都内某所。 とある老人がこのを去った。万堂孝三(ばんどう・こうぞう)というその老人は、長らく教育に関わってきた。多くの生徒を育て、その生徒達は様々な分野で活躍してきた。彼の葬式は身内のみでひっそりと行われたが、それでも多くの生徒がやってきたという。 だが、そのお通夜の晩、異変は起こった。 「た、大変だ! 先生のご遺体が!?」 孝三の遺体は忽然と消え失せ、その後どれだけ捜しても見つかることは無かったという……。 ●回答者達 すっかり冷え込んだ12月。リベリスタ達はアークの本部に呼び出しを受ける。いつものようにブリーフィングルームに向かうと、『運命オペレーター』天原・和泉(nBNE000024)が迎えてくれる。彼女は全員が集まるのを見計らうと、温かいコーヒーを出しながら説明を始めた。 「皆さん、お集まりいただきありがとうございます。今回、お願いしたいのはエリューション・アンデッドの討伐です。まだ被害こそ出ていないものの、今後大きな被害が見込まれます。お気をつけ下さい」 スクリーンに老人の姿が映し出される。老人、と言ったがリベリスタ達は目を疑ってしまう。映し出されたのは如何にも精気に満ち溢れ、老人とは思えない立派な肩をした、矍鑠とした雰囲気の男だったからだ。もちろん、顔を見れば確かに老人なわけだが。 「此方の方がエリューション・アンデッドとなってしまった、万堂・孝三氏。お年は80を越えていらっしゃるそうです。若い頃は教師をやっていて、厳しくも優しい、多くの生徒に慕われた教師だったとか。そして、見ての通り、大変元気な方だったようです」 和泉の言葉に思わず頷いてしまうリベリスタ達。写真の自信に満ちた笑顔からは、それだけのカリスマを感じる。噂では彼の生徒の中には、政財界の大物として知られるものもおり、アーク職員の中にも関係者がいるとかいないとか。 そして、とそこまで話してから和泉は悲しそうに目を伏せる。そうした好人物を、「倒すべき敵」として説明しないといけないからだ。 「万堂・孝三氏は現在フェイズ2、戦士級のエリューション・アンデッドです。武器は持たない徒手空拳ですが、非常に高い戦闘力を持っています」 近接単体の相手をパンチで殴るという、のが基本の技だが大変に高い威力を持つという。また、その拳圧により遠距離の相手を攻撃したり、地面を殴りつけた衝撃破で近接する相手全てに攻撃が出来るそうだ。もちろん、こちらの方が威力は下がる。 話を聞く限り、生前リベリスタやフィクサードになれなかったのが悔やまれる逸材である。 「現在、万堂・孝三氏は山中の森の中にあるうち捨てられた社に潜んでいます。現在はまだ落ち着いていますが、しばらくすると暴走を起こして、街中で暴れまわる姿が予見されています。どうか、その前に彼を止めて下さい」 明かりは十分とは言えないが、足場は悪くない。戦う場所としては悪くないだろう。 「それと、1つ気にかかる点なのですが……エリューション化した氏の知性はそれ程高くないと推測されています。しかし、いつも呟いている言葉があるそうです」 その言葉とは、「生きるとは何か」だ。特に意味は無いのかも知れない。 「ですが、アークの戦いが始まって、短くない時間が流れています。その戦いの中で、こうした問いに対して皆さんも思うところがあったはずです」 それを伝えてあげることは出来ないか、と和泉は言う。意味は無いのかも知れない。あるいは、ただの自己満足、偽善でしかないのかも知れない。ただ、それに何か意味があるはずだと和泉の、フォーチュナとしての勘が囁くのだ。 「説明は以上です。皆さん、気をつけて行ってきてください」 和泉は笑顔でリベリスタ達を送り出した。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:KSK | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年01月05日(木)22:33 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●1年前、社にて 「おや、先生。先に始めていらっしゃいましたか」 とある月の夜の社。