●魑魅沸き立つ 芯まで冷え立つ寒さの中、忌々しげに吐き出す息は白い。 冬の夜空は、どこまでも澄んでいる。雪が降っていないだけ僥倖か。 正月の夜の哨戒任務。リベリスタにしか出来ない任務ではあるが、どこまで貧乏くじなんだ……。 吐き出した溜息は視界を白く染めた。 横浜市三ツ池公園に穿たれた『閉じない穴』は周囲環境の安定性を著しく奪っていた。 不定期に繋がるリンクチャンネル。現れるアザーバイド。不安定になった環境より多発するエリューション事件。 三ツ池公園は依然、危険な状態となっている。 アークの管理を必要とし、リベリスタが哨戒任務に当たる程に……。 横浜の夜を妖異が走る。 車が、獣が、音が、炎が、器物が、死者が、生者が、あらゆるアヤカシの者が、本能に任せ、横浜の夜を跋扈する。 彼らの心に浮かぶ言葉は一つ。 『呼ばれている。往かなければ』 言葉に忠実に、ただ忠実に彼らは群れを成し、夜を駆ける。 妖かしの夜。 百鬼夜行。鬼と妖怪が夜を往く。 目指すは三ツ池公園。あの虚ろの淵こそ彼らの終の地。 ●本部より哨戒中のリベリスタヘ緊急入電 『突然だけれど、時間がないので手短に行くわ』 通信機越しに聞く『リンク・カレイド』真白 イヴ(nBNE000001)の言葉はいつも以上に余裕が無い。 『10分後に貴方達のいる三ツ池公園正門に向かって、その数40を超えるエリューションの群れが現れるわ』 成る程、急な話だ。だがしかし、この公園を取り巻く空気の異様さはそれだけではないだろう。 『エリューションの目的は、閉じない穴とその周囲に現れたアザーバイド。集められただけの資料を送るから、出来る範囲で目を通していてね』 言うが早いかメールの受信。画像付きのエリューションの資料が並ぶ。 『どうか、無事で』 メールの最後に、一言『がんばれ』の文字。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:築島子子 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年01月15日(日)21:43 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●百鬼夜行の終・壱 ヒョー……キィー……。 酷く寂しく不気味な声を響かせ、それは薄く暗い靄より姿を現す。 猿面獣躯の巨獣は、その未だ不確定なる姿を力強く大地を蹴り上げ、宙へと舞う。 その身に纏うは炎華雷電、摩訶不思議なる妖力妖術がその力を行使する。夜空を照らしあげる轟く雷鳴。 その驚異的な威力に、死力を尽くしきった戦士達も耐え切るも難く……そして―― ●羅生門の鬼 冷々と冷え切った月天の下、これより起こるは狂乱の夜。 元旦というハレの夜を魑魅魍魎共が奔る。 妖共が目指すは横浜市三ッ池公園。彼の地に開いた『穴』を、其処より這い出す魔剣を携えし異邦の侍。魔剣の露へと消える事を至上とする、魔性に魅入られし魔物共の夜が始まる。 百鬼夜行。 妖が妖とし、鬼が鬼となり、世界を蝕みし怪生が集う。 それは踊る様に、哂う様に、酔い痴れる様に、集い、萃まり、群れを成し、夜と為す。 三ッ池公園。正門を食い破り、『穴』を望み、そして悲願を達成しよう。 冷々と冷え切った月天の下、狂乱の夜に備え、門は閉じる。 決戦の地たる三ッ池公園に於いて、フィクサードの封鎖作戦の最大の要所であった正門。 運命をねじ伏せたリベリスタ達の奮闘により開けられた地を守護するため、再び封鎖する。 ここは、人世より隔絶された境界の門。現在に生まれし羅生門。 守護するは人界に生まれし鬼、異能を身に宿し者リベリスタ。 武器を構え、灯を掲げ、これ以上は許さぬと、百鬼の夜に挑む。 ぴちゃりと濡れた音を立てて、水で出来た人型を視認した瞬間、眼前の空間が爆発するような氷雪に見舞われた。 「來來! 氷雨! 凍りつけ!」 