●承前 横浜市、北条ビル最上階――深夜の会議室。 南関東一円に勢力を持つ広域指定暴力団『北条連合』。 「雁首揃えてガキ2人捕まえられないのか、お前等!!」 恫喝しているのは組織の頂点に立つ総長、北条桐雄(ほうじょう・きりお)。 ここに居並ぶ者達はすべて、この連合の幹部達だった。 彼等の間には現在、深刻な問題が生じている。 双子の暗殺者――ルイーズとアンリエットに相次いで事務所を襲撃され続けたにも関わらず、それに対応できていないという現実。 一度、幼女達の宿泊先を急襲したにも拘らず、特務機関アークと訳のわからないLKK団と名乗る連中によって取り逃がしている。 そのせいで東京を初めとする各地の縄張り(シマ)に次々と他の組織の介入を許し、予断を許さない状況だった。 幹部達は総長の恫喝を前にして、動揺の色を隠せないでいる。 相手は単なる幼女ではなく、手練のフィクサードだったからだ。 居並ぶ幹部の何人かがこの若者の発言に反発した様に言い放ち、彼等が相次いで自身がやると豪語しだす。 その直後、窓が突き破られて飛び込んできた双子の暗殺者達。 「ねぇねぇ、何の相談してるのかな? ルイーズ」 「あたし達を殺す相談かしらねぇ? アンリエット」 アンリエットの弾丸が降り注ぎ、不意を打たれた総長以下の幹部達が次々と撃ち殺されていく。 反抗しようとした相手には、ルイーズの容赦のない大剣の斬撃が待ち構えていた。 会議室の銃声と変事に慌てて駆けつける『北条連合』の配下達。 「あたし達ともっと遊びましょう?」 「殺して殺して殺し尽くすの」 返り血に塗れた赤い天使達は、居並ぶ男達へと残酷に笑い掛けていた。 ●依頼 三高平市、アーク本部――ブリフィングルーム。 映像を観た後、小さく溜息を吐いた『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)がリベリスタ達に語りかける。 「今回の依頼はこの双子のフィクサードをこのビル内で倒す事。生死は問わない」 以前依頼を受けた別のリベリスタ達は、双子を懐柔しようとして失敗している。 凶行は止まらず、一般人をも巻き込む数々の殺人は多数の人間に目撃され続けた。 これ以上の放置は許されない状況になっている。 「『北条連合』の雨宮龍司(あまみや・りゅうじ)という男に連絡を付けてある。君達は彼の配下の振りをして、ビルに潜入してもらう」 龍司は『北条連合』のフィクサード達を束ねている存在だ。 アークから仁蝮組を通じて連絡し、双方がこの事態の収集の為に一時的に協力する事になったらしい。 「双子はビルの外から真っ直ぐ会議室を目指してくる。前もって君達を総長や幹部達の護衛の一員として会議室内に配置させる予定だ。 過去に一度止められなかった経緯もある。これ以上犠牲者は出したくない……頼む」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ADM | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2012年01月11日(水)22:53 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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●護衛 黒いスーツで体格のいい男達がずらりと会議室に並ぶ。 それとは別に席に着いているスーツの男たち。 一番奥の大きな革張りの黒ソファーに、黒の紋付き袴を身に纏った老齢の男性が座する異様な光景。 「「「ご苦労様です」」」 幾重にも重なる挨拶が交わされた中、リベリスタ達は『北条連合』の幹部会議に招かれざる客として、双子の暗殺者を迎え討つべく万全の警備体制を敷いていた。 雨宮龍司の配下として潜入する為、彼の要望でリベリスタ達は全員揃えた様に黒のスーツを貸し出されて警備に当たっている。 龍司達と打合せを詰めているのは、鋼の義手を黒スーツで隠した『Giant Killer』飛鳥零児(BNE003014)だ。 「名目上護衛な訳だし、総長は確実に護りきりたい」 零児の言葉に頷いた龍司が、零児を総長の座る黒ソファーの後ろに配置させる。 