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切り裂き 春の殺人鬼祭り

●春だから
 麗らかな春。
「…………。……フィクサードを止めて」
 アーク本部で、やたら長い間を取ってから『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が口を開いた。
「彼の名前は、まあどうでもいいや。
 ともかく彼は古びた洋館を不法占拠して、従えたエリューションと共にいる」
 モニターに映し出されたのは蔦の絡みついた洋館。
 錆びた鉄門は半ば開き、まるで訪れた人を誘うように風にきいきいと身を揺らす。
「エリューションは全部で五体。……口で説明するのは大変だから、手元の資料を見て」
 洋館の赤い屋根から飛び立つカラスを背景に、フォーチュナの少女はリベリスタの前に置かれた資料を指した。
 大変と言う割には、資料は薄めである。


 ■一頁目
 ・出現するエリューション
 一体目:フルフェイスヘルメットの殺人鬼
 二体目:凄く爪の長い全身タイツの殺人鬼
 三体目:顔の見えない赤いローブの殺人鬼
 四体目:黒塗りハロウィンマスクの殺人鬼
 五体目:殺人トマト

 ■二頁目
 ・詳細
 エリューションは玄関から洋館に踏み入れた時点で一体ずつ現れる。
 他のエリューションが洋館内を徘徊している時は決して他のエリューションは現れない。
 そして、これらのエリューションは誰かを一人以上『殺す』事で極端に弱体化する。
 それは厳密に生体活動の停止のみを意味する訳ではなく、演出としての『死』でも同様。
 故に、誰かが『殺される』事でそれぞれの撃破が容易になると予想される。
 
 フィクサード自身は洋館の隠し部屋と思われる場所に潜伏し、モニターで状況を監視している。
 五体のエリューションが扉の封印も兼ねており、五体全てを倒さない限り部屋への侵入は困難。
 五体全てを普通に倒してしまえば、彼は苛立って自らリベリスタを倒すべく部屋から出て来るだろう。

 が、同時に彼はこういった殺人鬼に付き物の『お約束』を好む。
 もし誰かが殺され、他の誰かが殺人鬼を倒す、というプロセスを辿って行けば、機嫌を良くして油断する可能性が大変高い。
 多少リアルな演技が必要ではあるが――リベリスタやアークの存在を知らないのもあり、細かい事はあまり気にしないだろう。
 要するに、何となく雰囲気で押し切れば、警戒を完璧に解いた状況下への不意打ちも容易である。

 ■三頁目
 尚、上記情報を使用するか否かは、出動するリベリスタの判断に任せる。
 健闘を祈る。


 つまり。
 ――資料に目を通したリベリスタからの何か言いたげな視線に気付いたのか、イヴは再び口を開いた。
「大丈夫。殺人鬼とは書いてあるけれど、まだ実害はない」
 そこじゃない。
 無音の声を聞いたのか、少女は首を傾げる。

「トマトは嫌い?」
 そこでもない。
 イヴはまた考える。

「ともかく、『殺人鬼』に殺される真似をすると討伐が楽って事。
 全部をその調子で続けていけばフィクサードも油断しまくる事。それを覚えてれば充分だと思う」
 どうやら突っ込みは許されないらしい。

 溜息を吐き、或いは無言で資料をしまうリベリスタに、フォーチュナの少女は少しだけ目を細めて告げた。

「……まあ、リベリスタは彼のお遊びに付き合っても大丈夫だけど。
 これらのエリューションは一般の人にとっては間違いなく『殺人鬼』に足る。
 馬鹿な奴、で済む内に、殴ってきて」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:黒歌鳥  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 4人 ■シナリオ終了日時
 2011年05月10日(火)23:28
 春ですね。殺したり殺されたりして下さい。黒歌鳥です。
 元が分からなくても何も問題はないです。

