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<三ツ池公園特別対応>赤きサイクロン

●赤い砂嵐
 ――空に開くは世界の穴。

 三ツ池公園。赤い月の下、決戦の舞台となったその場所は今、頻発するエリューション事件の為に特別厳戒態勢となっていた。
 多数のリベリスタが派遣され、巡回を行っている。……そこに事件は起きた。
 はじまりは些細なもの。ぽとり、と穴より一つの物が降ってきた。
 それは五十センチほどの大きさの八面体をした赤い水晶のような鉱石。それがぽとりと砂場に落ちる。
 ――直後、風が動いた。
 その風は鉱石を中心に渦巻き始め、砂を巻き上げみるみる巨大な竜巻へと変貌していく。
 内部に封じられた砂は鉱石よりの侵食を受け、色を変質させ竜巻を赤く染めていく。
 やがて規模が最大になった竜巻は移動を始め――あらゆる物を巻き込んでいく。
 樹木を、土砂を、構造物を。そして竜巻を止めにやってきたリベリスタ達を。
 砂は血を帯びてさらに赤く染まる。
 竜巻は多数の犠牲の元に、赤く赤く染め上がり。無慈悲に進軍する。

●ブリーフィングルーム
「困ったものですよねぇ。最大の危機が去ったとはいえ、油断ならない物件を抱えてしまいました」
 やれやれと頭を振るのは『黒服』馳辺 四郎(nBNE000206)。アークのブリーフィングルームにて、リベリスタ達を前にして彼は口を開く。
「どうにもあのあたり、不安定になってしまってエリューション事件が頻発するのですよねぇ。
 というわけで皆さんに解決して貰いたいのは、これなのですが」
 彼が提示した資料に写っているのは自然の猛威、竜巻である。だがその色はどこまでも赤い。
「どうやら他のチャンネルから流入したアザーバイド? それが原因として起きた災害のようです。
 一つのコアを中心として発生したこの竜巻は凄まじい威力で物体を破壊しています」
 資料に目を通すリベリスタ達。あの穴によって引き起こされた、確認されている現象も他に記述されている。
 それらには法則性はなく、大小含めて関連性が読めないぐらいに多彩な出来事が記されていた。
「ああ、驚くほどのことじゃありませんよ。あの穴はかなり特殊で、色々なチャンネルに不定期に不規則に、また短期的に繋がるようです。開きっぱなしでこちらへの影響も大きい。
 ボトムチャンネルへの影響が高く、より拡大しやすい事象はこれからもしばしば起きるでしょう。
 ……あの竜巻も、その存在をより拡大させています」
 だが、今なら止められる。コアがある限りはそれを破壊すればいいのだから。
「この竜巻のコアは硬い物質で出来ています。それは周りの砂にも影響を与え、同質の組成へと変えていっています。
 硬い粒子は巻き込んだものを削り取ります。サンドブラストという技法のように」
 いわば巨大な砂嵐。それが風と砂の暴力によって暴れまわるのを阻止しなければより被害は広がるだろう。
「ですが――この公園において、多数のリベリスタは配置されています。
 皆さんに対処はして貰いますが……本当に危ない時は迷わず引いてくださいよ?」
 ただでさえアークは運用出来る戦力が多くないのだから、と。四郎は冗談交じりに言った。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年01月12日(木)23:23
●馳辺の資料
■フィールド:三ツ池公園砂場付近

■環境
 特にペナルティ等の存在しない、公園内です。
 ただし竜巻の影響によりかなり風が強いです。

■勝利条件
 レッドサイクロンの撃破

■エネミーデータ
・レッドサイクロン(アザーバイド)
 ・直径十メートル、高さ二十メートルの範囲に吹き荒れる竜巻です。
 ・内部には直径三メートルぐらいの風の影響を受けない、目が存在します。
  ただし風は不規則に揺動している為、内部が絶対に安全だとは思わないでください。
 ・中心部に核となる五十センチ程の鉱石が存在します。それを破壊することで竜巻は消えます。
 ・砂を含んだ竜巻によって内部への視線は通りません。
  核へはなんらかの手段で接近する必要があります。
 ・周囲の風は高い殺傷力を誇ります。
  ダメージの他、ノックバック、致命、無力、虚脱といったBSを引き起こします。

