●元日 冴えた上弦の月を霞ませるものは、眼前の白い吐息だけだった。 よりにもよって正月の夜だと言うのに、うら寂しいものである。 神奈川県横浜市――三ッ池公園。 十二月に『閉じない穴』が穿たれたことは記憶に新しい。 それ以来、穴の周辺は神秘的に不安定な状態に置かれており、それまではあり得なかったであろう類の案件が、既に幾つか発生していた。 アークの管理下に置かれている園内に一般人が立ち入ることは許されず、疎らな人影は全てアーク関係者の物だ。 その時、突如公園の西門に、闇が蠢いた。 「何だ?」 哨戒任務中のリベリスタが、手の甲で目をこする。 眼が霞んでいるわけではないようだ。やはり何か居るらしい。 リベリスタはアクセスファンタズムから素早く獲物を抜き放ち、付近の仲間に連絡を行う。 巨大な敵か。いや、圧倒的な数か。地響きと共に闇が迫る。 仲間達が駆け寄るより早く、土石流のように迫るエリューションの群れが、一人武器を構えるリベリスタを一気に飲み込んだ。 餓鬼、獣頭鬼、邪霊、龍に、あれは鵺というやつか。まるで百鬼夜行だ。 運命を従え、リベリスタは立ち上がる。 歴戦の中で鍛え上げた技は、次々と怪物達を絶命させてゆく。 何体葬ったかなど、とうに数えていない。腕の感覚がない。全身が悲鳴をあげている。 ようやく集った仲間達が、どこに居るのかすら分からない。 それでもリベリスタは戦い続けた。だが、これ以上は無理だ。 怒涛の攻撃に対峙し続けるリベリスタの奮戦虚しく、薄れゆく意識の中で最後に感じることが出来たのは、濃密な死の匂いだけだった―― ●ナイトメアじゅっぷんまえ 「ハッピーニューイヤー。出てくれて嬉しいね。君のNOBUクンだよ」 携帯電話越しの『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)は、いとも気楽な声音である。 だが突然の電話とは、やはりただ事ではないのだろう。 「これから君等を待ち受けているのは、文字通りの古式ゆかしい百鬼夜行ってやつでね」 気障におどけた姿が目に浮かぶようだが、語る内容は深刻そのものだった。 「結果はそんなフューチャーなのさ」 「それっていつなの?」 「じゅっぷんご」 即答。 放たれた言葉を咀嚼吟味すること一秒足らずで、リベリスタ達は事の重大さを再認識することとなった・ 「おい、おい……緊急事態じゃないか」 「だろ? こっちからの増援も間に合いそうにないんだ」 だろじゃない。いいからとにかく情報が欲しい。 「これから敵のデータをメールするから、良く読んでね」 そんなこと、言われるまでもない。 「ああ、それから。危なくなったら、必ず離脱してくれよ……」 そうなって、そうさせて、たまるかよ。 「グッドラック」 リベリスタは通話を切り、早くも添付されたデータに目を通し始めた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:pipi | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年01月15日(日)21:43 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●地獄襲来 耳に轟くのは魑魅魍魎の怨嗟――鬼哭啾々。 「この身は、災禍を払う剣にして万民の盾、恐れ無く、曇り無く」 満天を覆う不吉を貫く騎士の誓いに呼応して、リベリスタ達は彼方の敵影に向けて一斉に獲物を抜き放つ。 許された短い時間のほとんどは、情報交換と作戦の立案に費えていた。 それでもリベリスタ達は辛うじて作り上げた四十余秒の間に、己が力を引き出す術を身に纏い、あるいは可能な限りの集中を重ねている。 月下の霹靂。引き裂かれた大気の悲鳴が神速度の銀光に遅れて響き渡る。 哀れな人狼に突き立つのは、『光狐』リュミエール・ノルティア・ユーティライネン(BNE000659)が放つ真空の刃だ。 赤い血肉が弾け飛び、その背に深い断層がこじ開けられる。 速い。