●狂哂 「ヒャハハハハハ!」 血煙の中で男が笑う。 臓腑の内に沸き立つ歓喜を本能のままに、ただただ哂う。 ぱんっ、と何かが破裂する。 それは人だった。人の形をしていた。 内側から弾け飛ぶ様に、血を肉を骨を弾けて周囲にばら撒く。 ありえない光景。 その光景の中で、男が哂う。 自分の意のままになる奴隷、自分の為に尽くす人形。 気に入らない者を殺し、或いは奴隷に変える事の出来る力。 これがあれば何でも出来る。 これがあれば俺は最強だ。 ならば。 これの力で俺はやりたい事をやる。 全ては俺の物だ!! ●アーク本部 「フィクサードがアーティファクトを手に入れた」 リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が事務的にリベリスタ達に向けて口を開いた。 モニターに映るのは、下卑た笑みを浮かべてサラリーマンと思しきスーツの人物の胸倉を掴み上げる男。 「フィクサードの名前は音無弘樹。31歳の男でヤクザの構成員。つい最近革醒したと思われる」 モニターが切り替わり、今度は複雑な紋様が掘り込まれた長い針の画像が映る。 「アーティファクトは通称ファクトリー。一日に一人、頭部に突き刺した人間を所持者に絶対の忠誠を尽くすスタッフと言う名の奴隷に変える物。十分危険だけど、これにはもう一つ特性がある」 奴隷、と言う言葉にイヴが少々苦い物を滲ませて呟く。 「スタッフに変えた人物に爆弾としての特性を与える。それがファクトリーの能力。身体能力は一般人だけど、特攻自爆をしてくる可能性がある。でも、それもファクトリーが破壊されれば元に戻る」 人を使い捨ての武器に変える。それは確かに危険でそして尊厳と言う物を踏みにじる物である。 それが己の欲望に忠実なフィクサードの手にある。 由々しき事態だった。 「戦場になるのは音無弘樹の持つ個人事務所。時間は午後10時。それまでなら奴隷に変えられた人を無効化する時間がある」 つまり、それは…… 「依頼はフィクサードの撃破とアーティファクトの破壊。そしてスタッフと化した人間の救出。お願いするね」 その言葉にリベリスタ達は頷く他無かった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:久保石心斎 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年05月05日(木)22:00 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●外道蠢く 準備はあと少しで整う。 何時まで経っても下っ端扱いしやがる組のクソジジイ共。 俺を売ろうとした若頭の連中。 そいつ等をぶち殺し、さも無きゃ“こいつ”で奴隷にして復讐する。 手持ちの“爆弾”は4発。念のため、10発程度にしときてぇ。 1日に1回しか使えないのがもどかしいが、それでも何でも言う事を聞く奴隷を作れるのは有り難い。 自意識を持った人間なんざ信用できねぇ。 だったら―― だったら、人形にしちまえば良い。 邪魔になったら爆発させちまえば良い、これはそう言うもんだ。 まったく、良い玩具を拾ったもんだぜ。 ヒャハッ! ヒャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!! ●監視 朝10時。 提示された主戦場である雑居ビルの向かい。そこにあるハンバーガーショップの二階席は音無の事務所が見える場所にあった。 監視班となった4人のリベリスタが窓際の席につくと存外簡単に監視は行えた。 流石に会話までは聞き取れないが、フィクサードである音無があれこれと指図している姿は窓越しから確認できる程度には視界は良い。 「……厄介だね」 『終極粉砕/レイジングギア』富永・喜平(BNE000939)がハンバーガーの包み紙を畳みながらぽつりと呟いた。 良く見れば、スタッフ――破界器ファクトリーによって奴隷に変えられた者達――はある程度自意識を持って動いている。 そうでなくてはパソコンに向かい複雑な書類を書き上げる事は出来ずない。 