● 待っています。 どれだけ、時が流れても、 ずっと、ずっと、待っています。 貴方を待つ間に、肌は瑞々しさを失い、髪は真っ白になってしましました。 貴方が好きだと言ってくれた、娘の頃のような姿ではなくなってしまいましたが。 それでも、私は。 ずっとずっと、貴方の事を、待っています。 必ず戻るといった貴方に、あの二つの言葉を、伝える為に―― ――かたん。 年老い細くなった指から、使い込まれた万年筆が滑り落ちる。 つい先程まで、何か綴っていた紙の上に。 老いて尚、上品な美しさを失っていない女性が静かに、静かに、伏せていた。 まるで、眠っている様で。けれど、その瞼が再び開かれる事も、その手が再び何かを綴る事もない。 誰も居ない、昼下がりの和室で。 畳に落ちた万年筆が静かに、畳を黒く濡らしていた。 ● 「依頼。とあるエリューションの討伐。興味があるなら聞いていって」 何時もの様に、小柄な身体でモニター前に立って。 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は注目を集める様に声を張った。 此方を向く幾つかの瞳を確認してから、彼女は手早く、手元を操作する。 古い、日本家屋の写真が表示される。 「対象は2体。まず、この家の持ち主だった、『神埼・千恵』さん。フォース。フェーズは2に近い1。 亡くなったのはつい最近で、死因は老衰。……でも、エリューションとしての姿は18、9。 全体に虚弱の呪いをかける衝撃波と、自身と対象を回復する力、単体に放つ空気弾の様なものを持ってる。でも基本、戦闘意思はない。 もう1体は……ゴーレム……『家』。その写真の家が、エリューション」 家。 その言葉に驚きを隠せないリベリスタを見回して、フォーチュナは淡々と続ける。 「家財は既にほぼ撤去済み。フェーズ1。こっちは基本的に攻撃はしてこない。 床を変形させる、畳で千恵さんを守る、後は、千恵さんや自分に迫る危険を感じた時だけ、襖とか障子を飛ばしてくる。 幸い、こっちには弱点があって……千恵さんのいる部屋に転がってる、万年筆を壊せば元に戻るみたい。 因みに、家が攻撃を仕掛けてきたり、妨害をしてくるのは千恵さんのいる部屋に入った時だけ」 止めるのならば、千恵の攻撃や家の防御をすり抜ける必要がある。 それと、と、フォーチュナの話は続く。 「万年筆は、千恵さんにとっても重要なものみたい。壊すと、怒り狂って強くなる。 千恵さんは、昔、戦争に行った夫を待ってた。……万年筆は、元はその人のものだったみたい。 その人は既に亡くなってるんだけど……当然遺骨なんてない。千恵さんは、認められなかった」 生涯、新たな伴侶を求めずたった一人、この家で夫の帰りを待っていた。 その間、出す先も分からぬ手紙を、彼女はずっと書き続けていたのだそうだ。 「亡くなっても、手紙に込め続けた待つ、と言う強い思いはそこに残ってしまった。だから、彼女は待ってるの。必ず戻るって、言われたから。 ……今は、その強い意志とか、生前の記憶のお陰で誰にも危害を加えてない。 でも、それが何時まで持つのか分からないし……エリューションの存在は、世界にとって良くない」 だから、終わりにしてあげて欲しい。そう、フォーチュナは告げる。 千恵は、夫の死を告げたり、待つ事を阻もうとすると襲ってくるらしく、家は千恵の意思に従い動き出す様だ。 それも、付け加えて。 「結末は、皆が決めていい。……気をつけて行ってきて」 無表情を崩さずに。見送りの言葉がそっと、話の終わりを告げた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:麻子 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年01月01日(日)23:23 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 余り広くはない、手入れの行き届いた庭。 