●友達が帰ってきた 江原慎也が行方不明になったのは、3日前のことだった。 小学校のクラスメートで彼と親しかった者は、次の日は日暮れまで彼を探していた。けれど、行方はわからなかった。その次の日も。 3日目の朝、少年たちは危ないから警察に任せろと親に命じられた。 多くの少年は渋々ながらも従ったが、慎也ともっとも親しかった1人だけは、その日もあたりが暗くなるまで歩き回っていた。 水源池の公園と呼ばれている場所が町外れにある。広くて自然の多いこの公園は、少年たちが好む遊び場の1つだ。 公園の由来でもある貯水池のほとりで慎也を見つけた頃、あたりはもう暗くなっていた。 「……慎也!」 「ああ……お前かよ。ちょうどいいところで会った」 どこか虚ろな目をした友人に駆け寄る。 服が濡れていた。まるで、ずっと水に漬かっていたかのように。 けれど、今の時期は水が冷たい。普通なら泳いだりするはずもない。 「どこ行ってたんだよ。みんな心配してたんだぜ」 「マジ? 悪い、ちょっと池に落ちちゃってさ」 慎也がいうには、氷が張っていたので歩けないかと思ったらしい。 「すぐ帰んないとなー。でも、なんかこのままじゃ帰れないらしいんだよ。なあ、ちょっと頼みあるんだけど」 「なんだよ? なんでも言ってくれよ」 「俺の代わりに、しばらく池の中にいてくれよ。そうしたら帰れるって、教えてもらったんだ」 慎也は愛用のおもちゃである水鉄砲をかまえる。 同時に、貯水池の水面に張っていた薄い氷が割れて、人のような形を取る。 6体の氷人形は柵を乗り越えて少年に近づき、彼を冷たい水中へと引きずりこんでいた。 ●ブリーフィング アークのブリーフィングルームでは、いつものようにリベリスタたちが集まっていた。 「エリューションが出現した。タイプはアンデッドでフェーズは2。どうやら、エリューション・エレメントを6体引き連れているみたい」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は淡々と事実を告げる。 出現するアンデッドは小学生の男の子らしい。 彼は公園で遊んでいて、凍った池に落ちて命を落とした。そして、死んだことに気づかないほど一瞬で命を落としたせいで彼はアンデッドになった。 攻撃手段としては、水鉄砲による遠距離攻撃。氷水の詰まった銃で撃たれると、攻撃力も防御力も下がってしまう。 また、冷たい彼の手は守りを無視して触れた者を凍結させるだろう。 エレメントは氷でできた人形だ。 冷気を放って攻撃してくるのだが、範囲を狙って放たれるその攻撃を受けた者は氷漬けになって身動きが取れなくなる。凍った腕で殴ってくることもあるが、それにも凍結効果がある。 「ちなみに、どっちも凍らせるような類の効果は一切無効。炎による効果がちょっとだけ高い」 現場は広い自然公園の一角だという。 貯水池があるあたりだそうだ。表面には氷が張っているが、子供でも上に乗れば氷が割れて落下する。リベリスタならば死にはしないにせよ、寒中水泳はお勧めできない。 ただし氷人形は非常に軽いようで、氷の上を歩くことができるらしい。 「アンデッドの子は気づいてない。自分が死んだことにも、自分が友達を殺そうとしてることにも……だから、なにも起こらないうちに、止めてあげて欲しい」 左右で色の違うイヴの目が、悲しげに見えた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:青葉桂都 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年01月12日(木)23:21 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●寒い冬の公園で 自然公園には雪が積もっていた。 池に氷が張るほどの冬の寒気。 リベリスタたちも、防寒着にしっかりと身を包んでいる。 「死んだコトに気付かない。すべては自分の知ってる世界から変わってないと思ってる。……そういうヒト、多いよねぃ」 コートを着込んだ『蜥蜴の嫁』アナスタシア・カシミィル(BNE000102)は公園の入り口で息を吐いた。