恩師と会う約束をしていた男は、先に来ていた恩師に挨拶をする。男は既に60を超えており、神社の階段を登るのには苦労した。恩師の方が年上ではあるが、未だに現役といった風情で、その若々しさに老人は面食らってしまう。 「かつての総理大臣殿が来る前に始めてしまうのは悪いと思ったが、何分、下でも誘いを受けてしまってな。すまんかった。ま、ほらほら。君も一杯」 「そういうことですか。それでは、いただきましょう」 この田舎町にある神社では祭りが行われていた。麓では出店が立ち並び、人々が楽しげに過ごしている。恩師は人と関わるのが好きな人間だ。そこで、酒を振舞われたら、断ることも出来まい。もっとも、今の所、周囲に人はいない。神社の本殿は山の麓の方にあり、わざわざ寂れた社まで上がってくるものなどいない。息子は護衛ぐらいつけろと口うるさく言ってきたが、今日ばかりは2人きりで飲みたかった。 今後、激化していくであろう戦いのことを考えると、このような時間は二度と取れないのかも知れないのだから……。 ●そして、現在の社にて 冬の月が照らす社の下で、リベリスタ達はエリューションと化した、1人の老人と相対していた。張り詰めた空気の中、風に紛れて、老人の口からは問いかけの声が聞こえてくる。「生きるとは何か」と。 「何がこの老人を惑わせたのか、聞けば大変立派な方だと言うのに……」 『超守る空飛ぶ不沈艦』姫宮・心(BNE002595)の秘めていた疑問が口をついて出てしまう。フォーチュナから聞く限り、目の前の老人は数多くの人々を導いてきたはずだ。だが、それがいまや悩みの言葉と共に、災厄をもたらす存在と化してしまっている。理不尽と言わざるを得まい。 「昨今の世の乱れを憂いたが故に、魂はそのまま眠る事を許さなかったのであろうな。だが、それを探るなど、いまや意味は無い」 言葉と共に『百獣百魔の王』降魔・刃紅郎(BNE002093)は、獅子王「煌」を抜き放つ。その瞳に迷いは一切無い。あるのは目の前の男と戦う覚悟と、自身への絶対の自信のみだ。 そして、周囲を取り囲むリベリスタが武装を整えていくのを感じたのか、孝三は拳を握り締める。 負けじと、『錆びない心《ステンレス》』鈴懸・躑躅子(BNE000133)は、機械化した巨大な腕を振り上げ、防御のオーラを纏う。 「それではお手合わせお願いします。行きますよ」 「おう、合わせて行くぜ!」 躑躅子の言葉が合図となって戦いは始まった。 「お前ら! 遠慮は要らねえ、あたいが全力で助けるから、全身全霊で戦って来いや!」 『Steam dynamo Ⅸ』シルキィ・スチーマー(BNE001706)が威勢良く声を上げる中、一番手で切り込んだのは、『仁狼』武蔵・吾郎(BNE002461)だ。その巨躯に似合わぬ、だが、革醒がもたらした狼の姿にはとても似つかわしい、機敏な動きで迫ると孝三に澱みない連続攻撃を仕掛ける。 「生きるとは何か、か。死んでいない様に生きるだけなら誰にでも出来るよな」 高速の剣を振りながら、吾郎は孝三に語りかける。 「ただ、自分の意志で生きるってのは……おっと」 言葉に返すように孝三は吾郎に拳を放つ。吾郎はさっと飛びのく。頬をかすめただけだが、獣毛が舞い散る。それを見て刃紅郎はほうと息をつく。 「拳骨一本に信頼を置くか……。だが、我もこの一刀にこの身を預け生きてきた。故に使わせてもらう。卑怯とは言うまいな?」 その言葉と共に悠然と獅子王「煌」を閃かせる。すると、そこから巻き起こった真空の刃が孝三の身を切り裂く。老人はそれも見切っていたと言わんばかりに拳で弾き飛ばした。それが答えなのだろう。 「大丈夫ですか? 危なくなったら、いつでも言って下さい」 後ろで回復役として控えている羽柴・美鳥(BNE003191)が声を出す。 だが、リベリスタ達の攻撃はその程度では止まらない。止まるわけには行かない。 「ここからは俺のターン!」 叫び声と共に『突撃だぜ子ちゃん』ラヴィアン・リファール(BNE002787)は、体内の魔力を増幅させる。その小さな身体の中に、魔力が凝縮されていく。いや、魔力だけでは無い。彼女が込めているのは、自身の魂だ。 「先生、アンタは今、理想へ向かって進めているか?」 問いかけの言葉が魔光に乗せられる。