●終わらない青春 男は四十四年間、会社を勤め上げた。社員一同に見送られての勇退だった。 最後の四年は二年づつ。それぞれ統括部長と嘱託という奴で、後者の時はずいぶん給料も下げられた。 金を叩いては、若者達を引き連れて飲み会を繰り返てきた。 最初の二年は銀座に神楽坂、赤坂に六本木と毎晩豪勢なものだった。最後の二年はチェーンの居酒屋をめぐることになってしまったのだが。 その昔は会社の金でやれたのだ。今の若者がそれを出来ない言われはないと彼は考えていた。 大事な飲みニケーションだ。 それは兎も角。その場その場で毎晩彼が伝えてきた言葉は、彼等の人生の教訓になってくれると、今でも信じている。 そして退職した日の夜、彼は病魔に倒れてしまったのだった。 こうして彼が、我が家に戻ってきたのは二週間前のことになる。 夫が家に戻ってきた。 困った。 困ったといっても、彼女は浮気などしたこともなければ、夫の事は愛している。 尊敬だってしているつもりだ。 夫はこれまで働きづめで、たまの休みにも、ほとんど外食や出前だった。 娘は結婚してから神奈川で暮らしている。料理なんてほとんど忘れてしまった。 だが何よりも、何に困ったかと言えば、鏡に映る己の姿だった。 そこには、よれたニットを身に纏うしわくちゃの老婆が立っていたのだから。 彼女が脳裏に描いていたのは自分の顔ではなかった。 想像の中の自分は、そろそろ四十路を越えた娘の顔だった。去年の暮に、義理の息子と孫を連れて戻ってきた時の姿だ。 その時の料理は、そうだ。あの料亭のおせちだったんだ。 そんなことを考えながら掃除に励んでいると、一枚のチラシが目に飛び込んできた。 アンチエイジング。聞き慣れない言葉だが、そういえば娘がそんなことを言っていたような。 彼女はこの日、まず電話をかけてみることにした。 そして数日が経過した。 「あのね。今日のご飯はどう?」 どうもクソもない。味噌汁は出汁の味が何もしなかった。 彼はこの二週間の間に味わったスパゲッティにオムライス、カレーライスといった食生活には飽きてきていた。 半年以上も味わい続けた病院食と比べれば、天と地ほどの差はあるだろうが…… とはいえ、歳も歳だというのに、油っこいものばかりでは喉を通らない。 だからいよいよ和食を提案したのだが、まるでなっていない。 だから彼は、出汁の味がしないことを遠まわしに告げた。 「インターネットで検索したのよ。それでね、出汁なんて書いてなかったから」 インターネットと来たものである。 「私ね、基本的なものが好きなの」 どうにかならないものか。それよりも何よりも、今気になっているのは鏡に映った己の姿だった。 すっかり禿げ上がった頭のことなど、床屋任せにして、気にもとめていなかったのだが。 今になれば、去年の暮に戻ってきた中学生の孫が、しきりに自分の頭を気にしていたのを思い出す。 なぜ今更そんなことが気になりだしたかと言えば、この所、妻が綺麗に見えて仕方がないからだった。 自分が家に戻ったことで、気を使っているのだろうか。ずいぶん若く見える。 感謝の気持ちが尽きないというのに、料理に文句をつけたのは失敗だった。 この歳になって嫌われたくはない。流行の熟年離婚なんて奴は真っ平だ。 そんな時、今のチラシに目がとまった。 アンチエイジング―― 彼が紙をそっと手にとった瞬間、肩に暖かな妻の手が置かれた。 「見つかっちゃった? あなたも、行って見ない?」 絶対に効果があるから。会えば絶対に分かるの。 ●僕の私の教祖様 「つまり、これまでのように活性酸素を減らし、テロメアを再活性するだけでは、若さを得ることは出来ません!」 会場がざわついている。 「マイナスイオンは!?」 悲鳴じみた叫びをかき消すように、朗々たるバリトンが響く。 「無駄です!」 「どうすればいいの!?」 壇上の男は、若々しく自信溢れる笑顔を崩さぬまま、大腕を広げて会場を見回した。 「超常を、神秘を受け入れることです。 この『天明の剣』が、それを実現するのです!」 堂々たる宣誓に、熱狂が渦巻く。 「しかし!」 会場がぴたりと静まる。 「この剣を握る為には、天明会への真心と、俗世と決別する決心が肝要です」 ●超常側。その見解。 「かけおちって知ってるかい?」 知らないはずがない。 