●COOOOLなバケモノ 暗い影の中。割れた窓の向こう側。 また日が昇ってまた日が落ちた。 また月が昇ってまた月が落ちた。 「おのれリベリスタ……皆の仇! こうか。 クックック……吾輩が全ての黒幕なのである! こうか? ヒャッハー! 水だぁ~っ。 ……違うな。あー独り言たのしっ。」 フー、と吐いた息は白い。 まぁいっか。虚ろな眼差を虚空に向けた。 「まぁ、COOOOLに頑張るか。COOOOLに。」 人間の見た目をした奇妙な異形の声が響く。 ●最強作戦 「……プロアデプト。 プロアデプトは後衛職ながら前衛に立って戦う事も、支援も可能な特殊タイプです。 最高級の命中力を持ち、相手に一切の自由を許さない事もしばしば。強力な状態異常を与え、強化を解除する能力も持っています。 プロアデプトは完全なる戦闘論理者です。彼等は敵の動きを予測し、計算を立て、詰め将棋のように追い込んでいく狩猟者なのです。」 書類に書かれた文字を口にして――『歪曲芸師』名古屋・T・メルクリィ(nBNE000209)が事務椅子をくるんと回し、リベリスタ達へと向き直った。 「ドーモですぞ皆々様、某フォーチュナY倉様の安定っぷりに気が気でないメルクリィですぞ。 っていうアレなアレは程々に、ちゃちゃっと本題に入りますんで耳かっぽじってお聴き下さい」 相変わらずの具合で事務椅子を揺らしつつ彼がリベリスタ達に見せた書類には『ノーフェイス:プロアデプトモドキ』という文字とその画像、更にその説明が記載されていた。 「御覧の通り、プロアデプトに酷似した能力を持つノーフェイスが現れましたぞ。その名も『PN』……”プ”ロアデプトモドキ”ノ”ーフェイスの略ですな。」 資料を卓上に、機械の腕を伸ばしたメルクリィがモニターを慣れた手つきで操作する。映し出されたのは軍服にヘルメットの――人間?男だ。肌の血色が異様に悪い男だ。額に冷却シートを張っている。……変な奴だ。腰に挿した二本の防御用短剣がコイツの武器なのだろうか。 「皆々様の中にもプロアデプトの方がいらっしゃる筈ですから良く分かるかと思いますが、『PN』は『とにかく当てる』な戦闘論理者ですぞ。作戦に穴があれば確実に突いてくるでしょうな。 それから『PN』は他のモドキと違って状態異常が有効ですが、その代わり皆々様が使えるような非戦闘技能――透視とかテレパス系とか感覚特化とか――を色々と使えるそうですぞ。思わぬ行動に出るかもしれませんので、お気を付け下さい」 気性はチャランポランな変な人なんですけどね、とフォーチュナが言う。確かに何処見てんだか分からない様なボンヤリした目、ぼけーっとした雰囲気、だが見た目に騙されてはならないのだろう。 「『PN』の攻撃方法はプロアデプトのそれとほぼ一緒ですが、自己強化術の代わりに変わった技を持ちますぞ。 所謂分身……なのですが。凄まじく弱っちい事を除けば『PNと全く同じ』ですぞ。やっつければ消えますんで、死屍累々でドエライ事にはなりませんので」 言い終わると、一応渡しておきますぞと新たな書類を卓上に置いた。プロアデプトのスキル説明が記載されている――後でしっかり読むとしよう、必要があれば仲間のプロアデプトに色々訊いてみるのも良いかもしれない。リベリスタ達は顔をあげてフォーチュナへ意識を向けた。 「次に場所についての説明です、しっかり聴いて下さいね」 リベリスタ達の顔が自分の方を向いた所で、メルクリィが説明を再開した。 モニターには細い雨の降る暗い廃校――其処彼処が荒れ果て、雑草に覆われている。あの荒れ具合からいって足場の脆い所があってもおかしくは無いだろう。 「今回の戦場となる場所はこの廃校ですぞ。御覧の通り……広々~とノビノビ~と戦うのは少し厳しいかと。 更に問題が一つありまして、この敷地内に先程説明いたしました『コピー』達があっちこっちうろついております。