これは攻撃では無い。目の前にいるエリューションとなった老人に与えるべきは攻撃ではなく、答えだから。 「見せてやるよ、先生。俺の命を! 生き方を!」 戦場に光が舞い踊る。 その光と共に、『騎士の末裔』ユーディス・エーレンフェルト(BNE003247)は、凛とした雰囲気を崩さず歩み寄る。 「この方も、亡くなられる前から…考えてらしたのでしょうか。その問いの、答えを」 孝三の口から漏れるのはひたすらに、問いかけの言葉。 「それは難しい命題です。生きてきた者も、これから生きる者にとっても。孝三さんの四分の一程度しか生きていない身には、まだ確とした答えをお返しは出来ませんが……それでも!」 問いかけの言葉に対しての想いを胸に、ユーディスは槍を突き出す。まだ、十分では無いのかも知れない。それでも、何か響くものがあるのなら、と孝三の前に立ち塞がる。 その時だった。孝三が腕を高く振り上げた。今までの直接殴ろうとする動きでは無い。 「来ます!」 心が声を上げる。 それと同時に、孝三の拳骨は『地面に』振り下ろされた。そこから凄まじい拳風が吹き荒れる。その一撃は大きく砂埃を舞い上げる。接近戦を挑んでいたメンバーにとって、その攻撃は決して貧弱なものではなかった。だが、砂埃が晴れた時、怖気づいているものは1人たりとていない。 「ご老公! 貴方の迷いに答えにきましたのデス!!」 晴れた砂煙の中から、心が姿を見せる。攻撃を一切行わない。ただ、ひたすらに攻撃を阻むつもりの彼女には、傷1つ付いていない。 「逆に問うことをお許しください。それを決めるのは誰でしょうか? 神様でしょうか? 私はそうは思いませんのデス」 心は子供っぽい顔に精一杯の真剣な想いを浮かべる。 「決めるのは自分デス!」 力強い宣言。その言葉を前に、一瞬、孝三の動きが止まる。そこに畳み掛けるかのように、シルキィが陽気に声を上げる。 「生きるとは何かか。そうだな、あたいも心の底で悩んでたぜ。あたいね。ほんの最近まで、記憶の大部分を失くしてたんだ。でも!」 美鳥の前で庇うように立ちながら、孝三への、そして生きることへの思いの丈をぶつける。 「でも、答えの一つは見つかった。だから伝えに来たぜ。この拳でよ!」 意気揚々と、そして何よりも楽しげに語るシルキィ。まるで、幼い子供が教師に対して見つけた何かを伝える姿のようだ、それも自慢げに。 そんなシルキィとは裏腹に美鳥はどこか自信無さげだ。純粋に自分の数倍生きている相手だ。悩んだりもしただろう。答えを見出しもしただろう。それでもなお、死後に繰り返す問い掛け。 (わたしもこれから生きていく中でそういう疑問にぶつかったりするのでしょうか) 美鳥も自分に問い掛ける。だが、そこでかぶりを振って問い掛けを打ち消す。悩みが消えるはずも無い。だが、そこで足踏みしてはどこにも進むことは出来ないから。 「付け焼刃ですが……わたしはわたしに出来る事をするだけです」 迷いを打ち消し、紡がれる詠唱の言葉。その詠唱が呼び出した福音は見る見るうちに仲間の怪我を癒していく。それに対しても、ひたすらに拳を打ち込む孝三。その姿を見て、躑躅子はポツリと呟く。 「やはり、孝三さんが求めているのは単純な生物学的、科学的な言葉の定義ではないのでしょうね」 生きる。 そのたった3文字の言葉に対して、古来より多くの人間が問いを発してきた。躑躅子の言う通り、科学的に言うなら生命活動を営んでいることを指すのだろう。だが、それだけのものであるならば、誰も迷いはしない。言葉は永遠に堂々巡りを続けるだけだ。 誰しも生まれ、そして死ぬ。どんな聖者であろうと、悪人であろうと、そして普通の人も。 死んだら全ては無に帰してしまうのか? それでは、生きることに意味など無いのではないか? だから、問うのだ。だから、探すのだ。 生きるとは何なのかを。そして、生きる根源たる、命とは何なのかを。 「答えよ」 そして、幾たびか攻防が繰り返された時。孝三はいつもの問い掛けを口にする。だが、今までとは口調が違う。戦いの中で傷つき、その中でも堂々と立ち上がり、リベリスタの前に立ち塞がる孝三。その口調はとても穏やかで、そして、重みを伴っていた。 