● 「人間五十年、歴史の内を比べれば夢幻の如くなり。思えばこの世は常の住処に非ず。されど、一度生を享けそのまま滅するは口惜しき次第ぞ」 御堂の中、凛とした声が響く。 安置された仏像の見下ろす先に集いしは十数名の男女。年の頃も雰囲気もまるで異なる彼らはただ一点のみを見つめている。 その視線の先で舞うのは、白装束を身に纏いし坊主頭の男。 一しきり舞い終えると、男はその場に正座し、集った男女へと厳かに言葉を告げる。 「これより、2011年度、煩悩寺願望開示祈願の儀を取り行う」 冬の深夜、その寒さにもかかわらず扉の締め切られていない御堂。その隙間越しに踊るのは無数の赤。 まるで火事でもおきているかのように感じさせるその色は、寺を取り囲むように置かれたいくつもの篝火によるものだ。 「では各々方、その願いを申し開き給え」 その声に応え、その場に集いし者達はその口を開く。 「俺がほしいのは彼女だ。顔は別にどんなだっていい、優しくて疲れて帰って来た時に癒してくれる彼女が欲しいんだァァァッ!」 「ブランド物のバックが、指輪が、ネックレスがほしい! できれば時計も。ダイアモンドを散らしたのを腕に付けたいの!」 「いちごぱんつとか、ほしいから!」 「僕が望むのは健全なる幼子との交流だ。あの愛らしく無垢な少女達と存分に戯れたい! 汚そうとするものと幼子を語るものは皆死すべし!」 「家を買いたいよ。一等地の一軒家! 白い屋根にお庭も付けて犬と一緒に暮らしたいよぉ!」 次々に零れるのは煩悩の塊とも言うべき言葉の数々。 それを順番に、神妙な顔で聞きいれる坊主。 数十分の間それを順番に聞いた後、彼は頷き口を開く。 「皆の煩悩、しかと聞き届けた。ならばそれを持って事に当たるべし。かの有名なる武将はこの寺にて……」 「キャァッ!? も、燃えてる!?」 だが、偉そうなその口上は叫び声によって中断される。振り向けば、御堂の一角に炎が煌めいていた。 否、一角だけでは無い。御堂のそこかしこから煙が上がる。扉の向こうにいくつもあったはずの篝火はいつしか消え、代わりに寺の周囲を囲んでいたはずの塀が燃えていた。 「な、なにごと……ヒィッ!?」 突然の出来事に目を見開く人々。だが、その時、その中の一人である女の目前に、突如鎧をまとった武者のような者が現れる。 「敵は……煩悩寺にあり!」 女の体に叩きつけられたのはブランド物のバックにダイアモンドのネックレス。それを思わず彼女は手に取る。 「え?」 すらりと抜かれる腰にさした刃。非現実的な輝きを持ったそれはあっさりと振り抜かれ、女の体を両断する。 「そんなもの、なんの価値がある!」 「ひぃっ!?」 次に狙われたのは一人の男。武者はその頭にイチゴ柄のパンツをかぶせると、そのまま刃を閃かせる。 「イチゴ以外にも価値があるだろうが!」 二つに分かれて崩れる二人の体を目にし、その場に集いし者達は我先にと逃げ出そうとする。 だが……その次の日、その寺に残されていたのは寺の焼跡のみ。 被害者たる者達は、誰一人として遺体が見つからなかったという。 ● 「年末に、煩悩寺と言う由緒正しきお寺が焼き討ちに会う。加害者はE・フォース。それを止めてほしい」 そう端的に告げる『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)だが、モニタに移された惨状は色んな意味で惨状だった。どういう事か詳しく説明を、とリベリスタ達は彼女に求める。 「煩悩寺と言うのは、少なくとも400年以上続いてる古いお寺。このお寺では、400年くらい前にある戦国武将が焼き討ちにあって死んだと言われていて、それにそった儀式が毎年開かれているの」 それこそが、願望開示祈願の儀。