●オタクの俺の城 「ちっ、いつもいつも俺を馬鹿にしやがって……何が年齢イコール彼女いない歴だよ。ふざけやがって……」 深夜遅くにぼやきながら帰ってくる。何度繰り返されたか分からないいつもの光景。 だが部屋に入れば憂鬱な気分も吹き飛ぶ。そこは俺の城で、可愛い妹達が俺の帰りを待っているんだ。 「ただいまー」 ドアを開けると、飛び込んで来たのは笑顔を振りまく無数の美少女達――の姿をしたフィギュア。 床には平積みにされたアニメ雑誌やムックがねじれた塔の様に乱立し、壁を覆い尽くす棚にはマンガと美少女フィギュアが寿司詰めになっている。 オタクの部屋。一言で言うとそう。一言で言わなくてもそう。 「はー、落ち着く、落ち着く……」 彼女達は決して裏切らない。いつでも僕に笑顔を向けてくれる。生身のウザい女達とは大違いだ。 「あれ?」 TVの前に座った時に手に何かが触れた。一枚のDVDだ。もっともこの部屋には数え切れない程のアニメDVDがあるのだが、その内容は全て把握している。 しかしこれには見覚えがない。買った記憶もレンタルした記憶も無い。いや、そんなことは問題ではない。問題なのはこのDVDのパッケージに描かれたキャラクターを見るのが初めてな事だ。作品名も聞いた事がない。月に何冊もアニメ雑誌を買い、ネットも毎日のようにチェックしている……なのにこれは知らない。信じられないが、新作が出ていたらしい。 「こうなればやるべき事は一つ。さっそく中身をチェックだ」 慌てて床のゴミ、いやお宝の山をモーセの様に割ってDVDプレイヤーへの道を開墾すると、とにもかくにもディスクを投入。雑誌の間に埋まってしまってたリモコンを探し出して再生ボタンを押す。 ~♪ 軽快な音楽と共になかなか通好みな美少女達が画面に現れた。 「お兄ちゃん。こっちへおいでよ。一緒に遊ぼ?」 断る必要など何一つ無かった。 ●ミッション 「観た者を閉鎖空間へ引きずり込む呪いのDVD。被害が広まらないうちに回収して来て」 アーク本部、ブリーフィングルームに集まったリベリスタ達を前に真白イヴは淡々とした調子で切り出した。 「なんだそりゃ」 「生まれてこの方女性と付き合った事のない青年が、偶然手に入れたアーティファクトの作りだした閉鎖空間に引きずり込まれたの。男性は閉鎖空間内で自分好みの女の子達とハーレム状態。アーティファクトの回収だけなら再生中のプレイヤーから簡単に取り出せるけれど、それでは彼が永遠に帰って来られなくなる。面倒だけど閉鎖空間内に入って彼を連れ戻して来て」 別に助けなくてもいいんじゃないかと言いかけたリベリスタが言葉を飲み込む。 イヴは一呼吸置いて説明を続ける。 「部屋にある付けっ放しのTV画面に手を触れれば、閉鎖空間へ入る事が出来る。ただし、帰る為には閉鎖空間の番人である三体の女の子の姿をしたE・フォースを倒さなくてはならないの。それぞれデュランダル、マグメイガス、ホーリーメイガスに似た能力を持っていて、連携しながら向かってくるから充分に気を付けて」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:柊いたる | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年01月16日(月)23:00 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●すにーきんぐみっしょん? 閑静な住宅街の片隅。安アパートの前にリベリスタ達は集まっていた。 「二次元への到達だと?! オタクの究極の夢、モニターの向こう側、画面から彼女が出てきてくれないという、叶える希望!! ゲームが覚醒してその世界に入り込んだとは聞いていたがこの任務に就けるとはなんという僥倖! 今だけ無神論をやめてもいい。何かに、猛烈に感謝したい。これが信仰心?」 興奮して息を荒げている『弓引く者』桐月院・七海(BNE001250)から距離を取って、ジト目で生温かく見守るのは『何者でもない』フィネ・ファインベル(BNE003302)。