●ミノタウロスが産まれた日 「どうぞ、声をかけてあげて下さい」 看護士の声に返事をして立ち上がる、かすれた声になってしまって我ながらかっこ悪い。 だがそれも仕方ないことだろう、自分で望んだとはいえ緊張して当たり前だ。 「頑張って、な」 ベッドに横たわる妻のそばに立ち声をかけた。 妻は余裕のない顔で、それでも少しはにかんだ気がした。 医師の合図でいよいよ始まる。 今日は初めての二人の子が産まれる日だった。 ――。 励ましの言葉をかけ続けたつもりだが何を話したか頭に入っていない。 看護士にまもなく産まれると言われ、赤子を抱くために医師の横に着く。 頭が見えると医師が手馴れた動きで赤子を取り上げた。 産まれてきた我が子。俺は、その子を抱いて…… 「……あなた、どうしたの?」 妻のいぶかしげな声に、しかし誰も、何も言えなかった。 ●迷宮が作られた日 「それが5年前」 ブリーフィングルームで『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)はリベリスタを一通り見渡してから告げる。 「……産まれた子はなんだったんだ?」 集められたリベリスタの一人の言葉にイヴは首を振る。 「二人の子だよ。ただ生まれつき革醒していただけ」 言って数枚の写真を取り出す。 「これが産まれた女の子――宮田鈴音の今の姿。この髪と瞳は産まれた時から変わらない」 ああ……リベリスタが理解の声をあげる。彼女の金の髪と碧の瞳はとても立派で美しい。 けれど他の写真に映る彼女の両親は――黒髪黒目の普通の日本人だ。 「鈴音はフェイトを手にしていたけど……革醒現象を知らない者には関係ない話。母親はショックと……近所の住民の無責任な噂話に耐えられずノイローゼ状態。父親はその看護と仕事で手一杯、娘を振り返る余裕は無い」 「……それで、この女の子がどうしたんだ?」 それだけなら自分達が呼ばれる必要は無い。両親と話し合いこの子をアークの施設に入れることも可能だろうがアークの職員で事足りる話だ。 「引きこもった」 イヴの言葉に――はぁ? と声があがる。対し、イヴはその大きな瞳を閉じて一呼吸。 「部屋になら問題なかったけど。彼女のこもったのはアーティファクト。『ラビリンス・ラビリンス』」 取り出した資料を読み上げていく。掌サイズのガラス玉のようなそれは、エリューション能力を持つ者にのみ反応しその精神を中に引き込む。最初に取り込まれた者の不安や悩みを具現化し、それが大きければ大きいほど巨大な迷宮が作られ入った者の精神を閉じ込め衰弱させる。放置して段階が進めばより無差別に人を捕らえるようになる危険なアーティファクトだ。 「鈴音は自分の心が産んだ迷宮の中で、不安が具現化した怪物から逃げ回っている。無意識からでも彼女自身が作ったもの、実際に彼女を襲うことはないけれどそれに彼女が気づくことは無い」 「自分で、作った?」 リベリスタの疑問にイヴはうなづき答える。 「彼女はずっと思っていた。母が泣いているのは自分のせい。父が疲れた顔をしているのは自分のせい。自分が悪い子だから愛されない。悪い子だから愛されてはいけない」 父が自分に手を煩わせないよう、何も喋らずじっとしてきた。母が自分を見て泣き出さないよう、部屋に閉じこもって生きてきた。写真の中の少女は5歳とは思えないほど大人びた表情で……諦めたような瞳をしていた。 「娘がもうずっと言葉を発していないことに気づかないほど追い詰められている両親の責任かはわからない。けれどこれは『ラビリンス・ラビリンス』を通して彼女の心が作った迷宮。悪い子は罰を受けなければならないという想いが彼女を捕らえ繋いでいる。――起きてこなくなった娘に両親が気づいて病院に移った。病院には両親ともいるよ」 精神の抜けた鈴音の体は弱っている。中に入り彼女の精神を連れ帰るしか救出手段はない。 