●路地裏のサンタクロース クリスマスなんて嫌いだ。 サンタクロースなんて本当はいないから。 タケヒロはずっとそう思っていた。 だって妹のケイコは毎年夜遅くまでサンタを待っていて、枕元に靴下も置いていて、でも25日の朝にはそこになにもないのだ。 「サンタさん、今年も来てくれなかったねえ……」 全部古くてぼろぼろになった靴下の中の一番上等を選んでも、一度もサンタはこない。 「来年は、ケイコ、もっといい子にするね……」 パパがいなくてもへそまがりにならなくて、ママが仕事ばかりでもタケヒロとしっかり留守番していて、学校でいじめられてもテストでは百点を取るケイコがいい子でなかったら、世界の一体誰がいい子なのだろう。 お金持ちの子なら、いい子なのか? そういうふうに思っているタケヒロだから、『その人』を見た時も最初は信じなかった。 『その人』はタケヒロが学校の帰り道にいつも使う、狭いビルの隙間の奥にぽっかりと少しだけある、ビルに囲まれた空き地の中にいた。 そこは光が届きにくくていつも薄暗くて灰色だ。 タケヒロがそこを通るのは、だれも通らないそこを通れば、それだけ貧乏人を大きな声で笑いたがるむかつく奴らに会わないでケイコの元に早く帰れるからだった。 『その人』は、狭い空き地の真ん中で、赤い丸いおなかを赤い短い手足で抱え込んでゆらりゆらりとうたた寝をしていた。 「なんだろう……」 変な人かもしれないと思って、タケヒロは足を止めた。 全体の形は真っ赤な大きな大きな滴みたいだ。体が丸くて頭にとんがり帽子だから。 ああ、そうか。 これはサンタクロースの格好だ。 「なんだ。サボりか……」 それではきっと、街にいるサンタの格好をしたバイトの人たちの一人が目立たないところに入り込んでサボって眠っているのだろうと思ったのだ。 タケヒロはおそるおそるその人のそばまで行った。空き地は狭いからそばを通るしかないのだ。 そばまで行ってもその人はやっぱりゆらりゆらりと揺れているだけだった。 ぐぶー、ぐぶーと息の音が聞こえた。なまぐさかった。 むらむらと腹が立ってきて、タケヒロはその『にせサンタ』を思いっきり蹴っ飛ばした。 「ざまみろにせもの!」 やってからすぐにしまった、と思った。けれど相手は痛がったり怒って掴みかかってきたりしなくて、ただゆらゆら揺れていたのが止まっただけだった。そしてこう言った。 「ニせ……モの……?」 日本人じゃないような、平たくて変なくせのある言い方だった。 「にせものじゃないか! 本当のサンタクロースなんて来ないじゃないか!」 「ホン……とウ、の……?」 「そうだ。本当のサンタクロースならうちに来る筈だろ! ケイコにプレゼントくれる筈だろ!」 「プれ……ぜン……と……」 こっくり、とそれは頷いた。そして言った。 「プれ……ぜン……と……あゲ……る……ヨォ……」 「……え?」 「プれ……ぜン……と……ホンとウに……あゲ……る……ヨォ……」 この人はちょっとおかしいのかもしれない。タケヒロはそう思った。でも、でも。おかしい人でも悪い人でも、プレゼントをくれるのなら……。 「じゃあ、じゃあ、箱いっぱいのチキン! それと、『マジカルえみりんのシンキングスプーン』! それと、それと……本物の光るクリスマスツリーと『えりちゃんのクッキングハウス』と……」 ふいになにかに取り付かれたように、タケヒロはたくさんのおもちゃの名前を言って行った。それは全部、毎年、ケイコがサンタにお願いして、タケヒロは代わりに買ってやりたくて、でもお金がないから買ってあげることができなかったものだった。 タケヒロが一気にまくしたて終わると、サンタらしいものはまた頷いた。 「もっテって……ヤる……よォ……」 ごーふーとあの生臭い息が狭い広場いっぱいを満たした。それから赤いのはぐぐぐ、と縦に縮まって横に広がって、そしてぶおお! と飛び上がった。 膨れ上がり、狭い空き地をいっぱいに満たしながら、空へ。四角い空へと飛んでいって、消えた。 「飛んだ……」 タケヒロは怖くなって逃げた。逃げてうちに帰った。 そして次の日の朝。25日の朝。あれは怖いものではなくて本当にサンタクロースだったのだと分かった。 だって、タケヒロとケイコの枕元には山になったプレゼントとたくさんのチキンとぴかぴか光るクリスマスツリーが、置いてあったから。 ケイコは喜んだ。