震える膝に活を入れ、恐怖に戦慄く肺に冷たい空気を送り込む。恐怖を強引に抑えこみ飲み込んだ『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)はきりっと眦をあげ、魔術書を構える。少女の唇より紡がれる力ある言葉が夜暗を切り裂く氷雨を呼ぶ。 百鬼夜行の第一陣。雑多なる弱妖と獣妖から成される一団は、門とリベリスタの姿を確認すると勢いを上げ、氷雪の嵐を突き抜け正面より衝突する。門にバリケードにリベリスタの持ち寄った4WDやバイク、車により更なる強化を生された門の護りは強固。 だが、エリューションもそれだけでは留まらない。後方に位置していた3匹の獣妖。小柄で愛くるしい見目でありながらも古来より人を化かすと伝わる狐狗狸の類。豆狸は大きく息を吸い、膨らんだ腹鼓をポンッと軽妙に鳴らす。 ポンッと煙り立て現す姿は、3人の雷音。獣が変化した少女が声を揃えて叫ぶ。 「「「來來! 氷雨! 凍りつけ!」」」 轟き荒れ狂う氷雪がその牙をリベリスタ達に突き立てた。 その精度、威力は少女の物を、小さき獣は我が身に降りかかりし牙をそのまま放つ。 恐ろしい威力であった。恐るべき精度であった。それ故に、リベリスタの被害は甚大な物となった。 だがしかし、誰も倒れていない。誰も膝を屈してはいない。 大狢が怒りの咆哮を上げ、突進する。巨躯による体当たりを『T-34』ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)がバックラーにて巧みに受け流し、いなす。 任務を胸に、秩序の守護者の誓いを掲げる。ウラジミールの大振りのサバイバルナイフは法理の刃となり大狢を切り裂いた。 「任務を、遂行する」 猛る獣を深とした瞳で捉える。大狢を止めたウラジミールを横に散開するリベリスタ。 「カーッ。右も左も敵だらけだ。ったくよう、燃えるぜ!」 強気に笑う『錆天大聖』関 狄龍(BNE002760)。両腕の手甲をピンと伸ばし、エリューションの群れに向ける。 「さあ、ド派手に行くぜ! 風に揺れてる大事な玉も一つしかねぇ大事な命(タマ)も、ぶっ潰してやるから安心しなぁっ!」 銃弾が飛び交う、嵐のように、華のように、無造作かつ的確な弾道は瞬く間に妖魔共の傷を増やしていく。 そして、破魔の神光が視界を埋める。かぶさるように、もう一度、神光と銃弾が蹂躙する。そして再びエリューションを襲う氷雪の刃。 薙ぎ払う様な全域攻撃の影で目眩く斬撃砲撃の数々が打ち据えていく。 まずは、水分を完全に凍結させて水童子が崩れ去る。そして、あとを追う様に豆狸も次々と倒れ伏せ、残る怪生は、鬼の車に飛び狂う太鼓、そして、大狢。 みるみる数を減らした敵に、『薄明』東雲 未明(BNE000340)は、表情を和らげた。 (この調子だと早く帰れそうかしら?) お正月は初詣以外は寝正月だと決めていたのだが、今回の様な貧乏クジを引いたせいで大規模な軌道修正を強いられた未明は内心穏やかではない。 「さあ、攻撃こそが最大の防御、でいくわよ」 言葉と共に振るわれた一撃は旋風を巻き起こし、鳴り太鼓を両断した。出来るかぎり殲滅し、願うならば完全勝利を狙ってしまおう。 「御意」 未明を打とうとした鬼車が完全に動きを封じられ、大地をもがく。 その影に隠れ、影を纏う、『無形の影刃』黒部 幸成(BNE002032)が、鬼車を縛るオーラの糸に力を込める。 (百鬼夜行、ここで止めねば起こるは悲劇のみ。何としてもここで食い止めてみせるで御座る) 覚悟を秘めた幸成の繰る絞首台の紐は、鬼車の動きを完全に封じていた。如何に過分なる破壊力も動けなければ意味はない。 鬼車は頭部に砲撃を受け沈黙する。残る敵は大狢のみ。 鬼車を撃ち抜いた『毒絶彼女』源兵島 こじり(BNE000630)は、氷雪を切り裂き、先頭へ飛び出す。 