一体一体相手してると時間も力も無くなってしまいますぞ!」 そこんとこ上手い具合に頼みますぞ、という言葉でメルクリィは説明を締め括った。 「それでは皆々様」 メルクリィのクマが酷い機械眼球がリベリスタ達に向けられる。そして一間の後に、ニコヤカな声がブリーフィングルームに響いた。 「頑張って下さいね。くれぐれもお気を付けて! 私はいつも皆々様を応援しとりますぞ。」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ガンマ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年01月03日(火)22:43 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●真夜中に降り頻る 真っ暗で雨が降る、暗く寂蒔とした廃墟。緑の中にポツネンと。 本来なら――雨の音だけがそこに響いているのだろう。 しかし、そこは戦闘音楽で溢れていた。 「進路クリア、なんて。FPSやってる気分です」 フォーチュナから入手した見取り図頼りに暗い校内を突き進む。其処彼処から襲いかかって来るモドキのモドキ達を片っ端から薙ぎ払う。設置された罠を破壊する。障害物を圧し退ける。 (最後のモドキ、ですね) プロアデプトとして色々と負けたくはない所です、と『消失者』阿野 弐升(BNE001158)はヘカトンケイルを構えて思う。論理戦闘者の称号は伊達じゃない……と言えたらいいな。 「KOOOOLに……じゃない、COOOOLに行きましょう」 そうは言うが……暗い。真っ暗で、何も見えない。暗闇対策をしてくればよかったを歯噛みする。超直感や音や仲間の声を頼りに何とか当たりを付けて気糸は放っているのだが、命中したかも確認できない。いやはや。素敵に愉快でCOOOOL。楽しすぎて狂っちまいそうだっ。見習ってみるのもアリかな?いやなんか違うか。 「まさにトリックスターといった相手ですね」 用心深く『リップ・ヴァン・ウィンクル』天船 ルカ(BNE002998)は辺りを見渡す。彼の翼の加護のお陰で足場の不安や地面に設置された罠の心配は要らない。 しかし――不安が零になったのかと訊かれれば、『NO』と答える他に無い。 (今回の私は狩人じゃない、獲物) 狩人から逃れる為には一瞬でも気を抜かない事――『深樹の眠仔』リオ フューム(BNE003213)は闇を見澄まし弦を引く。 『自分なら何処に罠を張るか』 罠はただ通り道に置くのでなく、相手を追い込んで嵌めるもの。 飛んでいれば掛からないとは限らないし、足止めだけの罠だなんて考え難い。 (……見付けた) 冷静に矢を放ち、猟人は罠を破壊する。 その直後に聞こえてくるのは足音――無表情のノーフェイス、そのコピー達。 刹那、閃いたのは凄まじい雷光であった。 「この程度かPN! 温いッ! もっと熱くなれッ!!」 挑発がてらの言葉を怒鳴りつつ『戦闘狂』宵咲 美散(BNE002324)は思う存分に雷の槍を轟と振るった。体力回復も精神力回復も出来るのは大きい。戦闘に関しては何も気にしなくって良い。その為かリベリスタ達の足は止まらず遅くならず被害も無いに等しい。 (プロアデプト『モドキ』か……) 精神力を供給され、雷による傷を癒され、美散は思う。ノーフェイスと化した原因が判らない以上、PNが最後のモドキとは言い切れないが……今は自分に出来る事をやるだけ。見敵必殺。全破壊。討ち漏らしなんぞ許さぬ。たった一つ残念な事は挑発の意味が無いらしい事だけだ。 再び閃く雷。『銀騎士』ノエル・ファイニング(BNE003301)もその傍で騎士槍を振るう。だが舌打ち。暗い。見えない。闇夜から時折見える姿を観察して本体を探したいのだが、見えぬ以上は仲間に任せる他に無い。聴覚と気配頼り――取り敢えずぞろぞろ居るのは理解できた。