極端な話、己の望みや欲望を皆の前で宣言するだけの儀式だったりする。 「何の意味があるんだよ、それ……」 「欲望というのは、原動力になる。その死んじゃった武将も『自分の欲望を大っぴらに言って』成功して来た人物だったの。その人のように自分の欲望を大っぴらに言う事で、自分もその願いをかなえるために頑張ろう、というのが儀式の趣旨」 ようは『有言実行』をしよう、というだけの儀式である。 人の人生は歴史の中で見ればちっぽけなゆめまぼろしのようなもの。それならば、その短い一瞬の間だけでも、夢を掴もうじゃないか……という、その討たれた武将の心意気からスタートしたのだそうだ。 例えば、恋人を望む者はそれを手に入れるために容姿や性格を磨く事に精を出し、様々な物品を望む者はそれを手に入れるために仕事を今まで以上に頑張る、というように。 一部、変なの混じってた気もするけど。 「最近では、自分の性癖を言うだけの人も増えてるんだって」 そんな寺、焼き討たれても仕方ない、と誰かが思わず呟く。 「でも、今年はそれだけで終わらなかった。その欲望や願いに反応するかのように、E・フォースが現れた」 そのE・フォースは戦国武将を討ちとった武将に関する想像や噂が現実として形を成したもの。 彼は400年以上前の伝説の通りに、『己の欲望をさらけ出す者』を焼き討ちし、殺しつくしてしまうのだという。 「今年の儀式を無理やり中止にしても、来年同じことをすればまたこのE・フォースは現れる。でも、倒せば別。だから、皆にはこのE・フォースを呼び出して倒してほしい」 既に煩悩寺はアークの権限で丸一日貸し切り状態になっているのだという。毎年続いていた儀式を今年だけ一般人が参加できない状態にするのは心苦しいが、仕方あるまい。 「敵の能力は割と単純、願った欲望を全否定しながら日本刀で切りつけたり、焼き討ちしてくる。体力はそこまで高くないから、2分とかからずに倒す事が出来るはず」 焼き討ちって攻撃なのか? とリベリスタの一人が首をひねる横で、イヴは気にせず言葉を続ける。 E・フォースが現れた瞬間に寺全体に炎が広がるが、倒せばそれはあっさり鎮火するために気にしなくてもいいとも彼女は言う。そして、それよりもずっと大変な事があるとも。 「大変なこと?」 「うん。大変なのは現れる条件。現れる条件は、簡単にいえば御堂の中で自分の欲望を、煩悩をたっぷりとさらけ出す事。嘘厳禁。俗っぽければ俗っぽいほど良い。あと、その場にいる全員が言わなきゃダメ」 何その公開処刑。 っていうか、『己の欲望をさらけ出す者』を切るなら、どんな願いでもいいのでは? とリベリスタの一人が聞けば、イヴはそれに涼しい顔を返す。 「年代の語呂合わせで覚えられる関係で、『イチゴパンツを望んでた武将さんを切った』なんていう逸話が地元で広まっちゃったせいみたい」 それは酷い。 「それと、E・フォースが願った欲望を否定する時、狙った対象の望んだものをE・フォースはわざと渡すみたい。少し経てば消えてしまう夢幻みたいなものだけど、惑わされないように気をつけて」 この言葉に、一部のリベリスタは息をのむ。夢幻とはいえ、煩悩の内容によっては、戦闘中だけでも文字通り夢を見れるかもしれない、と。 「誰か一人でも、E・フォースの現れる時間までに願望を言わなかったら、E・フォースは現れない。来年に持ち越し。だから、恥ずかしくても黙っちゃ駄目」 中々に厳しい条件。逆にそれを聞いて一部のリベリスタ達は後悔する。この依頼に参加した事に。 その時、一人のリベリスタが疑問を口にする。 「E・フォースの現れる時間? それって、決まってるの?」 