」 「まだまだ、あたいの魔力は尽きてませんからねー。どこまででも付き合いますよ」 都斗とアゼルが、守りを担うべしと気を張り、耐えると息を巻く。どこまでも、そう、死の淵ですら盛り返す、と。 「絶対に――止める――!」 京子が、運命すら霞ませるが如き銃を高く掲げ、叫ぶ。 光が、舞う。 刹那、アゼルが与えた再びの翼を以て、リベリスタは空を、駆けた。 ●退 落ちていく。 浮遊とは違う、自由落下が齎す数秒の恍惚。全身を焦がすそれを押して尚、ルカルカと颯、天乃の三人は落ちていく残り三人を抱きとめた。 地上まで後何メートルだろうか。背後から襲いかかる光を何度回避すれば、墜落の憂き目に遭わずに――いや。 全身を焦がす火が戦いに扱える運命をも燃やし尽くすまで、後何秒だ? 『そこの三人を預かり次第、全力降下。その三人も危険です、ブレイクフィアーを!』 幻想纏いが、知った声を吐き出すか否か。地上から上昇してきたと思しきフライエンジェ達が、傷ついた彼女たちを抱え、地上へと翼を返した。 落下とは異なる浮遊感。身を焦がす火を消し去る光の波長。これは、自分達ではなく…… 『……君達は最大を尽くしたのでしょう。だとすれば、これは僕の失策です。今は、休息を。全員、責任をもって――戻って来なさい』 最後の糸が途切れる寸前、確かにルカルカは、厭味ったらしいその声を聞いていたのだ。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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