人の気配に欠けるそれを横目に見ながら、リベリスタ達は件の家の玄関前に立っていた。 空気は冷たい。しかし、リベリスタが玄関に立ったその時から空気が変わっていた。 そう、まるで。見慣れぬ来訪者を拒むような。無言の拒否を感じながら、『運命狂』宵咲 氷璃(BNE002401) が静かに呼び鈴を押した。 女は待つ事しか許されない。そんな時代もあった。 だから、彼女の生き方を否定したりしない。ただ、彼女の伝えたい想いに耳を傾ける。 そんな想いを込めて、口を開く。 「ごきげんよう。お邪魔しても宜しいかしら?」 尋ねてから、目を伏せる。この家自体にあるであろう感情を読み取る術を傾けてみれば、手順を踏んだ来訪を家は歓迎するようだった。 からからと、ひとりでに扉が開く。その様を眺めながら、『ディレイポイズン』倶利伽羅 おろち(BNE000382)もまた静かに、家の想いを読み取らんとする。 千恵を、そして千恵の想いを護る存在。ならば、この家が持つ想いもまた、千恵に伝える何かになるのではないか。 それに。希望的観測に過ぎないが、おろちには家に対するある予測もあった。流れ込む、断片的な想い。 千恵を護る。戻らない家主の代わりに。家主の願いを叶える為に。彼女がずっとずっと、しあわせでいられる様に。 その想いが、運命に見初められたのだろう。そこまで把握し、胸に沸く悲しみに眉を寄せる。 静かに玄関へと踏み入り靴を脱ぐ2人に続きながら、『十字架の弾丸』黒須 櫂(BNE003252)は静かに、家の奥へと目を向ける。 待っている。それは、とても簡単な事。 待ち続ける。それは、とても難しい事。 自身の人生全てを待ち続ける事に費やした、千恵と言う女性。 彼女はどんな、そして、どれ程の想いで、手紙を書き続けていたのだろうか。 櫂には分からなかった。幾ら想像しようと、彼女の半分も生きていない自分には、とても理解出来ない。 だが、もし、自分が千恵だったなら。 今、私がその状況に置かれるとしたら。一瞬、大切な何かが頭を過ぎる。 「私は……」 細い指が、常に身に着けるヘッドホンに伸びる。 私、だったら。 その後は、続かなかった。 「失礼。お邪魔しても構いませんか?」 和室前。来栖・小夜香(BNE000038)が、部屋の主へと来訪の旨を告げる。 死んだとだけ告げられても、信じたくないのは当然だろう。それが、大事な人であるなら尚更。 だが、それに同情し、放っておく訳にはいかない。そう、小夜香は思う。 せめて、これ以上変わってしまう前に。 大切に積み重ね続けた伝えたい事すら忘れてしまう前に。 大切な人のところへ、送ってあげたい。 そんな、優しい願いを知ってか知らずか。またもするすると、襖が開く。そして。 「あら、いらっしゃい。……お客さんが沢山ね、久し振りだわ……何の御用かしら?」 開いた障子。そこから外を眺めていた歳若い女性が、優しく微笑んで此方を見ていた。 す、とおろちが進み出る。その端正な面差しに、柔らかな微笑を乗せて。 軽く、頭を下げた。 「初めまして、倶利伽羅おろちと言います。……もし御時間が許すようでしたら、少々お話を伺えますか?」 「まぁ、ご丁寧に。神埼千恵です。おろちさん、と……お友達の皆さんかしら」 さぁどうぞどうぞ、座って頂戴。お話するのなんて何年振りかしら。 礼儀正しい挨拶に疑いを示す事無く、千恵はリベリスタ達を受け入れた。 ● 数十年の想い。一体なんと呼べば相応しいだろうか? 未練か。いいや、そんなつまらない物ではない。 意地か。いいや、そんな攻撃的なものではない。 健気か。いいや、そんな弱弱しい物ではない。 不幸か。それこそ見当違いも甚だしい。彼女ほど幸せな人生を送れた人間がどれだけいるというのか。 一途。そう、一途と呼ぶのが相応しい。悲しく、切ない。しかし、素晴らしい想い。 それを貫き続けた彼女の為にと、『ナイトビジョン』秋月・瞳(BNE001876)は物言わぬ家の記憶を手繰り寄せる。 