またその傍らでは黙々と辺りを調べていた『銃火の猟犬』リーゼロット・グランシール(BNE001266)が、ドアを破壊しようとして施錠されていない事に気が付いたところであった。 「手間が省けていいけど、ずぼらというか不用心というか……」 『霧の人』霧里 まがや(BNE002983)が溜息と共にやれやれと肩をすくめる。 ガチャリ―― ……ドアを開けた所で、一行の眉間に深い皺が寄った。 「わっ……お部屋汚いの……こんなんだから彼女もできないの」 惨状に耐えかね、思わず『なのなのお嬢様なの』ルーメリア・ブラン・リュミエール(BNE001611)がぼそりと呟いた。 イヴからの情報で聞いてはいたものの、乱雑に積み上げられた本やフィギュアの山が部屋を覆い尽くしている状況に驚くというか呆れるというか……うるせー、これでちゃんと分かる様に並べてあるんだよコン畜生! 「オタクの城ねぇ……城って言うんだから、せめて綺麗にしなさいよ」 お宝グッズ以外にも衣類やゴミも散乱した足の踏み場もない状態に『雇われ遊撃少女』宮代・久嶺(BNE002940)も溜息を隠せない。 その一方で『普通の女の子』華蜜恋・T・未璃亜(BNE003274)は 「いやー……それにしてもなんすかね、この部屋。保管が雑っすけどお宝の山じゃないっすか!! レアグッズも眠ってるんじゃないっすか!? 静まれ……私の右腕っ!!物色なんかしちゃだめっす……!!」 と目を輝かせるも、周囲の視線に気が付き、 「えっと、2次元への憧れなんてこれっぽっちもないっすよ。本当っすよ。私は普通の少女。乙女っす」 等と取り繕う始末。またその横では、 「いや慌てるな、まだ本番はこれからだ。録画機材を忘れたのは失敗だったが大丈夫だ。自分は強烈なイメージを覚えておけばいいだけだ。自分、帰ったら噂の念写使いの人に依頼するんだ……」 七海の心は早くもどこか別世界へ飛んでいってしまっている様子。 「それでは、いきます。よ」 リベリスタ達は暫く部屋の惨状に呆気にとられていたが、いち早く気を取り戻したフィネが散らかった部屋の隅で付きっ放しになって砂嵐を映し続けているTVを指差すと、一行は我に返って頷き、手をかざしてその身を閉鎖空間へダイブさせた。 ●ドエライクエスト ぱぱらぱーん♪ ちゃららら~♪ 辺りに間の抜けたファンファーレが鳴り響いた。 目を開くと、周囲の光景は緑あふれる平原に立つ、古めかしい石造りの城の中庭へと変わっていた。 一行の目の前ではファンタジックな王子の衣装を来た青年が、三人の幼女に揉みくちゃにされている。 「オラオラ! もう終わりかよ。だらしがねぇな」 「無様ね。そうやって這いつくばってるのがお似合いだわ……」 「あらあら、大変ですねぇ。よしよしなのです」 「助けに来たわよ!」 久嶺がびしぃ!と指を伸ばし、凛とした声を響かせる。それはもう魔王にさらわれたお姫さまを救いに来た勇者の様に勇ましく。 ……が、目の前のドタバタは一向に収まる事を知らない。完全無視。ガンスルーという奴である。 青年はやんちゃなショーパン僕っ子に馬乗りになられて関節技を極められたり、クールなメガネっ子に蔑まれて踏まれたり、黒髪ロングのおっとりさんにつんつんされているのだが、概ね満更でもない表情を浮かべ、状況に満足して幸せそうに見えるので、別に助けなくてもいい気がするのだが、放っておくと謎の失踪事件になっちゃうので、任務としては救助するのが正義の味方のお仕事なのである。ご苦労様です。 「なんという、うらやまけしからん状況……」 七海が極一部の魂の叫びを代行。全くだ。青年よ俺と代われ。 「しかしあれね、なんか敵も味方も ちんまいのが多い……将来に期待かねぇ……」」 まがや姐さんはいつもの様に気だるげだが、暇つぶしのおもちゃにはなるだろうと敵を値踏みし始め、 「需要と供給がぴったり噛み合ってるの、ですね。幸せそうだとしても……心を鬼にして、ぶち壊す、です……っ」 その横ではフィネが拳を握り締める。