ものすごく喜んだ。一緒にチキンを食べた。たくさんのおもちゃ全部で、小さい子のためのおもちゃでも全部大切に、順番に遊んだ。 それから、ケイコがサンタさんにお礼の手紙を書いた。 だからタケヒロは、あの路地裏の空き地に、ケイコを連れていった。 ……やめておけば、よかったのだ。 サンタは相変わらずゆらりゆらりと眠っていて、相変わらずなまぐさかった。 「サンタさん!」 ケイコがサンタに駆け寄った。臭いのことは気にならないみたいだった。サンタをうちのお風呂に入れてあげてもいいんじゃないかとタケヒロは思った。 「サンタさん、サンタさん、プレゼントすっごくすごくありがとう!」 はい、これ、とケイコがかわいいシールを貼った手紙を差し出すと、サンタはぐふーぐふーと息をした。それから言った。 「プれ……ぜンと……よろコんダ……カ……?」 「うん。うれしかった! うれしい! 本当にありがとう!」 「ソウか……ナラ……」 そのときタケヒロが気付いたことがある。サンタの声はいつもとても低いところから聞こえる。顔からじゃなくておなかの下の方から。 そして。 ねえ、そして。 このサンタの顔は、どこだ? うつむいて眠っているだけでこんなに顔が隠れるものか? こんなに全部真っ赤になるものか? 「ケイコ!」 タケヒロは飛び出して、ケイコを抱きしめて転がった。その背中をぐわっとものすごい風が殴った。 「ナラ……クわセろぉォぉォぉぉオおおオオおお」 ●緊急出動 「『万華鏡』(カレイドシステム)がアザーバイドの存在を感知しました。すぐに現地に移動してもらいます」 『運命オペレーター』天原 和泉(nBNE000024)はいつものように手早く資料を配ると、資料は移動中に読んでください、と付け加えた。 「このアザーバイドが通ったディメンションホールはすでに閉じています。対象をとにかく破壊してください。……出来る限り、急いで!」 そこには、二つの命がかかっているのだ……。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:juto | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年01月02日(月)23:31 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●聖なる日のリベリスタ ――どうせ暇つぶしだけれど 『吸血婦人』フランツィスカ・フォン・シャーラッハ(BNE000025)は言った。 私も少し、この敵は嫌いだわ―― 雪が落ちて来た。 空は白く曇り、しかし明るく、それ自体が綿雪の積もった平原の様である。 美しい、聖夜の次の日。 しかしリベリスタ達が向かう先にいるのは人畜無道の怪物である。 それと、いたいけな少年少女。 「まずいな。急ぐぞ!」 広場に入る路地から角一つ隔てたところで、『千里眼』を働かせていた『正義の味方を目指す者』祭雅・疾風(BNE001656)が一行に告げた。状況は思わしくない。少年少女は怪物の牙にいままさにかからんというところである。 それに応じて片桐 水奈(BNE003244)が一行に翼の加護を授けるための詠唱を急ぐ。一分にも満たないわずかな時間である。しかしその時間が、今はリベリスタ達をせかした。 「先に行く」 ハイディ・アレンス(BNE000603)は黒い軍服の後ろの黒い羽で空気を一打ちして角の向こうへ飛び立った。 やがて詠唱が完成した。 それを待ち構えていたリベリスタ達は一斉に飛び立つ――。 ●ケイコ サンタさんありがとう。 ほんの一瞬前まで、ケイコの小さな胸の中はその気持ちでいっぱいだった。 だからいざ危機が迫っても、はじめはわけがわからなかった。 お兄ちゃんに突き飛ばされて。 その向こうでサンタさんが、 「ナラ……クわセろぉォぉォぉぉオおおオオおお」 とものすごい声を上げた。……おなかで。おなかにたくさんの牙が並んで、おなかがいっぱいに口を開いている。 食わせろ。なにを? ごはん? おなかがすいているの? サンタさんのお口はどうしてそんなに大きいの? 「ケイコ、逃げろ!」 お兄ちゃん、地面に転んでたのを立ちあがって、ケイコを乱暴に引き起こして、怖い顔。逃げるの? 逃げなきゃ? 走ろうと思った。足ががくがくふるえた。