断片的で、不鮮明。それを描き出すのは困難だが、ただ只管に幸福な色が伝わってくる。 そして。独りになった千恵の悲しみも。 家が見続けたそれは、言葉にする事は出来ない。だが、千恵ら夫婦が幸せに、仲睦まじく暮らしていた事だけは、痛い程理解出来た。 瞳の視線が、ちらりと動く。 襖の外。少々緊張した面差しで立つ『俺は人のために死ねるか』犬吠埼 守(BNE003268)がそれに気付いて静かに、室内へと入った。 それまで談笑していたおろちと小夜香が、そっと口を閉じる。 孤独死。警察官として働いていた守にとっては、何度か見た事のある光景だった。 力押しで済ませたくはない。出来る限り、穏便に事を済ませる為に。まず、彼が取ったのは、千恵の夫の振りをする事だった。 似ているだろうか、分からない。だが、極力努力して。 緊張を振り払い、守は優しく、微笑んだ。そして、千恵の前に立つ。 「……ただいま、千恵」 まさか。そんな驚きに満ちた表情を浮かべる彼女の手を取る。 何を伝えたかったのか。それを聞くのが役目。気付けば緊張は何処かに飛んでいた。自然と、言葉が口をつく。 「長い間待たせて悪かったね、漸く帰って来られたよ」 千恵は、答えない。何か違ったのだろうか。微かに不安を滲ませる彼を見つめ返して、千恵は困った様に、微笑んだ。 「……ありがとう、でも、あの人じゃないわ」 只管に思い続けた相手。間違える筈がないのだ。 ばつが悪そうに目を伏せる守に、千恵は気にする事は無いと首を振った。 「……昔も居たのよ。私を気遣ってくれて。あの人の弟さんなんか、本当にそっくりだった」 でもね、分かっちゃうの。ごめんなさいね。 優しく。然しほんの少しの寂しさを含んだ微笑が守に送られる。 その様子を見ながら、『嗜虐の殺戮天使』ティアリア・フォン・シュッツヒェン(BNE003064) は微かな苛立ちを以って流し見ていた。 待ち人来たらず。認めてしまえば楽になれたし、こんな事にはならなかった筈だ。 そして。それを救おうとする『正義の味方』なんて奴は本当に、何時だって甘ちゃんだ。 そんな彼女をちらりと見遣って、『T-34』ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680) は身に着けた日本軍服の襟を正す。 報われぬ想い。これも、戦いの生んだ悲劇。軍人で有る彼には決して未経験の事ではないのだろう。 表情を変える事は無いものの、微かな同情はあった。この悲劇で生まれた想いを、天に還す。 それが、今回自分に与えられた任務だ。 「……任務を開始する」 正座している仲間達を横目に、静かに、動き出す。 それをサポートするように櫂とティアリアも動くが、家は大した妨害を見せなかった。 微かに地面が歪むも、ウラジミールに悪意が感じられないのだろう。直に静かになる。 難なく手に収めれば、壊さない様にそっと、ペンケースへと仕舞った。 それを持ち、静かに下がろうとする。 「……あら、それ……仕舞って下さるの? 大事なものだから、嬉しいわ」 千恵が小首を傾げる。世間話をしている事が功を奏しているのか、彼女は大して警戒もせずウラジミールにペンを預けた。 ティアリアが、その手の中を覗き込む。 ペンケースに収まった万年筆。 胸が、ざわついた。──嗚呼、すぐにでも叩き壊してやりたい。 その衝動を無理矢理飲み下して、ティアリアは苛立ちの浮かぶ表情で千恵を見る。 分かっていた。分かっている、筈だ。 正義と言う名の甘さを持つリベリスタなら。 彼女を救う方に動くなんて事は、最初から。 頭では、分かっている、のだ。 なら何故。この心はざわつくのか。 そこまで思い、小さく眉が寄る。 否。答えは、最初から自分が持っている。 これは、わがままだ。救われなかった自分の。 遠いあの日。壊れた心をかき集めて、今の自分は在る。救われなかった。だから、自分で自分を護るしかない。 でも。 護り固めた心が軋む。けれど、なんとか耐えた。