●二兎追う者は 「ちょっと、どういうことよ!」 「なんなのよこの女!」 「おい、ちょっと落ち着けって二人とも!」 年の瀬の繁華街にて言い争う人々がいた。 二人の女性と一人の男性。誰がどう見ても痴情の縺れの口論である。 しかし人の想いとは不思議なもので、ここで男をお互い見限れば一件落着なのだが何故か固執することがあるのである。 「あんた、横から入り込んでくるんじゃないわよ!」 「そっちこそ飽きられてんのよ! さっさとどっかいきなさいよ!」 二股をかけていた男の奪い合い。泥沼の争いが始まり、激化して行く。 ――その時である。 突如近くの建物の扉が開き、一人の人物が現れた。 「!?」 その場にいる全員……当事者だけではない、見物人に至るまで全ての人が目を疑う。 何故ならばその人物は、髷を結っていたからだ。 青い裃に袴。それらを見事に着こなした人物はその場に集まる人々を一瞥し、口を開いた。 「各々方、面をあげい」 彼はそう告げた。それと同時に周囲から新たな人々が集まってくる。彼らもまた、髷を結っていた。 「御奉行様だ!」 「今日も御奉行様の名裁きが始まるぞ!」 集まった彼らは口々に騒ぐ。まるで最高のショーを待ち望むように。 「それでは双方、その男の両腕を掴み引っ張り合うがよい。大切ならば最後まで離さぬはずだ」 「……え? え?」 裃の男の言葉に、意味がわからないと唖然とする女性二人と当事者の男性。 そんな当事者を置いてけぼりにするかのように二人の人物がさらに現れた。 それは二人の巨漢。筋骨隆々とした、同じく時代がかった衣装をした男。 現れた二人は当事者の男の両腕を掴み、両側へと引っ張り始める。 当事者の女性に引っ張れといっておきながらこの状態。意味がわからない。 「ぎゃああああ!!」 引っ張られる男が絶叫する。 みりみりと音を立て、みちみちと音を立てる。骨と筋肉が軋み、悲鳴を上げる。 「ちょ、ちょっと!」 「やめて! やめなさいよ!」 女二人が引っ張る巨漢を引き剥がそうとするが、女性の腕力でどうこう出来る相手ではない。 限界まで引っ張られた肉はやがて破断を迎える。 「ぎゃあああああああぁぁぁー!!」 この世の物とは思えぬ絶叫を上げ、男の身体が裂けた。 肉が爆ぜ、筋繊維がぶちぶちと千切れる。骨がごきりと音を立てずれて、繋ぐ関節部が破断し、千切れ飛ぶ。 「いやあああああ!!」 「ひいいぃぃぃ!!」 周囲に響き渡る女性二人の悲鳴。 周りを囲む人々もまた、あまりのことに放心するもの、悲鳴を上げるもの、逃げ出すものなどが現れ、現場は大混乱に陥った。 裃の男は千切れた男性を見下ろし……宣言する。 「これにて一件落着!」 同時に髷のギャラリーが一斉に喝采をあげた。 「さすが御奉行様!」 「今回も御奉行様の名裁きが決まった!」 その異様な光景に年末の街角は阿鼻叫喚に包まれた。 まるで当然のように行われた、その裁きに。 ●ブリーフィングルーム 「……という事件が起きるのですよ。このままだと」 アークのブリーフィングルームにて『黒服』馳辺 四郎(nBNE000206)はそう切り出した。 モニターに写っていたのは凄惨な光景。……下手人を除けば。 「見てのとおり、この敵は時代劇の英雄を模写したE・フォースです。 題材は大岡越前。火付盗賊方改めとして活躍した実在の奉行を元にしたものですね」 だが、実際の大岡越前は当然ながらこんなトンチキな展開ではない。 おそらくエリューションとしての構成時になんらかの妙なイメージが混ざり込んだものだと思うが。 「彼らは一人の人物を二人の人物で争奪するシチュエーションに現れ、判決を下します。 そして両側から思いっきり引っ張って結果を決めるのです。何故か引っ張るのが当事者じゃないですね、不思議ですね」 その結果がこの血の惨事である。これを引き起こすことは望まれない。ましてやただでさえ男女等の縺れが多いシーズンなのだ。 「というわけで彼らに判決を下させないよう、退治してきてください。 方法はお任せしますので、頑張ってくださいね」 四郎はへらへらとリベリスタ達に告げる。 災難なのはリベリスタである。