●マスターコメント
 世界に開いた穴は異界より様々なものを呼び寄せます。
 今回の相手は自然現象のようなもの。リベリスタの皆様の対処に期待しております。

 タイトルを見てロシア人レスラーを連想した人。
 貴方は正常です。私も同じこと思った。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ナイトクリーク
犬束・うさぎ(BNE000189)
ナイトクリーク
源 カイ(BNE000446)
ソードミラージュ
戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)
マグメイガス
風宮 悠月(BNE001450)
マグメイガス
宵咲 氷璃(BNE002401)
ソードミラージュ
武蔵・吾郎(BNE002461)
クロスイージス
村上 真琴(BNE002654)
ナイトクリーク
椎名 影時(BNE003088)

●暴風警報
 風が啼く。
 ごうごうと音を立て、風が渦巻き逆巻いている。
 三ツ池公園。日本におけるエリューション事件の中心地となったその場所に、リベリスタ達は訪れていた。
 暴風圏となっているその場所、彼らの眼前に立ち塞がるは一柱の風の渦。
「いよいよアークは自然災害も相手にする事となりましたか……」
 眼前の竜巻を見上げつつ、源 カイ(BNE000446)がしみじみと呟いた。
 そう、リベリスタ達が排除しにきたものは、目の前に存在するこの赤い竜巻なのだ。
 この竜巻はリンクチャンネルの向こうより現れ、あらゆるものを巻き込み、砕いていく。構造物も、自然物も、命さえも。
「感情が無い分、ある意味ジャックさんより怖いですね……」
『夜翔け鳩』犬束・うさぎ(BNE000189)も眼前の物体に思考する。人であるなら付け入る心がある。だが、事象が敵である場合はただ無慈悲にそこにあるのみ、心の入る余地もないのだ。
 「ええ。ですが……竜巻や砂嵐よりも厄介ですね」
『鋼鉄の戦巫女』村上 真琴(BNE002654)も同意する。異界より来たコレは、巻き込んだ物も粉微塵へと変え、自らを囲む砂の風の一部と変えていく。
「厄介なモノではあるけれど――」
 彼女もまた、厄介であると肯定する。だが同時に彼女は。『運命狂』宵咲 氷璃(BNE002401)は告げる。
「これ以上この世界を侵食させるわけにはいかないわ」
「例え風や嵐であろうとも。立ち塞がるならば切って捨てるのみです」
『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)も覚悟は決めている。それが障害であるならば切り捨てるのみ。研ぎ澄まされた刃の如く、手にした『戦太刀』の如く、シンプルにして鋭き決意。
「なんとか片付けなきゃね。……超面倒くさそうだけど」
「何、倒す必要があるならば台風だって竜巻だって倒してやろうじゃねえか」
『Lost Ray』椎名 影時(BNE003088)は気だるそうに、『仁狼』武蔵・吾郎(BNE002461)は闘争心を剥き出しに。
 この場にいるリベリスタ達が目指すものはただひとつ。この荒れ狂う風を倒すということ。
 それはある意味、自然の力に挑むということ。例え異界の存在が巻き起こすものであろうとも、起きる事象が同じならば、それは同一であると同じ。
「核となるのは赤い鉱石状のアザーバイド……まるで賢者の石のよう」
『星の銀輪』風宮 悠月(BNE001450)が脳裏に浮かべるは、先日日本中にもたらされ、各地で騒ぎの中心となった石。竜巻を起こしている核の石、それに同じ姿を重ねたか。
「……調査していきたいですね」
 神秘を追求する徒の一人である悠月の興味はその存在に注がれる。
 だが、全ては終わった後に。まずはこの風を抜け、叩き伏せた後のこと。
「さて、矮小な人間がどれだけ歯向かえるか。――挑むとしましょうか」
 カイの言葉を切欠にリベリスタ達は歩を進める。文字通り、嵐の渦中へと。

●赤き竜巻
 ――宙を舞う。
 荒れ狂う大気の中を縫うように氷璃が天を舞う。
「嫌な天気ね。――翼が汚れるわ」
 全身に当たる風と砂。それは彼女にとって好ましくはない空気であった。
 赤く染まった砂が藍色の着衣に付着し、不可思議な色味となる。銀の髪にも砂が絡み、不快感はより一層増していく。
 眼下にあるは赤い竜巻。中央の核を見通そうと、天の目となりて氷璃はこの不快な環境に甘んじる。
「さあ……姿を見せなさい」
 氷璃の鋭敏な知覚は竜巻内の核を見通す。色味に隠されたごくわずかな瞬間しか見ることの出来ない、八面体の赤い水晶。そのわずかな時間があれば彼女にとっては十分である。
「そこね」
 淡々とその事実を彼女は伝える。下部に伝えようと、派手な花火をもってして。
 ――かくして竜巻内に赤い炎の花が咲く。