でなければ折れてしまうから。 大丈夫。これくらいいつものこと。 何てことない、のだ。 ぐ、と握る手に力が入る。そんなティアリアを、千恵は静かに、見つめていた。 ● 「お一人で住まわれるには少々広いかしら……恋人か、御主人でも?」 世間話の途中。家を褒めながら、ふとおろちが尋ねる。 千恵ははにかみながら、小さく頷いて見せた。 「夫が居るの。……戦争に行ってしまってね、帰って来ていないのだけど」 「あ、それなら、このお手紙はその旦那さんに書いていたんですか?」 小夜香が、丁度千恵の足元に落ちていた手紙を示して尋ねる。 彼女はそれにも軽く頷いて、また、ほんの少し寂しそうに微笑んだ。 「ええ。……沢山あるのよ、これは、最後まで書けなかったの」 そこに仕舞ってあるわ、そう、指し示された棚を、守が開く。 出てきた手紙の束を、千恵は1つずつ、紐解く様に語ってゆく。 終戦後すぐに書いたもの。その次は誕生日で、その次は結婚記念日。 季節が変わる時には必ず書いた。庭の花の事。お隣のご夫婦の出産の事。 そして、季節は巡っていって。お隣の娘さんが結婚した事。自分はもう、随分と歳を重ねてしまった事。 それでも、まだずっと、待っている事。 そうして、最後の一枚。千恵の傍に置かれたままになっている一枚を見つめて、彼女は微笑んだ。 「……最後まで書けなかったの。そして、最後まで待っていられなかった。それが、心残りで」 気付いているんでしょう? 深い色の瞳が、此方を見つめる。 彼女の言わんとする事を理解して、リベリスタは言葉に詰まる。そう、彼女はもう、死んでいるのだ。 なんとなく、気持ちが分かる。そう前置きをして。おろちがそっと、口を開く。 「……大事な役目があるにせよ、待っているこちらの気持ち、考えてくれているのかしら……なんて」 小さく笑うおろちに、つられた様に千恵も笑みを浮かべる。 前なんて、ずっと待たせておいて、先に言ってくれなんて言われたんです。 まぁ、随分酷い人。こっちの気も知らないで、ね。 くすくす、笑い声が漏れる。その笑い声の反響が、消えた頃。ふと、真面目な顔になったおろちが静かに、千恵の手を取る。 「でも、行ってみたら実は先にそこで待っていたりして。……御主人、もしかしたら『先』に行ってお待ちなのかもしれませんね」 ぱちり、瞬く大きな瞳。それを優しく見つめて、おろちは続ける。 今日の事も、何かの縁かもしれない。だから。 「託していただけませんか? ……貴女のメッセージを」 その言葉に続く様に、ウラジミールもペンケースの中の万年筆を差し出し、瞳も声をかける。 「貴女のお手伝いをさせて頂けませんか?」 「ご婦人の想いを綴るとよいだろう」 リベリスタから向けられる真摯な視線に、千恵は困った様に、そして、酷く苦しそうに、表情を曇らせた。 「貴方達の気持ち、すごく嬉しい。嬉しいのよ、でも」 私、手紙の続きを書けないの。言葉と共に伸ばされた手は、万年筆に触れられない。 何故か。手紙に由来するものに、彼女は触れられないようだった。だから、万年筆は転がったままになり、手紙も取り出せない。 ならば、と、おろちが代わりにペンを握る。千恵は、泣き出しそうに微笑んだ。 おろちが握っていた万年筆が、止まる。 真新しい便箋。そこに綴られた幾つかの文。それを見つめて、千恵は微笑む。もう満足だ。表情が、そう語っていた。 代わりに書いたおろちが、そこに綴られている文に言葉を失う。そして、理解した様に首を振った。 言葉を発するものは居ない。そんな中、不意にねぇ、と。 それまで黙って状況を見ていた氷璃が、千恵に声をかけた。 「貴女、自分が死んだ事には気付いているのよね? それじゃあ、あの人が帰って来ている事には?」 嘘は吐きたくない。だが、強ち嘘でも無いのかも知れない、と、氷璃は思う。 だって、この家は。千恵をずっとずっと、護り続けている。 「まさか。……あの人は、帰ってきてなんか居ないわ」 微かに、表情が強張る。