何が悲しくてこんな事件に巻き込まれないといけないのか。 だが、喩えどんなにおかしい事件でも解決せねばならないのだ。それがエリューションである限り。 ブリーフィングルームに誰かの深いため息が響いた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:都 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年01月09日(月)22:49 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●前座 「ちょっと、どういうことよ!」 「なんなのよ、この女!」 「おい、ちょっと落ち着けって二人とも!」 年の瀬の繁華街に言い争う人々がいた。 二人の女性と一人の男性。彼らは周囲の人目を憚ることなく、堂々と言い争いを繰り広げていた。 尤も、二股が発覚した瞬間に人目を気にしろというのも難しいのかもしれないが。 ともあれ彼らの口論はエスカレートしていく。これから起きる悲劇の引き金となることも知らず。 「あのー」 そこに割り込むように声が掛けられた。 「何よ!?」 「あんた誰よ!」 話の腰を折られた女性達が腰を折った人物に牙を剥く。 「申し訳ないのですが、お三方。ひとまず周りを見てはいかがですか?」 「急に何よ……?」 仲裁に入った人物……氷河・凛子(BNE003330)の言葉に女性達は周りを見回し――現状を理解した。 人、人、人。年の瀬の忙しい中、繁華街でこれだけの大喧嘩をやらかしたのである。人々の好奇の目線は見事に三人に――今は仲裁に入った凛子も含めて四人だが――注がれていた。 「あ……えーと……」 さすがにこの好奇の視線は彼らにとって堪え難かったらしく、所在なさげにし始める。凛子はその機を逃さず、畳み掛ける。 「年の瀬に痴話喧嘩、なかなか恥ずかしいですが。その恥をかいてまで、二股をしていた男性を取り合う価値はあるのですか?」 冷水をぶっかけるかの如き言葉。ぐうの音も出なくなった三人を置き去りにし、凛子は去っていく。 彼らの仲を取り持つ義務まではないのだ。 何故ならば、トラブルさえ起きなければいいのだから。神秘という名のトラブルを。 ●開演 「……夏栖斗? これはどういう事なのかしら? ――説明して頂戴」 一方そこからやや離れた路地裏。こちらでももうひとつの修羅場が発生していた。 「言ってくれたじゃない、私のワイルドで大人びた雰囲気が魅力的だって」 「ねえ、ふたりとも落ち着いてくれよ」 二人の女性が一人の男を挟んで揉めている。 『高校生イケメン覇界闘士』御厨・夏栖斗(BNE000004)。自らイケメンを名乗る彼を取り合うのはアークの誇る邪悪ロリ『運命狂』宵咲 氷璃(BNE002401)と獣頭と毛並みがワイルドにしてビューティフル、『似非侠客』高藤 奈々子(BNE003304)の両名である。 モテる男は罪である。ましてや恋人がいる上でこれが起きているならばもっと罪である。 いや、これは作戦なのだ。表の揉め事を凛子が仲裁、その後人目につかないこちらで口論を行うことによりエリューションを引き寄せようという計画なのだ。 だからこそ周りで見守っている仲間達もその様子を遠巻きに見守っているだけなのである。 「僕がイケメンなのはよくわかってるよ、だけれど僕のために争わないでくれ!」 やっぱ罪でいいや。 「私と言うものがありながら他の女に言い寄るなんて良い度胸ね」 一方氷璃は相手のことを無視したように夏栖斗を責め立てる。むしろ責め立てたいようにしか見えない。実はこの人、依頼にかこつけて彼を叩き伏せたいだけなのではないだろうか。 さすがに見過ごせないとばかりに奈々子が間に割り入り、主張をする。 「この人みたいに優しくて強くて鉄砲玉に使いやすい人はそう居ないもの。絶対に渡さないわっ」 「まじで! 照れるなぁって何かおかしくない!?」 あの、奈々子さん。それぜんぜん褒めてるようで褒めてないです。夏栖斗さんも落ち着いて。 「あら、まだ居たの?暇潰し用の女の分際で身の程知らずね?」 矛先が変わった。 