仲間達が攻撃しているのも理解できた。囲まれている?かもしれない。 「よろしいので? わたくしだけに戦力をそんなに割いてしまっても」 呼びかけてみる。コピーは簡潔に応えた。 「まぁ、残機無限だしな」 振るわれる気糸。痛みに堪え、銀騎士は槍で貫く。 「……ふぅ、バラけないように皆で手を繋いで行くか?」 額に伝う汗を拳で拭い、『むしろぴよこが本体?』アウラール・オーバル(BNE001406)は再度ライフルを構えながらそんな事を行ってみる。馬鹿を言うなと仲間のジト目に「あ、はい集中します」と即答したが。 息を吐く。超幻影で周囲の背景を模し……と思っていたのだが、複雑な上に視界は熱感知頼り、しかも初見な背景を完璧に再現する事は難し過ぎたらしい。曖昧でグニャリとしたそれは逆にPNのコピーに違和感を持たれてしまう為に使用はすぐに諦めざるを得なかった。 だが、それと視界が十全で無い者が二人居る事を含めても問題は無い。今のところは他の者がそれ以上にカバーをしている。 「さあ、知恵比べと行きましょうかー★ バレンタインモードゑる夢、発進!」 一月早いけれど、と『バレンタイン守護者★聖ゑる夢』番町・J・ゑる夢(BNE001923)のホッケーマスク:Jの紅睨が闇夜に揺らめいた。振り上げるのはチョコレートのような質感の謎物質で作られた斧の見た目の撲殺兵器、残像と共に紅の尾を引いて猛然とコピー達の頭部を叩き潰して往く。 その最中もホッケーマスク越しの景色を超直感で入念に見渡す――名探偵ゑる夢参上、何だか上に居そうな気がする。 「上かもしれないです」 残り一体のPNモドキを叩き潰し仲間達へ振り返る。ここは最上階、この上は屋上。頷く仲間――『不機嫌な振り子時計』柚木 キリエ(BNE002649)は真っ暗い天井に目を細めた。感情探査。コピー達はいずれも『無』だったが……上に居るのは、違う。ごく僅かで薄い感情だが、 (……これは) 『期待』。自分達を待っている?その場で動かず、楽しみに、ワクワクと。 こんな寒い所で彼等はいつから自分達を待っていたのだろう、とキリエは思う。いや、彼は一人で他は分身。一人になっても、逃げる事も知らずにここにいる。待っている。 それが当然と言わんばかりに。 (まるでゲームの駒のよう……) さて、作戦を進めよう。移動を終えた皆が武器を構える。 「乾坤一擲、です」 弐升のヘカトンケイルに続き、リベリスタの攻撃が天井をブチ壊した! 「――どぅっ!!?」 ドンガラガッシャン、崩壊、瓦礫に混ざってボトンと落ちる一つの影。 「どうだ! COOOOLだろ!」 作戦通り、アウラールが得意気にライフルを手の中で回した。 作戦通り、 ――ここまでは。 「おい馬鹿ぁ! 透視で『何するんだろー』って見てたらお前らなんちゅー事を!」 瓦礫の中から飛び起きたPNが血相を変えた顔で叫ぶ。その間にも続く、続く、大きくなるのは――罅の入る音、崩れる音、崩壊音。 「ここオンボロ廃墟だぞーー! 天井ぶっ壊すとかそんな事したらおまっ……」 PNの言葉の続きは、連鎖的に起こる凄まじい崩壊に掻き消えた。 ●瓦礫と雨と 屋上の半分ほどが崩落した。 もっとちゃんとした建物ならこうはならなかったろうが……足場が崩れている箇所もある程の老朽化した廃墟。それに覚醒した者が破壊のつもりで攻撃したのだから致し方ない。 崩れる瓦礫は平等に、ボロボロの床すら巻き込んで、気付けば少し下のフロアにまで落ちてしまったらしい。 何とまぁ、瓦礫だらけの酷い有様だ。 「オーイ。生きてますかリベリスタさん」 瓦礫から這い出し、簡易飛行的能力で浮きながら蒼い顔のPNが呼びかける。 暗闇と雨が降り注ぐ中、立ち上がるリベリスタに欠けは無い。ルカの歌が響く中、戦気を纏うノエルは声がした方に槍を突き付けた。 「COOOL等という戯言もココまでです。紛い物は所詮紛い物でしかない――その事を教えて差し上げましょう!」 