●目標
 フィクサードの討伐。
 生死は問いませんが多分死にません。

●敵
 狙う傾向や攻撃方法は参考程度なので余り気にしなくて良いです。
 何らかのフラグを立てた人は狙われ易いです。ハデに『殺されて』くれるとその分弱体化します。
 殺人鬼たちは全てE・フォース、フェーズは1から2です。
 普通に戦うと全員そこそこに強いです。トマト以外。

 一番手:フルフェイスヘルメットの殺人鬼
 巨体です。武器はノコギリです。
 カップルを真っ先に狙います。バスルームとかも良いです。

 二番手:凄く爪の長い全身タイツの殺人鬼
 全身焼け爛れたりはしていないので寝なくて構いません。
 小さい女の子がいる場合そこから狙います。

 三番手:顔の見えない赤いローブの殺人鬼
 全周囲攻撃『叫び』はダメージと不運を与えます。
 でも狙う時は一人ずつです。

 四番手:黒塗りハロウィンマスクの殺人鬼
 刺身包丁で襲い掛かってきます。
 とりあえず目に付いた人から襲います。血縁関係とかでっち上げるとその人から襲います。

 五番手:殺人トマト
 トマトです。一応噛み付いてきます。どこでとかは分からない。
 頑張って殺されて下さい。倒す時は踏み潰すだけでいいです。

 最終:フィクサード
 正義の味方系が殺人鬼を倒すのは余り好みではないようなので、
 スキルを使いつつも一般人っぽく倒すといいと思います。
 順当にリベリスタが『殺されて』くれれば完璧に油断するのに加え、
 テンションが上がって回りが見えていない状態になるので、後ろから殴り倒せます。
 リベリスタが誰も殺されずフィクサードに辿り着いてしまうと怒りで超パワーアップします。
 程々に強いです。あ、ジーニアス×ナイトクリークです。

 ちなみに別の殺人鬼が邪魔をしに来るクロスオーバー的展開も好きだそうです。
 無辜の一般人役の方々以外、変人怪人の方々も奮ってご参加どうぞ。
 戦闘の方が抜け落ちないようにだけは気を付けて下さい。
 後、あんまり油断して攻撃を受けるのもお薦めしません、殺人鬼は手加減しないので。

 サポートの方は死体役、通りすがりに襲われるモブ役等お好きにどうぞ。
 ただし倒す側にはなれず、殺人鬼が『殺した』数にもカウントされません。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ホーリーメイガス
霧島 俊介(BNE000082)
クロスイージス
深町・由利子(BNE000103)
デュランダル
歪崎 行方(BNE001422)
ナイトクリーク
御津代 鉅(BNE001657)
ソードミラージュ
アッシュ・ザ・ライトニング(BNE001789)
覇界闘士
龍音寺・陽子(BNE001870)
ソードミラージュ
桜田 国子(BNE002102)
クロスイージス
神音・武雷(BNE002221)
■サポート参加者 4人■
覇界闘士
御厨・夏栖斗(BNE000004)
ホーリーメイガス
シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)
デュランダル
蘭・羽音(BNE001477)
デュランダル
兎登 都斗(BNE001673)

●一、二人目
 烏の声が響き渡る不気味な洋館。
 最後の住人が居なくなって既に数年が経過するそこは、地元の人間ですら滅多に近付かない呪われた館――。
 というか当たり前である、地元の人間は呪いの有無に関係なく普通は廃墟に用はない。