「悪いけれど貴女は遊びよ? 本命は私だもの。夏栖斗は私のモノだから諦めて頂戴」 真に迫った、というよりは進んで人を責め立てる氷璃。演技だとわかっている仲間達からしてもその迫力は凄まじいものがある。昼ドラも真っ青。 「リベリスタっつうのは、なんつうかしんどいなぁ、オイ……」 その痴話喧嘩を作りあげる状況にうんざりとした風情で呟くのは『黒鋼』石黒 鋼児(BNE002630)。 その立派な体躯とは裏腹に未だ中学生である鋼児にとって、なかなかにこの状況は厳しいものに見えるのだろう。そして男として、夏栖斗への同情もあるのだろう。 「まあ、まかせておけばいいんじゃない?」 一方他の面々、例えば『偽りの天使』兎登 都斗(BNE001673)のように作戦が上手く行くならそれでいいと思っている者のほうが多いようで。どうでもよさそうに、もしくは興味深そうにその光景を見ている。 雰囲気はどんどん悪化し、今にも張り詰めた空気が裂けそうな緊張感を持っている。中心人物である夏栖斗と共に裂けそうだが。 そしてその険悪な空気をきっちり読むのは人ではなくエリューション。 「待たれよ各々方!」 声が路地に響く。凛と響くその声は、威厳に満ち溢れており罪を裁くに相応しく。 近くの扉――恐らくどこかの店舗の裏口だと思うが――が開き、一人の人物が現れた。 髷を結い、上等な羽織袴を身につけたその人物。あたりを睥睨する彼こそ、大岡越前。名奉行である。 実際は名奉行の形をしたエリューションではあるのだが、ともかく彼は現れたのだ。この争奪戦に捌きを下すために。 「御奉行様だ!」 「今日も御奉行様の名裁きが始まるぞ!」 同時に周囲から新たなエリューションが現れる。民衆と、同心達。 民衆はただ囃し立てるのみであり、何をするわけでもない。だが、同心達はこの状況になにかあれば即座に介入せんとする緊張感を漂わせている。 「双方の意見、相わかった! それでは判決を下そう。男を両側から引っ張り、最後まで手を離さなかったほうが正しいとする」 大岡裁きがこうして始まる。巨漢が二人、大岡の出てきた扉より現れ、夏栖斗へと迫る。 いざ、彼に巨漢達が手をかけようとした時に、制止する声が響いた。 「その裁き、待たれよ。私はそれを認められません」 今まで沈黙を守ったまま様子を見守っていた『騎士の末裔』ユーディス・エーレンフェルト(BNE003247)が前へと踏み出し、大岡へと声を上げる。 「私の裁きが不満だと申すか?」 「大岡越前守。貴方のその裁きは歪んだ形で行われています。貴方の高名をこのような形で汚させるわけには……いきません」 そう告げ、ユーディスが抜剣する。 「実力を持って異議を唱えると申すか。ならば放ってはおけまい、引っ立てい!」 大岡の言葉に、同心達が次々と十手を抜き放ち包囲をする。 騎士と同心。その対比は悪い冗談で出来たアクション映画のようではあるが…… 「――放ってはおけなくとも。実力で押し通せばいいのでしょう?」 突如、多数の魔方陣が展開された。氷璃が紡いだソレは、宙に描かれ異彩を放ち――膨大な魔力が同心達へと叩きつけられる。 堕天落とし。動きを奪い封じるその一撃をもって、戦いの火蓋は切って落とされた。 ●四十五分 『愛を求める少女』アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)にはひとつの思いがあった。 彼女にとって、ひとつの憧れがあった。 テレビドラマにおいての大岡越前。それはとても魅力的で、渋い俳優が演じる格好いい存在である。 例え相手がエリューションであろうとも、大岡越前。それなりに期待もある。それ故、戦術上の編成も含めて彼女は誰よりも早く大岡の元へと接近し、抑えに回った。 そして期待を込めてその顔を見て、彼女は言ったのだ。 「詐欺だ……!」 どうやらイメージとはまるで違ったらしい。 いや、イメージから生まれたエリューションである以上は少なからずドラマの影響は受けてはいるのだろう。だが、単一のイメージで構成されているわけではなく、彼女の期待に沿うことはなかったというだけなのだ。 