全員の配置を気にしながら、『ChaoticDarkness』黒乃・エンルーレ・紗理(BNE003329)が小さな体に似合わぬスーツを着用して気を張っているようだ。 「配置はこれでよいでしょうか?」 零児も紗理に頷きを返して、配置された場所から全体を見渡す。彼らの一番近くに居たのは、『てるてる坊主』焦燥院フツ(BNE001054)だ。 袈裟から黒スーツにサングラスと、それらしい格好に変装したフツは総長の座るべき配置を確認して、手持ちの日本人形に念を込めている。 「決定的瞬間は見逃さないようにしないとな」 フツは総長を確実に守る為、周囲に気付かれぬよう式神化させた日本人形を避難する総長につける手筈のようだ。 それをアクセスファンタズムに隠すのを『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)が見ると、彼女はひとつ溜息を就いた。 「双子の暗殺者、か」 襲撃を待つ間に、幹部会議に参加する全員に防御結界を展開した『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)が読み取りにくい表情でぽつりと呟く。 「哀れだな」 ユーヌの言葉に、窓の近くで待機していた来栖・小夜香(BNE000038)が自らの魔力調整を図りながら反応する。 「教わるべき大切な事を教わってない。そんな印象だけど……」 前衛全員に、世界から借り受けた生命の力を付与し終えた『T-34』ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)が、窓から見る死角で口髭をさすりながら思い返すように唇を開く。 「幼い暗殺者を使い暗躍する者がいる。よくある手だが、不憫なものだ」 ウラジミールの言葉を聴いて唇を噛んだ『ミックス』ユウ・バスタード(BNE003137)は集中する傍ら、辛そうな表情で事実を確認した。 「周りの誰も彼もが正してあげなかった……いえ。分かっていながら、寄ってたかってそう仕向けた」 彼女が人一倍辛く感じるのは、一つ間違えれば自分もあの双子と同じ道をたどったのかもしれないという似通った境遇を思い重ねたからだろう。 自らの集中力を高めながら、そっとユウの肩に手を当てた小鳥遊・茉莉(BNE002647)が辛い思いを重ねる事は無いと首を振る。 「どういう事情からそのようになったかは分かりません。ただ、残念ながら説得は通じ無さそうですね」 茉莉の言わんとする優しさがユウにも伝わる。ただ、決定的に大切な所をひとつ間違えてしまっただけでユウと双子たちは全く同じではないのだ。 同じように、どこかの組織の実験体だった『剣華人形』リンシード・フラックス(BNE002684)がどこか虚ろ気な声で大切な決定事項を告げた。 「これ以上、罪を重ねないように……ここで、止めて、あげましょう……」 誰もがその言葉に同意の視線を向ける。リンシードの言うとおり、それだけがリベリスタたる自分達が出来る全てなのだから。 ●襲来 横浜市、北条ビル最上階――深夜の会議室。 南関東一円に勢力を持つ広域指定暴力団『北条連合』。 「雁首揃えてガキ2人捕まえられないのか、お前等!!」 恫喝しているのは組織の頂点に立つ総長、北条桐雄。 幹部達は総長の恫喝を前にして、動揺の色を隠せないでいる。 相手は単なる幼女ではなく、手練のフィクサードだったからだ。 居並ぶ幹部の何人かがこの若者の発言に反発した様に言い放ち、彼等が相次いで自身がやると豪語しだす。 桐雄がそれを制そうと手を挙げたのと、総長の後ろに居た零児が総長の前へ躍り出たのは全くの同時だった。 窓ガラスが割れて重なる不協和音と共に、同じ顔と姿をした双子の暗殺者が現れる。 「ねぇねぇ、何の相談してるのかな? ルイーズ」 「あたし達を殺す相談かしらねぇ? アンリエット」 二人の決定的な違いは、ルイーズと呼ばれた少女が大剣を、アンリエットと呼ばれた少女がサブマシンガンを持っている事だけ。 ルイーズが室内に降り立ったと同時に、待ち伏せていたリベリスタ達が全速力で双子に突撃していく。 どんなに双子の速度が速くても、気配を消そうとも、暗闇を見通す力で双子の襲撃に反応していた零児の方が先手を取れる。 アンリエットが機関銃を乱射するより早く、零児が総長を庇って自らの闘気を爆発的に高めた。 