だが彼女は未だその小さな身体に余力すら残していた。 手の平程の小さな刃に脊椎を両断され、なお動くことを赦す神秘の力も、最早、人ならざる身が背負う業でしかない。 噴き出す返り血の一滴すら浴びることなく、再び軽やかに舞い上がるのは、氷河・凛子(BNE003330)が成す翼の奇跡を纏うから。 『光狐』の一撃を合図に、両軍は激しく激突する。 迫り来る二体目の人狼に、『蒼銀』リセリア・フォルン(BNE002511)の蒼剣が閃いた。 セインディールの切っ先を霞ませる星の光は、瞬時に繰り出される無数の刺突が織り上げた幻影である。 数多の衝撃に人狼の足が地を離れ、更にリセリアが踏み込む。 視界が静止する程の集中から放たれた蒼銀の旋風は、人狼の眼前に血煙を舞い上げた。 腹部に巨大な致死の虚ろを穿たれて、なおも人狼は鉄棍を突き出す。 旋風を掻い潜り、少女と見まごう美貌の雪白 桐(BNE000185)が、甲殻を思わせる巨大な銃器を突きつける。 直後、人狼の背から無数の弾丸が天に向かって飛散した。 『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)の剣が力強い軌跡を残し、叩き込まれた強烈な剣煌にノーフェイスの顎は苦悶に歪む。 「うわぁいっぱい来た……!」 迫り来る餓鬼の群れ、その向こうに薄らと見える第二陣、第三陣の敵影を視界に捉えて『大食淑女』ニニギア・ドオレ(BNE001291)が戦慄する。 脅えてなどいられない。恐怖を往なしつけ、視線を仲間達に走らせる。 餓鬼達が、人狼達が、人虎達が、次々にリベリスタに襲い掛かる。リベリスタは各々剣で切り払い、盾で弾き、あるいは地表を滑るように、巧みに攻撃を回避してゆく。 無事でよかった。歴戦のリベリスタ達は、未だ傷一つ負っていない。 「この一戦は後に繋がる戦い。死力を尽くします」 ハスキーなアルトが、リベリスタ達の鼓膜を心地よく振るわせる。 凛子の指先から放たれた神秘の矢が、狼の喉に力強く突き刺さった。 「まずは前菜。さくっと殲滅します」 遂に砲台が動いた。 戦車さえ容易く貫く『デストロイド・メイド』モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)の乱射は規格外の嵐となり、交戦開始から僅か十秒の間に早くも二体の人狼が沈んだ。 その光景は、蜂の巣の呼称では余りに温い。 こうして僅か三順の間に、第一陣の敵は残らず殲滅された。 対するリベリスタは、数名が掠り傷を負ったのみである。それも凛子が放つ術で十分な癒しを受けることが出来ている。 「血の海が押し寄せてくるな」 押し寄せる次陣へ向けて『背任者』駒井・淳(BNE002912)が駆ける。ちらりと覗く赤い舌が、血色の悪い唇を微かに這う。 何よりも速く、戦場を舞う光の影が、瞬く間に狼の後ろ足を跳ね飛ばした。 「遅セーヨ」 リュミエールの一撃は、相手に事態を理解する暇も与えていない。 速さなら誰にも負けるつもりはない。事実、その速度はアーク全てのリベリスタ達の中でもトップランクを争う実力がある。 その爆発力は想像を絶する水準を達成していた。 「畜生の下僕を引き連れた女王様ですか。痛々し過ぎて笑えませんね」 迫る人畜の群れにモニカは毒舌一つ、狙いを定める。 公園の中央部に向かって押し寄せる怒濤を逃せば逃すほど、中央部で待ち構えるアザーバイドの力が増してしまうらしい。 アークの予測では、七割程度を撃破すれば問題ないということだった。 ゆえに、この場のリベリスタに課せられたノルマは、ひとまず三十四体である。 だが淳は一匹たりとも通すつもりがなかった。 「お前の血は何味だ?」 迫る虚ろの女王に淳が牙を突き立てる。赤い血が迸り、その笑みを凄然と彩った。 「まずい! 次ッ」 この女の戦闘能力自体は大したことがないが、指先から伸びるドス黒いリードは八体の獣を増強させているらしい。 「残念だが、此処から先は一方通行です」 これが次陣と混ざれば、厄介なことになるだろうと凛子は考える。