●勇者様お願いです 「ばーしゃははしるーよーはーてまーでーもー、とくらぁ」 冷たい風をあびて馬車が走る。御者台では大層豪奢な格好をした若者がへらりと笑いながら調子の外れた歌を響かせていた。 「勇者殿、お考え直し下さい。いい加減次の街の開放に向かいましょう」 「あー? 却下だ却下」 馬車の中からかけられた声に、勇者と呼ばれた若者は振り向きもせずめんどくさげに答えた。 「まだカジノで貰える景品コンプリートしてないしー? 仲間の装備を完璧に整えてから次の街に向かう俺様まじ勇者」 「きゃー勇者様優しい!」 勇者の言葉に三人の女性がべたべたと群がる。彼女たちの格好は踊り子風だったり占い師風だったりと差はあるがどれも勇者と同じくかなり豪奢な物ばかり。 対し、先ほど言葉をかけた男……ピンクの鎧を着た騎士風の男は初期装備感漂うみすぼらしい装備である。 「つーわけで今日も洞窟でカジノ資金集め。ていうか街の開放とかまじめんどくせぇ」 面倒くさげに答える勇者の態度に――騎士の拳がギリッと音を立て握り締められる。 「しかしですぞ勇者様! この先の街はもう五年間も魔王に支配されている地域。住民達は勇者様が現れるのを心待ちにしておるのですぞ!」 騎士に代わって声をあげたのはてっぺんの髪の無い部分が全部左右にまわったかのようなすごい髪型の老人である。 「五年も支配されてるなら今更十日程度伸びたって別にいいだろ」 「カジノにこもってからすでに半月が経過しておりますぞ!」 我が意を得たりという表情の老人に、しかし勇者は一言で返す。 「それで?」 言葉を失う老人。憤慨し何か言おうとする騎士に、ずいっと前に出たのは商人風の太った中年だ。 「ま、ま、勇者様のお考えも正しいですぞ? 私どもも前に出て戦うからには装備を整えていただけた方が活躍できるというものですからな」 「はぁ? なんでお前らに装備がいるんだよ」 商人らしく丸く治めようとする彼の言葉に、勇者は心底不思議そうに返した。 「俺と女の子達で戦力は十分だし? ていうか女の子達を外しておっさんをパーティに入れる意味がわからねぇ」 「ゆ、勇者殿! 自分達はこの世界を救う為にこの命を捧げるつもりで――」 激昂する騎士の言葉を手でさえぎり、勇者はへらりとした笑みを浮かべる。 「今日も留守番ご苦労さん」 「――っ!」 救いを求めるように騎士はずっと黙っている全身緑の服を着た神官の男に目をやった。だが男に反応はなく、ただ虚ろな視線を地面に向け何事かつぶやき続けている……ザキ、ザキ、と。意味の無い言葉の羅列に仲間達は憐憫が込もった目をそっとそらした。 話は終わった――そう言うや勇者は馬車を降り女の子達の肩やら腰やらに手を回す。 「よーし今日も勇者様はりきっちゃうぞー?」 きゃーやだーあははうふふ――楽しげな声が洞窟へと消えてゆく……その後ろ姿を暗い眼がいつまでも見つめていた。 数刻後―― 「いやーまいった。やっぱ資金節約で道具持たずに洞窟潜るのは駄目だわ……おーい荷物持ち連中さっさと出て来い!」 洞窟から三つの棺桶を引きずり声を荒げる勇者。声に反応して馬車から四人の男達が降りてきた。 「まったくぐずぐずするなよノロマ――あん?」 勇者の前に並んだ四人……彼らは皆勇者に鋭い目を向ける。その手には、それぞれの得物が握られており―― ●勇者様大変です 「というわけ」 「いや、わからん」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)の不親切な言葉にリベリスタ総突っ込み。 「……彼らの見た目は私達にそっくりだけど違う世界の住民。アザーバイト」 なぜだかいつも以上に面倒そうな口調はともかく、イヴはかいつまんだ説明を始める。 「彼らと私達の大きな差は死の概念。彼らは死んでも施設でお金を払うと生き返る」 なにそれ安い。 「他にも世界を支配する魔王やそれを倒す運命をもった勇者がいたりするけど置いておく」 わぁばっさりだ。 「肝心なのは勇者が殺されそうになって逃げてるうちに、偶然開いたディメンションホールに飛び込んでしまったこと。勇者はこの世界で死んでしまえば生き返ることが出来なくなる」 いかに勇者といえど、疲弊したところを四人に襲われたら殺されてしまうとイヴは語る。 