 だが今、洋館を歩くのは一組のカップル。
「やだな、あ、怖いよ俊介」
「何言ってんだよ羽音、俺がいるんだから大丈夫だよ」
 いちゃいちゃ。
 最早そういう擬音しか不要な感じで歩くのは、『Gimmick Knife』霧島 俊介(BNE000082) と、『眠れるラプラー』蘭・羽音(BNE001477) の二人。
 入る時は普通に繋いでいた手も、廊下を歩く内に俊介の腕に羽音が寄り添う形に。
「時々床崩れてるからな、転んだりするなよ」
「……その時は、俊介が受け止めてくれる、でしょ?」
 うふふー、と笑う少女に少年が額を突きながら応じていると、先に巨大な影が映し出された。
 振り向いた少女が、ぎゅっと少年の腕を抱き締める。
 壁掛けのランプが逆光で照らし出したのは、二人の倍はありそうな巨体。
 手に持った銀色が煌く。
「な……なんだお前は! 羽音に近付くな!」
「しゅ、俊介、危ないよ……!」
 羽音を後ろに回し、庇うように片腕を広げる俊介。
 巨体は答えず、ただノコギリを肩口へと振り下ろした。
「う、うわぁ!!」
 血飛沫。少年は半回転して床に倒れる。
「逃げろ……はの……」
「やだ……どうしてっ……」
 縋った少女が取った手は、力を失いぱたりと落ちた。
 動かぬ体を必死で揺する少女の背にも、無情にノコギリは振り下ろされる。
 声にならない悲鳴と共に、真っ赤な液体を散らして羽音は俊介の上に折り重なった。

 と、そこへ。
「な、なんだお前は!」
『雷帝』アッシュ・ザ・ライトニング(BNE001789) の動揺した声が響く。
 ヘルメットを被った巨体は、答える事なく振り向いた。
 その手に赤く染まる刃を持ったまま。
「っ!」
 がぎい、とノコギリが壁の角に食い込んだ。
 前触れなく首を狙って横薙ぎにされた刃をギリギリで避け、冷や汗を垂らすアッシュの背後から、また別の声。
「へえ、肝試し?」
「うん、学校の友達と一緒なの」
「って言っても二人はさっさと行っちゃったけどねー」
「はは、しかし綺麗どころも揃ってるし、こりゃ~楽しく……ん? どうした?」
 状況を理解していない体で姿を現した『星守』神音・武雷(BNE002221)も、ぎょっとしたような顔を作った。
「お、おいおい、まさか……死んでんのか!?」
 体を数歩引かせる武雷の隣に並んでいた二人、『戦うアイドル』龍音寺・陽子(BNE001870) と『さくらさくら』桜田 国子(BNE002102) も、青褪め互いの手を握り合う。
 壁に食い込んだノコギリを引き抜こうとする巨躯はまだ動かない。
「犯人はコイツだ!」
 アッシュの手が手近な壷を掴み、フルフェイスヘルメットへと叩き付ける。
 派手な音がして、巨躯の動きが一瞬止まった。
 飾りの西洋甲冑から剣を奪った武雷が、腹筋に力を込め怯んだ巨躯の背を袈裟切りに。
 与えた一撃は充分に重く、殺人鬼は床に伏した。
「ど、どうし、何の音……」
 女子二人が震える後ろから走ってきた『節制なる癒し手』シエル・ハルモニア・若月(BNE000650) がひっ、と小さな声を漏らして口元を押さえ、二人の傍に跪いて脈を計る。
「ひどい……一体……なんでこんな……」
 細い指先で羽音の目蓋を閉じる横で、アッシュが落ち着かない様に頭を掻いた。
「どうなってるんだ、車がエンストしたと思ったらこんな事に巻き込まれるなんて……!」
「ね、本当に霧島クンと蘭さんは……?」
 唇を噛んで問う国子に、シエルはそっと首を振る。
「そんな――」
 怯えたような陽子の言葉が続かず消えたその時。

 小さな悲鳴が、全員に聞こえた。

●三、四、五人目
 三階の廊下を駆ける小さな影が二つ。
「い、いやぁ! 誰か!」
「わーん、怖いよー!」
『飛常識』歪崎 行方(BNE001422) と『偽りの天使』兎登 都斗(BNE001673) は、怯えた様子で頻繁に背後を振り返りながら走り続ける。
 二人の行く手には左右にドア。
 少年少女は一瞬だけ目配せをし、お互い違うドアを開いて中に飛び込んだ。
 行方はマットだけが乗った古びたベッドの下に潜りこみ、見えた足に口を押さえ息を殺す。
 歩いてきた殺人鬼は足を止め――そして踵を返した。
 息を吐こうとした途端、行方の目の前に長い鋭い尖った爪がマットを抜けて突き付けられる。
 怯えながら這い出た行方を、殺人鬼は嬲る様にゆっくり追い掛けた。
「こ、殺さないで……助けてぇ……」
 背後が窓である事に気付いて泣きそうな表情を作った行方に向け、タイツを突き破って生える長い爪が甚振るように擦り合わされ――少女の腹へと吸い込まれる。
「あ」
 口端から血を零しながらも逃げようと捻った身は、窓から真っ逆様に落下した。
 殺人鬼が窓から外を覗き込めば、少女の周りに広がった赤が、いつの間にか振り出した雨によって荒れ果てた庭を侵食していく所であった。