マフラーも、普段巻いている赤いマフラーよりもだいぶ短い。 自らの死に気づかないアンデッドには、いったいどうしてやればいいのか。 見るたびに彼女はいつも悩む。 「相変わらず運命はままならないものですよ。小さなものから大きなものまで、世界は悲劇の種であふれてますね」 奇抜な服装が、防寒のためにいつもよりわずかにおとなしい『ヴァイオレット・クラウン』烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939)が達観した言葉を放つ。 「……行きましょう」 アナスタシアと共に強力な結界を張った細・遥香奈(BNE003184)が静かに告げる。 無口な少女は、マフラーや手袋でしっかり防寒を整えている。普段はあえて穿かないことにしている遥香奈であったが、この寒空の下でも穿いていないのかはスカートの下に隠れてわからない。 結界の効果がある以上、よほどのことがなければ公園にはリベリスタとエリューション以外には進入する者はいないだろう。 ただ、犠牲者の少年にとって、親友の行方が『よほどのこと』であるのは想像に難くないが。 「何も求めずに友のために行動するこそが友情です。この少年は友情のために友人に殺される事になる。それは悲しいことです」 「ああ、友達は大事なものである。ろくでもない事で騒げる関係は、本当に尊い。だが、本当にろくでもない事はさせるべきではない」 氷河・凛子(BNE003330)のハスキーな低音に、『硝子色の幻想』アイリ・クレンス(BNE003000)が一つ結びの髪をなびかせ雪の上を歩く。 公園の奥にある貯水池には、程なくたどり着いた。 池のほとりに少年がいることと、そして、別の道を早足で進む少年がいることにリベリスタたちはすぐに気づく。 「まだ小学生なのに、可哀相だな……けどこれ以上犠牲がでないよう食い止めなきゃだ」 カイロの入ったポケットから『駆け出し冒険者』桜小路・静(BNE000915)が手を出す。 「もし知らないまま逝けるなら、それと良いと思うのに……苦しまないで済むのならそれが一番だと思うのにな。でもしょうがない」 『天翔る幼き蒼狼』宮藤・玲(BNE001008)は、結界の中では暗青灰色の尻尾を動かした。尻尾がないとバランスがとりにくい。凍った地面の上では、転んでしまいそうだ。 「玲、勝とうな。被害を大きくしないよう、綺麗に終わらせよう」 「うん……やろう、静さん!」 イヌとオオカミの、ビーストハーフのコンビである少年たちがうなづきあって走り出す。 呆然と周囲を見回す江原慎也を『吶喊ハルバーダー』小崎・岬(BNE002119)はちらりと見る。 リベリスタたちの戦意を悟ったのか、慎也少年は水鉄砲をかまえ、6体の氷人形たちも貯水池から姿を現していた。 「少年の方はわかるんだけど慎也くんの方はどう思っているのかなー?」 分っていないから軽い気持ちでなのか、分っていてもなのか。 知りたいところではあるが、彼女の担当は犠牲者の少年のほうだ。 「間一髪ー! 寒いから動きが鈍って間に合わないかと思ったよー」 コートのすそをひるがえして、岬は彼女と同じ年代の彼へと駆け寄っていった。 岬は少年の体を抱えて、戦場から距離を取る。 手にした明かりが照らす少年は、目を白黒させていた。 ●寒中の戦い 玲は慎也の前に立ちはだかる。 「……お兄さんたち、なんか俺のこと邪魔するつもりみたいだけど……やめてくれない? 俺、家に帰りたいだけなんだ。そのために会わなきゃいけない奴がいるんだよ」 少し距離をとって立つ静が、時計型のアクセス・ファンタズムから刃のついた手甲を取り出す。 「慎也、信じられないだろうが……君はその池に落ちて、命を落としたんだ」 「なにそれ? 池には落ちたけど、俺は死んでなんかないよ。死んでたら、お兄さんたちと話すことなんてできないじゃん」 首をかしげる彼には、本当に死んだという自覚はなさそうだ。 「どうしても誰か池に引きずり込まなきゃいけないなら、俺たちが代わってあげようか。ただし、俺たちと勝負して勝ったらだ!」 