「精神だけが入ることになるけど、あなたたちの能力はもちろん装備も具現化されるから問題ない。迷宮には彼女を苦しめる鬼たちが巡回している……たいした力はないけど数が多くて厄介。単独で相手するのは厳しいけど、広大な迷宮の中で鈴音を探すなら固まっていては難しいと思う」 曰く、『ラビリンス・ラビリンス』に入るときは迷宮のどこかにランダムで飛ばされる。ただし手を繋いで一緒に入れば同じ場所に出るらしい。 「鬼の邪魔をかいくぐり、スキルを活用して彼女を見つけ出して。そうしたら彼女を説得して連れ帰って欲しい。迷宮は本人が望めばいつでも出れるから」 自分が生まれて来た事を罪だと言う少女。その説得は簡単ではないかもしれないけれど―― 「衰弱の激しい彼女の体が死亡してしまえば迷宮は壊れる。そうなっても皆は安全に戻れる。もうすぐそうなるから――その前に救出して」 うなづくリベリスタたちにイヴは最後に一言付け加える。 「多少遅れるけど両親と話をしていってもいい。それと――鈴音がアーティファクトを手に入れた経緯は不明。余裕があれば彼女から聞きだして欲しい」 ●糸が垂れた日 知らないおじさんがお部屋にいた。ひらひらした服に蜘蛛みたいな仮面をつけて、まるで今絵本から飛び出してきたみたいで。そのおじさんは両手をゆっくりと広げ――それはまるで蜘蛛の糸が広がるように――わたしに近づいてきた。 「声をなくした可哀想なミノタウロス。僕は――君を救い上げる糸を垂らしにきたのさ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:BRN-D | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年01月02日(月)23:30 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●迷宮の鍵 「――以上が神秘について、そして私達アークについてです」 『枯れ木に花を咲かせましょう』花咲 冬芽(BNE000265)は知る限りの全てを鈴音の両親に伝えた。それは決して曲がらず信念を貫く彼女の素直な気持ち。その想いは一つ。娘を受け入れて欲しい、愛してあげて欲しいという想いだった。 「言ってる意味が俺にはよく……」 無言を貫く妻を横目に、金夫が遠慮がちに言う。神秘だ運命だと言われたところで到底信じられる話ではない。 冬芽は仲間達に小さくうなづき、集中するように目を閉じる。 ――ガタンッという音は金夫が椅子をひっくり返した音。彼の目には冬芽の背に生える確かな翼が――確かな神秘が映っていた。 「神秘を知る知らないはともかくよ、あるかないかで言えば確かにあるもんなんだ」 冬芽と同じく幻視を解き、機械化した自らの左腕を見せた『チェインドカラー』ユート・ノーマン(BNE000829)の言葉に、金夫は落ち着きなく目線を動かす。 「そんな、そんなの……じゃあ鈴音は――」 嗚呼その先は言わないで――冬芽が、ユートが、エリューション能力者ならば大小あれど誰もが経験してきたこと。 神秘を受け入れられない者にとって能力者は異質な存在でしかない……けれど十分に傷ついた五歳の少女が、親に受け入れられないなんて悲しすぎる。 「――私達の娘よ」 突然の声は母親令子のもの。ずっとうつむいたままだった彼女は強い視線を夫に向けた。 「ああでも……自分が苦しいことばかり気にして、あの子がそんなものを背負っているなんて考えたこともなかった。そんな私が母親だなんて――」 「今もアンタは娘さんを心配してるじゃないですか。アンタは立派な母親だ」 再び顔を伏せる令子にユートは言葉を重ねる。 「詳しい事情も知らないで五年間も頑張って来たンだ。アンタ達は尊敬に値する両親だと俺は思う……思います」 それは心からの言葉だ。ストリートで育ったユートは腐った親などいくらでも見てきた。だからこそ思う――アンタは立派な母親だと。 