 と、戻ろうとした殺人鬼が、再びそこで止まる。
「……お前!?」
 扉から睨み付けたのは、『イケメンヴァンパイア』御厨・夏栖斗(BNE000004) だ。
「ど、どういう事……?」
「助けてお兄ちゃん達、行方お姉ちゃんが!」
 都斗に請われ合流した『サイバー団地妻』深町・由利子(BNE000103)が、さも恐ろしいとでも言うように自らを抱く。
「おい、そこのお前、じっとしてろよ。動くんじゃないぞ」
 手を上げて止まれ、と『燻る灰』御津代 鉅(BNE001657)は殺人鬼に呼びかける。
 しかし殺人鬼は聞いた風もなく、逆に扉に向かってダッシュをかけた。
 狙いは由利子と都斗――ではなく、横を抜けて更に廊下を駆ける。
 先には、悲鳴に呼ばれるように登ってきた女子高生二人。
「え」
「危ないっ!」
 爪を振りかざし走ってきた相手に呆気に取られた国子を、陽子が突き飛ばす。
 国子は廊下に置いてあった小棚を巻き込んで、小物を派手に散らばした。
 殺人鬼は空振りに終わった爪を少し不思議そうに眺め、次いでポニーテールの少女へと向く。
 薄らと笑っているようにすら見える殺人鬼は、その身を貫こうと再び爪を構える。が。
 突如響いた銃声に、陽子を襲おうとしていた殺人鬼の動きが止まり、そして倒れ込んだ。
 開けた陽子の視界に映ったのは、青褪めながらもリボルバーを構えた国子。
「わ、わた、し……」
「……今のは正当防衛だろう。気にするな。――ああ、安心しろ、俺らは近所の者だ」
 震える唇で何かを言おうとする国子に、追い付いた鉅が声を掛ける。
「おい、またかよ!?」
 二階を探していたアッシュと武雷も姿を現し、倒れた殺人鬼の姿を見て顔をしかめた。
「また、って?」
 不安げに問う由利子に、陽子が階下での出来事を説明する。
 異常事態に全員の顔に不安が浮かんだのを見て、アッシュは殊更に明るく言ってみせた。
「出来るだけ纏まって行動しよう。皆で協力したらきっと大丈夫だって!」
「――何言ってんだよ! もう三人も死んでるんだぞ! こんなとこいられねぇよ!」
 励まそうとする眼帯の青年の言葉に応えたのは、大柄な青年が壁を叩く音。
「俺は出るぜ、また殺人鬼が来るかも分かんねえだろ!」
 肩に掛かった国子の手も振り払い、武雷は歩く音も乱暴にドアを開けて部屋から去った。
「まあ、黙って殺されるよりは先制攻撃でもかけた方が得策、か」
 空気を払ったのは、鉅の一言。
 皆の視線を受け流し、武雷の去った方向に顎をやった。
「単独行動なんていいカモだろう? 精々襲われる前に助けてやるよ」
 所詮は見掛け倒しだろう、と自信を滲ませて鉅も皆に背を向ける。
 残された者に浮かぶのは、戸惑いと、不安。