「合図を確認しました、始めましょう」
 カイが氷璃の打ち込んだ目印をその知覚で捉えた。
 同時に指示された場所への直線状、リベリスタ達の攻撃が叩き込まれる。
 凄まじい圧力を放つ竜巻へと刃が、炎が、次々と叩き込まれる。
 砂と金属が擦れあう不快音と、炎の弾ける爆音が響く。
 だが、わずかの間に巻き上がった爆炎は竜巻に巻き取られ、吹き散らされて消え去っていく。
 そこに残るはさきほどと変わらぬ風の壁。暴威を振るう破壊者の姿であった。
「効果があれば儲けものだが……これはちょっと無理があるか?」
 吾郎がやれやれといった風にその獣面を顰める。
 期待に関しては通ればよし、程度の考えではあったが実際に効かないとなるとそれはそれで悔しいようだ。
「じゃああっちの作戦でいくしかないかなー……」
 舞姫の面倒くさそうな声が響く。だが、彼らにとっての危険を伴うプランに移行する為、即座にリベリスタ達は準備を始めた。
 カイが再生の力を仲間達に振り分け始める。それぞれが自らの力を増幅するように力を練り上げていく。
「皆様、手はずどおりに。無理はしないよう」
 真琴も同様に仲間達へと力を注ぐ。
 癒しと共に光が包む。可能な限り最大限の支援体制。
 全員に行き渡った時、リベリスタは……
「それでは、行きますよ!」
 うさぎが駆け出し、併走するように真琴も駆ける。
 目指す場所はシンプルにただひとつ、竜巻の中の核の場所。
 そう――危険を伴うプラン。それは正面突破であった。

「くぅっ……!」
 竜巻に正面から突入した二人に凄まじい砂嵐が襲い掛かる。
 大量の砂粒が猛スピードで衝突することにより、衣類や武具と接触してバシバシと音を立てる。
 硬い砂粒は音を立てるだけでは飽き足らず、削り取っていく。
 纏った武装の光沢がざりざりと失われていく。露出した皮膚に砂が襲い掛かり、擦傷のような痕を作り出す。
 傷からは血が滲み、噴出し、それをさらに砂が抉る。常軌を逸した、まともな事象では遭遇しえない状況。
(恐ろしい……正直泣きそうです)
 うさぎは心の内の恐怖と戦う。
 さほど表情の豊かなほうではないうさぎではあるが、その内面にはあらゆる危機に対する畏れがある。
 このような尋常ではない状況、当然うさぎにとっては恐怖以外の何物でもなく。
(ですが、だからこそ――排除しませんと)
 それ故にうさぎは知る、脅威があるという危機のことを。それは穏やかな生活の障害であり、捨て置けぬモノであることを。
 だからこそ、進む。砂塵の中を、一歩づつ踏みしめて。
「落ち着いて、確実に一歩づつ」
 真琴がうさぎの盾となり血路を開く。わずかながらの、されど一歩を保障するための壁として。うさぎを守り、その道行きを確保する為に。
「――――!」
 その時、真琴の足元が掬われる。
 砂塵の勢いは彼女の全身へと叩きつけられ、風は彼女を舞い上げる。
 遠心力は外へと彼女を放り投げ、地面へと叩きつけた。
「―――! 大丈夫ですか!?」
 即座に悠月が駆け寄り、癒しの力を彼女へと施す。
 全身を削った擦過傷はみるみるうちに塞がり、再び彼女を立ち上がらせる。
 一方、砂塵の中に取り残されたうさぎではあるが正面にあるモノを捉えた。
 それはふわふわと浮く、一つの結晶体。竜巻と同じく赤く、透き通った鉱石。
「見つけましたよ……!」
 それこそがうさぎが目指したこの事象の中心。嵐を引き起こす赤い石。
 肉薄すれば嘘のように風が弱まる。台風の目という無風地帯があるように、竜巻にも目が存在する。決して油断出来る範囲ではないが、そこにたどり着くことに成功したのだ。
 うさぎはその水晶に、握り込んだ不可思議な形状をした得物『11人の鬼』を躊躇う事なく突き立てた。
 すると苦痛に悶える様に水晶が明滅し、空気が大きく揺らいだ。
「しまった――!」
 同時に訪れる浮遊感。揺動した風がうさぎの足元を浚い、舞い上げたのだ。
 激しく吹き飛ばされ、水晶は再び孤立する。風に守られた領域の中で。