「……自業自得じゃないか?」 「私もそう思うけどあんなのでも自分の世界では期待を背負う勇者。こちらの世界で死んでしまったとなると、向こうの住民から恨みを買うかもしれない」 何が起こるかわからないし恨みは避けたい。だから勇者が殺される前に送り返して欲しいと。 「ぶっちゃけ送り返した勇者のその後とか関係ないから。とにかくこちらにはもう来れないようにしてね」 やっぱり面倒そうにイヴは言ったのだった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:BRN-D | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年01月12日(木)23:22 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●しかしまわりこまれてしまった! 山の中腹、大木にもたれかかり必死に息を整える勇者。その正面に立つ四人組は息こそ荒いものの勇者と比べればその消耗は少ない。 「な、なぁ冗談だろ? いや俺が悪かったってホント!」 両手を合わせて懇願しつつも勇者の目は抜け目なく周囲をめぐらせる――生き残るための打開の糸口を求めて。 「勇者がいなくなれば世界中の人々が困るんだ、わかるだろ?」 「使命を見失った勇者など勇者ではありませんぞ」 勇者の言葉に老人はにべもない。 「お、お前らだって勇者を殺したなんてしれたらとんでもないことになるぜ」 「覚悟の上。世界の為にはこうするべきだと思ったのです」 騎士の心は揺るがない。 「誰も気づかない場所に遺体を埋めてしまえば生き返らせることもできませんからなぁ」 装備をはいでしまえば誰も勇者とは思いませんぞと商人はそろばんを片手にどこか楽しげに笑った。 これはまずい、本気で殺される――勇者は最後の一人に狙いを絞る。 「頼むよ助けてくれ! 神に仕える立場だろ? 勇者の従者になるのが使命なんだろ?」 勇者は神官にすがるように必死にアピールした。それを静かな瞳で見下ろし、神官はゆっくりと口を開く。 「ザキ……ザキ……」 ――勇者、オワタポーズ。 「それでは勇者殿。お別れです」 そうして、戦士の剛剣が振り下ろされる―― ――寸前で止めさせたのは、山中を抜ける絹を裂くような女の悲鳴。 慌てる四人を置いて真っ先に駆け出したのは勇者だ。 「ゆ、勇者が逃げますぞ!」 「いや、声のした方に向かっている――我々も行こう」 商人は慌てるが、戦士は勇者の向かう先を確認し追いかける。 魔物に襲われているなら放ってはおけない――すでにここが別世界だということを知らない彼らにとって、人が襲われるのは日常であり食い止めるべき被害だ。 しかし、あんな勇者でも人を守ろうという気持ちはあるのか――少し感心したように戦士は勇者の顔を覗きこみ――すぐにため息をついた。 勇者、よだれをたらしてた。 駆けつけると、二人の美女が勇者達の輪に飛び込んできた。 「ああ勇者様方! どうか私達をお助け下さい!」 神官の足に弱弱しくすがりつくか弱き女性――の演技。 役者顔負けの迫真の演技を見せたのは『虚実の車輪』シルフィア・イアリティッケ・カレード(BNE001082)だ。 (英雄色を好む、の意味を身を以て知らしめるか) 内心でほくそえみ、体勢を低くして上目遣いで神官を見上げる。 見下ろす神官の視線は自然にシルフィアの大きく開かれた胸元に吸い寄せられ……先ほどまで死んだ魚のようだった彼は顔を赤くして目をそらした。 良い傾向ね――くすりと笑みを浮かべ、シルフィアは仲間に合図する。 一方の女性……『騎士の末裔』ユーディス・エーレンフェルト(BNE003247)は芝居というものにはうとい。 けれどできる事をしようと――生き様を見つめ、物事を生真面目に捉える彼女ならばこそのやり方で接する。 「お願いします、どうか……お助けくださいませ」 彼女は演じるという気持ちを捨てる。今の自分には彼らの助けが必要なのだと、心からの思いとして言葉を紡ぐ。 それはある意味で究極の芝居と言えよう。 ユーディスと対面した勇者は口元を緩ませる。 