●承前 横浜市、某中学校――。 「はぁ、はぁ、はぁ……」 夜の学校。階段の影で息を吐く少女。 その姿は猫耳に猫目、猫の尻尾を付けた女の子といった――所謂『化け猫』の様な風貌をしていた。 追ってくる黒尽くめの男達を振り切ろうとするも、行く先々が予め判っているかの如く待ち構えられている。 だがこの姿になって自身の体力が格段に上がったお陰で、今まで何とか逃げ切れていた。 「なんでこんな事になっちゃったんだろう?」 ふと彼女は思う。 きっかけは、横浜で恋占いをした。 友達に薦められ、恋もしていないのに占ってもらっている。 その時、占い師の付けた変わったペンダントに触れられ、手を軽く切った。 ――翌朝に気がついたら、この姿になったのだ。 おかげで学校にもいけなくなり、家に引きこもるようになった。 家に突然やってきた黒尽くめの男達が襲い掛かってきて、彼女は街を駆け回る。 屋上まで駆け上がった彼女の前に、待ち構えていた4人の男女。 真ん中の男は少女へ優しく微笑みかけ、手を差し伸べる。 「こんばんは。貴女は運命に選ばれたんですよ。さ、行きましょう」 不意に心を奪われた少女はその手を掴み、男と共に学校を去っていった。 ●依頼 集まったリベリスタ達へといつもの調子で依頼を切り出す『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)。 「今夜この学校で、ひとりの革醒者がフィクサードになる。 そうなる前に彼女を救出するのが、今回の依頼」 猫耳に尻尾を付けた少女、猫村愛(ねこむら・あい)はビーストハーフに革醒している。 その原因となったのは、かつて横浜で活動していたフィクサード神木実花(かみき・みか)の『革醒の矢』によるものらしい。 実花自身は既に他のリベリスタ達によって倒されているにも関わらず、それまでにかなりの数の犠牲者が生み出されていたのだ。 「彼女達を付け狙う男達の正体はよくわからない。屋上にいるのは手練のフィクサード達だから、油断はしないで」 黒尽くめの男達は、何れも日本の名の知れたフィクサード組織には属していないらしい。 特に屋上で愛に話し掛けたフィクサードを含めた中央の4人の男女は、かなり油断のならない実力を秘めている様だった。 何れもビーストハーフの革醒者であり、それぞれの生き物の力を生かした役割を補い合っている。 「リベリスタになるか、フィクサードになるかを選択するのは彼女自身。 けれどフィクサードの選択肢しか与えないのは、フェアじゃないと思うの」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ADM | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2012年01月16日(月)23:02 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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●潜入 横浜市、某中学校正門前――。 敷地の外から中の様子を伺うリベリスタ達の姿があった。 正門前から透視にて敷地内の様子を伺う『殲滅砲台』クリスティーナ・カルヴァリン(BNE002878)。 「ふふ、私の為に有る様な戦場ね」 障害物、室内、索敵、殲滅といった任務は自身の為にあると自負している彼女。 クリスティーナから状況を聞き取ったアルジェント・スパーダ(BNE003142)は、自身の銃にサイレンサーを装備させている。 「銃声で怯えさせるかも知れないからな……」 今回確保の対象となっている猫村愛(ねこむら・あい)は、つい最近までは単なる一般人で革醒した直後に巻き込まれている事から、できるだけ動揺させる行為は避けたいと考えている様だった。 『メイド・ザ・ヘッジホッグ』三島・五月(BNE002662)が、仲間達の方へと視線を移す。 「酷い自作自演。随分強引な勧誘ですね」 神秘の世界に足を踏み入れたばかりの人には効果的なのですかね。と、溜息を吐いた女装メイド姿の彼に対し、『食堂の看板娘』衛守凪沙(BNE001545)は言葉を返す。 「でも、革醒してすぐは訳わかんなくなっちゃうよね」 自身が革醒した時の事を重ね合わせた彼女にとって、このフィクサード達へある許せない感情を抱えていた。 