「あんたの護衛任務は、確かに完了したぞ」 乱射された機関銃から、確実に総長を庇いきった零児の後ろで、雨宮が総長と幹部を即座に会議室の外へ誘導する。 北条連合のフィクサード達が幹部を庇って盾になりながら、会議室の外へ行く。 それを見て、フツが事前に準備した日本人形の式神を取り出し、混乱の最中、会議室の外で何があってもいいように総長を追わせた。 「逃げる途中で総長が、部下に殺されたりなんかしたらたまらんからな」 同じく先手を取れたウラジミールの大型の盾が、一点の曇りも許さぬように鮮烈に輝く。 その破邪の力を帯びた盾がルイーズを切り裂き、驚いたルイーズが護りに入ってしまった為、少女からの斬戟は北条連合まで届かず、リンシードがアンリエットまで辿り着く事を許してしまう。 最速で自らの剣を振るったリンシードが、アンリエットへ全力で残像を映す剣戟を放った。 「本気で、倒しにかかります」 リンシードの作った隙を縫って、アンリエットの周囲には背後を狙ってユウ、ユーヌ、茉莉が周囲を囲んだ。 だが、アンリエットは会議室の窓枠に降り立っていて、背後に回るには窓から空を飛ばねばならない。 アンリエットの背後は完全な外。 ビルの五階で空中戦はさすがに背後に回るのは不利と判断して、三人はアンリエットの機関銃がそれ以上北条連合を狙わないように牽制をかける。 その後ろで沙理が、北条連合が外へ出たのを確認して会議室に人払い用の結界を張った。 「さらなる乱入者はいないと思うのですが……」 アンリエットの背後以外は完全な包囲網。 窓から飛び立たれる以外にもう逃げ場は無い。 そんな状況すら楽しむかのように、双子は笑いあった。 「敵が変わっちゃったけど、することは同じよね。ルイーズ」 「そうね、今日はこの人達を殺しましょう。アンリエット」 リベリスタ達も北条連合も、双子にとっては関係が無い。 ただ、目の前にいる人間と殺すか殺されるしか双子に選択肢は無いのだから。 ●死音 瞳を爛々と輝かせたルイーズが大剣を全力で振り回し、目の前のウラジミールに重すぎる雷の剣舞を放つ。 ウラジミールは気合を入れてしっかりと防いだ。 超感覚を駆使した絶妙の平衡感覚で、ウラジミールが即座に床に伏す事は無かった。 「まだまだ!」 気合を入れたウラジミールの掛け声と共に、フツがウラジミールのダメージを傷癒術ですぐに回復させていく。 フツの傷癒術とユウの気糸がルイーズめがけて飛んでいくのはほぼ同時。 「まずは、止める!」 ユウの攻撃で激昂したルイーズの目標が、前面にいる彼女だけに向かう。 ルイーズと戦闘を行っていく後ろでは、アンリエットが燃え盛る炎の矢をリベリスタ達へと打ち放っていた。 雷音がアンリエットの攻撃に対し、仲間へと駆け寄って癒しを順に投げ掛けようとする。 「百獣の王は、こんなことじゃ怯まないのだ!」 リンシードが炎を纏って体力をかなり削られたまま、バスタードソードでの連撃をアンリエットへ叩き込んだ。 ユーヌがそれに続いて式符をアンリエットめがけて放つ。 「遊びで殺しまわってるんだろう? なら遊び半分に殺されても文句はないはずだ」 一瞬だけユーヌに気を取られた瞬間に、零児が重々しい一撃をアンリエットへ叩き込む。 その脇から茉莉が四重の魔光を奏で、アンリエットの更なる攻撃を止めようと試みた。 「殺戮を、実に享楽的な趣味として感じていらっしゃるようですね」 向けられた言葉達に対し、零児の攻撃で吐き出した血を拭ったアンリエットは首を傾げるだけ。 「違うわ。殺すことは、生きることよ」 アンリエットが窓枠から後ろへ飛行して、もう一度打ち放たれた業炎の矢が広範囲に降り注ぐ。 それにも負けずに小夜香は窓際に立って天使の歌をひたすらに届けた。 「私は、攻撃されたって……退かない!」 何度も何度も降り注ぐ業炎に、前衛で戦っていた零児とリンシードが何度も崩れ落ちそうになる。 小夜香と雷音の懸命な補佐があって、何とかリベリスタ達は攻撃の手を休めずにいられた。 斬り付ける零児の剣が電撃を放ち、アンリエットの身体を貫く。 「斬られた箇所は痛まないか? 殺してきた奴らを思い出してみろ、お前の死は近い」 ちらりと零児から自分の傷口へと視線を変え、笑みが固まっていくアンリエット。 「自分が死ぬなんて微塵も思ってないだろうが。それは間違いだ……俺はお前らを殺すぞ」 冷酷な口調で言い切った零児に対し、彼女は無言のままで逡巡していた。 