チラリと後方を見やると、氷雨に襲われて見るも無残な姿になった愛用のバイクの姿。 (貴方と風を斬り奔るのは、愉快だったわ……さようなら) 変わり果てた相棒に分かれの言葉。最早走ることも叶わない相棒の代わりに風斬り走る。 視線の先には一際巨大な大狢。通り過ぎ様にその名の通り流鏑馬が紫電の砲火を放つ。唸りを上げる巨砲から放たれる矢状の砲弾。雷光の砲火の洗礼。 「さあ、逢魔ヶ刻を始めましょう」 倒れ伏せる大狢。一息つく間も無く、髑髏の雑兵が殺到し槍を繰り出す。 瞬く間に押し寄せるあらたなる軍勢。餓骨の将兵。百鬼夜行は止まらない。 ●魍魎の夜 「手が追いつかないわね」 『ソリッドガール』アンナ・クロストン(BNE001816)は歯噛みする。 全体攻撃、全体回復の両側面を行使するアンナは回復の要であり攻撃の要の一つであった。回復手段はアンナの他に『ディフェンシブハーフ』エルヴィン・ガーネット(BNE002792)が同じく全体回復を、個別回復は雷音、蓄積回復はウラジミールが持っているが回復こそがアンナの本業であり本分。今回の様に攻守両側面の活躍を期待させる戦場に対しては、限られた手札をどの様に切っていくかが非常に重要であった。 だが、攻撃に選れば回復が、回復に選れば攻撃が手薄になる。この場合、数を減らせぬことが一番まずいと考え攻撃手に回るが、結果ダメージが蓄積されている。 もはや三陣。幸成に徹底的に足止めされたうわんがうわん! と叫び声を上げながら、バリケードを乗り越える。 これで、バリケードを突破したのは、火車の戦車を乗り捨て、腐ち馬に跨り飛び越えていった餓骨将軍とうわんの3匹。 健闘しているといって言いだろう、百鬼夜行のエリューション共はフェーズ1が殆どと云えど、存外しぶとい。 (肉体的にも精神的にも、思ったよりも消耗が激しい) 空飛ぶ蛙に飛び交う書籍、猫妖に鋏から生った妖異。第4陣、折り返し地点だ。未だ押し寄せるエリューションの数は多い。 「……百鬼夜行とは良くいったものね」 若干うんざりしたニュアンスで、アンナが呟く。汗濡れた額が光を反射する。 「良いわ。止めて見せようじゃないの!」 啖呵を切る。数に押されて弱気を見せるほど素直ではないのだ。手早く印を切り、祈りを捧げる。何度目かの神の光が戦場を白に染め上げた。 神光と銃弾と吹雪が飛び交う戦場にて、2匹の猫が姿を現す。長寿の猫が行き着く先のその姿、二股の尾を振り炎を操る。 赤い毛並みを逆立てて、猫妖は豪炎を巻き起こす。それは戦場を舐めるように炎に包み……そして、轟音を立て、バリケードが吹き飛ぶ。 それは、ただただリベリスタを焼くだけの炎ではない、背後に配置した4WDが、自動車が、バイクが、燃料に引火し、爆発を起こす。 轟々と音を立て夜を赤く染める炎。自動車からの光源は無くなったが、炎により灯りは確保できている。だが、正門、バリケードは吹き飛び最早機能はしない。 最早、行軍を食い止めるはリベリスタの体のみ、ならば当初の予定のままに体で阻止するしか術はない。 猫又に襲いかかるは未明の残影の刃、ウラジミールの自重を載せた一撃も、幸成の束縛も、2匹の猫又を倒しきるには到らない。 グェーッグッグェーッグッ。 耳障りな鳴き声を響かせ蛙が飛ぶ。集中をかき乱し、認識を狂わせるこの異形の蛙を追いかけるのはエルヴィンのみ。攻撃するも巧みに躱し、当たらない! 「畜生! 当たりやしねえ!」 空を切るミゼリコルデ、跳び蛙がぐぇーっと鳴いた。 そして、こじりが髪切りと相対する。 「貴方、不憫ね。そんな姿になって」 棄てられた鋏にこじりが語る。しょきり……と金属を擦り合わせ、髪切りが啼く。最早、持ち主の事など覚えている筈もなく、髪を切る怪物となり果てた鋏は目の前の長髪に意識を向ける。 その様は、哀れであり、異質。そう……と、こじりが応える。答えなどは期待していない。異形に向け、心のままに言葉を重ねる。 