「うん。現れるのは夜中の11時58分。11時から儀式を初めて、その時間までに言わないとダメ」 リベリスタ達は思わず首をひねる。そういえば、この儀式はいつ執り行われるのかを聞いていない。 そして、改めて後悔することになった。この話を聞いた事に。 「日付は12月31日……だけど、大丈夫。2分もせずに戦いは終わらせれるはずだから」 え、煩悩さらけ出して……そのまま年を越せと? 「頑張って焼き討たれてきてね」 そういって、イヴは無情にも天使の笑みを浮かべるのであった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:商館獣 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年01月05日(木)22:31 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「なんで俺、ここにいるの?」 御堂の中に反響するのは『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)の言葉。 「崩界に関するきっかけは何であろうと粉砕する。以上!」 答えるのは覚悟を決めた面持ちの『生還者』酒呑雷慈慟(BNE002371)だ。 「ってわけで、エリューション退治だよエリューション退治。さっさと腹決めな。男だろ?」 豪快に笑いながら快の肩を叩く『爆砕豪拳烈脚』天龍院神威(BNE003223)、その衝撃でふらつきながら彼はさめざめと続ける。 「年末年始くらい皆で楽しみたかったのに!」 時は大晦日、新年が間近に迫った夜の寺の中、リベリスタ達は怪異を討つために集結していた。 「俺も一緒だから今日は楽しんでいこうぜ、望みを語るだけの簡単な仕事だ」 「うんうん、残り少ない今年も楽しもうね。あの女抜きで」 男前な笑みを浮かべる『合縁奇縁』結城竜一(BNE000210)と、自分の腕を絡めながら兄を応援する『猟奇的な妹』結城・ハマリエル・虎美(BNE002216)の二人。そのずれた会話に微笑を浮かべるのは『嗜虐の殺戮天使』ティアリア・フォン・シュッツヒェン(BNE003064)である。 「欲深い皆が集まった事ね。状況が状況だけに仕方ない事かしら?」 彼女の言う『状況』、それは怪異を呼び出すための条件が『己の煩悩を宣言する』という物である事を指し示していた。 「カカカ、煩悩? 神デアル我ニ、ソンナ物アル訳ガ無カロウ! 我ニ有ルノハ、崇高ナ野望ダケ!」 先陣を切るかのように口を開いたのは『サバトの山羊』バフォメット(BNE003178)だ。 人を逸した容姿、甲高い声、口上の中身。それは周囲の注目を引きつけるには十分。 彼はその視線に満足げに笑みを浮かべると、両手を広げて天井を仰ぎ、歩きながら言葉を続ける。さすがは元・教祖、パフォーマンスも完璧だ。 「折角ダシメイドノ土産ニ聞カセテヤロウ! 崇高ナル我ガ野ボッ……!?」 その時、バフォメットは華麗に転倒する。膨らんだ布団を踏みつけて。 「ふみゃぁ、踏まないでほしいのです」 そういって布団から顔を出すのは、『おこたから出ると死んじゃう』ティセ・パルミエ(BNE000151)である。 「なんで布団ひいてるのさ?」 「だって、寒いのは嫌なのです。持ってきちゃいました」 神威の問いにティセはあっけらかんと答える。 「ぶはは、悲観的にならずにティセみたいに気楽にやろうぜ?」 爆笑する竜一の言葉に、快も観念したかのように肩をすくめて笑う。 「ふむ、続きは後で聞かせてもらおう」 後頭部強打して気絶したバフォメットを心配する者は……雷慈慟くらいしかいなかった。 ● 「こういう機会も余りないからな、相互理解を深めよう」 三人寄れば文殊の知恵、女三人寄れば姦しい、では年頃の男が三人集まれば? 答えは青春の香り漂う煩悩溢れるボーイズトーク。 「で、実際どうなんよ? 女性の好みとかさ。ぼんきゅっぼんより、こうロリ~な感じがいいよね!」 快と雷慈慟へと、竜一はそう話を切りだす。 「年下であろうが年上であろうが、成熟と言う者は個々によって別物の果実だろう。抜群であればある時の、可憐であればある時の個性の……」 意外にも熱弁を振るうのは雷慈慟。それに対して快が答えるのは精神論だ。 「やっぱ一緒にいて自然体でいられる人かな?」 「む、確かに。好意と言った感情は体型などの理屈ではなく感じる事もある」 真面目に唸る二人に、苦笑する竜一。 「そういう観念的なのじゃなくてさ、胸がどーとか、尻がどーとかさ」 「それなら、断然巨乳だよなァ、胸のでけー女の子といちゃラブとかしてェなァ」 「いや、断然貧乳だ……ろ?」 思わず反論する竜一だが、その言葉は尻すぼみ。だって、相手は女の子。 ニマニマと笑みを浮かべる神威。格好をつけた口調で彼女は宣言する。 「やわいのがいいからな、アタシ!」 煩悩溢れる宣言に、ボーイズトークに割り込まれた竜一はタジタジ。 「俺は胸とかはバランスよければそれで……というか、彼女持ちの竜一や女子が何を言ってるんだ」 思わず突っ込む快の横で、子をなせぬ女子同士の付き合いを理解できないのか雷慈慟もまた首を傾ける。 「自分は先に言った通り、抜群であろうと可憐であろうと分け隔てなく、自身が子を宿してほしいだけなのだが」 「いいじゃない性欲でも。種の保存意識も大事かもしれないけれど、そんな物を捨て去った先に心まで蕩けるような快楽があるかもしれないわ」 そこへ割り込むのはティアリア。ボーイズトーク、順調に女子に侵食されてます。 「いい声で啼く人をいたぶるのも素敵よ。嫌がっている時のうめき声も、嗜虐に慣れた後の喘ぎ声も……どれも胸打つ至高の瞬間だわ」 ゾクリとさせるような妖艶な笑みを浮かべ、ティアリアは笑む。でも、手に鉄球持って言う台詞じゃないよねコレ。 しかし、そんな中で雷慈慟は一人動じることなく頷く。 「む、わからない事は無い。自分の望みは……」 その直後に続いた言葉、それは余りにも生々しくて普通は口外出来ないエロスの数々。 「最近の男は貧弱すぎてダメと思ってたけれど……まだ悪くないかしら?」 男二人が鼻血を吹きだしてる横で、ティアリアはそう笑顔を零すのであった。 ● 「んー、こっちも身を寄せ合おうよ、寒いですし」 「うんうん、お兄ちゃんとよくしてるし任せて!」 ボーイズトークが盛り上がる中、布団の中で温まるのはティセと虎美である。 「煩悩って、ありのままでいればいいんだよね? 意外と簡単かも」 「そうだね、普段から垂れ流してる私には簡単なお仕事!」 ハイテンションな虎美に微笑み、ティセもまた己の煩悩を晒してゆく。 「あぁ、おこたがほしいのです。ふとんじゃなくておこたがいいのです。三度のご飯よりおこたの方がいいのです。もうこれだけあればいきていけるのです。とてもよく眠れるんですよ。皆でおこたに入ればいいと思うのです。早く帰っておこたに入りたいなぁ」 猫のようにごろごろするティセ。それに虎美はうんうんと頷く。 「そうだね、お兄ちゃんと一緒のこたつは素敵だね。入りたいな」 会話通じてねぇ。 「あはは、りゅういちお兄ちゃんはかっこよくて素敵かも。とらみちゃん自慢のお兄ちゃんだもんね」 「うん、自慢のお兄ちゃんなの」 「はーい。