 そして、不安は的中する。
 響いた武雷の悲鳴から間を置かず、鉅の悲鳴が続き――。
 皆が向かった先に転がっていたのは、三つの死体。
 赤いローブを着た殺人鬼の腹に刺さったナイフを見る限り、鉅が相打ちの形で討ち取ったのだろう。
「もう、嫌……」
 二人の傍に屈みこんだシエルが、目を閉じる。
 皆の沈黙を、強くなった雨音が覆った。

●六、七、八人目
 倒れた武雷が必死で掴んでいたドアは、開かなかった。
 一刻も早く別の出口を探す為に分かれたメンバーの一組、夏栖斗と由利子は外側から打ち付けられていた窓に溜息を吐く。
 憂い顔が晴れない夏栖斗の肩を落ち着かせるように優しく叩く由利子が囁いたのは、『息子』へのささやかな気遣い。
 夏栖斗も少し笑みを浮かべ、『母』に頷いてみせる。
 が、その表情が再び険しいものへと変わった。
「隠れて母さん!」
 扉から音もなく現れたのは、不気味な笑みが刻まれた黒いマスク。
 二人を見つけ駆けて来るそれに、夏栖斗は真正面から掴み掛かる。
 が、ツナギ姿のマスクの力は異様に強く、夏栖斗の腕ごと下がった刺身包丁が肩口から胸の半ばまでを切り裂いた。
「夏栖斗!」
 悲鳴を上げて割り込んだ由利子にも、刃は容赦なく傷を刻む。
 逃げろという言葉が、二人から互いに向けて発せられるが、どちらも従う事はない。
 先に膝をついたのは、初撃を食らった夏栖斗。
「止めて、もう止めて……」
 倒れた息子に縋りながら繰り返す母にも――マスクの殺人鬼は刃を振り下ろした。
 夏栖斗に寄り添うように、由利子が覆い被さる。
 と、背後から風を切り裂いてナイフが襲来した。
「てめぇ!」
 吼えたのはアッシュ。
 だが、振り向き様に突き出された包丁は、細身の体に深々と突き刺さる。
 しかし。
 ニヤリと笑ったアッシュは、渾身の力で手に持っていたナイフを殺人鬼の眉間に突き立てた。
「皆の仇だ……ざまあみろ……っ!」
 そして殺人鬼と青年は、共に倒れ床の埃を舞い上げた。

 頃合を同じくして、陽子は台所を不安そうに見回していた。
 先程まで行動を共にしていた国子は、争うような音が聞こえたと様子を見に行ってしまったのだ。
 と、そんな時。
「あれ?」
 埃の溜まった台所には似つかわしくない、新鮮なトマトが目に入った。
 何の気なしに拾おうとした彼女だが、それより先にトマトが陽子に向かって勝手に転がりだす。
「……いやあああああああああ!」
 何故トマトが転がってきただけで叫ぶのか。
 それはきっと彼女が根源的な恐怖を感じたからに違いない。
『これは危険なものだ』という本能からの訴え。
 思わず引いた腕が当たったテーブルから落ちたのは、やはりトマトの籠。
 落ちたそれもが動き出すように見えて、陽子は急いで踏み付けた。
 理屈ではなく情動に従い、彼女は半狂乱の形でトマトを踏み潰し続ける。
 が、そんな同族への暴挙に怒り心頭に達したか、最初に動いたトマトが跳躍した。
 余り威力があるようには見えない体当たりだったが、陽子は苦痛の表情を作って倒れる。
 口のないはずのトマトが牙を剥いて笑った気がして――彼女は目を閉じた。

 戻ってきた国子がトマトに贈ったのは銃弾一発。
 潰れたトマトの中、意気揚々と転がっていたそれを物の見事に弾け飛ばす。
「龍音寺さん……」
 間に合わなかった、と床に倒れ付した少女を見詰め、国子は悲壮な表情を作った。
 が、すぐにそれは覚悟を決めた顔へと変わる。

「もう、逃げるだけじゃないんだからね」

●死者の狂演
 一方、男はご満悦だった。
 何で一斉にこんな都合の良い登場人物が揃ったのかは分からないが、きっと殺人鬼と同じで自分の為に神様が都合を付けてくれたのだろう。
 流石に全部続けて見ると腹一杯な感もあるが、息もつかせぬ展開と考えれば悪くない。
 鼻歌を歌いだす機嫌の良さでデスクチェアを回した男は、凍りついた。