「可哀想だから、私が壊してあげる」 流鏑馬が炎を上げる。唸る火線に鋼鉄の身体が火花を散らして悲鳴を上げる。 髪切りが動く、砲撃に身をくねらせ、空を泳ぐように進むその身は刃で出来ている。 迫る髪切りにこじりは渾身の雷砲にて応える。ギガクラッシュ、デュランダルの持つ技、渾身の雷火の一撃を火砲を持ってして放つ。 交差する一瞬。鋼の鋼の打ち合いではなく、白刃と雷砲の応酬。 ぎしぃっと、曇り一つなかった鋼鉄にヒビが走る。髪切りが初めて苦悶の悲鳴を上げた。 びしゅっと、飛び散る血飛沫が夜を染める。血飛沫と共に、夜空を艶やかに流れるのは黒い髪。 「そんなっ!?」 氷雨を操りつつ、雷音が言葉を失う。 兄を任せてもいいと思っていた女性。雷音にとってはお姉さんだ。こじりおねえちゃんの、髪が、髪が……。 誰もが息を呑む。 流れ行く黒髪が、夜空を艶やかに染め、夜空を彷徨う。 「御厨くんが、私の髪を、好きだって……好き、だって」 思わず口から零れ落ちる言葉。失われたものは、取り戻されない。判りきっていた筈の、自明の理。 茫と呟く。自失とした意識の中、運命が悲鳴を上げる。 喪失と空虚と自失と自己否定と困惑と怒りと悲しみと怒りと、怒りと、憤怒と、ギアが上がるように、噛み合っていた歯車のリズムが急に狂い始めたように、ちぐはぐの心と体が悲鳴を上げる。 わずかに歪む視界に、にわかに損なう自己に、こじりは小さな悲鳴を上げる。 だが、だが、運命は曲がらない。 怒り冷え切った心と怒り震え燃える身体。怒りは引きよせられない運命の代わりに次なる挙動を自己に求める。 「もう、良い」 呟く言葉は零下の彩り。吠え猛る雷砲。 「髪を美しく切れないような、生き様を失った鋏なんて――」 破片を散らし吹き飛ぶ髪切りに肉薄し、ゼロ距離より、再び撃つ。 「死んでも、死ね」 破片を散らし、逃げようとする髪切りに、こじりは迫る。 そこへ強襲するもう一つの影。関 狄龍は髪切りの頭部に目掛けて銃口を向ける。 「おいおい、俺様のさらさらポニテが目に入らなかったのかよ」 内心に篭る、こっちに来ればよかったのによという言葉。唸りを上げる明天、昨天。手甲より降り注ぐ銃弾に追われ地に落ちた髪切りにこじりが迫った。 「死ね」 断ずる一撃に、破片を散らし髪切りは沈黙した。 大地を揺らし、巨妖が迫る。呑み込む大口、大クチナワの野槌。針のような毛並みの大鼠と空を舞う生首の群れが迫る。 百鬼夜行は第5陣。押されるように、書物よりにじみ出た紙魚の群れが、赤猫の猫又の一匹が飛び蛙が、門の彼方へと逝く為に行く。 未だ、妖怪が往く夜は昏い。 ●宵闇行脚 「うお!?」 野槌の巨体による体当たりをエルヴィンは辛うじて受け止める。あの決戦の夜、エルヴィンはこの地で戦っていた。この百鬼夜行の様に、この門を打ち破る為にフィクサードと死闘を繰り広げたのだ。 そして、再びこの地を巡り、今度は護るために戦うことになるとはと、運命の導きを感じずにはいられない。この戦いにも一層熱が入るというもの。 エルヴィンはこの戦いでは徹底的なサポーターに徹している。火力が足りなければ、魔力の矢で敵を打ち、回復が手薄なれば、癒しの歌で仲間を癒す。その適切な運用はこの長い戦いでのリベリスタの支えとなっている。 そう、一見地味な立ち回りではあるが、このような戦いにおいては非常に重要な役目を担っていた。 エルヴィンは野槌の行く手を塞ぐために立ち塞がる。この巨怪をここで食い止めるのがこの陣営での役目だ。 野槌が大口を開ける。その巨体に見合った巨大な口が深淵の淵を覗かせる。 野槌は大きな口を戦慄かせ、恐るべき吸引力を持って吸い込みを始め、エルヴィンのような成人男性さえも持ち上げて、口の中に放り込む。 ごくり、と音を立て、野槌はエルヴィンを飲み込んだ。 エルヴィンが飲み込まれた! 衝撃の光景を目にしてもリベリスタ達も救援に向かう余裕はない。 