「生きるとは、何だ」 ●生きるとは…… 「その問いに我は、己の証を立て、理念を伝えてゆく事である、と答えよう」 王はまっすぐに老人の目を見据えて言い放った。普段は傲岸不遜な王。しかし、今、その瞳には対等以上のものに対する敬意が見て取れる。 「我が剣はこれまでに討ってきた者たちの、全ての思いと業を背負っている。たとえ我が志半ばにて倒れても、この意思を継ぐ者達は我の後に続いておると、そう確信している」 剣を掲げるように大上段の構えを取る刃紅郎。常に進軍を緩めず戦う王者の構え。善きも悪しきも、彼は切り伏せてきた。それを行ってでも築き上げたい王城楽土があるから。そこで進むことを、生きることを止めたのなら、切ってきたもの達が生きていたことすら否定してしまうから。 自信に満ちた刃紅郎と違い、美鳥の表情にはまだ悩みが浮かんでいる。生きるということを悩んだ老人に対する気後れもあるのだろう。 「生きると言う事の意味はわたしにはまだ分かりません……でも」 そこで一度、言葉を切る。この答えで満足してくれるかは分からない。それでも、精一杯を尽くすと決めた彼女は、決意を胸に伝える。その言葉が、老人に安息をもたらすと信じて。 「ですが……あなたが生きていた意味なら、あなたの知り合いや教え子達の記憶の中にきっとある筈です」 「氏の教えは、教え導いた多くの教え子達に確かに受け継がれています」 その言葉をユーディスが引き継ぐ。彼女もこれが答えと、確信を持っているわけではないだろう。だが、その問いを背負っていくと既に決めている。 「受け継いだものを自らとし、やがて次へ繋げる。生きるとは、そうした事なのではないでしょうか?」 ユーディスの胸にちくりと痛みが走る。頭をよぎるのは、護るために命を失った両親の面影。今の自分自身は確かに、その誇り高い両親から受け継いだものだ。 「貴方は見事に生き抜かれた事と思います。どうか、還って差し上げてください、貴方を受け継いだ、彼らの元へ……」 声と共に放たれた突きは、孝三の動きを鈍らす。放ったスキルは動きを鈍らすためのものだが、それ以上に動きが鈍ったようにも見える。そんな状態から老人が放った拳は、躑躅子の機械の腕に止められる。 「生きるとは、他の人に影響を与えるということです」 機械の腕が唸りを上げる。老人の拳はやはり強大な威力を秘めており、そうでもしないと止められないからだ。だが、そこまでしても、躑躅子はしっかりと想いを伝えたかった。 「例え肉体が滅んでも、その行動が記録や記憶を通して他者に影響を与える限り、その人は生きているのです」 躑躅子は共に戦い、そして散っていった仲間のことを思い返す。ほんの短い期間だが、決して少なくない命が戦いの中に消えている。だが、彼らが死んだとは思っていない。少なくとも自分は彼らのことを忘れていないから。 「孝三さんも、多くの人に影響を与えているのならば、それは生きていると言っていいのです。誇りにしていいのです!」 そこで、さすがに押さえつけるのにも限界が来て、腕を放してしまう。想いは伝わったのだろうか? それは分からない。そこで躑躅子は孝三の動きが明らかに鈍っていることに気が付く。未練が解消され、エリューションとしての力が弱まったのだろうか? そうした例が無い訳では無い。だが、そんな相手に激励の声を飛ばす者達がいた。 「その程度かよ、爺さん! 生きるってのは、抗うって事だろう!」 咆哮をぶつける吾郎。どんな形であれ、自分で命を手放すなどあってはいけない。 「生きるって結構面倒だ。楽しい事よりも辛い事苦しい事の方が多いからな。それでも、そんな辛い事苦しい事に抗い、時に楽しい嬉しい事を糧にしながら生きていく……」 それが生きるってことだ! 叫びと共に幾たびも切り付ける。 老人の現状に同情の念が湧かないでもない。だから、足掻くのだ。だから、抗うのだ。全力を尽くして尽くして、尽くし抜いて! 「先生、アンタは今、理想へ向かって進めているか?」 ラヴィアンの魔曲に乗せられた5つ目の曲。それは生きることへの強い想い。 ラヴィアンは生きるとは進むことだと考えている。それはどんな時であっても、前に進もうとすること。そして、進むことが出来ない人がいれば一緒に背負って進むということ。だから、目の前の進むことが出来ない老人も背負いたい。 