頭で分かるより先に体が怖いって叫んでいた。 なんとか向かおうとした先に、路地の入口に、大きなトナカイ。トナカイ? トナカイが頭を下げると、二本の立派な角が、鋭い角の先ががしんがしんと咬み合った。ダメ、死ぬ。殺されちゃう? 「助けに来た!」 ばさっという大きな羽音とともに、その声は空から降って来た。見ると、黒い服を着た素晴らしい金の髪のお姉さんが、空からケイコに手を差し伸べていた。 「誰?」とお兄ちゃんが問いかける。 「助けに来たんだ」とお姉ちゃんは繰り返した。 「じゃあ、ケイコを助けて!」 「ああ」 そしてケイコは抱きあげられる。ずっとサンタさん――あれはほんとうにサンタさんなのだろうか――の匂いの中にいたけれど、お姉ちゃんの胸の中はそれと全然違ういいにおいだった。 ぶわっと羽ばたいて舞いあがる。 ――天使さま? ケイコはぎゅっとしがみついた。素晴らしい速さで飛び去る。 「ぐおアオぉォぉォおおオオん……」 後ろでサンタさんが恐ろしい声を上げて追いかけてくる。だけどお姉ちゃんが飛ぶ方が早い。 それと、トナカイが。 だん! だん! と壁を二回蹴って飛び上がり、正面からケイコに噛みついてきた! 「させるか!」 そのとき二人をぐいと押しのけて、代わりに噛みつかれた人がいた。赤いサンタ服を来た誰か――サンタさん? お兄さん? 「行けぇ!」 「ああ!」 そしてケイコは翼のお姉さんに抱かれ、安全なところまで連れて行かれた。 この日からのち、ケイコは「あのお姉さんみたいな凛とした人」になりたいと思うようになる。けれどそれはもう、先の話だ。 ●タケヒロ 翼の女の人は誰なのか分からなかった。分からなかったけど、『助けに来た』というのを信じた。信じるしかなかった。 そして、ケイコを連れていってもらったとき……タケヒロは、自分は死ぬんだろうなと思っていた。空を飛んで現れる救いの手なんて、二つも来るものじゃないから。 けれどそれは来た。 赤いサンタの服を着た、赤茶色の髪のお兄さん――『Giant Killer』飛鳥 零児(BNE003014)。 さっと空から飛び降りてきて、タケヒロを抱き上げた。 力が強かった。手が硬かった。 「飛ぶぞ。暴れるのはかんべんな」 それだけ言うと空に舞い上がる。向かう先は――さっき翼のお姉さんが飛んだのと反対の方向だった。 「待って! お兄さん待って! サンタが!」 『あの』サンタが、ゴムまりが弾むように跳ねて跳ねて、妹たちを追いかけようとしている。このままじゃ危ない! そう伝えようとしたら。 お兄さんはぽんぽん、とタケヒロの頭を撫でた。 「大丈夫だ。仲間がいる」 その声には確かな自信が、信頼があった。 だからタケヒロは、やっと、安心した。 ●VS暴食のトナカイ 雪白 桐(BNE000185)の飛行は長かった。彼の最初の標的は戦場でもっとも遠くにいるトナカイなのだ。空中で奥歯をぎりっと噛みしめた。口元からこぼれた血がそれだけ後方に置いて行かれる。脳が自然に体にかけているセーブを、こうしてオフにしたのである。 着地。 すぐ目の前でトナカイが頭を低く下げ、闘争の姿勢を取っている。恐ろしげに牙のように角を打ち鳴らすが、もちろん桐にそれでひるむ色はない。というより、桐が感情をあらわにすることなどまずない。 「こちらは手早く片付けますよ」 振るう剣は氷の色の大剣『まんぼうくん』。委細構わず振り下ろし、トナカイの額を割る。と、同時に、黄色い稲妻がトナカイの毛皮を包んだ。ばりばりと、じゅうじゅうと、肉を焦がす――。 トナカイは怒り、角を大きく広げると一気に閉じて桐に『咬みついた』。だが、がちっ! とものすごい音を立てて咥えこまれたのは桐の肉ではなく大剣であった。がちっ、ぎりり、としばらく剣と角がこすれ合う。 と。 ふつと大剣の姿が消えた。不意を突かれたトナカイは前方にたたらを踏む。そこに改めて斬撃が打ちこまれた。一度幻想纏いに収納した剣を改めて展開したのである。 その後もトナカイと桐は打ち合うが、桐は始終優位に戦いを広げた。やがて戻って来た零児が戦場に加わると、デュランダル二人がトナカイを屠るのにはさして時間はかからなかった。 さて、一方の疾風である。 ケイコを庇ってトナカイのあぎとに捉えられたところからになる。 「うっ……ぐっ」 トナカイはさらに角に力を込め、頭をひねり、角を疾風の体深くにねじこもうとする。