「痛たたたた! 痛い、痛いって!」 一方こちら、裁かれる当人である夏栖斗は絶賛引っ張られ中であった。 両側から巨漢の同心にがっしりと掴まれ、左右に全力で引っ張られていく。関節と肉が悲鳴を上げるが、一向に二人は手を離そうとはしない。情が深いことである。関係ないけど。 その時、優しさを感じる光が戦場を照らした。 決して眩しさを感じるほどではないその光、だが夏栖斗を引っ張る同心の手は離れる。 光の元は奈々子の手にしたスマートフォン型のアクセスファンタズム。そこから光が放たれ、その画面には三つ葉の葵が写されていた。 「このお方を何方と心得る! 箱舟の守御厨公にあらせられるぞ!」 あの、いつそんな役職が出来たのでしょうか。 「ものども、控えおろう!」 夏栖斗も何故かノリノリである。というか貴方達、それ別の時代劇ですよね? なんで時代劇クロスオーバーになってるんです? 「左様であるか。私は南町奉行、大岡越前守忠相である」 ほら、変なことやってるから御奉行様もご丁寧に名乗ってくれたじゃないですか。どうするんですか。 一方同心達はどうしていいのかわからないように、動かない。指示もなければ状況も掴めない為、動くことが叶わなかったとも言える。 「オイあんた」 そこに声を掛けると同時に……炎を纏った拳が片方の同心を全力で殴りつけた。 凄まじい衝撃思わず手を離す同心。そこに拳の主……鋼児が声を張る。 「かかってこいよ、クソ同心。あんた等にも裁けねぇもんがあるっつうのを教えてやるよ」 ニヤリと口の端を吊り上げるように笑い、中指を突き立てる鋼児。そのジェスチャーの意味は同心にはわからなかったかもしれない。だが、彼を敵として認識するには十分であった。 戦端が開かれればあとは一気に戦場は広がる。 同心が展開し、リベリスタが迎え撃つ。多数の拘束された同心達は動くこと適わず、その戦場はリベリスタに有利に展開されていた。 「罪を成すのは人の性、清濁併せ飲み込んで、情けかけるが名裁き」 奈々子の凛とした声が路地に響く。彼女も時代劇にはそれなりの思い入れがあり、曲解されたこの茶番は無視出来ない存在であった。 「貴様の成すは裁きに非ず。義と情けにて、贋物である貴様らを討つ!」 思いが込められたその言葉は、言葉以上の仁義と成って奈々子の力へと変わる。 「ふふふふ……あはははは」 群がる同心、動けぬ同心。そんな彼らの最中に飛び込んだのは大鎌を担いだ都斗。 「さあ、ボクが蹴散らしてあげる」 ニヤリと笑い、一閃されるはその大鎌。魔力が載せられたその一撃は烈風を巻き起こし、戦場を切り裂いた。 吹き荒れる烈風に手傷と共に動きを縛られる同心達。そこにリベリスタ達が次々と襲い掛かる。 「討たせていただきます。正しきイメージの為にも」 ユーディスが、奈々子が率先して同心へと切付けていく。守りの十手と攻めの剣。それらが交錯し、火花を散らし、手傷を増やしていく。 「皆、巻き込まれても知らないわよ。ちゃんと避けなさいね」 突如氷璃の声が響き、戦場に炎の華が咲いた。 魔方陣を展開し、手にした呪具である傘『箱庭を騙る檻』を突きつけた氷璃。彼女の叩き付けた炎の塊が同心達をさらに打ち据える。 「はい、もう一発」 さらに都斗の巻き起こす烈風が吹き荒れる。振り回されたその一撃は多数の同心を打ちのめし、手傷を与え。 「さて、失礼致します」 「切捨て御免、ってね」 残された同心はユーディスや奈々子らによって個別に切り伏せられていった。 「オラァ!」 鋼児の拳が唸り、同心へと叩きつけられる。纏った炎が肉を焼き、拳は相手の肉体をしたたかに痛めつける。 同様に同心も鋼児へと拳を叩き込んでくる。その隆々たる肉体から繰り出される一撃は相応の重さを持ち、鋼児を傷つけていく。 男と男、拳と拳。相手はエリューションであり、そのあたりは定かではないが純粋な肉弾戦がそこでは繰り広げられている。 鋼児はどこか楽しげである。男たるもの、拳の喧嘩はやはり華。相手が人ではなかろうと、それは少年の浪漫の一端であるのだろう。 「次そっち! 数減らしていくよ!」 一方夏栖斗は器用にも、先ほどまで自らを引っ張っていた同心を抑えつつ回りの殺陣を行う同心達を叩いていた。 