あ、みんなもいっしょにはいろうよ、あったかいですし」 そう言うと、ティセは無邪気に掛け布団の端を持ち上げ、布団をたしたしと叩いて仲間へと呼び掛ける。 「ハッ、幼女ガ我ヲ布団ニ誘ッテイル……我ノ意識ヲ奪ッタ贖罪、キチントシテモラオウカ!」 「はっ、ティセたんのお誘い! 今がDTを捨てるチャーンスっ!」 それに応えるのは先ほど意識の回復したバフォメットと竜一。 トゥッ! と二人はほぼ同時に華麗にジャンプして布団に飛び込んでいき……。 「「ディフェーンス!」」 竜一はスタンガンと、バフォメットは鉄球とご対面。身悶える二人。 「えっと……DTってなんだろう? 捨てるならもらっちゃいたいけれど」 「だとさ。どうすんだァ、該当者?」 純真無垢な問いかけをするティセに、神威は笑いながら男3人を見回す。それに首を振るのは雷慈慟。 「いや、自分は経験済みだ」 「アイツ非DTカヨ! 裏切リ者だダ! 石投ゲテヤローゼ!」 バフォメットが囃す横で快はガクリとその場に崩れ落ちる。 「そういえば、酒呑と新田、同じ年齢だったっけ?」 「うむ、自分と新田殿は誕生日から年齢まで奇しくも同数だが」 竜一の問いで明らかになった皮肉な偶然。二人は共に2月22日生まれの22歳であったのだ。それを聞いて竜一は大爆笑。 「ぶはははっ、それで片や非DTで片やDTか!」 「カカカッ、サスガハ貞操ノ守護神ダナ!」 「お兄ちゃんやめて! 守護神息してない!」 兄の心配しか普段はしない虎美も、真っ白になった青年の様子に思わず叫びをあげる。後、お前どっちの味方だよバフォメット。 「安心せよ新田殿、自分も本当に意味で添い遂げた事は無い……いわゆる遊郭でな」 「あ、そうなんだ。なんというかその、ごめん」 慰めるように告げる雷慈慟。それにどこかバツが悪そうに竜一は頭を掻く。 「じゃ、そろそろ望みでもいうか」 真っ白になった快の横で、彼を元気づけるかのように竜一は叫ぶ。彼女には普段言えない、己の望みを。 「ギャルのパンティおくれぇ!」 「はーい」 立ちあがって一切の躊躇なく自分のスカートに手を差し入れる虎美。 咄嗟に地面へと張り付きスカートの中を覗きこもうとするバフォメット。 その脳天に振り下ろされる鉄球。 この間、実に一秒。 「虎美ストップ! 俺は可愛くて優しくて恥ずかしがり屋さんのロリっこの脱ぎたてが欲しいんだ!」 「可愛くて優しい妹の脱ぎたてだよ、恥ずかしいな」 「パーフェクトォッ!?」 虎美の幼すぎる容姿は元々、竜一の好みを詳細に反映した結果である。ストライクゾーンど真ん中で当然だ。 でも、彼女はあくまで大事で愛しい『妹』なのだ。 本心はさておきパンツもらっても嬉しくない事にしておかないと色々まずい! 「あ、縞パンな! 色合いはどれもアリだと思うけれど、青と白じゃなきゃ受け取らないぞ!」 「大丈夫、ちゃんとその色のをはいてるよ」 「なんで!?」 「今朝、お兄ちゃんが教えてくれたじゃない! 脳内で!」 エア恋人選手権優勝者の脳内恋人再現率は半端ないのだ。 「大丈夫お兄ちゃんの事は全部よくわかってるよ布団に入るのも下着あげるのもよくやったよね至福の時間を与えてくれるお兄ちゃんを私は大好きだからちゃんと理解してるよ」 「すげェ……息継ぎなしで喋ってやがる」 神威さんドン引き。 「周りからは変態扱いされて非リアでそこを慰めるのが妹冥利に尽きるっていうか私だけがお兄ちゃんの味方なんだよー的な醍醐味があったのに最近は他の女に目移りしだしてそこは元からあったから許せるんだけど彼女まで作っちゃうとか」 だんだん虎美の瞳から消えていくハイライト。 「何それロリコンお兄ちゃんの影響で私は子供の姿にまでなっちゃったけどお兄ちゃんが喜んでくれるならまぁいいかなって思ってたのに最近じゃお帰りなさいお兄ちゃん私にする? 