ユートのまっすぐな視線と言葉に令子は言葉を詰まらせ嗚咽を漏らす。この母親ならもう大丈夫。後は―― 「まもなく娘さんは命を落とします。ですが、あなたは本当はそれを望んでいるんじゃないですか?」 ――胸を抉られるような言葉に金夫は身を振るわせた。それでも『リップ・ヴァン・ウィンクル』天船 ルカ(BNE002998)は笑顔を浮かべ言葉を続ける。 「娘さんがずっと言葉を発していないと気づいていましたか? いやいいんですよ。自分に似ても似つかず神秘などというわけのわからない力を持つ、そんな気持ち悪い子を愛せる訳が無いのですから」 「違う! 俺は鈴音を――」 反射的に出た言葉。言葉は反芻され金夫の心に染み込んでいく。そうだ何を悩む必要があったんだ、鈴音は俺の娘だ――愛する我が子だ。 表情の変化を読み取りルカは笑顔を浮かべる。それは先ほどまでの作りものではなく、心からの満面の笑み。 「その言葉を聴きたかった――娘さんは必ず私達が救い出します」 「あちらはうまくいってるみたいね」 隣の部屋の様子に『吸血婦人』フランツィスカ・フォン・シャーラッハ(BNE000025)はくすりと笑う。 両親との会話を志願した三人はそれぞれが自然に役割を分担し見事効果を上げていた。 「そうだな……こちらも効果はあったようだ、顔色が良くなった」 ベッドに横たわる鈴音の身体に癒しの力を施していた『ナイトビジョン』秋月・瞳(BNE001876)が軽く息をつく。 「そうみたいだね……これで少しは余裕ができればいいけど」 「ものがアーティファクトだけに、命を繋ぎ続けるのは難しいだろうな」 鈴音への治癒を提案した『K2』小雪・綺沙羅(BNE003284)の言葉に、瞳の表情は厳しい。 「さっさと鈴音を確保しなきゃね……これを見るとちょっと嫌なんだけど」 綺沙羅の言葉に二人は苦笑して目線を下げた。床には先に迷宮へと向かった二人の男女が折り重なるように倒れている。その手にアーティファクト『ラビリンス・ラビリンス』を握りながら。 「仕方ないだろう、それより急ぐべきだ」 言って手を差し出す瞳。その手をフランツィスカが、綺沙羅が取っていく。 (鈴音はミノタウロスとは違う。異形であっても鈴音の両親は彼女を手放しはしなかったんだから……) 綺沙羅の逡巡は極一瞬。その肩を叩きフランツィスカは微笑む。 「これ以上鈴音ちゃんを衰弱させるわけにはいかないわ――愛されている事、伝えてあげなくちゃね」 ●迷宮に挑む日 (聞き分けのいい子ほど心に淀みを抱えているという話もよくあるが。子供なら子供らしく振る舞えばいいものを……) 「ねー鉅くん聞いてる?」 「ん……すまんな、なんだ?」 『燻る灰』御津代 鉅(BNE001657)の思考は少女の声で中断された。声の主はその華奢な腕を鉅に差し出す。 「手を繋いで行こ?」 『白詰草の花冠』月杜・とら(BNE002285)の屈託のない笑顔に鉅は言葉を詰まらせ、渋々その手を取る。 (……子供すぎるのもいかがなものか) 何事もバランスが大事だ。そんなことを考えながら二人は迷宮を歩く。 アーティファクトの迷宮故か、明りはなくとも不思議と道ははっきり見えた。分かれ道にチェックをつけ、鉅はノートに道を書き込んでいく。 「あ――鬼がいるよ、奥に向かってるみたい」 分かれ道の付近で壁を透視したとらがそっと告げる。 ――遊んでいる暇はない、やり過ごすか―― 「ねぇ、とら考えたんだけどさぁ」 鉅の思考を再びさえぎりとらは続ける。 「鬼が鈴音ちゃんを追ってるなら、鈴音ちゃんの居場所を知ってるかも?」 「……良案かもしれんな」 鬼を作ったのは鈴音自身だ。無意識下で自身を追い詰めるために生み出された存在なら、奥底で繋がっていてもおかしくはない。 どの道探知の術もない、悩んで止まるよりマシだ―― 「――つけていこう」 「らじゃー!」 静かにな――苦笑して鉅は先を歩き出した。 