足場については翼の加護がある為問題は無い、崩落のお陰で戦場が広くなったと思えば良い。美散るも肩の瓦礫をさっと払い好戦的に目元を笑ませる。武器を構え問いかける。 「お前さんも自分の過去を何も覚えていない口か?」 「いや。僕は覚えてますよ全部」 「……へぇ?」 疑う様な目付きにPNは肩を竦める。 「信じるか信じないかは貴方次第です、なんてどっかの都市伝説番組に在りそ ブホっ!?」 PNの鳩尾にキリエが投げたカラーボールが直撃する。何てことすんのと文句を垂れるそれに今度はキリエが問いかけた。 「狂っているふりも、大変だね」 「うん。おれは至極冷静に狂ってる! ってズバッとモーニングのあの人が言ってましたね。あの人どうなったん死んだん?」 「そう。私達が倒した」 「ヒュー、カッコイー」 「君は、『黒幕』……誰かを庇っている?」 「NO。因みに言うと僕ァ黒幕でも何でもない。モドキ達の生き残り。ラスボスって言ったらちょっと格好良いけどね。あ、もう一個因みにだけど僕達は何かを庇うどころか寧ろ憎んでるし」 「裏で糸を引く者が居るという事?」 「原因なる存在は確かに居る。だが、ソイツったらほったらかしスタイルさ。食事の終わったお皿にいつまでも興味を示す人なんて居ないだろう?ソイツ今ドコにいんだろーね。会ったらよろしく言っといて」 「『ソイツ』とは?」 「まだ質問すんの? COOOOLじゃねーなぁ、勝ったら教えちゃる。まぁソイツがドイツかは思い出せないんだけどね、忘れちゃいましたよ自分の名前ごと」 PNが自分の頭をヘルメット越しにコツコツ叩く――現れる何体ものコピー。しかしキリエのカラーボール作戦のお陰で本体がどれかは一目瞭然だ。参ったねぇとPNが肩を竦める。 身構える。ゑる夢はチョコレイトのような斧を握り直した。 「このJ字に誓って――」 片方の手で自分の誇りであるホッケーマスクの輪郭をなぞる。増幅する攻撃本能。 「――あなたを倒します!」 突き付ける斧、真っ赤な睥睨、凛然、見得を切って誇りを胸に運命を引き寄せる。 「よろしいならば倒してみんしゃい!」 PNの声の下、散開しながら気糸を繰り出すコピー達。しかしそれを的確無比に打ち抜いたのはリオが素早く同時に放った光矢であった。 皆の考えた作戦は面白い、と狩人は思う。結果的に広い戦場を確保できた。捨てる神あれば拾う神あり、諦める訳にはいかない。 常に最悪に備え、殲滅よりも防衛を主に。コピーは私に任せて、と次の矢を番えながら。 光の矢が飛ぶ――交差する様にPNの両手から気糸が放たれ前衛陣へ突き刺さった。視界の確保が出来ていない二人は特に躱す術なく直撃してしまう。まだ残っている、或いは新たに生み出されたコピー達も気糸の罠を展開する。が、 「敵の長所を殺すのがプロアデプトの戦い方なら……蘇らせるのがクロスイージスの戦い方だ!」 仲間を熱感知で捉え、放つのは破魔の聖光。それは仲間達を拘束する、あるいは苦しめるあらゆる災厄を払拭し、焼き滅ぼす。 頑張れ、闇の所為で狙いを定めにくいライフルを構えながら呼びかける。その薄氷の双眸は周りの仲間達より一際温度の低いPNとそのコピー達へ。見た目は普通の人間っぽいのに、と思う。 激戦――誰かの運命が燃えた様な気配がする。刹那にゑる夢の残像がPNをコピー諸共打ち据えた。そっちがコピーならこっちは残像、精度の高い予測の下に放たれた気糸に血の華をまた一輪咲かせながらも斧を振り上げ、振り下ろす。PNは交差した防御用短剣で何とか受け止めたが、力は圧倒的にゑる夢が上だった。 「ぐぐぐぐぐ……!」 圧し遣る。圧し遣る。その同時、三つの雷が無防備なPNの身体を貫きぶっ飛ばした。迸る蒼白い電撃に二升と美散とノエルの顔が照らされる。 