「いいねぇ! こういう優しい色気って最近感じたことなかったよ! 胸でけーし!」 脱ぐとすごいところを一瞬で見切る勇者様まぢ百戦錬磨。 一瞬心からの思いが嫌気に染まりそうになったけれど、ユーディスはそっと勇者の腕にしがみつく。 「あの、お願い致します。どうか魔王の手先を倒してくださいませ」 その言葉に合わせるように、茂みをかきわけ複数の人影が現れた。 ●魔物のむれがあらわれた! 真っ先に勇者達の目を引いたのは彼だった。 「コケケェー! ゆーしゃ一行、見つけた、見つけた、喰らう……なのであるー!」 背は高くすらりとした長い足のスーツ姿にふさふさした尾羽、見事なとさかの鳥頭……その上先の言葉はえらく美声だった。なにこのクリーチャー。 「ちょま、これなに、まじでこれなに!」 「おおお、恐らく新種の合成された魔物でしょう……あの猛々しいとさかから、この魔物は『地獄のとさか』と名付けましょう!」 全員騒然老人興奮。それに合わせてか『常世長鳴鶏』鳩山・恵(BNE001451)は舌なめずりして魔物っぽさを出している。この鶏ノリノリである。 「キャハハハ! 引っ掛かった引っ掛かったぁ!」 キンキン声を響かせた『白詰草の花冠』月杜・とら(BNE002285)は低空飛行してのキモカワ系マスコット路線だ。 「あれは、しかしMPが足りない系の上位か?」 どこかのんきな勇者の言葉に、とらはにひひといやらしい笑み。 「ここは闇の領域、命を落としたらもう二度と生き返れないよぉ」 とらの言葉に勇者達は驚愕した。 「本当の事だ。あんな長期滞在していれば罠を仕掛けられて当然だろう?」 言葉を補足したのは『一葉』三改木・朽葉(BNE003208)、魔王に寝返った魔法使いという役どころか。 やはり勇者のせいかと憤る四人に朽葉は鼻で笑う。 「お前達も同じだ。怒りで我を忘れ正体不明の穴に飛び込む間抜けが」 一行は返す言葉もなく言葉を詰まらせる。 「ウフフ、あのお方の策が完璧とはいえ、ここまで簡単に引っかかると笑えるわ」 暗に魔王の手下であることを匂わせる内容をオネエ言葉で発する17歳男性『寝る寝る寝るね』内薙・智夫(BNE001581)。ホントに演技なの? そのあまりにも様になった姿に『飽くなき挑戦者』ネロス・アーヴァイン(BNE002611)をはじめ仲間達は必死に笑いを抑えている。 (やっておいてなんだけどオカマ気持ち悪い……) 智夫君、何故やった。 「ようこそ、勇者ご一行」 微笑を浮かべ芝居かかった動きで彼らを迎えるのは『原罪の蛇』イスカリオテ・ディ・カリオストロ(BNE001224)、その大物感に一行がざわつく。 「あれは魔王では?」 「いやいやさすがに……第一占領軍司令とかそんな感じでは……」 会話に構わず、イスカリオテはすいと手を差し伸べる。 「勇者が目障りですか? であるなら此方へ来なさい。魔王様もさぞ御喜びになる」 途端彼らの顔が引き締まった。その表情の変化を見て取りほうと声を漏らす。 「使命感など当に消え失せたかと思いましたが……存外しぶとい」 魔王の手下にまんまと嵌められた……それを理解した今、一行の表情は世界を守るそれへと変貌した。 彼らの理性を引き戻せた事を確信しイスカリオテは宣言する。 「では仕方ありません……勇者共々ここで死ね!」 そして戦闘は開始された。 ●魔物のむれはこちらがみがまえるまえにおそいかかってきた! 「コケケケケェ!」 真っ先に飛び出したのは地獄のとさか……もとい恵だ。前衛を抑えそのまま騎士に切りかかる。弱点を突く的確な一撃は騎士を傷つけるも、タフな騎士は気にした風もなく応戦する。 「勝負よ耄碌ジジイ!」 同じく前衛に出ながら智夫は意思を閃光に変え一行をまとめて攻撃する。今日は役割上ナイチンゲールフラッシュとは叫ばない。 「はっ、レベルが違うわ小娘!」 世界観の差なのかレベルとか言い出す老人。あと今小娘って言った? しかし彼らの自信の通り半分は避け半分は防ぎ……被害の無さに彼らが強敵であることが見て取れる。倒すことが目的であれば、八人でかからねば到底不可能であろう。 (でも倒すのが目的じゃないんだよねぇ) そう、魔物の群れ……もといリベリスタ達の目的は勝利じゃない。戦いを通じて彼らに勇者の使命感を取り戻させることが目的だ。 