そう、たとえ恨まれても彼を現実世界へ引きずり戻すのが任務。頑張れ勇者リベリスタ! 「馬鹿ね……こんな2次元の女に魅了されて引きこもるなんて……軟弱だわ! でもこれも仕事だからね……しょうがないから引っ張り出してやるわ!」 自称ツンデレじゃないらしい久嶺たんも闘志を燃やす。 「ほらほらー、こっちに来れば貴方好みの少女が5人いるのー♪ 黒髪、眼鏡っ娘、元気っ子……色とりどりだよ! 胸のおっきい、可愛いお姉さんもいるしね! お兄ちゃん、こんなとこにいないで、ルメ達と一緒に遊ぼう?」 きらりん♪ 先手必勝とルーメリアが星を飛ばしながら満面の笑みを振りまく。 金髪碧眼幼女のゆうわく! 「また俺の妹が増えただと!? ルメたん萌えぇ~」 こうかはばつぐんだ! ●もんすたーさぷらいずどゆう 「私達の『お兄様』を横取りしようだなんて、とんだ泥棒猫さんたちね……消えなさい」 クールメガネのメガネ子が真っ先に動いた。 パチリと指を鳴らすと、彼女を中心に激しいつむじ風が巻き起り、全てを切り裂くかまいたちとなってリベリスタ達に襲いかかる。 仲間が苦痛の声を上げる中、まがやだけは肌を切り裂かれてもどこ吹く風と敵を見据え、魔力を高めるために詠唱を開始した。 「先ずは回復手から潰す!」 リーゼロットが硬貨さえ撃ち抜く精密射撃でホリメ子を狙い討つが、惜しくも弾丸は頬を掠めるだけにとどまる。 「あらあら、こわいこわい」 ホリメ子の終始絶やさない笑みがかえって不気味である。 「おらおら、飛び道具なんか捨ててかかって来いよ! バトルは殴り合いが基本だぜ!」 飛び出してきた闘士子が掌を前にチョイチョイと挑発を見せ、それに応じてヘクスが前に出る。 「怪力に自信がある様ですね……その自慢の攻撃力でも傷をつけることが出来ない壁が現れた時の絶望しきった顔も見てみたいです。お相手願えますか?」 「しゃらくせぇ! ぶっ飛んで星になりやがれ! おらぁ!」 どぉん! 気合い一閃。威勢良く振りまわした渾身のパンチがヘクスを貫く。爆弾が炸裂したかのような轟音と衝撃。空気が震え、巻き上げられた土煙で視界が閉ざされる―― 暫しの間。土煙が晴れるとヘクスは微動だにせず立っていた。 「それが全力ですが?砕いて見せてください……全力を出し切り絶望するのが良いんです。越えて見せてください、この絶対鉄壁を……」 なんとかガードできたから良かったものの、クリーンヒットしていたら無事では済んでいなかっただろう。痺れる腕の痛みを悟られぬよう、涼しい顔でヘクスは言ってのける。 「ああ? 何が『絶対鉄壁』だ? 次は防がせねーぞ、この『絶壁野郎』!」 必殺の一撃を防がれ、逆上した闘士子は地団駄を踏んで悔しがる。 「あらあら、闘士子ちゃんたら口が悪い……」 一方、ホリメ子はいつでもマイペース。 「無駄口叩いてないで。また来るわよ」 マグメ子が警告を発するが、それより一歩早く、滑る様に低空飛行で接近してきたフィネがギャロッププレイの気糸を伸ばし、注意が逸れた所へ久嶺が滑り込んで青年と敵の間に割って入り、威勢良くホリメ子に啖呵を切る。 「黒髪、おしとやか系ってのがアタシと被ってるのよ!」 「えええ……そんなの知らないですよー」 「コイツの命が惜しくないの!?」 久嶺は青年に銃を突き付ける。 「えー、それは困りましたねぇ……」 頬に指を当て、のんびりおっとり。本当に困っているのかどうか分からないホリメ子。 「構わないわ。『お兄様』が死んだら、代わりに貴方達を閉じ込めるだけよ」 代わりにぴしゃりと冷酷に言ってのけるのはマグメ子。 「ちっ……お構いなしって訳ね」 「そんな事より、僕と一緒に踊りませんか? お互い近接は苦手でしょう?」 久嶺とマグメ子の間に割り込んで来た七海がカースブリットの呪いの弾丸を放った。 「あわわわわ……」 飛び交う攻撃に右往左往するしかない青年にフィネが声をかける。 「早く帰りましょう? そうしないと、新作だって、今日始まるあの続編だって、見れないんです、よ?」 