2人の会話に割って入ったのは、『メンデスの黒山羊』ノアノア・アンダーテイカー(BNE002519)だ。 「道に迷える子羊には、道を指し示すのが先達の務めって奴さな」 それにしても。と、前置きがあった上で『猟奇的な妹』結城・ハマリエル・虎美(BNE002216)がエリス・トワイニング(BNE002382)へと問いかけた。 「こんなに革醒者を作って何をする気だったんだろうね……何か嫌な予感がするよ」 革醒者を作り続けた張本人、神木実花(かみき・みか)はリベリスタ達によって既に倒されている。 それにも関わらず、次々と革醒者達によって起こる事件に対し、薄気味の悪い感情を抱く虎美とエリスだった。 『黒鋼』石黒鋼児(BNE002630)は、吐き捨てるように右手の指の関節を左手の黒鋼で軽く鳴らして告げる。 「また神木サンが事件の引鉄か……上等だクソッタレ」 鋼児に頷くように反応したのは、『さすらいの遊び人』ブレス・ダブルクロス(BNE003169)。 「前回の人形といい、神木って奴は色々厄介事を残してるな」 今までで確認しただけでも、ざっと10人近くの革醒者が実花によって作り出されていた計算になる。 続けてこの事件を追っている『ミックス』ユウ・バスタード(BNE003137)にも、虎美達の不安に同意していた。 「件の『ハーオス』と言い、嫌な動きですね。蠢動、ってヤツですか」 どうも今までの事件が繋がっているように思えてならないユウ。考えることが多くありそうだ。 ●引付 校舎入口――。 凪沙は周囲をぐるりと見回して、多数の熱を帯びた存在が近づいてきたのを確認する。 勢い良く飛び出して真っ直ぐに熱源帯へと駆け寄っていく凪沙は、黒いスーツのフィクサード達を視認すると距離を置いたまま蹴り技を放つ。 その力は真空刃へと変化して、もっとも前列にいた黒尽くめへと直撃した。 虎美とブレスもその場に残り、校舎内へと向かう仲間達へと軽く合図する。 「ここは俺達に任せて、さっさと子猫ちゃんを拾って来い!」 ブレスは銃を抜くと入口内で虎美と二手に別れ、凪沙の左右後方からそれぞれ射撃を始めた。 残ったリベリスタ達は一斉に校舎の中へと駆け出していく。 フィクサードへ広範囲に渡る弾丸が貫き、先制された黒尽くめ達はそれぞれ距離を置いた3人の迎撃へと向かう。 敵の前衛達が3人へと散って行き、背後に距離を置く後衛が援護に回る陣形。 凪沙は真っ先に後衛側にいる一人に狙いを絞り、蹴撃を繰り返した。 先制攻撃への対応の際に、味方の回復を行う敵が誰かを注意深く監視していたからだ。 「不安につけこんで愛ちゃんを黒服に追わせるなんて、絶対許さないよ」 大きく宣言して一人でも多くの敵を引き付けようとする凪沙。 続けて虎美が、視界に入る黒尽くめ全体へと強烈な連射を繰り返す。 「無駄無駄無駄無駄!」 蜂の襲撃のような連続射撃によって、大きく傷ついていくフィクサード達。 同じく反対側からの援護に回るブレスも、合わせた様に全体へ蜂の様な連射を見舞う。 狂気と非常識に満ちた戦場の一件から、味方を撃たない為に銃器を扱う技術を封印してきたブレスだったが、この依頼では射撃戦が最も有効な戦術だと認識できている。 「さて、俺と愛用の銃のリハビリと行きますか……」 Crimson roarを片手に小さく笑い掛けたブレスは、更に黒尽くめ達への発砲を続けていく。 黒尽くめ達は3人のリベリスタによる連携攻撃を見て取り、既に増援の連絡を入れていた。 やがてしばらくすると、別方向からフィクサードの一団が此方へと接近してくるのが伺える。 「もう1チーム、向こうから来るよ!」 熱感知で先に敵の姿を確認した凪沙から声が飛ぶ。 虎美とブレスも視線を敵達に向けつつ、自身へと向かってきた敵への対応を進めていた。 入口の下駄箱スペースを利用して待ち構えた後衛の2人が、即包囲される心配はなさそうである。 一方で校舎内に入ったリベリスタ達は、真っ先に屋上へと登る階段を選択していた。 クリスティーナは透視能力で周囲を警戒し、廊下から敵が迫っているのを一早く察知できている。 「皆、先に行って。大丈夫、私もすぐに後を追うわ!」 その手から振り下ろされた魔炎が、廊下を進むフィクサード達へと炸裂して爆音を挙げた。 他の仲間達が上階へと上っていく間、近づいてきた黒尽くめ達をギリギリまで引き付ける。 