「お兄さんたちじゃ意味ないんだって」 やはりというべきか、交渉でどうにかするのは難しそうだ。 「信じられないなら池に写る姿を見て確かめることです」 「そんなこと言って、俺を後ろからまた水の中に落とすつもりなんじゃないの?」 凛子の言葉も届きはしない。 「そなたの代わりに池の中へ……? そうすれば帰れると……教えてもらった? 誰にだ。男か女か。子供か大人か」 アイリの問いに、ふてくされたように『さあね』と答える。 「誰にせよ……友達のためにはなるまい。あの少年の事を、友達だと胸を張って言えるのならば、そんな事はすべきではない……!」 「うるさいなあ。いいから、そこをどきなよ!」 水鉄砲の引き金を引く。凍りつく水流は手近にいた玲を狙っていた。 冷たい水が玲の体温を奪って、動きを鈍らせる。 「玲、大丈夫か?」 「大丈夫! このくらいで俺は倒れないよ!」 彼は覚悟を決める。犠牲になる少年を守るためにも、慎也を倒さなければならない。 (……世界の歪みが減りますように) 願いを込めて、玲はレガースを装備した脚を踏み出し、空間を切り裂く鋭い蹴りを放った。 2人の後方では、氷人形との戦いがすでに始まっていた。 アイリは人形たちが立つ池に矢を放つ。 柵の間を精密に飛んだ矢が抜ける。 薄い氷が割れた。 人形が3体、足を踏み外す。もとより凍っている者たちに、水中に落ちたことによるダメージはない。ただ、上がってくるのにかかったわずかに時間でリベリスタたちが攻撃する。 「全力全壊!」 「……仕事を始めるとするわ」 残酷な笑顔の烏頭森と、スタイリッシュに指先を向けた遥香奈が見栄を切る。2人のフィンガーバレットが、立て続けに火を噴いた。 2人の攻撃が、水中から上がろうとする人形の1体を貫く。 アナスタシアの色黒な脚が弧を描いた。飛翔する斬撃が同じ敵を捕らえる。 仲間たちの背には小さな翼。凜子が付与したものだ。 「打ち砕く!」 アイリも2人と共に攻撃をしかける。 6体の敵をまとめて貫いたアイリの弾は、すでにダメージを受けていた1体を粉砕していた。 気になることはある。だが、まずは人形たちを片付けてからの話だ。今あの少年に聞いたところで、まともに答えてもらえるとは思えない。 凜子は体内にマナを循環させる。 アナスタシアの周囲を、柵を越えた人形たちが囲んでいた。だが、焦って回復する必要はない。そんなに彼女は弱くはない。 彼女が注意をひきつけてくれているおかげで、凛子は自由に動くことができた。 近づいてきた敵を、雪崩のようなフレイルの一撃が打っていた。 仲間たちは水から這い上がってきた敵を狙う。吹き付ける冷気の反撃が仲間たちを包んだ。 後方をちらりと見れば、岬が犠牲になるはずだった少年を説得していた。 愛嬌のある少女は少年に友達が死んで、化けて出たのだと説明しているらしい。 「ボク等はまあゴーストバスターズみたいなものだよー、慎也くんが池に落ちたのにきずかないで化けて出ちゃったのでお祓いにきたのさー」 「そんな……」 少年が立ち尽くす。 「善行には善意を。悪行には悪意を」 呟いて、神秘の力に覆われた手術用の手袋で包んだ手を握る。 「悲劇が起こることなく、この事件を解決しましょう」 凛子の願いに答えて、冬の公園に福音が舞い降りた。 「皆さん寒いですが戦闘が終れば暖かい飲み物がありますから」 エリューションの能力で凍った体を溶かすには、さすがにただの懐炉では足りない。 ただ、戦いが終わった後に冷えた体を暖めるくらいの効果はあるはずだった。 烏頭森は五指に装備した銃を乱射している。 足を狙った攻撃は、氷人形の脚部を徐々に削っていっていた。 あの人形たちが、慎也少年をそそのかしているのではないかと烏頭森は疑っていた。 友情を利用して悲劇を拡大しようとしているならば、許すわけには行かない。 「人形ごときが! アハハハハッハ壊れろ! 滅べ!」 長い髪を振り乱して、狂ったように銃を撃ちまくる。 やがて狙っていた人形の足が砕けた。 池から近づいてこようとしていた人形は、薄い氷を砕いて混ざり合い、その形を失っていた。 ●冷気を跳ね返して 岬は少年をかばいながら禍々しい斧を振るっていた。 