●紅き戦線
「くぅぅっ……」
「なんのこれしき……っ!」
 カイが苦痛に眉を顰め、舞姫が歯を食いしばる。
 舞姫に庇われつつも進むカイと、器用にも風に飛ばされぬように立ち位置を捉え進む舞姫。
 竜巻の中を突っ切り、水晶へと肉薄する二人。
 リベリスタ達の作戦は概ね功を奏していた。捨て身の突入による一撃は確実に水晶を傷つけられる。同様にリベリスタ達も激しく傷ついていく。
 カイが、舞姫が、それぞれ手にしたナイフを太刀を水晶へと叩きつける。その度に水晶は苦痛を示すように明滅し、竜巻を揺動させる。
 その風がまた侵入者を排除し、外へと投げ捨てる。
 一進一退。だが、その実はリベリスタ達にとって不利な状況。
 悠月の癒しの業に頼り、再生の力に頼り、血路を進んでいく。だがその魔力とて長くは続かない。
 消耗戦の泥試合。そうなればリベリスタも焦れてくる。相手は感情持たぬ竜巻に鉱石。一進一退と言えども、焦りは増える。
「ほら、行けよ! 遠慮なく俺を壁にしろよ!」
 吾郎の檄が飛ばされる。庇う者に突入する者。それぞれが役割をこなしては痛打を与え、風に拒まれはじき出される。
 打開の見えぬその状況だったが――一つの変化の兆しがあらわれた。
「あのー……ちょいこの風、迷惑すぎるんですが」
 椎名影時。彼女は一人、竜巻の最中に立っていた。
 強行突破を行うリベリスタ達。その中において彼女だけは単独で突入することに成功しているのだ。
 地の中を抜け、直接竜巻の内部に侵入する。彼女の業を持ってして可能なその芸当。
「――本当、こっちの世界超迷惑してるんです!」
 やけくそ気味の叫びが響く。他の者と同じく、何度も進入しては外に排除されている現状、積もりに積ったストレスの捌け口とばかりに叫ぶ。
「さっさと帰れ下さいこの野郎っ!」
 言葉が通じるかも、言葉の構成もお構いなし。感情のままに叫んだ彼女は生み出した黒線を、水晶に対して締め上げるように叩きつけた。
 ――その時である。いままで攻撃を受けては明滅していた水晶が、一瞬暗い色に染まった。同時に風が一気に弱まる。
「……あれ?」
 突然の事に唖然となる影時。そのわずかな間に再び水晶が輝きを取り戻し、明滅する。
「……っ、痛ァっ!?」
 再び吹き荒れた竜巻が揺動し、影時を外へと放り出した。
「――なるほど」
 その状況を傍観していた悠月が得心がいったとばかりに頷く。
 常に相手のステートを窺っていた彼女は理解した。今の瞬間に起きた出来事を。
 たとえ竜巻がどれほど猛威を振るおうともその本体はアザーバイドである。現界の理に捉われないその存在ではあるが……今、影時は確かに成功したのだ。その存在を拘束することに。
「この存在を縛ることは不可能ではありませんね。――ならば与することも不可にあらず、です」
 愚直なまでの作戦の中に見えた一筋の光明。そしてリベリスタ達の業はまた、それを可能とする。
「よっしゃ、ならば行くぜ! 必ず中に送り届ける!」
「一意専心、ひたすらに突破するのみ!」
 吾郎が吠え、舞姫が再び気合を入れ直す。
「まだ行けます、必ず」
 真琴が放つ柔らかな光が、リベリスタ達の衰弱した肉体を正常に戻す。
 再び愚直に突入するリベリスタ達。お互いを庇いあい、傷つきながらも前へと進む。
「ただ砕くだけで手間取っていたら、体を張ってくれている方々に申し訳ないですしね」
 仲間への信頼を頼りに砂塵へと飛び込む、カイのナイフが突き立てられて爆音と共に水晶を削る。
 うさぎの刃が結晶を削り取り、吾郎の高速の剣が、舞姫の神速の抜刀が水晶へとしたたかに打ち付けられ、その輝きを曇らせては風を押さえ込む。
 影時が風の合間を地より縫い、鉱石の存在を縫い上げる。
 時として領域より排除され、致命の痛打を受けた者は悠月が残りわずかな力を振り絞ることで癒し、再度血路へと呼び戻す。
 消耗戦の泥仕合。だが先ほどとは違うのは、お互いに消耗する存在であるということ。
 リベリスタ達は血を支払う。風に飛び込むたびにその命と肉体を削られ、流血をもって砂塵をさらに紅く染め上げる。
 異界の鉱石は存在を支払う。突かれ、刻まれ、その存在を一欠けら、また一欠けらと小さく削りとられ、欠けていく。
 だが、両者は決して弱まりはしない。むしろ命削れるほどに激しく、強く力を振るう。
 それはお互いの存在を奪い合うかのように続いていく。