私にする? それともわ・た・し? って聞いてもそっけなく『ご飯』って答えて一緒にお風呂にすら入ってくれないし私はもう用済みなの結局代替物で都合のいい女だったのねお兄ちゃんの馬鹿うわぁん! お兄ちゃんがほしいよぉ!」 「えっと……」 困惑する一同。その中で竜一は笑顔で告げる。 「大丈夫、彼女萌えと妹萌えは別腹だから!」 「なら許すよ! はい、パンツ!」 「脱ぐな」 もうやだこの兄妹。 ● 「さ、残り時間も少ないし俺も願いを……」 「あ、守護神はDT捨てたい以外でお願いするわね?」 崩れる快。 時刻は既に新年まで十五分を切っている。にも関わらず、彼はさっきから燃え尽きっぱなしである。 「カカカ、デハ我ノ望ミヲ明カソウ。ソレハ信者ダ!」 「へぇ、神様っぽいじゃねェか」 「望みが小さすぎない?」 肯定する神威に、毒舌を振るうティアリア。それにバフォメットは肩をすくめて返す。 「無論、コレデハ終ワラヌ。力ト信者ヲ蓄エ……」 溜めの後、拳を挙げて彼は言う。 「時村沙織ヲ、我ハ討ツ!」 力強い宣言。それに圧倒されてティセはとりあえず拍手する。 「アークヲ征服シ、リベリスタの力デ国内ヲ征服シ……イズレハ世界ヲ征服、『邪神バフォメット様を讃える統一王国』デ唯一神トシテ降臨スルノダー!」 「……うん。それは大きな野望だな」 子供じみているが理解できる野望に雷慈慟は頷く。 「コカカカ、ソウダロウ! 世界ノ金モ女モ俺ノ物! 塔ノ魔女ノおっぱいモ、シトリィンノおっぱいモ、全テ我ノ物!」 「うん……うん?」 「やっぱり小さかったわね」 思わず聞き返す雷慈慟、ティアリアも思わず溜息。その横で、ようやく快が口を開く。 「それは許せないよ。だって、俺の望みは世界平和だからね。大きなバグホールも開いたし頑張って世界を守りたいんだ。それが俺の一番の願い」 「……うん?」 一度の肯定すらせずに聞き返す雷慈慟。周りのみんなも半目で快を睨む。 「すみません、嘘ついてましたー!」 流れるように綺麗な謝罪。そこへ問いかけるのはティセである。 「やっぱり、かいお兄ちゃんはDTっていうのを捨てたいの?」 「いや、DTなのは別にいいんだよ」 「いいの!?」 意外な告白に驚く一同を無視し快は言葉を続ける。 「いやあんまりよくは無いんだけど、知れ渡ってるのが問題なんだよ!」 彼の脳裏によぎるのは数々の記憶。アーク本部では何故か彼に彼女がいない事が議題にあげられ、桃子からは貞操を喧伝され、依頼では仲間に童貞臭いと言われて地面を砕き、挙句の果ては見ず知らずのフィクサードにさえ『色んな意味での鉄壁男子』と言われる始末。 そのたびに彼の心はボロボロになってきたのだ。 アークの情報、マジ筒抜け過ぎる。 「じゃあ卒業して来いっていうのはそれはそれでなんか違うというか……俺だって、彼女が欲しいんだよ!」 快の魂の叫び。その瞬間、声は響き渡った。 「敵は、煩悩寺にあり!」 炎に包まれる御堂。そこに現れたのは鎧の武者……怪異、土欠光秀であった。 ● E・フォースの放つ焼き討ち攻撃。渦巻き、全てを焼き尽くす炎の中でティセは。 「はぁぁ、暖かくなって悪くないね」 ぬくぬくとしていた。 土欠さんにもらったおこたの中に入っている彼女に寒さに対する死角は無い! 反撃に放つのも、炎を纏う猫パンチなのだから筋金入りである。 「ヒャッハァー! 金! ソシテおっぱいガイッパイ!」 その横で、大量の金と擦り寄ってくる巨乳の美女達の幻影に飛び込んでいくのはバフォメットである。 もはや戦う気は皆無。 「うおりゃァ!」 とはいえ、まともに戦っている者も数名いた。