落ちてくれればよいが、出来なければ逃すしかない。 騎士の剣が月光に燦然と輝き、鋼の暴風が鬼女を袈裟懸けに切り裂く。対する反撃は、小さな盾に衝撃を響かせるに留まった。 リードの力か、地力の差か。獣達の戦闘力は第一陣の餓鬼共とは比べ物にならない。止まらない連続攻撃に続く銃弾の雨にも耐えている。 同じフェーズ1にも、ずいぶんな差があるらしい。 だが集中攻撃により、遂に指揮官の鬼面女が落ちた。リベリスタ達はかなりの傷を負いながらも、残る獣達に向けて立て続けに痛打を放つ。 リード無しでも獣達の機敏さは、リベリスタの攻撃を数度まで回避した。 しかしリセリアを筆頭に、誰しも命中には一廉の自信がある。歴戦などという言葉も生ぬるい経験をつんだリベリスタ達を相手に、呪われた獣達は次々と撃破されて行った。 そして―― ●来たる三陣 残念な事に獣が二匹ばかり残っているが、戦果は上々である。 一匹は淳の鴉が嘴を突き立て、もう一匹には後衛のニニギアが立ちふさがる。 前衛が得手等とは口が裂けても言えないが、決して脆すぎるわけではないのだ。 彼女とて恐ろしさを感じないわけではない。だが、どうしても通したくない。 とはいえ構ってばかりいれば次の対処が覚束ない。早くも訪れた悩ましい局面である。 ニニギアが引き換えに負った傷は、細かな傷と合わせれば決して浅くない。 しかし凛子と、そして自身の癒しが限りある手札と引き換えに万全を取り戻させる。 一際速い雷霊に、リュミエールが急降下していく。彼女が放つ真空の刃に対する雷撃は、やはりリュミエールが頭二つ分程速い。 動きを封じられた雷霊は彼女に反撃の牙を剥くことが出来なかった。 地から次々に生じる水晶柱を、リセリアは氷上を舞うように巧みに避け切り払ってゆく。覗く鋭利な断面が彼女の実力を証明したに過ぎない。 次々に襲い来る炎と氷、攻撃全ての直撃を全て免れたのはリセリアと淳だけだ。 「……いたた。やったわね」 立て続けに襲う光衝のうち、一撃はニニギアを完全に捉えたが、そんなものでは彼女の動きを止めることは出来ない。 そして突如打ち込まれた神秘の竜巻にモニカの翼が消滅した。リベリスタ達は各々大きく傷ついている。 「その災い、その呪いを、断つッ!」 凛とした声が戦場に響き渡った。月に輝く紫の髪が、形良い頬を鮮やかに彩る。 アラストールが掲げる剣から放たれた闘気が、災厄を力強く打ち払った。 全てではない。しかしリベリスタ達の背を守るニニギアも凛子も、未だ倒れてもいなければ、動きを封じられたわけではない。 この程度の負傷なら、陣を立て直すという表現すらおこがましいのではないか。それ程にリベリスタ達は強固であった。 「面倒臭い相手ですね」 神秘の輝きを帯びた弾丸の嵐が、敵陣に突き刺さる。 三陣のEエレメント達は不確かな実体所以か、物理攻撃力に強い耐性がある。モニカの得手とは言えない。 しかも戦場全てをカバーする乱射と比較すれば、今回射程に収めることが出来たのは敵の約半数であるのだから、皮肉の一つも述べたくはなる。 前に何時放ったかも思い出せない技だったが、その力は確かな威力を持って敵に痛打を与えていく。 邪魔な獣を一匹逃してしまったが、もう一匹は漸く葬ることが出来た。 桐も同様に、物理耐性が高い相手は得手ではない。ゆえに獲物には神秘の力を集中させた。 その銃――伊勢海老さん。美味しそうな名前だが、なかなか多芸である。 多彩な技を誇る桐にしては、名付ける程の攻撃ではないが、こんな段階で限りあるリソースを次々と消費するわけにもいかない。 エレメント達はそれほど耐久力があるわけではないのだが、いかんせん攻撃が通りづらい。 リベリスタ達はモニカが削った相手を、各個撃破していくという手法をとるしかなかった。 一体でも多く仕留めるため、淳は次々に式符を放つものの、戦況は徐々に、徐々にキツくなっている。 仮にリベリスタ達が全力で戦うことが出来るならば、全て仕留めることも出来たかもしれないが、戦いはここで終わるわけではない。 四陣が表れた時には、まだ半数のエレメンタル達が残ってしまっていたが、トータルの戦果は悪くない。 