●誕生 山梨県、某所――。 室内にシーツを掛けられた一人の青年が横たわっている。 何処からともなく、力強いバリトンの声が男の身体の中に響いた。 (今宵、新たな『混沌の魔人』が生まれるのだ――) やがて覚醒した男は胸の辺りを苦しそうに抑え、その身体はミシミシと音を立てながら、首から下が人間の形態に飛蝗の様な外殻を纏わせた姿へと変貌していく。 「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」 彼は叫び声をあげると、窓を破って闇の向こう側へと跳躍する――。 ●依頼 三高平市、アーク本部――。 ブリフィングルームへと入ってきたリベリスタ達を、草薙神巳(nBNE000217)が出迎える。 「こんにちは、初めましての人も多いかもしれないから自己紹介だけ。 本部から皆のバックアップをする事になった草薙と言います。よろしく」 軽く挨拶を各人と交わし、本題へと移行する神巳。 「『混沌の魔人』と呼ばれるノーフェイスを倒すのが今回の目的。フェーズは2」 エリューションの因子を、その身に取り込んだ哀れな人間。 「彼が『魔人』となったいきさつは、良く判っていない。 けれど今、彼は山梨の奥地から横浜を目指して進んでいる様なんだ。 今夜中に西からやって来る魔人を、待ち受けて撃破してもらいたい」 神巳は地図を広げ、リベリスタ達に魔人の進行ルートを指し示す。 山梨方面から相模湖を抜け、横浜へと向う『魔人』。 深夜に通りかかる相模湖自然公園辺りが迎撃場所に適しているだろう。と、彼は言う。 「『魔人』を放っておけばフェーズが進行して、手に負えなくなる可能性もある。くれぐれも頼んだよ」 神巳はリベリスタ達に軽く頭を下げつつ、一人ずつと握手を交わして送り出した――。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ADM | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2012年01月18日(水)23:42 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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●待伏 山梨県、相模湖自然公園――。 リベリスタ達は『混沌の魔人』を待ち受ける為の準備を着々と進めていた。 一般人には確実に脅威になるであろう『混沌の魔人』を進行方向の斜め前方を陣取る形で待ち受ける後衛班達も、全員準備は怠らない。 懐中電灯片手に『子煩悩パパ』高木・京一(BNE003179)が『魔人』が到達する間までの時間を集中に費やしていた。 「山梨から横浜まで、彼は何を目指しているのでしょうか?」 それに同意を示す『嗜虐の殺戮天使』ティアリア・フォン・シュッツヒェン(BNE003064)が待機するメンバー全員に体内の神秘の力を活性化させていく。 「横浜へ駆け抜ける魔人、ねぇ。何が目的なのかしら」 『みにくいながれぼし』翡翠夜鷹(BNE003316)は『魔人』の進行方向へ唇を引き結んだ。 「とりあえず、危なそうなんで止めたらいいんだよな?」 夜鷹の言葉を聞きながら、自らの集中力をあげる『リトルダストエンジェル』織村・絢音(BNE003377)があっさりとした男性口調で言葉を返す。 「分かっているのは放置しておくと不味いってことだけだが、それだけ分かってりゃ十分だな」 ガスマスクをした『もそもそ』荒苦那・まお(BNE003202)は二つ名の通りもそもそと集中力を高めていく。 「……止めなくてはならないのです。この先は、まおも魔人様も行ってはいけませんから」 まおは、『魔人』に対して悼みを感じているのだろう。だがその悲しげな表情はリベリスタ達にはわからない。 