 ――わずかながらも永劫かと思う時間が過ぎ、小さくなった異界の鉱石。その鉱石は最後の力を振り絞る。
 意志があるわけでもない。ただ、それは来訪者の断末魔のようなものだったのかもしれない。
 暴風が勢いを増し、周囲の全てを弾き飛ばし、なぎ倒し、削り取ろうと咆哮を上げた……が。その時である。
「――名残惜しいけれど、これで終わりにしましょう」
 上空より声が響いた。
 そこに舞うは一人の魔術師。早き時より中空から眼下を見下ろし、常に相手の中心を伝え続けたその少女。
 宵咲氷璃。彼女はこの瞬間を待っていた。
「私の魔曲で撃ち抜いてあげるわ」
 そう告げる彼女が纏うは強大なる魔陣。自らの持つ魔力をより高く、深く増幅するその陣を背負い四色の光が紡がれる。
「――打ち砕かれて滅びなさい。繊細な硝子細工のように」
 彼女は天より一陣の流星の如く降下する。体を傷つける砂嵐も気に留めず、紡がれた四色の光弾が叩きつけられる。
 高く中空よりの一撃は彼女の正確無比なコントロールをもって、暴風の中心に位置する結晶を貫いた。
 不吉を誘うその光は水晶より輝きを奪い、再び風の力を奪い去る。
 そのチャンスをリベリスタは逃しはしなかった。
「でりゃああぁぁ!」
「――斬」
 怒号を上げ一閃された吾郎の大剣と、対照的に狙い研ぎ澄まされた舞姫の一閃が交錯し――
 ぱきん、と小さな音を立て。四つに分割された水晶の欠片は地に落ちた。
 掻き回され、溜まった圧力が解き放たれる。凄まじい暴風が公園内を吹き荒れ、立ち木を揺らして水面を波打たせ。
 ――静謐が、公園に満ちた。

●竜巻のち晴れ
「なんとかなった……のですかね」
 うさぎが脱力したかのように呟く。
 先ほどまでの暴風域が嘘のように公園は静かになり、空は晴れ渡る。
 雲は全て吹き散らかされ、そこに残るははた迷惑な閉じないバグホールのみ。
「また変な自然現象が来るんですかねー……」
 影時が憎々しげに空の穴を睨み付ける。閉じないが故に異変を引き寄せるあの穴。これから先にもあるかもしれない迷惑を考えると、どうにも心中穏やかとは言えないのだろう。
「その時はその時。出て来た奴を倒すしかねえさ」
 最初の威勢もそのままに、竜巻を見事に倒すことに成功した吾郎がニヤリと歯を剥きだしにして狼頭で笑う。
「あまり好ましくはないわね、来訪自体が」
 氷璃は全身を叩き、まとわりついた砂を払っている。その砂はもはや中枢たる鉱石を失ったことにより、ただの砂色の粒子に戻っている。
「その時はまた頑張りましょう。……それでこそリベリスタをやってる意味がある、ということでしょうし」
 リベリスタは崩界より守る者。カイの言葉はこれからも続く戦いに対する決意を秘めていた。
「今回のこれといい――世界の壁一つ隔てたそこには、どれほどの危険と神秘が満ちている事か」
 手に鉱石の欠片を乗せ、悠月は空を仰ぐ。そこに開く穴の向こうに存在するものに、思いを馳せるように。

 ――手の上の鉱石は、回答を拒否するように。さらり、と崩れて粉となり。風に流され消えていった。
 それはまるで、風に還るかのように。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 命中高いって怖い。
 お待たせしました、見事赤い竜巻の除去でございます。
 かなりの僅差ではありましたが、攻略の為の要点を抑えておられ、それに見合った能力を各自持っておられたということで。

 ところで判定とは関係ないのですが、一つ気になった点を。
 お嬢様方、ガスマスクはあまりオススメ致しません。綺麗なお顔が見えなくなってしまいます。

 それではまた、いずれ。