赤いサンタ衣装の白い縁までがみるみる血に染まって行った。 だが。 「ここまでだ。変身!」 一瞬の輝きとともに装いを強襲型戦闘服へと転じると、疾風はバク転を打ってトナカイのあぎとから逃れる。 「偽者が子供達が夢を壊すのは許さない。行くぞ!」 ヒーローポーズの構えは流水。そこから繰り出す拳は炎を纏っている。 ――ぐるるるる……。 炎に包まれながらトナカイは唸り、怒り、反撃の頭突きを繰り出す。 「ぐう……とおっ!」 それを正面から受け止めると離れ際にさらに炎の拳。さらに可変式モーニングスター[響]を構えての打撃戦へと移行する。 「遅くなった。すまん」 やがてケイコを避難させたハイディが戻ってくると戦線に加わった。呪符を飛ばし、叩きこみ、着実にトナカイの体力を奪って行く……。 やがてトナカイは、身を包む炎で雪を溶かしながら倒れた。 ●VS暴食サンタ 「行かせないよ――!」 ケイコとハイディを追おうとした暴食サンタに最初に立ちふさがったのは山川 夏海(BNE002852)だった。 「ごおぉオぉオぉオォおお」 吼えるサンタに対し、 「ここから先は絶対に行かせないよ」 きっぱりと宣言するとともに意志の力を高める。サンタがどんな攻撃を繰り出してこようと退かない覚悟である。 「そうだ、いくっスよ!」 サンタの後ろから声を上げたのは銀色の重甲冑に身を包んだ騎士――『守護者の剣』イーシェ・ルーだ。 「アンタの奪っていったものを取り返しに来たッスよ!」 希望も夢も、子供たちから奪わせたままにはしない! 恐ろしい重量の甲冑を着こみながら、イーシェは素早く剣を振り上げる。その力強さは自分が傷つく覚悟と引き換えのものであった。 暴食サンタとの戦いに挑んだのはこの二人だけではなかった。 離れた路地でマシンガンを構えたのはフランツィスカだ。 「消えて頂戴。永遠にね――」 丁寧に照準を合わせると、引き金を引いた――。 その後ろで水奈はやや高く飛び、戦場全体を視野に入れていた。子供二人を連れた仲間はそれぞれ飛び去って行き、トナカイ二頭とも個別に戦端が開かれている。そして中心でこれから暴食サンタ狩りが始まる。複雑な戦場である。 戦闘指揮の心得を持つ水奈の役割は、この戦場全体の支援であった。仲間がどの程度傷ついているかを常に把握し、必要に応じ回復の術を使い分けて援護をしていかなければならない。決して簡単な役割ではないし、仮に彼女が倒れれば回復手段をほぼ失ったパーティーは一気に瓦解する恐れもある。 誤らず、倒れず。まったく、容易ならない任務であった。 暴食サンタが天に吠えると、真っ赤な大きな結晶が恐るべき鋭さで地上に降り注いだ。結晶はリベリスタ達の肌を容赦なく切り裂いて行く。 リベリスタ達は初めは防戦一方であった。だが子供たちの避難が完全に終わったのを確認すると攻勢に転じた。 「アタシの願いを聞いてくれるッスか?」 そう言いながらイーシェが剣を打ち込む。 「アタシはテメェの命が欲しいッス」 「ぐがァああアアああアア」 「ねぇ、私のお願いも聞いてくれるかなー?」 夏海も語りかけながら、シンプルに暴食サンタをぶんなぐる。 「……死んで。出来るだけ早く」 言い終えてから二人の少女は、一緒だね、と一瞬目を見かわした。 サンタが暴れ狂う。二人の少女を二人とも巻き込んで膨れ上がり牙を叩きこむ。 だがその合間を縫ってフランツィスカの銃弾がサンタの表面にぼつぼつと穴をあける。サンタが膨れ上がるたび、空いた穴からはふしゅうう、と赤い瘴気が漏れた。 恐ろしい威力の咬み付きがリベリスタの少女を襲う。だがその傷はすぐに水奈の癒しによって塞がれる。 とはいえ。癒し手はたった一人。癒しの術にも限界があった。 回復が追い付かない。特にサンタが赤い結晶を降らせた後、決して頑健とは言えないフランツィスカや水奈の体力を回復しきるのが実に難しいのである。後衛二人の傷は次第に蓄積していった。 そして実に八度目の赤い雪がリベリスタ達を襲ったときには限界が目の前に迫っていた。 「仕方ないわね」 フランツィスカが水奈に覆いかぶさる。どうせ倒れるなら少なくとも回復役を残そうという判断だ。 そして赤い雪が……切り裂いたのは、二人ではなく零児だった。間にあったのだ、片方のトナカイの討伐が。 「ここからは集合だ。行くぜ」 「ですね」 桐が走り、剣を振るう。 