さらには、その書類を書いているスタッフは凝った肩を軽く揉み首を回すと言う人間臭い動きまでしてみせた。 てっきり自意識が無いとばかり思っていたが、破界器と言う物は想定の斜め上を行くものだ。 加えて、スタッフでは無い一般人も何人か見受けられた。 「それでも一般人でしょう? 制圧は簡単よ」 気だるげにアイスコーヒーの紙コップに突き立ったストローから唇を離しつつ『エーデルワイス』 エルフリーデ・ヴォルフ(BNE002334)が答えた。 アークからの情報ではリベリスタとまともに戦える様になる、と言う物は無かった。 リベリスタの能力を持ってすれば、一般人の制圧等容易い事は間違いではないのだ。 「あ、外出する様ですね」 「じゃあ、外の人たちに連絡しておくわ」 源 カイ(ID:BNE000446)が安っぽいハンバーガーを片手に音無の外出を見つけ、来栖・小夜香(BNE000038)が飲んでいたジュースの紙コップを置いて外の待機班に向けて情報を流す。 淀みない連携で連絡を取ると、4人再び監視に戻るのだった。 余談だが、奇妙な4人組を見ても店員はさして驚かなかった。この店の店員は良く訓練されているのである。 ●内部制圧 主戦場である事務所は5階建て雑居ビルの3階に位置している。 1階はパチンコ屋で2階はカラオケ店。4階から5階は倉庫とは名ばかりのガラクタ置き場となっている。 防音設備はキッチリと整備されており、多少所か1フロア上で銃撃戦があったとしても気づかない。その上人の出入りは激しい為内部に侵入するのは実に容易い事である。 制圧班の4人はカラオケ店の客を装い、入り口付近で音無がビルから出て行くのを確認した。 「2人ですね」 何処か虚ろな瞳で『残念な』山田・珍粘(BNE002078)こと自称:那由他・エカテリーナが呟いた。 音無の後ろには2人程ファクトリーがついて居た。見るからにヤクザと解るスキンヘッドの男と頭を派手に染め上げたチンピラ風の男。 アークが提供した写真に間違いは無かった。 「アイヤー、てことは残り3人て事アルねぇ♪」 『肉恋い蝙蝠』李・灰蝠(BNE001880)が何故かうきうきとした調子の声で那由他に答えた。 情報では5人程が既にスタッフになっていると言う。そこからの逆算である。 「いや、ファクトリーで新しいスタッフを作ってくるかもしれない。1日に1度しか使えない事を鑑みれば事務所の中には2人ほどスタッフが残ってるんじゃないかな?」 『コンダクター』七星 卯月(BNE002313) が自分の推論を長ったらしく披露する。 その間に『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439) が事務所の扉を確認し、鍵が掛かってる事を確認すると手持ちの十得ナイフで開錠を試みた。 カチャン、と言う音が小さく響くと少しだけ扉を開けて内部を確認する。 「七星さんの言った通りだぜ。スタッフが2人に一般人が3人」 新田の言葉に、全員が身構える。呼吸を合わせ何時でも扉を開くと同時に飛び出せる準備をする。 ――果たして、さしたる手間も無く事務所内部は制圧された。 ●外道死すべし 監視を始めてから12時間の間に内部に残ったスタッフをアークの準備したライトバンに押し込み、一般人を4階倉庫に監禁した。 一般人には少々酷な仕打ちであるが、翌日まで目覚めない様に気絶させておいたし何より戦闘に巻き込まれて要らない怪我を負わせる事も無い。 その後李の提案によりバリケードを事務所置くに築けば、あっと言う間に時間は流れた。 ――そして、運命の時間が訪れる―― 随分と事務所に戻ってきた音無の後ろには、新たにスタッフとなった20代くらいの地味な印象の女性とスキンヘッド、チンピラが控えていた。 意気揚々と戻ってきた音無を待ち構えていたのは……随分と様変わりした無人の事務所とそこを制圧したリベリスタだった。 「て、テメェ等!?」 「にいはお弘樹ちゃん!ふふ、ヤクザが押し入りに入られるなんてびっくりアルよねぇ♪」 李の言葉に懐からオートマチックの拳銃を抜き、構える。 それと同時に、外で待機していた監視班の4人が突入してくる。 