これをもってリベリスタ達を責めることは出来ないだろう。 「突破された数だけ強くなるというならば…… 一体でも多く、斬り伏せるのみです」 リセリアが剣に力を込めた。 リベリスタ達には、雑魚だけに手をつけてノルマを満たし、それ以外を全て逃すという選択もあっただろう。 だが彼等は可能な限り倒すことを念頭において戦っている。その選択が果たしてどんな結果を呼ぶのか。 まだ誰にも分からない。 ●何故この中に車がいるのかはその名が示す通り 「車も馬と同じように人が乗る為の畜生扱いだからでしょう」 精密射撃に車輪を射抜かれ、機械仕掛けの跳馬は凍える桜に衝突した。 真空の刃を放つリュミエールの姿は、最早並の実力では視界に捉えることすら出来ない。 速度を限界まで高めた彼女にとって、これまでの戦いなど鎖で繋がれていたようなものだ。 その一撃で跳馬の背が吹き飛ぶと同時に、二撃目の牙が突き立った。炎が吹き荒れる。 「そんな見かけで強いとかひどいわっ」 次々に襲いかかるふざけた豚の霊に、ニニギアが頬を膨らませた。ぶためしやとは、なんとも美味しそうな名前でもある。 だが油断はしない。それにエレメンタル達が、神秘技を撒き散らしながら戦場の離脱を試みているのだ。 互いに声を掛け合い、リベリスタ達が散開する。そこに豚達の呪われた牙が襲い掛かった。 剣と牙、銃弾と身体が三度ぶつかり合う。ここで戦線を支え続けていたアラストール、淳、ニニギアが運命を従えた。 凛子とニニギアにより戦線は直ちに立て直されるも、五体のエレメンタルを逃してしまった。合わせればこれまでに出現した三十六体中、六体になる。 ノルマは後四体に過ぎない。それにここからは反撃だ。 美しい銀髪を翻らせて、再び凛子の翼に乗ったリセリアは蒼銀の剣を振るう。捉え得ぬ幻影の切っ先は豚の眉間に深々と突き立つ。 桐の闘気が迸り、石畳に亀裂が走った。衝撃と共に肉体の制限を開放し、決死の力を纏った桐が豚の霊に零距離の射撃を炸裂させる。 存在をずたずたに切り裂かれた思念体は、桐に突撃を試みるが膝をつかせることは出来なかった。 手番の最中に素早い凛子が大きく傷を癒して激突を凌ぎ、状況を見極めた後でニニギアが二度目の癒しを与える戦術は、極めて有効に働いている。 リベリスタ達はここで車と三体の豚を撃破することに成功した。これで三十四。後は可能な限りを尽くすだけだ。 地響きのような咆哮が公園の石畳を粉砕する。地龍だ。いよいよ表れた大物だが、全力でやるだけだ。 天を駆けるリュミエールが、真空の刃を二重にたたきつける。リセリアの剣が分厚い皮膚を貫く。 地龍が喚き、鼓膜の圧迫に頬が引きつる。飛ばされる激がずいぶん小さく聞こえる。凛子が耳にあてたヘッドフォンを押さえた。 だが淳が放つ呪縛の符により、敵は戦闘に影響するような攻撃的な振動を上手く放つことが出来ない。 呪縛からの回復力が高いのであれば相手が動くより早く、行動を封じ続ければいいだけだ。 淳の回答は完璧だった。仮に地龍が動いたとしても、リベリスタ達は凛子の翼を得ている。戦場が破壊されたとしても構うことはない。 桐が雷を纏う弾丸を至近距離から発射する。力強い一撃は強固な骨格を粉砕し、砕けた肉の塊が夜空に飛び散った。 リベリスタの猛攻に地龍は成す術もないが、次陣と合流されては面倒極まる。逃すのも惜しい。 ノルマこそ達成したとはいえ、他の戦場がどうなっているか分からない以上、攻撃の手を休めるわけにはいかない。 『ここだけ』が満たしても、意味がないからだ。 そして三手目。動きを完全に封じられた地龍の眉間にアラストールの剣が突き刺さる。 「ドラゴン退治なんてものは勇者様のお仕事です」 モニカは次陣に備えて無限機関が生み出す力を蓄えるため、アシスト程度の攻撃に留めている。 とはいえ、その威力は歴戦のリベリスタ達に引けをとらぬ。侮れたものではない。 「倒せるか……ではない」 剣を阻む強固な頭蓋に、騎士は全身の膂力を集中させる。 「此処で倒す――!」 涼やかな声に彩られた裂帛の気合は、巨大な怪物を縦一文字に切り裂いた。 