けれど、氷璃は言葉を止めなかった。 「この家は、貴女を守ろうとしているわ。……それは他の誰でもない、貴女の愛するあの人よ」 浪漫かもしれない。だが、必ず戻ると約束して万年質を渡した者の強い意思。それが、この家に繋がるのではないか。 それを伝えたくて、真直ぐに氷璃は千恵を見つめる。 迷う様に、瞳が彷徨って。けれど最後には、その大きな瞳は氷璃を見つめ返した。 「……そうね。あの人は、……此処にも、居るのかもしれない」 優しい言葉を有難う。大きな瞳が、ゆらりと揺れて細められた。 ● 暫く、仕上がった手紙を眺めてから。不意に、千恵が顔を上げる。 消えてしまうのだろうか。リベリスタが動こうとする前に、彼女は音も無く動いた。 「……嗚呼ねぇ、貴女。そう、貴女よ、……良かったらこれ、持っていって」 ふわり、千恵が微笑む。 示された万年筆。それを目の前にして、ティアリアは瞬きした。何故? そう言いたげな顔。 その瞳を真直ぐに、見つめて。千恵はティアリアの耳元に、口を寄せる。 「貴女、私と少し、似てる気がするの。――自分の心を護る為に目を瞑るのは、楽だけど辛かった」 その言葉は、他のリベリスタには届かない。 本当は、認められなかっただけで。とっくに分かっていた。 だが、分かっている自分に目を瞑って。待ち続ける事で、自分を護り続けた。 そんな囁きに驚きの表情を浮かべる彼女に、千恵は静かに微笑む。 「さようならね。有難う、優しい人達。……お手紙、お願いね」 貴方達が幸せでありますように。そう、静かに囁いて。 待ち続けた彼女の姿は、溶ける様に消え去った。 「さぁ、二人で旅立ちなさい。天国でも仲良くね?」 「……いってらっしゃい」 きっと、ずっと一緒。そんな、氷璃とおろちの言葉は、千恵に聞こえただろうか。 千恵が消え、家からも気配が消える。 静寂の落ちる室内で、小夜香は静かに祈る。 「……お疲れ様。そしておやすみなさい」 安らかな眠りと、愛しい人とまた過ごせる時間が、彼女にありますように。 その横では、封じられた手紙を手に、ウラジミールがそっと呟きを漏らす。 「自分たちで彼の元へ届くようにしよう」 この手紙も、残された手紙も。全て、夫である人が眠っている筈の墓で燃やしてやろう。 2人が居るところへ、届くように。 静かに終わりを見届けながら、瞳はそっと吐息を漏らす。 全て終わったら、久し振りに墓参りに行こう。 私の大事な、あの人の。――目の前で死んでしまった、あの人、の。 守も、想いを噛み締める。必ず向こうで会える。それは、嘘にならないはずだ。そう、信じて疑わない。 託された、万年筆。それを握るティアリアは、そっと瞼を伏せる。 手紙でも、書いてみようか。二度と会える事の無い人に。 それぞれの思いに浸りながら、リベリスタ達は部屋を出る。 玄関へ続く道。そこへ向けていた視線を、櫂はふと、下げる。 必ず戻る。 それは、最愛の人が掛けた最悪の呪縛なのかもしれない。 否、或いは。 永遠を約束してくれる、愛の言霊なのかもしれない。 千恵にとってはきっと、後者だった。今となっては、真実は分からないけれど。 「……私なら、待たないで迎えに行くかも、ね」 それは、今だからこそ叶う事だったのだろうか。 それもまた、既に分からない事だった。 全員が、外に出る。年の瀬、空気は刺す様に、冷たい。 「……任務完了だ」 そんな言葉と共に、ウラジミールは無人の家の扉を静かに、閉めた。 ――お元気ですか。 おかえりなさい、と言う事は出来なかったけれど。 待つのにも飽きてしまったので、今度は私が貴方を待たせようと思います。 もうすぐ行きますから、きっと。待っていて、くださいね。 どれだけ時が流れても。 貴方だけを、お慕いしています。 ――有難う。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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