「……ねえ君、ホントにゴーストバスターの人なの? 悪い人じゃなくて?」 信じられないほど見た目が邪悪な、赤い一つ目のついた漆黒のハルバードを見れば、不安になるのも仕方がない。 かつてはフィクサードの所有物だった代物だ。 「ふふふー、必ずしも正義の味方じゃないかもねー。でも、悪人でもないさー」 「ホントに慎也のやつ……死んじゃったんだよな?」 半信半疑……というよりは、信じたくないのだろう。前に出て確認したいのだ。 ただ、戦いの中に踏み込んでいけるほど、一般人の少年に勇気は出せないようだった。 恐ろしくて前には出たくない。けれど親友のところに駆け寄りたい。 2つの思いの折り合いがつく場所が、岬のすぐ後ろなのだ。 (出来ればちゃんとお別れさせてあげたいけどなー、こんなに探しまわってたんだから――) 背を向けたまま、岬は少年に声をかける。 「お別れをするなら、ボクが倒れるまでだよー? 倒れれたらどんな状況でも走ってー」 そんな会話を聞きつけたか、静たちと戦う慎也が岬たちをちらりと見る。 アナスタシアと戦っていた人形のうち2体がが前進してきた。 冷気が少年と岬を襲う。 かばった少女は、2人分の攻撃を受け止めて膝をつきそうになった。 けれども岬は倒れない。幼い容姿からは想像もつかない膂力で体を覆う氷を砕くと、アンタレスをしっかり構え直す。 「倒れるまでとか言っておいてすぐ倒れたらかっこ悪いからねー」 色黒の影が人形に追いすがる。 「逃がさない、よぅ!」 炎をまとったアナスタシアの打撃が敵を炎上させる。 岬は斧を降り抜いた。 彼女よりも巨大と思えるほどの刀身から放たれた衝撃波は、燃えた敵を砕いていた。 遥香奈は殺意を込めて銃撃を放つ。 ただの氷の塊にも、クリミナルスタアの殺意は効果を表すのか。それともあの氷の人形にも、なんらかの意思が宿っているのか。 彼女にとっては、どうでもいいことだった。 大事なのは殺意を乗せた銃撃のほうが有効であるという1点だけだ。 トリガーハッピーの烏頭森が放つ弾丸が、岬たちに近づこうとしている敵を打ち抜く。 星の光のごとく飛んだアイリの矢は残った敵をまとめて傷つけていた。 「……これで終わり」 静かな声と共に、遥香奈は敵の1体を粉砕していた。 アナスタシアは柵のあたりにいる残る2体へと接近する。 そんな彼女を超える速度で、アイリが敵へと突進した。 1体はすでに弱っていた。岬たちに近づく敵へと目標を変える前、狙っていた相手だ。 銀の具足が宙を滑る。 高速移動から弓をまるで剣のように振り下ろすと、人形が1体両断していた。 「弓での舞も、悪くはないか」 「やるねえ、アイリ殿。それじゃああたしもがんばるよぅ」 短いマフラーが宙に浮いた。 拳が炎に包まれる。 炎に巻かれながらも敵がアナスタシアを冷たい手で殴りつけてきた。 「……寒いのは苦手だケド、今日ばっかりはそうも言ってられないんだよ、ねぃ!」 仲間たちの攻撃が最後の氷人形を削っていく。 有刺鉄線を巻いたフレイルを、色黒の女性は振りかぶった。 勢いよく襲いかかる冬山の雪のように、それは氷人形を人型の原形をとどめなくしていた。 静は、後方にいる仲間たちの動きが変わったのを察する。 そして、静と玲も慎也をだいぶ追い詰めていた。 もちろん無傷でとはいかない。 接近してきた少年の手が静に触れる。 体温が奪われる。 玲の刺繍が入った防具を無視して、直接静の体内を冷気が侵す。 引き締まった体がよろけた。 「福音をもちて寒気を払う」 凛子が吹かせた風が冷気を吹き飛ばす。 「……今のはちょっと危なかったな。悪いね、お姉さん」 「気にしないでください。これが私の仕事です」 ウルフカットの髪から落ちそうになった帽子を、かぶりなおす。 チワワの耳が皆に見られなかったかが少し気になった。 「突然死んじゃうって辛いことだと思う。だから未練を残さず、全力でぶつかっておいで。全部受け止めて、あっちの世界へ送り届けてやる!」 ナックルについたブレードで宙を薙ぐ。 玲のレガースも空間を切り裂き、2つの斬撃が少年を切り裂く。 氷人形たちを倒したアナスタシアやアイリが慎也の側に近づいてきた。 