 モニター越しではなく目前で斧を両手に笑っていたのは、死んだはずのあの少女。
 逃げ惑う可憐な少女の面影は鳴りを潜め、何も映さない瞳が男を見る。

「まさかホラーマニアともあろうものが、自分だけは死なないと思ってたのではないデショウネ?」

 響くのは少女の――生ける都市伝説の哄笑。
 答えるように足音が幾つも聞こえ、並ぶのは確かに死んだ彼ら。
 彼らを横に従えて、『生き残った』少女が口を開く。
「もう逃げるだけじゃない、って言ったよね?」
 国子は告げ、リボルバーの撃鉄を起こした。
「あ……」
 呆然とする男の顔に、複数の影が掛かる。
 煌いた多数の武器は、簡単に、あっという間に男を叩きのめした。
 どの程度早かったかと言えば、描写が必要ないくらいに瞬殺だった。


「いや~、普段なかなかやらんことだから、結構楽しかったなぁ」
「まぁ、殺して殺す演技をするアトラクションなんてあんまないもんねー」
「やー、俺様に掛かればそもそも殺人鬼なんて目じゃねぇしなー」
 開け放した窓から涼しい風が入る中、はっはと明るく笑う武雷に、都斗も気楽に頷いた。
 アッシュは胸を張りながらナイフについた血糊を落としている。
 室内は全体的に自前と作り物双方含めた血塗れだったりゾンビの格好をしていたりで結構絵的には殺伐としていたりするが、そこはご愛嬌。

 無論、これだけ簡単に事が運んだのは皆の命懸けの熱演に加え、細部にまで気を配っていたお陰である。
 モニターの位置は分かり易く、それらを確認していた由利子が死角から『死体』を誘導。
 死体役の傷は、さり気なく所々抜けていたシエルが癒していた為、ほぼ戦闘に支障がないレベルにまで回復していた。
 一言で言えば全員準備万端。
 言わずとも知れたフルボッコである。
 ちなみにトマトの噛み付きは犬の甘噛みレベルだったので痛いというよりこそばゆい感じで大変だったとは陽子談。乗り切ったのはひとえに女優魂。

 顔は殴られていないのになぜか鼻を押さえている夏栖斗に行方が止血用の布を差し出している横、部屋の隅では男が正座をさせられて国子の説教を受けている。
「キミの殺人鬼ごっこ、エンターテイメントとしても楽しめないし、なにより迷惑なの!」
 結構渾身の出来だったと思っていたのでフィクサード涙目。
 しかも自分より十は若い女の子に正論で説教されて倍に涙目。
「死人が出るとか考えなかったの?」
「すいません考えてませんでした。いやだって、殺人鬼が欲しいなあって思ったら出たから、あんたらも俺が欲しいって思ったから出てきたのかと……!」
「……勝手に他人を自分の設定した舞台の登場人物のように見て楽しむとは悪趣味だな」
 紫煙を吐き出す鉅の静かな一言に、男はがっくり項垂れる。
 陽子の演出面についての駄目出しも含めて説教が続く中、シエルがふと窓の外を見て笑った。
「あ、雨が上がってますね」
「あら。これもお約束、ってものかしら」
 つられて向いた由利子が微笑んで呟いたように、ご都合的に降って勝手に上がっていた雨のお陰で、空には虹が掛かっている。

 ホラーのハッピーエンドは、いつだって無駄に爽やかなのだった。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 書いた後で半分くらい削りました。トマトには砂糖を掛ける派です。
 皆様見事な殺されっぷりで物凄い悩みました、ありがとうございます。
 大体の方は余り粘らずさっくりと殺されたのと、死体役の方に対する回復フォローが出来ていたので重傷者とかはなしです。お見事。
 お疲れ様でした。またやりたいです。