わずかな物音も肌で、その全身で感じ取るようにフランツィスカは集中する。わずかな時間の後、彼女は目を開いて壁を指で示した。 「壁向こう……複数の動く音がしてるわね」 「……キサは何も感じない。たぶんそれが鬼だろうね」 綺沙羅は示された方向に存在する感情を読み取ろうとし、それが出来なかったことで鬼に思考がないことを推理する。 「遠くから鬼かどうかわかるのは都合がいい……探索は右手法で構わないか?」 仲間がうなづき、瞳が歩き出す。サイレントメモリーを試したが迷宮が何も答えなかった以上は足で結果を求めるしかない。 綺沙羅が感じ取れる場所には他の仲間もいなかった。恐らく自分達とは違うどこかに飛ばされたのだろう、位置の把握が出来ないのは辛い。 (期待はしてなかったけど……) 反応を示さない方位磁石をしまい、何も見逃すまいと自身の直観を活用する。 ここからはわずかな情報でも見逃すわけにはいかないのだ。 「あうー透視できなくなっちゃった」 腹立たしげに壁を叩くとらの横で鉅は集中し、嘆息する。どうやらこの辺りは能力を無効化しているらしい。 「鬼を見失っちゃったねぇ」 「いや、そうでもない」 言って床を調べ始める。重量のあるものが通れば痕跡が残る。それはわずかばかりだろうが―― 「……こっちだな」 直観に確証を得て鉅は言う。顔に疑問をいっぱい浮かべるとら。 「無効化されてるのにわかるの?」 「経験は消えるものじゃないだろう。普段感じてる要領で調べればある程度はな」 感心するとらの声を背に浴びながら、遅れを取り戻すべく足を早めた。 ●迷宮を越える日 とらの腕を強く引き、鉅は己の勘を信じ身を隠す。 すぐに先ほどまでつけていた鬼達が急に身を翻し戻ってきた。幸い気づかれずやり過ごすことが出来たが。 「どうしたのかな?」 とらの問いに鉅は考えを巡らせる。鈴音の位置が急に動いたわけではないだろう、となると―― 「誰かが鬼に見つかったのかもな」 鬼の慌てようを思えば……鈴音は近い。ここからは自分達の力で彼女を見つけるのだ。 「大丈夫ですか?」 問いと同時に癒しの力を紡ぐルカをユートが手で制した。 「対して効いてねぇ――驚きはしたけどよ!」 彼らの班は運が悪かった。迷宮に飛び込んだ先には四体の鬼が待ち受けていたのだから。その姿は子供が思い描いたそのままのような鬼。 急で陣形も何もなく襲われたが、鬼の動きは鈍重で冬芽はその攻撃を危なげなく避けていく。 「数は多いけど……強くはないみたいだね」 「ならばこちらで」 ルカの紡ぐ魔力の矢が胸を貫き、鬼はあっさりと消滅した。 「なんだ、本気でザコじゃねーか。これなら楽に――」 ユートの言葉は、部屋に飛び込んできた新手の前に途切れる。その数は八体。 「――させてはくれないみたいですね」 嘆息し、再びルカは魔力を紡ぎだした。 戦いの中、冬芽は大事に荷物を抱える。そこには大切な物があるのだ。届けなくてはならない大切な――大切な、想いが。 それはきっと、鈴音に今何よりも必要な言葉―― 「む、他の班の探索開始地点か」 瞳が見つけた床の大きなバッテンと文字に、綺沙羅はすぐにAFで連絡を入れる。 「そう……そっちが近いの? わかった追いかけるよ」 AFを切り、壁の矢印を辿っていく。仲間の位置が把握できたのは大きな進歩だ。 「待って」 しばらく歩いた後、フランツィスカは足を止め耳を澄ませる。 「……あの壁の向こう、綺沙羅確認してくれる?」 うなづき壁向こうの感情を読み取り――綺沙羅は声を上げた。 「鈴音だ――」 「わかった、途中そちら側に行く道はなかったから恐らく俺達の向かってる側から行ける」 AFを切った鉅はとらを促す。 「この先だねっ」 二人は迷宮を駆け抜ける。鈴音はもう目の前だ。 曲がり角の先――勘に頼るまでもない、そこには鬼などではない確かな気配。 「鈴音ちゃんみーつけたっ!」 とらの声に幼い少女――鈴音は身を振るわせる。 