攻撃を耐え切った敵がクリスティーナへと殺到するが、彼女の前に立つ鋼児が阻む。 自身の防御力の高さによって、その攻撃の全てを防ぎきった彼の背後から、クリスティーナが両手を翳す。 「……憶えておきなさい。私の射程圏からは、誰も逃げられないのよ」 稲妻が視界を覆うすべてのフィクサードを襲い、彼女は高らかに宣言した。 ●選択 校舎内――。 階段の影で縮こまる様にしていた愛が移動しようと立ち上がった時、ノアノアの声が掛かる。 「やあ、迷い猫」 その声に愛はまた誰か襲ってきたのかと、顔を隠す様にしたまま逃げようと構えを見せた。 「僕かい? そうだな、アリスを導く白ウサギ」 彼女の不思議な答えに一瞬首を傾げていた愛へ、アルジェンタが自身の幻視を解いてその正体を露にする。 「……俺達は、同じ革醒者だ」 ネコ科特有の縦長の瞳孔、黄色に近い金と黒とが入り混じった髪、頬にうっすらとタイガーパターンのような黒い筋が浮かぶ。 愛は自身と似ている外見へと変化した彼へ、驚きを隠せないでいた。 良く見ればノアノアの頭部にも角が生えていて、愛と同じく別の動物の特徴を有していたのにも気づく。 そこへユウが、ゆったりとした口調で語りかける。 「私達はそう言う状態に対応する為の専門家です。百聞は一見にしかず……ほら、私も」 背中の羽をパタパタと動かし、笑って話し掛ける彼女に愛は少し安堵したような息を漏らす。 表情を見て取ったユウは、この世界が常識の及ばない神秘に包まれている現状を簡単に説明した。 愛の能力が、革醒者と呼ばれる超常の力である事も。 「でも超常の力を己の欲望と混沌に指向する者も居ます……今まで貴女を追いまわしていた連中の様に」 今までの逃走劇を思い出した愛が息を小さく飲む。ユウはやんわりと笑んで自身達を紹介した。 「私達は、彼らと立場を逆にする者です。即ち、秩序を護る為に戦う側ですね」 ユウから引き継いだようにノアノアが纏めに入った。 どちらを選んだとしても『現在』は最良で、『未来』は最悪かもしれないと前置きしながら。 「二つの道がある。どちらを選ぶのか、君が見て決めな」 愛は恐る恐るだが小さく肯定の頷きを返し、一行は階段を登って屋上へ向かう。 駆け上がった愛とリベリスタ一行を待ち受けていたのは、4人のフィクサードの男女。 真ん中に立っていたスーツ姿の鷲尾(わしお)がリベリスタ達を無視し、少女へ優しく微笑みかける。 「こんばんは」 挨拶しながら視線を鷲尾へと向けた愛だが、その瞳は恐怖で染められていた。 溜息を吐く鷲尾と同時にフィクサード達が一斉に動きを開始し、リベリスタ達も応じる様に構えを取る。 誰よりも圧倒的な速さで、攻撃を開始する鷲尾。 手にしていた機関銃から放たれる弾丸が業炎を纏い、リベリスタ達目掛けて襲い掛かる。 ユウも追いつけるだけの素早い動きから、フィクサード達目掛けて同時に光弾を放っていたが、一撃一撃の威力に差があり過ぎた。 だが意識的に愛を対象に含んでいない事から、彼女は自身の攻撃に専念できている。 敵の先頭にいる獅子神の前に立ち、狙いを天羽に絞ろうとする五月。 「私はただ敵を潰すだけです」 そう告げる彼女は目の前の敵に平然と無視して蹴撃を見舞い、天羽へのダメージを蓄積させようとする。 だが目の前の牛王が全力で天羽のブロックに回る事で防がれていた。 引き換えに目の前に現れた獅子神が、肉体の制限を解いて五月へと大剣を奮うが、跳ね返って自身に突き刺さる彼の針。 余裕を持って対応する五月に、同じく平然とする獅子神。 気合と共に爆裂する圧倒的な一撃は、五月の体力を一撃で回復不能の状態にさせ、大き過ぎるダメージをもたらしたからだ。 (天使……鷲……牛……獅子。まるで……エゼキエル書の……ケルビム) エリスは彼等の姿を見た時から、知識として見聞きしていた智天使の姿を思い浮かべている。 続けて獅子神の斬撃を直視した時、エリスは直感で気がついてしまった。 このまま戦えば、間違いなく自分達が敗れる事に。 「逃げて!!!」 仲間への回復を天使に祈りながら、まっすぐに階段へと後退を始めたエリス。 慎重な構えを見せていたアルジェンタも舌打ちしながら、エリスの言葉に反応して後退する彼女のカバーに回る。 続けて牽制の為に二丁拳銃を乱射しながら、扉を開けて仲間の合流を待つ。 選択の自由を与えて屋上へ行かせる選択を仲間が主張しても、自身が見つけた時点で逃走に回る主張を強くすれば、結果は大きく変わったかもしれない。 