その脇で一緒に物陰に隠れ、山梨県側を暗視ゴーグルで監視しているのは『FunkelnAlbtraum』フィルシーユ・ツヴァイル・ライゼンバッハ(BNE003289)だ。 「あはは♪ 公園の外に出させない、なんて簡単な仕事じゃないですか。さっさとやっちゃうですよ♪」 相手の映像をブリーフィングルームで見てから、どうにも落ち着きがない様子の『息をする記憶』ヘルマン・バルシュミーデ(BNE000166)。 「な、なんかすごい強そうな感じじゃないですか…!」 ヘルマンは膝の震える自分に喝を入れる為に、気合を全身に行きわたらせて爆発的な闘気を身に纏う。 前衛班を相模湖自然公園では高い場所で身を隠せ、なおかつ一斉攻撃が出来る位置へ誘導するのは『幸せの青い鳥』天風・亘(BNE001105)だ。 亘はメンバー内最速の自分へ更に速度を高めさせると、集中しながら一人呟く。 「魔人が生まれる理由……何か一つでも情報を得ないと」 ワンタッチで点灯出来るアウトドア用のLEDランプに新しい乾電池を入れて準備を怠らない『星守』神音・武雷(BNE002221)が、『混沌の魔人』に思いを馳せる。 「彼がどういう理由で魔人になったのか判らない。望んでなのだろうか、無理やりなのだろうか」 誘導された位置で一人一人が後衛を庇いつつ邪魔にならない位置に身を潜めた『飽くなき挑戦者』ネロス・アーヴァイン(BNE002611)が集中を高めながら、武雷の言葉を引き継ぐ。 「世界に仇なす、あまねく『ノイズ』は排除する」 そう、どんな理由があろうとも。 この公園を通過点として進撃しようとする『魔人』を止めなければならないのだ。 遠く魔人の咆哮が聴こえる。 戦いの火蓋は間もなく切って落とされようとしていた。 ●奇襲 公園内に、『魔人』の足音が聞こえる。 ゆっくりと蝕むような音ではなく、何か周囲の木々や遮蔽物を打ち壊して進むような、慌ただしく駆け抜ける音。 ここまでの距離をいまだ息ひとつ切らせずに全力で走る『混沌の魔人』が、リベリスタ達の視界内に入ってきた。 目視出来た瞬間に『魔人』の戦力を把握すべく異常な目視力を発揮した武雷。 「おれの役割はこちらの戦力を維持する事とチャンスで攻撃に加わる事。まずはチャンス演出の役割を果たす」 異常な速度で一夜にしてこの相模湖に着いた『魔人』を、待ち伏せしていなければ奇襲をかける事はおろか、追いつく事もなく振り切られていただろう。 今日のメンバーで言えば、亘の次に『魔人』が早く、誰よりも堅い。 特に脚が異常な堅さである。どうやら身体の末端に向けて堅さを増しているようだ。 アクセスファンタズムで全員が連絡を取り合って、一斉にリベリスタ達が『混沌の魔人』へ刃を向ける。 どんなに魔人が恐ろしい防御力を誇っていようとも、全員で集中した攻撃が効かない訳がない。 ネロスは跳躍して一撃を放つ。 「刃の弾かれる音は、いつ聴いても、不快なものだ」 ネロスの一撃に重なるように亘は連続攻撃をしかけ、武雷が膂力を爆発させて叩きつける。 ヘルマンが驚異的な蹴りを魔人の顎に当て、まおが全身から放った気糸を魔人に絡めようとした。 フィルシーユが軽やかに笑いながら、相棒であるVerderbenZweiKanoneで中距離からの狙撃を試みる。 「壁になってくれている人達もいるわけですから、ぶっ放す訳にはいかないですよ」 絢音が後衛側から隙間を埋める様にライフルで牽制射撃をしていく。 そして、夜鷹が羽根を広げて低空から吹き上げたかまいたちで小さな傷を幾重にもつける。 最後衛では、ティアリアが前衛に輝く光のオーラを鎧に変えて与え、京一が守護結界を展開させていった。 「うおおおおおおおおおおおおお!」 『魔人』の雄叫びが上がる。 その声は明らかに正気を失っている事が見て取れた。 先制攻撃の首尾は上々、そのまま真っ先に脇へとすり抜けた亘が澱みなき連続攻撃で『魔人』に切りかかる。 「ふふ、風と共にある自分を……捕まえられますか?」 