その場で誰よりも早く動いたのは山田……もとい那由他だった。 ソードミラージュの持ち味である素早い動きで突入から実に滑らかな動きで音無に向けてナイフを叩きつける。 「俺を守れェ!!」 少々上ずって擦れた咄嗟の一言が音無の口から吐き出される。 その言葉でスタッフ――20代くらいの女性だ――が音無の前に躍り出る。 那由他のナイフはスタッフの頚動脈に吸い込まれる様に一瞬だけ血の流れを止める。 がくりと膝をつき、そのままうつ伏せで倒れた。 音無が自分を庇わせると予測して、予めナイフの峰で叩くよう細工していたのだ。 作戦勝ちと言えるだろう。何せスタッフさえ居なければ相手は一人だ。 「ハントは鮮やかに、かつ正確に」 「回れ、魔力の円環」 エルフリーデと来栖が己の力を高めるスキルを発動させる。 「そのまま包囲するんだ! 絶対に逃がすな!」 七星が指揮を執りながらも、同時に集中を深めていく。その言葉に音無が反応した。 「てめぇが頭かァ!?」 引き金に指が掛かる。銃の扱いは差ほど熟練して居ないのだろう、一拍遅い。そこに随分と人を小馬鹿にした声色で李がバリケードから頭を出して拡声器ごしに叫ぶ。 「そーんなつまんねぇ針に頼ってないで♪ お友達欲しいなら、おっちゃんが遊んであげるアルよぅ♪」 その瞬間、音無の銃がバリケードに向けられそのまま引き金が引かれた。 改造品なのか、一目で安物と判る銃から9mmの鉛が無数に吐き出される。フルオートと言う連射の為の機構で普通は軍用のはずだ。 そこから吐き出される無数の銃弾がバリケードに弾痕を穿つ。 しかし、そこに身を隠したリベリスタ達までは届かない。 その隙を見逃さず、富永が壁を天井を蹴って音無の頭上を取った。 「よっ、と」 銃声。 富永の武器はショットガンだ。頭上から降り注ぐ散弾が巧みにスタッフを避けて音無だけを狙う。 だが、それでも咄嗟に腕で頭を庇い、身体を捻って致命傷は避ける。 続けて源が動く。 富永の攻撃の影で音無の背後を取ると、気で作られた糸を伸ばし音無を締め上げる。 「ッがぁぁぁぁ!?」 それを力任せに引き千切る。が…… 「皆家族や友人がいて、毎日の幸せがあって、夢があるんだ。それを爆弾とか、ふざけるなよ……!」 体勢を立て直す暇無く突っ込んできた新田のシールドで強かに顔面を張り倒される。 盛大に鼻血をぶち撒けながら数歩踏鞴を踏んだ音無が、ポケットから複雑な紋様が掘り込まれた針を取り出す。 「奴隷共!弾け飛んで奴を道連れにッ……!?」 スタッフを爆破しようとした瞬間、七星が放った気糸がファクトリーを貫いた。 まさに針に糸を通す様な一撃。さらにリベリスタの手は止まらない。 ほぼ同時にエルフリーデのライフルの特性を生かした精密な一撃が音無の左腕を吹き飛ばし、富永のショットガンが腹部を蜂の巣にする。 「が、ァ!チクショ……ウがァ!!」 ぶるぶると震える手で銃を持ち上げ、重態であろう音無が一番手近な新田に向けて連射する。しかし、新田はそれに怯む事無く前進しシールドを振り上げる。 もう一度容赦の無い一撃で音無を張り飛ばし、サイドステップで射線を開く。 源から伸びた気糸が今度こそと音無を縛り上げる。その一撃で音無のなけなしの運動中枢が完全に麻痺した。 「撃ち抜け!」 「おっちゃんも行くアルよぅ♪」 来栖と李の二条の魔力の矢が蜂の巣になった腹部に突き刺さる。そして…… 「さようなら」 最後に那由他のナイフが心臓に潜り込み、外道の生命は此処に絶たれた。 ●夕闇の先に 音無の生命が消えると同時に、砕けたファクトリーもまるで幻の様に消え失せた。 「此れにて悪徳工場は閉鎖。めでたしめでたし。」 富永の言葉で戦闘の緊張が霧散した。 傷らしい傷を受けたのは新田くらいな物だが、それは作戦勝ちだろう。 こうして、外道な破界器とそれを扱う外道の運命は潰えた。 リベリスタ達は一般人と元スタッフを解放し、そのまま報告の為にアーク本部に戻るのであった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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