衝撃を与えれば針を撃ち返す鉄鼠に呪言を吐き飛び交う抜け首。 反撃を受けることを理解すれども、攻撃せねば勝利はない。果敢にリベリスタは攻撃を続ける。 雷音の氷雨はその精度と威力は今だ健在。狄龍の銃乱撃は連撃を放ち、確実に敵の体力を削る貢献を続ける。アンナの閃光は稀に敵に朦朧を与え、戦場の構築に貢献を続ける。 だが手痛い反撃も貰う。雷音も、アンナも、狄龍も、一度は大地に伏せ、運命の加護を削っている。尽きかけていた精神力に喝が入った。戦いに出ている以上倒れる覚悟は出来ている。 そう言い、再び術式を唱え、銃を取り、印を結ぶ。 アンナの聖句により、吹く聖神の風。圧された戦線を瞬く間に構築しなおす。 幸成とウラジミールの一撃が鉄鼠を打ち倒す。蓄積された打撃はやはり効を奏したと、未明がダメ押しとばかりに幻影の刃を周囲に放つ。黒のコートを翻し、剣戟が戦場を踊る。鉄鼠を挫き、抜け首を討つ。だが、鉄鼠の反撃の針と限界を抜けたその衝撃で膝をつく。限界を抜けたその先では命でさえ削られる。 倒れ消え行く意識を意志と運命の力を持って再び持ちなおす。 「正月早々負け戦とか、したくないのよね……!」 コートの埃を払い、強気に未明は笑う。まだあと2陣は残りがあるのだ。 エルヴィンを飲み込んだ野槌が悶絶する。 体を曲げ、苦悶にのたうち、聞くも奇怪な咆哮を上げる。 ゲホッ 口元から魔力の閃光を漏らしだし、野槌がエルウィンを解放する。 「チッ、破れなかったか」 魔力の矢の構えのまま、エルヴィンがあと少しだったんだがな、と、悔しそうに笑った。 巨体を転がすように野槌は逃走する。 そして、地響きを轟かせ、鬼共が現れる。 牛頭の鬼と馬頭の鬼が餓鬼を率いて、襲い来る。 百鬼夜行第6陣。地獄の顕現が如き悪鬼共との戦いが始まる。 数で圧倒する餓鬼達を止め切れることもなく、押し寄せる波の如く、引っ掻き、噛み付き、傷を負う。 だが、真に恐ろしいのは餓鬼達ではない、馬頭鬼と牛頭鬼、揃い並んでその巨躯に見合う武具を力任せに振り回す。 その力、威力はまさに大旋風。餓鬼諸共リベリスタを弾き飛ばす。 「來來! 氷雨! 凍りつけ!」 「仲間ごととはゴキゲンだな! え? コラ!?」 何度、唱えたのだろう。疲れ掠れた詠唱が吹雪を呼び、狄龍が怒り凄んで弾幕を張る。 二匹の鬼の攻撃に加えての弾幕に餓鬼達も瞬く間に数を減らす。 その間隙を縫い、影を纏い、幸成が馬頭鬼の背後より迫る。 「仲間の命を軽く見た。其れが、敗因と知れ」 練り上げたオーラで絞首台に縛り付けるかのように縫いとめる。この戦いに於いて使い慣れた足止めの呪法。 縛り上げた馬頭鬼に叩き込まれるリベリスタの一撃。 雷砲が、風に舞う一撃が、氷雨が、銃弾が、魔法の矢が神光が、叩き込まれる。 血塗れる馬頭鬼。救援に駆け寄ろうとする牛頭鬼の前に立ち塞がるウラジミール。 牛頭鬼がウラジミール相手に、まるで壁があるかのように攻めあぐねる中、やがて倒れる馬頭の鬼。 そして、夜がやって来る。 ●妖魔夜行の終・弐 ――運命の加護の下に、リベリスタ達は立ち上がる。 「解らぬ故の恐怖なら未知を既知にするまでだ!」 ウラジミールが法理の刃の輝きを持って、鵺を斬りつける。 それは、猿面獣躯であり、鳥面猿躯であり、人面鳥躯であり、正しくそれは鵺であった。 法理の下では明かされぬ絶対不明の未知なる怪物であった。 「撤退……っ!」 幸成の号令を最早遅いとばかりに、鵺は哂う。 そして雷が渦を巻く。 地に伏せたるは山の如き魑魅魍魎共の屍と、戦い抜き力潰えた戦士達。 百鬼夜行の終焉を見届けた異形の主は、最早興味が失せたと言わんとばかりに踵を返す。 その身は何処へかの夜闇へと……。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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