「サンタさん、サンタさん、私のお願いも叶えてもらえますか?」 大剣が派手に暴食サンタの肉を切り飛ばした。 「私は貴方の命が欲しい、その服を貴方の血で染めあの子達の悪夢をなくしてしまいたい、のですよ?」 怒っているようだ。感情を表さない桐だけれど。 「あは。同じこと言ってるっスね」 イーシェも剣を振るう。 「ぐおるぉォぉォおおオオぉォぉオォお!」 怒り狂ったサンタが牙をむき出し暴れる。 「後ろだよっ!」 背後から暴食サンタに組みついた夏海が、サンタの首と思しき部分を掻き切った。ナイアガラのごとく派手に血しぶきが飛び散る。 その傷口を狙ってさらにフランツィスカの銃弾が撃ち込まれる。 追って疾風とハイディも合流すると、戦局はほとんど一方的となった。 暴食サンタは、滅んだ。 ●アフター・メリークリスマス 「お兄ちゃん!」 「ケイコ!」 危険が去ると、別方向に避難していた兄妹は引き合わされた。ひしと抱き合う。 「大丈夫か? 痛いところ無いか? 怖かったか?」 「怖くなかったよ……お姉ちゃんが守ってくれた。あと、お兄さんも」 だよね、とケイコが疾風の顔を覗きこんだ。先ほど庇われたときには、ただサンタ服の人というだけで顔まではよく見えなかったのである。 「そうか。お兄さんお姉さんたち、ありがとう!」 タケヒロが体を二つに折り曲げて深く深く礼をした。 「礼はいいよ。君たちがいつもいい子にしているのを、俺たちサンタはいつも見ているんだぜ!」 そう言ったのは零児だ。じゃあな! と手を振って走り去る。 「……飛ばないんだ……」 疑いではないけれど思ったままを少年が呟いた。 「私たちはサンタさんの手伝い役だからね」 疾風が膝を折って少年に目を合わせた。 「本物のサンタさんはとても忙しいんだ。……家に行けなくてごめんね。タケヒロ君には大きくなったらサンタさんの手伝いが出来るくらい立派な大人になって欲しいな」 「ん……うん」 タケヒロは頷いた。 サンタさんの手伝い。不思議な目標だ。だけれど不思議を次々に目にし、奇跡的に救われた少年にとっては、それは絵空事ではなかった。 「必ず出来るわ。とっさに妹を助けた君にはきっとその素質がある」 フランツィスカに撫でられると少年は明らかに緊張した。相手は外国人の超美人なのだ。 「……さっきのサンタさんは、悪いサンタさんだったの?」 おずおずと、ケイコが尋ねた。 「貴方達が見たのはサンタのフリをした『悪い人』よ」 水奈がそう話し始めた。 「そういう人が増えたから、サンタもプレゼントを配るのが難しくなってしまったそうよ。でもね、クリスマスはサンタからプレゼントを貰う日である必要はないの。大切な人同士でプレゼントを交換する日でも良いのよ」 「あ……」 少年が妹を見る。その視線には後悔の念があった。毎年、大切な人にプレゼントを用意してあげられなかったのが現実の自分なのだ。 「今日のことは悪い夢を見たと思って忘れるのがいい。ああ、ケイコ、良い兄さんだ。大切にな」 それにケイコが「うん!」と明るくうなずいたから、少年の気持ちは少し救われたかもしれない。 「さて、それじゃ今からおねーさんたちとクリスマスパーティーやらねえッスか? ちょいと過ぎちまったけど、きっと楽しいッスよ」 そう提案したのはイーシェだ。 「いいね。じゃあわたし、ケーキ買ってくるよ」 すぐに賛成した夏海は彼女自身が実は少年たちとそれほど年が変わらない。だからクリスマスはうきうきするし、なんどあったっていい。 「じゃあ、少し時間をください。料理を用意しますから」 桐の特技が料理なのである。クリスマスディナーを作るのは、だから二回目になる。 リベリスタ達と少年少女は、そうやってパーティーの準備について和気あいあいと言葉を交わした。 ちなみに、先に走り去った零児はというと、角を曲がったところからこの様子を覗いて頭を抱えていた。 「あちゃー、早まったかな。俺も参加……とは言いにくいよなあ。これ」 それからふと空を見上げた。 「雪、止んだな」 いつしか雲は完全に消え、青空が広がっていた。 晴天の、クリスマスである。 fin |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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