巨乳を望んだ神威だが、彼女は戦いも大好きなのだ。誘惑に負けずオーラを込めて腕につけた刃を振るえば武者の鎧にヒビが入る。 ティアリアが優雅に歌えば、炎で傷ついた仲間達の体に気力が満ちる。その横で、何か自分が許せないのか淡々と射撃を続けるのは雷慈慟である。 一方で、自らの夢を現実にしてもらう事で大きく心が揺れ動く者もいた。 「こんな願いでぽっと出るような彼女じゃなくて、段階踏んで仲良くなって恋愛関係になりたいよ!」 現れた美女に抱きつかれ、泣きそうになってるのは快。彼は怒りにまかせてナイフを振り回す。 「ホカホカだ……」 その横では目が隠れるほど目深に頭にパンツを被って満面の笑みでふらつく竜一がいた。 「縞以外にも価値があるだろうが!」 振り下ろされる刃は竜一を深く傷つける。それを見て虎美の瞳に殺意が満ちる。 「お兄ちゃんどいて、そいつ殺す」 「兄が欲しい、か」 ならば、と土欠が虎美に向けて差し出したのは、見紛う事なきもう一人の竜一。それは甘い声で虎美に囁きかける。 「虎美、大好きだぞ」 『今日の姿も可愛いぞ虎美』 「うわ、幼女パンツ、凄い」 脳内で響き渡る声とも合わせて、竜一ヴォイスの三重奏。それに思わず虎美は表情を蕩けさせる。 「お兄ちゃんが脳内含めて三人とか何この天ご……」 「それに何の価値がある!」 ばっさりと否定し、刃を振り下ろす土欠。その刃は出したばかりの竜一の幻影を真っ二つにする。 「……」 無言で銃口を向ける虎美。その瞳からはハイライトが消えている。殺意マックスで放たれた二発の弾丸はE・フォースの体を一気に吹き飛ばす。 「っていうか、この戦い、時代劇ですら無いじゃねェか!」 既にボロボロになっていたE・フォースは神威の一撃で、ついに崩れ落ちるのであった。 そして、全てはあっさりと消える。 周りを包み込んでいた炎も、女達も全て消えてしまっていた。 「むぅ、終わったか……」 戦いも、今年も。そう雷慈慟は一人ごちる。既に、行く年は最後の十秒に差し掛かっていた。 リベリスタ達は誰からともなく、そっとその場に座り正座する。 遠くから聞えてくる鐘の音。 「あけましておめでた! 今年もよろしくね!」 朗らかなティセの声。それに合わせて、リベリスタ達は頭を下げる。 「パンツもロリも一期一会、今年も一瞬一瞬の合縁奇縁を大事に生きていこう!」 「うん。でも、私とお兄ちゃんの関係は永遠だよ」 竜一と虎美のぶれないやり取り。その横で、ティアリア、雷慈慟、そして快は立ちあがる。 「さ、無事に敵も倒したし帰りましょう。初日の出も見に行きたいしね」 「む、自分もだ。一緒に行くとしようか」 訪れたのは和やかなムード。その時。 「お、俺も行くぜ、初日の出。彼女と一緒に見るんだ」 ドン! 竜一の不用意な一言。それと同時に壁に二つの拳が叩きつけられる。それは虎美と快の拳。 「……うわぁぁぁ、ちくしょうっ! 竜一の裏切り者ぉぉぉっ! 腹いせにバっさんの言ってた野望全部アークに話してやるぅわぁぁ!」 「止メテ! 本気デ思ッテルワケ無イジャナイデスカー! 監視サレチャウカラ、ヤダァ!」 泣きながら駆けていく快、それを顔面蒼白になって追いかけていくバフォメット。その後ろでは、兄を行かせてなるものとかとスタンガンを手に構える妹の姿。 穏やかではなく、望みも叶っていないが、ある意味平和で楽しい、等身大の光景。 その光景に、リベリスタ達は新年の初笑いを零すのであった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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