「部屋にあったDVDのシリーズ今度、新作が出るそうっすよ。初回特典版予約したっすか?」 重ねて未璃亜も揺さぶりをかけるが、青年はおろおろするばかり。 「ああ、そうだ……でも……」 肝心な時に決心が付かないのが、こういう輩の駄目な所。 「万年(ぴー)じゃ、踏ん切りが付かないか。チンタラしてると、全部まとめて殺っちまうよ」 青年のヘタレ具合に業を煮やしたまがやがチェインライトニングの電光嵐を炸裂させ、荒れ狂う稲妻が敵少女達に激しいダメージを与えて怯ませ、その隙に頭を抱えて怯える青年を久嶺が確保した。 「痛いのですぅ……闘士子ちゃん、やっちゃって下さい」 ホリメ子が涙目で神秘の力を解放して仲間の傷を癒し、体勢を立て直す。 「なろぉ! ふざけた真似しやがって!」 怒りに震えダッシュした闘士子の前に立ち塞がったのはヘクス。 「あなたの相手は私だと言ったでしょう? 行かせませんよ」 再開されたヘクスと闘士子の激しい近接格闘戦の応酬の横では、リーゼロットと未璃亜のハニーコムガトリングが文字通り怒り狂った蜂の群れの様に弾丸の雨を降り注がせ、体力を削り取った所へ久嶺の狙い澄ましたヘッドショットキルがホリメ子を打ち倒す。 「よくもやってくれたわね……お返しよ!」 七海と激しく打ち合っていたマグメ子が一際強烈な衝撃波を放ち、七海を吹き飛ばす。 咄嗟にフィネがライアークラウンの道化のカードを投げつけてマグメ子を下がらせ、ルーメリアが天使の息で傷付いた仲間たちの傷を塞ぐ。 続けて未璃亜のスターライトシュートとリーゼロットのピアッシングシュートの弾丸がマグメ子と闘士子を貫き、悲鳴と共に二人の姿は霧散していく…… 「今日の所はこれぐらいで勘弁してやらぁ! 次会った時は容赦しねーからな。覚えてやがれ!」 ●こんぐらちゅれーしょん 「ふぅ……勝ったわね。お疲れ様、ヘクス」 久嶺は大きく息を吐いて、毎回恒例のハイタッチをヘクスと交わす。 「ヘクスは別にばてていませんが……お疲れ様です久嶺」 減らず口で返すヘクスだが、見た目以上に疲労は蓄積している。しかし、それを見せないのがポリシーである。 他の仲間も負傷こそしているものの、命に別状はないようだ。 「あああ……俺の妹達があああ……」 隅で存在の忘れられていた青年のハートがぽっきり折れる音が聞こえたような気がした。泡を吹いてばったり倒れ、どうやら気を失ってしまったらしい。 「ふむ。これは必要無かったようですね……」 リーゼロッテは取り出しかけていたスタンガンを再び懐に仕舞う。いや、そんなの食らわせたらヤバいから……何とも物騒である。 青年が意識を失うと同時に周囲の光景がぼやけ始め、ファンタジーな城は霞の様に消えていき、元の散らかったアパートの部屋へと戻っていった。 「まったく、現実も捨てたもんじゃないと思うんだけど……この趣味もやめろとは言わないから、少し控えて現実でがんばってみるといいんじゃないかしら?」 いびきをかいて眠る青年を見ながら久嶺が呟いた。 リーゼロットが青年を布団に寝かせ、フィネがその耳元で囁く。 「これは夢です。一晩寝たら、彼女達が起こしに来てくれますよ」 「おっとそうだ、アーティファクト、回収してかないと」 肝心な事を思い出した久嶺。 「念の為、DVDプレイヤーも調べておきましょう。覚醒していたなんて言ったら笑えませんしね」 そう言いながらプレイヤーを調べるヘクスだが、こちらの方は特に変わった所はないようだ。持って帰るのはDVDだけで良いだろう。 最後にルーメリアが眠る青年に優しく微笑んで言った。 「それじゃ、お兄ちゃんさようなら。今度会う事があったらデートしましょうね」 それが青年の耳に届いていたのかどうかは分からないが、青年はどんな夢を見ているのか、その寝顔は幸福そうに見えた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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