思いを遂げることを望んだ男女が、それを許さぬ社会からどこかに逃げるとか。 まあ、なんだかそんなことだろう。 「いやね、かけおちっていうのは、何かが『欠け落ち』た能力者のことなのさ」 『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)がおどけた表情で語る。 初めて聞いた。それもそのはずである。 「まあ、さっき俺が考えたんだけどね」 ああそう。左様ですか。 「で、何の用なのよ」 こうして呼び出されたからには、仕事の話に違いないのだろうが。 「まあ、これを見てよ」 おいおい。これはまずいだろう。 超常を受け入れる。 大自然の力でアンチエイジング。 天明水で永遠の若さを。 エリューション化で人生が変わる。 紙面には、そんな言葉がセンセーショナルに踊っていた。 そりゃあ人生も、変わろうってもんだとは思いますがね。 「そんなこんなで、かけおちノーフェイスが十六体。 それから教祖と三人の幹部でこちらはフィクサード。 ……ターゲットは合わせて二十だね」 これだけでも、割と面倒な数である。 「フィクサード以外の能力は大したことないけどね」 へえ。 億劫そうに、伸暁が前髪をかき上げる。 「会場に居るのは百人あまりの男女。みんなイイ歳だ。 ほとんどが一般人。ターゲットはその中に居るのさ」 それは厄介なことだ。 「で、この剣ってのは何なの?」 「さあね、どこから手にいれたんだか……」 剣自体は、単に神秘力に影響するアーティファクトであるようだ。 増殖性覚醒現象が利用されていると見るほうがいいだろう。 兎も角、フェイトを持たないエリューションが居るのであれば、すぐにでも向かわなければならない。 「折角戻ってきた青春だけどね。愛の逃避行を許してあげることは出来ないってことさ」 伸暁はそう呟くと、どこかセンチメンタルな面持ちで天を仰いだ。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:pipi | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年12月31日(土)00:24 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●世界で一番教祖さま 「やっと、二億ですか」 毛皮のソファーで、男が鷹揚にグラスを煽った。真っ赤な顔がテラテラと光っている。 たった今空になったのは、プレミア物のシャンパンだった。 名前だけなら誰でも知っている逸品の、それもヴィンテージ物である。 「この分じゃあ、ご本尊こさえるには遠いモンですなあ」 正面に座る体格の良い男が相槌を打つ。 「もう少し教えを広めなければなりませんねぇ」 書類に目を落としたまま、答えたのは線が細い中年の男だった。 「出て行く分も多いですからね……」 そう述べてため息をついたのは三十路手前に見える髪の長い女性だ。 ちらりと目をやった卓上にはクリスタルガラスのデキャンタが転がっている。 それは彼女が購入した際には、ブランデーが満たされていた。 価格は二十万円以上だった気がする。 「まぁだわかっとらんなあ」 微かな非難の視線を察してか、逞しい男が隆々とした腕を広げる。 「ワシ等はこうやって神湯をとって、陽の気をあつめにゃならんのだ。 一等上等でなくちゃ、世界なんぞは救えやせんのだよ」 「は、はい。精進致します」 「分かってきたようだねぇ、山崎君」 ――それが今から三週間前のこと。 「よーよーよー! 大層儲かってるらしいじゃねぇーの!?」 順調かつ着々と計画を進める眼前に、闖入者達が現れた事は大層不本意だったに違いない。 威勢の良い声を張り上げた『不退転火薬庫』宮部乃宮 火車(BNE001845)に、教祖の演説が止まる。 わずかにざわつき始める会場の中で、一際体格の良い山崎が教祖に目配せするが、リベリスタ達に向かって襲い掛かってくる様子は今のところないようだ。 「一般人を下げろ」 体育館に朗々とした声が響き渡る。 投げかけられた『鋼鉄の砦』ゲルト・フォン・ハルトマン(BNE001883)の言葉に壇上の男――教祖の片頬が僅かに震えた。 「お前たちとしても信者が死んで悪い噂が立つのは困るだろう?」 一体何事が起きたのか。