倒れる巨龍の死骸を踏み越えるように、第六陣の力士達が現れた。 「今の時期、正確には冬場所ではなく初場所です」 眉一つ動かすことなくモニカが呟く。 「どうでもいいですね」 さしたる一言というつもりもなかったが、数人のリベリスタの頬を微かに刺激した。 だが彼女のとってはここが正念場、蓄えた力を振り絞って『虎殺し』を構える。 折角の美少女にこんな相手は勿体無いが、リベリスタ達は敵を選ぶわけにもいかない。 冬場所フェアリーテールなどという、ふざけた力士モドキなど、所詮は戦車程ではなかろう。 「塩まいたり、ものいいつけてあげたいわね」 ニニギアも眉を潜める。真顔のジョークだ。 ここに来て、ようやく軽口を叩く余裕も生まれてきたということか。 総じて、ここまで快勝である。緊張はほぐれても、真剣さは変わらない。 リベリスタ達の一体づつ丁寧に殲滅する作戦が展開されてゆく。 むちむちとした姿態を上気させ、空中をのしのしと迫ってくる力士だが、やはりリベリスタも空中で迎え撃つ。 なんでこの大局面でこんな敵を出したのか。そんな声が聞こえたわけでもないが、リベリスタ達は強烈な反撃を仕掛け続ける。 思わぬ一撃に桐が膝をつきかけるが、やはり運命を従えて立ち上がる。そしてリュミエールとリセリアの一撃に一体の力士が倒れた。 そして放たれる三度目の掃射。 エプロンドレスを身に纏うモニカの可憐な身体に、不釣合いな程長大な自動砲の先、右目に映る照準が次々とターゲットを捉える度に、醜悪な怪物に大穴が穿たれる。 こうして更におすもうさんが爆ぜた。新年最初の大相撲は、まずはリベリスタに勝ち星が上がったようだ。 「百鬼夜行の最後には強大な妖怪が現れるなんて話もありますが、一体どうなるんでしょうね?」 ●鵺 荒れ果てた煉獄に積みあがるのは、魍魎へ手向けた屍の墓標。魔物達の成れの果てである。 死せる脆弱を嘲笑うかのように、遠雷が轟いた。 月を抱く星空が揺らぎ、不定の魔獣が天空から舞い降りる。 直後立て続けに放たれた呪眼と凶鳴よりなお速く、『光狐』の刃はその巨体を確かに捉えたはずであった。 痛打の手ごたえを感じる。しかし。 無駄である。無益である。否定の哄笑が闘士達を劈いた。 「最後の一山――越えますよッ!」 折れぬ凛子の心の叫びも、最早祈りに等しい。想いも願いも、運命を捻じ曲げることは出来なかった。 世界に愛されすぎているから? だからどうしたというのだ。 掲げられた騎士の剣が輝きを失うことはない。邪気を打ち払う燦然たる光がリベリスタ達に再び立ち上がる力を与える。 立て続けに放たれるリベリスタ達の連撃にも、その身は霞み、淀み、捉えどころもない。 桐の雷撃が切り捨てた尾が、モニカが撃ち抜いた目玉が。なぜ、未だそこにあるのか。 これまで何度も戦ったフェーズ2であるのに、個体差とはこうも違うものなのか。 得物から伝わる手ごたえは、確かにある。実在している。そのはずである。そう信じたい。 鵺が放つ一撃一撃は、致死の力をもってリベリスタ達の生命力を一気にこそげ落としてくる。だが、負けられない。 「百鬼夜行であろうと夜は明けるもの――」 誓いが、祈りが。運命を従える強い意思が。 「希望の光をともし続けます!」 凛子とニニギアの癒しがリベリスタ達を奮い立たせる。 徹甲弾が再び魔獣の虎目を射抜き、そのままの勢いで後頭に柘榴を散らす。 蒼光の雨が柔らかな薄紅の臓腑をさらけ出す。 だが止まらぬ鵺の猛攻に、遂に光狐が落ちる。 「はははは、ハハハハハハハ!」 こうでなくては、面白くない。 滲む闇から伸びる白蝋の腕が、不吉の権化の足を捉えた。 直後に襲う爪が淳をずたずたに引き裂く。それでも彼は赤く染まるその手を離すことはなかった。 リベリスタ達は最後の力を振り絞る―― やがて。遠雷が止んだ。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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