これは心を変える為の戦い、その為に必要なのは持ちこたえること。とらは智夫と時間差で同じく閃光を浴びせかける。 光が目を焼き、戦士と老人の動きを鈍らせる。時間稼ぎの準備は着々と行なわれていた。 魔物の放つ閃光からかばうように勇者はユーディスの前に立つ――実際は彼女は攻撃範囲には入っていなかったが。 「あ、ありがとうございます」 身を挺して勇者を庇うつもりが逆にかばわれ焦るユーディスに勇者はへらりと笑いかける。 「巨乳を……女性を守るのも勇者の使命だからな」 その姿を見やり、顔をしかめながらも騎士は思う――言い方にさえ目をつぶれば、勇者の行動は勇者に相応しい。なんだかんだで目の前の者を見捨てるタイプではないのか…… 勇者パーティもやられっぱなしではない。神官はお返しとでもいうように信仰を固めまばゆい光を練り上げる。その強い光はリベリスタ達に―― 「神官様――」 放たれる直前、怖がるフリをして抱きつくシルフィアに阻止された。押し付けられた胸に、信仰は飛んでいってしまったようだ。 ちょろいわね――シルフィアさん、これで商売できるかも。 戦いは乱戦となっていく。 恵が、ネロスが、智夫が戦線を支える後ろで朽葉は体内の魔力を循環させ魔力を高めていた。 (彼らの心理面に変化が現れるまで膠着状態を保つ――) 自身の魔力効率をよくするのはその為の定石。朽葉同様イスカリオテもまた卓越した頭脳を駆使し、より深く敵に影響を与える一手を練る。 状況は悪くない……しかしそれは今のところだ。彼ら同様、勇者一行にも動きを取らない者がいる。 ――うまく負けることが理想ですが、そう簡単にはいかないでしょうね―― イスカリオテの思案は異世界の勇者達の持つ、秘めた力への期待でもある。神秘探求こそが彼の存在意義であるならば。 次手も似た流れが繰り返された。恵のレイピアが再び騎士を傷つけ、智夫ととらが強い光を浴びせる。 流れは順調だった……ここまでは。 そしてここからが勇者パーティの本領発揮となる。 老人の周囲に浮かび上がる魔法陣。そこから漏れる魔力のすさまじさにリベリスタは慌てて体勢を整える。 だがそれを支援するように放たれた神官の光に、恵を除く全員が目を焼かれた。 「これがわしらの王道戦術よ!」 元々朽葉は避ける事を得意としない。それが目を焼かれ足を止めたならなおさらだ。叫びと共に放たれた雷に全身を打たれ絶叫をあげた。 倒れかけるも、強敵相手に回復役の自分が倒れるわけにはいかないとフェイトを燃やし朽葉は踏みとどまる。 目の前で放たれた雷をぎりぎりでかわし、後方を確認した恵はその被害に目を見張った。リベリスタ全員その被害は甚大。 (こ、これは強敵なのである!) その時裂帛の気合が放たれ、騎士が剛剣をネロスに叩きつけた。すさまじい力に意識は刈り取られ、ネロスはそのまま地に伏せる。 戦況は勇者側に大きく偏ったかのように見えた。事実そうなっていただろう―― 彼がいなければ。 地面が熱砂へと変わっていく。勇者達が異変に気づいた時にはそれは彼らに意思持ってまとわりつくかのように襲い掛かった。 イスカリオテだけが使う灼熱の秘儀。それは繊細に綿密に練り上げ計算された動きで操る彼だからこその力。 ――まだ、天秤を崩すわけにはいかないのですよ――つぶやき開かれた手を閉じる。 同時に熱砂が勇者達を押し潰した。 「ええい、なんだこの砂は!」 勇者を除く全員が砂に身体の自由を奪われる結果となり、彼らは押し切るチャンスを失った。 同時に打たれ弱い老人の体力が危険水準に入る。痛みにしかめられた老人の顔は、すぐに驚きの表情へと変わる。 勇者が自分をかばうように前へと出たからだ。 「な、なんのつもり――」 「あん? お前らのせいで俺はまともに戦えないからな。代わりにお前らが働かないと俺と女の子が危ないだろうが」 当たり前だろとばかりに鼻を鳴らす勇者に、老人は複雑な思いを抱いていた。 戦いは膠着状態へと切り替わる。 敵の動きが止まったうちに癒し手達は急ぎ仲間の傷を癒し始めた。とらと朽葉の二人が揃っていたことは、強力な全体攻撃を持つ勇者達を相手にするのに有効だったと言えよう。 