「大振りな攻撃は当たらない? ……当たるようにするのがプロアデプトでしょう」 「紛い物なりに意地はあると……良いでしょう、ならば真っ向から砕いて差し上げます」 相打ち覚悟、暗闇の中を直感頼りに二升は鉄槌を構える。 戦いは熱くなければいけませんよねえ?ノエルも薄笑みと共に。 「さぁ、仲間の元へ送ってやろう」 もう一発、戦闘狂も雷の槍を思い切り振りかぶった。狙いは瓦礫に蹲るPN。血の匂い、先の一撃はかなり効いたらしい。勿論――自分達とてボロボロではあるが。その命中精度は侮れない。強化術すら破壊してしまうのだから。 なら、もっともっと強い力で捩じ伏せるのみ。頭では補い切れない火力の違いをその身で味わうと良い。 これで終わりだ――勝利したら戦利品としてその短剣を奪ってやろう。目があったPNは、 笑っていた。 「かかったなァ!」 瓦礫に隠されていた大規模な気糸の罠が前衛陣を絡め取る。刹那、リベリスタ達を圧倒したのは爆発した思考の本流であった―― ●瓦礫と雨と瓦礫 鼓膜にキーンと響く衝撃。全身に軋む鈍痛。血を吐く。それでもリベリスタは立ち上がる。運命を燃やして、闘志を燃やして。立ち向かう。何度でも。 「やるねぇ……」 血だらけのPNも千切れた腕を抱えていた。既にコピーはおらず、リベリスタも半分が倒れた。だがまだ戦える。キリエのインスタントチャージ、ルカの歌、アウラールの光が皆を強力に支える。これ以上倒れさせてなるものか。 「厄介だな」 PNが掌を向ける――回復役の一人であるアウラールへ。ゾクリとした彼、の目の前に立ちはだかる影があった。インスタントチャージモドキを察知したゑる夢である。 「――ッ……!」 キン、と脳味噌が痛い。その瞬間にホッケーマスクの隙間からブシリと血潮が迸った。仲間の声が割れた鼓膜に響く、膝を突く、だが斧を突いて踏み止まる。聖人は蘇るもの。ドラマを支配し無理にでも立ち上がる。 今度はアウラールが彼女を護る番であった。襲い掛かる気糸、迸る血潮、それでも狙い、十字の光を撃ち放つ。 あと一押し。ならば自分が受け持とう。ルカの癒しの微風に包まれ、Jの名を継ぐ者は猛然と襲い掛かる。その赤い目とPNの目が合った。 「あなたは賢かった」 振り下ろす斧が届くまでの刹那。無限の刹那。 「でも、私達には仲間がいるんですよー」 落ちる。届く。策士はニヤッと笑った。 「COOOOOLだねぇ……」 ●雨と かくして静寂。倒れたPNを中心に、雨が赤を押し広げて行く。 「あー負けたぜ」 苦笑を浮かべる異形。その傍にキリエは歩み寄り、問いかけの続きを。 「貴方も他のモドキ達にも、私達と戦う理由はなかっただろう」 「……リベリスタさん、もし運命が燃え尽きたらどうする? 『持つ者』から『持たざる者』に落ちぶれたら、どうしますのよ?」 「 !」 「そういう事です。お分かりでしょう」 「……これで終わりという事はないだろう。貴方は何か分かる事はある?」 「あー。あ~……悪いけど喋ってる間に死にそうかも。だから、」 これを。ポケットからハンカチを 取り出し、それに掌を向ける。念写で焼き付ける――地図、だろうか。 「ここに行っておくれーな。……任せます。悪いけど、全て、……頼んじゃっても、任せちゃっても、いいですかねぇ。もう色々思い出せなくなっちゃったけど、そこに残しときました。色々と。 悪いねぇ……押し付けちゃう感じで。でも、無視しても良いのよ。悪いねぇ、すまんかったねぇ……」 言いながら、力尽きた。 その表情は心底申し訳なさそうな、それでいて満足した様な、安堵した様な……瞼をそっと閉じさせる。 (死の先に広がるのは無だけ……だから私は、貴方を悼む) 行こう、と皆に呼び掛けた。重傷者を背負い、瓦礫の中を歩き出す。 『了』 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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