ゲルトの鋭い瞳に、信者達がいよいよ色めき立つ。 何も知らぬ一般人を神秘の力で集め、ノーフェイスにするなど、許せる話ではない。 「ねえ、でもあの人、かっこよくない?」 「きゃぁ!? 外国の俳優みたい」 声を張るゲルトに向けて、ブランド物のコートを着込んだパスタ鍋の群れ、もとい熟年マダム等が熱い視線を注いでいる。 「オレ等は一般人とかどれだけ殺しても構わねぇ訳よぉ?」 訴え終えたゲルトにかぶせるように、火車が物騒な言葉を連ねる。 目が本気だ。教祖はめまぐるしく頭を回転させ始めた。 「教祖さんよ、俺らがガチでやり合うなら一般人は邪魔にしかならねぇ ここは一先ず外に出してもらえねぇかな」 『黒鋼』石黒 鋼児(BNE002630)の言葉に、教祖は危うくでかかった舌打ちを堪える。 信者共には、現実感がない言葉だろうが、フィクサード達にとって、事態は深刻極まる状態だ。 相手は、あの『伝説』を打ち破ったアークだ。 それも恐らくここ居るのは、『不退転火薬庫』、『鋼鉄の砦』に『影使い』クリス・ハーシェル(BNE001882)――この界隈で生きる者なら二つ名程度は知っているだろう。 さもなければモグリか、ありえないほどの大物かのどちらかだ。 背後に控えたデカイ男と、小柄なフード頭の正体は分からないが、一見して隙はないということは間違いなく手練だろう。 リベリスタ達の提案通りに信者を下げるか、あるいは残らせるかというのは難問である。 一般人とは言え、壁として活用が出来ないことはないだろうが、みだりに殺されるのは厄介だ。今後の計画に支障が出るだろう。 では信者達を下げるか。下げてもやれるか。 思案を巡らせる永寿を炊き付けるように、鋼児が言葉を続ける。 「それとも何か? あんたを敬うヤツがいなけりゃ力が出ねぇなんつう腑抜けた事抜かしたりしねぇよなぁ!」 デカイ口を叩く小僧だと、永寿は思った。だが、やれる―― 自信に満ち溢れる彼は、そのように決断した。 それにこんな『かけおち』共は、ここで処分してしまったほうがいい。 壇上の教祖は、訴えかけるように腕を大きく広げる。 信者達の瞳が壇上の一点に注がれた。 ●乱戦 「教祖様の邪魔をして、けしからん奴等だ! 私を誰だと思っているんだ!」 「無職のジジイでしょ!」 「なんだと!? お前こそ、あんな外人男に色目つかいやがってッ」 「あんただっていつも及川さんばっかり見てたじゃないのよ!」 「選ばれた人達だけ残るって、私達はッ!?」 騒がしい一般信者達が我先に退去すると同時に、両陣営は迅速に行動を開始する。 リベリスタとフィクサードの双方が走り出すと共に、壇上の教祖が剣を振りかざす。 黒い濁流が狙うのは、火車、ゲルト、クリス、鋼児、『ゲーマー人生』アーリィ・フラン・ベルジュ(BNE003082)だ。 さすがに速い。だが濁流がクリスとアーリィを飲み込むことは出来なかった。 「ガキに怪我なんてさせちまったら男が廃るってもんだ」 分厚い背中がアーリィの前に立ちふさがっている。 直撃だ。思うように体が動かない。だが、重い一撃ではない。これなら十分に耐えられる。 (守る事は俺の誇りだ) 黒い濁流に蝕まれながらも、ゲルトは歯を食いしばる。クリスに攻撃を通すわけにはいかない。 間髪居れずにクリスが床を蹴り付け、舞い上がる。不吉の赤い月が体育館を覆った。 ほとんどの『かけおち』が強烈な赤い波動に飲み込まれる。想定通り、倒しきるまで二、三発といった所か。 同時に『フロントオペレイター』マリス・S・キュアローブ(BNE003129)の合図で別働隊が突撃する。 彼女はこれまで、数あるパターンの中から、状況に応じた最良のタイミングを狙っていたのだ。 直前に各々が力を高める術を身に纏い、準備は万全の状態になっている。 (人々の心はうつろいやすいもの。 利益を与えれば善、邪魔になるなら悪。 ならば俺達が悪になるのも道理。 嫌われ者になれというならそれもいいだろう) 信者達と入れ替わるようにマリスの合図で踏み込んだ『蒼い翼』雉子川 夜見(BNE002957)が、中村の前に立ち塞がる。 「ともあれ、邪魔させてもらう」 鮮烈な輝きを放つ中村の打刀を、舞うような歩法でいなしつけ、夜見が返す強烈な一撃は強固な守りの術を打ち破った。 「教祖! ここは一旦」 「うるせぇぞ及川!」 