『魔人』は亘の剣戟を受けてなお、全身の堅い末端を――腕を防御に使い防ぎながらも傷を負っていく。 先制時に左後ろに回ったネロスが、身体能力のギアを最高値まであげた状態で『魔人』へと素早く連続した斬撃を解き放つ。 それに反応して、『魔人』は強烈な脚力の一撃でネロスの腹部を蹴りあげた。 疾風にも負けぬ圧倒的な速力を持って、その蹴りが雷撃を帯びて貫くとネロスがその場に崩れ落ちる。 いっそ正面からの方が恐怖する気持ちを振り切れると、ヘルマンが倒れたネロスと入れ替わるようにして真正面から『魔人』を迎え討つ。 「わたくしには蹴ることしかできませんけど、全力で! 蹴らせていただきます!」 掌でしか出す事の出来ない能力を何故か全て脚に応用させたヘルマンが、蹴りを当てると同時に破壊的な気を叩き込む。 敵の外側が幾ら堅くとも、内部から破壊すればダメージを与えられるだろうという予測は間違えていない。 武雷が後衛、前衛の位置が分かり易くなるようにLEDライトを投げて周囲を照らしていく。 右後ろに回ったまおが、伸びる破滅的な黒いオーラを魔人の頭部目掛けて撃ち放った。 「苦しいですか。痛いですか。頭の中はぐっちゃぐちゃですか」 リベリスタ達の絶え間ない連携攻撃に、『魔人』の胸部にある膨らみの内側が、高速で円を描くように回転率をあげていく。 その全てを振り払うように、『魔人』は驚異的な跳躍で空を舞った。 ●代償 いとも容易く前衛を超えた『魔人』から桁違いの重い蹴撃が、上空へ逃げようとしていた後衛の絢音に打ち放つ。 緑色の折り曲げられた関節が、真っ直ぐに貫こうとする。 常に『魔人』の軌道を確認していた夜鷹が、同じく空を飛ぶと絢音を庇ってその一撃を一身に受け止めた。 絢音の目の前で、夜鷹の骨が折れるような潰された音。 誰か聞き取れない、夜鷹の背中越しに感じる、守るべき仲間の声。 「ここで……膝をつく訳にはいかないんだよ!」 仲間の声が、夜鷹に運命の糸を手繰り寄せさせる。 ティアリアが天使の声を味方に届けるも、完全に吹き飛ばされた者たちまでは届かない。 京一も必死でそれ以上の跳躍を止める為に、符によって呪縛を試みていた。 武雷の置いたLEDライトのおかげで、後衛の狙撃照準はクリアだ。 フィルシーユが何度も胸部を狙ってVerderbenZweiKanoneを放ち、傷つけてはいるものの大きな変化が無い。 だが、高揚したフィルシーユは手数で勝負と言うように胸部を狙い続けた。 「あはは♪ くらいやがれです♪」 絢音も飛び上がったままで、魔弾で瞬時に射抜いていく。 先程、夜鷹がやられた報復とばかりに集中と魔弾の狙撃を繰り返す。 「そら、地面に縫い付けてやるよ!」 変化がなくとも、フィルシーユと絢音の狙撃は前衛を追いつかせるまでの牽制に充分役立っていた。 亘が『魔人』に追いついて、後衛を庇いながら何度も剣戟を重ねて確実にダメ―ジを与えていく。 「絶対に公園の外にだけは行かせませんよ」 更なる打撃を後衛に与えようと防御の代わりに薙ぐ『魔人』の右腕を、武雷が確実にガードして防いでいく。 「少を斬って多を生かすのが、受け継いだおれの剣。少を活かして少を断つのが、おれが授かった盾」 立ち上がった夜鷹も後衛を守りながら追撃に加わった。 何度も攻撃を与えても飛びかかってくるリベリスタに苛立ちを覚えた『魔人』が、跳躍しようと膝を折る。 魔人の膝関節がかくりと曲がった。 昆虫のそれと変わらぬ奇妙な関節の曲がり方が、元々人間である事を忘れさせる。 すかさず、まおが『魔人』の背中に面接着で張り付いた。 蜘蛛である事を証明するかのような気の粘着がまおの全身と魔人の背中をぴたりと融合させる。 貼りついたまおが魔人の耳に語りかけた。 「進むことはいいことです。でも魔人様がこのまま進めば、同じような目に遭う人が増えてしまうかもしれませんから」 だから、全てを自分たちにぶつけて欲しいと願うまお。 