「おねえちゃん達はパパとママに言われてお迎えに来たんだよ。一緒にかえろ?」 とらの言葉に見せた鈴音の表情。不安、恐怖、そして……失望。 鈴音は二人の横を駆け抜けて逃げようとする。 「待って!」 その腕を掴もうと伸ばされた手は歪な爪で払われた。少女の周りに突如現れた鬼達、その数は十。 「護衛か……全く」 「鈴音ちゃん!」 振り返らず駆けていく鈴音。鉅は嘆息を漏らす。 「鈴音は結局両親を待っているのだろう」 他人が迎えに来たことへの失望。それはパパとママに会いたいからに他ならない。 「後は任せても大丈夫そうだが――さっさと片付けて追うとするか」 (一人で自責なんぞ10年早い) 思い、身を低くし苦無を構える……実力差など、見ればわかるのだ。 ●迷宮の壊れた日 ――ママ、パパ、やっぱり来てくれない。 鈴音が悪い子だから。鈴音が怪物だから。だから愛されない、愛されちゃいけない。 だから罰を受けなくちゃいけないんだ。ここで、一人で、ずっと一人で―― 「金髪碧眼でバケモノか、随分と可愛らしい悩みだ」 苦笑を交えた言葉にびくりと反応する。 「親の気持ちは子に伝わらないものよね」 瞳の苦笑にフランツィスカはどこか楽しげに――鈴音を見据える。 慌てて逃げようとする鈴音に、綺沙羅が立ちはだかった。 「悪い子って誰の言葉?」 ――鈴音の言葉は声にならない。 「両親の気持ち、確かめた事もないんでしょ」 ――でも、だって――声にならなくてもわかる、後ろ向きな言葉。 「貴方は愛されているのよ」 フランツィスカが鈴音の肩をそっと掴み、促す。 その視線の先には、大事そうにICレコーダーを持った冬芽の姿。 「あなたは悪い子なんかじゃないわ」 それはママの声。いつも泣いていたママの声。けれどその響きはとても優しく。 「悪いのは俺達だ。鈴音を一人にした……親なのに、大切な娘なのに。」 鈴音の頭を撫でながら、けれど鈴音を見なかったパパ。今はいなくても暖かなまなざしを感じる。 「鈴音。これだけは言わせて」 ママが、パパが言葉を合わせる。 「寂しい想いをさせてごめんね。生まれてきてくれてありがとう。私達はあなたを……愛してる」 音の途切れたレコーダーを鈴音は見つめ続ける。 「良い悪いじゃねェ。なっちまったもんは仕方ねェんだ」 「確かめたいなら、ここを出て自分の口で聴けばいい」 ユートの、綺沙羅の言葉が迷宮に響く。誰もが気づいていた。迷宮は音をたててひび割れていく。 「感じないかい? 今も君の手を握りながら祈る両親の温もりを」 ルカの言葉を最後に、鈴音の姿が薄れていく。 ミノタウロスは目を覚ます。まず光のまぶしさが。 ついで両手を抱く温もり。それは全身に広がって。 そしてミノタウロスは知るのだ。自分に向けられた確かな愛を。 音をなくしたミノタウロスは嗚咽と共に涙を流す。両親の呼びかけに、少女は大声で泣き出した。 ――それは、ミノタウロスの迷宮が壊れた証だった―― 「鈴音ちゃん、良かったね……」 「良かったはいいとして――どいてくれないか?」 涙ぐむ冬芽の下、折り重なるリベリスタの中ほどで瞳が声をあげる。 慌ててどいていくリベリスタ達の一番下で、とらはぺっちゃりと潰れてた。 家族と向かい合いリベリスタ達は鈴音の今後の相談をしている。 綺沙羅だけは――涙の再会なんて見たくない――と先に帰っていったが。 その表情を思い出し微笑を浮かべていたフランツィスカは、表情をふと引き締める。 その手にはアーティファクトが入っていた巾着袋。 (全く悪趣味ね) 「あーとらにも見せてぇ」 袋を見たとらは、ピンと袋の刺繍を指ではじく。 黄緑色の袋には、リアルな蜘蛛の刺繍が施されていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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