一方で前衛の数は減ったが、騎士の相手を担当しその攻撃を危なげなく回避し続ける恵の存在がなければ倒される者はもっと増えていただろう。 智夫も負けてはいない。閃光をくり返し少しでも勇者達の動きを鈍らせようと戦い続ける。イスカリオテもそれに続き、神官のそれも重なって戦場はまぶしい光に覆われ続けていた。 「――っ! わ、ワタシの顔に傷をつけたわね!」 敵味方とも動きが制限され続けている戦場で、急に斬りかかれ智夫は慌てて叫ぶ。慌てたわりに役になりきってるけど。 すばやい動きで切り込んだのは勇者だ。騎士には及ばずとも鋭い斬撃で前線を押していく。 その背中に神官は勇者の従者になるべく修行を積んでいた頃の、あこがれの勇者像を見た気がした。 「貴方方と私達、何が違うと言うのです?」 戦闘の合間もイスカリオテは言葉を紡ぐ。 気に入らないから勇者を殺す、それならば同じではないか――その言葉は彼らを大きく揺るがせる。 世界の為と考えたつもりが、所詮はただ自分達が我慢できなくなっただけだと――いってみれば欲望をあらわにしただけだと気づいてしまったから。 「人々に希望を与えられぬ勇者一行など、此処で潰えてしまえば良い」 朽葉の言葉もまた彼らの心を抉った。人々の為と言いながら、自分達の怒りや屈辱のことばかり考えていたのではないだろうか―― 彼らの心の葛藤をシルフィアはつぶさに観察する。 彼らの使命感は取り戻されている。あとは勇者への不信感だけ―― 「皆様! 勇者様と協力しない限り、魔王を倒すことは出来ません!」 シルフィアの言葉に彼らは躊躇する。そんな彼らに問いかけるのはユーディスだ。 「皆さんにとって理想の勇者とはどんな者なのですか」 黙り込む騎士達。一寸の後。 「人を愛し歩む者」 「人を守り戦う者」 「人を率い導く者」 彼らは唱える。理想には程遠く、少々性格に難はあるものの……と苦笑とともに付け加えつつも、彼らは認める。 「あの方は勇者だ。人々の為勇者を支えることに、もはや迷いは無い」 ●魔物のむれをやっつけた! とらは持ち前の観察眼で一行の顔を眺める。多くの者は迷いを捨て、商人は仲間の様子に流れに任せた方が得と判断したようだ。 もう大丈夫みたい――仲間に合図する。 「ごっめーん、魔力尽きちゃった!」 朽葉の言葉で撤退を始める魔物のむれ。逃がすまいとする騎士にとらの気糸が絡みつき阻止するが、智夫の鞭は老人をかばった勇者に弾かれた。 「おらぁ! 勇者様にケンカ売ったんだ、ゴールドくらい置いていきやがれ!」 勇者の指揮で再び放たれる王道戦術。閃光と雷の連続攻撃にとらとイスカリオテはフェイトで耐えるが朽葉はついに力尽き倒れる。 「ば、馬鹿なっ! これが選ばれし者の力だと言うのか!」 イスカリオテは迫真の演技と共に走り去る。 「コケェ! 魔王様に言いつけてやる、なのである!」 「お、覚えてなさいよ!」 追っ手を牽制しながらネロスと朽葉を抱きかかえ撤収する恵と智夫。名前を並べると夫婦みたい。 「うわぁーん! とらを置いてかないでぇ」 とらの叫びと共に激しい戦いは終わりを迎えた。 「やりましたわ! 魔王の手先を倒したのです!」 「ありがとうございます勇者様、皆さん」 シルフィアの、ユーディスの言葉に一行はうなづく。 「さて……帰るかお前ら」 相変わらずのへらりとした笑み。しかし怒りはもうわいてこない。 これからも彼らには色々あるだろうが、今回の件で得た物は沢山ある。 彼らの様子にもう大丈夫だと理解し、安心した笑顔でもう一度お願い致しますと伝え、ユーディスは彼らを送り出した。 「帰っていったね……かつての気持ちを思い出してくれたらいいね」 彼らが潜っていったゲートの前で笑顔を見せる智夫17歳男性。 「しかしやっておいてなんであるが……私ってモンスター顔なのであるか?」 今更です恵さん。 どんな世界か興味は尽きませんが―― ゲートを見つめ、その先の世界に想いを馳せるイスカリオテ、その視線は―― 「じゃあ壊すよぉ……そぉいっ!」 とらの雄たけびで永久にさえぎられた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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