「引き上げるぞ!」 このまま戦闘を継続するには人数が少なすぎる。 そう判断した彼の鋭い声が全員へと届き、ノアノアは一旦相手を引き付ける為に神の光を天羽へと放った。 だがその攻撃もやはりそれも牛王に阻まれてしまう。 後退するノアノアはちらりと五月を見て、もう一度尋ねる。 「……アリスがどちらを選ぼうと、自由だ」 一極から見れば『正しく』ても、別の一極から見れば『間違い』になる世の中だ。 彼女としては後悔がない様に、自身に選択の自由が与えられるべきだと考えていた。 だが人は皆、ノアノア達の様に強い意思を持って生きてはいなかった。 自身の理解を超えた神秘の連続が押し寄せ、直前まで普通の中学生だった少女は何も選べずにいる。 愛は初めて見る革醒者同士の戦闘に、恐怖の余り選択自体を失念してしまっていたのだ。 ●逃走 前面の鋼児がその拳と蹴りで敵を威嚇し、背後からクリスティーナが最大火力を持って稲妻の鎖を解き放つ。 黒尽くめ達は鋼児から狙いをクリスティーナに移し、鋼児に抑えを置いて突撃をかけるが、平然としたままの彼女は告げる。 クリスティーナと鋼児は、2人とも敵の攻撃を受け止めきれる防御力を有していたのだ。 「近付けばどうにかなると思った? ご愁傷様。殲滅砲台は砕けない」 度重なる稲妻がフィクサード達に叩き付けられ、間もなく彼等は2人の攻略を諦めて撤退を選択する。 玄関前の3人が合流する前には、既に決着が着いていた。 鋼児と共に黒尽くめ達が立ち去って行ったのを確認したクリスティーナは告げる。 「後を追うわよ。急ぎましょう」 20人近くを相手取って戦いに入った虎美、凪沙、ブレス。 互いの死角をカバーし合い、味方の攻撃の隙を狙っての攻撃を狙撃し続け、確実に一人ずつ敵を倒していった3人。 それでも敵の前衛全てを凪沙が防ぎ切る事は叶わず、虎美やブレスにも直接前衛からの攻撃が振り下ろされていた。 防御力が他の2人と比べて薄い虎美は、度重なる敵の攻撃の矢面になる事に耐え切れず、既に己の運命を燃やして立ち続けていた。 「絶対に負けない!」 遠距離の敵にAlcatrazzを放ちながら、迫る前衛には桃印のスタンガンで必死に食い下がる。 凪沙も次から次へと倒す毎に続いてやってくる敵に、かなり手を焼いていた。 出血の為に倒れ掛かる状態であっても、尚自身の内なる力を開いて雄雄しく炎の拳を奮う。 一方でブレスは迫る敵に対して銃身についたブレードにオーラを込め、一人ずつ順番に叩き落していく。 「こっちは普通から外れた戦い方してきたんでな、白兵戦も慣れてんだぜ?」 ニヤリと笑う彼は、周囲に敵がいなくなれば銃弾で牽制を続け、効率良く立ち回っていた。 やがて3人を倒す事が不可能だと判断したフィクサード達が撤退を始め、彼等は大分遅れて校舎内へと向かう。 鷲尾から業炎の矢が放たれ、獅子神の繰り出す剛剣の前に五月は自身の運命を解放するまでに追い込まれる。 「……悪にそうそう簡単に倒されてたまりますか」 言い放った五月だが、自身の目算が甘かったのを痛感させられていた。 ユウは攻撃の手を止めて、五月の後方にいた愛へと急いで駆け寄る。 「貴女がどちらの道を選ぶにせよ、ひとまずは私達と一緒に来て頂けませんか?」 愛が精神的恐怖に固まって選択できずにいるなら、まずは安全を確保する事を優先させるべきだ。 そう判断したユウは愛を半ば強引に連れ、そのままアルジェンタ達の待つ入口まで真っ直ぐ後退する。 愛が下がったのを確認して、五月も行動を遅らせて入口へと下がった。 撤退していくリベリスタ達を追おうとする獅子神だったが、そこへ突然炎の嵐が吹き荒れて行く手を阻まれる。 「少しだけ貴方達の御相手、この殲滅砲台がさせて貰うわ」 入口の向こうから警告する様に響くクリスティーナの声。 一早く仲間達と合流できた彼女が壁から透視しながら、扉越しに魔炎を放つ事でその追撃を止めたのだ。 その隙を突いて一気に下まで駆け降りたリベリスタ達は、退路を確保していた凪沙達と合流してアルジェンタの運転で学校を後にする。 ギリギリの所ではあったが、一行は愛との脱出に成功したのだ。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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