戦場を把握し、指示を飛ばす。脚技が唸り、真空の刃を生み出しては同心を刻む。一騎打ちが成立するまでそのアクションは行われていく。 戦いには限りはある。いつしか両者の殴り合いは最高潮を迎え、終焉の時を迎える。 「こいつで終わりだ!」 愚直なまでに繰り出されていた鋼児の拳。やがてそれは眼前の同心を叩き伏せる。 両者において満身創痍。焦げ臭い匂いと噴出した血の匂いが満ちる。 「ナイス、鋼児! さて、こっちも終わらせるぜ!」 夏栖斗もまた、同心へと拳を叩き込む。その一撃は相手の守りすら抜け、存在そのものを打ち砕く。 同心はそのままゆっくりと崩れ落ち、倒れた。残るは御奉行様。歪んだ捌きを行う名奉行。 ●終幕 この戦いの間、常に奉行を止めていたのはアンジェリカである。 「ボクはお庭番……影は十八呼び出せるよ……」 なんともわかりにくいパフォーマンスを交えつつ、アンジェリカは大岡と対峙し続けていた。 裁くのが本職とはいえ、その存在は時代劇の主役としてのエリューション。実力は高く、一筋縄ではいかない相手であった。 大岡の十手が唸り、アンジェリカへと叩きつけられる。一方アンジェリカは壁を走り、跳躍し、多元的な動きをもって翻弄し、黒弦をもって締め上げていく。 影を纏い、駆け回るアンジェリカ。それを確実に捉え、打撃を加えてくる大岡。 黒弦を用い、口で引き、巻きつけ、締め上げる。さながら仕事人対奉行。どこか時代劇めいたその一幕は確実に時間を稼ぎ、抑えていく。 ただではすまない戦いではあったが……そこに救いの手は現れる。 「癒しの力よ――限界せよ」 アンジェリカが受けていた傷が見る見る塞がっていく。 仲裁の為に別行動していた凛子が合流してきたのだ。これによって後顧の憂いは完全に消えた。 ぎりぎりと締め上げ、相手の体力を削り取る。泥仕合のような殴り合いも、バックアップがある以上は最早一方的となる。 「奉行ー! いくらなんでも二つに分けてはんぶんこ、なんて裁きはセンセーショナルすぎるんだっつーの! されるほうの身にもなれよ!」 同心を打ち倒した夏栖斗がその戦線に飛び込んでくる。さすがに囮とはいえ、引っ張られた身。思うところはありすぎるほどにあったらしい。 他の皆も同様に奉行へと殺到していく。 多勢に無勢。打たれ、射ち抜かれ。応戦する奉行もやがて、限界が訪れる。 アンジェリカの一撃がごきり、と鈍い音を立て……腰骨を砕かれた大岡は地に伏し、大気へと溶けて消えた。 「これにて一件落着……ですね」 凛子が呟く。気づけば回りの同心や民衆も同様に消え去り、路地には元の平穏が戻っていた。 「一殺多生、これで哀れな二股男も浮かばれるかな……?」 「死んでない! 僕死んでないからね!?」 アンジェリカの言葉に夏栖斗が猛反発する。実際裁かれそうになったのは彼なのだ。抗議するだけの権利はあるだろう。 「あら。今日は依頼だから奪い合ったけれど、調子に乗ったらダメよ?」 氷璃がそんな夏栖斗へとぴしゃりと言い放つ。私は沙織のモノだもの、などと嘯きつつ。 「やはり大切なのは不義理をしない事ですよね」 凛子がしみじみと言った。今日あった痴話喧嘩はとても見苦しいものであり、人情も何もあったものではない光景だった。歪んだ形で顕現したエリューションはそれらを戒めにきたのだろうか。多分気のせいだろうけれど。 「ともあれ、御奉行様の名誉はこれで守られたのでしょうか」 「酷い話だったよね。どんなイメージが混ざったらこんな展開になったのか」 ユーディスが呟き、都斗が相槌を打つ。イカレた時代劇はこれにて終幕。 「やはり勧善懲悪でありながらも人情がある、時代劇はそうじゃなくちゃね」 時代劇を愛する奈々子。彼女の言葉は時代劇のありかたを示しているのかもしれない。 やはり大衆が愛する時代劇は大衆にとって痛快でなくてはいけないのだ。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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