『魔人』が振り払おうとしても、まおは決して離れることなく、相手の背中に張り付いたまま。 このままもう一度跳躍を試みようと、『魔人』の胸の膨らみが内側で何か回転する様な音を上げる。 追いついたヘルマンが隙を見て、その胸部へ狙いを定めた。 「……これから! わたくしなりの誠意をもって! あなたを殺害させていただきます!」 燃え盛る炎を脚に纏わせて、ヘルマンの重い一撃はまおと共に『魔人』の内側の何かに、ヒビが入る。 『魔人』が言葉にならない咆哮をあげると、まおと一緒に崩れ落ちた。 胸部の膨らみが乾いた音を立てて地に転がり落ちると、その身体が飛蝗のような緑色から人間らしい肌色へ変貌する。 魔人から叫び声が上がった。 まおが共倒れになる瞬間、わずか紙一重で運命を手繰り寄せる。 だが、『混沌の魔人』に手繰り寄せられる運命などない。 飛蝗のようだった両足が、人間では有り得ないあらぬ方向に曲がった。 ●改造 リベリスタ達から受けた攻撃は、人間へと戻った後でも『魔人』に蓄積されている。 話を聞くために天使の歌で癒そうとも、彼は人として、もう間もなく事切れてしまうだろう。 ヘルマンがマスクの外れたまおを抱き起した。 「……ありがとう。ごめんなさい」 運命を手繰り寄せて魔人と同じ道を辿る事を退けたまおが、いいえ、とヘルマンへ首を振る。 無事な絢音が公園の外へ吹き飛ばされたネロスを飛んで回収しに行く。 ティアリアの歌う天使の歌が、傷つきすぎた面々を癒していった。 そっと、まおが「魔人様」と近づいて話しかけた。 口部が蜘蛛のまおを見て、『魔人』は人間の言葉を呟く。 胸部の何かが外れた事で正気に戻ったのだろうか。 「お前も……、あの儀式を受けたのか」 何かを勘違いしているのかもしれないが、まおはあえてそれを否定しようとはしなかった。 遠く、武雷が拾いにいった胸部であった何かを見詰めて、『魔人』が呟く。 「俺は、行かなければ、ならなかった……あの『混沌』の場所に…………」 じっと、大きな瞳でまおが『魔人』から視線を逸らさない。 飛蝗のような緑色から肌色に戻っても、関節が昆虫のままだった自分を見て『魔人』であった男は笑った。 蜘蛛の口部をした彼女と何ら変わりがない、これは儀式を受けた夢の続きなのだろうかとぽつりぽつりとこぼしていく。 「何故かは、わからない……。あの場所に行けと……頭の中で、声に、言われた……」 もう、喋る事も苦しくなっていた『魔人』に、京一の持つICレコーダーの準備完了したのを見て取ったまおが核心へ切り込んだ。 「お願いします魔人様。魔人様を苦しめた人は誰なのでしょうか」 声にならない嗤い声を、『魔人』であった男が切れ切れにあげる。 「魔人、さま……か。俺を、こんな身体に、した……のは……ハー、オ……ス…………」 『ハーオス』について重ねて問おうとしたまおだったが、視線の先の男は既に事切れていた。 武雷がかつて『魔人』だった男の胸部から、落ちた何かを拾い上げてナイフで外殻を外す。 中から現れたのは、赤い円盤状であるダイナモの様な形をした、不可思議な円形の金属だった。 亘がピジョンブラッドにも似た血の様に赤い円盤を、持ち帰る為にそっと指で触る。 すると、外気に触れたのが原因か、砂のように塵になって崩れ落ちた。 一体、この事件は誰が救われたのだろうか。 他者の犠牲が出る前に食い止められたものの、一人の男が死んだ。 『ハーオス』という存在は、このような事件を繰り返していくのだろうか。 謎が謎を呼んだまま、手元に残った結果は『ハーオス』という言葉が残るICレコーダーだけ。 それでも、悲しみを乗り越えてリベリスタ達は戦っていくしかないのだ。 この結末を、原因たる何かを求めて――。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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