「俺は先生を倒して……世界を守る!」 言葉の上でだけなら矛盾した言葉。だが、『世界を守る』という理想へ向かってひたすら突き進む、自分の生き方、思いを込めるのならば、これほどふさわしい言葉は無い。 はたして、その言葉に突き動かされるかのように、孝三の拳は鋭さを増す。エリューションに勝つことだけを考えるのなら不要な言葉だ。だが、この激励に不満を持つものなどいない。 ガキィンと派手な金属音が鳴り響く。 心が孝三の拳を受け止めた音だ。 「これが私の生きる理由!」 いなすようにして、拳の勢いを殺す。 「守ることなのデス!!」 「生きるとは何か」、この問いへの答えは無数に存在するのかもしれない。それ故に人は惑うのだろう。だから、その惑いの中で人が傷つけあうこともある。ならば、壁となって守るのが心の生きる理由だ。 そこにすかさず美鳥の癒しの詠唱が響き渡る。その前に立って力を分け与えているシルキィは、余裕を持って老人に語りかける。その姿はまるで世間話でも交わしているかのようだ。 「この間、エリューションとの戦いでさ、記憶の欠片を掴んできたんだ。一番大事なモノはすり抜けたけど、それを助けてくれたのは、ここで知り合った仲間たちだった」 とても重たい内容だ。だが、シルキィはとても楽しげだ。 「だから、あたいは生きる。仲間の為に生きる。仲間を活かすために、全力で生きる!」 生きる理由など、そんなもので十分だ。その言葉は老人を縛っていた呪いの様なものから開放した。老人の表情から邪気が抜ける。だが、逆に老人の拳骨に力が漲る。答えを見せてくれた者達への礼だと言わんばかりに。 それに合わせて吾郎は剣を振り下ろす。それが今出来る、精一杯の「生きる」ことだ。 老人の拳骨が届くよりも、狼男の剣の方が一瞬速かった。 「我等一同、貴公の最後の生徒として、この戦いで受け取った貴公の熱き拳の一念を胸に強く正しく進んでいく事を誓う」 その姿に刃紅郎は軽く目を伏せ、黙祷を捧げる。天上にて自分達の行く末を見守って欲しいという願いを込めて。王である彼にしてみれば最大限の敬意だ。 「わたしも……万堂孝三さん、あなたという人がいたことは忘れません。……だからゆっくり休んでください」 美鳥も、いや、その場にいた全員が合わせる様に祈りを捧げた。この後も、万堂孝三という老人がいたことを忘れまいと……。 ●再び、一年前の社、あるいは……? 男と恩師は社で月と少々の世間話を肴に酒を飲んでいた。もちろん、お互いに年もあるので、ちびちびとだ。そんなささやかな宴がしばらく続いたところで、ふと恩師が黙り込む。 「先生、どうされました?」 「いや……この年になって、とも思うのだが……。生きるってのは、何なんだろうね?」 「ハッハッハ、先生の口からそんな言葉が出るとは思いませんでしたな。昔、拳骨付きで様々なことを教えて下さったというのに」 男は笑って話題をそらそうとする。だが、恩師は酒が入っているにも関わらず、真面目な目付きだ。 「麓でも人々は楽しく、生きている。だが、それですらも、いつかは死という終わりはある。それどころか……」 「先生、酒が不味くなります。その話はこの辺にしておきましょう」 教え子である男の制止に、恩師は冷静さを取り戻す。 「すまなかったね、冷静さを欠いていたようだ」 「いえ、酒のせいでしょう。祭りの日には熱くなるのも結構かと。そして、せっかくの話題に答えないというのも、無粋というもの」 男は盃を置いて、恩師の瞳を見据える。恩師に対して、このように真剣な顔をするのは、ひょっとしたら子供の時以来かも知れない。 「まだ、答えは見せられません。ですが、必ずやご覧に入れましょう。生きるとは、何か。その答えを」 男は年に合わない凛とした声で、恩師、万堂孝三に誓った。 それに対して、孝三は柔和な笑みを浮かべて首を振る。 「いや、いいんだ」 それは生徒がやったことを褒める時に彼が行う仕草だ。 「ありがとう。今、確かに見せてもらったよ……」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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