「後ろの方でゴチャゴチャ言うだけしか脳がねえのか?」 揉める幹部達に向けて、火車が拳を打ち鳴らす。 「相手してやるから出て来いよぉ!」 火車の怒号を聞いてか、リベリスタ本隊の前に駆けつけた及川が、圧倒的な思念の奔流を炸裂させる。 彼が放つ想い、コミケに行けなかった無念さなど誰も知ったことではないが、その力は物理的な圧力をもってリベリスタ達に襲い掛かった。 だがゲルトと鋼児は、なおもクリスとアーリィを庇いきることに成功した。 教祖の元に走ろうとする『背任者』駒井・淳(BNE002912)を、山崎と三体のかけおちが取り囲む。 「神の大地を、計画を!」 悪鬼の形相で口々に憎悪の念を吐き捨てるかけおちを従え、山崎の巨大な刀が真上から振り下ろされる。 極めて重く鋭い一撃だが、淳は持ち前の身軽さでどうにか避けた。 「詐欺師風情がッ」 叫ぶ淳に、虚ろな瞳の若い男女達が次々に襲い掛かる。彼等も『イイ歳』だったのだろう。 淳は老いから開放されようともがく人間を、醜いとは思わない。 彼自身とて、こうして解放されていなければ、同じようにもがくだろうと思うからだ。 だがそこに付入って、人を堕とすとは。永寿天明、とても容認できるものではない。 後から後から次々に襲い来るかけおちの攻撃も、淳は全てを避けきることが出来た。 仮に全てが直撃すればただではすまないだろうが、当たらなければいいだけの話だ。 かけおちが群がったのは淳の元だけではない、他のリベリスタ達に次々と攻撃を仕掛けてくる。 どれも軽く、赤い月が呼び起こす不運に、マリスが都度飛ばす的確な指示に守護の結界も合わさり、避けやすい攻撃ではある。 とはいえこれでは別働隊も中々教祖の元にたどり着けない。やはりクリスとアーリィを庇ったのは正解だった。 放たれる葬送曲を凌ぎながら、かけおち達を倒しきらなければならないからだ。そんな状況では、二人に万が一にも落ちてもらっては困る。 そして鋼児の背中を守る仲間が居る以上、この程度の攻撃で彼の体が揺らぐことはない。 歯を食いしばる。度重なる打撃を全て耐え切り、割けて血に塗れた 「ありがと!」 その背に向かって礼を述べたアーリィの杖からまばゆい癒しの光が放たれる。 じわじわと体力を削られてきていたリベリスタだが、これで持ち直すことに成功した。期待通りだ。 大変な状況ではある。それに犠牲だってなるべく出したくないが、こうして庇われている以上、なによりもリベリスタである以上は、たとえ甘いといわれても出来る限りの事はしたい。 さらにアーリィは幅広い行動選択により、状況をコントロール出来る立場にあるのだから。 残る難問は、いかにして淳を突破させるかということだった。 マリスにとっては悩ましい状況だ。どうにか淳から敵を引き剥がしたい。 かけおちを引き剥がそうにも三体居る。山崎を引き剥がしても同じこと。しかも山崎の攻撃は極めて重いと来ている。 わが身が可愛いわけではないが、ここで無闇に山崎をひきつけて、自分自身が落ちてしまっては回らない作戦もある。 ならばここは―― ●葬送の調べ 交戦開始から、それほど長い時間が経過したわけではない。 精神力で呪縛に連なる数々の災厄を打ち払ったゲルトは、アーリィと共にその力でリベリスタ達を癒す。 次々に襲い掛かる黒い濁流の中では、常に万全の動作が出来るわけではないが、勝ち得た僅かなチャンスの中で、風を斬り裂く鋼児の蹴りが及川の細い体に炸裂した。 フェイントを交えながら、幾度かは避けられたものの、命中した一撃は重く強烈だ。 それでも回避に優れるリベリスタ達は直撃を避け、完全に回避することにも成功していた。そしてリベリスタの策を阻まんとする数体のかけおちが、既に沈んでいた。 そして炎を纏う火車の拳が及川の顔面にめり込んだ。銀縁眼鏡が吹き飛ぶ。 短い交戦の中で、リベリスタも相応に傷ついてしまっているが、倒れるリベリスタは居なかった。 立て続けに癒しの術を放ち続けるアーリィが、無事であることが大きく幸いしているだろう。 (これ以上犠牲を出さないためにも、悪はここで討つッ!) クリスが生み出す三度目の月が、とうとう残る十二体のかけおちを一気に一掃した。 時は満ちた。集中を重ねたマリスが放つ鴉が、山崎の胸板を強かに抉る。 マリスは考える。