烏頭森や遥香奈、岬の攻撃も彼の体をかすめている。 「帰れるって教えてくれたのは誰なのかねぃ。あたしたちと戦ってるときは喋らなかったケド、あの人形たちに聞いたのかな?」 「あいつらはなにも話さないよ。役にも立たないし!」 アナスタシアの問いかけに、いらだちを隠さず少年が答える。 「では、誰にだ。男か女か。子供か大人か」 先ほど答えてもらえなかった問いを、アイリは再び投げかけた。 「変な黒い布をかぶった男の人たち! 池から出られなくて困ってたら、助けてくれたんだ」 面倒くさそうにだが、それでも慎也は答えた。 静は玲と目線を交わす。 もしそんな連中が本当にいるなら、不愉快な話だ。玲も同じ気持ちだと目が語っている。 (けど、黒幕のことよりも、まずは慎也のことを片付けなきゃな) 8人がかりでの攻撃を受けて、動きが目に見えて鈍っている。 冷たい水にぬれた少年の体が炎で燃えている。 玲の得意な足技が、空気の刃を生んだ。 「静さん、今だよ!」 全身の闘気を、静はブレードナックルに込めて慎也に肉薄。 「ああ、まかせろっ!」 応じる叫びと共に振り下ろした刃は破壊的な威力で、少年の体を吹き飛ばす。 大きく目を見開いて、慎也は雪の上に倒れた。 ●死者は、死体に還る アンデッドはもう動かなかった。 凛子はアクセス・ファンタズムを取り出してアークに連絡する。 「両親と友達に連絡がいくようにお願いします」 アークの職員はすぐに請け負ってくれた。 動けなくなった少年にアイリが声をかけた。 「黒い布の連中に、友達を池に引き込めと教わったのだな?」 「……うん。俺は死にかけてるけど、自分たちは死神だから助けてあげられるって……」 そのために友達に手伝ってもらう必要があると、そう教わったらしい。『手伝ってもらう』のが『死んでもらう』という意味だとは教えてもらえなかったのだろう。 致命的なダメージを受けて、ようやく慎也は気づいたようだ。自分は今死にかけているのではなく、もうすでに死んでいたのだという事実に。 「人形ではなく、黒幕がいるということでしょうか?」 「事実だとすれば、そうなるねぃ」 烏頭森とアナスタシアが目線を交わす。 「戻ったら、アークにそんなフィクサードがいたかどうか照合してもらおう。何かわかるやも知れぬ」 アイリの横を、慎也の友達だった少年が駆け抜ける。 止める間もない。 「バカ野郎! 危ないから池に近づくなって、言われてただろうが!」 「あー……楽しそうだったから、忘れてた。……ごめん」 非難の言葉を投げかける少年の目から、涙がこぼれる。 「もう近づいても平気だよねー。まだ息がある……って言い方も変だけど、話せるみたいだし」 戦いは終わったと判断して、岬は止めなかったようだった。 「いいんじゃないかな。お別れは必要だよ。ね、静さん?」 「そうだな……ま、オレだったら玲と最後のお別れなんて絶対したくないけど」 いつも元気がいい2人だが、さすがに今は騒ぐことはしない。 「こちらをどうぞ。暖かいですよ」 凛子が少年たちを見守るリベリスタたちにコーンポタージュを配っていた。 戦場の後片付けをしている遥香奈にも。 やがて、慎也は動かなくなった。少年が声を上げて泣き出す。 玲の尻尾が、うなだれるように雪の上に垂れた。 慎也が語った黒い布の男たちが何者かはわからない。フィクサードか、あるいは人型のアザーバイドか。アンデッドに干渉するアーティファクトでも持っているのか。 もちろん、そもそも死にゆく少年が見た幻影だった可能性も十分ありえる。 ただ、考えるのは帰ってからの話だ。 静は少年の目を、閉じてやる。 「……生まれ変わったら、今度は氷の上で遊んじゃ駄目だぞ」 茶色の瞳を閉じて黙祷をささげ始めたのを見て、玲も彼にならってきらきらと輝く瞳を閉じる。他のリベリスタたちにも同じようにする者がいた。 冷厳な空気の下、沈黙の時間がしばし流れた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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