一方、ルイーズが怒りを滾らせ、ユウへと裂帛の気合と共に全身の闘気を纏わせていく。 だが間に立つウラジミールがしっかりと盾を翳し、ルイーズの真正面から離れずにいた。 激しい大剣をかわし切れず、ウラジミールが深々と斬り裂かれていくが、僅かに真正面から外して受けた為に致命的な直撃だけは免れている。 それに慢心したルイーズが微笑みを取り戻すと、その隙を見てウラジミールが再度破邪の力を解き放って応酬する。 「賭けをしないかね? 自分のような老人だと楽勝すぎてつまらないかね?」 「へぇ、何をくれるつもりなの? でも、勝ったら死んじゃうからつまらないよ」 ルイーズはウラジミールの言葉に、一瞬逡巡する表情を浮かべた。 その間にフツがウラジミールの背後へと駆けつけている。 「今日はアンタを守ればいいんだな」 ウラジミールは治療されたフツには視線を向けず、そのまま真正面にルイーズと対峙を続けている。 ユウはウラジミールとフツの更に後方から、ルイーズを少し観察した後に決断する。 「膝を撃ち抜けば、踏みこめないはず……!」 彼女がその脚へと狙いを定めたと同時に、沙理が隙の出来たルイーズへ幻影を伴わせて斬り込んだ。 「これも、計算の内です……!」 ウラジミールとユウに集中していたルイーズが、まともに沙理の剣戟を食らう。 ユウに足元を狙い続けられ、フツにより回復し続けるウラジミールと沙理を相手取り、ルイーズは生死を掛けた一撃をもう一度解き放つ。 その死を賭けた一撃を喰らい続け、沙理はついに崩れ落ちてしまう。 まさに、どちらにあっても死闘。 だが時間が経つにつれて、圧倒的数の優位によってリベリスタ達に勝機は近づきつつあった。 ●黒幕 ユウが倒れる直前に放った一撃で、ルイーズが膝を就いた事を視認し、形勢不利を感じたアンリエットが再度全員へ業炎の矢を振り撒く。 連続の業炎によって零児とリンシード、そして雷音は自身の運命を使って踏み止まらざる得なくなっていた。 だが、すぐさま取って返した様に空へと飛び立とうとするアンリエット。 零児の言葉は、彼女の心にナイフの様に刃を突き立てていたのだ。 ルイーズは突然の姉妹の変心に動揺を隠せない。 「アンリエット?」 彼女の呼び掛けを無視して飛び去ろうとするアンリエット。 逃走経路である空を背にして戦っていた彼女を止めるには、誰かが飛んで追うしかない。 ユーヌが冷静な表情のまま、式符を鴉に変えてアンリエットへと放つ。 「生き残れば友達になれるかもな?」 言ってみたが、恐らくそれは無理だと感じていたユーヌ。 今回、双子の生殺与奪の権限はリベリスタ達には託されていないからだ。 鴉は飛行によって動きが不安定なアンリエットを直撃し、彼女は怒りに我を忘れた表情で撤退を踏み止まった。 飛び込んできたアンリエットが茉莉の四重奏によって沈んだと同時に、ルイーズの側でも決着が着こうとしている。 予期せぬ姉妹の変心と、結果それによって集中を乱しての敗北。 ウラジミールは背後の姉妹の決着が着いたのを確認しつつ、ルイーズを見つめ直す。 「……この時間の襲撃が良いと誰から聞いたか教えて欲しい」 ひとりきりとなったルイーズの表情は、動揺と不安に満ちたものとなっていた。 そこへ言葉を重ねるようにしてフツが問いかける。 「お前さん達、誰かに命令されてたのかい?」 もはや戦意を失っているルイーズの視線が、背後で避難していた幹部の一人をジッと捉えていた。 その視線が言葉よりも雄弁に黒幕を物語る。 フツは避難を指示していた龍司へ説明し、彼は頷いて黒幕であった幹部をすぐさま拘束した。 動きの止まったルイーズをリベリスタ達が容易に確保した事で、戦闘はあっけなく終了する。 テロや暗殺で使われる弱者は常に存在するし、大人の都合で狂わされ人生を終える子供も多い。 しかしどんな悲劇であろうと、決着は付けなければならないのだ。 今回の一件も、そんな中のひとつに過ぎないのだろうか――ウラジミールは、それ以上の思考を止めた。 「任務完了だ」 双子は生きたまま、龍司へと引き渡されている。 それ以後、彼女達がどうなったか。 ――リベリスタ達が知る事は、二度となかった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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