誰しもが思う、若くあり続けたいという想いを利用し、ただのその一般人を、何も知らない人をノーフェイスに変える所業について。 そんな残酷な仕打ちを行った教祖を、許しておくわけにはいかない。 憤怒の形相を浮かべた山崎が駆ける。渾身の力を込めた長大な太刀による突きは、しかし軽やかにステップを踏むマリスの急所を外して肩に食い込んだ。 決して軽い一撃ではない。だが癒し手だって居るのだ。まだ、耐えられる。 「少し昔に流行った新興宗教というやつか? 人々の上に立って、優越感とやらを得るのが目的か? それだけの力があれば仕事に困らないだろうに……ッ!」 ゲルトによって放たれた光の巨砲が中村を貫き、更に暴風のような踏み込みから放たれた夜見の小刀が走る。 炸裂する裂帛の一撃に耐え切れず、中村が倒れた。 戦場の中央では思念を炸裂させる及川に向けて、火車、クリス、鋼児が次々に連続攻撃を仕掛ける。 炎が、影が、大気を切り裂く蹴撃が強かに炸裂した。 「何をするッ!? このッ!」 永寿が叫び声をあげる。封縛の符を放った淳が組み付いたのだ。 「降伏すれば命まではとらぬ。詐欺師ぶぜいが無理をするなよ」 「教祖!!」 山崎が悲鳴に近い怒声を張り上げ、強烈な一撃をマリスに見舞うが、今度は浅い。 及川に対峙する鋼児が、握り締められた拳に、全身に、更なる力を込める。 鋼児はこの教団を許すことが出来ない。 たとえ教祖のちっぽけな心を満たすためでも、救われる人が居るなら別に良いのだろうと思う。 だが、彼等は自分達の心を満たすために世界の理を崩してしまったのだ。 それは過ちだ、それだけは許されない。 「世界の理を守るために永寿さんの世界、壊させてもらうぜッ!」 怒号一閃。叩き込まれた力強い一撃に、及川も沈んだ。 「運命に愛されるかどうかは、世界が決めるんだ! 私等が知ったこっちゃあないだろう!」 壇上で教祖が喚く。 だが、呪縛した上に組み付かれた身では、思うような攻撃が放てない。 千載一遇のチャンスに、アーリィは杖に神秘の力を込める。 ここで癒しきるのだ。まばゆい光がリベリスタ達を暖かく包み込む。 次々に叩き込まれる追撃に、フィクサード達の体には無数の傷が刻み込まれて行く。 しかし、勝負が決まった訳ではない。 教祖には最も大きな範囲を包み込むことが出来る技が一つ残されている。 「しゃらくさいわッ!」 遂に呪縛を打ち破った教祖が淳の腕を振り払い、剣を振り下ろす。 突如湧き上がる灼熱に大気が緋色に染まり、圧倒的な熱量を伴う滅びの炎が放たれた。 ●終焉の炎 広域に炸裂する地獄の業火は、リベリスタ達を蝕むが、その足をとめることは出来なかった。 負けるわけにも、倒れるわけにもいかない。 教祖の放つ炎は強烈だが、葬送の調べと比較すれば、恐ろしいのは焼け付く獄炎だけだ。 「私はっ! 死に損ないの老いぼれ共に、大きな夢を与えた!」 ゲルトが炎を打ち払い、アーリィが次々に癒してゆく。二人に打ち払いきれぬ炎にも、クリスの癒しが控えている。 「なぁにが悪いんだ! クソどもが! リベリスタがッ!!」 正体を失い、なおも叫び続ける教祖に向かって火車が駆ける。 「それだけじゃない! チャンスを! 金で買えるんだぞ!? 銭で! 銭だけで! 富くじと、ギャンブルと、なぁにが違うんだ!? いいじゃないかッ!」 喚く永寿が滅茶苦茶に剣を振るう。 「そんなモンがあっからぁ! 余計な事ぉすんだろぉがぁ!!!」 怒りを全身の力に代えて、火車が炎に彩られた剛拳を振り上げる。 こんなものがあるから、こんな剣があるから、こんなことになるのだろう。 その狙いは――教祖の剣だ。 炎が舞い上がり、澄んだ音を立てて剣が弾け飛ぶ。中を回転する刃はマリスの眼前に突き刺さった。 山崎が再び巨大な刃を振りかぶる。マリスは咄嗟に、逆手で眼前の剣を引き抜く。 打ち鳴らされた二本の刃から、火花が飛び散った。 「助太刀する!」 夜見がマリスと山崎に割ってはいる。 眼前を退いたマリスに代わり、小振りの刃が強烈な一撃を山崎に見舞った。 リベリスタの猛攻に、最早フィクサード達はなす術もなく―― |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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